オウガメタル救出～陰陽の境で

■リプレイ

●降下！
　ヘリオンから降下し、オウガメタルを救出に向かうケルベロスたちは飛行組と地上組の２手に分かれて行動を始めた。
「参りましょう」
　百花・白雪（真白の竜騎を継ぎしもの・e01319）は小さく咳をしてから純白の翼を広げ、
「オウガメタルさんたち、絶対助けてあげるんだよ」
　それにスノーエル・トリフォリウム（クローバーに幸せをこめて・e02161）が続く。
「みこ達が今からいくからね！」
　結真・みこと（ょぅじょゎっょぃ・e27275）はそんな２人を追い越しながら、腕時計の反応を確認しつつ、一直線にオウガメタルのいる所へと降下する。
「必ず助け出しますわよ。……女の子救出ならもっと気合も入るのですけど」
　黒岩・りんご（禁断の果実・e28871）はラトゥーニ・ベルフロー（至福の夢・e00214）から預かったミミックのリリを抱えながら、うっかり本音が口から滑って出た。
「何とか間に合ったようですね」
　地上に降り立ち、震えるような光を出しながらおびえたようにしているオウガメタルを見つけた白雪は安堵し、
「助けに来たんだよ！」
　スノーエルは優しく微笑み彼らに近づく。
（「信じてもらえ……そうだね」）
　彼らがケルベロスたちからも逃げてしまわないか心配だったみことだったが、それは大丈夫なようだ。
「！！」
　一瞬気が緩みかけたみことは、すぐ近くから聞こえた物音に一気に緊張感を走らせる。
「意に沿わぬ服従を強いられているのは、わたくし達ヴァルキュリアとも同じですね」
　りんごは吐き捨てるようにつぶやき、オウガメタルを狙ってこの場にやってきた蟻型のローカストたちに冷ややかな視線を向ける。
「害虫退治といきましょうか」
　りんごの言葉とほぼ同時に、４体のローカストたちはアルミの刃を作り出して襲い掛かってきた。

●猛攻を耐える
「あかるくなあれ！」
　みことは素早く戦闘態勢を整えると、視界を確保するために明かりで周囲を照らし始める。
「百花白雪。御相手します」
　白雪は一族に伝わる妖刀、百花白雪を大きく構えながら、ボクスドラゴンの吹雪とともに迫るローカストたちの攻撃を一手に引き受ける。
　キィン！
　甲高い金属音が断続的に響き渡り、生まれる小さな火花が白雪の集中力を高めていく。
「―――舞い踊れ、百花白雪」
　体内に集めた闘気を刀気に変え、舞い踊るように一薙ぎすると、無数の花が散るが如く舞い降りる白い雪がローカストたちに降り注ぎ、彼らの熱を奪って動きを鈍らせる。
　白雪が操る『刀気解放”百花白雪”』がその本領を発揮し、彼女の思惑通り地上組が追いつくまでの時間を稼いでいた。
「今しばらくの辛抱ですわ。すぐにお助けいたします」
　りんごは後ろで戦いを見守るオウガメタルたちに、そして、今現在ローカストたちに使役されているオウガメタルたちをも安心させるように呼びかけながら、
「りんごにも……毒があることを教えて差し上げます」
　素早く矢をつがえ、ローカストたちをの心を惑わせ、そしてオウガメタルの心を強くさせる想いを込めて放つ。
「！？」
　感じたことのない不思議な感覚に戸惑う兵隊蟻ローカストこと、アリア騎士に向けて白銀のグレイブを手に一気に近づき、
「この炎が貴方を送る標ですわ」
　鮮やかに振り下ろしてその牙を斬り落とした。
「けほ、けほっ……さすがにしんどいです、ね」
　しかし、数で互角、自力で優位に立つアリア騎士たちはその力の差を利用して徐々に優勢に立ち回り始める。
　白雪、そして吹雪は次第に相手の攻撃を捌ききれなくなり、スノーエルとみことが後方から支援をした上、白雪自身も攻撃をあきらめて倒れないようにすることで何とか戦線を保っている状況となっていく。
「あっ……スノーエルさん」
　そして、それまで白雪たちに殺到していた働きアリロ―カストたちが突然矛先をスノーエルに向け、癒しの力を使い続ける彼女に金属質な液体を吐きかけてくる。
「ま、負けないんだよ」
　とっさに手でガードすることで体を守ったスノーエルだったが、腕がアルミのような金属に変化し、思うように動かなくなってしまう。
「私はあなたたちを助けたいんだよ」
　スノーエルは続けて殺到するローカストたち、彼らに囚われているオウガメタルたちをじっと見つめ、力のある言葉を調べにのせて歌い始める。
「信じられたのは、そう……あなたがいたから……」
　紡がれる言葉は、希望に満ちた唄。
　優しい歌が自分を、仲間を、そしてオウガメタルたちにも届かせようと響かせ、鼓舞し、癒していく。
　名付けて希望へ向う譚詩曲。スノーエルが歌う十八番だ。
　だが、その間もローカストたちはスノーエルへの攻撃を緩めない。
　スノーエルも彼らの攻撃を一手に引き受けるつもりで、腕や脚、そして全身を鈍らされても、その歌声だけは絶やさない。
「吹雪。私たちも負けていられません」
　白雪と吹雪のコンビもスノーエルの前に立ち、彼女の紡ぐ歌声を守るように、自らの身を挺して攻撃を凌いでいく。
　しかし、少しずつではあるがやはり押され始め、押し切られるのは時間の問題のように思われた。

●反撃開始！
　だが、そんな一方的な戦いは突然の終止符を告げる。
「……必ず助けます」
　地上組で真っ先に駆け付けた夜薙・征十郎（霖雨・e00451）は瞬時に状況を把握し、スノーエルを狙うローカストたちの真ん中へと切り込んでいき、刀を抜き放ちざま一閃する。
　さらにそれをフォローするように、白鵺・社（愛結・e12251）が征十郎の背中を守り、
「死なせないよ。色々顔向け出来なくなるんでね」
　オウガメタルに言ったのか、それとも征十郎に言ったのか。微笑みながら援護を開始した。
「貴方達を救けに来まシタ。今からローカストを倒しマス」
　そして、アップル・ウィナー（キューティーバニー・e04569）が傷ついた白雪の代わりに最前列に立ち、
「助けを求めてくれたのデス。彼らの勇気に答えまショウ」
　バトルガントレットで相手の振るう刃を受け止め、逸らしながら素早い動きで翻弄する。
「ローカストと共に倒れないデ！　私達と来てくだサイ！」
　アップルの、そしてこれまでのケルベロスたちの呼びかけに応えるかのように、ローカストたちの身につけたオウガメタルがうっすらと輝く。
　だが、オウガメタルに視線を向けた隙をついて、アリア騎士の牙がアップルの喉元を捉え、噛み砕いたように見えた。
「変わるわよ、バニーフラッシュ！！」
　しかしその瞬間、アップルは光り輝きその姿を変えていく。
「数多のケルベロスの技、見切れマスカ？」
　ある時はオラトリオの巫術士、またある時は地球人のガンスリンガー。
　その正体は……愛の力で戦い続ける兎の戦士！
「彼らの想いを受けた今、倒れるわけにはいかないのデス！」
　幻兎変身で姿を変えたアップルの多彩な攻撃に、アリア騎士は大きなダメージを受け、
「光よ、束縛を断ち切る刃とナレ！」
　湧き上がる光とともに兎の戦士の姿は消え、アップルは元の姿に戻るのだった。
「ええい、カカレ！」
　予想外に手痛い打撃を受けたアリア騎士は、周囲の働きアリローカストたちに強い指示を出し、攻撃の手を強めようとする。
「ぇーと……頑張れ頑張れ」
　ゆっくりまいぺーすで最後に合流したラトゥーニは、リリが相手の邪魔をしようとがんばっていたのを見て満足そうに微笑み、特に何をするでもなくうろうろする。
「んー……」
　そして、面倒くさそうに働きアリローカストたちに視線を送り、やはり何もせずにお菓子を取り出して食べ始める。
　すると、面倒くさいオーラがローカストたちにも伝染したのか、働きアリローカストたちはアリア騎士の指示には従いつつも、どこかやる気なさげにラトゥーニに向かってきた。
「くる……じゃあ、奪っといて」
　実は巧みな催眠術で彼らの思考や行動をコントロールしていたラトゥーニは、幻影を呼び出して彼らの戦意を奪い、やる気をなくさせるように幻影を呼び出して仕向ける。
　闇の誘惑に飲み込まれた働きアリローカストたちは、アリア騎士の叱咤も馬耳東風で、それぞれが緩慢に動き始めるようになっていった。
「みんなのいたいのいたいの、とんでけー！」
　反対に、みことは元気よく仲間の傷と苦しみを取り除き、
「こらっ、ねーこ、ちゃんとやってよぉ！」
　ふてぶてしい態度で働きアリローカストを程々にかく乱するウィングキャットのねことに頬を膨らませながら指示を出す。
　やれやれ、仕方ないなという顔でねことは動き回り、ラトゥーニの攻撃とあわせて働きアリたちをほぼ無力化した。
「やった！　って、危ない！」
　みことはねことの動きに満足して喜ぶが、その間にアリア騎士から液体が吐き出されて彼女に向けて飛んでくる。
「ふえぇ……」
　何とか避けようとするものの、べっちゃりとアルミがみことの肌を覆ってしまい、みことは泣きそうな声で自分にヒールをかけ始めた。

●一気呵成に
　地上組の到着により、一時的に押し返すことに成功したケルベロスたち。
　だが、戦いが長引くだけ不利になると感じている社と征十郎は、今のうちにアリア騎士を撃破しようと強引に攻撃を仕掛けた。
「助けてやるよ。こっちに来れるか？」
　社はオウガメタルを助けられないかと彼らに語りかけ、彼らを奪うことができないか試みようとする。
（「さすがに無理か。どうやったら出来るのかわからないからな」）
　だが、オウガメタルを纏うという感覚がいまいちイメージ出来ない社はとりあえず手をかざしてみるが、オウガメタルは僅かに光って反応したかな？　という程度にしか変化がなかった。
　続けて征十郎が音もなく近づき、空の霊力を帯びた刀を目にも留まらぬ速さで振り下ろし、
「上手く剥がれないものか……」
　ローカストの体に貼り付けられたオウガメタルを剥がそうと試みる。
　力加減が難しく、その試みは失敗してしまうが、征十郎は諦めずに何度も刀を振るい、彼らを助け出そうとした。
「上手く行かないものだね。とりあえず倒すことに集中しようか。征ちゃん」
「はい、社さん」
　社は甥である征十郎にアイコンタクトを送ると、タイミングを合わせて２人同時に体を沈めながら、アリア騎士の脚を狙って鋭い蹴りを放つ。
　２人の攻撃により、左右の脚を開かせる方向に力を加えられたアリア騎士はバランスを崩して転倒する。
「一気に行くよ」
　社はここぞとばかりに刀を上段に構えて円を描くような斬撃で立ち上がろうとする動きを牽制すると、
「其の技、風刃の如く」
　剣戟の速度により生まれる衝撃波は、血飛沫をも斬り割る程の威力を持つと言われる社の奥義。夜薙流剣術奥義『佰参拾弐式【赭馬魔】』が、神速の一閃で守りを固めるアリア騎士の防御ごと一刀両断する。そして、
「……その意、さとりて刻む」
　征十郎はアリア騎士の動きを予測し、一切の隙を与える事なく斬り伏せる。
　夜薙流剣術奥義『佰拾壱式【褐覚】』。鍛錬と実戦を幾度となく重ねた熟練者のみが扱えるとされる征十郎の奥義だ。
「なかなかやるようになったね」
　アリア騎士だった躯を見下ろしながら、明るく微笑む社の言葉に、
「いえ、まだまだ社さんのようには」
　尊敬する叔父に褒められ照れ隠ししながら、征十郎はまだまだだと自分を律した。
　アリア騎士が倒されたことで、他の働きアリローカストたちは戦意を失い、這々の体で逃げ去っていくのだった。
「吹雪、お疲れ様です」
　白雪は最前線でギリギリの戦いを続けた相棒の吹雪をいたわるように撫で、こほこほと咳き込みながらオウガメタルを抱える。
「みんな無事で良かったんだよ。吹雪ちゃんも、ありがとうだよ」
　そこへ治療が無事に終わってスノーエルが近づき、微笑みながら吹雪の頭を優しく撫でた。
「色は変えられなぃ？」
　そばに寄ってきたオウガメタルを身に着けたいが、金ピカになるのは避けたいラトゥーニは、彼らに話しかけてみるが、会話ができるわけではない彼らはただピカピカと光るのみだった。
「これは交渉のテーブル？　……誰かにやらせよぅ」
　時間をかけて試せば色々解るかもしれないが、それをやるのはめんどくさいと感じたラトゥーニはとりあえず問題を先送りする。
「悪いねーこは、おなかわしわしの刑だ！」
　戦いが終わって緊張が薄まる中、ドヤ顔で逃げ去るローカストたちを見ていたねことに、みことはお仕置きを下す。
　そして、何人かはオウガメタルを身につけようと接触を試みていた。
「恐らく安全な運び方だと思うので……？」
　と理由をつけつつ、征十郎は彼らを身に纏ってみようと彼らを手に取り、
「もう安全ですわ」
　りんごも彼らに微笑みながら、救いの手を伸ばす。
「さあ、ここはまだ危険デス。離脱しまショウ」
　そんな仲間たちに、アップルは未だ殺気漂う周囲を警戒しつつ、
「貴方達の生き方、変えるわヨ♪」
　オウガメタルをしっかりと抱きしめて駆け出すのだった。

作者：きゅう	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年6月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
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