お祭り屋台村 結果発表!

●祭りの華、屋台
 盛況ぶりを見せる超会議の一角に、
 ケルベロス達によって造り上げられる料理の数々は、訪れるケルベロスや一般客の胃袋を満たしていく。食べ物を出す屋台だけでなく、金魚すくいなど定番の屋台もあり、人々を楽しませている。
「いやぁ、盛況っすね! 自分も楽しくなって来るっすよ」
 お祭り屋台村の審査員を担当するヘリオライダーのダンテは、嬉しそうに呟く。
 ここは『お祭り屋台村』。
 超会議の中でも、ひときわ『祭り』としての色彩が強い一角だ。
 屋台に並ぶ人々の楽しげな様子に自分も顔を綻ばせながら、ダンテは人ごみを避けつつ会場を歩んでいった。

●3位:御食事処大正浪漫寫眞館(光画部
 ダンテが最初に訪れたのは、お祭り屋台村の一角にあるレトロな写真館型ブース。
『御食事処大正浪漫寫眞館(たいしょうろまんしゃしんかん)』。
 その内装は大正時代の食堂をイメージした和風レトロのものだ。
 給仕も大正ロマンを感じる衣装を着用しており、メニューも目玉メニューのまぐろ料理を中心とした和食メイン。
 客も大正時代の衣装を着て写真撮影ができるコーナーがあり、賑わいを見せているようだった。
 だが、ここは写真館であると同時に食事処である。
 中からは美味しそうな匂いが漂っていた。

「いらっしゃーい!」
 店番をしていたロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)と団長である保戸島・まぐろ(無敵艦隊・e01066)が応対してくれる。
「マグロ丼と麦茶お願いするっす!」
「はいよっ!」
 威勢の良い返事を返し、ロディは丼を準備に入る。
 すぐに用意されて出て来る丼に使われている具材は、団長であるまぐろが自ら釣り上げて来たものだ。包丁を振るいマグロを解体したのも、団長自身である。
 マグロ丼が出て来るのを待つ間に、ダンテは店内を見渡した。
「話によると、超巨大丼が凄かったって話っすけど……ああ、あのコーナーっすね」
 一抱え以上はある巨大な丼を見て、ダンテは一瞬目を疑った。
 天然鮪を1本まるごと使った超巨大丼。
「これ全部って、何十キロとありそうな気がするっすね……」
 ケルベロス達の腹の容積をゆうに超えている気がするのだが、そこはケルベロスである。既に何名もの完食者が出ており、挑戦した者達からは確かな人気を博しているようだった。
「さすがケルベロスっす……!」
「確かに、あれは凄いと思うわ! その迫力、さすがケルベロスってことね!」
「気持ちの良い食べっぷりだったわね」
 有枝・弥奈(紫電双閃・e20570)やクッキー・コリコパット(アホの子・e04710)の完食を見守っていた月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)が、強く頷く。 
「あ、団長さん。ちょっと良いっすか」
「?」
 手を出してくる団長に、いきなりマイクを突き付ける。
「人気投票入賞おめでとうっす!!」
「え、ええ?」
 不意打ちというように突き出されたマイクに、戸惑うようにダンテと賞状を見比べるまぐろ。
「というわけで、一言お願いするっす」
「え、これ録音してるの? ……えー、マグロの解体と同じでみんなの応援のおかげよ! ありがとう!」
 微笑むまぐろ。
「それじゃ、超会議終了まで、頑張って下さいっす!!」
 新たな丼への挑戦者が来店したのを受け、対応に向かうまぐろ達に挨拶すると、ダンテは次なる会場へ向かった。

●2位:維天玄舞紗大社迷物おむすびくじ(玄舞紗の社
 ダンテが次に訪れたのは、旅団『玄舞紗の社』の会場である。
『維天玄舞紗大社迷物おむすびくじ』と名付けられた出し物は、『おむすび』によって吉凶を占う『おみくじ』だ。
 やはり元の旅団が社であるからか、賑わっていながらも、どこか節度ある雰囲気が漂っているようにダンテには感じられた。
「自分も引いたんすよねぇ。おむすび、美味しかったっす!!」
 ちなみにダンテが引いたおむすびは、炊き込みご飯に昆布の佃煮を入れた恐ろしく健康的なおむすびであった。
 【超吉】であるらしい。その加護かは分からないが、ここまで無事に超会議を巡ることができている。

 ちなみに、おむすびは全て団長である維天・乃恵美(奉雅駆の戦巫女・e02168)の手製であるということで、『美少女ケルベロスのお手製おむすびが貰える!』とネットで話題となっていた。
 もっとも乃恵美はドワーフであり、とうに成人している。
 それでも良いという派閥、むしろその方が良いという派閥、ドワーフなら全て良いという過激派などがネット界隈で奇妙な論争を発生させていたりした。実にバチ当たりである。
「まあ、それはさておき」
 そんなどうでもいい情報を頭の片隅に追いやりつつ、ダンテはブースへと足を踏み入れた。昨日既におむすびを引いているダンテは、『御休憩所たるたろす』と書かれた一角へ向かう。
 おむすびを受け取った人達は、ここでおむすびを食べているようだった。
 ダンテが振る舞われている豚汁を受け取ると、どっさりと具材が器に入って来た。
「さて、団長さんを探すっすよ!!」
 と拳を握るダンテだが、どこにいるかは一目瞭然だった。
 ブースの奥、米櫃を前にして、乃恵美は次々とおむすびを作っていた。
「団長さーん、ちょっとお時間良いっすか?」
「はーい?」
 手を拭きながらダンテの方へと歩いて来る。
「旅団『玄舞紗の社』さんが、旅団企画人気投票『お祭り屋台村』部門で、2位に選ばれたっす! さっそく、一言お願いしたいっす」
「えっ」
 前置き無しにインタビューを始めるダンテに一瞬驚いたような表情を浮かべた乃恵美だが、一つ咳払いすると自然な表情に戻って言う。
「投票して下さった皆さん、ありがとうございます! まだ営業していますので、当たるも八卦、当たらぬも八卦。運試しのつもりで、来て下さいね」
「ありがとうっす!」
 いざという時の対応力も、彼女の神職として、そしてケルベロスとしての力を示しているであろう。
 微笑する乃恵美に礼を言うと、ダンテは会場を後にするのだった。

●審査員特別賞:アストロケバブでジンギスカン!(穹窿の標
 それは、深夜の出来事であった。
 羊達の眠る牧場を前に、トラックから降りるのは白羽・佐楡葉(紅棘シャーデンフロイデ・e00912)と尾神・秋津彦(走狗・e18742)。
「それじゃ尾神くん、ターゲットはあの牧場ですよ。私が羊たちをトラックに積み込みますから、あなたはここの住人たちが起きてきたら何とか足止めしてください」
 猟銃を手に、彼女が見つめる先には、寝静まった牧場があった。
「いきなり犯罪の片棒担がされそうで小生ドキドキすっぞ!」
 秋津彦は困惑しきった様子で返事を返す。
「いやいやナチュラルに計画語られても困るのでありますが」
「君、ティユさんたちにこんな真似させる気です? 男の子としてそれはどうかと思う」
「人間として人様の財産奪うのはどうかと思う。確かモンゴル辺りじゃ普通に死刑級の罪でありますぞ。チンギスハーンもおこですぞ」
 冷たい風が佐楡葉と秋津彦の間を流れた。
 次の瞬間、動いたのは佐楡葉だった。
 猟銃のストックで秋津彦を殴りつけたのだ。
「すごく痛い」
「それが……ジンギスカンを楽しみにしていながら食べられないお客様の痛みです。反省しなさい」
 真顔で言う佐楡葉。
 一瞬はっとしたような表情を浮かべた秋津彦だが、その表情はややあって呆れたようなものに戻った。
 詭弁であることに気付いたのであろう。
 問答無用で帰ろうとした秋津彦の背に、佐楡葉は猟銃の銃口を当てた。
 発砲する。
 秋津彦は何も言えぬままに倒れ込んだ。
 近くに寄って来ていた羊が逃げようとするのも撃つと、佐楡葉は素早く秋津彦と不幸な羊をトラックの荷台に放り込んだ。
 そうこうする内に小屋の電灯が点き、ランタンの燈りが遠目に灯る。
 銃声を響かせていれば当然のことながら、気付かれたのであろう。
「おっと、気付かれてしまいましたね……仕方ない、私一人でやれるだけやりますか」

『再度装填しつつ、少女は挑む。すべてはお客様へ新鮮なジンギスカンを送り届けるため……!』

 そんなナレーションが響き、『PV映像』は終わった。
「どうかな?」
「いや、その……審査員特別賞はあげるっすけど、このPVはやめといた方がいいんじゃないっすかね?」
 審査員特別賞の受賞を告げるためにブースを訪れたダンテは、見せられたPVの内容にドン引きしながら言った。
「特別賞ですか。やりましたね」
 ダンテの言葉にサムズアップする佐楡葉。団長であるティユ・キューブ(虹星・e21021)は頭痛を堪えるように頭を抱えると言った。
「『※あくまでやる気と品質へのこだわりを示したイメージ映像です』とかテロップつけたら、ダメかな?」
「キツいっす」
「うーん」
 ジンギスカンとケバブの出来が良かったためだろう、人気投票の順位も入賞こそ逃したものの悪くない。
「あのPV公開したらヤバかったっすね……」
 ティユ達に別れを告げ、ダンテの耳に、どこか悲しげな羊の鳴き声が届く。
「……あれイメージ映像だったんすよね?」
 深く追求するのは避けることにして、ダンテは次なる場所へと向かう。

●1位:春だ! 時期を逃した! たいやきだ!(S.S.F.M
「いたいた、あれっすね。前のところにいないからどこ行ったかと思ったっす」
 ダンテが赴いた先には、行列ができていた。
 行列の先にあるのは、黒塗りの謎の車。
 旅団『S.S.F.M』の屋台、機動鯛焼店『銃拳二号』であった。
『銃拳二号』内に設置された鉄板を使い、素早くたい焼きを焼き続けるのは、団長であり、店主である八代・社(ヴァンガード・e00037)。
 八代が用意した食材が切れ、客の流れが一旦途切れたところを見計らい、ダンテは次なる地点へ移動しようとしている『銃拳一号』に走り寄った。
「ちょっと待って欲しいっす!」
「ん……ダンテか。何か用事か?」
「えー、単刀直入に言うっす。『お祭り屋台村』部門、人気投票1位っす。八代さん、おめでとうっす!!」
「はぁ?」
 思わず目をすがめる八代。
「お前、それ先に電話で連絡とかしろよ……」
「いやぁ、申し訳ないっす。そういう方針で……。まあ、仕込みっぽい雰囲気無い方がきっと好印象ってことっすよ!」
 ぺこぺこと謝罪しつつインタビューを止める気はない様子のダンテに溜息一つ、社は煙草の火をくゆらせる。
「しかし似たような企画結構あったんじゃないか?」
「食レポとかで人気沸騰したみたいっす」
「あー、大体誰のだか見当ついたわ」
 上里・もも(ケルベロスよ大志を抱け・e08616)の見事な食レポを思い出しつつ、社は頷いた。無論、彼女のみならず、立ち寄った多くの人々が評価した結果であろう。
 屋台が移動してきた場所は、ここが最初ではない。
 既に数地点を巡って来た『銃拳二号』は、これまでにも多くの一般客にたい焼きを販売して来ていた。
「えらい評判になって、追跡マップとかできてるっすよ」
「……次は車検きちんと通すか……」
「え?」
 ダンテの疑問に、素知らぬ顔をつくる社。追及しない方が良さそうだと判断し、ダンテは
「それに、店長さんのトークとか評判だったっすね。カリスマケルベロスたい焼き屋さんとしての活動とか期待する声もあるみたいっすけど」
「いや、それはどうなんだ」
『S.S.F.M』の本業はカフェ兼サルーンである。
 たい焼き屋として大変な評判になっているようだが、幻のメニューになるか否かは八代次第であろう。
「それじゃ、もう一稼ぎして来るか。まだまだ待ってる奴もいるみたいだしな」
 そう断ると、社は『銃拳二号』に乗り込む。

「お気をつけてっす! 超会議、来年も出来ると良いっすねぇ」
 去りゆく『銃拳二号』を見送るダンテ。
 ケルベロス超会議の熱は、まだまだ冷めないようだった。