スパイラル・ウォー ファーストアタック

ラズェ・ストラングVSイグニス&勅忍

<スパイラル・ウォー ファーストアタック>

●応援募集(黒猫師団)
「避難活動は、滞りなく進んだようだな」
 ソル・ログナー (鋼の執行者・e14612)は、黒猫師団の主導の元、奈良で行われている『奈良納涼祭』の様子にそう判断する。
 今回の戦いでは、一般人が敵の誘導のため戦地に留まる必要はない。
 そのため、人々の避難は各自治体によって迅速に進められている。
 黒猫師団もそれに協力し、応援を求めると共に避難を広く呼び掛けていた。

 そして戦争前日の今日、電力をはじめとしたライフラインに関わる人々のような、必要最低限の人員を残して既に近畿全域から避難は完了している。
 残っている人々は各々の職務を果たしており、持ち場を離れるわけにもいかない。
 従って『奈良に集めろみんなの力、龍を滅ぼし螺旋に穿て!』のスローガンを掲げた『奈良納涼祭』も、メイン会場周辺に一般人はほぼゼロに近かった。
 近い、というのは中継しているマスコミ関係者がいるからだ。
 むしろメイン会場として奈良が設定されているのは、マスコミやメディアの者達を無駄に散らばらせないための場所という意味合いが強いと言えただろう。
 行われているライブもさることながら、無人となりつつある近畿地方、そして避難民を乗せて高速道路を走っていく車列の様子は、メディアを通じて世界に向け中継されている。

 こうした避難活動は、東京防衛戦をも上回る空前の規模だ。
 その事は、より世界の人々に、日本に訪れている危機の程を雄弁に物語っていた。
 本部は勿論、世界各地にも応援を受け付けるためのサテライト会場が設けられ、現地の言葉を話せる海外出身のケルベロスらが、対応のために現地に向かっている、
「明日の螺旋大伽藍内での通信はまず無理だろうな」
「一旦録画して、ヘリオンで外に持って行って貰って、ネットで渡して何時間か遅れで流して貰う線でいいだろう」
 村雨・柚月 (黒髪藍眼・e09239)とディークス・カフェイン (月影宿す白狼・e01544)は、当日に向け最後の調整を進めていく。

 無人となった奈良に戦いのため留まるケルベロス達に向け、世界中から届くメッセージは、必ずケルベロスが自分達を守ってくれることを信じる旨が書き連ねられている。
 それらのメッセージに篭められた、勝利を祈念する心は、勝利を祈願した寺社のお守り等に勝るとも劣らぬ力を、ケルベロス達に与えてくれることだろう。

●必勝の決意~テンションアップ(灰色狼師団・白馬師団)
 戦争を控え、奈良市鴻ノ池運動公園内のならでんスタジアムでは、白馬師団主催による、戦争に挑むケルベロス達に向けた演習や、ブリーフィングが行われていた。
「次に、ヘリオライダーの予知に基づく、『忍法大伽藍落とし』の被害予測範囲を説明します」
 白馬師団のパウル・グリューネヴァルト (森に焦がれる・e10017)が言うと、置かれたモニターに奈良平野を描いた飾り気のない模式図が映し出される。
 続けて『螺旋大伽藍』を示す三角形が出現すると、その名の通りに螺旋を描きながら急速に回転上昇、加速を続けながら奈良平野の地表に激突した。
 螺旋大伽藍を中心に、奈良県全域を覆う範囲に、赤い円が広がったところで、パウルは一端、動画の進行を止める。
「螺旋大伽藍の激突時に発生した強烈な衝撃波は奈良県全域の地表部に建物が崩壊するレベルの甚大な被害を及ぼし、その余波は隣接する府県に及びます」
 出現する高度を考えると単純な衝突によるものとは思い難い、異様な威力だ。
 螺旋帝の血族『緋紗雨』は、彼女が出来ることの全容をほとんど明かしていなかったが、後の敵対を見越していたのだろう。
 表情を険しくするケルベロス達に、さらにパウルは続ける。
「今のが被害範囲の第一段階です、続けて第二段階」
 螺旋大伽藍を示す三角形が回転すると、赤い円の外側に、さらに黄色い円が広がっていく。
「地表に達した螺旋大伽藍は『形状を維持したまま』螺旋回転を続けます。螺旋大伽藍による衝撃は、地殻に伝わり、広い範囲に非常に強い地震を引き起こします」
 広がる黄色い円は兵庫県に及ぶまでの近畿全域を呑み込み、ようやく止まった。
 だが、さらにその外へも薄い円が広がっていく。
「近畿地方は地震により壊滅、中部・北陸・中国・四国地方も地震の影響を受けるでしょう」
 既に『螺旋大伽藍』の墜落時に被害が及ぶと推測されている近畿一円からの避難は実施されつつあるが、これだけ広い地域に影響が及ぶと、災厄慣れしている日本政府をもってしても、人的被害をゼロにすることは不可能だ。
「というか螺旋大伽藍自体は、落ちても壊れないのか?」
 他の師団のケルベロスからの質問に、ノーフィア・アステローペ (黒曜牙竜・e00720)が応じる。
「壊れないみたいだね。中にいても乗り物酔いぐらいで済むよ」
 あまり嬉しくない情報である。
「あ、こうなった場合も、大阪ユグドラシルゲートは無事です。これを機に、地下での侵食区域を伸ばすのではないかと。……ロキがゲートを持ち帰った場合にどうなるかは未知数ですが、将来的に同規模以上の被害が出る可能性は否定できないかと」
 あまり嬉しくない補足は続く。少なくともイグニスに敗北してはならないし、緋紗雨に大伽藍落としをさせても大きな被害は出る。
 その事実は、改めてケルベロス達に伝わったようだった。

●大阪の夜を照らして
 大阪市此花区の舞洲スポーツアイランドはケルベロス達のために貸し切りとなり、灰色狼・白馬師団によって戦意高揚のための催しが行われていた。
 大阪湾に停泊していた豪華客船も、同じく会場となり、船に乗り込んだケルベロス達は、それぞれに宴会や用意されたアトラクションを楽しんでいる。
 こうした船舶は本来、他港へ避難する予定であったが、乗組員も催し物のために留まり、運営に協力してくれている。
 催しが終わり次第、そのまま出航して避難する手筈だ。

 用意されたアトラクションの中には、昨年のガネーシャパズルのようなケルベロス大運動会の競技の他、関西の企業に依頼して急きょ開発された『天地殲滅龍叩き』等といったものもあった。
 このミライ・トリカラード (獄彩色鉄鎖・e00193)発案による『天地殲滅龍叩き』、いわばモグラたたきの外装を変えただけの代物だが、何せ急ピッチで開発を進めて安全認証が通っていないのでケルベロス専用、怪我をしても自己責任である。
 徹夜作業で開発を終えた企業には既に各地から引き合いが来ているらしいが。
「もっとも、それも勝ってからの話だね……」
 ケルベロス達が舞洲から見る大阪の街は、既に人もおらず、暗く静まり返っている。
 だが、その静けさもすぐに破られることとなった。
『これより、花火大会を開始致します』
 アナウンスと共に、花火が打ち上げられ、海と町とを照らし出す。
「いやぁ、すごい数だね」
 社守・虚之香 (地球産のたらい魔人・e06106)は思わず歓声をあげる。
 灰色狼師団の呼びかけに応じて集まった花火はかつてない量となっていた。
 何せ7月29日・30日という花火大会シーズンに、関西全域で予定されていた大会があらかた中止となったのだ。
 花火大会を行いたいというケルベロスの要望に対し、こうした中止された花火大会で使われるはずだった花火が、それらを扱う職人と共に大阪港に集結していた。
 次々と花火が上がる光景は、各地へ避難した人々の元にも、集めたメディアを通じて届いていることだろう。
 近畿地方を覆う闇を振り払わんとするかのように、花火は何時間にも渡り、打ち上げられ続けた。

●螺旋大伽藍出現
 そして7月30日の早朝、奈良平野の上空が揺らぐ。
 螺旋忍軍の本星スパイラスに通じる『彷徨えるゲート』の出現を、銀狐師団のケルベロス達は奈良平野に設けた拠点から見上げていた。

 目を凝らしても分からないほどの、微弱な空間の揺れ。
 だが、ケルベロス達が意識すれば、そこに確かに強い力を感じ取ることが出来る。
「多分、これまでにも地球の各地に現れては消えていたんだろうね」
 鮫洲・蓮華 (ぽかちゃん先生の助手・e09420)は、そう考える。
 奈良平野上空に現れることが予知されている『螺旋大伽藍』への突入に向け、銀狐師団は着々と準備を進めて来ていた。
 地上にも拠点が設けられており、ここに集約した物資を一挙に移送する手筈だ。

 螺旋大伽藍は、空中に浮かぶ巨大な要塞。
 予想される高度がケルベロスの翼飛行で行き来できる範囲を超えているため、救護に使う物資を運び込むための、空輸の手段はかなり限られる。
 銀狐師団では載霊機ドレッドノートでの戦いの時と同様にヘリオンを使い、アイテムポケットを活性化できるケルベロスには依頼し、手分けして物資を輸送してもらうことにしていた。
 何せ相手が諜報に長けた螺旋忍軍、加えて地球を遥かに上回る機械技術を持つダモクレスまでいるとあっては、普通の飛行機械では通信や外部把握手段の一切を断たれても不思議はない。

 実際、自衛隊のCH-47Jヘリを使うという案もあったのだが、予行演習として飛んだヘリが奈良平野上空に差し掛かった瞬間、あらゆる通信が使えなくなり計器は故障し慌てて引き返すこととなっており、案は実行されずに終わった。
「多分、ダモクレス達の嫌がらせなんでしょうけどね……」
 奈良平野を目指して移動していたダモクレス軍団は、螺旋大伽藍に攻め込んで来るごく一部を除いて撤退したようだだ。
 だが、戦争当日に螺旋大伽藍に乗り込んで来る者達は、まだ周辺のどこかに潜んでいるらしい。
 ダモクレスやエインヘリアルの中には飛べない者達もいるが、そうした者達には螺旋忍軍から、何らかの大伽藍への移動手段が提供されることが予想されていた。
「ハンディキャップ大きいですねぇ」
 少しは手加減して欲しいものだ、と若生・めぐみ (めぐみんカワイイ・e04506)は可愛らしく溜息をつく。
 だが、自分が取れるあらゆる手を尽くして来るのは、これから戦おうとしていイグニスの特徴でもあるのだった。

●奇襲攻撃(6)最上・幻斎&夜城・ネネ (紫揚羽師団)
 搬入作業を続ける銀狐師団の頭の上を、ハイパーステルスを展開し透明化したヘリオンが上昇していく。
 それらのヘリオンの中に乗り込んでいるのは、奇襲攻撃を担当する師団のケルベロス達だ。
 多数の和風の楼閣同士が、異様な角度で融合しあった姿の螺旋大伽藍。
 そのうち、守りが手薄であることが予知されていた楼閣のひとつに突入したケルベロス達は、ただちにそこを制圧すると、攻撃目標の地点を目指し、迅速に侵攻を開始する。
 内部は言うなれば迷宮そのものだ。
「大伽藍落としの威力といい、要塞に近付くものを寄せ付けないようにする地球の城塞とは発想そのものが違うのでしょうね」
 鞘柄・奏過 (曜変天目の光翼・e29532)は、そう考えつつ通路を駆け抜ける。
 こちらも螺旋大伽藍に侵入したばかりらしいダモクレス達の手薄な守りを突破し、駆け抜けた紫揚羽師団のケルベロス達を出迎えたのは、螺旋模様の仮面をつけた螺旋忍軍だ。
「我ら、最上忍軍『最上級コンタク党』、新参として頑張らせていただく!」
「同じく、最上忍軍『超高級ドーナツ党』も頑張っちゃうよー!」
 たちまち飛来するコンタクトレンズだのドーナツだのを、ダリル・チェスロック (傍観者・e28788)は、打ち払うとまじまじと敵を見る。
「この人達、なんでここに……?」
「黙れ眼鏡! 眼鏡と非コンタクトを滅ぼすため、拙者達は最上忍軍に加わったのだ!!」
 要するに既にいることが判明していた天狗党と同様に、ドーナツ党やコンタク党からも最上忍軍に加わった者達がいるようだ。それだけ『勅忍』になれるのは、螺旋忍軍にとって魅力的なのだろう。
「でも、超高級って最上関係ないんじゃ……?」
「美味しいよ?」
 その美味しいドーナツを手裏剣として連続して投げつけて来るドーナツ党のくのいち達。美味しいから何なんですか、と思いつつ、ティ・ヌ (ウサギの狙撃手・e19467)は、他の師団のケルベロス達に先を急ぐよう促すのだった。

●奇襲攻撃(10)天地殲滅龍(黄鮫師団)
 紫揚羽師団から先頭を引き継いだ黄鮫師団は、巨大な楼閣へと突入した。
 その楼閣内には階層は無く、上下を貫くような形で広がる、壁から突き出す階段が、上下へと続いている。
「丸々螺旋階段、でございますね……」
 マリアンネ・ルーデンドルフ (断頭台のジェーンドゥ・e24333)は、そう判断しながら、螺旋忍軍の下を覗き込んだ。
 下にいくほど、その螺旋は広がり続けているようだった。覗き込んだマリアンネ達を、立ちくらみのような感覚がを襲う。
「何らかの術で空間が歪んでいる……」
「天地殲滅龍は、山岳級の大きさがあるとされているから、おそらくこの下にいるんだろうね」
 ノル・キサラギ(銀架・e01639)は、そう判断しながら、螺旋階段の守備についた敵を見る。
 巨大な螺旋階段を支配するのは、竜牙兵『滅望兵団』だった。
 階段上には四足歩行型の竜牙兵が群れを為し、螺旋階段の中空には『滅望兵団』がひしめいていた。
「相当な数ですね」
「迎撃態勢を整えられる前に……参りましょう!」
 駆けだすケルベロス達に、竜牙兵達は即座に気付き、その虚ろな眼窩を向けた。
「我らが主たる天地殲滅龍に、己が力を見せよ……!!」
 号令と共に、滅望兵団の攻撃が螺旋階段へ侵入者たるケルベロス達へ向け一斉に解き放たれようとする。
 だが、敵が火力を行使するよりも早く、黄鮫師団のケルベロス達は敵陣の只中へと飛び込み、それぞれのグラビティを繰り出していく。
「こいつらの相手なら、慣れたもんだ!!」
 相馬・泰地 (マッスル拳士・e00550)が呵呵大笑する。
 ケルベロス達は、伊豆大島のダンジョン『火竜焔神洞』に出現した天地殲滅龍と滅亡兵団を、それこそ何十万回にも渡って倒し続けて来た。
 天地殲滅龍の首の威容も、降り注いでくる滅望兵団の姿も慣れたものだ。
 使って来るグラビティに関しても、ダンジョンに出現していた時と変わらない。
 だが岡山県津山市に出現したものと同種の『滅望咆哮兵』、さらに初めて確認される俊敏な『滅望潜航兵』の存在は、仲間を守るケルベロス達に、警戒の念を抱かせるに充分なものだった。

『滅望兵団よ、己の命を捨てて狗達を葬れ。
 汝らは吾の体の一部より生まれ出でし、吾の血肉の一部なり。
 勝利の暁には、汝らは再び吾の首より生まれ出でるだろう』

 螺旋階段の遥か下から、強烈な威圧感を伴う声が、ケルベロス達の耳朶を打つ。
「これが、『天地殲滅龍』……!!」
 無限の首を生み出し続けて来た、『魔竜王の遺産』たる強大なドラゴン。
 姿を見せぬまま、その強大な力をケルベロス達は強く感じていた。

●奇襲攻撃(12)詠み謳う煌然たる朱き社&合成獣(緋色蜂師団)
 天地殲滅龍の螺旋階段から移った楼閣のひとつ。
 死の気配が満ちる楼閣を、緋色蜂師団のケルベロス達は目指していた。
「見つけたのじゃ……屍隷兵!」
 端境・括 (鎮守の二丁拳銃・e07288)は、黒い液状の体を持つ『量産強化型屍隷兵』の頭部に、出会い頭にリボルバー銃の弾丸を叩き込んだ。
 それを皮切りに、集結していた屍隷兵と奇襲を仕掛ける黄鮫師団の間で先端が開かれる。
「なんじゃ、わざわざここを攻めに来るとはのう。屍隷兵をあまり減らしたくもないんじゃが」
 そう楼閣の上で嘯くのは、最上忍軍の指揮官の一人『詠み謳う煌然たる朱き社』。
「めっけたでぇ、ヤッシー……どーも初めまして、そしてさようなら。また遭うことのないように」
「おお、怖い怖い……」
 改造スマホを構える兎塚・月子 (蜘蛛火・e19505)の言葉に、社はあっさりと楼閣の中に引っ込んだ。
 代わってケルベロス達の前に走り出て来るのは『嘆きのマリア達』と名付けられた、胸に女性の上半身を埋め込んだ巨体の屍隷兵だ。
「これで決めるよ! 当ったれー!!!」
 巨腕を振り回し、こちらを粉砕しようとする屍隷兵に、長谷川・わかな (笑顔花まる元気っ子・e31807)が反撃を繰り出した瞬間、屍隷兵の胸に埋め込まれた女性が悲鳴を上げる。
『イヤァァァ! 痛い!!痛い!!』
『助けて……助けて……』
『なんで!? なんでケルベロスの人が私を殺そうとするのぉぉぉ!?』
「!?」
 わかなをはじめ、思わず手を止めるケルベロスが出る中、屍隷兵は構わず攻撃を続けて来る。
「ど、どうしよう?」
 敵は形勢を立て直し、ケルベロス達を迎撃にかかる。
 こうなってしまうと、反撃を受けずに撃破とはいかない。
 どうにか『嘆きのマリア達』の胸から女性を助けようと抉り出したケルベロスもいたが、結論として『女性は屍隷兵の一部であり、自分達が攻撃する以前に完全に死んでいる』という事実が判明するばかりだった。
 ケルベロスの攻撃に反応し、自動的に発声しているらしい。
「ふざけた真似を……」
「けど、退くしかないなぁ」
 月子は社が隠れた楼閣を睨みながら、そう呟く。その判断に否を唱える者はおらず、緋色蜂師団は速やかに撤退していった。

 戦場の様子を狐霊を経由して観察しながら、社は帳面に筆を走らせていた。
「いやぁ知られれば通じない一発芸じゃろうが、悪趣味じゃなぁ! 生み出したというドラゴンや広めたハクロウキ達もそうじゃが、いや全く大したものよ」
 社が使っている屍隷兵達は、どれも他の螺旋忍軍が開発したものだ。
 最上忍軍内ではなかなか出て来ない発想に、社は内心で舌を巻く。
 冥龍ハーデスが生み出し、螺旋忍軍が発展させ、さらに多数の種族へとばら撒いた神造デウスエクス『屍隷兵』は、数々の戦いを経て、よりおぞましい存在になり果てようとしていた。

●奇襲攻撃(14)レプリゼンタ・ロキ(金糸雀師団)
 螺旋大伽藍の上側にある楼閣のひとつには、多数の攻性植物が繁茂し、緑色の異形の迷宮と化していた。
 大阪方面から飛来した雲に乗り飛来した攻性植物の塊が、一気に展開したのだ。
 この楼閣を守っていた螺旋忍軍は早々に撤退し、替わって金糸雀師団が、この場所へと攻め入っていた。
 だが、主な部屋や通路はあまり広くなく、そこに攻性植物が塞いでいる。
「ロキ本人の元への到達は困難か」
 リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)は、形勢をそう判断する。
 レプリゼンタ・ロキは、おそらく制圧した楼閣の最上部にいると考えられていた。
 すなわち、ゲートを望む位置だ。
 ゲートを手中に収めるという目的が最優先なのに加え、ケルベロスが持つ如意棒を恐れているという情報もある。前に出て来ないのは、当然と言えば当然だった。
「粗暴な印象ではあるが、冷静だな。敵としては厄介だ」
「折角、対ロキ部隊組んだのに……熱ッ!?」
 攻性植物と戦う中、大弓・言葉(ナチュラル擬態少女・e00431)は、如意棒を握る手に不意に熱を感じた。
 無数の意思が如意棒を通じ、不意に彼女の頭の中に流れ込んで来る。

『感じる……感じるぞ……あの裏切り者の気配を!!』
『如意棒を握り、レプリゼンタを討て。さすれば霊猿ハヌマーンの無念は、レプリゼンタを永遠に追い、戦いの場に引きずり出し続けよう……』
『レプリゼンタ、討つべし! ロキ、スルト、カンギ、クルウルク……レプリゼンタ、ことごとく滅ぶべし!!』

「どうしましたか?」
 不意にウルトレス・クレイドルキーパー (虚無の慟哭・e29591)に肩を叩かれ、言葉は我に返った。
 同じく如意棒を装備していたリューディガーに目を向けると、どうやら同じものを感じていたらしい。
「如意棒は確かにレプリゼンタに効果があるみたいね」
「ああ……」
『ハヌマーンの無念宿りし如意棒は、いずれ全てのレプリゼンタを探し出し、戦いの場へと引きずり出す事だろう』
 ヴィローシャナ・ビハーラで聞いた言葉の意味が分かる時は近そうだった。

●奇襲攻撃(15)イグニス(蒼鴉師団)
 天地殲滅龍がドラゴン召喚儀式を行う螺旋階段を抜け、蒼鴉師団は螺旋大伽藍の奥の院へと至り、そして撤退を強いられていた。
 蒼鴉師団を阻んだのは、螺旋の仮面をつけた『勅忍』の軍団だ。
 さすがに情報収集に長ける螺旋忍軍の最精鋭というべきか、ここに至るまでの戦闘の発生を受けて、ケルベロス達の接近には気付いていたらしい。
 奇襲に動揺すら見せず対応した勅忍達は、全世界決戦態勢(ケルベロス・ウォー)の支援を受けたケルベロス達に対し、明らかに互角以上の戦いを繰り広げている。
 勅忍達が使って来るグラビティは、螺旋忍者が使うものを対ケルベロス用に調整したもののようだが、他の戦場にいる者達とは基本的な実力が一線を画している。
「それよりも、地の利が敵にあるのがな!」
「負傷者を先に撤退させるんだ!!」
 玉榮・陣内 (双頭の豹・e05753)と時浦・零冶 (幻鬼刀雷・e03656)が、勅忍の攻撃をなんとか凌ぎながら声をあげる。
 同じ戦場にいる以上、狙われないようにすると言っても限界がある。
 実力差から後方にいた『新星部隊』が崩れ出すと、精鋭部隊がフォローするのも間に合わず、他の部隊も戦闘不能が出始める。
 撤退条件は半数以上の戦闘不能としていたが、こんな場所で戦闘不能者が半数を越えたら撤退もままならないのは誰の目にも明白だった。救護支援を担当する師団が救援に来れる場所ならいざ知らず、迷宮奥深くまで来る手筈は整っておらず連絡の手段も無い。
 かくして、ケルベロス達は倒れた者達を守りながら撤退する格好になっていた。
「流石に螺旋忍軍本星の最精鋭か……」
 ラズェ・ストラング(青の迫撃・e25336)は呟きながら、手元の爆破スイッチを押し込んだ。
「極楽浄土の焔だ。ゆっくり浸かれよ」
 極彩色の炎が敵陣を包み込み、しかしそれが収まった後には、さしたる被害も無く耐え切った勅忍達の姿がある。
「戦力は、あまり多くないみたいだけど……」
 貴石・連 (砂礫降る・e01343)が言う通りではあった。
 本星スパイラスに残る勅忍全てを動員しても、この程度の人数しかいないのだろう。だからこそ、最上忍軍が雑多な忍軍を率いれるのを許し、ダモクレスやエインヘリアルまで利用したのだろうが。
「今の最上忍軍だのドーナツだのコンタクトだのが混ざったら質が下がりそうね」
「だとしても、問題はない。勅忍になった暁には、彼らも惑星スパイラスで永遠の修行の日々を送ることだろう」
 苦笑しながらの黒住・舞彩 (鶏竜拳士・e04871)の言葉に、不意に返答があった。
 浮かび上がるように現れるのは、白装束に身を包んだ蒼白い髪の男だ。
 エインヘリアル第五王子であった時とはまるで姿が違うが、それがイグニスであることを誰もが理解する。
「さあ、再戦の時だ。私は全ての『力』を尽くし、お前達に立ち向かおう。
 再び私に『死』を与えてみせるがいい、ケルベロスよ。
 出来なければ、お前達が守ろうとする地球に私が『死』を与えよう」
 イグニスの周囲を覆う氷が輝き、凍てつく冷気が蒼鴉師団を立て続けに襲った。
 敵の首魁の出現に、しかし彼を狙う余裕は今の蒼鴉師団には無い。
「それがお前達の全力ではあるまい。全ての力で、私に応えてくれ」
 イグニスの声は、撤退する蒼鴉師団に重くのしかかっていた。

師団ファースト
アタック
結果
黒猫師団 応援募集 各ターンの重傷からの復活率が「19%」に上昇!
世界各国からの応援のメッセージが寄せられています。
当日の中継は、螺旋大伽藍内での通信が封鎖されていることから、多少の手間がかかることが予想されています。
銀狐師団 救護準備 ケルベロス全体の重傷死亡率が9%低下!
通常のヘリによる輸送はダモクレスに妨害されました。
戦場が未知のダンジョンということもあり、地理を把握しようとする試みは重傷死亡率を下げる方向に結び付いています。
灰色狼師団 テンションアップ 敵戦力600以下の戦場を無視可能に!(2師団合計)
舞洲スポーツアイランドや大阪港の豪華客船での壮行会を開催しました。
白馬師団 テンションアップ 敵戦力600以下の戦場を無視可能に!(2師団合計)
ならでんスタジアム等で、戦争に向けてのブリーフィングや、被害予測の通達などを行いました。勝たねばならないという決意を改めて固めさせる効果があったようです。
蒼鴉師団 奇襲(15) 奇襲により「(15)イグニス」の戦力が50減少!
戦力をあまり削れないまま敗退しましたが、この戦場にはイグニスを除き、過去に勅忍になった本星の優れた螺旋忍軍しかいないことが判明しました。
勅忍部隊の個人戦闘力はケルベロスが戦争で戦った敵軍勢の中でも最強クラスですが、頭数はそれほど多くないようです。
金糸雀師団 (14)奇襲 奇襲により「(14)レプリゼンタ・ロキ」の戦力が200減少!
レプリゼンタ・ロキへの接近に伴い、『如意棒』に宿る、霊猿ハヌマーンの遺志が目覚めました。
ロキを『如意棒』を装備した状態で撃破できれば、特別な影響が発生するようです。
紫揚羽師団 (6)奇襲 奇襲により「(6)最上・幻斎&夜城・ネネ」の戦力が150減少!
最上忍軍は、日本各地の螺旋忍軍に声をかけ、天狗党の他、『コンタク党』や『ドーナツ党』の一部も戦力に引き込んでいたようです。
緋色蜂師団 (12)奇襲 奇襲により「(12)詠み謳う煌然たる朱き社&合成獣」の戦力が150減少!
屍隷兵『螺旋屍隷兵』『量産強化型屍隷兵』『嘆きのマリア達』といった屍隷兵が主のようです。嘆きのマリア達に埋め込まれた女性は助けを求める悲鳴を上げますが、既に死んでおり、助けることは不可能です。
黄鮫師団 (10)奇襲 奇襲により「(10)天地殲滅龍」の戦力が200減少!
この戦場の戦力は、奇襲を行った全戦場の中でも最も多かったようです。
山岳級とされる天地殲滅龍を収めるため、螺旋大伽藍の一部では空間が歪曲しているようです。