<寓話六塔戦争 ファーストアタック>
●『ケルベロス最前線24時』(銀狐師団)
東京上空5000m。
ドリームイーターの本星ジュエルジグラットに通じる『ゲート』は、そこに存在する。
『ゲート』出現の要因となったのは、その「ジュエルジグラット」が、「手」を地球へと伸ばして来たことだ。
言うまでもなく、既にジュエルジグラットが天体であっても地球のような惑星ではないであろうことを、連日の報道を通じて地球に住む人々は皆理解していた。
東京上空のゲートから出現した巨大な白い『手』は、地上までの長さ5000mまでを延々と伸びて降下し、東京港区の六本木周辺を一つかみに削り取ろうとしているのだ。
当初ドリームイーターは、多数のワイルドスペースを膨張、結合させ、日本全土を包みこむ『創世濁流』を計画していた。
この計画が成功した状態でジュエルジグラットの手が来ていたら何が起きていたのかは想像するしかないが、最悪ワイルドスペースごと、日本列島が手の一部になっていたとも考えられている。
だが、創世濁流を防いだとはいえ地球の危機が去ったわけではない。
もしもケルベロスがジュエルジグラットを引き寄せている寓話六塔(ジグラットゼクス)『赤ずきん』を撃破できなければ、そのまま手は動き続け、地球を削り取っていくだろう。
日本列島が自体が大幅な打撃を受ければ、ドワーフの秘術によって日本に集中しているグラビティ・チェインは地球全体の人々に散乱する。そうなればケルベロスの集中による防衛体制は破綻し、デウスエクスの脅威は再び全世界を襲うだろう。
そして、ジュエルジグラットもまた、手を地球に現しただけで満足するとは限らない。
仮に手の大きさから推測される体躯で地球に出現されれば、それだけで甚大な被害は確定する。全世界の危機を阻止するため、ケルベロスは戦いに挑もうとしているのだ──!!
●「守ろう僕らの夢、取り戻そう未来への希望」(灰色狼師団)
「う~ん煽る煽る。にしても私、ガラにもなく緊張してたかねぇ……?」
山蘭・辛夷 (ネイキッドアームズ・e23513)は、TV番組の解説席に座っている自分の顔を見、思わずそう呟いていた。
銀狐師団の肝煎りによる特集番組に、イッパイアッテナ・ルドルフ (ドワーフの鎧装騎兵・e10770)と並んで出演した時の映像だ。
多くの人の前に出るのは、戦闘で命をかけるのとは、また別の緊張感があるものだ。
今も世界中を飛び回っているアルフレッド・バークリー (死に損ないのスケープゴート・e00148)やフリードリッヒ・ミュンヒハウゼン (ほら吹き男爵・e15511)らのように、世界各国の首脳陣やVIPと面談しているのとどちらが気楽かは微妙なところだが。
『絆創膏一枚でも大丈夫。貴方の想いがケルベロスを、世界を救います!』
CMでは、蒼鴉師団の黒住・舞彩 (鶏竜拳士・e04871)がそう訴えている。
ジュエルジグラットの手の出現からの時間が普段の戦争時よりも長かったため、世界各国の準備も整っていた。届けられた物資は、渋谷付近に何か所か設けた集積拠点に集められているという。
人々からの支援は、確実に力となりつつあった。
マスコミを通じて今回の戦争の経緯や、ドリームイーターやジュエルジグラットの手の脅威に関する情報も広く喧伝されているが、特に日本国外での反響が大きかったのは『失伝ジョブ』の存在についてだ。
『赤ずきん』とその配下は失伝ジョブの末裔を多数誘拐していたが、その魔手も地球全土にまでは伸びていない。
「というか私達も調査したの国内だけだったしな……」
もしかすると自分や家族にもケルベロスになり得る才能が眠っているかもしれないということで、家系図や自分の祖先にまつわる言い伝えをひっくり返す動きが盛んに行われているようだった。
灰色狼師団が拠点を置いている新宿区の明治神宮野球場には、応援のメッセージと共に子供達が『夢』を書いた電子メールや手紙も多数送られてきている。それらの夢の中には、自分もケルベロスになって活躍したいというものが幾つもあった。
ケルベロスの中には若くして最前線で戦っているような者達も少なくないが、病魔と戦い病気そのものを根絶する儀式の確立により、ケルベロスの存在意義はデウスエクスとの戦いや災害へのヒールに留まらず、さらに広がろうとしている。
直近でも人類を有史以前から悩ませて来た『結核』の病魔を根絶するなどの活躍も目覚ましい。
子供達の夢を叶えるためにも戦わねばならないという決意を、ケルベロス達は新たにしていた。
●横浜みなとみらいエリア(紫揚羽師団)
一方、横浜みなとみらいで前夜祭『勝利のチョキ祭』を開催していた紫揚羽師団は、大混雑の整理に追われていた。
イルミネーションで飾られた会場を埋め尽くす人、人、人!
「応援してます、必ず東京を守って下さいね!!」
「はい、勿論……!!」
一般の人達の握手に応じながら、なんとか人波を突破して来たウォーレン・ホリィウッド (ホーリーロック・e00813)は、総合管理テントに引っ込んだ。
会場を訪れている他の師団のケルベロス達も、多かれ少なかれ似たような状態だ。
寒さの中でもにじんでくる汗をぬぐうと、慌ただしく他会場に電話をかけ始める。
みなとみらいを提案した鞘柄・奏過 (曜変天目の光翼・e29532)も苦笑しつつ電話をかけている。
「いやぁ、圧倒されますね……ああ、すみません。バスの追加をお願いしたいんですが……」
東京都から避難した東京都民の数は、日本の人口の約十分の一にも相当する。
都外に親戚がいる人はそちらに行ったりもしているが、避難民の多くは移動距離の問題や、「ケルベロスが勝てばすぐに帰れる」ということで東京に隣接する各県が設けた避難所に多く割り当てられていた。
その避難民が、紫揚羽師団が会場とした横浜みなとみらいに押し寄せているのだ。
主たる要因は他の大規模会場が都内だったこと、都内の公共交通機関や道路も人員が避難し、多くが使えない状態になっていたことである。
「今回はジュエルジグラットの手が出現してから時間があって、避難は終わってるからね」
「ある程度状況が安定していたことで、『じゃあ行こうか』となった人が多かったと……」
ダリル・チェスロック (傍観者・e28788)の言葉に、ティ・ヌ (ウサギの狙撃手・e19467)が会場を埋め尽くす人々を見た。
ジュエルジグラットの手が出現して既に3週間近くが経過しており、その時間的な余裕は過去最大級の避難活動を滞りなく遂行するに足るものだった。
紫揚羽師団が用意した中で、避難した人々が来ることのできる大きな会場はここだけだ。
ウォーレンや奏過はゲリラ会場に人を流せないかと苦心していたが、シャトルバスを増便する程度では足りそうにない。
一方で紫揚羽師団の特設サイトにはジュエルジグラットの手に対抗し、勝利を願う人々のVサインを送ってもらうという企画が行われており、こちらも次々と投稿が寄せられていた。『文面を考えるより遥かに楽』という手軽さで、翻訳も必要なくケルベロス達に応援の意図を示すことが出来るとあって、好評のようだ。
「バズってるというやつですね」
「実際使ってる人あんまり見ない言葉ですよね……」
『それじゃ、行くよー!!』
メインステージでは、銀狐師団のセラフィ・コール (姦淫の徒・e29378)や若生・めぐみ (めぐみんカワイイ・e04506)らミュージックファイターによる東京ドームでのライブの様子が中継され、怒濤のような歓声が聞こえて来る。
どれだけ多くの人々が勝利を願っているかを、会場の盛り上がりは示していた。
●東京攻防戦開始
12月17日未明、ジュエルジグラットの手からは雨のように何千という数のドリームイーターの群れが降り注いでいた。
『それじゃ、ひとつ行くとするかねぇ』
頭に『お菓子の家』を乗せた巨大魔女型ドリームイーター『ポンペリポッサ』はそう言うとジュエルジグラットの手から飛び降りた。
『寓話六塔(ジグラットゼクス)』でも最大を誇る『ポンペリポッサ』の巨体は、文字通りに塔の如き巨大さと重力で麻布の街へと突き刺さる。
凄まじい衝撃と粉塵が巻き起こり、周辺の建造物が次々と崩れ落ちた。
埃を払う『ポンペリポッサ』は、ふと頭を巡らせ麻布の東側を見る。
『おや、今回はちゃんと来たようだねぇ』
視線の先にある住宅街は、暴風にさらされていた。
「ギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラギュバラ!」
周囲に破壊を撒き散らしているのは、ジグラットゼクスの一柱、『ウルフクラウド』だ。
体の大きさではポンペリポッサには及ばぬまでも、細い四肢と不釣り合いなまでに巨大な頭部を振り回し、ウルフクラウドは刻一刻と破壊を広げていく。
ウルフクラウドが巻き起こす破壊は配下の狼達にさらなる狂乱をもたらし、麻布の街を炎の色に染め上げていく。
『……あの狼ども、作戦分かっとるんかのう……まあ、構わんか』
ポンペリポッサはいうと『失伝ジョブの末裔』を捕らえた檻の方角へとソーセージを放り投げた。
魔女の体に巻き付いたソーセージの隙間から、不気味な姿のドリームイーター達が街へとこぼれ出ていく。
●失伝者の檻(緋色蜂師団)
「ワイルドスペース発生じゃ!!」
「あの大使館ですか……」
首都高速2号目黒戦端境・括 (鎮守の二丁拳銃・e07288)の声に、平・和 (平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)は双眼鏡でその方向を見ながら用意したマップを開く。
ポンペリポッサとウルフクラウドが繰り広げる破壊の間で姿を保っていた大使館の一つが、モザイクのような液体に呑み込まれていく。
周囲を観察していたケルベロス達にも、そこが目指す『檻』であることは一目で分かった。あの中に『失伝ジョブの末裔』達が囚われている。
麻布地区には複数の大使館が存在し、敵が拠点とする大使館を絞れずにいたが、それもたった今までだ。
ワイルドスペースに関してはヘリオライダーの予知が非常に通じにくい性質がある。今回も括達はその出現を予測していたが、予知無しでは内部状況までは掴めていない。各国政府から入手した大使館の内部情報があれば、
「大使館のヒミツの地下通路とか下水道から潜入! とか出来れば良かったんじゃがなぁ」
「そう都合よくはいきませんね」
時間をかければ地下を掘削していけるだろうが、結局行先がワイルドスペースではどうしようもない。
一方で失伝ジョブの末裔達が外部から運び込まれた様子も無かったが、デウスエクスには魔空回廊がある。
ワイルドハントと末裔達を送り込んだ後に、ワイルドスペースを展開したのだろう。
ドリームイーター側は、完全に『ケルベロスが失伝ジョブの末裔を保護しに来る』ことを前提に動いていた。
「ゲート破壊されないための餌じゃろうなぁ……」
もっとも、仮にそうだとしてもケルベロスとしては乗らざるをえないし、失伝ジョブの末裔達の去就は、いまや全世界の人々の注目するところだ。
「麻布の東西から、増援が来ようとしておるな……」
翼を広げ、偵察を行っていた彩葉・戀(蒼き彗星・e41638)は、ジグラットゼクス達の元から増援が到来しようとしているのを把握する。
ワイルドスペースのため合流しようと降下を始めようとした時、ふと戀は頭上を見上げ、ジュエルジグラットの手に覆われた空に青く細い『何か』を見た。そちらに反射的に符を投じた瞬間、何者かの意思が響く。
『頭が高い──地べたを這え』
青い『髭』に貫かれた符が弾け、それに続いて周囲を飛んでいたケルベロス達も貫かれていく。
「ジグラットゼクス『青ひげ』か!?」
上空偵察部隊のケルベロス達は『対空防御は完璧』と予知されていたことを思い出し戦慄した。
ハイパーステルスを持つヘリオンですら、それを突破できないこともまた判明している。
「ヘリオンを使おうとしていた師団に連絡……!! 止めるんじゃ!!」
自動的な機能なのだろう、青ひげの髭は飛んでいるケルベロス達を片っ端から認識し、地に落とすべく攻撃を仕掛けて来る。
通信機に怒鳴るように言った次の瞬間、戀もまた髭に貫かれ麻布の街へ墜落していった。
地上の師団本隊の方でも、その墜落の光景は目撃していた。
だが西から飛来したソーセージから貪欲なる夢喰いが群れとなって現れて道を塞ごうとしており、東からもカウリオドゥースの狼の群れが迫ろうとしている。
大使館を包んだワイルドスペースに突入できるのは今だけだ。
その判断の元、緋色蜂師団は全力で前進した。
「車両は!?」
「乗ってる場合か捨てろ!」
敵増援の列グラビティを叩き込まれた車両がケルベロスともども爆散し、麻布の街を彩るオブジェと化す。
その爆音を聞きながら、先行する者達は大使館を包んだワイルドスペースに突入する。
内部にはオネイロスのトランプ兵をはじめ、多様なドリームイーターがひしめき、その向こうには意識の無い人々が浮かんでいた。
長谷川・わかな(笑顔花まる・e31807)の眼は、その人々の中に自分達には及ばないまでも、一般人とは明らかに異なる力を持つ者達を見て取っていた。
「既にケルベロスとして覚醒してるの?」
ドリームイーターは、彼らを覚醒させ、戦力として利用することを計画していた。もし、救出できなければ、それが現実となる可能性は高い。
「ああ、煩い、煩い、煩い……!」
頭痛をこらえるように頭を押さえたワイルドハントの怒声に呼応するように、ドリームイーターが動き出す。
●六本木ヒルズ戦(黄鮫師団)
「……というわけでヘリオンと飛行は無しで」
黄鮫師団の者達は、ゲリン・ユルドゥス (白翼橙星・e25246)ら、ヘリオンや飛行での突入を検討していた部隊が合流しての連絡を受けていた。
ロジオン・ジュラフスキー(筆持つ獅子・e03898)がたてがみを揺らして応答する。
「青ひげもまた面妖な能力持ちのようで」
「緋色蜂も飛んでた班は一方的にやられたようだけど、他は無事だから、飛ぶか飛ばないかが問題みたいだね」
黄鮫師団がいるのは六本木ヒルズとコンコースで繋がる駅の一つ、東京メトロ日比谷線六本木駅だ。彼らは地下鉄線路を辿り、ここまでを移動して来ていた。
ヒルズの地上部は魔女集団パッチワークの第七の魔女・クレーテによって迷宮化が進行しつつあるが、守屋・一騎 (戦場に在る者・e02341)達は、クレーテによる変化、そして敵が地下にまでは配備されていないのを確認している。
「あいつらの使う屍隷兵、デカいっすからね」
パッチワークの戦力はハロウィンの時と同様、動物の死体から作られたと思しき大型の屍隷兵(レブナント)が主のようだ。
その体は共通して人間より大きく、あまり閉所での戦闘に向いているとは言い難い。地下から突入する作戦は、こちらでは功を奏していた。
一方で第一の魔女・ネメアと、彼女が完成を目指す『光の柱』に関しては既に情報が得られている。
ノル・キサラギ (銀架・e01639)が再確認する。
「森タワー52階の展望台か。……ネメア本人まで辿り着くのは難しいな」
地下が手薄だったのは、これもまた理由の一つなのだろう。
光の柱は展望台から発生し、屋上を抜けて真上に迫るジュエルジグラットの手に向かっているという。
目的や機能の詳細は不明だが、戦う上ではそれだけの情報があれば充分だろう。
「可能な限り奥へ向かい、敵を撃破する。いこう」
メトロハットから飛び出したゲリンが、付近にいた屍隷兵にそっと触れる。
「月光よ、彼の者の魂を照らしたまえ……願わくば苦果を憐れみ、天へと導くことのできる慈愛の力をこの手に……」
白い魔力を帯びた手に触れられた屍隷兵が、動きを止めて昇天していく。
「ゆっくり休んで、ね?」
屍隷兵にされた人達をいたわるようにゲリンが声をかける。
それを皮切りに、黄鮫師団は次々と六本木ヒルズ内に突入、屍隷兵達を駆逐していった。
●グリーディ・グリム(黒猫師団)
主たる移動手段にヘリオンを使おうとしていた黒猫師団も、緋色蜂師団からの連絡に、方針変更を余儀なくされていた。
「『青ひげ』のヒゲは、何千メートルも伸びて上空からの侵入も防ぐんですし、地上にも届いちゃいますよねぇ……」
尾守・夜野(ヤマネフクロウ仮面・e02885)は不安が的中してしまったと首を振った。もっとも、ここまで高い対空性能があることを予測するのは困難だろう。
陸路案も並行して用意していたため、黒猫師団は速やかに全員がそちらに合流。現在は地上を恵比寿駅方面から北上し、目的地に向け進んでいる。
ジグラットゼクス『赤ずきん』の配下である『グリーディの赤ずきん』の一団は、國學院大學と広尾駅の間の地区に展開していた。
東京女学館小学校や日本赤十字看護大学、聖心女子大学などのある地域だ。
、バジル・サラザール (猛毒系女士・e24095)達は奇襲地点を目指し移動、交戦に入っていく。
「ドリームイーター、女子とか赤とかで配置決めてないわよね……」
「考えすぎじゃないですかね……多分」
グラビティを放つヨハン・バルトルト (ドラゴニアンの降魔医士・e30897)も無いとは言い切れない。
そういった行動の不安定さがドリームイーターにはあった。
Q:「赤ずきんさん、どうしてあなたのバスケットはそんなに沢山のものが入るの?」
A:「それはね……食べ物と、武器をたっぷり入れるためさバキューン!(銃声)」
「駄目ですぅ」
「答えてはくれましたし、質問内容もっと考えておけば良かったですかね……」
夜野が報告し、ヨハンは首を振りながら返答をよこしたグリーディ・グリムにブレスを叩き付ける。
戦闘開始から十分近くが過ぎ、指揮官のグリムも出て来たことで、黒猫師団は撤退に移ろうとしていた。
グリム達との戦いに入ったケルベロス達は、敵の能力の詳細を知ろうと質問を試みたが、返って来たのは銃声だった。
「まあ、アイテムポケットの強化版みたいなものだろうし、戦闘には大して意味無いだろうけどね……」
青ひげの能力などを見てしまうと、かわいいものだ。
黒猫師団が撃破した敵の中には、巨大な口に手足が生えたようなドリームイーターや、頭部が蝋燭になった紳士風のドリームイーターの姿もあった。
「讃岐うどんイーターに、Mr.キャンドル……ミッション地域の敵が来ているか。この分だと、他の地域にもいそうだね」
村雨・柚月 (黒髪藍眼・e09239)の予測通り、まだ制圧されていないミッション地域のドリームイーターも、この戦場に姿を見せていた。
もっとも、攻撃方法が分かっている間だ。対策もまだ取りやすくはなる。
他の地域で戦う者達にも警戒を促すべく、柚月は通信機に手を伸ばした。
●グロワール騎馬隊(金糸雀師団)
およそ20日をかけ、ゆっくりと5000mの距離を降下して来た「ジュエルジグラットの手」。
その最も低い指先の地上までの高度は残り約200mを切っていた。
蒼鴉師団は、手の真下を避ける位置に救護拠点を作っているが、それは正解だろう。
このままのペースで手が降下を続けると、かなりの数の建物が被害を受けることになる。
渋谷駅に隣接する高層ビル、渋谷ヒカリエの屋上からも、もう白い天井のようにしか見えない高さに、ジュエルジグラットの指先が見えていた。
金糸雀師団のケルベロス達は、その指先を目掛け、次々と飛び移る。
ジュエルジグラットの手は、その柔軟性を示すようにケルベロス達を受け容れていった。
そうして手に飛び移った直後、ケルベロス達は眩暈のような感覚と共に、奇妙な液体の中にいた。
一瞬慌てたケルベロス達だが、呼吸自体は問題なく行うことが出来た。
だが、液体がもたらす感覚は、大弓・言葉(ナチュラル擬態少女・e00431)や君乃・眸 (ブリキノ心臓・e22801)など、一連のドリームイーター関係の事件で戦ってきた者達にとっては馴染みのあるものだ。
「この妙に疲れる感じ……」
「ワイルドスペース、だナ」
その場にいるだけでも、自分自身の心のどこかが溶かされ、抜け落ちていくかのようだ。これまでのワイルドスペースのもたらすものを、さらに強くしたような疲労感が、ケルベロス達を襲っていた。
「あそこへ!!」
手の内部は西洋風の城のような空間と事前に言われていたが、モザイク状の液体の向こうに巨大な城のようなものが見える。
飛び込んで来たケルベロス達に慌てるオネイロスを切り抜け、内部へと突入すると、ようやく疲労感はなくなった。
ただちに金糸雀師団の先遣部隊がオネイロス『三月ウサギ』の軍勢を切り抜けるルートを探り、目的地である『グロワール騎馬隊』への道を切り拓いていく。
城の内部には虚脱させられるような感覚こそないものの、窓から見える外側は、やはり例の液体で満たされている。風峰・恵 (地球人の刀剣士・e00989)は首を傾げた。
「もしかして、指先だけじゃない……?」
「ジュエルジグラット自体、もしかして巨大なワイルドスペースなのかしら?」
コマキ・シュヴァルツデーン (呪歌謳い・e09233)はそう呟いた。だとすると、創世濁流からジュエルジグラットの手の召喚に繋げた意味もまた変わって来るが……。その思考を深めるよりも早く、前方に影が現れる。
現れたのは、自らの首を手にしたドリームイーターの騎馬隊だ。
『グロワール騎馬隊、進め! 偉大なるラ・グロワールに長耳を、他の部位は思いのままに!』
「さすがに迎撃してくるわね。……私は謳う。この血へ授けられた祝福と誇り、友への祷り、願い……紡ぎましょう、私だけの詩、Calenmiriel_Diviega」
突進してくる敵に向け、コマキの謳う魔法が叩き付けられる。
「白馬師団も無事だと良いが……」
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)もコマキに続き、疾走感溢れるデスラッシュ・サウンドをかき鳴らしていく。
●『赤ずきん』(白馬師団)
白馬師団は、オネイロスの守る方面を踏破しい、『手首』の方角へ駆け抜けていた。
三戦場を踏破する間の迎撃は激しく、次々と脱落者が出ていたが、彼らは何とか『赤ずきん』の元へと辿り着く。
「ここまで来たら後は徹底的に叩くまでだよ!」
フェイト・テトラ (飯マズ属性持ち美少年高校生・e17946)の号令を受け、ケルベロス達は迎撃に出て来た敵へ、一斉に攻撃を開始した。
「奴らを『赤ずきん』様に近付けるなァァァァ!!」
奇襲を受けたドリームイーター達は、恐怖に突き動かされるかのように鍵を振るい、グラビティを繰り出して来る。
「巡り廻れ、癒しの力。捉え捕らえよ、敵方の姿……」
ゼルガディス・グレイヴォード (白馬師団平団員・e02880)は仲間の傷を癒しつつ、ドリームイーター達の姿をその目に捉える。ドリームイーター達の表情は(顔も無い者もそれなりにいるが)、ケルベロス達に対するものではない恐怖を覚えているように、ゼルガディスには見えた。
「『恐怖心を喚起する』という『赤ずきん』の力、相当なもののようだな」
「そうね。私は恐れられるためにこそ、ここにいるの」
言いながら現れたのは、赤い頭巾をかぶった少女……他の赤ずきん姿のドリームイーターとは掛け離れた力を持つ彼女こそが、ドリームイーター最強の『寓話六塔』の一員『赤ずきん』であることを、ケルベロスは見て取っていた。
「『赤の恐怖』にはジュエルジグラットだって耐えられない。
今も私を恐怖し、逃れようと地球に手を伸ばしているのよ」
その言葉が真実であると示すかのように、ドリームイーター達は『赤ずきん』を恐れるかのように、ますますケルベロス達へと前進し、反撃を加速させて来る。
『赤ずきん』に被害が及べばどれだけ叱責されるか分からないと恐怖するかのようだ。
「……でも、あなた達は、あまり怖がっていないようね?」
「当然!! 大地の恵みは、勇敢な戦士達にこそ与えられるものだよ!」
気圧されることもなく、東雲・苺 (ドワーフの自宅警備員・e03771)は『赤ずきん』に応じる。自分達を圧倒的に上回る敵に対する脅威を感じてこそいれ、動けなくなるほどの恐怖を覚える者などいなかった。
「想像力(ドリームエナジー)を持っているからかしら? 定命でありながらグラビティを使える存在……あなた達の心は、興味深いわね」
『赤ずきん』が出現させたドリームイーター達が態勢を整え始めると、白馬師団だけでは戦線を支えきれなくなる。
期を見計らい、ケルベロス達は一気に後退を開始する。
「この退却に恐怖することなく、また来るのでしょうね……あなた達は」
赤ずきんは、やはり興味深そうに、ケルベロス達の姿を見るのだった。
師団 | ファースト アタック | 結果 |
黒猫師団 |
奇襲(7) |
奇襲により「(7)グリーディー・グリム」の戦力が300減少!
『青ひげ』による飛行妨害に伴い、空路は使えませんでした。手の外での飛行は非常に危険です。
ミッション地域のドリームイーターが参戦するとの予測は的中、対策は有効に作用しました。他の戦場でも、ミッション地域のドリームイーターの参戦が確認されています。
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銀狐師団 |
テンションアップ |
敵戦力650以下の戦場を無視可能に!(2師団合計)
東京ドームでのライブは世界各地で中継され、盛り上がったようです。
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灰色狼師団 |
応援募集 |
各ターンの重傷からの復活率が「20%」に上昇!
『夢』に訴えかけるイメージ戦略は有効に働きました。
一般の人々へ敵や状況に関する周知を図ったことで、『失伝ジョブ』に関する意識が高まっています。
なお赤ずきんを撃破しても『ジュエルジグラットの手をゲートの向こうに追い返す』ことが可能かは不明です。
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白馬師団 |
(20)奇襲 |
奇襲により「(20)赤ずきん」の戦力が100減少!
他師団の援護無しでの(3)(6)(9)踏破により、敵は迎撃態勢を整えていました。
この戦場の敵戦力は多く、グリーディの赤ずきん、オネイロスのトランプ兵の他、各地の『強襲型魔空回廊』の予備戦力も投入されています。
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蒼鴉師団 |
救護準備 |
ケルベロス全体の重傷死亡率が7%低下!
セルリアンタワー東急に最初の救護拠点を設営しました。
ジュエルジグラットの手内部での救護、怪我人を伴っての「手」内外の行き来に関する案が練られていればより効果的だったでしょう。
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金糸雀師団 |
(8)奇襲 |
奇襲により「(8)グロワール騎馬隊」の戦力が250減少!
ジュエルジグラットの手は全体がワイルドスペースのようですが、他のワイルドスペースとどこまで性質が同じなのかは不明です。
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紫揚羽師団 |
テンションアップ |
敵戦力650以下の戦場を無視可能に!(2師団合計)
多数の避難民が応援に駆け付け、みなとみらい会場は大盛況でした(一か所に集まり過ぎた感もあります)。
SNSを利用したVサイン写真企画も、その参加の簡単さから人気を博しました。
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緋色蜂師団 |
(17)奇襲 |
奇襲により「(17)失伝者の檻」の戦力が150減少!
地上の戦場のうち、この戦場が(援軍込みで)最多戦力です。
大使館にワイルドスペースが展開されるとの予測は当たっていましたが、『青ひげ』による上空偵察への被害、車両使用が目立ったことにより早期に迎撃が行われたことから、捕らわれた失伝ジョブの末裔達の救出には至っていません。
囚われた失伝ジョブの末裔の中には、既に覚醒した者も出始めているようです。
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黄鮫師団 |
(15)奇襲 |
奇襲により「(15)第一の魔女・ネメア」の戦力が300減少!
地下鉄駅からの攻撃は有効でした。パッチワーク率いる敵の戦力は屍隷兵(レブナント)です。
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