ショー&ライブ 結果発表!

●妖精王in超会議
「実に素晴らしい! これが地球の遊興か……」
 超会議の催し物の一つを見終えた妖精8種族『タイタニア』のオリヴィエ・マクラクランは、驚きと賞賛の混じった声を上げる。

 タイタニアは、エインヘリアルに滅ぼされた妖精8種族の一つだ。
 当初タイタニア達は、地球に持ち込まれた彼らのコギトエルゴスムを確保したドリームイーターとの協力関係にあった。
 だが、ドリームイーターはタイタニアにとって仇敵ともいうべきエインヘリアルばかりか、母星である惑星アスガルドを今なお侵略している攻性植物とまでも手を組んだ。
 その振舞いに嫌悪感を抱き始めていたオリヴィエ達は、遭遇したケルベロス達の説得を受け、仲間のコギトエルゴスムともどもドリームイーターの元を離れた。
 現在は地球側に保護され、現代の情勢を学びながらまだコギトエルゴスム化している者達の復活を待っている状況だ。

 そして超会議の今日、彼らタイタニアは地球を理解する一助になればと超会議を巡っていた。これまでの経緯もあり、彼らが安易に人を傷つけようとする者達でないのが分かっていたからでもある。
 ショー&ライブの審査員を頼まれ、会場を回っていたオリヴィエは興味深そうな顔でパンフレットに目を落とす。
「しかし、長いことコギトエルゴスムになっていたせいで、余らは完全にエンターテインメントに追いていかれてしまっているね……。これは『遊興』を司るタイタニアとしては由々しき事態かもしれない」
 ケルベロス超会議を通じて現代の地球のエンターテインメントを学んでいかねば!
 と、オリヴィエは、ふらふらと周囲の催し物に目を奪われながらも会場を進んでいく。

●3位:第四回九龍町杯!ケルベロスだらけの水上相撲大会 (九龍城砦
 オリヴィエがまず訪れたのは、九龍町は乾地区。
 そのゴミ処理場に併設された温水プールが、旅団『九龍城砦』の企画が行われている場所だ。
 昨年は審査員特別賞を受賞した九龍城塞。今年は見事、3位に入賞を果たしている。

 プールに浮かぶ土俵(ウレタン)の上に立つ『横綱』を、プールに叩き落せば勝ち。
 そんな単純かつ情け容赦のない48時間耐久のバトルロイヤルが、この企画だ。
 どれだけ強くとも、戦うたびに足場となっているウレタンは濡れて滑りやすくなり、疲労やご祝儀として撃ち込まれるバレーボール、さらにはプール下からじゃれついて来るブラックスライムなどによってバランスが崩れるため、横綱はいずれ入れ替わるようになっている。
 そんな過酷な環境下で最も多くの挑戦者を退け続けた者が、最優秀横綱に選出されるのだ。
 風船のように柔らかい『ぷにぷにフロートグローブ2019』を装着するため、怪我をする心配はないとはいえ、激しい戦いであることには間違いがない。
「なるほど、相撲というのは過激な競技なのだね……!!」
 オリヴィエは初めて見る『相撲』に大いなる誤解を覚えながら、会場へと足を踏み入れる。

「やあ、失礼するよ。君達に、3位入賞を伝えに来た!」
 実況席に入ったオリヴィエは、解説者と別人ということになったりならなかったりする団長の巽・清士朗(町長・e22683)にそう告げる。

 そうする間にも、襲い掛かって来る挑戦者達を、横綱を務める瀧尾・千紘(唐紅の不忍狐・e03044)が素早く滑らせ、プールへと水没させる。
 狐の毛皮を濡らしながら、現れる挑戦者達を次々とプールへと叩き落していく千紘の姿に、オリヴィエも声援を送る。
 だが、その千紘もついにラギア・ファルクス(諸刃の盾・e12691)によって退けられた。
「さあ、残り時間はわずか! ここで新横綱の誕生です!」
 清士朗の声が響き渡ると共に、ラギアにさらなる挑戦者がとびかかる。
 2人をラギアが退けた時、会場に、清士朗の声が響き渡った。

「最優秀横綱は、最多勝ち星を獲得した! 瀧尾・千紘さんに決定いたしました! おめでとうございます! そして、当企画がライブ&ショー部門、3位に入賞致しました! 会場の皆様、横綱と全ての参加者に、惜しみない拍手をお贈り下さい!」
 清士朗の言葉を聞き、観客たちの拍手がプールを満たす。
 
●2位:特別公演ミュージカル『コッペリア』(歌劇団SEASONS
「2位はあの歌劇か!」
 昨日観劇したミュージカル。その受賞に、オリヴィエは納得したように頷いた。

 歌劇団SEASONSの特別公演ミュージカル『コッペリア』。
 本来はバレエの演目である『コッペリア』を、ミュージカルとしてアレンジしたものだ。
 メインとなる登場人物が、村娘のスワニルダと婚約者フランツ、そして人形コッペリアの創造者であるコッペリウス博士であることは本来のバレエから変わらない。
 だが、ミュージカルへの変更に当たり、登場人物を増やすなどの変化が加えられている。
 中盤以降の展開については、本来のものとは異なる、SEASONSが独自に筋立てたものとなっているようだ。
「元々、様々なパターンの脚本が作られている話のようだね」
 大よそのあらすじは予め公開されているので、地球の演劇に不慣れなオリヴィエにも、どの場面を演じているのかはすぐに分かった。

「『赤い目の人形』は威圧感があったね……」
 やはりダモクレスとかいう種族に脅かされているからなのだろうか。
 などと思いながら、オリヴィエは改めて劇場を訪れようとした。すると、
「侵入者ァァァァ発見ンンンンンン!!」
『赤い目の人形』ことジョルディ・クレイグ(黒影の重騎士・e00466)が、主演のスワニルダ役清水・湖満(氷雨・e25983)を全速力で追いかけていた。
 さらに続けてリィン・シェンファ(蒼き焔纏いし防人・e03506)が入ると、
「侵入者……逃ガサナイ!」
 またジョルディが現れる。
 オリヴィエは、そっと扉を閉めた。

「……いやいや、落ち着け、余。妖精王(タイタニア)はこんなことでは狼狽えない……!」
 かくして、オリヴィエは落ち着いて、正面から入るのを止めて楽屋を訪れた。
 審査員として訪れたことを警備の者に伝えると、団長代理を務めるソルシエル・シャナール(e41070)の元へと通される。
「余から『コッペリア』が2位を受賞したことを伝えさせてもらうよ。おめでとう!」
「ありがとうございます。お客様にもお伝えしないといけませんね」
 ソルシエルは、手早くスタッフを呼ぶと、上演中の劇の終了時に、来場してくれた客への挨拶を行う時間を設けるよう手配する。
「ケルベロスには戦いだけでなく、こうした仕事を兼ねている人達もいるんだね」
「そうですね。私共の旅団も、そうしたケルベロスの集まりです」
「そうした部分には、余としても共感が持てるよ」
 単に戦うばかりでは、息が詰まってしまう。
 地球の人々を楽しませようとするケルベロス達の姿には、オリヴィエも感じるものがあるようだった。

●審査員特別賞:2F探偵殺人事件~真実は多分いつも1つ2つ~ (『↑ 2F探偵』
 タイタニアの種族としての特徴である『蝶の羽』は、オラトリオの翼などと同様に隠すことも出来る。
 羽をしまっていれば、シャドウエルフと区別がつかないだろう……。
 そんな風に思いつつ、ごく普通に審査員を装って『↑ 2F探偵』が企画を行うブースを訪ねたオリヴィエの思惑は、瞬時に打ち砕かれた。
 推理ゲームの冒頭で殺されていた団長、櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)がむくりと起き上がってオリヴィエに告げる。
「タイタニアのオリヴィエ・マクラクラン……ということは、この旅団の企画が入賞したということか」
「なんと……! 余の正体を見破るとは。流石は探偵、素晴らしい観察眼だね!!」
「あー、まあ、そういうことにしておこう」
 目を輝かせるオリヴィエの称賛に目を逸らす団長の櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)。
 実際は、トラブルにならないようケルベロス達にもオリヴィエが審査員を務めることは知らされていたりする。

 そんな話はさておき、審査員特別賞を受賞した『↑ 2F探偵』。
 その企画は『推理ゲーム』である。

 殺された所長。事件に浮かび上がる謎のゴリラ。そして新たな犠牲者。
 数々の困難を乗り越え、ケルベロス達は犯人を追い詰める……!!

「余、思うんだけど、何かすごい無理ないかね? というか、ゴリラって?」
「……まあ、気にしたら負けだ」
「ゴリラを気にしたら負け……。これも地球の文化か……?」
 ケルベロス達も、その辺りの理不尽さを割り切って各々に推理を楽しんでいるようだ。
 まだまだ地球の遊興は奥が深いと唸るオリヴィエ。

「しかし、殺人事件を題材とした推理遊戯というのは余には馴染みのない題材だね」
「アスガルドではこういう話は題材にならないのか?」
「やられてもコギトエルゴスム化までだからね、普通は」
 本星にいる限り、デウスエクスは『死』を迎えることがない。
 コギトエルゴスム化しても、蘇らせて犯人を聞けば大体解決である。
「とはいえコギトエルゴスム化してしまうと簡単に持ち去られてしまうから、そもそも事件が起きたことすら分からなかったりするのだけどね」
「死体処理するより簡単そうだな……」
 それはそれで物騒な話であり、地球の人々とデウスエクスで感覚が異なる部分なのかも知れなかった。

●1位:[Raison d'etre] 4thライブ(EDEN
「人気の歌手……とのことだったね」
 2017年、2018年の超会議でショー&ライブ部門の第1位に輝いた[Raison d'etre]。
 その4thライブが、今年もショー&ライブ部門の一位の栄冠に輝いていた。

「さて、地球の歌姫というのはどれほどのものだろう……?」
 期待しながら、オリヴィエは、会場であるライブハウスを訪れた。
 飾られたオラトリオの女性……イブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)の写真を見て、ふとオリヴィエは気づく。
「先ほどの『コッペリア』役の女優か。多芸だね」
 歌劇団SEASONSと、こちらのライブの両方を行い、そのいずれもが人気である……。そこにどれだけの準備と根性が必要なのか。
 ケルベロスである以上、体力面での問題は少ないかもしれないが、それでも実行する者はそう多くはないだろう。それだけ芸能活動にも命を懸けているということに、オリヴィエは改めて感嘆の念を抱く。

 そしてイブが歌い出した瞬間、オリヴィエが総毛立つような感覚を覚えた。
「ダモクレスにすら響く歌……とは聞いていたが。なるほど、納得だ」
 歌劇のテーマ曲でもあった、「琺瑯のルチカ(ほうろうのルチカ)」。
 人ならぬ人形であるコッペリアの視点で紡がれる、バラード曲だ。
 ステージ上のイブは、優しい楽想のそれを、静かに歌い上げていく。
「改めて、素晴らしいものだな……」
 イブの歌に合わせて観客が振るライトは、光の海のようだ。
 その中に溶けるように、オリヴィエも見様見真似でサイリウムを振っていく。

 終演を待ち、オリヴィエは新たに発売されたCDを買い求める人々の間を縫って楽屋の方へと向かった。
 案内されてしばし待つと、イブが姿を見せる。
「いや、実に素晴らしい歌だった! 聞かせてくれて感謝するよ」
 開口一番、賞賛の言葉を向けるオリヴィエ。イブもタイタニアが審査員を務めることは聞いていたが、想像以上の好反応に顔を綻ばせる。
「そう言ってくれると、嬉しいな。地球の音楽は好き?」
「地球の、とまでは分からない。けれど、君の歌には実に感心させられたよ」  と、そこまで言って、オリヴィエは本来の役目を思い出したようだった。
「……それから、こちらが本題だ。今年のショウ&ライブ部門の1位は、[Raison d'etre] 4thライブ。おめでとう!!」
 イブは一瞬目を見開き、そして表情を笑みに変える。
「ありがとう! これも、聞いてくれた皆のおかげだね!」
「また、素晴らしい音楽を聞かせてくれることに期待しているよ」
 そう言いおいて、楽屋を去るオリヴィエ。三年連続の受賞の報が広がると共に、祝福を寄せる者達で、ライブハウスはまた俄かに賑やかさを増しつつあった。

●タイタニアの道
「いかなる時にも、『遊興』を楽しむ心を忘れない。地球の人々と余らには、似た性質があるのかも知れないな」
 超会議で買い求めた土産を手に道を歩むオリヴィエは、そう感慨を抱く。

 かつてのアスガルドにおける、妖精8種族はそれぞれに司るものがあった。
 タイタニアのそれは、『遊興』と『ルーン』。
 遊興を愛する楽天的な性質と、ルーンを操る高い魔力。
 それらを併せ持ったタイタニアは、惑星アスガルドの戦いの中を舞うように種族としての命脈を保っていた。
 だが、アスガルドを覆った戦乱の中でタイタニアは次第に追い詰められていった。
 そして最後には、エインヘリアルによって滅ぼされたのだ。
「再び、『遊興』の場を失わせるわけにもいかないだろうね」
 ぽつりと呟いて、オリヴィエは帰路につく。
 少なくとも地球を拒むという選択肢は、彼の中から消えようとしていた。
 彼と同じく、超会議を見て回った他のタイタニアはどう感じたのか。
 その答えが明らかとなる日は遠くないだろう。