超パビリオン 結果発表!

●これが地球の超会議
「ケルベロス超会議……事前に話は伺っていましたが、想像以上に華やかで活気ある催しなのですね」
 超パビリオン会場を今一度見渡して、フリージア・フィンブルヴェトル(アイスエルフの巫術士・en0306)はほうと息をつく。
 ついこの間までコギトエルゴスムの姿で宝瓶宮グランドロンの宝物庫に封じられており、復活後は連続する戦いの中にあったアイスエルフのフリージアにとって、それはとても心動かされる光景に見えた。
「超パビリオン部門の審査員、でしたか。たいへんな大役を仰せつかってしまいましたが、必ずや成し遂げてみせましょう」
 決意も新たに投票結果を受け取り、フリージアは確かな足取りで歩き出す。
 今年のケルベロス超会議、その上位へ入賞した旅団企画の会場へと。

●第3位:湖上の華で押し花(湖上都市
 カルデラのような湖の上に浮かぶ、都市……と呼ぶには小さな陸地。
『湖上都市』と呼ばれるそこで育った色とりどりの花々が、並べられた机の上を埋め尽くしている。
「まあ……」
 身体を屈め、しばしそれに見とれるフリージア。自分でも知っているようなものから今この場で初めて見るものまで、様々な花をあれこれ眺めて微笑むフリージアに、ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)が笑いかけた。
「ようこそ、気に入る花はあったかな?」
「……はっ、ご挨拶もなく失礼しました。お邪魔しております、どの花も本当に美しいですね。よく手入れされて育ったのでしょうね」
「そう言ってもらえると嬉しいな。よければ好きな花で栞を作っていかない? 台紙はそこにあるから、好きなのを使ってね」
 ルージュに促されるままそちらに目をやると、なるほど花々に負けず劣らず多種多様な色と形の台紙が山と積まれていた。
「それでは、お言葉に甘えて……」
 あれにしようか、これにしようか。短冊形をした水色の台紙を手にしばしうろうろとテーブルの間を行ったり来たりするフリージアを見かねたように、橘・有紗(月華風吟・e63785)がラミネート加工されたばかりの栞を片手に微かに首を傾けた。
「迷ったときは、運を天に任せるのもいいですよ。これも目を瞑って選んだお花なのです」
 その手の中にあるのは、爽やかな青と白が目に眩しいネモフィラの栞。そんなやり方が、と目を丸くして、それならとフリージアは自分も目を閉じてみる。
「では……こちらを!」
 指に触れた小さな花をそっと掴み取って目を開ければ、双子のような白い花――ニリンソウが眼前で揺れる。愛らしい草姿に目を細め、フリージアは迷わずそれを押し花にした。
 台紙に押し花を貼り付け、ラミネートしてリボンを結べば、たちまち世界にひとつの栞が出来上がる。見回せば、他にも多くのケルベロスが思い思いの栞を作っているのが目に入った。
「美しい花の姿をいつまでも留め、手元に置ける……押し花とは、素晴らしい細工なのですね」
 満足げに何度も自分の栞を確かめていたフリージアだったが、ややあってここに来た本来の目的を思い出す。振り向くと、ルージュはまだにこにことこちらを見守っているようだった。こほんと咳払いして、フリージアはまっすぐ彼女に向き直る。
「では、本題を……湖上都市の皆さんに、本年の超パビリオン部門、3位入賞をお伝えに参りました。おめでとうございます」
 机上に積まれた花々へもう一度視線をやり、またケルベロスたちへと視線を戻して、そうしてフリージアは楽しげに微笑んだ。

●第2位:脱出!強制エクストリーム南国リゾート旅行!(超魔王城ゾディアパレス
「強制エクストリーム、南国リゾート旅行……」
 聞き慣れない言葉のオンパレードに、思わずフリージアは目を白黒させる。いや、何も彼女が呆気に取られているのはその奇想天外な文字列に対してだけではない。
 超会議企画第2位入賞を発表にし行こうとしたら、いつの間にか連れさらわれてどこかの島のホテルに運び込まれていた。何を言っているのか分からないと自分でも思うが、現実に起きていることは変わらない。ここは海の見えるホテルの一室、そしてこここそが超魔王城ゾディアパレスの企画会場なのだ。
『フフフ……ハハハハ……フゥーハハハハハハハハハ!!!』
 脱出ゲームのルールをラジオ越しに早口かつ懇切丁寧に説明してくれた超魔王こと天蓼・ゾディア(超魔王・e02369)の高笑いを放送が切れるまで聞いた後、フリージアは覚悟を決めて立ち上がった。
「とにかく、あの脱出船を目指せばよいのですね」
 ホテルの窓から見える一隻の船。超魔王の配下たちの妨害を切り抜け、無事にあれに乗って超会議のメイン会場に戻るまでが強制エクストリーム南国リゾート旅行なのだ。
 まずはとにかく情報収集をと廊下に出るところから、フリージアの冒険は始まった――。
 ひとまずはフロアを探索し、ピアノ弾きの少女に案内を請い、迷子を送り届けたりサンドバッグに金棒をフルスイングしたりなんでかサメに取り囲まれたり、なんやかんや大冒険の果てにフリージアが遂に辿り着いたのは――。
「わ、私、超魔王城ゾディアパレス直属コンティニュー保険外交員の、梶谷・祟良といいますです」
 これまた全く聞き慣れない肩書を名乗る女性の待つ一角だった。
「あ、あら……? あなたは一体……確か、私はサメから逃れた後、無人のジャングルに迷い込んで……」
 そしてそこで随分長い間さまよっていた気がする。そのうちふと気が遠くなって、気が付くとここにいた訳だが……。
「そそ、それは……大変、でしたよねぇ」
「ええ、まあ、かなりの大冒険だったと言いますか……」
「道中いろいろあるのが、その、まおーさん攻略の常……といいますか……つ、つまり有り体に言いまして、今のあなたの状況はですね……」
 残念! フリージアの冒険はここで終わってしまった! ……というやつらしい。それを聞かされたフリージアの肩がちょっぴり落ちる。それを目にした祟良が、あわあわと両手を振り回した。そしてその手が流れるように1枚のフリップを取り出して。
「コンティニュー保険、リトライプラン……?」
 聞けばこの脱出ゲーム、なかなか一筋縄ではいかないものらしい。そのために設けられた再挑戦ポイントがここ、とのことだ。ひとり納得して頷き、フリージアは差し出されたペンを手に取った。
「この契約書にサインをすれば、再挑戦ができるのですね。……ええ、私の誇りにかけても、必ず超魔王様のもとへ辿り着くまでやり抜いてみせましょう。何故なら、私には超パビリオン部門入賞をお伝えするという使命があるのですから……!」
 意気込み、再びエクストリームリゾートの舞台へと踏み出していくフリージア。その後、フリージアが無事ゾディアに入賞の報を届けられたのがいつになったのかは――ちょっとの秘密だ。

●審査員特別賞:飛行船「エフィジェ」(飛行船「エフィジェ」
「これは……絶景ですね……」
 飛行船『エフィジェ』。ウィッチドクターのアイラノレ・ビスッチカ(飛行船乗りの蒸気医師・e00770)が有するその船の展望室に通されたフリージアは、ぐるりと身体ごと1回転して息をついた。
 ほとんど全面窓と言っていいほどの空間からは、外の景色――即ち広い空と遠い街並みがどこまでもよく見える。
 船員の説明を聞き、展望室内ではレジンで飛行船を作ることができると知って、フリージアの目が輝いた。是非やってみたいですと頷いて、彼女は窓際のテーブルに置かれた素材たちに早速手を伸ばす。
「丸い瓶……シャープな瓶……飛行船とひと口に言っても、様々なものがあるのですね。あら、これはこの船を象ったもの……?」
 折角だからとエフィジェそのものを象るガラス瓶を手に取り、次にあしらうモチーフ選びの段へと移って、またフリージアは楽しげに首を傾げた。
「素敵なモチーフばかり……ですが、やはりしっくりくるのはこれでしょうか?」
 氷を思わせる水晶のかけらをいくつかあしらい、アクセントに小さな白い花を散らしたら、いよいよ最後は空の色を決めて完成だ。深い青に目の覚めるような白金、焼き付くような紅色に金と朱の混じり合う色。嵐の灰色もあれば夜の紺色もあり、どれもこれもフリージアの目には新鮮で美しい。
 散々迷って決めた朝焼け色でガラスの飛行船を彩り終え、自分の作品を目の高さに掲げるフリージアに、船長のアイラノレが親しげに言葉をかけた。
「あら、素敵に仕上がりましたね。よければ甲板に出て、飛行船を飛ばしてみませんか?」
「飛ばす? このガラスの船が、空を飛ぶのですか?」
「ええ、仕組みは企業秘密ですけど。空飛ぶ船の勇姿、是非実際に目にしてみてくださいな」
 導かれるままに扉を潜れば、迎えてくれたドラゴニアンの少年が好きな場所で飛行船を掲げるようにと教えてくれた。どうやらこの甲板にしつらえられた蒸気機関が、手作りの飛行船に飛ぶ力を与えてくれるらしい。
「ああ、安心しなよ。飛ばしたあとは、親のあんたのところにちゃんと戻ってくるからさ!」
 ふわりと一際大きな風が吹く。それに誘われるようにしてフリージアの掌から飛び立った船は、一瞬空中でぐらついたが、やがて滑るように空を飛び始める。
 他のケルベロスたちもまた、それぞれの船を思い思いに飛ばしているため、空中はちょっとした飛行船のパーティのようだ。どこまでも自由に、楽しげに宙を舞う何隻もの飛行船をしばし言葉もなく眺めた後、フリージアは小さく呟いた。
「……美しい、ですね」
「船がですか? それとも空が?」
 どこかうずうずとした調子で問うてくるアイラノレに、フリージアは微笑んだまま答える。
「どちらも」
 そうですか、とやはり笑う船長の横顔は、どことなく誇らしげだ。そんな彼女に1歩歩み寄り、フリージアは審査員特別賞の受賞をしかと伝えるのだった。

●第1位:サメ VS ゾンビ ~MMCITYから脱出せよ~(MMCITY
 そしてフリージアが次に向かったのは、今年もまた超パビリオン部門で1位に輝いた旅団企画――MMCITYの脱出ゲームだった。
 複数の旅団を跨ぎ、入念に準備された数々の謎が障壁として立ちふさがる今回の舞台は、「サメVSゾンビ」。
「……サメVSゾンビ?」
 地球の文化は、ときどきまだ理解しがたい。そんな感想を抱いたかどうかはともかくとして、フリージアもまた、ゲーム会場の門を潜っていく。
「順番に並んでくださいっすー! そこー、列をはみ出さないでー!」
 スズミ・リトルフィールド(チェリフルチェリフル・e46054)の誘導に従い、列に並んでいると、不意にフリージアのすぐ前に並んでいた参加者が呻き声を上げてうずくまった。
「……? 大丈夫っすかー?」
 咄嗟にその人物に手を伸ばしかけたフリージアより早く、スズミが客の肩に手をかける。ここでは自分はいち参加者だ、傷病者の対応もスタッフに任せて、もし手伝えることがあればその時手伝おう……フリージアがそう判断しかけた、その時。
「――――――グルグァァァァァァァ」
 その客の上げた怪物じみた唸り声が、全ての始まりを無慈悲に告げた。
『……現在MMCITYで謎の大規模感染症が局地的大流行を起こし……えー、いわゆる人ゾンビ化ウィルス……通称Mウィルスの蔓延が確認されたぞ、です』
 シティ内のあちこちに設置されたディスプレイの中で、一恋・二葉(暴君カリギュラ・e00018)がニュースを告げる。感染拡大を防ぐため、現時点でシティ内にいる者は外に出ることはできなくなる、とも。この街から無事に出たければ、すべきことはただひとつ……Mウィルスの治療薬を手に入れ、無事な肉体を取り戻すことだ。
「くっ、遅かったか……あなたはもう、Mウィルスに感染してる……!」
 フリージアの手に押された【ゾンビ】のスタンプを見て、白衣を着たライオネル・アークハート(レッドクロス・e39432)が呻く。だが、希望が失われたわけではない。
「赤い薬を手に入れ、あなたの元へ戻れば、この事態を打開できるかも知れないのですね。分かりました」
 頷き、手掛かりとして示された紙を1枚手に取るフリージア。そこに記された文字としばし睨み合い、導き出した行き先で出会ったすごく頑張る中華風ゾンビからお札を剥がしたり、カジノで切ない別れを経験したり、なぜか生簀で溺れているサメを見つけたり、……サメ?
「……地球のアトラクションとして、サメはポピュラーなのでしょうか?」
 つい先刻もサメを見た覚えがあるな……となんとなく思い出しつつ、次の部屋でまた別の謎を手に取るフリージア。そこで、しばし彼女は沈黙した。
「……どうしましょう。全く推測もつきません」
 矯めつ眇めつ問題用紙を眺めてみても、ひとりではどうやら埒が明きそうにない。これはヒントを貰うしかないと判断して踵を返したフリージアの視界に飛び込んできたのは、新たな死体だった。
「えっ、つららちゃん死んでるんですか!? ……な、なんかそういうことみたいなので、しーん……」
「は、はあ……そういうお役目なのですね、お疲れ様です」
 労いに死体のポーズのままこっくりと頷いて、細咲・つらら(煌剣の氷柱・e24964)はこしょこしょとフリージアにヒントを耳打ちする。ちょっぴり詳し目に教えてもらったその情報と問題用紙を改めて照らし合わせながら、フリージアは真剣に呟いた。
「なるほど……そういう意味があったのですね。では、この知識をもってすれば……」

 ――それからさらに数十分後。
「……まだまだ、精進が足りませんね。より知識を深め、研鑽を積んで、次こそ生還してみせます!」
 受付でぐっと拳を固め、そんな決意を誰にともなく表明するフリージア。
「再挑戦っすか? どうぞどうぞっすよー」
 ひらひらと手を振るスズミに、フリージアはやはり真剣な表情のまま言葉を返した。
「いえ、その前に私にはもうひとつ使命ががあります。先にそちらを成させて下さいね」
「おおー? 何すかね?」
「団長さんと、皆様にどうぞお伝えください。今年のケルベロス超会議、超パビリオン部門第1位は、この『サメ VS ゾンビ ~MMCITYから脱出せよ~』に決定しました、と」
 まっすぐな視線と共に告げられた言葉を反芻するように瞬いて、ややあってスズミは慌てたようにスタッフ用の無線に連絡を飛ばす。
 程なくしてディスプレイに映った二葉が、超パビリオン部門1位という明るいニュースをシティ中に伝えるのだった。

●初めましてのその先に
 超パビリオン部門の審査員と結果発表という使命を終え、フリージアはドリンク片手に額を拭う。
「緊張もしましたが、それ以上に得難い経験ができました。地球の文化とは、こうも色鮮やかなものなのですね……」
 独りごちて見回せば、まだまだあちこちで客引きの声や誰かの歓声、それに楽しげな話し声が聞こえてくる。
 まだまだ見た事のない素敵なものが、この会場にはきっと満ち溢れているのだろう。そう思えば、自然と胸が高鳴る。
 ドリンクを飲み干し、小さく頷いて、フリージアは再び歩き出す。
 次はどこへ行こう、何をしよう、誰と話そう。ささやかでとめどない、そんな期待を胸にしながら。