超パビリオン 結果発表!

●王子と超パビリオン
「毎年ながら、ケルベロスの創意工夫と実行力には目を瞠るものがあるな……」
 広大なケルベロス超会議の会場を歩き回りながら、ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は兜の下でそう独りごちる。この超会議を通して地球の文化の多彩さと楽しさを知り、ケルベロスの仲間に加わった種族もいることを想えば、その感想も決して大袈裟なものではないだろう。
「……さて、私の担当は『超パビリオン』だったか」
 基本的には『常設展示』的な旅団企画が集まるジャンルと言われるが、その内容は資料発表から謎解き、語り場、職業体験や異文化体験など多岐に渡る。
 そんなある種『何でもあり』な空間で、今年の投票上位に輝いた旅団は果たしてどこなのか――手元のメモを確認し、なるほど、と頷いて、ザイフリートは早速人混みをかき分けるようにして移動を始めるのだった。

●第3位:ゲームブック!ゾディア・キングワールド!(超魔王城ゾディアパレス
「ゲームブックとは、読者の選択によってストーリーの展開と結末が変わるように作られた遊戯書……だったか?」
「フゥーハハハハハ! まさにその通りだ!」
 魔王城の玉座に深々と座り、大仰なポーズで高笑いを上げる『超魔王』こと天蓼・ゾディア(超魔王・e02369)がぱちんと指を鳴らすと、たちまちその場に4つの扉が現れる。
「そしてこれらの扉の先に待つのが、かつて我が支配した4つの物語の世界というわけだ!」
「成程」
 書物を読み進めるのではなく、実際にアトラクションとして作られたゲームの世界を体験する企画か。なんとも大掛かりな遊戯に感嘆しつつ、ザイフリートはそれぞれの扉を見比べてみる。
 魔王軍の紋章が掲げられた扉は、勇者と魔王の戦いの物語へ。
 レースカーのエンブレムが付いた扉は、エクストリームなレースの世界へ。
 巨大な建物のエンブレムを飾られた扉は、超魔王が支配する島からの脱出ゲーム。
 そして映画館のスクリーンらしきエンブレムの扉は、シネマティックユニバースに繋がっているらしい。
「ああ、そうだ――」
「む? 逃げ帰るという選択肢はないぞ。貴様の書いた契約書もここにあるからな! たとえかつてのエインヘリアル第一王子と言えど、超魔王の契約には従ってもらおう!!」
 そう。魔王城のロビーからなんやかんやでこの玉座の間まで連れてこられ、言われるままに『企画に参加する』と書かれた謎の契約書にサインをしたのは紛れもない事実だ。どうやらこのゲームに参加するまで帰してもらえることはないだろう。
 けれどそうではないと首を横に振り、ザイフリートは1歩前へと進み出る」
「私もここで逃げ帰るほどの臆病者ではないさ。何よりケルベロスがこの超パビリオン第3位に選ぶほどに賑わう遊戯、体験せぬ手はないだろう?」
 さらりと告げられた言葉に、一瞬超魔王が真顔になり、次の瞬間勢いよく立ち上がる。そして渾身のポーズで、再び彼は笑い始めた。
「ふ――フハハハハハハ! そうであろうそうであろう! そういう訳で王子よ、ケルベロスが認めた我が世界、刮目して見てくるが良いぞ!!」

●第2位:あなたの愛用武具を教えてくださいっ!(幻想武装博物館
「……地球の人々の想像力とは、限りのないものだな」
 なんやかんや4つのゲーム世界をすっかり回り尽くし、楽しみ尽くしたという口元で、ザイフリートは次なる目的地を目指す。
「……ふむ、ケルベロスが己の武装を見せ合い、語っていく場か」
 元々戦闘種族エインヘリアルの王族出身とあって、ザイフリートも武具の類には興味を惹かれる方だし、過去にはアスガルド神からゲシュタルトグレイブという武器を奪ったこともある。
 そんなわけでこころもちうきうきと展示場に入ると、既にそこは多くのケルベロスや見学者の賑わいに包まれていた。ヘリポートで会った覚えのあるケルベロスも多く、彼らに気さくに声をかけてはそれぞれの武具の話を聞いて回り、ザイフリートは誰にともなく頷く。
「どれも思いのこもった品なのだな。故にこそ、ケルベロスは一層強くなるのか」
「あ、王子! 来てくれたんだねっ?」
「うむ」
 明るい声に振り向けば、そこには幻想武装博物館の団長、シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)の笑顔があった。勧められるままに手近な椅子に腰を下ろし、改めてザイフリートは口を開く。
「大盛況だな」
「ふふふ、おかげ様でねっ。やっぱり皆、愛用の武具には何かしら語りたいところがあるみたい」
 戦場にいる時間が長いケルベロスだからこそ、時に己の生死を分ける鍵となり、或いは己の信念の証ともなるそれには、並々ならぬ思いをかける者も多いのだろう。
「王子もどう? エインヘリアル時代の武装の話とか、聞かせてもらえたらすっごく嬉しいんだけど……」
「はは、アレについては今ではお前達の方が詳しいかもしれんぞ? ……それに、お前達の武具の話には、しばしば出てくるものがあるだろう」
「んー……? あっ、もしかして」
 少しの間首を捻り、はたと思い至ったという風にシルが手を打つ。彼女の表情に頷き、ザイフリートは会場にいるケルベロス達を見渡した。その中には友人なのか恋人なのか、他の誰かと共に歩いている者も多い。
「……良いものだな、他者との絆を証せるというのは」
 呟き、声音を改めて、ザイフリートはシルに向き直る。
「と――すまない、今はお前にこのことを伝えに来た。お前達【幻想武装博物館】の企画が、超パビリオンの第2位を獲得したぞ」

●審査員特別賞:のびのびトキワギ ~いま何メートル?~(『↑ 2F探偵』
 幻想武装博物館のスペースを後にしてしばし、そう言えば、とザイフリートは手元に目をやる。先ほどおみやげとは別に手渡された青い花の栞は、他の旅団と連動した企画に関わる品だとか――。
「ふむ。そういう訳でここまでお越しいただいたと」
「そういう訳だ」
 伸っび伸びのカオス植物(名前はトキワギというらしい)の隣に佇んでいた櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)と顔を見合わせ、ザイフリートは至極真面目に頷きを返す。
「まあ、基本的にはどの企画も単体で楽しめるものだし、無理に全部の栞を集めて回る義務もないが……良ければこちらにも挑戦してもらえると幸い、だな」
「成程、後で寄ってみよう……それで、なのだが」
 これは? と見上げるザイフリートにつられるようにして、千梨もまた視線を上げる。「いやぁ……エインヘリアルでも思いっきり見上げる高さになってしまったな……」
「……ある意味で、恐るべしケルベロス、だな……」
 その高さ、おおよそ30メートル。元はせいぜい1.2メートルの姿だったというのだから、いかに多くのケルベロスがこの植物に力を注いできたかも分かるというものだろう。
 そしてケルベロス達の力で元気いっぱい空高く伸びたトキワギ君の枝には、所狭しとお星様やサンタさんやジンジャーマンや梅の花やきらきらの扇や桃の花やひな人形やこいのぼりやカーネーションや短冊や提灯やジャックオランタンが飾られていた。あとエビフライとカレーもなんかいっぱいぶら下がっていた。
「これも地球の文化なのか……?」
「いやこれは何と言うか、とんがりの森独自の文化かな……」
 地球上のどこにでもこんな門松とクリスマスツリーを足して割らない不思議植物に盆と正月とカレーが一緒に来たようなデコレーションを行う文化があるわけではないらしい。一応そのことを確かめ、ザイフリートはちょっとだけ安堵した。
「……さておき」
「うん。まあさておいていいや」
「今回の超パビリオン、審査員特別賞だが……この企画に贈るとしよう」
「……えっ」
 なんでまた。口には出さないがそう言っている千梨に向け、微かな笑いと共にザイフリートは言葉を続けた。
「ケルベロスの繋がりと、底力を見たから……だな」

●第1位:MMC Last Game~ソラの藻屑になるものか(MMCITY
 MMCITY。それは多くのケルベロスの拠点となる旅団であり、ひとつの『街』だ。
 そこを拠点とするケルベロス達の企画が超パビリオン部門の第1位ということで、ザイフリートは早速地図に記された『そこ』へと足を運ぶ。そこで彼を待っていたのは――。
「宇宙船……だと……!?」
 そう。街の叡智を結集させ、密かに建造された宇宙外遊船『サンダースカイ』――という設定のアトラクションが、今回の彼らの出し物だ。
 同じタイミングで『艦』に乗り込んだケルベロス達の噂を聞くに、この旅団では毎年多くの団員からヒントを聞き出し、それを元に謎を解く大規模脱出ゲームが開催されているのだという。
「成程……つまりこの平和な宇宙遊覧体験も、まだゲームの導入でしかないというわけか」
 そうザイフリートが呟き終えるか終えないかのタイミングで、船内に警報音が鳴り響く。――どうやら、『導入』もいよいよのようだ。
『リアクターに異常発生』、『爆発まであと……』、『艦内に裏切り者』――次々出てくる不穏なワードに、思わずザイフリートは拳を握る。物語と分かってなお、とんでもない臨場感の演出だ。
「……つまりリアクタールームに進入し、爆発を阻止する為に、各エリアに配置された『謎』を解く必要があるのだな」
 貸し出された回答用のタブレットを手に、そうしてザイフリートは艦内施設を順に巡っていく。カフェテリア、通信室、管理室――時に他のケルベロスと一緒になって謎の解けないもどかしさをデブリにぶつけ、時にはクルーに扮した団員からヒントを貰って(※予知はいくらなんでも反則だと思えたので封印しました)、そうして艦内を駆け回ることどれほどだったろうか。
「……恐るべし、ケルベロス、だな」
 感想スペースと銘打たれたそのエリアで、兜越しにザイフリートは天を仰いでいた。きっちり回答を埋め切ったタブレットこそ手にしているが、どこからどう見ても疲労困憊の体だ。
「お、ザイフリート王子じゃねーですか。クリア後休憩ですかね?」
 と、そこへ様子を見に来たのは一恋・二葉(暴君カリギュラ・e00018)。ああ、と姿勢を正し、ザイフリートは手にしたタブレットを彼女に渡す。
「謎を解き終えるまでに、随分悩まされたのでな……しかし、解けた瞬間はやはり気分が良いものだな」
「ま、それが醍醐味ですからね……っと、タブレット、もう使わねーならお預かりしますよ」
「すまない、お願いする――と、もうひとつ」
「ん?」
「おめでとう。『MMC Last Game~ソラの藻屑になるものか』が、今年の超パビリオン部門、栄えある第1位に選ばれた」
「お、おぉ……」
 返却されたタブレットを抱え込み、二葉が声を漏らす。そのまま彼女が踵を返し、駆け去ってすぐ。
 艦内に、MMCITYの受賞を告げる速報メッセージが鳴り響いたのだった。