カフェストリート 結果発表!

「どの企画もみんな素敵だったけど、そろそろ結果を伝えに行かなくちゃ」
 ユリア・フランチェスカは、手にした紅茶を飲み干すと席を立ちあがった。
 さて、今回のカフェストリートにて栄冠を手にしたのはどの企画なのか――。

●3位:Warme Familie~家族になろうよ(洋菓子店「Mondenkind」
 ユリアが足を踏み入れたのは、「Mondenkind」の看板を掲げた小さなドイツ建築風の店。
「わぁ……!」
 そこで行われていたのは、ウェディングドレスの試着会。純白のドレス、華やかな振袖、しゃんと背筋が伸びるようなタキシード。リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)はユリアの訪問にすぐに気づくと、軽く手招きをした。傍らのチェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)が花束を手に微笑む。
「もしよろしければ、一緒にブーケを作りませんか?」
「素敵ね、じゃあ……作り方を教えてもらってもいい?」
 メインの花を選び、そしてそれに添えるようにカスミソウを追加していく。ユリアが選んだのは、ピンクのバラにスズランを少量だった。仕上がりに、満足そうにため息をひとつ。
「綺麗だな」
「ええ」
 リューディガーは、そのブーケをどうするのかユリアに問うた。
「そうね……もしよかったらだけど、撮影しているみんなに持ってもらえたら、と思って」
「ありがたく使わせてもらう」
 これなら和装に合わせてもいいんじゃないか、と言いながら、ブーケを大切に抱えて、撮影ブースへ。
「なるほど、今年は和装をしている人が結構多いのね」
 みんな、素敵。とユリアはうっとり見つめる。
「ユリアさんは? 着てみませんか?」
 そこでユリアはハッとする。
「ついゆっくりしちゃったけど、発表しなきゃいけないんだったわ……ううん、でも……」
 ちら、とそばにあったロングベールを横目に見る。
「あの、このベールだけ被ってみても……いい?」
「もちろんです」
 チェレスタは、白い百合がついたロングベールをふわりとユリアに被せてやった。
「っふふ、綺麗ね……。ほんとの花嫁さんになったみたい」
 みんなもこんな気持ちで撮影に臨んでたのね、と笑うと、ユリアは団長のリューディガーを呼ぶ。
「リューディガーさん、おめでとう! あなたの企画がカフェストリートの3位に輝きました。本当に素敵な時間をありがとう」
 わぁっ、と周りのケルベロスたちからも歓声が上がる。誰からともなく、フラワーシャワーが始まった。
 舞い散る花びらの中、あるものは幸せそうに、あるものははにかみ、笑う。
 幸せな光景を背に、ユリアは温かい気持ちで次の場所へと向かうのだった。

●2位:童話喫茶『GoraQの城』(遊び場:GoraQ
「ここね!」
 ユリアは、3階建ての元雑居ビルの扉を静かに開く。すると……。
「いらっしゃいませ。ここは、童話の世界」
 団長の立花・恵(翠の流星・e01060)が、人魚姫モチーフとしたドレスの裾をひらりと翻して恭しく一礼を。
「か、かわいい……! ふわふわのひらひらね!」
 人魚みたいよ、というと、恵は恥ずかしそうに視線を逸らす。
「わ、……わかる? なんだかそういわれると恥ずかしいんだけど……」
「あらあら……ごめんなさい。でもとっても素敵!」
「うう、あまり褒めないで」
 いたたまれなさそうに縮こまる恵に、ユリアはふふっと笑う。
「俺のことより! せっかくだし何かいかがですか?」
 ほら、とメニューを見せる。ダイスを振れば、妖精のいたずらで料理が決まるらしい。
「じゃあ、ひとついただこうかしら」
 からん、と振ったダイスが見せた目に導かれて決まった料理は――。
「恵人魚姫さんに運んできてもらえるのね♪」
「か、かしこまりました!」
 照れ隠しにぺこーっと大きく頭を下げた恵がややあってから持ってきたのはミントの香りがさわやかなムース。
 ほかの客に今の恵にぴったり、などともてはやされながら、彼はやってきた。
「お待たせしました。人魚姫と海の泡のムースです」
 どうぞ、と差し出された青い海のムース。ひとくち頬張れば、すぅっと口の中でとろけて一瞬で消えてしまう。
「おいしい……」
 そして、もうひとくち。まだ味わっていたいのに、それは泡となって消えた人魚のように、しゅわりとはじけて無くなってしまう。
 あっというまに平らげてしまうと、ユリアはほぅっと一息。そして、静かに拍手をした。
「素晴らしい物語を頂いたわ。表彰しなくちゃ!」
「え?」
「恵さん、あなたの企画……童話喫茶『GoraQの城』が、カフェストリート2位となりました! おめでとう!」
 ありがとう、と笑う恵に、平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)が近づき、彼の頭上にティアラをちょんと乗せる。そして無駄にイケボでささやいた。
「ほら、よく似合ってる」
「ありが……やめろ! もうっ!」
 じゃれるように小突きあう二人、そして客席から巻き起こる拍手。素敵な時間をありがとう、とユリアは手を振り、店を後にするのだった。

●特別賞:廃墟カフェ『MONSTER』(路地裏黒猫同盟
 ユリアが恐る恐る古びた扉に手をかけてその向こうを覗き見ると、猫又のハーフマスクを被ったゼノア・クロイツェル(死噛ミノ尻尾・e04597)が軽く礼をする。
「……ようこそ、廃墟カフェ『MONSTER』へ」
 すっと差し出されたのは、怪物の面。
「さあ、好きなものを」
 ここは怪物たちの宴だから、と唇の端だけで笑うゼノアに、ユリアはうなずく。
「じゃあ、私は妖狐のにするわ」
 飲食に障らないように、とハーフマスクにすると、ユリアは通された席にちょこんと座る。細くて軽いユリアでも、椅子はギシリとわずかに軋んだ。
「ご注文は?」
「死神のパフェにするわね」
 かしこまりました、と一礼後、ゼノアはきし、きし、と床板を軋ませながらキッチンへ。
(「どんなものがでてくるのかしら……」)
 どきどきしながら、ユリアは待つ。ややあって、ゼノアは背の高いパフェグラスを手にやってきた。
「わ、おいしそう……」
 ことん、とパフェグラスを置くと、パフェのど真ん中から火柱が!
「きゃ!?」
 驚くユリアに、火倶利・ひなみく(スウィート・e10573)が駆け寄り、
「ああっ、なんという! お客様の秘めたるモンスターパワーで、その火を鎮めてくださいませ!」
「えっ、え、わ、わかったわ! こうかしら」
 ふぅっ、と息を吹きかけると、たちまちパフェの炎は消える。後に残ったのは、初めのキレイな姿を留めたパフェ。
「す、すごい……」
 感激するユリアに、ひなみくはぱちぱちと手をたたいた。
「さすがお客様! これで安心して宴が続けられますね!」
「よかったぁ!」
 それじゃあいただきまーす、とユリアはパフェを口に含む。
「美味しい……! それにしても、どうして焦げたりしないのかしら……全然、焦げ臭くもないし。すごいわ……」
「それは、怪物のちから、ですよ」
 にこり、と店員は微笑む。ユリアもそれにこたえるように笑った。
「ふー、ごちそうさま! 報告があるの。実はね、この廃墟カフェ『MONSTER』を、審査員特別賞に選ばせてもらいました!」
「何……?」
 本当か? とゼノアは目を丸くする。わぁ、と従業員が嬉しそうにゼノアに駆け寄った。
「では、もうひとつ魔法をお見せしましょう!」
 ぼわん、とゼノアの手から煙が。そこには、土産にとばかりに髑髏のキャンディーが乗っていた。
「どうぞ」
「いいの? ありがとう!」
 ユリアはふわっと笑う。優しいモンスターたちは、彼女の帰路を照らすようにランタンを手に先導し、出口まで見送ってくれた。
「ご満足いただけたなら幸い。――それでは、またいつか、月の夜に」

●1位:☆A.A 星穹ロマンティカ ☆(**L'aube Roses**
 ゆらり、ゆうらり……コンサートホールには満天の星穹がひろがる。
 ゆらゆら、游ぐ鯨型星海客船が映し出される……。
 今、アイドル歌手『A.A』の歌が紡がれる。
「きれい……」
 ユリアは通された三日月の椅子に腰かけると、手の平に置かれた鯨型の硝子ドームを見つめた。きらきらと、そのドームの中に星が灯る。
 ラブレターを象ったアイシングクッキー、レトルダムールは、口の中へ入れるとほろりと崩れて甘く鼻腔を抜け、心を満たしていく。
「それでは……お聞きください」
 ロゼ・アウランジェ(七彩アウラアオイデー・e00275)の声が響いた。
「本日発表の、新曲です!! 『それは星祭の夜のこと』」
 わあぁぁっ、と大きな歓声が響いた。
 ――きらきら、きらきら。星の降るそれはそれは、美しい夜のできごとでした。……彼女の甘やかな歌声が、星の海を泳ぐように会場を駆け巡る。
 VRで表現された星の波間を漂うように、観客たちはその声に酔いしれた。
「人々の願いは星となって、天へ登り穹を灯す――その光はやがて星穹に眠る星乙女へ届き光を贈った者の願いを叶えてくれる――」
 観客は次々とろぜっとらんちゃーから星を打ち上げる。
 ユリアも周りとあわせて、ろぜっとらんちゃーを振る。すると、ぱーんと星が打ちあがり投影された夜空の星に加わった。
「――そんな言い伝えをなどって行われる、星灯しの儀。あなたの幸を祈って。想いが、遥か遠い穹へ、あなたが伝えたいと願う人へ、届きますように」
 祈りを込めるように紡がれた歌に合わせ、皆が打ち上げた星のきらめきが、流れ星となって舞い降りていった。
「すごい……幻想的……」
 ごくごく小さな声で、ユリアはぽつりとつぶやいた。コンサートを十分に満喫した後、ユリアは掌の中の硝子ドーム――旋律標本を転がして幸せそうに微笑む。
「これでいつでもあの歌を再生できるのね……」
 うれしい、と頬を緩ませる。でもやっぱりライブの感動ってその場でしか味わえないから、いい経験をさせてもらった、とため息をひとつ。
「あっ」
 表彰しに行かなくちゃ。どこにいけば会えるかしら、ときょろきょろしていると、そっと肩を叩かれた。
「ユリアさん?」
「あっ……ロゼさん」
 だれか探しているの? と微笑むロゼに、ユリアはにっこりと笑いかける。
「ロゼさんを探してたの。新曲、とても素敵だったわ……会場も幻想的で……」
「わぁ……ありがとうございます! っと、アンコールそろそろでなくちゃ……」
「あの、もしよかったらアンコールでみんなに報告してあげてくれるかしら」
 ユリアはふわっと笑う。
「え……?」
「ロゼさんの企画、☆A.A 星穹ロマンティカ ☆がカフェストリートの第一位の栄冠を手にしました。おめでとう!」
「ほんと……えっ、それじゃあ、それじゃあ……今からみんなに報告に行きますね!」
「ええ、私も客席でまた聞かせてもらうわ。またろぜっとらんちゃー、打たせてもらうわね♪」
 手にしたスティックを軽くふると、ロゼはうれしそうににほほ笑む。
「はい! 最後まで楽しんでいってくださいね」
 ととと、と小走りで通路を抜けていくロゼの背を見送る。

「みなさん、アンコールありがとう……」
 夜空に再度現れるロゼ。ユリアはわくわくした気持ちでそれを見つめる。
「先ほど、ユリアさんから表彰いただきました」
 会場がざわめいた。それって、それって!
「カフェストリート1位、獲得です!!」
 割れんばかりの拍手と、ろぜぽんどらむの音、そして打ちあがるろぜっとらんちゃーの星。
「おめでとー!!」
「A.Aーッ!!」
 彼女を祝福するように無数の星々が降り注ぐ。
「ありがとうございます! それでは……皆さんへお礼の意味も込めてアンコールはこの曲……」
 みんなも一緒に、とA.Aは静かに息を吸い込んだ。
 そして紡がれる歌声。
 曲が終わっても、拍手と歓声はしばらく鳴りやまなかったという。

 ユリアは、さらにお土産に貰った薔薇のほっぺを手にご機嫌で会場を後にした。
「とっても楽しかったわ! 今度、また別の曲も聞いてみようかしら」
 カフェもライブも……満喫しきった、とほくほく。
 何より、参加する皆の幸せそうな顔が胸に灯る。最高の、思い出を。