●ショウ&ライブ
数々の大きな戦いを乗り越えたケルベロス。
その戦いの影には、世界の人々の献身と経済的な協力があることを、忘れてはならない。
ケルベロスの戦いを支える人々に、ケルベロスのことをよく伝え、そして親しんでもらうのが、ケルベロス超会議なのだ。
そんな超会議のショウ&ライブ部門。今年の審査員を担当するのはセルベリア・ブランシュ(シャドウエルフの鎧装騎兵・en0017)だ。
「ショウとライブ……見せるだけでなく、体感型の企画も増えているようだな」
セルベリアは、そんな風に今年の企画内容を分析する。
今年の投票上位に輝いた旅団企画はどれか。
届いたデータを確認すると、セルベリアはまずは3位の企画を目指して歩き出した。
●3位:村長VSメカ村長 (
奇跡の村)
かつて不治の病におかされ、ただ死を待つだけの者たちが捨てられた村があった。
そこにひとりの天才医師が訪れ、その技術で村人たちを救った。
そこは『奇跡の村』と呼ばれるに至った。
……
そんな昔話の村の名を関した旅団、『奇跡の村』。
ショウ&ライブの3位となったのは、この村で演じられているインタラクティブなショウ、『村長VSメカ村長』である。
『奇跡の村で善政を敷いていた村長に対して怨み妬みを抱く悪の狂気科学者が、村長を追い落とさんとしてメカ村長を製造!これに対し村長は単身戦いを挑む!』
『奇跡の村に暴政を敷き人々を苦しめる村長に対し、ついにひとりの科学者が立ち上がった!極秘裏に作り上げた決戦兵器メカ村長で悪の村長に戦いを挑む!』
そのいずれが正しいのかを、ケルベロス達による三度の投票によって決める……はずだった。
が、第1回の投票の結果、第3勢力『アイドル軍』が参戦して色んな意味でカオスな展開と化していた。
「第三勢力の登場か……しかし何故アイドル?」
「アイクルは正統派アイドルだからにゃ」
「なるほど……」
アイクル・フォレストハリアー(ラディアントクロスオーバー・e26796)が正統派アイドルらしい、アイドル軍。とても分かりやすい。
アイドルなら、重機を使ったり開拓したりもできるのだろう。多分。
そんなどうでもいいことを考えつつ、セルベリアは村長の方を向く。
「しかし、こう大胆に展開が替わるというのは中々無いものだな」
「ええ……本当に。短時間で練り直すのはなかなか大変なものですね」
そう微笑む村長こと宇原場・日出武(偽りの天才・e18180)の表情は、疲労を感じさせつつも、やる気の滲むものであるかのように、セルベリアには感じられるのだった。
「急場で予定が替わるのは大変だな……!!」
奇妙に実感の篭もった声音でセルベリアは日出武を激励すると、人気投票3位受賞のトロフィーを手渡す。そして、これから演じられるであろう結末を楽しみにしつつ、奇跡の村を後にする。
●2位:似顔絵描きます (
燕◆つばくろ)
次にセルベリアが訪れたのは、古い洋風の民家だった。
蒼鴉師団の作戦を主導する一人として、世界的にも有名なケルベロスである玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)、その自宅である。
自宅を一部改装して造ったアトリエでは、陣内が訪れた者の似顔絵を描くという企画を行っていた。
彼の顔の広さを示したものか、次々に客は訪れていた。
陣内は訪れる一人ひとりと話をしながら、丁寧に似顔絵を描いている様子だ。
客が入れ替わるタイミングを見計らい、セルベリアはアトリエに足を踏み入れた。
「玉榮さん、人気投票2位受賞の連絡に伺った。おめでとう!」
「なんと、この企画が!? わざわざすまないな」
個人で行う小規模企画と言って良いな内容だけに、受賞するのが意外だったか。
陣内は、驚いたように受賞の連絡を受け入れた。
「しかし困ったな。特に見せられるものも無いんだが」
似顔絵は訪れた者にそのまま渡しているため、絵具の香りがするアトリエの中に、特に絵が展示されているわけでもない。
ちょうど訪れた、ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)の似顔絵を描く様子を見学させてもらうことにする。
「父は立派でかっこいい騎士だったから、私も彼みたいに素敵でかっこいい騎士になりたい、と思うのよ」
そう語るローレライの憧れを乗せた瞳の輝きを、陣内は似顔絵の上に留めていく。似顔絵を受け取ったローレライが礼を告げて帰ると、セルベリアは感心したように言う。
「見事なものだな」
「折角だ、セルベリアの似顔絵でも描いてみるか」
「いいのか?」
促され、席についたセルベリアの姿を、陣内は手早く紙の上に描く。
真面目そうな面持ちをした似顔絵を照れくさそうに受け取ったセルベリアは、次なる受賞連絡を行うべく、陣内の元を後にするのだった。
●審査員特別賞:怪盗アナスタシアからの挑戦状~洋館からの脱出 (
栗山探偵事務所)
『超会議に、脱出ゲームを出してみたい!』
それが栗山探偵事務所の栗山・理弥(ケルベロス浜松大使・e35298)の秘めたる目標であった。
これまで数々のケルベロス達が作成に挑んで来た、知恵に挑む脱出ゲームの数々。
それらは、理弥の憧れでもあった。
(「けど、謎解きゲームってどう作ったらいいか分からない……!!」)
そんなこんなで見送り続けた彼が、やるしかねぇ! と一念発起して作ったのが、「審査員特別賞」を受賞した企画、『怪盗アナスタシアからの挑戦状~洋館からの脱出』だ。
赤川夫人が持つ『王女の首飾り』という秘宝が、神出鬼没な怪盗アナスタシアに狙われているという。
アナスタシアから首飾りを守る警護役としてパーティに参加していた君(参加者)だが、パーティの最中、突如首飾りは、君の『大切なもの』と共に消えてしまう。
君は、首飾りの奪還に挑むこととなる……というのが、この体感型脱出ゲームのあらすじである。
「というわけで、審査員特別賞だ」
「って、え、マジで?」
セルベリアの来訪と、告げられた言葉に驚いた様子の理弥。
準備が間に合わず、当日までもつれこむというトラブルもあったが、その熱意は訪れた者達にも届いたようで、票も得られていた。
「私も挑ませてもらったが、考えやすいようになっていた他、謎解きが苦手なものへの心遣いなども評価されたのではないだろうか」
「おお……やったぜ!!」
拳を握る理弥に、訪れていた客から拍手が上がる。
セルベリアが言ったように、会場には長編の他、簡単な企画も用意されていた。
「2択の選択肢を選ぶだけ! そんな超短編脱出ゲーム!」
爆弾に繋がる赤の線と青の線、どちらを抜けば良いのか……!?
「これは謎解きではなく完全に運試しなのでは」
「まあ、脱出ゲームのスリルは味わえるだろ?」
理弥は笑顔で、どちらかを選ぶよう促す。
そして、爆発音と共に、セルベリアの挑戦は終わった。
●1位:特別公演ミュージカル『長靴をはいたネコ』 (
歌劇団SEASONS)
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「――あの陽気な靴音が 幸せを運んでくる――」
ネコ:曽我・小町
粉ひきの三男:呉羽・楔
王:ソルシエル・シャナール
幼馴染の少女:アリシア・メイデンフェルト
魔王(真の姿):ジョルディ・クレイグ
(色男の姿):呉羽・律
(歌姫の姿):イブ・アンナマリア
アンサンブル:白波瀬・悠佳
嘉山・彰人
星影・レイコ
織賀・啓順
天嵜・詞
テノス・エデッサ 他
影アンサンブル:セチア・アクティアナ 他
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歌劇団SEASONSが演じるのは、シャルル・ペローの民話、『長靴をはいたネコ』をアレンジした内容のミュージカルだ。
あらすじは、こうだ。
とある貧しい粉ひきが亡くなり、3人の息子に遺産が分配される。
長男には風車小屋が、次男にはロバが、そして三男には飼っていたネコが、それぞれ相続された。
三男は資産になりそうなものを与えられなかったことを残念がるが、ネコはヒトのようにものを言い始めた。
ネコは家族として可愛がってくれた礼に貴方を幸せにしますと三男に約束し、長靴と大きな袋を求める。
三男がなけなしの金で上等な長靴と大きな袋を買い与えると、ネコは三男を幸せにするため、一計を案じる……。
そんな、有名な内容を、歌劇団SEASONSの団員達は情緒豊かに演じていく。
「色々とアレンジが加わっているようだな」
配役にある『幼馴染の少女』や『魔王』の存在に、セルベリアは元の内容と照らし合わせてそう判断する。
さらに第三幕では、観客席の人々も舞台に参加できるような工夫が取り入れられていた。
「広々としていて気持ちが良い畑 実に良い景観だ! この畑は 誰のものだね?」
王を演じる団長、ソルシエル・シャナール(団長代理・e41070)が、観客席に向けて問う。すると、ネコ役を演じる曽我・小町(大空魔少女・e35148)が合図を出した。
「それでは、皆さんご一緒にっ! せーのっ!」
「「カラバ侯爵様のものです!」」
観客が、一斉に声を上げる。
アドリブを交えた楽しく賑やかな劇の雰囲気は、観客席までをも巻き込み、より盛り上がりながら、劇は華やかな結末へと向かっていくのだった。
その回の公演が終わり、幕が降りようとするところで、セルベリアは劇場の者に促され、マイクを手に取った。
「ケルベロス超会議、審査委員会から、連絡させてもらう」
もしかして、と期待の予感にざわめく会場。セルベリアは一度息をつくと、
「歌劇団SEASONSの公演が、ショウ&ライブ部門人気投票で1位を獲得した。
初の1位受賞、おめでとう!」
セルベリアの言葉に、収まりかけていた拍手が爆発した。
拍手の中、セルベリアからトロフィーを受け取った団長ソルシエルは、高々とそれを掲げてみせる。
1位獲得に、主演の小町、役者総括の呉羽・律(e00780)、呉羽・楔(黎明の薄紅葵・e34709)をはじめとした団員達も、喜びを見せ、役者一同は再びそろって観客席に礼をする。
収まらない拍手の音が、劇場を包み込むのだった。