ナズナ・ベルグリン(シャドウエルフのガンスリンガー・en0006)は、ケルベロス超会議の会場であるカフェストリートを一通り見て回って満足そうにひとつため息をついた。
「どの企画も、美味しい、楽しいものがいっぱいでしたね」
まだまだ見て回りたい気持ちは山々だが、そろそろ集計結果が出る頃だろう。ナズナはちらと時計をみやり、そしてくるりと踵を返して集計結果を聞きに走る。聞き漏らしや間違いのないよう、手帳を開くとナズナはむんっ、と気合いを入れなおした。
「皆さんに結果をお知らせする役目、しっかり果たさなくては!」
けれど、その瞳には『もう一度遊びに行ける』という嬉しげな、期待に満ちた色もうっすら浮かんでいたような、いないような?
●第3位:喫茶レプリフォース&巨大レプリフォースロボ作り&Cafe【GunsCat】(
レプリフォース&
Studio【GunsCat】)
レプリフォースの大広間では、完成間近の巨大なレプリロボがナズナを出迎えてくれた。よくよく見ると、パーツの一つ一つがレプリフォース隊員の形をしているようだ。
「ふわ……大きいですね……」
見とれてしまいそうになり、ナズナはハッとする。伝えねばならないことが有るのだ――!
「いらっしゃいませ、レプリフォース喫茶へようこそ!」
「お帰りなさいませ、ご主人様っ♪」
ナズナがレプリフォース内の一室へ足を踏み入れると、メイド服姿の隊員が出迎えてくれた。ナズナはふりふりふわふわのメイドさんに、少しドキドキしながらこんにちは、と挨拶をする。
(「お帰りなさいませ、だから……ただいまの方が良かったのでしょうか」)
なんて首をかしげていると、マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)が注文したアイスティーを運んできてくれる。
「お待たせしました。アイスティーです」
ありがとうございます、と頭を下げてナズナはパッと手帳を開く。
「あの、集計結果が出ましたのでお知らせに来ました。レプリフォースの皆様、おめでとうございます!」
ナズナが少し大きめの声で告げる。マティアスは瞬きを一つ。
「おめでとう?」
「はい! 皆様の企画が、ケルベロス超会議カフェストリート部門の3位に入賞しました!」
瞬間、喫茶内にいた隊員たちから歓声が上がる。口々に祝いの言葉を掛け合う隊員を微笑ましく見つめ、ナズナはハッとした顔をした。
「ええと、このたびは本当におめでとうございます! それではっ」
あわただしく、次の場所へと走り出す。
駆け込んだのは、Cafe【GunsCat】だ。同率3位を獲得したこの喫茶は、超会議の熱気からは少し離れた場所にある。
「いらっしゃいませ!」
季節のフルーツタルトを乗せたトレイを手に、ティクリコティク・キロ(リトルガンメイジ・e00128)が振り返る。ナズナはトレイの上のきらきら輝く美味しそうなフルーツタルトに視線を奪われそうになりつつ、ぺこっと頭を下げた。
「おめでとうございます! Cafe【GunsCat】さん、ケルベロス超会議、カフェストリート部門3位を獲得されました!」
ティクリコティクの顔に喜びがあふれていく。
「ありがとうございます!」
そのとき、『すみません』と、お客がティクリコティクを呼ぶ声がした。ぱたぱたと走り去る彼に、ナズナは呼び止めてしまってすまないと告げる。
「あの!」
意を決してナズナは最後に伝えた。
「私も季節のフルーツタルトを……!」
お土産にひとつ、くださいな。
●第2位:執事喫茶「juventus」(
juventus)
「執事……喫茶」
ナズナは口が半開きになりながら執事の皆さん達を見つめる。これが日本文化。なるほど。
「ようこそ、ナズナお嬢様」
執事長たるマサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)がにっこりと微笑んで席に案内してくれる。
「おじょう、さま」
私がですか? と首をかしげるナズナにマサムネはふふ、と笑った。
「そうでございますよ。ご自分の家に帰ってきたつもりでごゆるりとお寛ぎください」
ロイヤルミルクティーをお淹れしましょう、とナズナの好みを当てると、マサムネは一度キッチンへ戻った。
(「すごい……執事さんというのはすごいです」)
ナズナはミルクティーが運ばれてくるまでの間、メニューにあったナッツのタルトを見つめてつぶやく。
「……さすがにおなかに余裕が……でも気になります……」
「はいっ。ロイヤルミルクティーお待たせしました。そちらも包みましょうか?」
そう提案され、ナズナは無言で何度も頷いた。
「そうでした、大切な事をお伝えしなくてはいけないのです」
ナズナは手帳をパッと開く。
「おめでとうございますっ!」
少し大きめの声で、店全体に聞こえるようにナズナは告げる。
「執事喫茶「juventus」さんは、今ケルベロス超会議、カフェストリート部門にて2位に入賞されました!」
瞬間。誰からともなく拍手が沸き起こる。
「おめでとう!」
「やったね!」
祝いの言葉とねぎらいの言葉を掛け合うと、執事達はスッと居住まいを正す。そして、そろそろお暇しますというナズナの手を一人がそっととり、一人が椅子を引いた。
「どうぞお気をつけていってらっしゃいませお嬢様」
ナズナはなんだか照れくさくも嬉しいような気がして、はにかんだ微笑を返す。
「いってまいります!」
●審査員特別賞:あめりうむ(
飴屋 すず)
ナズナは飴屋 すずの前で足を止める。そして、店先に並ぶ金平糖の小瓶にうっとりとため息をついた。
赤、青、ピンク、紫、白……食品であるのに飴細工と金平糖はきらきらと美しく宝石の輝きを放っているのだ。
その中でもナズナが特に気に入ったのが、『あめりうむ』であった。瓶のそこに金平糖を敷き詰め、その上に飴細工を飾る。テラリウムをそのまま飴に置き換えたような作品である。
「いらっしゃいませ」
繰空・千歳(すずあめ・e00639)が優しく声をかけてくれる。先刻はばたばたして出来なかったあめりうむ体験をしたい、と、ナズナは申し出た。千歳は瓶を並べ、そして色とりどりの金平糖を取り出す。他の客が手にしている、電球型の瓶やワインボトル型の瓶に広がるあめりうむの世界を横目に見ながら、ナズナは故郷の森をイメージした樹氷の世界を瓶へ詰め込んだ。
「食べるのが、もったいないですね」
灯りにかざすと、キラキラ光る。店主が作ったリスの飴細工も、精巧でかわいらしい。ナズナは満足げに一度頷いた後、千歳へと告げた。
「あの、あめりうむさん。審査員特別賞を贈らせてください。……素敵な飴細工を、ありがとうございます!」
居合わせた客達があめりうむを作る手を一度止めて、ぱちぱちと手をたたく。
一度驚いたように目を瞬かせた後、千歳はにっこりと笑った。
「ありがとう……!」
店の中では、彼女が作った飴細工の達が受賞を祝福するかのように、きらきらと甘く優しくきらめいていた。
●第1位:ようこそバナナカフェへ!(
バナナクラブ)
ふわふわーん。ふよよん。
「この香りは……」
ナズナは甘いかほりに誘われ(たわけではないが)カフェストリートのとある一角へやってきた。企画の名前で知ってはいたが。――知っては! いたが!
「すごく……バナナです」
バナナ広場にありますは、バナナクラブのバナナカフェ。近頃何かと噂のバナナですが、こちらのバナナは善良なるとてもよきバナナである。
「ようこそいらっしゃいなんだぜぇ」
カフェへ一歩足を踏み入れると、難駄芭・ナナコ(爛熟バナナマイスター・e02032)が両手にバナナを携えてお出迎えしてくれた。店中にバナナの芳醇な香りが充満している。フルーツが好きなナズナだが、生まれ育った土地ではそういえばあまりバナナは食べなかったなぁなんて思いながら、ナズナは席についた。
「ご注文はバナナですか?」
ナナコが差し出してきたメニュー表には、バとナがめちゃめちゃ多い。というかもうバナナ以外があるのドリンクの一部くらいだ。ナズナはごくりと生唾を飲み込む。
(「すごい……! 徹底したバナナです……!」)
バナナジュース、チョコバナナパフェ、バナナのタルト乗せ、バナナコーラ、バナナ入りパイ……。
(「バナナコーラ……?」)
怖いような足を踏み入れてみたいような、おずおずとナズナは尋ねる。
「おすすめはなんですか?」
「イチオシスイーツはバナナだぜぇ!!!」
バ ナ ナ !!!!!
「えと、バナナ?」
「あえてシンプルなバナナだぜぇ!」
チョコフォンデュもあるよ、と勧められ、ナズナはなるほど、と頷く。なにがなるほどなのかちょっと自分でも分からなくなってきた。
そろそろバナナがゲシュタルト崩壊しそうだ。
ゲシュタルト崩壊を起こす前に、役目を果たさねば。ナズナはぐっと拳を握り締めてナナコを呼び止める。
「あの!」
「ん?」
「ええ、と、貴企画のようこそバナナカフェへ! が、ケルベロス超会議カフェストリート部門にて第1位を受賞されました! おめでとうございます!!」
ワァアアアッ、と歓声が響いた。
「聞いたか! 皆! バナナの完全勝利だ!」
ナナコが拳を突き上げた。
「バナナ!」
「バナナ!」
「バナナ!」
「バナナ!」
バナナコールが店にこだまする。既にナナコはバナナになっている。ナズナはもくもくとバナナをほお張りながらその様子を見つめていた。
(「バナナ……ここまで人を惹きつけてやまない果物だとは……」)
「美味しいだけではないんだぜ……」
ぬっ、とナズナの背後に現れたナナコがナズナの肩をぽむとたたく。
「ひゃっ!?」
「バナナは栄養豊富……完全食だ。身も心もバナナとなるのだ……!」
「バナナ!」
「バナナ!」
ナズナはなんとなくだが、なんとかシャナとかにならないでね、とちょっとだけ思った。ちょっとだけ。
ナズナは、手帳に書きとめた店の情報と自分の感想をもう一度見返して口元を綻ばせる。
「楽しかったです」
また、来年も皆さんと楽しい超会議の時を過ごせますように。手帳にその一文を書き足し、静かに閉じて鞄にしまった。
「すみません、バナナコーラひとつ、お願いします」
運ばれてくるのは、グラスのふちに豪快に刺さったバナナのインパクトが激しいほんのりバナナの香り漂うコーラ。
未知への扉が、開きゆく。