『暗夜の宝石』攻略戦

●悪意の鋒
　ケルベロス達の攻撃を受け、ビルシャナ『悪意の鋒』は急激にその力を衰えさせつつあった。生命の炎が燃え尽きようとする中、悪意の鋒はビルシャナ大菩薩の光の方へと、巨体を一歩ずつゆっくりと動かしていく。

『おお……ビルシャナ大菩薩よ、我と一つに……我が悪を受け入れよ……！！
　そして、地球に、滅びを……！！』

「ここまでの、己の悪を隠さぬ者がおるとはな」
　大黒天・王仁丸（大剣豪・e03082）は、巨大なビルシャナの在り様に微かに戦慄を覚えていた。だが、その戦慄をかき消すように、巨悪に立ち向かおうとする意志が王仁丸の中に燃え盛る。
「わしはただのケルベロスじゃ！　貴様らに比べれば小さな存在かもしれぬ！　……じゃがな！」
　王仁丸は、眼光鋭く敵を睨むと、黒曜石のように輝く地面を走り出した。
　地球からは見ることも出来ない月の裏側。輝く星々が大気に遮られることもなく、ケルベロスとデウスエクスとの戦いを見下ろしている。
　この遥か彼方に、己の奉ずる彗星も存在するとの確信を抱きながら、王仁丸は加速する。

『悪徳はますます栄え、その衰えることなし……』

　悪意の鋒の瞳が輝くと、ケルベロス達の周囲に漆黒の華が咲き乱れる。
　悪意を讃える毒の花々を蹴散らしながら、王仁丸は地を蹴った。
「いかに貴様らの悪が強かろうと、それでもただ一つ！　一つだけ貴様らに負けぬモノがある！」
　低重力の中、王仁丸の痩躯は一気に上昇した。
　ビルシャナの嘴へと着陸した王仁丸は、おおきく拳を振りかぶり、総身の力と共に突き出した。
「さあ見せてやろう！　老いてなお衰えぬわしの自慢の『コ・ブ・シ』をなぁ！！」
　空の霊力を帯びた拳が、悪意の鋒の巨大な顔面へと打ち込まれた。
　ケルベロス達によって撃ち込まれていた無数の傷が、一斉に再び開く。
『悪オオオオオオオオオォォォォォォ……！』
　タールを思わせるどす黒い血のような液体が噴き出し、一瞬『暗夜の宝石』の表面を染めた。だが、悪意の鋒の肉体が消滅するのに伴い、それも同時に消えていく。
「ワシが王仁丸じゃ。あの世にいっても憶えておけ！！」
　消え去る悪意の鋒の巨体にそう告げると、王仁丸は星々に勝利を宣言するように己が拳を突き上げるのだった。

●浄妙菩薩
　ビルシャナ大菩薩攻略の鍵を握る、浄妙菩薩の戦場へと攻め込んだセレネテアル・アノン（綿毛のような柔らか拳士・e12642）達ケルベロスは、戦場に響く朗々とした読経に迎えられていた。

『嗚呼、何故、人々は戦い合うのでしょう。
　大菩薩と共にあるだけで、世界は平和になるというのに。
　大菩薩と共にあるだけで、星と同じだけの寿命を得る事ができるというのに。
　多くの人は「この戦いは、平和をえる為の戦いだ」と言葉を飾り戦い合う。
　だがしかし、平和を得るのに戦いは必要ないのです。
　平和は、すぐそこにある。
　手御伸ばして、共に掴み取りましょう。平和と星の寿命を……』

　浄妙菩薩の教義を顕す読経を聞いたセレネテアルは、その魅惑的な歌声に眠気を誘われそうになるが、日々の修行で鍛えた氣の力で振り払う。

「その平和って、大菩薩以外の全てを殺戮して得られるんですよね？
　どんな戦争だって、最後の一人になるまで殺し合う事なんてないんですから、それって、平和じゃなくて、最も酷い争いでは？」
　セレネテアルは、浄妙菩薩の教義をそう論破すると、月面でも表面に雪が残る不思議なルーンアックス、名残雪を構えて、声高らかに仲間のケルベロス達を応援する。

「皆さん、今こそ決戦の時です！　私も精いっぱい応援しますからがんばりましょうー！」
　その応援に力を得たのか、ケルベロス達は周囲のビルシャナを掃討して、浄妙菩薩の元へと殺到していった。
　勿論、その戦闘は、最前線で全力応援を行うセレネテアルだ。

「浄妙菩薩のような強敵と戦えるように、しっかりと鍛えてきました。だから、その成果……、試させてもらいます！」
　セレネテアルは、当たるを幸いにビルシャナ達を薙ぎ払っていく。戦場を切り拓いたセレネテアルは、浄妙菩薩と相対する。

『戦いに魅入られた愚かな魂よ、悔い改めなさい』
「うーん。悔い改める心当たりは無いですねっ！」
　振り下ろされる名残雪を、浄妙菩薩は弾こうとする。だが、完全には回避できずに、その羽毛が跳ね飛ばされる。真空の月面に、雪の結晶がきらめいた。

『ビルシャナ大菩薩は、最後の救いです。それを自らの手で壊そうとする、あなた達は、いずれ後悔するでしょう』

「一方的な救いなんて、人には必要ありません。必要なのは……仲間を応援する気持ちですっ！　応援して助け合って一緒に頑張る、それが人間なんですっ！」
　そう断言するセレネテアルは、地上の６分の１という月の重力を利用して空高く舞い上がると、浄妙菩薩の頭上から名残雪を思い切り振り下ろし、一刀両断に絶ち切った。

『本当に、本当に、大菩薩の救いは必要ではないというのですか……』
　セレネテアルの言葉に衝撃を受けた浄妙菩薩は、回避もままならず、左右に分断されるように月面に倒れ、サラサラと崩れ去っていった。
「修行の成果を出せました！」
　セレネテアルは、崩れ去る浄妙菩薩を見送り、勝利のポーズを決めたのだった。

　この浄妙菩薩の死と共に、大菩薩大護光が消え去り、ビルシャナ大菩薩の戦場への道が開かれる。
　ビルシャナ大菩薩との決戦が、いま、はじまろうとしていた。


●特殊ルール「神造レプリゼンタ」
（4）レプリゼンタ・ギガトラルドンの戦力が500に回復しました。
（10）レプリゼンタ・ジェイダリオンの戦力が500に回復しました。