●お祭り屋台村の様子
壱条・継吾(土蔵篭り・en0279)は、きょろきょろと辺りを見回すと、屋台村の賑わいに感嘆の溜息をついた。
「眩しいです……」
みんなが、とても楽しそう。色とりどりの屋台に、型抜き、ゲーム。
「……あれはなんでしょう」
店先に並ぶものに目を奪われ、立ち止まって、軽く首を横に振った。
「いけないいけない。今日は大事な役目があるんです」
そう、継吾は行かねばならない。今回のお祭り屋台村の審査員として……!
●第3位:超☆ケルベロス大砲(
ぴえりん☆ふぁんくらぶ)&くっ…コロッケ食べたい…(
放課後の生徒会室)
「ちょう……ケルベロスたい、ほう」
ここですね、と継吾は店の前で立ち止まった。
「アイキャンフラーイ!」
なんか聞こえる。どかーんといい感じで、誰かがすっ飛んで行くのが見えた。盛山・ぴえり(超電波系アイドルぴえりん・e20641)が更に景気の良い掛け声をかける。
「さぁっ、皆さんご一緒に!」
ちゅどーん。斎藤・斎(修羅・e04127)が景気よくぶっ飛んで行った。
「おお……!」
思わず、ぱちぱちと拍手をする。着弾時がめっちゃ心配である。ケルベロスたちが次々青空に吹っ飛んでいくのを見送ると、継吾はぴえりに賞賛の言葉を送った。
「おめでとうございます、3位入賞ですよ」
「えっ、ほんとに!? やったー! では、せっかくなので!」
いそいそとぴえりが大砲へ向かう。
どごおおぉん。入賞を祝う華々しい轟音が、空高く響き渡ったのであった。
「ええと:同率3位が……くっ、ころ……?」
継吾はコロッケの屋台の前で足を止めた。水瀬・和奏(火力系女子・e34101)が死んだ目をしてコロッケをひたすら揚げ続けている。その手は止まることがない。
「どうしてこうなった……」
「こんにちは。いい匂いがしますね」
継吾が声を掛けると、店の前でコロッケを頬張っていた忍足・鈴女(にゃんこマスタリー・e07200)が、呟いた。
「くやしいっ……でも食べちゃうでござる」
なるほど、悔しいけどたべちゃうほどおいしいのか……なんて思いながら継吾は勇気を出して頼んでみた。
「コロッケ、僕にもひとつお願いします」
差し出されたコロッケを、ひとくち頬張る。
「!?」
めっちゃくちゃ辛い。俗にいうアタリを引いてしまったようだ。涙目になりながら水を飲み干し、継吾は気を取り直してお祝いの言葉を告げる。
「くっころ、3位入賞です、おめ、でとうございます」
けほけほ、と咳き込むと、和奏は意外そうな顔で再度呟いた。
「あ、ありがとうございます。…どうしてこうなった……」
●第2位:維天玄舞紗大社迷物!?おむすびくじ【失せ物探し編】(
玄舞紗の社)
「どもども、ようこそ『維天玄舞紗大社』へっ」
継吾が顔をのぞかせると、維天・乃恵美(奉雅駆の戦巫女・e02168)がにっこりと笑って案内してくれた。
「ここは、おむすびやさん……でしょうか?」
一つ頷いて、乃恵美は答える。
「ふふ、でもただのおむすびじゃありませんよ?」
「と、言うと」
はい、とお盆にのせておむすびと玄米茶、揚げゴボウのとん汁が渡される。
「わ……美味しそう」
その良い香りに、自然と継吾の頬が緩んだ。
「どうぞ、めしあがれ!」
周りを見ると、他の面々もおむすびを楽しんでいるようだ。けれど、ただのおむすびではない、とは……?
ゆっくりと包みを開いてみると、そこには何か書かれたおみくじが。
「ああ、なるほど!」
おむすびくじって、そういう事なんですね。継吾は納得したように、頷くと、その文面を読み上げた。
「えーと……暗い……財産……が……数年、苦難多し……」
凶……! 継吾はしょんもりと肩を落とす。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦ですよ」
乃恵美に優しく肩を叩かれ、顔を上げた。
「ありがとうございます……でも、これ、面白いですね」
おむすびもいただきましょう、と海苔で包まれたおむすびを一口。すると、中から熱々のチーズがとろりととろけだした。
「! おいしい……!」
けど……。
(「恐ろしく甘口だ……」)
もくもくとおむすびを頬張りながら、これはこれでありかも、なんて思う継吾。提供されたものをすっかり食べ終えると、ごちそうさまでした、と丁寧に手を合わせてあいさつし、
「今日はありがとうございました。おむすびくじが2位に入賞したことを伝えに来たんですが……すっかりごちそうになってしまいました。その、おめでとうございます!」
入賞の報せと拍手を贈った。
わぁ、と歓声が響く。皆の拍手の中、継吾は次のお店に行くために立ち上がった。
「っと……」
その前に、おみくじをお食事処のおみくじ掛けに結んで行こうか。
●審査員特別賞:鉱石ソーダ(
倉庫屋『空鈴堂』)
「綺麗……」
継吾は、キラキラと煌めく鉱石が並ぶ店の前で立ち止まった。看板には、『空鈴堂』と書かれている。
「いらっしゃい、ようこそ」
眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)が、コーヒーメーカーのような物に、砕かれた鉱石を入れているところだった。
「すごい……綺麗ですね。これは……?」
継吾が問うと、戒李はカップを取り出す。
「ソーダをつくるんだよ」
休憩がてら、どうかな? と問われ、継吾は勧められた椅子に腰かけた。
「ひとつ、いただけますか?」
うん、とうなずき、戒李はよく冷えた炭酸水と、オレンジシロップを取り出した。
「君は……これかな」
エメラルドの煌めきを放つ液体に、オレンジシロップを加え、それを炭酸水で割る。
「これは……すごいですね、薄めたはずなのに……」
きらきら、きらきら。出来上がったソーダは、光を受けてエメラルド色に輝いている。浮かんだ氷などは、まるで宝石さながらだ。
「正真正銘、鉱石からできてるからね」
戒李が鉱石を砕いて見せる。
「こうやって……砕いた鉱石におまじないを込めたきれいな水を上からかけるんだ」
じっと見つめる継吾。専用器具の下の方に、ぽた、ぽたと鉱石の力を取り込んだ水が溜まっていく。
「これを、鉱石がなくなるまで繰り返す。大体、7日~10日くらいかな」
それで出来上がったのがこれだよ。と、先ほどシロップと炭酸水で割った液体を指差した。カップにストローを付けると、召し上がれ、と継吾の前に差し出した。この後行くところもあるだろうし、と飲み歩きできるようにしてもらい、継吾は一口ソーダを飲むと、ぺこりと頭を下げる。
「あの、こちらのお店」
「ん?」
「審査員特別賞を贈らせていただきたいと思って。……えと、おめでとうございます!」
店にいた客たちも、手を叩く。
「ありがとう!」
戒李は、鉱石を砕く手を一度止めるとくすぐったそうに笑った。
「美味しくて、綺麗で……不思議で。僕、なんだか気に入っちゃって」
継吾もその瞳を細める。もっと鉱石と鉱石ソーダを眺めていたい気もしたし、他のお客さんのソーダも気になったけれどそろそろいかなくちゃ、と立ち上がった。
「それでは、素敵な鉱石ソーダをありがとうございました」
「こちらこそ。楽しんでくれたなら良かった」
あ、と戒李は継吾を軽く呼び止める。
「?」
そして、振り向いた継吾にひとつ、教えてやった。
「そのソーダの鉱石……エメラルドの石言葉は『幸運』だよ」
君に、きっと幸運が訪れますように。そう笑った戒李に、継吾はもう一度会釈をすると、嬉しそうに微笑むのだった。
●第1位:光画部のお手軽釣り堀! その場で調理も!(
光画部)
さて、最後に向かうは一位の栄冠を手にした企画。継吾はその場所に着くと、ぽかんとして立ち尽くした。
「釣り……掘、ですよね、これは」
ただ、規模がすごい。おおきい。
「ようこそ! ここは光画部の釣り堀よ!」
保戸島・まぐろ(無敵艦隊・e01066)の声にハッとして振り返ると、継吾は改めて釣り堀の中を覗き込んでみた。カジキマグロにフグ、イカ、メダカ……ウナギにキスに、サメまでいる。いろいろ大丈夫かなこの釣り堀、なんて思っていると、まぐろは笑顔で釣竿を差し出してくれた。
「無料で竿は貸し出すから、遠慮なく釣っていってね!」
「ありがとうございます」
そういえば釣り掘は初めてだな、と思いながら、ゆっくりと糸を垂らす。
「……」
ゆっくりと、待つ。それも釣りの醍醐味だ。すると、継吾の横でぴちぴちと魚が上がった。
「おお、なかなか良い感じのが釣れましたわ!」
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)が、手ごろなサイズの鱚を手ににっこり。
「わあ、おめでとうございます」
すると、その隣からは雄叫びが。
「おおおおりゃあああああああ!!」
「!?!?」
びちびちびちびちびちびちびち! とてもおいしそうなソードフィッシュが。気を付けろうっかりすると刺さるぞ。
「……凄い、凄い大物だわ」
釣り上げた張本人の三上・華恋(地球人の巫術士・e47993)も、半ば引いている気がする。他にも、手のひらサイズのウナギとか(リリース対象)異臭を放つメダカさんとか(字面からしてもうヤバい)、あちらこちらで釣果の報告があがる。そろそろ自分にもかからないかなあ、と継吾は釣竿を握り直した。と、その時。
「っ……!」
ばしゃぁっ、と音を立てて、獲物が水面から顔を出す。
「きた!」
「何々!?」
周りの客も、継吾が釣った魚を確認しに集まってくれた。
「いや、めっちゃ大物だけど……」
「なんですかね、これ……」
壮 大 な ダ - ク マ タ - 。
「こりゃ食べれないね」
「残念」
元気出して、と肩を叩かれ、継吾は苦笑を返すのだった。その後ようやっと釣れたのは色鮮やかなサメ……。お食事処で調理してもらえるとの事で、早速持ち込むことに。
「どうやって食べようか?」
まぐろに問われて、継吾はうーんと首をひねる。
「おまかせしてもいいですか?」
まぐろはひとつ頷くと、さっと衣を付けて油の中にサメの身を放り込んだ。
「はいっ、サメのフライキャビア添え」
「す、すごい……!」
見れば、メダカの串てんぷらやら光学迷彩のサーモンを器用に捌いて作ったソテー、毒々しい色のクラゲなんかも美味しそうに化けている。
「しかも、美味しい……!」
見た目だけじゃなかった! 継吾はその美味しさにふわっと目尻を下げると、もう一口。
「美味しいでしょ?」
見た目はまあ、アレだったけどね、と笑うまぐろに、頷く。
「ごちそうさまでした。ええと、大事なことを」
釣り堀にいる人々の視線を集め、ひとつ咳払い。
「こちらの企画、光画部のお手軽釣り堀! が栄えある第1位となりましたので、お祝いを! ……おめでとうございます!」
大きな歓声が上がる。心なしか、釣り掘の中の魚たちもビチビチと祝福しているようだった。
「やったー! ありがとう!」
まぐろも喜びをあらわにし、手を叩く。
「楽しく釣って、美味しく食べて、みんなで盛り上がる……こうやって毎日を楽しむことが、一番だよね!」
まぐろの笑顔に、継吾も控えめに優しくうなずいた。
「さあっ、じゃんじゃん釣ってって! 最後まで、楽しむよーっ!」
右腕を突き上げてまぐろが声をあげると、おーっ! と誰からともなく返事が聞こえる。
継吾は、いっぱいになったお腹に軽く手を当てると、ゆっくりと立ち上がった。
「……皆さんの笑顔、本当に眩しくて……素敵でしたね」
キラキラと、全てが輝いて見える。日々の戦いに追われる中に、こうして暖かで楽しい時間がある。そのことに幸福感を感じながら、継吾はまた、屋台村へと出かけてゆくのであった。