カフェストリート 結果発表!

●癒しもカフェも存分に
「ふぅ……どの企画も、とっても素敵な所ばかりでしたね」
 超会議の喧騒を一度離れたラクシュミ・プラブータ(オウガの光輪拳士・en0283)は、この二日間をそんな風に振り返る。
 美味しいご飯やお菓子に舌鼓を打ち、色々なゲームで歴戦のケルベロス達と競い合い、ちょっと疲れたら休憩処で体力をチャージして、とにかく全力で楽しみ倒してきた超会議だ。きっと、他のケルベロス達もあれこれと楽しい体験をしてきたのだろうと考えて、ラクシュミは思わず笑みを零す。
「さて、それではそろそろ大仕事の時間ですね。えっと……」
 出揃った投票結果のうち、カフェストリート部門の上位に入賞した企画のメモを見返し、ぎゅっと拳を握るラクシュミ。その表情からは、気合と高揚感が溢れ出ていた。
「よし、こことこことここですね。では……いざ、行きましょう!」
 楽しげに一度拳を掲げ、小走りに駆け出した彼女の足取りは、軽い。

●第3位:Flower&Cafe:GoraQ(遊び場:GoraQ
「まずは……ここですね!」
 最初にラクシュミが扉を叩いたのは、【遊び場:GoraQ】のカフェスペース。ここでは色もサイズもさまざまな花を選んで器と組み合わせ、オリジナルの花束が作れるのだという。
 ちなみに初日にはラクシュミ自身も足を運び、バスケットに七色の花を詰め込んだカラフルなアレンジメントを完成させている。自室に飾ってきた瑞々しい花々の姿を思い返しながら、ラクシュミはちょうどつい先ほどできたばかりの花束やアレンジメントを見て回ってみる。
「わたしも同じものを選びましたけど、オーソドックスな取っ手付きのバスケットがやっぱり人気なんでしょうか?」
「どんな花と組み合わせても、無難に可愛くまとまるよね……うちのは、こんな風になったよ」
 そう言う園城寺・藍励(深淵の闇と約束の光の猫・e39538)の手に握られているのは、暖色系でまとめたあたたかい印象の花かごだ。力強い色合いがいいですねと微笑んで、ラクシュミは他にはどんな花束があるのかと視線を巡らせ……ふと、ある一点で目を止めた。
「……それは?」
「あたしは花束を作りに来たら、ブロッコリー収穫祭になっていたんだ……」
 遠い目をして答えるローゼリット・アルングリム(慈愛の揺り籠・e33496)。その両手には、ブロッコリーだけがどっさり入ったボウルがずっしりと収まっていた。これはこれでとれたて新鮮、緑も鮮やかでとても美味しそうだ。美味しそうなのだが、花束とは一体。
 ……ちなみに解説曰く、ブロッコリーの花言葉は『小さな幸せ』らしい。ローゼリットには、きっとこれから沢山の小さな幸せがやって来るのだろう。……たぶん。
 そんなこんなでブロッコリーに思いを馳せつつ、ラクシュミはアレンジメントコーナーに併設されたカフェスペースにも足を向けてみる。彼女の来訪に気付いた美少女が、すかさず気恥ずかしそうにエプロンをつまんで頭を下げた。
「い……いらっしゃいませ……っ!」
 訂正、美少女ではなかった。頭巾とエプロンの美少女店員ルックに身を包んだ、立花・恵(翠の流星・e01060……この旅団の団長だった。
「お邪魔します。昨日は素敵な花かごをありがとうございました!」
「良い花束が作れたなら何よりです。良かったら、こちらのカフェメニューもいかがですか……っ? お、おすすめはGoraQ特産、七色果実の入った紅茶です……」
 そう言う恵の顔は、林檎か何かと思うほどに赤い。どうやらこの美少女ルック、本人的には気恥ずかしくて仕方ないらしい。似合うのになぁ、と心中でこっそり思いつつ、ラクシュミはメニューに目を通して。
「では、紅茶を一杯とアップルパイをくださいな」
「は、はい! ではっ」
「あ、待ってください!」
 今にも厨房の奥へ逃げ込みそうな勢いの恵の腕をひっ捕まえて、ラクシュミは立ち上がる。
「FLOWER&CAFE:GoraQが、今年のカフェストリート部門第三位に入賞しました!」
「え……えぇっ!?」
 瞬き、一拍置いて恵が叫ぶ。何事かとわらわら集まってきた団員たちも、やがて三位入賞の報に湧き立った。
「やったねめぐみちゃん!」
「おめでとうめぐみちゃん!!」
「可愛いよめぐみちゃん!!」
「めぐみちゃん言うな!! と、とにかく入賞ありがとう!!」
 先ほどより更に赤くなりつつそう言う恵の、どこか嬉しそうな照れ顔に大きく頷いて、ラクシュミは漂ってくる紅茶の甘い香りを胸の底まで吸い込んだ。

●第2位:A.Aの贈る物語《シンフォリウム*シンフォニー》(遊び場:**L'aube Roses**
 花いっぱいのカフェを後にしたラクシュミは、七色の薔薇のアーチをくぐって次の企画を訪れる。そこは、さながら魔法の国のようなライブコンサート会場だった。A.Aことロゼ・アウランジェ(アンジェローゼの時謳い・e00275)の甘い歌声に合わせて、ろぜっとらんちゃーと呼ばれる小型ロケットランチャー型ケミカルライトからキラキラとした光が打ち上がり、会場を鮮やかな煌きで染め上げていく。
「何度使っても楽しいですね、これ……!」
 お昼過ぎに一度ここを訪れたときにも全力で振り回した(そして光を振り撒きまくった)ろぜっとらんちゃーをもう一度元気に振りつつ、ラクシュミはそんな感想をぽつりと零す。耳聡くそれを聞いていた柚野・霞(瑠璃燕・e21406)が、同じライトを振りながら、コールの合間にラクシュミに問いかけた。
「シンフォリウムはもう作りましたか? わたし、コールするのに夢中でさっきまで忘れてたんですよね」
「はっ……! 実は、わたしもまだなんです!」
 旋律標本(シンフォリウム)。それはこの企画で製作体験ができる、音楽を封じ込めた手のひらサイズのガラスドームだ。まるでインテリアやアクセサリーのような見た目だが、これできちんと音楽の再生もできるのだという。せっかくだから、と製作ブースに向かい、ラクシュミは薔薇の蕾を象るガラスドームを手に取った。そこへサンストーンの薔薇を組み合わせ、さて、閉じ込める『風景』は何にしよう?
「皆さんも、きっと色々な風景を閉じ込めてきたんでしょうね」
「物語があるって感じだよね。ね、鬼人」
「ああ、これがロゼの言う、『今』の物語ってやつなんだろうな」
 仲良く手を取り合ってライトを振っていたヴィヴィアン・ローゼット(白銀の霊刀・e02608)と水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)が、そう頷き合う。
「かけがえのない物語……ですか。それなら……」
 少し考え、ラクシュミは夜明け空を映したような、一輪の薔薇をドームの中へと閉じ込める。きっと、夜が明けて世界に光が満ちていくように、自分の世界もまだ見ぬ素敵なもので満ちていくと信じて。
「ライブの方は、どうでしょう?」
 客席に戻れば、折しも歌姫の音楽は最高潮。有志のケルベロス達が楽器を手に飛び入り参加していること、また、客席から湧き上がる大きなコールの声もあって、先ほど以上の盛り上がりがそこにはあった。
「皆さんでひとつの音楽を共有して、熱く楽しく盛り上がって……ライブって、いいですね!!」
 終演後も未だ残る舞台の熱気に軽く汗を拭いながら、ラクシュミは舞台裏の楽屋へと足を運ぶ。扉をノックすると、公演を終えたばかりのロゼがひょこりと顔を覗かせた。
「あーっ、ラクシュミ様だ! さっきは力いっぱいの応援、ありがとうございましたー!」
「お疲れ様です、応援していてとっても楽しかったです! 素敵なシンフォリウムも、ありがとうございますね」
 飛び跳ねんばかりに感激するロゼの手を取りつつ、まずは彼女をねぎらうラクシュミ。疲れなど全く感じさせない笑顔で頷いて、ロゼは一枚のパンフレットをラクシュミに差し出した。
「きょうはこの後、もう一回公演があるんです。よければ、そちらも是非聴きに来てください! 特等席、ご用意しますよ!」
「まあ」
 ならば、最後の公演は今よりもっともっとたくさんの人で溢れてしまうかもしれない。そう悪戯っぽく笑って、ラクシュミはその理由をロゼへと教える。
「では、発表します。A.Aの贈る物語《シンフォリウム*シンフォニー》が、カフェストリート部門第二位入賞です!」
「入賞っ!? ほんと、ほんとにですか!? やったー、やりましたー!!」
 無邪気な少女らしくぴょんぴょん飛び跳ねた後、はっと気付いて赤くなるロゼ。えへへ、と照れ隠しのように笑って、彼女は口元を指先で隠した。
「それじゃあ、今年の超会議最後の舞台で、みんなにお礼をしないとです!」
「ええ。客席の皆さんと一緒に、素敵なステージになりますよね、きっと!」

●審査員特別賞:戦国うどん茶屋ふーさん ~天下統一立志伝~(うどん喰亭ふーさん
「もう一度……お邪魔しますっ!」
「やや、これは東軍のラクシュミ姫ではござらぬか! カフェストリート部門の審査員、オツカレサマドスエー!」
 威勢よくラクシュミを出迎えたのは、岩櫃・風太郎(閃光螺旋の紅き鞘たる猿忍・e29164)。【うどん喰亭ふーさん】の店主にして、今はこの戦国風企画の武将(※忍者ではない、武将だ)・『タイコー・ヒデヨシ』だ。
 ちなみに『姫』というのはラクシュミがオウガの女神だったころの名残ではなく、戦国時代を模したこの企画独特の呼称である。
 男性は『殿』『御館様』、女性は『姫』というのが流儀だそうだ。
 ところで風太郎の顔がすっかり赤いのは、何も彼がニホンザルのウェアライダーだからというだけが理由ではあるまい。
 何せこの店内で、彼は朝からひたすら熱々のうどんを茹で続けているのだ。いかなる注文にも神速で対応するそのうどん店主ぶりは、尊敬に値するだろう。
「もう一度挑戦でござるかな。それとも、此度は記念写真の撮影に?」
「写真、それもいいですね。今の戦況はどんな感じですか?」
「我がグンマーが奮戦中です。求ム私を超える猛者ッ!」
 力強い目をした神苑・紫姫(白き剣の吸血姫伝説・e36718)の言葉を、ラクシュミは思わずリピートする。
「グンマー」
「グンマー」
 深々頷く紫姫と風太郎。グンマー。それは東西軍の戦いに突如乱入した謎の第三勢力。グンマー。それは神秘と野性の王国。グンマー。それは現在うどん注文数バトルのトップをひた走る覇者の集団。地球の文化って奥深い。ひっそりと未だよく知らない強者達の存在を心に刻みつつ、ラクシュミは壁にかかったお品書きに目を通す。
「地獄の激辛カレーは……本当に辛かったんですよね」
「なんと、アレに挑戦し召されたとは」
 猛者を見る目をラクシュミに向ける風太郎。挑戦者を求められたら応じるのが礼儀とばかりに力強く頷くラクシュミ。ほぼ無言のそのやり取りに、海老天うどんをすすり終えたビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)が言葉を添える。
「ここのメニューは、どれもこだわりが感じられていいですね。わたしはこの一杯でお腹一杯になってしまったのですが、それだけのボリューム感にもかかわらず、味も食感も飽きさせない工夫がこらされていて……」
「東西軍のバトルは勿論楽しいですけど、それを抜きにしてもどれもこれも食べたくなっちゃいますよね」
 黄金色に輝くいなり寿司が運ばれていくのを横目で見つつ、ラクシュミはそう呟いて。
「……という訳で、今年のケルベロス超会議、カフェストリート部門の審査員特別賞はこちらの戦国うどん茶屋ふーさん ~天下統一立志伝~に差し上げます!」
「な……なんと! ありがたき幸せ!」
 ははーっ、と大仰にラクシュミを拝んでみせる店主の姿に、笑いと祝福の声が巻き起こる。
「大儀でありました、『タイコー・ヒデヨシ』。何かひと言あれば、どうぞ!」
 こちらも『姫』になり切ってそう言うラクシュミに応えて、風太郎は満面の笑みで締めくくってみせた。
「20:00からはDJライブも開催予定ゆえ、そちらも宜しくおたの申す!」

●第1位:ケルブレスポーツバー&ニコ生放送(ラジオ放送制作部
 オープンテラスのカフェバーは、多くのケルベロスで賑わっている。
 特徴的なのは、その賑わいの中に肉声ではない音声が混ざっているのがはっきりと分かることだろうか。
 ここは【ラジオ放送制作部】の企画ブース。去年、一昨年とラジオ生放送で人気を博した彼らが今回開いたのは、なんとスポーツバーだった。
「スポーツバー……皆さんとスポーツの試合放送を楽しみながらあれこれお話できるなんて、なんて素敵なお店でしょう!」
 わくわくと胸を躍らせつつ、ラクシュミも空いていた適当な席に腰かけ、ハンバーガーとポテトをオーダーする。
「さっきもいただきましたけど、美味しかったので……」
 軽く潰して食べないと口に収まり切らないほどの大ボリュームを誇るハンバーガーは、スポーツ観戦のお供にぴったりだ。
 他にもサンドイッチやドーナツ、フランクフルトにフライドチキンなどなど、片手でつまみやすいメニューが揃っているのも嬉しいところ。 ケルベロス野球決勝戦の様子を瞬きすら惜しいとばかりにガン見するラクシュミに、レイ・ローレンス(イチゴで世界制服・e35786)がそっと柱の陰から呟いた。
「お楽しみいただけてるみたいで何よりですの」
「あっ、さっきはどうもありがとうございました。また来ちゃいました」
「ゆっくりしていってくださいね」
 矢野・優弥(闇を焼き尽くす昼行燈・e03116)の言葉の後半は、高い打撃音と上がった歓声にかき消された。モニターに映るバッターの鋭いスイングが、放たれたボールをしっかりと捉えて打ち飛ばしたのだ。
「やりましたか!?」
 思わず自分もがたっと立ち上がり、興奮気味に叫ぶラクシュミ。特にどちらのチームを贔屓目で見ていたということはないが、やはりこうした会心の一撃に心が躍ってしまうのは性というものなのだろう。
「ボクスドラゴンズ、快調のようだな」
 エナジードリンクを飲みつつ、流・朱里(陽光の守り手・e13809)もじっとモニターを見つめてそう呟く。
「目が離せませんね。……えぇと、わたしがさっき来たときはプロレスをやっていたんですよね」
 他にも三国志、競馬、料理対決などなど、様々な競技の様子が随時放送されていたらしい。番組表を見つつ、気を付けないといつまでも居座ってしまいそうだなとラクシュミが思っていたかどうかは、さておき……。
「直接競い合うのも勿論楽しいですけど、勝者を皆さんで予想し合うという楽しみ方もあるんですね」
「勝つって予想したとこには、やっぱり頑張ってほしくなっちゃうよね」
 くるくると忙しなく配膳に駆け回っていたエルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)も、そう笑う。
「なるほど……より多くの皆さんに、よりたくさん楽しんでいただける企画なんですね。納得です」
「何が?」
 首を傾げる店員達や、周りのお客達を見回して、ラクシュミは微笑む。一瞬、店内に聞こえる声が放送越しの流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)のそれだけになる。試合もいよいよ佳境らしい。何にともなく小さく頷いて、ラクシュミはその知らせを彼らに告げた。
「ケルベロス超会議、今年のカフェストリート部門第一位。その栄光を、こちらのケルブレスポーツバー&ニコ生放送が勝ち取りました!!」
 上がった歓声が、波のようにスポーツバー全体を満たしていく。隣の店員とハイタッチする者。モニターの方へ目をやり、そちらの展開に更なる興奮を重ねる者。朗報を一刻も早く伝えるべく、放送ブースへと駆け出す者。それぞれの様子に自分の胸も熱くなるのを感じながら、ラクシュミもまた、放送ブースへ向かい、その扉に手をかけた。振り向いた清和の放送の邪魔にならないよう、ラクシュミは手近にあったスケッチブックにサインペンで大きくメッセージを書いて掲げてみせる。
『カフェストリート部門第一位! おめでとうございます!!』
 無言の祝福に、清和もまた、無言でぐっと親指を立てて応えるのだった。

●祭りはまだ終わらない
「ふぅ……やり遂げました!」
 すがすがしい表情で伸びをしつつ、ラクシュミは賑やかなケルベロス超会議の会場をもう一度見渡してみる。
「でも、まだです。まだまだです」
 投票は終わり、今年の入賞企画も決まり、太陽もそろそろ傾き始めているが、ケルベロス超会議はまだ終わらない。
 ……ならば、やるべきことは一つだろう。
「最後の最後まで、このお祭りを楽しみ尽くしますよ!!」
 まだまだ参加できていない競い合いも、交わしていない杯もあるのだ。これでおしまいになど、どうしてできよう!
 止まらないワクワクした感情を胸に、そうして今はひとりのケルベロスたるラクシュミは、再び喧騒の中へと元気いっぱい飛び込んでいくのだった。