その輝きまでも奪う盗人

作者:きゅう

●月明かりの下で
 月の光がうっすらと入り込む、誰も居ないはずの廃墟の中、月明かりにその美貌を晒す女性が一人。一輪の花のように立っていた。
「……」
 そんな彼女がピクリと肩を反応させ、振り返る。
「……」
 いつからそこにいたのだろう?
 彼女の後ろには、小柄な女性の人影が音もなく現れ、彼女に傅いていた。
「活動資金の調達をして頂戴」
 女性は、力のある声で、忍び装束に身を包み、月下美人の模様が彫り込まれた武具を片時も離さない彼女を見下ろすと、
「妨害があるかもしれないけれど、構わないわ」
 抑揚のない声で、淡々と指示を続け、
「敵の力を探るのも任務の一つ……もしあなたが死んだとしても、その目的は果たせるのだから」
 最後に顎で「行きなさい」とジェスチャーすると、忍者の女性は無言で頷き、その場から音もなく消え去る。
(「ケルベロスが現れなければ資金を持ち帰り、現れれば情報、あわよくばその首を持ち帰る」)
「彼女はどちらになるかしら」
 残された女性は微笑みながら、ゆっくりと夜の闇の中へと溶けていくのだった。

●月夜に舞う白金の華
「……」
 金融街の一角にあるオフィスビル。
 その3階に居を構える貴金属商のフロアに、小さな忍者が現れる。
 非常に高価なものを扱う会社が集まるこのビルは、ネズミ1匹通すことの無いよう、監視カメラが針の隙間もないほどに設置されていた。
「……」
 だが、そんなものは彼女には何の障害にもならなかった。
 カメラを通して監視している人間の目では判らないように隠密行動を取り、その目で追い切れないほどの速度で動いていたからだ。
「……」
 彼女は普通に動き、普通に目的のものを見つけ、普通に奪い去っていく。
 そして、何かを盗んだという形跡すら残さず、風呂敷いっぱいに詰め込んだ白金を、主人の元へと持ち帰るのだった。

「螺旋忍軍に新たな動きがあるようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は昨晩作った資料を配りながら、集まったケルベロスたちに概要を説明する。
「『月華衆』と呼ばれる螺旋忍軍の一派が、活動資金を得るために貴金属商に強盗に入ると予知されました」
 月華衆は似たような体格の女性の忍者集団で、小柄な体を活かした素早い動きと隠密行動を得意としているらしい。
「派手な動きではないですが、狙うものが換金性の高い貴金属ということで、一度盗まれてしまうとそれ以上足がつかないため、追いかけるのは困難です」
 重量あたりの価値が非常に高い白金を狙っている所も、非常に現実的かつ、冷静な相手だと想像できた。
「皆さんには『月華衆』の強盗を妨害、撃破していただきたいのですが、彼女は特殊な忍術を使用するようです」
 それは、『グラビティのコピー』と言えるものだった。
「彼女は戦闘になると、自分が行動する直前に使用されたグラビティと同じ技を繰り出してきます」
 つまり、自分たちの技がそのまま、相手の技になってしまうということらしい。
「必殺技等の自分専用のグラビティに関しても例外ではありません」
 セリカはそう言うとくすっと微笑み、
「でも、所詮はコピーです。自分が考えた技をコピーしたからといって、威力までは同じにならないと思いますし……普段は気づきにくい、自分の技の弱点や癖を研究するにはちょうどいい相手だと思います♪」 
 そういう戦い方も面白そうな相手だと説明する。
「それに、彼女は逃げるという選択肢は取らないようですので、存分に戦えると思いますよ?」
 そしてセリカは貴金属商の入ったビルの間取り図を広げ、金庫の前で待ち伏せるのがいいだろうと指さし説明した。
「敵が資金を必要とするのは確かなようですが、もしかしたら裏で糸を引いている何かがあるのかもしれません」
 正面から戦いを仕掛けてこない分、螺旋忍軍の目的はわかりづらく、厄介なものである。
「『月華衆』の動きも少し不自然ですし、気になるところですね」
 理由はわからないが、彼女は『その戦闘で自分がまだ使用していないグラビティ』を優先して使用する。その点も不自然さに拍車をかけていた。
 とにかく、今は彼女が起こす事件を防ぐことが大切だ。
 セリカはよろしくお願いしますとケルベロスたちに一礼し、小さく頷いた。


参加者
メリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
結城・遊亜(限界バトル・e03968)
陸野・梅太郎(黄金雷獣・e04516)
塔間・隼人(白衣の天災小学生・e05248)
アレク・コーヒニック(無才の仔・e14780)
神宮司・早苗(御業抜刀術・e19074)
軋峰・双吉(悪人面の黒天使・e21069)

■リプレイ

●可愛らしく?
 月の光だけがその場を照らす宵闇に包まれた建物の中、影は人知れず目的の金庫へと近づく。
「待てーい!」
 だが、その影の僅かな動きを察知したのか、それとも最初から知っていたのか。
「例え時が流れても、変わらず残るものがある。……人、それを『真実』と呼ぶ!」
 影の行く手に現れた神宮司・早苗(御業抜刀術・e19074)はドヤ顔で名乗りをあげ、影の正体、小柄な女性の姿を暴いた。
「……」
 女性は僅かに反応するが想定外ではなかったようで、冷静に月下美人の模様が彫り込まれた手裏剣を構え、早苗に視線を送る。
「活動資金がほしいから泥棒って……なんだか人間と変わらない気もするね」
 大半の泥棒は同じ理由で行動を起こす。それはデウスエクスも変わらないのだろう。
 アレク・コーヒニック(無才の仔・e14780)は女性の左手に握られた風呂敷から、彼女の全身に視線を向け、
(「相手の技のコピーかぁ、その能力鹵獲してみたいなぁ。どういう仕組みになってるんだろ」)
 彼女が使うという不思議な忍術に興味を持ち、その力を自分のものにできればと考えた。
「……忍者がただ戦うということはアリエナイ。目的があるはずヨ」
 敵は多数、援護はなし。
 そんな状況でも戦う姿勢を崩さない月華衆の女性に、パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)は警戒を強める。
 どんな罠や裏目標があるかわからない。それが忍者なのだと彼女は考え、
「どのみちできることは此処を守り、敵を倒すだけだ」
 その隣で仁王立ちで扉を守る陸野・梅太郎(黄金雷獣・e04516)は、今にも姿を消して襲いかかってきそうな女性の一挙手一投足に神経を研ぎ澄ます。
「……面白いじゃねえか、どっからでも来やがれ!」
 結城・遊亜(限界バトル・e03968)は相手の反応を見ながら、愛用のカードを右手に構えた。
 だが、女性は逃げるでもなく、仕掛けるでもなくその場で睨み合うことを選ぶ。
「あっ」
 彼女は技を真似る忍術を使う。
 つまりこちらから仕掛けないと動かないことに気づいた早苗は白檀の扇を可愛らしく持ち、
「わし……ぬしなら出来るって、信じとるから……!」
 可愛らしい声と仕草で自称普段の3割増しの『やる気の出る応援』で仲間たちを鼓舞すると、
「わし……ぬしなら出来るって、信じとるから……!」
 女性は早苗の使った『やる気の出る応援』と全く同じ台詞、同じ仕草で、たぶん普段の3割増しの可愛さで自らを応援した。
「うむ、『わしには及ばぬ』が『可愛らしい』の」
 早苗はその姿に満足し、周囲の仲間は女性の行動に苦笑いする。
「コピー忍者とは面妖な」
 メリッサ・ニュートン(世界に眼鏡を齎す眼鏡真教教主・e01007)は半分呆れ顔、半分危機感を持ってトレードマークであり自分の全てでもある眼鏡をくいっとかけ直し、
「盗みは『不徳』だ、お前にロクな来世は来ねぇ」
 軋峰・双吉(悪人面の黒天使・e21069)はその凶悪そうな面構えで女性を睨みつけ、
「それでも死ぬリスクを冒すか? 冒すってんならかかってこいよ、忍者娘ェ!」
 威圧感たっぷりの声を彼女の耳に叩きこみ、恫喝する。
「……」
 だが、その程度で忍びの意志は崩れないし、崩せない。
「死んでも上の命令を果たすって『忠義』だけは『徳』って認めてやれなくもねぇな……」 彼女はもとよりそのつもりで生き、この場にいるのだろう。
 双吉は僅かに笑みを浮かべると、翼に纏ったブラックスライムを広げ、戦闘開始の合図とした。

●盗むもの、盗まれるもの
「私の眼鏡技、盗む事ができますか? 眼鏡力の無い者に私の技は使えませんよ!」
 メリッサは眼鏡をきらっと光らせると、大喝采眼鏡陣を構築する。
「眼鏡の光が世界に満ちる……万歳、万歳、おおぉぉォッ、万歳ァィ!!!」
 純粋なる眼鏡を喝采する声が尊き眼鏡界より眼鏡如来を降臨させ、その慈愛の光で仲間たちを包み込む。
 その行動に反応した女性はすかさず真似をしようとするが、
「ふふふ……私の技を使ってしまいましたね」
 メリッサはしたり顔で仮面に覆われた女性を憐れむように、煽るような口調であざ笑う。
「私の修める技は全て眼鏡力による眼鏡技……つまり、眼鏡力無くして使う事はできません! 仮面を被りノー眼鏡な貴方の眼鏡力は限りなく低い。つまり、技の模倣力もとてつもなく低い……!」
 それでも、女性の呼びかけに応えて先ほどと同じ眼鏡如来が降臨するが、
「見てご覧なさい、哀れですねえ! 貴方の呼んだ眼鏡如来は眼鏡が煤けてますよ!」
 メリッサが盛大に見下して批判すると、そうなのかな? と、仲間たちは眼鏡如来に視線を注ぐ。
「……」
 だが、女性はそんな罵倒に反応せず、淡々とメリッサの技によって得た力を享受した。
 もっとも、仮面の下の表情がどうなっているかは知るよしもないのだが。
「行くぜ! 新技だぁ!」
 続いて動いたのは塔間・隼人(白衣の天災小学生・e05248)。
「これで一気にぶった斬るぜー!!」
 天才の彼が考えだした新たな技、塔間流執刀術・一病即砕。
 元々は患部のみを切除する為の医療技術をケルベロスとしての戦闘用に改良し、グラビティで具現化した巨大なメスで病魔や敵のみを両断する特殊執刀術だ。
 メスが女性の忍び装束を切り裂き、赤い血が滲む。
「……!」
 すかさず女性はその技をコピーし、隼人が作り上げたメスと全く同じサイズのものを槍のように振り回して腹をめった刺す。
「真似するならこっちはもっとうまく使ってやるんだぜ!」
 隼人はメスで刺された痛みに耐えつつ、笑顔で先ほど繰り出したばかりの技を天才ならではのアイデアで改良し、フェイントを織り交ぜつつ巧みな執刀で彼女の体に傷跡をつけていく。
「なーんか肌に合うんだよなぁ、あの柄の悪い連中の技ってよー。まっ、嬉しくもねぇが」
 隼人の技に押されて後ずさる女性に対し、双吉は追い打ちをかけるように翼に纏わせたブラックスライムを右腕を走らせ、掌から放つ。
 双吉の編み出した『黒液模倣・略奪炎獄』は、シャイターンのグラビティ「ゲヘナフレイム」を参考に、右腕の中に眠る螺旋の力がブラックスライムを巨大な炎塊に変え、敵を焼き払う技だ。
 放たれるというより、滴り落ちるその黒い炎は恐怖を炙りだしながら、オリジナルに負けないだけの熱量を相手に浴びせかける。
「くっ……」
 女性はその熱さに思わず声をあげ、手足に火傷を負いながらもスライムたちを引き剥がし、すかさず炎に燃えるブラックスライムを作り出すと、右腕から解き放って双吉の体に巻きつけて業火を生み出す。
「模倣で作った技だからな。人にやったことは自分に返ってくる……。まっ、当然だわ」
 自分が真似できた技なら、他人もまた真似出来よう。
 双吉はそりゃそうだろうと相手の技を認め、
「だが、お前もそれを使うとはな」
 多少の驚きの声を漏らす。
 彼女が自分のグラビティを使用する際、代わりの武器に何を使うかを双吉は観察していた。
 だが、彼女はどこからともなくブラックスライムのようなものを呼び出し、攻撃に使ったのだ。
「ま、やられてばかりではいねえけどな!」
 双吉は翼からブラックスライムを広げ、彼女の小さな肩を鷲掴むように抑えこむとスライムの中に飲み込み、業火の中に招き入れてお互い浅くはないダメージを受けるのだった。

●盗めない想い
「空檻/犯セ、挫ケ、繋ゲ緋糸、肉切リ白ニ結イテ、地ノ涯テヘ」
 アレクの力ある言葉とともに、細く赤い糸が女性の手足、首、そして胸や腹など全身に絡みついていく。
「外れない……か」
 グラビティで縒り合わせた赤い糸はけして切れることなく、彼女を締めあげて痛みと無数の傷を与える。
 ウツロオリ。アレクが初めて『自分の力で』編み出した術だ。
「さあ、この技をどうコピーしようとするのか、見せてくれないかな?」
 糸の力が消え、解放された彼女にアレクはそう呟いてじっくり観察する。
 女性は掌から赤い糸をアレクの体に伸ばし、張り巡らせる。
 糸の見た目や動きは、アレクが放った糸と一見同質に見えた。
(「赤い糸というのは、運命の人との間の見えない絆の事だと聞いた。そんなものが自分にあるとは思えないけど、だからこそこの術はその形をとったのかもしれない」)
 アレクは腕に絡みつき、痛みを与えてくる糸をじっと見つめ、
(「人と一緒にいたいけれど、それは叶わないかもしれないから、せめて敵を重力で縫い留めて殺す力にしたい。そういう願いだったような気がする」)
 淡々とそれを操る女性の瞳を仮面越しに見つめて、
「……だから、ね。君が真似したってきっと無理だよ」
 想いを込めて、赤い鎖を引きちぎる。
(「自分程に他者との繋がりを渇望していない君の、その術には『精神(こころ)』が入っていないから」)
 その感情までもコピーするのであれば話は違ったかもしれないし、実際にコピーされていたのかもしれない。
 だが、現実としてアレクは彼女の糸を破り、自らの考えが正しかったことを証明した。
「見ろぉ! この芸術的なフィニッシュホールドを!」
 アレクに技を破られ、一瞬だが棒立ちになった女性の懐に飛び込んだ梅太郎は、バック宙の要領で回転しながら両脚で女性の頭をはさみ、芸術の域まで高められた綺麗な弧を描いて床に仮面で覆われた顔を叩きつける。
「ぐ……っ」
 追撃で抑えこまれる前にふらふらっと起き上がる女性は、壊れかけた仮面を手で押さえると、
「仮面の下を暴いたりはしない。それがプロレスってもんだからな!」
 追撃のチャンスではあったが、梅太郎は美学に従い彼女が仮面を整えるのを待つ。
「……!」
 それを梅太郎の慢心と受け取った女性は、先ほど受けた『梅太郎式フランケンシュタイナー』をそのまま返そうとする。
「ふ、この初動は獣の瞬発力があって初めて為せる技。ちょっと見たくらいで真似出来るはずが……なにィ!」
 たしかに、この技は獣並の瞬発力がないと繰り出すのは難しい。
 しかし、俊敏さ、つまり瞬発力を売りとする女性にとって、この技は一番真似しやすい技とも言えた。
「ぐあっ!」
 次の瞬間、ふくらはぎに挟まれた梅太郎の頭は、女性の脚が描く満月のように美しい軌道で床にたたきつけられる。
 その動きは洗練され、梅太郎も納得の威力であった。しかし……
「動きは真似られてもなぁ! てめぇには熱いハートが足りねぇんだよ! プロレスってのはそうだろうが! 芸術だろうがあああああ!」
 彼はその技に納得はしない。彼が技にこめている『想い』が感じられなかったからだ。
 梅太郎は怒りの感情で女性を睨みながら、再度技をかけようと懐に潜り込み、彼女は2度は受けまいと身構える。
「これで、どうだあっ!」
 だが、梅太郎は彼女の股下を滑り抜け、宙返りしつつ今度は後ろから首をロックすると、自らのプロレスに対する想いを全力でこめ、女性に叩きつけた。

●五分を九分九厘に変える方法
 梅太郎の技で床に叩きつけられた女性はなんとか立ち上がり、不利な状況でもまるでケルベロスたちの力を値踏みするかの様に反撃を繰り返す。
「遊亜、アレをやるぞ!」
 早苗はカードを指の間に挟み、遊亜の横顔にウインクを飛ばす。
「え、アレってなんだよ!?」
 遊亜は早苗の意図を掴みかねる。
「わしが先にやる、ぬしが合わせろ!」
「……なるほど、つまりタッグデュエルだな! よっしゃ、任せろ!」
 早苗は自分の言葉に意を得た遊亜が頷くのを確認すると、
「【氷結の槍騎兵】を召喚! 串刺しにしてやるのじゃ!」
 カードの力で氷でできた騎士を召喚し、女性を襲わせる。
「……召喚!」
 だが、女性も全く同じ騎士を召喚。早苗の騎士にぶつけることでその力を相殺させた。
「……ふっ、決まったな!」
 攻撃を防がれた早苗だったが、その顔は勝利を確信する。
「俺の……ターン!」 
 なぜなら、これから遊亜のターンが始まり、それを女性は受けきることが出来ないからだ。
「行くぜ、相棒……! 俺達の力見せてやる!」
 遊亜はTCGで愛用のユニットカードをイメージした黒い魔術師を呼び出し、
「我が技は主のために、我が命はこの世界のために!」
 強力な雷魔法で敵を撃つ。
「きゃぁ……っ」
 女性はその技をコピーする間を与えられず、激しい電撃にその場に両膝をつく。
「これが俺の……いや、俺達の相棒の力だぜっ!」
 遊亜はそう言って早苗に視線を送り、ターンエンドを宣言した。
「アナタがここで死んでも、アナタの任務は支障はないんデショ?」
 パトリシアは膝をついた女性の後ろに回り込み、後ろから抱きつくようにして抑えこむと、膝の上に乗せ、脚を開かせ問いかける。
「……」
 パトリシアの動きに抵抗できない女性だったが、彼女の言葉には耳をかさずにだんまりを決め込む。
「ならいいわ。落としてあげる」
 パトリシアも彼女が口を割るとは思っておらず、両腕と両脚を彼女の四肢体幹に絡みつかせ、肉体を反らし捻り始める。
「……っ」
 女性は痛みを強い意志で跳ね返し、耐えきろうともがき続ける。
「五分の勝負は五分負けている、九分九厘勝ってから行動を起こすべし。忍者の教えネ♪」
 このまま女性が技を堪えれば同じ技を返してくる。それなら勝負は五分と五分。
 だが、パトリシアはそんな勝負は望まなかった。
「あっ……」
 パトリシアのバビロンストレッチ・TGは別名大淫婦乱れ絡みと呼ばれ、かけ方を変えることで痛みの合間に快楽を与え、肉体だけではなく精神的に抵抗する力を奪っていく。
 痛みだけならその苦痛に耐えられたかもしれない。
 そうでなくても、万全の状態なら耐えられただろう。
 だが、時折混ざる淫蕩な波に、彼女の弱った体と意志は溶かされ、その分だけパトリシアの技が深く食い込んでいく。
「強すぎるのも考えモノなのネェ」
 この敵には強い技が自らに仇なすこともある。
 だから、パトリシアは女性が反撃できなくなるほど弱るタイミングを見計らって仕掛けたのだ。
「ああああっ!」
 やがて嬌声とともに、女性はがっくりと力を失い頭を垂れ、パトリシアは首と胴体をねじ切るように捻り、彼女を完全に絶命させた。
「奴がやられたとしても情報は手に入る、そんな仕組みがあるんじゃろう、たぶん、きっと……」
「服の中も確認デスネ」
 早苗とパトリシアは月華衆の女性の衣服や持ち物から彼女たちの目的を探るが、今すぐに解ることはなさそうだった。
「人の技で戦おうなんてのは、甘い考えだったなっ!」
 遊亜は2人に隅々まで探られる女性を見下ろしてそうつぶやき、
「物も技も盗まれなくてよかったぜー。みんな、怪我とかないかー?」
 隼人たちは仲間たちの傷を癒やしとその場の片付けを始める。
 程なくその場所は何事もなかったかのように静寂を取り戻し、彼らは月明かり照らす街中へと消えていくのだった。

作者:きゅう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年4月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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