お祭り屋台村 結果発表!

●世界が危機でもお祭りは別腹
 妖精八種族が1つアイスエルフが仲間に加わって初めてのケルベロス超会議。
 同じく妖精八種族のタイタニアも招かれている、この超会議は、大阪城に集うデウスエクスの軍勢うや、ドラゴン勢力との決戦を控えて、いやが上にも盛り上がっていた。

 デウスエクスの侵攻に防戦一方だったのは今は昔。
 今や、ケルベロスの威勢は高まり、圧倒的な強者であったドラゴン勢力すらも、その射程に収めようとしているのだ。
 超会議を訪れる人々の表情も、若干の不安はあれど、ケルベロスの勝利に期待をよせる、明るい表情が見えていた。

 ウィリアム・シュバリエ(ドラゴニアンの刀剣士・en0007)は、そんな人々の期待を感じつつも、お祭り屋台村へと足を運んでいた。
 彼がここにやってきたのは、
「腹が減っては戦は出来ぬでござるからな」
 と言う通り、戦いの準備の為である。
 勿論、それだけでは無く、お祭り屋台村の投票結果の発表も同時に行っていくつもりのようだ。

「二足の草鞋というやつでござるな。だが安心めされい。拙者、二刀流は得意でござるからな」
 ウィリアムは、誰にともなく、そう言うと、お祭り屋台村の中へと足を踏み入れた。

●3位:迷子センターはこちら(幽霊屋敷
「ぬぅ、ここは本当にお祭り屋台村なのでござるのか?」
 お祭り屋台村の投票第三位『迷子センターはこちら』がある筈の場所にやってきたウィリアムは、気づくと霧の中に閉じ込められていた。
 腹ごしらえをしようと意気込んできたのに、第三位が迷子センターであったのは、少し意外だったが、
「超会議には多くの一般人の親子連れもやっきているでござる。当然、迷子も出るでござるから、こういう縁の下の力持ちのような企画も必要とされるのは当然でござろう」
 と考えて感心していたウィリアム自身が、迷子になってしまったようだった。

「迷子センターを探して迷子になるとはこれいかにでござる」
 ウィリアムは、首筋にチリチリと苦手な予感を感じ取っていたが、受賞発表を行わねばならぬという責任感から、空元気を出して、真っ白な霧の中をかきわけるように歩み続ける。
 足元からのびる、彼の影を道しるべにするかのように……。

「うむ。何も見えぬし何も聞こえないでござるな。いや、何か聞こえてくる。助かった、おーい、拙者は、ここにいるでござるよ!」
 助けを求めるように声をあげ、手を振るウィリアム。
 だが、その彼の声は、驚愕に張り裂けた。

「な、なんだと、この声は! 断末魔の叫び? ウガァァァァ」
 驚愕の表情を浮かべつつも、歴戦のケルベロスの裂帛の気合と共に、ウィリアムはその声を振り払った。そして……気が付くと、霧は、いつのまにか晴れていた。

「今のはいったいなんだったでござるか?」
 呆然とするウィリアムの背後に、幽霊屋敷の団長、ロコ・エピカ(テーバイの竜・e39654)が、音も無く歩み寄ると、その肩に触れた。
「っ!」
 慌てて振り返ったウィリアムは、ロコの姿を認めると、安堵の表情を浮かべ、寿ぎの言葉を紡ごうとする。
「迷子センターはこちらが、お祭り屋台村の第三位に選ばれたのでござ……」
 だが、その全てを言い切る事はできなかった。

 ロコが、ウィリアムの足元の影を指さすと同時に、ウィリアムは、たまらず、
「それは、拙者のーーーのーーー」
 と叫んで、走り去ってしまったのだから……。

「お疲れ様でした。道中お気をつけて」
 そんなウィリアムをロコは、怪しげな微笑みと共に見送っていた。

●2位:維天玄舞紗大社迷物!?おむすびくじ【令和版】(玄舞紗の社名
 一方、幽霊屋敷から逃れるように駆け続けたウィリアムは、いつしか、お祭り屋台村で最も人気のある一角へと辿り着いていた。
「あれは、無しでござるな」
 首筋あたりの鱗を冷や汗に濡らしながらも、なんとか息を整えるウィリアムは、気を取り直して、自分の居る場所を確認する。

「うむ。さすが拙者でござる」
 そして、すぐ目の前に、2つ目の目的地である、維天玄舞紗大社迷物!?おむすびくじ【令和版】を発見すると、自画自賛した。

「さぁさぁ、おいでませ『維天玄舞紗大社』へ! 今年もあたしの手製おむすび、御笑味下さい! 玄米茶と自家製甘酒が、おかわり自由ですよ!」
 団長の維天・乃恵美(奉雅駆の戦巫女・e02168)の元気な客引きに、ウィリアムの食欲も戻ってきた。

「うむ、拙者にも、おむすびをいただけるでござろうか?」
 ウィリアムは、あおう言うとおむすびを一つ、汁物と共に手に取った。
「あさりの味噌汁でござるな。ほっとする味でござる。本当にほっとするでござる」
 ウィリアムは、先ほどの悪夢を振り払うようにそう感想をのべると、おむすびに齧り付く。
「これは、豚の角煮でござるな。ほろほろと肉がほどけて、旨味が口に広がるでござる。不思議な事は何もないでござるが、それゆえに安心できるでござるな」
 ウィリアムが、再びあさりの味噌汁を啜ると、乃恵美がニッコリと笑って、こう教えてくれた。
「ウィリアムさんの健康運は、超吉です。おおむね良い結果ですが、油断は禁物という所でしょう」

 そのおみくじ結果に、ウィリアムは「かたじけない」と頷くと、さっそく来訪の目的を告げた。
「実は、おむすびくじ【令和版】が、お祭り屋台の第二位となったのでござる。おめでとうなのでござる」
 そのウィリアムの祝福に、乃恵美は、
「平成最後の超会議に続いて、令和最初の超会議でも入賞出来て嬉しいですね」
 と、顔をほころばせ、周囲の客達の拍手と歓声に応えたのだった。

●審査員特別賞:『わんこそばから逃げるな』わんこそば大食い企画!(武装飲食ギルド・ベオウルフ
 玄舞紗の社の屋台を出たウィリアムは、すっかり落ち着いた様子で、お祭り屋台村の大通りを歩く。
 屋台村は、まだまだ大盛況。
 多くの屋台が、美味しそうな匂いと共に、客たちの胃袋を満たしている。

「そういえば、拙者、まだ、おむすび1つとあさりの味噌汁しか食べてないでござる」
 その美味しそうな匂いに、ウィリアムは空腹を覚えて、腹をなでた。
 屋台村の審査員は満腹になるものだと聞いていた筈なのに……と考えたウィリアムは、そろそろ、美味しいものを腹いっぱい食べたいと足を速めた。
 向かった先は、わんこそば大食い企画『わんこそばから逃げるな』だ。
 わんこそばとは、食べ終わる先から新しいそばが補充され続けるという、岩手の名物料理であり、満腹になる事請け合いの、今のウィリアムにピッタリの料理である。

 店に入って席に着いたウィリアムは、まずは、無言でお椀を持ち上げる。
 すぐさま投入される、わんこそば。
 ウィリアムはテンポ良く食べ始める。
(「わんこそばを多く食べるコツの第一は、テンポでござる」)
 ウィリアムがつるりとソバを飲み込むと、新たに投入される、わんこそば。
(「そして、誤解されがちでござるが、空腹で食べ始めるのは良く無いのでござる」)
 空腹であればあるだけ食べれるように思えるが、それは、わんこそばの素人である。
 勿論、満腹で食べ始めるのは論外であるが、おむすびと味噌汁を軽く食べてきたウィリアムの状態は、まさに、ベストコンディションであろう。
 ウィリアムがむしゃりとソバを食すと、新たに投入される、わんこそば。
(「あとは、薬味で味に変化を付けつつ、めんつゆを飲み過ぎない事に気を付ければ良いのでござるよ」)
 得意げにソバを啜るウィリアム。
 その姿は、わんこそば通と言っても、嘘にはならない程度にサマになっていた。
「32杯でござるよ!」
 食べきって満足したウィリアムは、そう宣言すると共に、店長であるミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)に、お礼と共に、受賞の報告を行った。
「おめでとうでござる。文句なしの審査員特別賞でござる。ごちそうさまでしたのでござる! ミリム殿は料理上手でござるのだな!」
 ミリムの手を握りながら、手放しに誉めるウィリアムに、ミリムは、少し照れ臭そうに頷き、客達も口々に、ミリムを讃えたのだった。
「ウィリアムさんも、32杯は立派ですよ。ちなみに、最高記録は、ティオさんの41杯でした」
「おぉ、ティオ殿は凄いのでござるな。拙者も、精進せねば! 美味しいそばをありがとうでござった!」
 ウィリアムは、満腹になった腹をなでつつ、そう言って、もう一度、ミリムにお礼を言って店を後にしたのだった。

●1位:『焼き』屋(S.S.F.M
 武装飲食ギルド・ベオウルフを出たウィリアムは、屋台村の地図を確認しつつ、最終目的地へと向かう。
 だが、地図を確認する必要は無かったかもしれない。
 人だかりができている公園の中心には、移動屋台の荷台が展開して造られたと思わしき、巨大屋台が鎮座していたのだから。
 その荷台から伸びる巨大な鉄板には、じゅうじゅうとタコ焼きを初めとした焼き物が並び、その背後には、具が山ほど積まれた保冷ケースと空になったケースが積みあげられている。
 まさに、ザ・超人気店! という外見だ。

「おめでとうでござる! お祭り屋台村の2019年……令和元年の優勝は、『焼き』屋で決定でござる!」
 多くの客で賑わう『焼き』屋の喧騒に負けじと張り上げたウィリアムの大声に、タコ焼きなどを頬張っていた客達から歓声があがった。
「おめでとう」
「おめでとう」
「やると思ってたぜ!」
「2年ぶり、3回目の優勝だな!」
「場所、間違えなくて良かったね♪」
「『焼き』屋にカンパーイ」
 その客達の祝福に、鉄板の前で焼き続けていた八代・社(ヴァンガード・e00037)は、片手をあげて、応えてみせると、
「これは、俺だけの勝利では無い。焼きという概念……文化の勝利なのだ! 好きなものを好きなだけ焼く、それこそが『焼き』屋なのだから」
 と、『焼き』という文化の勝利を宣言したのだった。

 焼き屋の具は100種類を数えており、その数こそが『焼き』という概念の正しさを証明しているのだ。

 ウィルアムも、その正しさを証明すべく500円を支払うと、無造作に1パック手を取った。
 4つは定番のたこ。
 そして、残りの4つは……、なんと『伊勢海老』であった。
 まさかの高級食材に、ウィリアムのテンションも急上昇だ。

「うまいぞー! でござる」
 ウィリアムが、そう吠え猛ると、周囲の客達もやんやと歓声をあげると、俺達も続けと追加注文でダイスを振り続ける。
 勿論、伊勢海老のような高級食材でなくても、焼き屋の焼きは全て旨いもので、ハズレなど無い(といったら無い)。
 具に合わせて生地を変えるという心配りもまた、人気店ならではの拘りなのだから。

 こうして、優勝が決まっても、『焼き』屋の鉄板は、冷める事無く、『焼き』続けられ、多くのお客の胃袋と心を満たし続けたのだった。