<菩薩累乗会 ファーストアタック>
●『魂の応援フェス in島根』(黒猫師団・銀狐師団)
島根県松江市では、黒猫師団による『応援フェス』が開催されていた。
銀狐師団の協力も得て行われているフェスは松江市内の各所に設けられた会場で行われ、人々が各地から集まっている。
「直接来る人は、都市圏で開催する時ほど多くはないか」
「その分、銀狐師団の皆さんが準備してくれたサテライト会場や、インターネットでの応援募集は盛況みたいですね」
入場者数の推移をまとめたデータを見て言うディークス・カフェイン (月影宿す白狼・e01544)に、斎藤・斎 (修羅・e04127)が答える。
「島根だしな……まあ出現したのが住民が避難済みの地域で良かったと思うべきか」
ディークスから見ても、日本の都市圏と比べ交通の便があまりよろしくない地域だ。
会場内のステージでは、これまでの菩薩累乗会を巡る戦いの経緯や、失伝ジョブやオウガといった、ケルベロス達がスパイラル・ウォーの後に加えた新たな仲間の紹介が改めて行われている。
こうした内容は、全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)に向けてビルシャナの危険性ともども、全世界で連日のように報道されていた。
今もステージの様子は銀狐師団のケルベロス達を中心に、各国語に翻訳して即座に中継されている。
『ビルシャナは、この世は『衆合無(カタルシス)』に至るまでの暇」として今生を定命の者を蔑ろにしております。これは仏教における輪廻転生思想の功徳を積む考えと真っ向から対立しており……』
別のチャンネル内では、銀狐師団のセラフィ・コール (姦淫の徒・e29378)の申し出を受けて、テレビ局が渡りをつけてくれた仏教関係者がそんな説明を行っていた。
「けど、なんでビルシャナと仏教との用語って似てるんだろうな?」
各所との連絡を行っていた霧島・カイト (凍護機人と甘味な仔竜・e01725)はスマートフォンを置いて一息つきながら、ふとそんなことを考える。
ビルシャナはその名前から始まり、仏教に関連した用語を多く用いている。
何せビルシャナが毘盧遮那仏と同名で、本星のガンダーラの名も中東に存在した仏教国と同名であるほどだ。他にも明王に菩薩と枚挙に暇がない。
「でも、仏教成立ってビルシャナの地球初襲来より何千年も昔ですからねぇ」
イッパイアッテナ・ルドルフ (ドワーフの鎧装騎兵・e10770)は首を傾げる。
「宇宙の中心である地球がビルシャナに影響したのか、逆か……」
「何にせよ仏教関係者にとっては迷惑な話ですね」
と若生・めぐみ (めぐみんカワイイ・e04506)はしみじみと言った。
黒猫師団は重ねて、【No_Pandemic!】を合言葉として、ビルシャナの危険性を訴えている。
ビルシャナという存在がデウスエクスという侵略者であると同時に、日本の民間人からしてみても一種の病気のようにすら扱われているのは確かだった。
それは、ビルシャナが地球に出現する際、一般人の肉体を変化させて出現するケースが極めて多いからだ。
「もう、復讐心だとか強い主義主張を捨てるとかでどうにかなるものではなくなっていますね」
ヨハン・バルトルト (ドラゴニアンの降魔医士・e30897)は近年の事件を振り返る。復讐心を持っている者がビルシャナ化したり、強い主義主張を持つ者がビルシャナ化して他の一般人に信仰を振り撒いたりといった事件は長く起きている。
それに加えて、ビルシャナ菩薩が地球に降臨して以降、日常生活の中で抱くちょっとした考えからでさえ人間はビルシャナ化されていた。
「大願菩薩の撃破で事件は終息したが……」
「菩薩の影響力からすれば、将来的に同様の事件が起きないとは思えませんね」
一旦菩薩による影響力を断ち切ったとはいえ、ケルベロス達も、そこまで甘い見通しを持てなかった。
意志ある人間として生存している限り、ビルシャナにされてしまうのが誰にでも起こり得る事態であるのは、数々の事件から明らかだった。
「今の被害は日本だけですが、累乗曼荼羅によって菩薩級ビルシャナが多数降臨すれば、日本国外も無事では済まないでしょうからね……」
綾小路・鼓太郎 (見習い神官・e03749)はそう思う。
ビルシャナ達は生命身体は勿論のこと、精神と信仰をも踏みにじる。
たとえ強固な信仰心を持っていても、一般人がビルシャナの布教に晒された時、抵抗を続けるのは困難だ。
信仰心はビルシャナの教義に塗り潰され、歪んだ信仰を抱くようにされてしまう。
その事実に対する嫌悪感は、日本よりも海外の方が激しい程であった。
「菩薩累乗会の危険性、もっと海外に強く伝えられれば良かったんですが」
とにかく多数の事件を起こしているビルシャナだが、その脅威性が海外の人々にまで正確に伝わっているとは言い難かった。
黒猫師団は講習会も企画していたが、期間1週間という時間的な制約から世界中を巡るわけにもいかず、海外向けには各国語に翻訳したものを送るのが精一杯だった。それらが適切に運用されていることを願うしかない。
『ケルベロスの皆さん、お願いします。どうか、ビルシャナに変えられ、二度と戻れなくなってしまった息子の無念を、晴らして下さい……!』
そう叫ぶのは、『魂の応援フェス』に駆け付けてくれた中年の女性の一人だ。
応援の言葉を寄せる人々の中には、親しい人々をビルシャナにされてしまった人も少なからずいる。彼らのためにも、菩薩達による被害を終わらせねばならないと、ケルベロス達は改めて感じていた。
●累乗曼荼羅の下で(白馬師団)
隠岐島は、島根県北部の日本海上に存在する群島だ。
ケルベロス達が累乗会反攻作戦に成功を収めた直後、この群島の上空を覆うようにして、巨大な黄金の光が出現していた。
それこそビルシャナが出現させた無限増殖要塞『累乗曼荼羅』出現の前兆だった。
ビルシャナ勢力は、累乗曼荼羅を用いて菩薩累乗会を加速し、さらに大量の菩薩を一斉に降臨させようとしている。
「それにしても、改めて見ると本当に大きいのだよ」
島後に設けられた大型拠点の一つから、白馬師団のノーフィア・アステローペ (黒曜牙竜・e00720)は空を覆う光を見上げた。
隠岐島の島々の上空を覆う光は、昼夜を問わず周辺を照らしていた。
光は群島の最高峰である大満寺山(標高608m)をさらに越えた高さに浮かんでおり、翼飛行などでは直接届きそうもない。
「最長部で30km越えの見込みとは、また奮った数字なのだよ」
「面積でも東京23区ぐらいありますよね……戦場1つも数kmになる計算です。あ、使用予定の船舶が全部到着したと連絡がありましたよ」
「分かったのだよ」
セレネー・ルナエクリプス (機械仕掛けのオオガラス・e41784)がいうのにノーフィアは答えると、共に物資の確認に向かう。
隠岐島の港には、ケルベロスが戦争時に使う物資を乗せた船舶群が次々と到着していた。
累乗曼荼羅のビルシャナ達は累乗会の加速に専念しているのか、曼荼羅内からの妨害は今のところない。
「船舶を海上拠点にする準備も並行して進めておく」
ゼルガディス・グレイヴォード (白馬師団平団員・e02880)が、大型拠点と繋がった通信機器に向けて言った。
入港した船舶群の中には海上自衛隊のものも混じっている。それらはこのまま現地に残り、開戦の後はそのまま海上の『蜘蛛の糸』直下に移動し、ヘリオンの発着場やケルベロスの救護施設としても機能する予定だ。
と、通信機材から不意に暗い曲が流れだした。
搬入された資材の確認を行っていた東雲・苺 (ドワーフの自宅警備員・e03771)が、即座に飛び付き電源を落とす。
「私達には効果はないとはいえ、気が滅入るね。ビルシャナ『ディマンシェ』の自殺誘導ソング……」
現在の隠岐島にいるのは、今回の作戦に関わる者だけだ。
隠岐島奥地にビルシャナ『ディマンシェ』の洞窟寺院と強襲型魔空回廊が存在している事が判明し、およそ2万人の島民が避難生活に入って数か月が経過している。
特段、ディマンシェと累乗曼荼羅のビルシャナ達が強固に連携している様子も無いが、累乗曼荼羅が隠岐島上空に現れたことは、ビルシャナの制圧地域の存在と当然関係しているだろう。
ディマンシェ達は洞窟寺院から電波に乗せ、一般人に発作的な自殺を促す歌を流し続けていた。日本側も電波ジャック対策に苦心しているが、今のところ実を結んでいない。
「手旗信号を用いようというのはダモクレスによる通信妨害対策のつもりでしたが、こちらの対策にもなったのは幸いでしたね……」
パウル・グリューネヴァルト (森に焦がれる・e10017)の提案は、船舶の通信が使いづらい問題への一定の対策にもなっていた。とはいえ、通常より作業効率が落ちているのは否めなかった。
グラディウスを先日の反攻作戦で使い切り、再チャージ中となっている今、強襲型魔空回廊を破壊することはできない。
「一時的に妨害を防ぐだけなら、何か他の手もあったかな?」
「何にせよ、なるべく早く隠岐島も解放しないといけませんね」
ケルベロス達による解放を待つミッション地域はまだ多数存在している。
隠岐島へのフェリーが発着している境港市の港湾部も、屍隷兵(レブナント)に占拠されたままだ。
ケルベロス達の力は、人々の生活を取り戻すためにも必要とされていた。
●衆合無ビルシャナ (蒼鴉師団)
そして決戦当日の朝。光は巨大な累乗曼荼羅と化して隠岐島上空に展開した。
多数のヘリオンが、その曼荼羅へと向かっていく。
そのうちのひとつ、蒼鴉師団が乗ったヘリオンのハッチが開いた。
玉榮・陣内(双頭の豹・e05753)は、前方でヘリオンの起こす風を受け、激しく揺れる『蜘蛛の糸』を見る。
後ろから黒白・黒白 (超合金くしろんデラックス・e05357)が顔を出す。
「地球の蜘蛛の糸よりは太いねー」
「まあ、そうでもないと困るね」
蜘蛛の糸という名から受ける印象と比べると、ロープのように太く、掴みやすくなっている。その先は曼荼羅下部に開いた穴に繋がっているようだ。
粘着力はあるようなので、普通の航空機が触れると危険かもしれない。
眼下を見れば、日本海が広がる。落ちれば海まで一直線だ。
「まあ、この程度なら皆大丈夫だろう」
「飛び降り慣れてるからね」
ケルベロスは高所恐怖症だと難儀する職業である。
ヘリオンでピストン輸送されたケルベロス達は、陣内に続いて蜘蛛の糸へ軽々と飛び移り、累乗曼荼羅内へ侵入していく。
累乗曼荼羅の内部は、金色の光で満ち溢れていた。
目が慣れて来ると、そこが金色の雲の上にあることが分かって来る。
次第に目が慣れて来た小車・ひさぎ (二十歳高校三年生・e05366)は辺りを見回し、その光景に一瞬眩暈を覚えた。
「うわ、何これ……」
幾つもの精舎が立ち並び、その隙間を埋めるように巨大なビルシャナの立像や座像が立ち並ぶ累乗曼荼羅。
その光景はケルベロス達に、この場所が地球の通常空間と異なる異質さを持っていることを如実に示していた。
「「衆合合切衆合無、衆合合切衆合無、導く菩薩は如来に至る……」」
そして、ビルシャナ達の詠唱の声が累乗曼荼羅の異空間に響き渡る。
その響きをかき消すように、志藤・巌(壊し屋・e10136)は魁の口上をあげた。
「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ。『蒼鴉』が一翼、志藤・巌は此処に在り!」
突入していく巌に続き、蒼鴉師団のケルベロス達は一斉に突撃を開始した。
敵を殲滅せんと言わんばかりに、その勢いは苛烈だ。
「敵ダモクレス出現……!」
フローネ・グラネット (紫水晶の盾・e09983)は皆に警戒を促すと共に、アメジスト・シールドで、輝きの軍勢のダモクレス『輝きの盾』が振り下ろして来る大鉈を受け止める。
「この程度なら、大したことはありませんね」
戦場1つにいる衆合無ビルシャナの数は少数。全世界決戦体制(ケルベロス・ウォー)状態となったケルベロス達にとって恐れるほどの力もない。
数kmはある区画内に分散していた衆合無ビルシャナは奇襲攻撃に対応できず、ケルベロス達はそれらを当たるを幸い薙ぎ倒していった。
●芸夢主菩薩(黄鮫師団)
黄鮫師団は蒼鴉師団の奇襲を受けて混乱する衆合無ビルシャナ達を悠々と突破した。
迷宮じみた累乗曼荼羅を駆け抜け、芸夢主(げーむますたー)菩薩の支配する戦場へと足を踏み入れた瞬間、先頭を往く斥候部隊のケルベロス達は、如実に周囲の雰囲気が変わるのを感じ取る。
芸夢主菩薩が持つという『周囲をゲーム化する』力。
根拠地ともいえる累乗曼荼羅内にあって、侵入者を迎撃するため、その力は惜しみなく発揮されていた。
「ジャンルは何だろ。FPS? アクション?」
「いえ、これはパズルです!」
スノーエル・トリフォリウム (四つの白翼・e02161)が首を傾げた直後、進もうとした者達を制止してロジオン・ジュラフスキー (筆持つ獅子・e03898)は後退。
その直後、同色の床タイルが点滅したかと思うと、連鎖するように消えていく。その下が空洞になっているのを見て、落ちるところだったとロジオンは冷や汗をかく。
「マッチ3パズル……?」
被害状況を確認する暇もなく、残るケルベロス達にもアナウンスが響く。
『天輪浄王が現れた! ケルベロス絶対殺す明王があらわれた!』
「今度はJRPGですか……?」
分断された状況下で、次々とゲームめかして襲い掛かって来るビルシャナ達。
それを援護するように、戦場は刻刻と状況を変えていく。
「足場注意! これはアクションゲームか……!!」
床に線が走るのを見てノル・キサラギ (銀架・e01639)が警告を飛ばすや否や、足場が割れて突然上下動を始めた。
事前にどのような変化が起きるか検討していたこともあり、何とか対応したケルベロス達は、戦場にひしめくビルシャナ達を撃破していく。
ルクシアス・メールフェイツ (この世の全てに癒やしを・e49831)は、現れるビルシャナ達と交戦する仲間達の傷を癒しながら、戦場の変化を見つめた。
「変化がそこまで絶対的なものでないのは、ゲームである縛り故なのでしょうね」
ゲーム化現象による戦場の変化は、ケルベロス達を惑わしはするものの、直接抹殺するようなものではない。
ガンシューティングにはガンスリンガーが、格闘ゲームには降魔拳士や光輪拳士が、音楽ゲームにはミュージックファイターやパラディオンが。それぞれ戦場の変化に対応して味方への妨害を防ぎ、攻撃を続けていく。
「現状でこれか。累乗会を止めた後に菩薩級が残れば、あまり良いことになるとは思えないな」
可能ならば追討したいところだが、マンダラマンダラの制圧後に累乗曼荼羅が、そしてビルシャナ達がどうなるのかは分かっていない。
天輪浄王の投げつけて来る光輪を横っ飛びに避け、寺院の影に転がり込んだアルトゥーロ・リゲルトーラス (蠍・e00937)は、敵の攻撃の合間を縫って飛び出した。
「《蠍》には毒がつきものさ!」
叫びと共に銃口から吐き出された弾丸は一瞬で戦場を駆け抜ける。
貫かれたケルベロス絶対殺す明王は、あたかもTVゲームの一部でもあるかのようにポリゴン片を撒き散らして消滅していった。
●恵縁耶悌菩薩(灰色狼師団)
この世は衆合無(カタルシス)までの暇(いとま)である。
そう唱える衆合無ビルシャナ達の真意は、いまだ明らかになったとは言い難い。
だが、それを理解しようとすることもまた、ビルシャナの教えに足を踏み入れることであるのだろう。
全ては衆合無(カタルシス)に至るまでの一瞬の暇。
ならば、その暇をもふもふ羽毛で満たすこともまた、ビルシャナの真理である。
不毛な行いというなかれ、汝もまたもふもふ羽毛の一部となり、衆合無までをもふもふと過ごしてもええんやで。
「いや、その理屈はおかしいですよ!?」
何やら聞こえて来た幻聴を振り払ったエリオット・アガートラム (若枝の騎士・e22850)は、眼前に広がる光景に思わず唖然とした。
「こ、これは……!?」
ビルシャナ菩薩の1体、恵縁耶悌菩薩が支配する戦場。
そこに広がっていたのは、もふもふ羽毛に飾られた寺院の数々であった。
ところどころにもふもふとそびえ立つ、デラックスひよこ明王を模した像の周囲には、もふもふを求めるもふもふしたビルシャナ達が集まり、像でもふもふしたりビルシャナ同士でもふもふともふりあったりしている。
「ええんやで……」
「もふもふしてもええんやで……」
そう呼び掛けて来るビルシャナ達に、灰色狼師団のケルベロス達からも何名かがふらふらと足を踏み出しかけるが、傍にいたケルベロス達が彼らを制止し、正気に戻させる。
「ケルベロスにも影響を与えるほどか」
「単にもふもふが好きなだけじゃ……。いや、恐るべきは菩薩の布教力か」
プラン・クラリス (愛玩の紫水晶・e28432)とフリードリッヒ・ミュンヒハウゼン (ほら吹き男爵・e15511)にも戦慄が走る。
「もふもふしなくてもええんやで」
「けど、もふもふしてもええんやで」
「戦闘してもええんやで」
全てを『ええんやで』と許容することを教義とする恵縁耶悌菩薩の配下達は、まるで波のようにもふもふとケルベロス達へと迫って来る。
奇襲を仕掛けた甲斐あって、その数はまだ多くはないが、ケルベロス達がいる場所から離れた場所で、山のようなもふもふが動き出しているのをアルフレッド・バークリー (エターナルウィッシュ・e00148)は見て取っていた。
「あれがこちらに到達するまでが勝負ですね」
「ええ、急ぎましょう!」
霧城・ちさ (夢見るお嬢様・e18388)は、フェアリーブーツを履いた脚でもふもふとした床を蹴り、羽毛の波に立ち向かうべく駆け出した。
ケルベロス達の攻撃が、羽毛の波を断ち割り始める。
●自愛菩薩(紫揚羽師団)
「しかし下から見ていても思ったが、広いな!!」
「撤退タイミングには気をつけないといけませんね」
尾方・広喜 (量産型イロハ式ヲ型・e36130)と鞘柄・奏過 (曜変天目の光翼・e29532)が、戦場を駆け抜けていく。
累乗曼荼羅内部は、数々の巨大建造物内での戦いを経験したケルベロス達の目から見ても相当に広い。
螺旋大伽藍ほど複雑さではないのは救いだった。
曼荼羅内の各所に小規模拠点を設けた白馬師団は、制圧地域での怪我人搬送用に車両まで持ち込んでいたが、輸送の苦労を考えても価値はあっただろう。
戦闘と戦闘の間を高速の疾走で繋ぎながら、紫揚羽師団のケルベロス達は自愛菩薩の元を目指して走る。
「小さい胸の女性を否定する自分を愛するのってすごくEEEEE!!」
建物の上から奇怪な雄たけびを上げながら飛び降りて来た『ちっぱい絶対殺す明王』を、粟飯原・明莉(闇夜に躍る枷・e16419)が振り上げた黒鎖が迎撃し、寺院の壁に叩き付ける。
「バストE未満の女性絶対殺すゥゥゥ! そんな自分が素敵!!」
「このセクハラビルシャナめ……」
明莉は胡乱なものを見るような目で明王を見下ろすと、さらに攻撃を加えていく。
「蹴られてる自分も、EEEE……」
追い打ちを受けたビルシャナは断末魔の言葉を残して消えていく。
「秩父に現れていたビルシャナね。逃げた後はここに来てたのね……以前より強いみたいだけど」
パトリシア・シランス (紅蓮地獄・e10443)のいう通り、自愛菩薩の教義の影響を受けてか、この戦場に出現する『ちっぱい絶対殺す明王』は、秩父に出現していた時よりもパワーアップしているようだった。
その教義が自己陶酔的なものに変わりつつあるのは、自愛菩薩の影響によるものであろう。
さきほどビルシャナがぶつかり壊れた壁の向こう、寺院の内側を見れば、あちこちに自撮り棒が置いてあったり、鏡張りのステージらしきものまであったりする。
「これも、自愛菩薩による変化なのか?」
「自分を愛すること、それが救いへの道……!!」
どこか虚ろな様子で、不意に現れた幻花衆が苦無を振るって来るのを、タクティ・ハーロット (重力喰尽晶龍・e06699)のミミックが受け止める。
事前に予想していた通り、天輪浄王や幻花衆も現れ、ケルベロス達と交戦を開始していた。
「我らの前に道は無く。我らの後に道は有る……それじゃあ行こうかミミック。この道の続きに……!」
タクティとミミックの間に、透き通ったドラゴンの頭部が具現化した。
ドラゴンは牙を剥き出しにすると、前方にいるビルシャナへと食らいついていく。
●ヴィゾフニル明王(金糸雀師団)
金糸雀師団のケルベロス達は衆合無ビルシャナの群れを突破すると、ヴィゾフニル明王が支配する戦場へと突入していく。
「周囲の様子が、変わったな」
「ヴィゾフニル明王の影響下に入ったようね」
走る君乃・眸 (ブリキノ心臓・e22801)に、コマキ・シュヴァルツデーン (翠嵐の旋律・e09233)が応じる。
ヴィゾフニル明王が支配する戦場は、『悪』を称える彫刻や、ヴィゾフニル明王の像が立ち並んでいた。
人々を苦しめ尽くした悪人がビルシャナとなり、やがて悟りを得る。
ヴィゾフニル明王が掲げる、そうした教義が見て取れた。
「狂った教義、狂った戦場か」
呟くウルトレス・クレイドルキーパー (虚無の慟哭・e29591)が吐き捨てるように言う。
もっとも彼が他の師団が赴いている菩薩の戦場の様子を見たら、この戦場が多少はマシであることを知ることができただろう。
菩薩と明王の間には、影響力の面でかなり差がある。
『悪人こそが救われる』を教義とするヴィゾフニル明王は、マンダラマンダラへの道を塞ぐ4体のビルシャナ中、唯一の明王である。
他の菩薩達の信任を受けて責任重大な任務を任されたともいえるが、実際のところ闘争封殺絶対平和菩薩の撃破に伴う穴埋めに過ぎない。
「敵発見! 皆、余に続け!」
エクレール・トーテンタンツ (煌剣の雷電皇帝アステリオス・e24538)が前方に現れた天輪浄王の姿を見て突撃を敢行。
その勢いを削がんとするかのように横合いから飛来した苦無を、風峰・恵 (地球人の刀剣士・e00989)が弾き飛ばす。
「幻花衆……こちらにもいましたか」
「悪人こそが救われる……素晴らしい教義ではないか。地球にとっての悪を為し、憎悪を得ること。それは命を長らえるための行いなのだから」
「そうやって節操なくビルシャナの教義受け容れてていいの?」
大弓・言葉 (花冠に棘・e00431)がからかうように言う。
自分のためだけならば、あえてケルベロスとして戦う道を選ばずとも生きていける。
仲間のため、そして地球の人々のため、あるいは今は亡き人達のために戦うケルベロス達にとって、自愛菩薩の言葉は大して響くものではない。
常に己と、己の属する忍軍の術を信じて来た幻花衆達は無言で苦無を構えた。
●輝ける誓約の果て(緋色蜂師団)
蒼鴉師団以外では唯一、蜘蛛の糸に隣接する地点への攻撃を行うことを決めていた緋色蜂師団。
攻撃対象となるのは、ダモクレス『輝ける誓約の果て』の軍勢だ。
ダモクレス『ディザスター軍団』は累乗曼荼羅を我が物にせんとしているが、ケルベロス達は今回の戦争中には戦わないことにした。
そのため、累乗曼荼羅掌握に関わると思われる『輝きの仔』は、なんとしても撃破せねばならない。
侵入地点となる蜘蛛の糸の上部までヘリオンが飛び、まずは先行して乗り込んだ怪力無双を使える者や、怪力王者を種族特徴とするオウガが曼荼羅内に乗り込んでいく。蜘蛛の糸だけでなく、彼らが垂らした鎖なども伝い、師団員たちは迅速に曼荼羅内部に潜入を果たした。
そして緋色蜂師団のケルベロス達は、ただちにダモクレスとの交戦を開始する。
「……まずはあなた達だ、木偶どもめ。データとかそういうのが役に立たない事もあるって、教えてやるよッッ!!」
火倶利・ひなみく (スウィート・e10573)の時空凍結弾がダモクレス『輝きの刃』に命中。さらなる攻撃が突き刺さり、ダモクレスを四散させる。
過去の輝きの軍勢との交戦データを大量に集め、緋色蜂師団は対策を講じていたが、彼らが集めたデータは、戦闘の中でさらに更新されることとなった。
「未確認の機種、多数!」
新手のダモクレスにとどめを刺した長谷川・わかな (笑顔花まる・e31807)が声を上げる。
「こいつら、一体何種類いるんだ!?」
「おそらく26種!」
「……有効なグラビティや防具も絞りにくいな」
ユーチ・エセーニン (イコチャシ・e28444)とククロイ・ファー (ドクターデストロイ・e06955)が言葉を交わす。
「今回は『輝きの卵』はいないようだ」
「一種減ったな。それでも多いが」
グラディウスの使用を封じる作戦に用いられたダモクレス『輝きの卵』は、あれで全部だったのか、あるいは今回の戦場には不向きと見なされたのか、目撃されていない。
戦闘の間、天使のような姿を持つ輝きの軍勢の背に生えた翼に、地球のものとは異なる文字列が高速で流れていくのを兎塚・月子 (蜘蛛火・e19505)は見た。
「あれが……データを収集しているのか?」
「完全には防ぎようがないな。情報収集量を減らしたいなら、頭を潰すしかねぇな!」
レヴォルト・ベルウェザー (叛逆先導アジテーター・e00754)が、ダブルネックギターをかき鳴らす。
ダモクレス達の破砕される音は、累乗曼荼羅にひしめくビルシャナ達の詠唱をかき消すかの如く響き渡った。
師団 | ファースト アタック | 結果 |
黒猫師団 |
応援募集 |
各ターンの重傷からの復活率が「23%」に上昇!(2師団合計)
『魂の応援フェス』を開催すると共に、ビルシャナの脅威性に関して、改めて周知を図りました。
|
銀狐師団 |
応援募集 |
各ターンの重傷からの復活率が「23%」に上昇!(2師団合計)
国内主要都市でのサテライト会場の設営をはじめ、各方面に応援募集を広げました。
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灰色狼師団 |
(12)奇襲 |
奇襲により「(12)恵縁耶悌菩薩」の戦力が150減少!
奇襲を行いました。『菩薩』の戦場の敵の強さは、他の戦場の敵の強さを大きく上回っています。
この戦場に限らず、ビルシャナは理力グラビティを主に使う者が多いようです。
|
白馬師団 |
救護準備 |
ケルベロス全体の重傷死亡率が10%低下!
多数の『蜘蛛の糸』から攻め込む、今回の戦争に対応した準備を整えました。隠岐島を占拠しているビルシャナに対応出来れば、さらに効果的だったでしょう。
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蒼鴉師団 |
(19)奇襲 |
奇襲により「(19)衆合無ビルシャナ」の戦力が400減少!
衆合無ビルシャナは現在のケルベロスにとって脅威ではありません。衆合無ビルシャナ、天輪浄王の戦場には、輝きの軍勢や幻花衆が加わっている場所もあるようです。
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金糸雀師団 |
(33)奇襲 |
奇襲により「(33)ヴィゾフニル明王」の戦力が200減少!
菩薩達に比べ、保有する戦力、その強さ共に劣るようです。
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紫揚羽師団 |
(48)奇襲 |
奇襲により「(48)自愛菩薩」の戦力が150減少!
対策はおおむね有効に働きました。
ミッション地域にいたビルシャナの中には、菩薩の影響でパワーアップして参戦している者もいるようです。
|
緋色蜂師団 |
(26)奇襲 |
奇襲により「(26)輝ける誓約の果て」の戦力が200減少!
過去の交戦情報から、各種『輝きの軍勢』のダモクレスの情報を収集したのは有効に働きました。
|
黄鮫師団 |
(24)奇襲 |
奇襲により「(24)芸夢主菩薩」の戦力が300減少!
芸夢主菩薩による戦場の『ゲーム化』が生じることを予見し、対策を講じておいたことで、有効なファーストアタックを仕掛けることができました。
|
・今回は「テンションアップ」を行った師団が無いため、戦場を制圧しない限り、その先は攻略できません。
・今回の戦争ではディザスター軍団とは戦いません。そのため、(27)マンダラマンダラを制圧したターンの終了時点で(35)輝きの仔を制圧していなかった場合、戦争中に『ディザスター軍団』が出現し、何らかの方法で、累乗曼荼羅の全権を掌握します(累乗会による無限増殖は停止しますが、戦争はダモクレスの勝利となります)。