ザイフリート王子からの情報
エインヘリアル第一王子、ザイフリートである。
だが、私はこれより先、エインヘリアルに利する行為を行う事は無い。
私は、お前たちを信じると決めた。この後はお前たちの言葉に従おう。
私の処遇も含め、今後の事は全てお前たちに一任するが……。
まずはその前に、私の知りうる全ての情報を提供しよう。
●ヴァルキュリアについて
お前たちに救出して貰ったヴァルキュリアは、一旦私が殺しておいた。
これが彼女たちのコギトエルゴスムである。保管を願いたい。
……ヴァルキュリアは常に「ニーベルングの指環」の支配下にある。
今のエインヘリアルがヴァルキュリアを完全な消耗兵として扱っているならば、いつまた洗脳されるか分からない。女神ヴァナディースを倒すまでは、こうせざるを得ないのだ。
●女神ヴァナディースについて
女神ヴァナディースは、過去エインヘリアルが滅ぼした「アスガルド神」の一員だ。
彼女は、自らの力を削る事で、コギトエルゴスムを「宝具」に加工できる。
元々は主神級のアスガルド神だったが、愛を美徳とする信条故に、頼まれるがままに数々の宝具を作成していた。故に、今の強さはかつての見る影も無い。
……そう、「ニーベルングの指環」も、彼女が作りし宝具のひとつだ。
ただ、彼女の宝具は、彼女に「真の死を与えれば」、その力を失うと言われている。
真の死とは、かつてのアスガルド神特有の言い回しで、要するに、本当に死ぬという意味であり、お前達ケルベロスが現れるまで、デウスエクスにもたらされることは無いと信じられていたものだ。
彼女は今、「魔導神殿群ヴァルハラ」のひとつ、人馬宮ガイセリウムに幽閉されている。
●「魔導神殿群ヴァルハラ」とは
魔導神殿群ヴァルハラは、私達が過去アスガルド神より奪った、自走能力を持ち合体する12の「神殿」の総称だ。普段は主星アスガルドに配置されているが、現在はその幾つかが地球に配置され、エインヘリアルの「ゲート」を防衛している。
私は、全部で12ある神殿の名称を全て覚えている訳ではない。
なぜならば、エインヘリアル軍は皆、白羊宮ステュクスにて戦闘に不要な記憶を洗浄しなければ、戦に出る事はできないからだ。これは、敵の虜囚となったり、今回の私のようなケースを警戒しての事である。
私が覚えている限りの、ヴァルハラ12神殿の名称を告げよう。
白羊宮「ステュクス」
金牛宮「(不明)」
双児宮「(不明)」
巨蟹宮「ビフレスト」
獅子宮「フリズスキャルヴ」
処女宮「(不明)」
天秤宮「アスガルドゲート」
天蝎宮「(不明)」
人馬宮「ガイセリウム」
磨羯宮「(不明)」
宝瓶宮「グランドロン」
双魚宮「死者の泉」
天秤宮アスガルドゲートこそが、我々の「ゲート」だ。
当然ながら、この神殿だけは、ゲートであるため動かすことができない。
アスガルドゲートは、八王子市……いわゆる「東京焦土地帯」の遥か地下深くにある。
魔導神殿群ヴァルハラも、幾つかが、ゲートの周囲に展開している。
が、おそらく今は、ゲートに辿り着く方法はあるまい。
地底から地上に至る通路は無く、我々は魔空回廊でのみ行き来していたからだ。
現れたシャイターンもまた、転移してきたのであろう。
……おそらくは、第五王子イグニスの命によって。
●第五王子「イグニス」
私の父、エインヘリアルを統べる「英雄王シグムンド」には、数多くの後継者候補……王子が存在する。イグニスは、その悪辣さにも関わらず、第五王子の地位にある。
言うまでもないが、私より強い。
私はともかくとして、第五王子までになってくると、もはやエインヘリアルの枠に留まらぬものも現れる。イグニスも、「タールの翼」「尖った耳」「濁った目」という、シャイターンそのものの容貌を持つ。
お前たちケルベロスが現れるまでは、デウスエクスであるシャイターンは死ぬことも無く、エインヘリアルとなることも無かった筈なのだが……。
●ザイフリート自身について
私がビフレストを擁してお前たちに挑んだのは、あの時こそが、お前たちケルベロスを皆殺しにできる好機であると、「未来予知」したからだ。
私は、弱く制御不能ながら、限定的な「未来予知」の能力を持っている。
お前たちケルベロスは、私達デウスエクスを殺害できる、宇宙にただひとつの存在。
それを根絶やしにできる好機など、忠実なるエインヘリアルとして見逃す事はできなかったのだ。まあ、どうやら、私の言を信じる配下は居なかったようだが……。
●!!?
……私が知っている事、「ステュクス」に洗浄されなかった範囲の情報は、ここまでだ。
これで、私自身の価値は無くなったと言って過言ではない。
私の処分は好きに任せるが、済まぬが、ヴァルキュリア達の身の安全は保証して欲しい。
……………………!?
な、なんだ、この機械音は?
あれは何だ? 一台のヘリコプターがこちらに向かってくるぞ!
しかもこれは……こら、やめろ!
どうした事だ、まるで私に懐いた子犬のように、纏わりついてくるではないか!
なんだなんだ、何なんだこのヘリコプターは! 誰か、ちょっとこいつを止めてくれ!