●巡り巡るショウ&ライブ
「これが……『ケルベロスを知って貰う為色々会議したけど、なんやかんやでお祭りって流れになっちゃった』、略して『ケルベロス超会議』だというんですね……!」
イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)の、覚醒して数日の頭脳に流れ込んだ情報は実に膨大だった。何せこの2日間で優に170を超える旅団企画を巡り、同じだけのおみやげを貰っているのだから、初めて触れたものの数も数え上げようがない。
だが、沢山の『初めて』に感嘆の息をついてばかりもいられない。
何故なら、今のイマジネイターには重大な使命があるのだから。
「ショウ&ライブ部門の審査と結果発表という大役、無事に務めてみせます!」
ぐっと拳を握り締めたイマジネイターは、早速マイク片手に歩き出す。
ケルベロス達の投票によって選ばれた、栄えあるショウ&ライブ部門の入賞者を讃えるために――!
●第3位:【ニコ動連携企画】ファンタジーワールドからの脱出(
Steady Aim)
最初にイマジネイターが訪れたのは、【Steady Aim】のブースだった。
ここで行われているのは、ファンタジーワールドに召喚され、ドラゴンを倒して世界を救うという設定の脱出ゲームだ。
ちなみに、イマジネイターもお昼前にひっそりと参加して世界を救っていたりする。
「妖精達が出題する3つの謎を解いて、呪文を集めるんですよね。先程僕も挑戦しましたが、謎を解いた先のドラゴンも手ごわくて……!」
「あら、それは……無事に戻って来ることはできたのかしら?」
「ギリギリでしたが、勝てました。あの快感は、戦いのスリルを楽しんだ感覚、と言うのでしょうか……?」
首を傾げるイマジネイターに、楽しかったならよかったとデディア・スウェイト(シャドウエルフのガンスリンガー・e06171)が微笑む。
参加者同士で攻略法を語り合うコーナーが併設されていることもあり、歯応えのある難易度ながらもゴールへ辿り着くことをすぐに諦める必要はない、まさに手強い、けれども親切なアトラクションだったと言っていいだろう。
参加していたケルベロスやヘリオライダー達からも、『戦闘がすごく凝っていてビックリした』『大掛かりな企画、お疲れ様』『ヘリオンの恨みを晴らすことができた』などなど、その作り込みに好評が上がっている。
「タイムアタックを楽しんでいる方々もいたみたいですけど、皆さん早いですよね。尊敬します」
「そうねえ、最速で12分……だったかしら? 景品を贈る側としても、嬉しい限りってね」
「じゅうにふん……」
それも同率1位が複数いるというのだから、ケルベロスの謎解き能力、侮りがたし。
ケルベロスへの敬意をそっと脳内で更新しつつ、イマジネイターはもう1度デディアと視線を合わせ直す。
「では、そろそろ僕がここを再訪した目的をお伝えしなければいけませんね。【ニコ動連携企画】ファンタジーワールドからの脱出……こちらの旅団企画が、ショウ&ライブ部門の投票で第3位を獲得しました!」
そう告げられるや、デディアの金の瞳が細められる。
「ホホホ、去年に引き続き入賞ということね。光栄だわ!」
合同で企画を行った他の旅団とも一緒に祝わなければと笑う彼女を、にわかに祝福の声が包む。ゲームをクリアして語らっていた者、攻略途中で相談に来ていた者、ゲームの運営を見守っていた者、多くのケルベロスを巻き込んで、脱出ゲームの会場はやがてお祭り騒ぎの様相を呈していくのだった。
●第2位:【生放送】超ケルブレラジオ 2ndシーズン(
ラジオ放送制作部)
「ここは……放送局?」
場所合ってるかな、と思いつつイマジネイターが覗き込んだのは、ラジオ放送制作部の放送ブースだった。
何やらレプリカントっぽい人形が大量に詰め込まれた段ボールが積み上がっていたりもするが、設置された機材などなどから察するに放送ブースなのは間違いない。
「そうだよー。今は休憩時間だけどね」
ダンボールの山の隙間からそう答えたのは、流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)。すっかりぬるくなったペットボトルの飲み物で水分補給しながら、彼は放送予定のタイムテーブルらしき紙をめくった。
「今日も夜になったら色々放送する予定だから、よければ聴いてみてね」
「……ということは、昨日も色々放送していたんですね?」
ひらりと差し出されたタイムテーブルを見て、イマジネイターは目を丸くする。
初日昼過ぎの説明放送に始まり、レースにシミュレーション、人狼などなど、ゲームの生放送を中心に様々なコーナーが10時間以上も放送されていたのだ。
「こ、これは……もしかして、半日ずっと放送を……!?」
「いやいや、さすがに休憩は挟んでるけどね? まあでも、うん」
「お、お疲れ様です……」
ケルベロスの体力とトーク力って凄い。
また認識を改めつつ、イマジネイターはふと13日夜に放送されたらしいコーナーのひとつに目を留める。
「……ナンパ王?」
「ああ、それはターゲットに告白して、採点結果を競え! ってゲームのコーナーだね。実際にケルベロスの女の子にターゲット兼採点役をお願いしたんだ」
「告白……」
と言うことは、やっぱり恋心的なあれそれに関わるコーナーなのだろうか。今からでもそのコーナー聴いてみたりできないかな。でも恋ってどんなものか今の僕にはまるで予測もつかないしな……と、イマジネイターが考えていたかどうかはともかく。
「……では、その流れに乗じて僕も清和にお伝えしたいと思います」
「えっこの流れ? お、おう。どうぞどうぞ」
「【生放送】超ケルブレラジオ 2ndシーズンが、旅団企画ショウ&ライブ部門の投票で第2位を獲得しました! その栄誉を讃えて……えっと、おめでとうございます!」
「お、嬉しいねえ! 投票してくれた皆、ありがとー」
スイッチの入っていないマイクに冗談めかしてそう言う清和の姿に、イマジネイターは思わず笑いを零した。
●審査員特別賞:【庭園迷宮】(
Chambre la fraise)
「よく手入れされた庭園というのは、何度来ても居心地がいいものですね……」
超会議に合わせて開放されているという【Chambre la fraise】の立派な庭を歩きながら、イマジネイターは独りごちる。
この庭園に作り上げられた迷宮を踏破し、『お嬢様』『メイド長』『別館管理人』の誰かに会えれば成功という迷路型ゲームに昨日挑み、あえなく行き止まってしまった記憶はイマジネイターの中で未だ新しい。
「今日こそは……!」
誓いも新たに、昨日とは違う色の扉を開けるイマジネイター。果たしてその先に待ち受けていたのは、もっふもふのわんこだった。
「……」
とりあえず通して下さいとお願いしてみるイマジネイター。わふっと元気よく返事するわんこ。どうやら、OKの意らしい。
その後もクイズを出されたり麻雀勝負が始まったり、ウォータースライダーに乗ることになったりと、個性的な女の子の個性的な試練……いやおもてなしに出会いつつ進んでみれば、やがて見えてくるのは大きなゲート。その先で待っていたのは……。
「わ、わ。見つかっちゃいましたね」
猫耳を身につけ、和ゴスで着飾った赤堀・いちご(ないしょのお嬢様・e00103)。この庭園の『お嬢様』だ!
「はい。何故なら、僕にはどうしても君を見つけないといけない理由がありましたので」
「? 理由……ですか?」
こてりと首を傾げるいちごに、イマジネイターは真剣に頷く。
「はい。その理由とは……」
「理由とは……?」
一瞬、2人の間に緊張が走る。引き締まっていく空気の中、イマジネイターは遂にその一言をいちごへと告げた。
「ケルベロス超会議2017、ショウ&ライブ部門の審査員特別賞です! この賞を、僕は皆さんの庭園迷宮に捧げたいと思います!」
「!」
驚いたように、いちごが両手で口元を押さえる。たちまち、その姿を囲むように近くにいたメイド達が喜びの色をたたえて駆けてきた。
「おめでとうございます、お嬢様」
メイド達の歓声に合わせるようにそう言って、イマジネイターは広大な庭園を後にする。
●第1位:[Raison d'etre] 2ndライブ(
EDEN)
「……1位は、ここだったんですね」
初日に1度訪れたライブ会場の前に立ち、イマジネイターは呟く。聴いたことのない旋律、けれど確かに聴き覚えのある歌声。引き寄せられるように客席に入ると、ステージに立つイブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)の姿がはっきりと見えた。
「それじゃあ、この辺りから初期曲メドレーに入るぜ。去年のライブのメインだった、悲恋を綴ったハーモニー」
そう告げて、この一年で様々な感情を学んだ分、歌にも彩りが増していれば嬉しいと語る彼女を、イマジネイターはどこか眩しい気持ちで見上げる。心を、感情をもっと知れば、それだけ音楽も美しく実っていくというのだろうか?
そうしているうちに、イブの唇が静かに旋律を紡ぎ始めた。
想い人との離別を歌うほろ苦い恋の歌に合わせて、客席のそこここでサイリウムが大きく揺れる。
過去を懐かしむような背中や、まだ恋を知らない横顔、周囲の観客達の見せる様々な表情をちらちらと気にしながら、イマジネイターも周りにならってサイリウムを振ってみる。ひとつ、またひとつ、上がったサイリウムが客席を光の海のように染めていく。
その海の只中にあって歌うイブが、語りかけるように腕を伸ばした。誰からともなく上がった歓声が、音楽に重なり、より大きな音の波を作っていく。
終演を待って、イマジネイターは楽屋の方へ向かってみる。扉をノックすると、丁度戻っていたらしいイブが顔を出した。
「お、イマジネイターちゃんは今日も来てくれたのか。超会議、楽しんでた?」
「はい、皆さんのおかげでとても! ……それにしても、凄く沢山の差し入れですね」
楽屋のテーブルに積み上げられたカードやお菓子、花束などなどを物珍しく見つめるイマジネイターに、イブはくすりと悪戯っぽく笑って。
「それだけ沢山のお客さんが聴きに来てくれたんだよね。去年もライブをやったんだけど、その時よりもかなり人が増えた気がするぜ」
「多くの人でお祭りが賑わうのは、良いことですよね。ライブも素敵で、皆さん凄く盛り上がっていたみたいで……!」
と、そこまで言ったところで、イマジネイターはここに来た本来の目的を思い出す。違う、僕個人の感想も勿論届けたいけど、そうじゃなくって。
「あっ、それでですね。本題なんですけど……今年のケルベロス超会議、ショウ&ライブ部門の第1位は、[Raison d'etre] 2ndライブとなりましたので、お知らせに来ました!」
「えっ」
一瞬、イブが目を見開いて固まった。けれど、すぐに彼女の表情はステージ上で歌を歌っていたときのそれに変わる。
「本当に……? 本当に、僕のところが1位だって?」
「はい、本当に本当です! それだけ、イブの歌の力が素晴らしかったんだろうと……そう、僕は思います」
「そっか。……なんか、照れるな。でも、ありがとう!」
イブの言葉に、イマジネイターは力強く頷く。彼女の歌の力は、イマジネイター自身もよく知っていたから。
「これからも、素敵な音楽を作っていってください。僕も、応援していますので!」
そう言い残してその場を後にするイマジネイターと入れ替わりに、沢山のケルベロス達がイブの楽屋へと駆けていく。きっと、旅団企画1位の報が早くも出回っているのだろう。
歌姫への祝福の言葉を背中で聞きながら、イマジネイターは言葉にならない充実感に空を見上げる。
「この想いも、今はまだどんな形にもできそうにないけれど……でも、ケルベロス。君達の創造する多くのものに触れたこの2日間は、確かに素晴らしいものでした」
或いは、そう思えるのも『心』という機構のしわざかもしれない。
そんなことを考えつつ歩を進める先には、何が待っているのだろうか?
答えが分かるのは、きっともう少し先の事。