●ショウ&ライブ
今年の結果発表役を任されたブリジット・レースライン(セントールの甲冑騎士・en0312)は、結果の用紙を手に会場を歩いていた。
妖精八種族セントールが、地球の仲間に加わってから、およそ半年。
その間に感じたのは、地球はやたらと行事が多いということだ。
既に遥か昔でよく覚えていないが、惑星アスガルドは流石にここまででは無かったような気がする。
「まあ、日本という国が世界の中でも祝日が多いとは聞くが。終末戦争だとかで殺伐として悲観的になっているよりはよほど良いな」
それだけ祝うことが多いのだろう、等とブリジットは思う。
「それにしても賑やかな祭りだ!」
『伝令』を司る妖精種族であるセントールの女騎士は、部門の入賞を祝したメッセージを伝えるべく、ブースへと向かっていった。
●3位:第五回九龍町杯!ケルベロスだらけの水上相撲大会 (
九龍城砦)
ブリジットは、九龍町は乾地区の温水プールを訪れた。
毎年恒例となった、旅団『九龍城砦』の企画が行われている施設だ。
「失礼する。こちらの企画が3位に入賞した!」
単刀直入に団長である巽・清士朗(町長・e22683)に告げるブリジット。
清士朗が実況のアナウンサーに連絡すると、会場から拍手が沸き起こった。
「昨年と同じ順位を維持できて幸いだ」
「票数はかなりの接戦だったようだな」
と、ブリジットはちらりと得票数を記した紙に目を落とす。
と、団長である巽・清士朗(町長・e22683)が答える。
プールで行われているのは、浮かんだ土俵(ウレタン)の上に立つ『横綱』を、叩き落とすのを48時間ぶっ続けで行う過酷な競技だ。
最も長い時間『横綱』であり続けた者が、最優秀横綱として表彰される。
「テレビで見た大相撲とはルールが異なる気がするな」
「まあ、ここだけの特別仕様だな。テレビ等で紹介もされたりもするのだが……」
「だが?」
「あまり真似する者はいないようだ」
小学生などが真似をするにしても、競技化してまでやるのはケルベロスに任せておこうというのが人々の結論である。
プールの上にいる『横綱』水瀬・翼(地球人の鎧装騎兵・e83841)は満身創痍だった。
2時間以上にわたり横綱の地位を保ってきた翼だが、ここで昨年の最優秀横綱である瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)が彼の前に現れる。
「今です、やっておしまいなのですー☆ これぞ、うな玉ぱわー大爆発……」
千紘が勝ち誇ろうとした瞬間、その体は宙を舞っていた。
「おっと!? ……昼飯代、そっちの奢りな」
勝利した直後の千紘を一瞬にして破ったのはラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)だ。彼はそのまま、横綱として勝ち星を重ねていく。
「……ふふ。ここはちと様子を見るかとも思ったのだがな……やはりお前が相手となれば、一度は挑んでおきたくなってしまった。往くぞ、ラギア!」
波乱の展開に戦いへの意欲を抑えきれなくなったか、清士朗もまた怪気炎をあげてプールへと飛び込んでいった。
巧みな位置取りから、ラギアは土俵際で清士朗を抑え込み、組み合う形になるが……。
「……及ばずか」
フッと笑い、水に没する清士朗。
その表情はどこか晴れやかなものであった。
そうする間にも、鬼城・蒼香(青にして蒼雷・e18708)がラギアに勝利を収め、またしても横綱が入れ替わる。
奮戦するケルベロス達へ観客が投げかける声援がプールを満たすのを聞きつつ、ブリジットは会場を後にするのだった。
●2位:ラジオ放送制作部「ゲーム実況ch」 (
ラジオ放送制作部 )
「失礼する。こちらの企画が2位に入賞したのを伝えに来た!」
旅団『ラジオ放送制作部』に足を踏み入れたブリジットは、団長を務める流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)にそう伝えた。
「ありがとうございます! 今度の番組で紹介させてもらいますよ」
ほっとしたように、そして1位を逃したことを惜しむように清和は答える。
昨年は手違い等もあって入賞はしなかっただけに、今年の2位という成績は喜ばしいものであっただろう。
ラジオ放送制作部の入賞した企画の内容は「ゲーム実況ch」。
5月9日に行われていた、ゲーム実況の動画による生放送だ。
メインである野球ゲームから三国志に競馬ゲーム、モンスターを鍛えて戦わせるレトロゲームのリブート版、さらにはテーブルトークRPGまで。様々なゲームを、ケルベロスを登場させる形で行う生放送は、ニコニコ生放送で実に半日以上に渡って放送された。
様々なジャンルのゲームを扱っただけに、どれかは楽しめたという者も多かったのか人気を博し、2位受賞と相成っていた。
「長時間の放送、準備なども大変だったのではないか?」
自身は専門外のブリジットだが、長時間の放送が準備なども大変であろうことは想像がつく。
「皆さんが楽しんでくれれば、それに越したことは無いですよ」
視聴者の反応も見つつの放送である。気を遣わないはずもないのだが、清和は疲労の色を感じさせずにそう答えた。
「ただ、見逃したという声が大きいのだけは、少し残念だな」
「次があればちょっと考えた方が良いかもしれないですね」
さらに上位を狙う意気込みを感じさせる清和の言葉を聞きつつ、ブリジットはブースを後にするのだった。
●審査員特別賞:超銀河プロレス5“FAR THAN FUTURE”(
プロレスリングM.P.W.C)
プロレスリングM.P.W.C特別興行
『超銀河プロレス5“FAR THAN FUTURE”』
“未来”を超えた先に、君は何を見るのか……!?
「うむ……これは、私にも分かり易いな」
パンフレットに掲載された美しく強きプロレスラー達の写真に、手に深く頷いた。
「Multi-race Professional Wrestling Commission」(異種族混合プロレス協会)。
その名の通り、様々な種族のケルベロスを集めたプロレス団体で、古株の旅団だ。
ケルベロス超会議でも長らくプロレス興行を披露していたが、今年はついに、審査員特別賞の受賞となっている。
ブリジットが訪れた時も、イベント用特設リングでは、2人のケルベロス女子レスラーが競い合っていた。
赤コーナー“兇劍継承” シンシア・ジェルヴァース(e14715)。
青コーナー“眠れる銀獅子” 獅子谷・銀子(e29902)。
鍛え上げた戦士同士の戦いは、心を揺さぶるものがある。
それは、徒手空拳で行われるプロレスリングでも変わらない。
別の特設リングでは、この団体の社長こと草薙・ひかり(往年の絶対女帝は輝きを失わず・e34295)が、観客ケルベロスの有志との試合を行っていた。
「ボクが来た、のです!! ひかり姉、行くのだよっ!!」
小細工無しに正面から突っ込んでいく叢雲・蓮(無常迅速・e00144)。
その速度と勢いは、ひかりをして一時は圧倒するかに思えた。
だが、ひかりは意地を見せるように蓮の体を抑え込み、フォールに持ち込む。
紙一重の勝負を制し、蓮を握手を交わしたひかりに、ブリジットは声をかけた。
「失礼、あなたが代表者で良いか!」
「ええ、そうよ! あなたも挑戦する?」
汗を拭きながら問うひかり。一瞬迷った様子を見せたブリジットだが、彼女は今の自分の仕事を思い出して首を振った。
「いや、今回は公務だ! こちらの企画の、審査員特別賞受賞を連絡に来た!」
一瞬目を丸くしたひかりが、会場内に審査員特別賞の受賞をアナウンスすると、盛大な拍手が巻き起こった。
彼らが日々鍛え、生命の危険を賭してまで闘うのは
「未来のその先」にある「何か」を、その手に掴むため。
だから、超えなければならない。
過去を、現在を、そして未来を。
会場入り口に流れるVTRが、この団体の信念を語る。さらなる高みを目指し、レスラー達は鍛錬を積んでいくことだろう。
●1位:[Raison d'etre] 5thライブ(
EDEN)
ブリジットが最後に訪れたのは、イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)ボーカルを務める音楽アーティスト[Raison d'etre]のライブ会場だった。
例年、ショウ&ライブ部門で人気を勝ち取って来た[Raison d'etre]だが、イブは今回が[Raison d'etre]として最後の参加となることを表明している。
5月10日、ケルベロス超会議におけるラストライブは、短いMCから始まっていた。
「おはよう皆。昨日来てくれた人も今日がはじめての人も、聴きに来てくれてどうもありがとう。今日が、僕が[Raison d'etre]として超会議のステージで歌う最後の日になるぜ。どうかこの瞬間を皆と楽しめますように。そしてこの歌が、きみと、きみの愛する人に届きますように――」
短いMCで始まった2日目のライブは、「千変万歌」「White Knight Concerto」を経て、イブ自身の最初の曲である「慟哭のシンフォニア」へと至っていた。
続くロックに喉を疲れさせる様子もなく、イブは言葉を繋ぐ。
「3曲目は僕の始まりの歌――『慟哭のシンフォニア』」
『慟哭のシンフォニア』は、イブが[Raison d'etre]名義で出した初めての曲であり、【救済】をテーマに歌われるその楽曲は、淘汰され行く者へと手向けられたロックだ。
「『White Knight Concerto』が[Raison d'etre]を世に広めた曲だとしたら、この曲は[Raison d'etre]を産んだ歌。これまで何度も歌い続けてきたこの曲を、ラストライブの今日歌うことにこそ意味があると思うんだ。次に歌う、僕自身の最後の曲に、最初のうたを捧げます」
そして、イブは本日3つ続けてのロックを歌い始めた。
痛々しいまでに透き通った歌声が、ライブ会場を満たしていく。
あと数曲で、彼女のケルベロス超会議におけるラストライブは終わりを迎える。
その、最後のライブの時間を耳だけでなく己の全身で味わうといわんばかりに、観客たちは惜しみなくサイリウムを振る。
「多くの者達に惜しまれつつも、次なるステージを目指すか」
大したものだ、とブリジットは思う。
イブはここからさらなる飛躍を目指すのだろう。
そう確信させるにたる歌声を聞きつつ、ブリジットはスタッフに部門1位の受賞を告げにいく。
やがて最後の曲が終わり、ライブが終わりを迎えると共に、その報せは喜びをもって、イブと彼女のファン達とで共有されることだろう。