オウガメタル救出~薄明に繋ぐ光

作者:五月町


 山陰地方の山奥。
 人跡未踏の山肌には、働きアリローカストによって作り出された異形の建築物が立ち並んでいる。
 異形の建築物はそれ自体が生命体のように有機的に積み重なっており、更に、上空や周辺から完全に隠蔽される構造となっていた。
 この異形の建築物の中心にある宮殿には、アリ系ローカストの支配者たる、狂愛母帝アリアが鎮座し、ローカストのゲートの地球側出口を守護していた。
 そのアリアの元に、兵隊アリローカストの一体が駆け込んでくると、緊急の報告をする。
「大変です、アリア様! ゲートから大量のオウガメタルが出現、我等の制御を受け付けず、都市区域から逃走しようとしています!」
 大量のアルミニウム生命体『オウガメタル』がゲートから現れ、そして、逃走しようとする。
 この事態は、狂愛母帝アリアにも予測不能だった。
 だが、最も重要なゲートの守護を任された実力者であるアリアは、すぐに打開策を考え実行に移す。
「今すぐゲートに向かい、ゲートを一時閉鎖する。お前達はただちに出撃し、逃げ出したオウガメタルを一体残らず殲滅するのだ。奴らが、他のデウスエクスやケルベロスの元に逃げ込めば、我等のゲートの位置が割り出されてしまうやもしれぬ」
 その言葉に、弾かれるように退出した兵隊アリローカストに見向きもせず、アリアはゲートへと向かった。


「黄金装甲のローカストの一件、耳の早い奴はもう聞いているかもしれんな」
 グアン・エケベリア(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0181)は鋭い目を細め、簡単にその顛末を語った。
 事件に対処したケルベロス達は、ローカストの討伐に成功したばかりではなく、黄金装甲化されていたアルミニウム生命体と心を通わせ、絆を結ぶことができた。その末に、いくつかの新たな情報を得ることもできたのだという。
 アルミニウム生命体は本来『オウガメタル』と呼ばれる種族であり、自分達を武器として使ってくれる者を求めている。ところが、現在彼らを支配しているローカストは、グラビティ・チェインの枯渇を理由として、オウガメタルを使い潰すように使役している。
「黄金装甲化ってのはその最たるものらしい。オウガメタルにとっては、種を絶やされる可能性すらある残虐な行為だってことだ。デウスエクスに対抗するケルベロスと誼を通じたからには、助けを請いたくなるのも道理かもしれんな」
 頷くような息を洩らし、グアンは先を続ける。
「そういう訳で、ここからが本題だ。オウガメタルと絆を結んだケルベロス達が、オウガメタルの窮地を感じ取った。奴さんら、ローカストの本星からゲートを通ってこの地球へ逃れてきたらしい。ケルベロスを頼ってな」
 だが無論、ローカストが黙って見逃す筈もない。最重要拠点であるゲートにはローカストの軍勢がおり、オウガメタル達への追撃を開始しようとしている。逃げ出したオウガメタル達が殲滅されるのは時間の問題だ。
 そこであんた方の出番だと、柘榴色の目が鈍く光る。
「場所は山陰地方の奥深い山中だ。頼みたいのはオウガメタル達の救助、そして追手のローカストの撃破。引き受けてくれるか?」
 この作戦に成功すれば、オウガメタルを仲間に迎えるばかりではなく、ローカストの本星へと続く最重要拠点――ゲートの位置の特定も叶うかもしれない。
「だがまあ、連中も馬鹿じゃない。こっちが考えそうなことは察してる筈だし、そういう意味でもオウガメタルを殺すのに死力を尽くすだろう。心して掛かってくれよ。差し向けてきた戦力は状況に相応だ」
 言い置いて、グアンは得た限りの情報をケルベロス達に委ねる。
 ローカスト達は幾つかの群れで山地の広範囲を捜索している。群れの構成は、兵隊アリ一体が働きアリローカスト数体を束ねる形。
 働きアリローカストは戦いを本業とはしていないものの、それでもケルベロス数人分の戦闘力を持っている。ゲートを守る兵隊アリローカストのそれはさらに高く、たとえ形勢が不利に転じても、最期まで戦い続ける勇士ではあるようだ。
「到着は夜半過ぎになる。オウガメタルの放つ銀色の光は上空からでも見える筈だ。それを目指して降下すれば、そう遠くない場所に降り立てるだろう」
 それじゃ行くかと呟いて、ドラゴニアンは口の端を上げた。
「あんた方に希望を見出して、からがらやっと逃げ出してきた命だ。ささやかな光だろうが、ちゃんと繋いでやろう。奴さんらの朝までな」
 救いはまだ遠い。けれどケルベロスならばきっと、夜更けの山中を彷徨う彼らの『朝』に――希望になれる筈だ。
 ヘリオンが、戦いに向かうケルベロス達を促すように轟音を上げていた。


参加者
斬崎・霧夜(抱く想いを刃に変えて・e02823)
月霜・いづな(まっしぐら・e10015)
野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)
花唄・紡(宵巡・e15961)
御船・瑠架(紫雨・e16186)
パトリシア・グローリィ(天空のプリマドンナ・e24367)
天羽生・詩乃(夜明けに捧ぐ唄・e26722)

■リプレイ


 上空から見下ろす山々は、夜影のひと色に染まっていた。
 その底にちらと流れた銀の光が、天羽生・詩乃(夜明けに捧ぐ唄・e26722)の瞳に留まる。
「見つけた……!」
 光を目掛け高みから飛び出していく八つの影には、迷いも恐れもない。輝く目印から目を逸らすまいとする瞳は瞬きすら忘れ、手は少しでも近くへと輝きへ伸ばされる。
「ケルベロスが助けに来たよ、オウガメタルさん!」
 静まり返った森の中に詩乃の声を隔つものはない。流れるように移動していた光が止まったのを認め、花唄・紡(宵巡・e15961)はさらに声を上げた。
「こっちだよ、もう大丈夫!」
 密な木々を避け、光がこちらへ動き出す。次々と降り立ったケルベロスたちが駆け出すと、手早く灯りを燈したパトリシア・グローリィ(天空のプリマドンナ・e24367)とシュゼット・オルミラン(桜瑤・e00356)が進路へ指先を向けた。二人に従った木々は幹を撓ませ、光燈す命、オウガメタルのもとへ道を拓く。
「ああ、よかった! おケガはございませんか?」
 周囲を巡り検める月霜・いづな(まっしぐら・e10015)。目立った傷がないことを確かめ、野々宮・イチカ(ギミカルハート・e13344)も息を吐く。
「うまく合流できたね。……ね、きみの声にこたえにきたよ」
「追手の虫――アリ、たちは……」
 微かに苦手を滲ませた御船・瑠架(紫雨・e16186)の耳に、慌しく迫り来る複数の足音が届く。ひととき凪いだ仲間たちの気が一転、険呑な気配に引き締まった。斬崎・霧夜(抱く想いを刃に変えて・e02823)はゆるり笑って刀を抜く。
「どうやら遅れてご到着のようだね」
「……虫は苦手なのですが、致し方ない」
 前へ出る瑠架を頼もしげに見送り、仲間へも呼び掛ける。
「皆、意気込むのは良いけれど、無理はダメだよ?」
「それは状況次第ね」
 軽口めいた忠告に笑みをひとひら、パトリシアは踏み込んでくる敵を見据えた。全てを賭けて光を繋ぐ決意はあれど、それは最後の一手。
「どうかこの中へ。――必ずお守りするわ」
 最後方へ手招いたシュゼットが、持参した布を広げた。柔い微笑みに意図を察したのか、命持つ光がその下へ滑り込んだ時、ローカストたちが踏み込んでくる。
 困っている誰かを助けることこそ、ケルベロスの本懐。万全の布陣の中へ出迎え、紡は不敵に微笑んだ。
「――望む声があるのなら、あたし達が夜を拓こう!」
 影にくすんだ桃色の髪が敵に躍りかかる。振り下ろした大鎌の先が狙った先に、鎧めく体の厳めしいローカストが割り込んだ。
 かち合う一閃に咲く火花。爆ぜる光を合図に戦いは幕を開けた。


 ――キィィィィ……!
 耳を劈く異音がケルベロスを襲う。敵のジャマーの放った音の波が後衛へ広がりゆこうとするのを、
「……っ、まけない!」
 遮る身で防ぎ止め、イチカは杖先をディフェンダーへ――紡の攻撃を防ぎ止めた兵隊アリへ振り向ける。
「ちょっとおとなしくしてて!」
 迸る白い雷撃が敵を穿つ。与えられた異常がそれ以上狙いを迷わす前に、いづなが人型に切り抜いた札を宙に放った。
「いざや月の加護とならん!」
 祝詞を唱え上げる声から幼さが消える。霊力を帯びた紙の兵が前に立つ仲間らを守るように取り囲むと、いづなの前にも光の壁が立ち上がった。呼吸を合わせ、異常への盾を築いたシュゼットと微かに頷き交わす。
「これ以上の痛みはあまりにも惨いこと。逃れてきた方々を、絶望の中へ返しなどしないわ」
「ええ。強者が弱者を虐げるのを、許すことなど出来ません」
 瑠架の掌が敵へと翻る。支配され虐げられ、逃げ出してきた。過去と重ねる度心に蘇る痛みは、もう忘れたと振り切って、練り上げた気と共に切り離す。
「そこで見てなさい。貴方たちを苦しめた相手には、キツくお仕置きしちゃうから」
 後方へ音のしそうなウインクを残し、パトリシアが踏み込んだ。高く跳ねた脚は兵隊アリの守りを越え、星の尾を引いてジャマーへと降り注ぐ。飛び退く一瞬にも、詩乃の放った小型ドローンたちが縦横無尽に飛び回っていた。
(「助けを求める声に、手にこたえるために――私は、定められた命を生きる決意をしたの」)
 命賭けの逃走の果てに、オウガメタルたちにもこの星の美しい夜明けを見せたい。自身のこれまでを辿り願う詩乃の心を伝うように、ドローンたちは前に立つ仲間へ守りの力を重ねていく。
「いやいや、右を見ても左を見ても美しい人ばかり……僕もオウガメタルと一緒に保護して欲しいねぇ♪」
 言葉の軽やかさとは裏腹に、敵を見据える霧夜の眼は笑わない。這うように低く構えた身はバネのように翻り、一瞬の内に敵陣後衛へ到達する。地に擦れた剣先は炎を連れ、スナイパーの傷跡を追って熱を刻みつけた。
「我らの武器を奪い、アリア様に楯突こうとは……」
 耳触りな声だった。言葉を発したその口が瑠架に迫ると、鋭く伸びた牙が肌に突き立つ。
「っ、成程……兵隊の名は伊達ではないということですか」
 強烈な一撃に揺れた視界に、大鎌の腕を翳したスナイパーが飛び込んでくる。しかし、
「みくびらないで。そうかんたんに膝はつかないし――つかせないよ」
 少しでも長く、一人でも多く立ち続ける為。刃の軌道に割り入ったイチカが一閃を引き受ける。
「じっとしてられないなら、もいっかいいくね」
 地を蹴る足が熱を宿す。刃の抱擁を抜け出した体は身軽く空を舞い、仲間の炎に蝕まれたスナイパーを冷静に見切ると、ディフェンダーへ一撃を降らせた。牙の痛みから解放された瑠架は、凍気を孕む螺旋の力をジャマーへと擲った。
「るかさま、いますこしごしんぼうを……!」
 踏み締める足で堪える青年へ、さざめき笑う命を祝ういづなの声が癒しを招く。
「天つ風、清ら風、吹き祓え、言祝げ、花を結べ――!」
 花に水を、葉に光を注ぐように。癒力を帯びた紙吹雪が、響き渡る力で傷をたちどころに塞いでいく。
 敵の言葉の片端を拾ったシュゼットは、眼差しを微かに歪めた。武器と呼び、物として、種を絶やさんばかりに使役する。己の未来を繋ぐ事しか頭にないデウスエクスの、
「なんと惨い……不幸なこと」
 そんな悪意からただ守りたくて、阻むように腕を広げる。降り注ぐ光は天上の星の飛沫のように煌めいて、飛び出していく紡たちに加護を宿した。
「楯突くよ、あんたたちがオウガメタルを狙う限りは!」
 中衛を狙った気の塊が兵隊アリに阻まれ、至近で振り抜かれた鎌に気力を奪われる。それでも紡は動揺しない。遮られた打撃とて、敵に蓄積していることには変わりないのだ。
 後衛からの蹴りをいづなの相棒、つづらが獰猛な牙で受け止めた。気力を削ぎ奪りにくるジャマーの大鎌を引き受けるのは詩乃。気力を抜かれる心地に微かに顔を歪めるも、一瞬のこと。
 つづらの振り撒く黄金の輝きに敵の意識が削がれた時、パトリシアは掌底を翻した。文字にならぬ古の竜のことばは、忽ち巨大な幻影を紡ぐ。夜空を覆うほどの翼と猛く襲い掛かる爪は、狙い通りにジャマーの上に影を落とした。
「――蹴散らすわ!」
 暗い炎を纏った牙が、堅固な鎧を一息に穿つ。気高く気丈な娘は、強かな笑みで絶える命を見送った。
「さあ、ダンスもお楽しみもこれからよ!」
「……やってくれたな」
 漆黒の装甲に隠れた兵隊アリの顔。薄暗い感情は表情の代わりに、空気を震わす低い声に滲み出す。


「次は――貴方よ!」
 傷ついた仲間への敵意を身を挺して遮ると、詩乃は左右に据えた砲台を敵へ向けた。放たれた双の熱線が兵隊アリを貫くと、霧夜は先刻の熱を残したままの相手へ一転、凍気を練り上げた螺旋を放つ。
「瑠架くん、無茶はしないでおくれよ?」
「大丈夫です――まだ戦えます」
 自身の髪を確かめるようになぞり、瑠架は霧夜へ視線を流す。彼にとっての『お守り』は編み込まれた飾り紐だけではない。共に戦場に立つ傍らの存在も、何より心強い守りだ。
 紡の大鎌が横薙ぎの一閃を刻みつける間に、いづなが花渡る風の癒しをつづらの元へ吹き寄せる。流れが守りに転じた一瞬を突き、踏み込んできた兵隊アリがイチカに咬みついた。激しい痛みが走ったそこから体が凝り、軋んでいく心地がする。
「イチカ!」
「平気だよ、つむぐちゃん! なにがあっても無事に返すって決めたから」
 助けを求める手も、仲間も、必ず。強い意志を秘めたイチカの声音に、紡の視線に掠めた心配が消えた。見守る瞳に残るのは信頼だけ。
「あたしの背中、イチカに任せるよ」
「うん……! わたしもこたえてみせるから!」
 強い微笑みで送り出してくれる紡の傍らに、降り抜く刃で風を生む。斬られた空気が唸るのを合図に手を離せば、舞う大鎌は意志持つように敵を切り刻んだ。
「――!」
 入れ違って向けられるスナイパーの狙いは霧夜へ。正確に集い来る音の波が、頭の中を掻き回すようだ。だが、
「その刀、私に向ける気ですか」
 お互い無事で済ませたいでしょう。そう呼び掛ける瑠架の声に意識を引き戻されるようで、
「……っ、ふふ、勿論さ。愛しの瑠架くんを置いて、寝てる訳にもいかないからね」
「っ、貴方は!」
 怒り照れる声を笑みで躱し、霧夜は踊るように敵前に踏み込んだ。軽口の応酬にも油断なく敵を捉えていた感覚は、空の霊力を宿す一閃のもと敵を斬り払う。
「それにしても、この堅さは……」
 吐息をひとつ、高めきった気を解き放った瑠架が呟く。味方は格下二人のみで、ケルベロスたちの連携に耐え、立ち塞がる兵隊アリ。立ち上る戦意には、決して場を譲るまいとする意志が見て取れた。
「それなら私たちも、全力で応えるだけだよ!」
 掲げた詩乃の掌に、神話に謳われる槍の穂が踊る。白く爆ぜる稲光を敵の懐に突き込むと、宿す重力を極限まで高めたパトリシアの蹴撃が、鎧めいた敵の頭を砕きにくる。
「私は霧夜殿を。いづな殿は――」
「イチカさまでございますね!」
 シュゼットの杖を彩る硝子の蕾が、癒しの雷撃に眩く染まった。快いひとつ返事で引き受けたいづなの風も戦場を吹き抜け、ふたいろの癒しが戦列を支え直す。
 不意に、荒い呼吸がケルベロスたちの耳を捉えた。堅固な石もも叩き続ければいつかは崩れるもの、敵の守りにも漸く綻びが見え始めた。
 想定外の事件、持ち場を離れての一戦は、彼らに利するものではなかったのかもしれない。予測した程の連携が見えない敵方を紡の眼差しが射抜く。
「あんた達の持ち場なら少しは違ったのかもね。でも、たとえそうだったとしても――あたし達だって負けないよ!」
 月を思わす鎌の一振りがなけなしの生気を敵から吸い上げれば、兵隊アリも奪われたものを奪り返そうと腕の鎌を振り上げる。
 しかし、その一撃は通らない。重ね絡めた痺れが見えざる鎖になり、構えた得物をその場へ繋ぎ止めた。
「今だよ、イチカ!」
「うん!」
 流れを友の手に渡し、紡が叫んだ。躊躇いなく地を滑らせたイチカの足許が熱に燃える。
 燈る炎が増すほどに加速度を増し、イチカは空へ跳び出した。追い縋る敵のスナイパーの一閃が肌を裂いても、勢いはもう止まらない。
「最後まで守ってみせるよ……!」
 叩きつけた蹴りに、堪える手応えがふつりと失せる。吹き飛んだ敵の体に少女は悟った。強き追跡者――ローカストの堅固な守りの一つが討ち破られたことを。
 率いる者を失った最後の一体、スナイパーが狼狽えたように後方を振り返った。油断なく警戒していたいづながはっと息を呑む。
「おきをつけくださいませ、てきがのがれます!」
 けれど、
「さて、貴方で最後ですか……逃がしはしません」
 翻った一歩が踏み出される前に、瑠架が退路に回り込んでいた。


 ――喚ぶ声が聴こえたならば、辿り来い。
 敵の動揺に構いもせず、闇の中に響き渡る力ある詞。禁呪により瑠架の手中に再現された刀は、斬り払う刀身から溢れ出る霊力を隠さない。
 刃が虚へ還る前に、描いた軌跡を辿るように熱が奔った。地表から敵の懐へ、瞬時に距離を詰める霧夜の刃。切り裂いた傷口に炎を刻みつけ、仲間へ繋ぐ。
「さて……そろそろ終わりにしたいね?」
 詩乃の体に組み込まれた回路が輝き、浮かび上がる。アームドフォートへ流れ込んだ力はふたつの光の塊へ昇華し、詩乃の声に従って、並び合う光線を撃ち出した。
 機械の身に宿った心で、夜明けの空に恋をした。切ないほどの胸の震えを、幸せな疼きを、この手でオウガメタルたちの手へ渡してあげたいから。
「最後まで、絶対に諦めない――!」
 黒光りする鎧を光線が穿つ。じゃれつく獣のように追い掛けるつづら、その体内から生み出されたエクトプラズムの武器が追撃する。
「よくやりました、つづら! われらばんけん、あなどられてはこまります……!」
 いづなが編んだ癒しの気配が優しくイチカを包む傍ら、挑発めいた笑みを湛えてパトリシアが踏み込んでいく。
「逃げ場はもうないわ。おいで――ネンネさせてあげる」
 永久の眠りを招くのは、魔法で構築された巨竜の子守唄。高熱を伴う咆哮が、安らかならざる終わりへ敵を引き込んでいく。
 追い詰められた敵が牙を剥く。しかし、衝動に任せて暴れ狂う凶器の牙は、パラライズに阻まれてケルベロスたちには届かない。
 シュゼットは静かに睫毛を伏せた。迎える終わりから目は逸らさない。選び取り、その先に切り開く光が、何を齎すかを知っているから。
「……いってらっしゃい」
 白く森を染め上げる癒しの光の中、重ね合わせた紡の手の中に集った気が輝き出す。撃ち出された光条を追いまたひとつ、今度は瑠架の掌から放たれた一弾が敵の喉笛に喰らいつく。
 樹影を透かし輝く穂先を振り翳し、詩乃はスナイパーに肉薄した。鎧の体ごと貫く光は、まるで稲妻。
 その光が地に吸い込まれて消えた途端、戦場に満ちる殺意がふつりと消え失せる。
 それは即ち、終わりの証でもあった。

 閑やかに歩み寄るシュゼットの足音に、森に溶け込んでいた布が微かに動く。
 そっと捲り上げた片端から、オウガメタルが窺うようにそろりと這い出した。穏やかな微笑みで安堵を誘い、そっと囁く。
「……もう、大丈夫」
「終わったね」
 紡の手が、妹のような友の頭に乗せられた。頷いたイチカの表情もどことなく和らいで、欠けることなく揃った仲間を見渡す。
「無事に済んだようだね。君に貰ったお守りが効いたかな♪」
「……!!」
 暗闇にも分かるほど頬を染め、霧夜を殴る瑠架。急に賑やかになる森の中、いづなはつづらと共にオウガメタルの前へ屈み込んだ。
「ごあんしんくださいませ。あなたがたのおなかまも、きっとおたすけしますから!」
 その為の一歩は、確かにここに踏み出したのだ。
 まだ少し夜明けには遠い森の中を、ケルベロスたちは繋いだ命と肩を並べて歩き出した。
 かえりましょうと笑ういづなに導かれ、共に生きるその場所へと。

作者:五月町 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年6月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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