『暗夜の宝石』攻略戦 ファーストアタック

リューディガー・ヴァルトラウテ VS 悪意の鋒

<『暗夜の宝石』攻略戦 ファーストアタック>

『月の地球激突』という破滅的な災害は、ケルベロスによって阻止された。
 だが、月がビルシャナ大菩薩化する現象が収まったわけではないことは、月を見れば明白だった。
 かつて、鎌倉の大仏殿を器として顕現したビルシャナ大菩薩は、現在に至るまでの大量のビルシャナ出現の引き金を引いた。
 もしもビルシャナ大菩薩が月を完全に己の肉体としてしまえば、地球にどれだけのビルシャナが出現することになるのか分からない。
 現に、月に赴いたケルベロスは、月面にひしめく無数のビルシャナの姿を目撃しているのだ。
 地球の滅びを阻止するため、人類全体が動き出していた。

●『暗夜の宝石』を目指して
 数多くのケルベロスは、探索の果てに『磨羯宮ブレイザブリク』の剣の一つを確保し、月への移動手段として利用できる状態にすることに成功していた。
 この報告に経済界と各国首脳陣は大いに安堵した。
 人類の宇宙進出を阻んで来た、費用面の問題はいまだ解決していない。
 いくらケルベロスで生命維持を無視できるとはいえ、もしブレイザブリクを出来なければ宇宙へ多数の人員を打ち上げるのに要する経済的負担は、従来のと比較してもさらに巨大なものになっていただろう。
 剣は『グラディウス』として使うため、往路で力を使い果たしてしまい、復路には使えない。
 したがって帰りは宇宙用装備を取り付けたヘリオンを使うことになるのだが、それでも何千人も打ち上げるのを考えなければ、経済的負担は随分と小さくなる。
 結果として『磨羯宮ブレイザブリク』を地上に出したエインヘリアル第九王子サフィーロは地球に大きな利益をもたらしたことになり、一部ではお歳暮でも送るべきか等と冗談も語られる始末である。

 かくして、東京八王子市の東京焦土地帯に、続々と物資が運ばれつつあった。  その車列をブレイザブリク傍で迎えながら、白馬師団のイリス・フルーリア (銀天の剣・e09423)は一瞬足元を見る。
「焦土地帯の地下に本拠地を持つエインヘリアルによる妨害も、今のところ無いですね」
「事態を把握していない……わけはないか」
 東雲・苺 (ドワーフの自宅警備員・e03771)は、頭上を見上げる。日本の各地にいるデウスエクスから、各勢力に月の異変は伝わっているはずだ。
「人類が滅ぶようなことになれば、困るのはデウスエクスも一緒だよね」
「グラビティ・チェインを奪えなくなりますからね」
 宇宙の中心、グラビティ・チェインの発生源である地球。そのグラビティ・チェインを求めて多くのデウスエクスは地球へ侵攻している。デウスエクスにとっても、人類が滅びるのは損失でしかないのだ。それだけに、今回のビルシャナや地球を破壊した魔竜王の異常性は際立っていた。

 ブレイザブリクを目指して移送されていく物資の中には、従来の戦争で運搬に用いられたのとは異なる形状のコンテナが多く存在していた。
 主に米国と中国から運ばれて来た、宇宙での活動に耐えるコンテナだ。
『アルテミス計画』や『嫦娥計画』のために準備されていた様々な機器も送られてきている。
「貨物の固定、再度確認をお願いします!」
 救護準備を担当する蒼鴉師団の夢見星・璃音 (災天の竜を憎むもの・e45228)は、剣に物資を搬入する者達にそう呼び掛ける。
 玉榮・陣内 (双頭の豹・e05753)は、月での戦いのことを思い出していた。
「月面という極限環境であっても、俺達は戦えてしまうのだがな……あそこがホームグラウンドの連中よりは不慣れなのは否めんし、苦しくもある」
「負傷者にもその環境で休めというのはあまりにも酷ですね」
 シル・ウィンディア (蒼風の精霊術士・e00695)が頷く。蒼鴉師団では、彼女の提案に基づいてコンテナを用い、救護の場を用意しようと試みていた。
 今回ブレイザブリクから奪う剣は、ケルベロス数千人に加えて資材を詰め込める大きなものだ。エインヘリアルの拠点だけあってか、広い部分も多いのは幸いといえただろう。
「まあ、中の通路や部屋まで全部広いわけじゃないけどー」
 小車・ひさぎ (コズミックストレンジャー・e05366)は、刺さっていた剣などを排除した室内を見た。
 時間をかければ都合の良い形にするために工事を行えたかも知れないが、この短期間で壁などを破壊しつくすのは無理な話だ。
 となれば、組み立て式のものを含めても、コンテナを搬入できる数は限られてくる。
 コンテナ自体に荷物を満載するのは勿論のこと、収まりきらない物資はケルベロスが運べる大きさとされ、小分けにされて剣のさらに奥へと運ばれていた。防具特徴の『巣作り』を用い、さらに多くの荷物を入れる工夫も施されている。
 生物の生存を考えられていない月面。一人でも多くのケルベロスを重傷から守るため、蒼鴉師団は準備を進めていく。

●『宇宙(そら)に輝く秘宝を守り抜け!』
 埼玉県所沢市の西部ドームでは、銀狐師団が企画した、ケルベロスによる決起集会が行われていた。周辺の遊園地をはじめとしたエリアではさらに、灰色狼師団による士気高揚のための企画が行われている。
 多摩湖を一周するレースや、月にまつわる企画は、ケルベロスだけでなく訪れる人々も楽しませていた。
 翼を広げて飛ぶタイタニア達が、その気分を一層盛り上げていく。

『宇宙(そら)に輝く秘宝を守り抜け!』
『もう一度お月見するために』
 といったスローガンと共に、ケルベロスへの応援を募集する企画は、先のドラゴン戦に続き、世界各国のテレビを通じて盛り上がりを見せていた。
「何せ、全地球の人間から目に見える大異変だからね」
 リリエッタ・スノウ (小さな復讐鬼・e63102)は、良好な反応に胸をなでおろす。
 今でこそケルベロスの活躍で小康状態に入っているとはいえ、一夜にして現在の地球文明を破壊しかねないほどの事態になりかねない危険な状態であることは、既に全人類が理解していた。
 世界中から、異変を解決せんとするケルベロスに向けて応援のメッセージは続々と寄せられている。
『磨羯宮ブレイザブリク』の打ち上げのライブビューイングに向け、グッズも売れているようだ。

「それにしても、天文学や物理学関係の人達は大混乱のようですね」
 月見バーガーを手に、応援メッセージを選別していたイッパイアッテナ・ルドルフ (ドワーフの鎧装騎兵・e10770)は、ふとそう口にした。
「『月の観測データ取ってきてください!』とか、世界中の学者さんから応援メッセージ来てましたね……NASAとか航天局からも言われているらしいですけど」
 宇宙向けの機材を借りに各国機関へ赴いた者達から伝え聞いた、学者や職員たちの様子を思い出し、若生・めぐみ (めぐみんカワイイ・e04506)はクスリと笑った。

 現代科学にもとづくならば、月が地球に接近し始めた時点で、大天災が起きていてもおかしくないはずだった。
 だが、そこまで巨大な異変は、少なくとも現時点では発生していない。
 ちなみに先週頭までは、『本来なら、単に月が地球に接近しただけでは、月はロッシュ限界で破壊される。地球に激突できるのはデウスエクス化しているためだ』などと考えられていたのだが、もはやこれすら正しいのか分からない。
 結局のところ、これらは月が『暗夜の宝石』であったことによるのだろう。

「今回の戦場は、『暗夜の宝石』──ボクらシャドウエルフの秘宝だ」
 陸上自衛隊立川駐屯地では、灰色狼師団によるブリーフィングが行われていた。
 その席上、フリードリッヒ・ミュンヒハウゼン (ほら吹き男爵・e15511)は、そう振り返る。
 これまで月だと思われていた衛星が、失われたシャドウエルフの秘宝『暗夜の宝石』だった。そのケルベロスからの知らせは、当然ながら全地球の人々に驚愕をもたらした。
 月という存在は暦をはじめとして、人々の生活に密接にかかわっているのだ。
 もっとも、落ち着きを取り戻した今は、『正式名称は『暗夜の宝石』とするが、特に必要がなければ月と呼ぶ』という結論で世界的にまとまりつつある。今回の戦いに勝った後は、その方向で各国政府から正式発表があるだろう。負けた場合の正式名称はビルシャナ大菩薩になる。
「別に、衛星が増えたわけでもないからね。……日付を何『暗夜の宝石』何日とか言うのも面倒だ」
「交戦時の影響は少ないでしょうが、『暗夜の宝石』の存在自体は、一応留意すべきでしょう」
 アルフレッド・バークリー (エターナルウィッシュ・e00148)は、月の裏側で撮影された写真を、集まったケルベロス達に見せる。
 そこには、岩盤の下から大きく露出した黒い宝石のような地面の様子が確かに映っていた。

 シャドウエルフがオラトリオの指導者『聖王女』に『暗夜の宝石』を譲渡したのがおよそ400年前。
『聖王女』は『暗夜の宝石』を用いた儀式によって、オラトリオに定命化への耐性を与えた。
 その儀式の効果によって、オラトリオはおよそ350年間に渡って定命化を免れ、地球の人々を守るため戦い続けることが出来た、というのが地球で知られている歴史だ。

「その意味では現在の地球があるのも、『暗夜の宝石』あればこそと言えるのかな? ただ、詳細はサッパリ分からない」
 社守・虚之香 (宵闇に融ける蒼黒の刃・e06106)は肩をすくめた。
 地球の歴史における重要性とは裏腹に、『暗夜の宝石』がいかなる秘宝だったのか、そして『聖王女』が行った儀式がどのようなものであったのかは判然としない。
 アスガルド時代や400年前のことを知るシャドウエルフは全て定命化してとっくの昔に鬼籍に入っているし、デウスエクスに儀式を破られないためにオラトリオも記録を残すようなことはしていない。魔竜王と聖王女との戦争当時に生まれていた高齢のオラトリオ達も、地球崩壊を無かったことにした『巻き戻し』の影響で当時の記憶は曖昧だ。
 コギトエルゴスムから蘇って間もないタイタニアやアイスエルフもシャドウエルフの秘宝について詳しいことは知らず、調査はあっという間に手詰まりとなっている。

 だが、マスター・ビーストは『暗夜の宝石』を利用して何かを企んでいたのもまた事実。
 それだけの力を、他の者が利用しないとも限らないとケルベロス達は予感していた。

●月への飛翔
 そして26日深夜、ケルベロス達は物資の満載された巨大な剣へと乗り込んだ。
『グラディウス』を使うときと同様、ケルベロス達がその意志を集中すると共に、剣はその切っ先を天上へ向ける。
 師団による中継を見守る人々の前で、剣は一瞬輝いたかと思うと、天へと飛翔した。

「どういう技術なんだ……ほとんど加速のGも感じなかったぞ」
「よくミッション破壊に使ってますけど、魔法的なものでしょうからね……グラディウス」
 剣の内部で、ケルベロス達は驚きと共に言葉を交わす。
 内部にほぼ重力加速による圧力がかからなかったのは、デウスエクスに共通する重力(グラビティ)操作技術に基づくものだからなのだろう。
 もっとも、それでも約38万kmは一瞬とはいかない。
「月に着くのは、日本時間の朝か」
 もっとも、これまでに唯一月の裏側に着陸した中国の嫦娥4号が月周回軌道に入るまで110時間、そこから安定した着陸に4週間近くを要していることを考えれば凄まじい速度であることには変わりなかった。

 その時間の間、ブレイザブリク内部では、白馬師団によるハロウィンステージが開始されていた。
 ハロウィンの仮装をしたケルベロス達が、歌や演奏、ダンスなどを披露していく。
 参加しない者達にも、菓子が配られる。そこには、銀狐師団が集めた地球の人々からの応援のメッセージが添えられている。
 ケルベロス達と人々の思いを乗せ、剣は無音の宇宙を切り裂き飛んでいく。

●月の裏に狂気の群れ
 月、あるいは『暗夜の宝石』は、本来的には生物のいない星だ。
 灼熱。極寒。無気圧。真空。
 過酷な自然環境は、地球上のような生命体の生存を許さない。
 宇宙服も無しに生きていられるのは、グラビティ以外でのダメージを受けないデウスエクスやケルベロスだけだ。
 だが、今の『暗夜の宝石』は、平常時よりもさらに危険な星となっていた。
 地球を発った剣が、月周回軌道に入ると共に、ケルベロスはその事実を思い知る。

「「「衆合合切衆合無、衆合合切衆合無、導く菩薩は如来に至る……」」」
『ろう ろう りまーが! ろう ろう りまーが!』
『繧阪≧縲?繧阪≧縲?縺上k縺?k縺! 繧阪≧縲?繧阪≧縲?縺上k縺?k縺!』

 頭の中に突如として、混然とした詠唱と祈りの乱舞が鳴り響いた。
 思わずケルベロス達の多くが頭を押さえる中、剣内に新たな被害を知らせる報告が届く。
「通信機器、全て停止!!」
 人類の宇宙での活動は、地球上の管制センターとの密な情報のやり取りによって成り立つ。
 今回もNASAや中国国家航天局のような有力宇宙機関の協力の元、複数の師団が用意した通信機器を使い、この瞬間まで地球との連絡は可能な限り密に行われていた。
「通信妨害か」
「まあ、予測の範囲ですねぇ」
 黒猫師団の田津原・マリア (ドクターよ真摯を抱け・e40514)は動じずに目を細める。
 ウェアライダーであり、螺旋忍軍であるソフィステギアがいる時点で、通信不能になる事態は予期されていた。
 外の様子も分からないが、剣の軌道も、もうこうなっては変えることもできない。
 着陸の予定時間を示す時計の表示が刻一刻とゼロに近付いていく中、剣が突如大きく揺れた。
 剣が月面に突き刺さったのだ。

●月面戦争のはじまり
 ケルベロス達の体が、剣の切っ先を下に、『暗夜の宝石』の重力に捕らわれる。
「出口を確認したら、剣はそのまま拠点に!!」
「奇襲する師団を優先して出して、その後コンテナ搬出を行います!」
 矢継ぎ早に蒼鴉師団の指示が飛ぶ中、黄鮫師団のアルトゥーロ・リゲルトーラス (蠍・e00937)は真っ先に剣から飛び出した。
 慣れぬ重力の中で彼が目の当たりにしたのは、眼前に広がる乱戦の光景だ。
 マスター・ビーストの配下とクルウルクの配下が相争い、それらを教化するべくビルシャナ達が無節操な祈りを捧げては薙ぎ払われている。
 そして、その遥か向こうには、巨大な2つの影が聳え立っていた。
 マスター・ビーストとクルウルク。
 圧倒的な巨体を誇るクルウルク神族の2体は、黒い『暗夜の宝石』の上で配下同士を戦わせている。己が最終生存体(レプリゼンタ)となるために、同じ種族を排除せんとしているのだ。
 クルウルク神族たちのさらに向こう、煌々と輝くクレーターの彼方では、無数のビルシャナが集まり巨大なビルシャナを形作ろうとしている。
「なんとまあ……派手にやってるな」
「道を切り拓く、行くぞ!!」
 剣の出口で相馬・泰地 (マッスル拳士・e00550)が号令を出すと共に、ケルベロス達は乱戦を行う敵のただ中へと突っ込んでいった。

 ここから先は無音の領域だ。
 照明器具や、音を伴うグラビティで合図を出しながら、彼らは後に続く師団の道を切り拓くべく周囲の敵陣を切り裂いていく。
『共に愛し、共に在り、共に死する。それこそが究極の死合世……』
 死合世明王の祈りをかき消すように泰地の両腕の筋肉が隆起し、黄金のオーラが放たれる。死合世明王をかばって吹き飛ぶビルシャナに、アルトゥーロは銃を向けた。弾は真空の月面上を駆け抜けてビルシャナに突きささり、その身体を消滅へと追い込んでいく。
(「一体、どこからこいつらを連れて来たんだか」)
 アルトゥーロは怪訝に思いながらも、新たな標的へ向け続けざまに引き金を引く。
 その答えは、あるいは大菩薩大回廊の向こうにあるのかも知れなかった。

●スター・ピルグリム
 月の石を元に用意した迷彩マントを揺らし、剣を飛びだした紫揚羽師団は月面に蠢く『星の巡礼者(スター・ピルグリム)』の群れを切り崩しにかかっていた。
 三つ巴の戦いの影響で各戦場の戦力は擦り減っているのか、さほど多くないように感じられた。
 マスター・ビーストは勿論だが、攻性植物の将であるクルウルクの戦力も多くはないようだ。
(「月面では、新たなピルグリムも増やせなかったでしょうね」)
 鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)はゆっくりと飛び掛かって来るピルグリムが振り下ろす鋏を自在棍で受け止める。すかさず腕を目掛けて産卵管が伸びて来るが、それも予想の範疇だ。
 奏過は自在棍を一振りし、巻き取るようにして産卵管を引きちぎる。
『──!??!』
 狼狽えたように暴れるピルグリム。奏過はすかさず炎纏うグレイブを顕現させると、隙だらけの頭部に向けて有無を言わさず投げつけた。
 ピルグリムは頭部を貫かれ、焼き尽くされて消滅する。その性質は、地球の屋久島に出現したものと性質はほぼ変わっていないようだ。
(「斬撃への対策は有効のようですね……」)
 予め情報を確認しておいたことが功を奏している。
(「鞘柄さん、緋色蜂師団が進軍完了です!」)
(「このまま戦線を維持しましょう」)
 深緋・ルティエ (紅月を継ぎし銀狼・e10812)が、接触テレパスで伝えて来るのに返答する。そのまま、紫揚羽師団はスター・ピルグリムの群れを駆逐していった。

●浄化菩薩
 旗を目印に素早く集合した緋色蜂師団はスター・ピルグリムひしめく戦場を駆け抜け、浄化菩薩を目指していた。
 戦場となっている月の裏側の温度は100度を越える。
 グラビティでなければケルベロスにダメージは無いとはいえ、あまり長居したくない空間だった。
 幸いなことに、浄化菩薩がどこにいるのかは、障害物の少ない月面ではっきりと見て取れた。
(「何なの、あの大きさ……!!」)
 イズナ・シュペルリング (黄金の林檎の管理人・e25083)は思わず目を見張る。
 浄化菩薩の体は、クルウルク達には及ばないまでも巨大だ。
 あんなものが地球上にいたなら、即座に所在が判明していてもおかしくはなかっただろう。
 ビルシャナ大菩薩がそうであるように、無数のビルシャナを取り込んでいるのだろう。
 地球でも、天聖光輪極楽焦土菩薩はドラゴン勢力の力を奪って創造したビルシャナを、他のビルシャナに取り込ませて力を上げさせていた。
 浄化菩薩をはじめとした三菩薩も、同様のことが出来てもおかしくはない。

『争いの原因は世界に2つ以上の知的生命体の意志が存在するため。
 世界の全てがビルシャナ大菩薩と合一すれば、敗者も勝者も無くなり、世界から争いが消え去るのだ』

 ケルベロス達の心の中に届く教義。
 浄化菩薩は、確かに世界を慈しみ、争いを悲しみ、その解決を求めていた。
 だが、それはどこまでも歪んだ手段に過ぎない。
 水瀬・和奏 (フルアーマーキャバルリー・e34101)は、怒りに身を震わせる。
(「『大菩薩と合一すれば争いは消える』ですって……? その言葉でどれだけの人を惑わせて……でも、それもここで終わりです!」)
 和奏のアームドフォートから、さらなる浮遊砲台が展開される。
(「行けっ!」)  和奏自身のアームドフォートの砲撃に合わせ、複数方向から無数の砲撃が繰り出される。
 浄化菩薩をかばったビルシャナが、たちまち穴だらけになって消滅した。
(「攻撃開始じゃ!」)  端境・括 (鎮守の二挺拳銃・e07288)が、合図とばかりに銃の引き金を引く。指示を出すまでもなく、ケルベロスはビルシャナ達の戦力を削り取く。

●ソフィステギアとその拠点
「……空気だ!!」
 周辺を守っていた螺旋忍軍アブランカ一族を蹴散らし、螺旋忍軍ソフィステギアの拠点内へと突入した黒猫師団のディークス・カフェイン (月影宿す白狼・e01544)はそう声を上げた。
 酸素を用意し、数少ないアイスエルフの師団員に氷界形成を使ってもらうなどして月面の高熱への対策をして来たが、ちゃんと大気のある空間になっているかで過ごし易さは随分と違う。
「おっと……中は随分敵が多いねぇ」
 尾守・夜野 (虚構に生きる・e02885)が、安堵の息を吐きながら赤黒い色をした穴を出現させる。
 そこに攻撃を叩き込むと、別の穴から飛び出した攻撃が、飛び掛かって来ようとしていた犬型の螺旋忍軍へと突き刺さった。
「マスター・ビーストは、ソフィステギア達を外での戦いにあまり向ける気が無いのでございましょうか?」
 齋藤・光闇 (リリティア様の仮執事・e28622)は、グランドロン内にひしめく螺旋忍軍の姿に首を傾げた。
 宝瓶宮外部の守りは手薄だ。
 それを突いて黒猫師団は突入に成功したのだが、内部は逆に抵抗が強い。
「ソフィステギアは、これを維持するのが役目ということですかね」
「移動に使う気かな? それとも、何かの実験に?」
 マスター・ビーストは、現在どのデウスエクス勢力にも属しない独自の立ち位置にある。『ゲート』や魔空回廊とは無縁のはずだ。
「ズーランド・ファミリーを地球に出現させることは出来ていたようでございますが……」
「遺跡が丸ごと体だというのが本当なら、これには入らないだろうし……配下達を連れてどこかに行く気かな」
「あるいは、また別の目的があるのか……いずれにせよ、放っておくべきではないでしょう」
 意図を推測しても、現状ではキリがない。だが、相手は妖精8種族のコギトエルゴスムを利用して、神造デウスエクスモドキを出現させたこともある。地球のウェアライダー達への被害を防ぐためにも、コギトエルゴスムを取り戻すべきであることだけは確かだった。

●悪意の鋒
 その戦場に踏み入った瞬間、金糸雀師団のケルベロス達はデウスエクスへの敵意が否応なしに高められていくのを感じた。これがまた前哨戦の奇襲であることも忘れ、目の前の敵への殺意だけに意識が向けられていく。

『地球を守るために、数多の命を奪う。その程度が、お前達の望みであるのか? そんなはずは無い。デウスエクスの命を奪うという、この宇宙でケルベロスだけに赦された悪徳を、お前はさらに満たしたいと望んでいるはずだ』

 心の中に、泥水のように濁り切った思念が染み込もうとしてくる。
 それは、巨大な悪意の鋒が放つ、悪意を増幅させる『教義』だ。
 金糸雀師団は、ここに至るまでの戦場を突破する中で、デウスエクス同士が相争う様を見て来た。
 だが、それらは所詮、負けてもコギトエルゴスムになるだけの生ぬるい戦いに過ぎない。
 デウスエクスに死をもたらす力を与えられているのは、この宇宙で唯一、ケルベロスだけだ。
 その権利を思うがままに行使して、何が悪いのか?
 ケルベロスたちの心の中で、殺戮への欲望が膨れ上がり──。
(「予想通り、仕掛けて来たな」)
 それを、リューディガー・ヴァルトラウテ (猛き銀狼・e18197)は抑え込んだ。
 金糸雀師団の一員としての、金地にカナリアの紋章の腕章。
 そして、銀狐師団が集め、白馬師団から渡された、世界各国からの応援の言葉。
 自分達は、数多くの人々に支えられ、彼らを助けるためにここに居るのだ。
(「安い悪意に流されている場合ではない。皆の笑顔を守る。それが俺達の使命なのだから」)
 断固とした意志で悪意を断ち切ると、リューディガーは素早く拳銃を抜き、聳え立つビルシャナの巨体へ向けて撃ち放った。
『むぅっ!?』
 訝しげであった悪意の鋒の思念に驚愕と乱れが生じた。
 リューディガーだけでなく、ケルベロスが続々と、悪意の思念を破ったのだ。その驚愕の隙を突くように、金糸雀師団はビルシャナの群れを撃破していく。
(「強いけど……竜十字島ほどじゃないのかな?」)
 大弓・言葉 (花冠に棘・e00431)は、ビルシャナ達の強さをそう判断する。
 月面での争いに備えてか、(おそらくは複数の個体が合一することで)練度を上げているようだが、種族的な差はある。ドラゴン勢力の最精鋭に比べれば、まだしも容易な相手だろう。だが、制圧しなければならない戦場、倒さねばならない敵は数多くいる。
 敵の個々の強弱が、必ずしも戦争の難しさではないことを、ケルベロス達はよく理解していた。

師団ファースト
アタック
結果
黒猫師団 (6)奇襲 奇襲により「(6)ソフィステギア」の戦力が400減少!
ソフィステギアの戦力はグランドロン維持に専念しています。戦争開始段階ではクルウルクとマスター・ビーストの争いは、マスター・ビースト側が優勢のようです。
銀狐師団 応援募集 各ターンの重傷からの復活率が「21%」に上昇!
所沢の西武ドームを中心拠点として、イベントや媒体を通じ、世界各国への応援への呼びかけを行いました。
灰色狼師団 テンションアップ 戦力650以下の戦場を無視可能に!(2師団合計)
戦争までの宣伝広告と、西武園を中心とした地区でのイベントやブリーフィングの開催を並行して行いました。
白馬師団 テンションアップ 戦力650以下の戦場を無視可能に!(2師団合計)
戦争までの状況説明を中心としたブリーフィングと共に、戦争直前までブレイザブリクの剣内での士気高揚策を行いました。
蒼鴉師団 救護準備 ケルベロス全体の重傷死亡率が10%低下!
月面の過酷な環境に備え、様々な準備を行いました。宇宙用のコンテナ内を拠点とし、負傷者の治療・休息環境を保つことにより、月面環境による重傷率上昇を抑制できています。
金糸雀師団 (11)奇襲 奇襲により「(11)悪意の鋒」の戦力が300減少!
悪意の鋒が悪意を増幅しての精神攻撃を行うのを予測し、その対策を取れたことで奇襲の効果が上がっています。
紫揚羽師団 (2)奇襲 奇襲により「(2)スター・ピルグリム」の戦力が400減少!
奇襲を仕掛け、敵の戦力を削りました。無音の環境で逸れないような工夫や、地球に出現した際のスター・ピルグリムの情報からの対策も行っており、緋色蜂師団の奇襲も援護することができています。
緋色蜂師団 (7)奇襲 奇襲により「(7)浄化菩薩」の戦力が300減少!
無音の空間で多くの師団が一度に飛びだすのに際して集合に旗を使うのをはじめ、多くの工夫が役立っていました。理力グラビティの多いビルシャナへの対策により、長時間を耐え切っています。
『暗夜の宝石』の輝きの中に、無数のビルシャナの姿を見たような気がする……。
黄鮫師団 (3)奇襲 奇襲により「(3)死合世明王」の戦力が300減少!
有効な奇襲を仕掛け、敵の戦力を削りました。理力グラビティの多いビルシャナへの対策も行うことで長時間を凌ぎ、先へ向かう師団の援護も行いました。
今回の「テンションアップ」
 戦力650以下の戦場を無視可能に!