セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、とても満足していた。
何故なら、彼女は、世界最大の超会議たるケルベロス超会議のカフェストリートをメインに探訪して、74個ものお土産をもらうことができたのだから。
「ほくほくですね」
セリカは、左手でお腹をさすりながらも、胸を張る。
カフェストリートは、飲み物やお菓子がメインだったとはいえ、一日に数十軒以上も探訪すれば、お腹は、ちょっとたぷんたぷんだ。
そこで、セリカは、その場で、ぴょんぴょんと2度ほどジャンプしてみた。
胸が上下に弾むのはいつも通りであるが、それ以上にお腹がたぷたぷする感触がちょっと面白い……。
そして、セリカはそのいつもと違うその感触を直感で分析し、適度な振動が与えられた事を確信して、厳かに頷いた。
「別腹の作成に成功したようです。では、行きましょう。皆が、私の到着を待っているはずですから」
そして、セリカは、準備していたマイクと私物の携帯型ドラムセットを装備して歩き出す。
その目的地とは……。
●第3位:おとぎ喫茶☆不思議の国のぐるてぃ☆(
カフェ的秘密組織☆ぐるてぃ☆)
まず、セリカがやってきたのは、カフェストリートでも最もファンシーでキュートなお店、おとぎ喫茶☆不思議の国のぐるてぃ☆ である。
幻想的なパステルなお家の門をくぐれば、店員たちが様々なお姫様に扮して接客してくれるという、まさにメルヘンなカフェでなのだ。
このカフェに入ると、まるで、おとぎ話の登場人物になったように感じら、セリカも、少しだけ童心にかえって、ほっこりしてしまった。
「私も、お姫様になってみたいなって思ってしまいますね」
このセリカの何気ない一言に、接客に来た、団長の、白雪・まゆ(月のように太陽のように・e01987)が、嬉しそうににっこりと笑って見せる。
その笑顔は可愛らしい花のようだった。
「大丈夫、セリカさんもお姫様になれるよ。だって、ここは、素敵なヘルヘンが現実になる、おとぎ喫茶☆ぐるてぃ☆ なんだから♪」
そして、
「そんな、お姫様に憧れるセリカさんにスペシャルメニューです」
と、お姫様の衣装のように白く輝く生チョコを持ってきてくれた。
「ぱくぱくもぐもぐ」
セリカは、生チョコを一口食べると、さらにほっこりと口元を綻ばせる。
このまま、おとぎの世界でのんびりしたい。
そんな誘惑が、セリカを襲った。
しかし、セリカはその誘惑に打ち勝つと、来訪の目的をつげるのだった。
「おめでとうございます! おとぎ喫茶☆ぐるてぃ☆ は、ケルベロス長会議、カフェストリート部門の3位に入賞しました!」
そのセリカの言葉に、店内にいたお姫様達が、まゆのところに駆け寄る。
赤い頭巾をかぶったまゆの元に集まったのは、豪華なドレスのお姫様に、アラビアンなお姫様、エプロンドレスのお姫様に、竜宮城のようなお姫様に、十二単風のお姫様に、ねこっぽいお姫様。
さらには、なんか眠そうでだるそうなお姫様までやってきて、まゆを祝福する。
それはまさに、お姫様のパラダイスのようだった。
(「これは、見ごたえがありますね!」)
セリカは、自分がレプリカントなら、この光景を動画で撮影するのにと残念に思いながらも、他のお姫様と一緒に、まゆを祝福する。
更に、店に来ていたお客様も含めて、喜びの声があがり、3位入賞をお祝いする、お茶会が開かれた。
おとぎの国の住人によるパッピーでセレブレイトなお茶会は、にぎやかに楽しく、行われたのだった。
●第2位:【バナナクラブが】バナナ喫茶【バナナ喫茶してみた】(
バナナクラブ)
おとぎ喫茶☆不思議の国のぐるてぃ☆ の楽しいお茶会を後にしたセリカは、次の目的地へ向けて歩き出した。
その胸中に、一つの決意を秘めて。
(「先ほどは、準備したドラムセットを鳴らすのはわすれてしまいました。だから、次こそは」)
かなりどうでも良い決意であったが、折角準備したのだから使わないという選択肢は無いのだ。
「お邪魔します。皆さん、おそろいですか?」
しかし、決意と共にお店に入ったセリカは、店に入った途端にチョコバナナを渡されて、もぐもぐとチョコバナナを食べてしまうのだった。
バナナクラブのチョコバナナを食べるのは昨日に引き続き2本目だが、やはりうまい。
チョコも美味しいが、やはりバナナが違うのだろう。
「ごちそうさまでした。それはそれとして、ちょっと宜しいでしょうか」
自らもバナナを食べつつ、せっせと来客にチョコバナナを配っている難駄芭・ナナコ(バナナだバナナを食べるんだ・e02032)に、セリカが声をかける。
「ふぬ?」
バナナを咥えたままふりかえる、ナナコ。
そこで、おもむろに、セリカは携帯型ドラムセットに手を伸ばし……。
「だん、だかだかだかだかだか……どん!」
と、ドラムをロールしてみた。
いきなり、店先でドラムロールするエルフの女性の姿は、ちょっとシュールであったが、仕様なのでしょうがない。
その音に、ナナコも客も団員も、思わず、セリカのほうを見る。
そして、自分に注目が集まったのを確認したセリカは、
「おめでとうございます! 【バナナクラブが】バナナ喫茶【バナナ喫茶してみた】さんは、カフェストリート部門の第2位に入賞しました!」
ドラムロールを終え、一仕事したような表情を作ったセリカが、団長と団員達に向けて、祝福の言葉をかけた。
そのセリカの言葉に、店内に無数の祝福のバナナが降り注ぐ。
もし、この世界に、バナナの楽園があるとしたら、それは、間違いなくここだと断言できるだろう。
店内の皆に即されて、ナナコがバナナをマイクにして受賞のスピーチをする。
不健康そうなナナコの顔も、多数のバナナの色が移りこんだのか、食べてしまいたいくらいに魅力的だ。
「バナナは、完全栄養食なのだ。だから、1日3色バナナを食べても、大丈夫! みんな、バナナ食べようぜっ!」
そう言うと、おもむろに、マイクにしていたバナナを剥き、まわりの全員にも剥くように示唆する。
勿論、セリカも、受け取ったバナナを剥いた。
そして、
「ケルベロス超会議2位入賞を祝って、バナナで乾杯!」
ナナコがバナナにかぶりつき、続いて皆もバナナにかぶりついた。
そして、ひとしきり、バナナをもぐもぐした後、
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
と、ナナコを中心に、祝福の声が響きわたった。
その後は、入賞記念のフルーツパーティーだ。
バナナは勿論、イチゴもみかんもリンゴも桃も梨もマンゴーもパイナップリもさくらんぼもブルーベリーもメロンもスイカもキウイもブドウだってある。
「アタイ、いま、とっても幸せだぜ」
そう言うナナコを暖かく見守りながら、みんな、嬉しそうにフルーツを食べ続けたのだった。
●審査員特別賞:アンリミテッドお菓子ワークス(
黒猫旅団)
フルーツ食べ放題を楽しんだセリカは、再び、次の目的地へと歩みだす。
迷い無く堂々と歩くその姿は、風格すら感じられる。
「カフェストリートは、もはや、私の庭といっても言い過ぎではないでしょう」
実際、通りかかりの観光客に、
「皆さんのナビゲートは私にお任せください」
と、案内役を買って出た事も数回以上あるのだ。
そうして、セリカがやってきたのは、アンリミテッドお菓子ワークスであった。
ここは、ダイスを振って出たおかしが、降ってくる不思議なお菓子ブース。
遊びに来た人は、振ってきたお菓子の数にビックリしつつ、美味しいお菓子を堪能するのだ。
折角なので、セリカも挑戦する事にした。
「前回は、上サマフィンの山に埋もれてしまいましたが、今回はそうはいかないのです」
そう言って、ダイスを降るセリカ。出た目は……。
「……黒猫型胡麻クッキーが3個ですね」
セリカの手には、可愛らしい黒猫を象ったクッキーが3つのっている。
サクリと食べれば、抑えめな甘さと胡麻の風味が口腔に広がっていき、上品な後味で締め括られる。
なかなかに、完成度の高いクッキーだった。
「これは、もう少し数がほしいかもですね」
セリカは、そう言うと、それに気づいた、団長のミュラ・ナイン(想念ガール・e03830)が、いらっしゃいませーとやってきて、セリカに黒胡麻クッキーを2枚プレゼントしてくれた。
「ありがとうございます」
セリカは、ペコンとお礼を言うと、この機会を逃さずに本題に入った。
「だん、だかだかだかだかだか……どん! アンリミテッドお菓子ワークスが、ケルベロス超会議のカフェストリート部門で審査員特別賞となりました! おめでとうございます」
ドラムロールも忘れずに、そう祝福するセリカに、今度は、ミュラがペコンとお辞儀する。
「審査員特別賞か、嬉しいね。すごく嬉しいよ」
そのミュラの言葉と共に、ブースに様々な、お菓子が降り注いだ。
それは、入賞を祝福するお菓子乱舞であったろう。
「何が出るかなって、全部でたー!」
「このちくわ美味しいですね」
「から揚げもあるよ」
セリカとミュラは二人でもぐもぐしていると、入賞を祝いに来た皆も、一緒にお菓子をもぐもぐしはじめた。
「もぐもぐ」
「もぐもぐ」
「もぐもぐ」
降り注ぐお菓子を食べて、楽しく過ごそう、アンリミテッドお菓子ワークス。
なにが出るかは、その時々の、お楽しみ♪
●第1位:白い粉bar*シロコナバル(
ベルファミリア)
お菓子やちくわやから揚げをもぐもぐしたセリカは、再び、カフェストリートを歩き始めていた。
セリカの軽やかにスキップするような足取りで、体を上下させながら歩いていく。はためから見ると、とても楽しそうだ。
だが実際は、体を揺するようにして歩くことで、新たな別腹を生み出すという、実用的な歩方であった。
そして、目的の地下への階段を見つけると、慎重に階段を折り始める。
「なにか、背徳感のある雰囲気ですね」
セリカの言うとおり、白い粉bar*シロコナバルは、廃ビル地下の古びたバーのような雰囲気である。
まさに、大人の遊技場という風情だ。
地下を照らす揺らめく明かりに照らされながら、セリカは、バーカウンターの奥の棚にズラリとならぶ、試験管に目を奪われる。
試験管にあるのは、白い……白い粉だ。
それは、ただの白い粉なのか、いや、違う。
一目それを見てしまえば、どうしても手に入れたい気分になる。
そういう魔性を秘めた白なのだ。
ふと気がつくと、団長のムゲット・グレイス(日陰のクロシェット・e01278)が、ダーツの矢を2本手に持ってセリカに差し出していた。
そして、壁にかかったダーツの的を指し示す。
あの的に、このダーツを投げろという事だろう。
「やっ、やっ!」
セリカは立て続けに2本の矢を放つ。
放たれた矢は、狙いあまたず、細かな数字の記された的を射抜いた。
「96、68」
鈴の音色のようなムゲットの声が数字を告げ、それに対応する試験管の粉が、セリカへと渡される。
「マツタケ風味のこんにゃく粉……」
セリカは、その香りを楽しんだ後、ペロリと粉を舐めた。
「ヘルシーで美味しい?」
首を傾げたセリカに、周囲の客がくすくすと笑いあった。
くすくす笑われたセリカであったが、ここで、急に背筋を伸ばすと、ドラムセットに手を伸ばした。
「だん、だかだかだかだかだか……どん!」
店の雰囲気に全くあっていない、ドラムロールの音が響き、そして……、
「おめでとうございます! 白い粉bar*シロコナバル が、ケルベロス超会議カフェストリートの第1位となりました!」
セリカの祝福の言葉が紡がれる。
だが、今までのカフェと違い、白い粉bar*シロコナバルが祝福ムードの包まれる……という事はなかった。
決して、祝福していないわけでは無い。
良く見ると皆が三者三様に、白い粉を楽しみつつ、白い粉bar*シロコナバルの栄誉を、祝う動作を示しているのだ。
それは、まさに、大人の遊技場の余裕であったろうか。
「白い粉は、マフィアの道楽。たのしんでくれたらそれでいい」
ムゲットもまた、優勝という栄誉を当然のように受け入れ、そして、再び白い粉bar*シロコナバルは平常営業へと戻っていった。
白い粉を求めて、白い粉bar*シロコナバルに足を運ぶものは幸いである。
何故なら、この場所には、ありとあらゆる白い粉が揃っているのだから。
快楽と安寧と、少しの刺激。
そして、大人の雰囲気を、ぜひ、味わってほしい。