戦艦竜幻火―破戦

作者:崎田航輝

 幻火は、悠々と海の底に潜むのを止めた。
 否、止めたというより、そうせざるを得なかったのかも知れない。
 再び、姿を隠していたかに思えた幻火……その姿を、地元の漁師が発見したとき。この戦艦竜は、顔を海面に出し、周囲を警戒するように、目を光らせていた。
 漁師の姿が遙か遠くにいるにも関わらず……それを敵影と見るや、大波を上げて、威嚇。何者も、自分に近づけさせまいとしていた。
 巨大な威容を誇っていた戦艦竜幻火は、今や、文字通りの手負いの獣であった。
 そこに浮かぶのは焦りか。
 生命の半分以上を削られ、無縁であった『死』が迫ってきたのを、本能的に感じたからであろうか。
 今の幻火は、怒れる怪物と化していた。

「お集まり頂きありがとうございます」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、ケルベロス達を見回して言った。
「相模湾にて活動を続けている、戦艦竜についての作戦になります。改めて説明をすると、城ヶ島の南の海を守護していた、強力なドラゴンで……相模湾で漁船を襲うなどの被害を出している個体群です」
 現在各ケルベロス達が、戦闘と撤退を繰り返し撃破を目指す、という作戦を続行中である。
「皆さんにはその内の1体、『幻火』への第3戦を挑んで頂きたく思います」

 状況の詳細を、とセリカは続ける。
「敵は、戦艦竜幻火。場所は、相模湾の海上です。クルーザーにて現場まで移動し、あとは海での戦闘をして頂く形となります」
 戦艦竜はダメージを自力で回復することができない。前の戦いで負った傷に加え、更なるダメージを与えることで、撃破を目指すのが作戦の要である。
 ここで少し、セリカは明るい声になった。
「さて、前回においても、第二陣のケルベロスの皆さんが良好な戦果を上げられました」
 一陣で与えた負傷に加え、二陣のケルベロスの戦果があったことで……現在の幻火の体力は、残り半分を下回っただろうということが判明したのだ。
 情報もさらに蓄積されたことで……ここから一気に撃破を目指すことは充分に可能だろう。
 彼らの戦果に敬意を、と言いつつも……セリカは、そこでまた、厳しい表情に戻っていた。
「ただ、ここで新しい情報があるのです」
 それは事前に入った情報と調査で判明したことだと、前置きした。
 幻火の負傷状態については、変化はない。撃破出来る可能性があるのも変わらない。ただ、挙動がこれまでとは変わっているのだとセリカは説明した。
「現在の幻火は、海中に留まっているでもなく、動き続けています。そして、接近の有無にかかわらず、自分以外の何かを発見した時点で、それを敵と見なしてきます」
 こちらを深追いはせず、ケルベロス側が撤退すれば逃走は出来る、というのは今までと変わらない。ただ、常に動いていることと、警戒状態が強まっていることから、先手を取るのは難しいかも知れませんとセリカは言った。
「幻火の資料についても、変更された部分があるので、目を通しておいて下さい」
 そしてなにより大事なことを、とセリカは続ける。
「尊ぶべきは、命です。ですから、危なければ、撤退を考えるようにして下さい。皆さんが死んでしまっては、どうにもなりませんから」


参加者
四垂・ミソラ(夕暮れの守護者・e00473)
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
九折瀬・朽葉(螺子け人・e04306)
ルイン・カオスドロップ(向こう側の鹵獲術士・e05195)
荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)
トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)

■リプレイ

●変貌
 現場海域へと近づいてきたケルベロス達。
 霧の中、皆は早くも、周囲の状況の変化に気付いていた。
「波立ってきたっすね!」
 鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)がクルーザーの中で言う。実際、既に船体も軽く煽られているような状態だ。
 視界も良くない中、そこにあるのは、明らかな危険の気配。
 荊・綺華(エウカリスティカ・e19440)は少し拳をぎゅっと握った。
「海がこんな状態だと……きっと漁師さんたちも……困るです……」
「ああ。だから、この相模湾の平和を守るために、どかんと行こうぜ!」
 トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)が明るく意気込めば、皆も頷く。
 皆はそれから注意深く観察。目視の他、波音にも警戒をもって辺りを窺うことで……特に危険な一地帯、おそらく敵がいるであろう場所にあたりを付けることに成功した。
 四垂・ミソラ(夕暮れの守護者・e00473)は、すぅ、と息を整える。
「さぁ、参りましょうか」
 気合いは十全。その言葉を合図に、皆で海へ入った。
 クルーザーは巫山・幽子に任せて距離を取らせ……泳いで敵を目指す。
 海を進みながら、ルイン・カオスドロップ(向こう側の鹵獲術士・e05195)は思い返すように言った。
「幻火とは随分長い付き合いっすけど、そろそろ終わりにしたいっすねぇ」
 うん、とそれに頷くのは、こちらも全ての戦闘に参加してきたシル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)だ。
「3回目だし、もうご退場願いたいとこ……わぁ」
 と、シルは途中で少し表情を変えた。
 視線の先に戦艦竜幻火、その姿が見えたからだ。
「ほうほう、あれが今人気ボルケーノってる戦艦竜かー。結構ボロボロだけど」
 九折瀬・朽葉(螺子け人・e04306)が言うとおり、戦艦竜は傷ついている。
 もっとも、シルが反応したのはその見た目だけではない。こちらを強く警戒するような、雰囲気そのものの変貌に対してだ。
「デウスエクスでも、怖いとか思ったりするものなのですかね」
 筐・恭志郎(白鞘・e19690)も、言いいながらも……戦闘態勢を取っている。
「まぁ、それでも、遠慮する気はないですけど」

 戦艦竜も、こちらに気付き、急接近してきていた。
 だがケルベロス達も、不意打ちを受けないように、注意を払ってやってきている。先手は……水中から勢いを付けて肉迫する……ルインだ。
「ようやっと思いっきり殴れるっつーことで……まずは、これでも喰らうっす」
 戦艦竜が反応するより早く、二振りの剣を振るい、星天十字撃。
『グガァァアッ!』
 魔法の力を伴った斬撃は、正面から命中。初手から、強烈なダメージを与えた。
 だがルインは、同時に違和感も覚える。
「若干、動きが捉えにくかったっすね」
 魔法陣を展開、精霊の光を集め、エネルギーとして発射する『精霊収束砲』……それを撃ち込みながら、シルも気付いていた。
「前より、すばしっこくなってるね」
「……確かに、攻撃が当たりにくい感じはあるな」
 応えるのはトライリゥト。
 自身はサークリットチェインを展開しつつも……ボクスドラゴンのセイにブレス攻撃をさせる、その感触に納得したものを浮かべる。
 恭志郎も、同じく味方を防護する魔法陣を描きつつ……分析するように見つめていた。
「敵の攻撃は当たりにくく、自分の攻撃は通りやすい間合い……ということですか」
 それは、追い詰められた結果、戦艦竜が出した結論なのだろう。
 単体で強力な力を誇る敵の、その戦い方は……こちらにとっては楽とは言えない。
「場合によっては、戦いにくいですね」
 ミソラは、正直な感想を吐露していた。
「……それでも、出来る限り、退きはしませんよ」
 そのまま水中から跳び出ると旋刃脚。一瞬、避けられそうになるも、体を翻して横合いからの蹴りを打ち当てていた。
「そうです……ここで倒すです……倒しましょう……」
 綺華も言いつつ、黒毛金眼のペルシャ猫のウイングキャット、ばすてとさまに命令。茨の輪を飛ばさせ、命中させると……。
 厳かに祈りを捧げ始めている。
「天におられる……わたしたちの父よ……み名が聖と……されますように……」
 降ろすのは、守りに優れた英霊の加護。
 その力、『騎士ニ捧グ少女ノ祈リ』によって、仲間の防護をさらに、高めていった。
 と、直後に戦艦竜は動きだし……砲塔に炎を灯している。

●反撃
 放たれたのは、緑色の炎だった。
 それは一瞬でケルベロスの前衛に到達。毒を伴ったダメージを与えてきた。
「おにーさんおねーさん方、大丈夫っすか!」
 衝撃で海に押し戻される仲間に、五六七が思わず叫ぶ。
 水面から顔を出しつつ、トライリゥトは、あぁ、と応えながらも、油断のない顔をしていた。
「聞きしに勝る、って感じだな」
 それは、受けた傷が浅くない事を示す言葉でもある。
 実際、防護が高まった状態でも、その威力は高かった。戦艦竜の狙いが以前より的確であることも、その要因のひとつであろう。
「……でも。こんなものではまだまだ、私達は倒れませんよ」
 吼える戦艦竜に対し、ミソラは決然と言う。
 そこにあるのは、絶対に負けないという、強い想いだ。
「もちろんっす! あちきも今回はリベンジ兼ねてるっす! だから行くっす!」
 と、五六七も皆の無事を確認すると、戦艦竜に向き直る。
 そしてワームホールのような空間から……列車を召喚した。
「やい幻火! お前をぶっちめる為にこれ作って来たっす! 総重量約1350トン! 砲身長含め全長47.3メートル、全高11.6メートル! 搭載武装は砲口径80カノン砲! 超ド級列車砲――のダウンサイジング版っす!」
 言葉通り、それはちっちゃい列車である……が、それは曲がりくねりながらも、カノンを戦艦竜へ向けていた。
「喰らうがいいっす! ドラァ!」
 五六七がびっと指を向けると同時、列車のカノン……『ドーラ猫砲』が火を吹く。
 その砲撃は、違わず戦艦竜に飛来。
『ガァァアアッ!』
 クリティカルヒットすると、巨大な悲鳴を上げさせた。
「皆もどんどん攻撃っす!」
 ウイングキャットのマネギには前衛の体力を回復させつつ、五六七が言うと……。
「もちろん」
 と、応えるのは朽葉。戦艦竜の体に取り付くように近づいていた。
「さーて、素材狩るぞー!」
 言いつつ、その手に握っているのは、ナイフ。それを振り上げると……躊躇なく突き刺し、ジグザグスラッシュを喰らわせていく。
「ジグザグ♪ ジグザグ♪ ジーグザグっと」
 子共が床にクレヨンで落書きするかのように、歌いつつ。その笑みに、どこか無垢な残酷さを滲ませながら。
 その攻撃で、戦艦竜の傷は一気に広がった。
「この隙に、背はもらったっすよ」
 戦艦竜が苦悶している間に、ルインは敵の背に移動。すぐ足元に向かって、サイコフォースの爆撃を叩き込んだ。
 またも戦艦竜の声が上がると……シルも、間断を作らず跳躍している。
 宙で回転しつつスターゲイザーを放つと、その勢いのまま、蹴り上がるように戦艦竜の背に乗っていた。シルは見下ろす。
「やっと少し、動きも鈍くなってきたかな?」
「そのようですね」
 恭志郎も、機を見て背へと上り、頷いた。
 その間も、護身刀から零れる光と地獄の炎を共振させ、『煉華』を生み出し、ルインの体力を回復させている。
「ただ、幻火も、まだ体力自体は残っていそうですね」
「攻撃力も……まだまだ……高いです……」
 戦艦竜を見つめながら呟くのは綺華だ。
 ただ、綺華もまた、祈りを捧げることにより前衛の仲間を回復している。
「だから少しでも……わたしがみなさまを……守るです……ばすてとさまも……」
 言うと、ばすてとさまも清浄の翼を行使。これで、ほぼ可能な限りの治療を施したこととなった。
「サンキュー! ま、体力が多いなら……ガンガン削っていくだけだぜ!」
 するとトライリゥトも再び戦艦竜に接近。そのまま達人の一撃を胴部に打ち込んだ。
 ミソラも、主砲である『大型竜撃兵装スカーレット・ノヴァ』を、間近から向ける。
「ええ……少しずつでも、確実に、勝ちに向かって進んでみせます!」
 そのまま、一斉砲撃。全弾命中させ、戦艦竜の体を穿っていった。
 だが、そこで戦艦竜は、かすかな鳴動をしている。
 ケルベロス達はそれに気付くものもあったが……動いたのは、砲塔。
 それが、中衛へ黄色の炎を放っていた。

●攻防
 それは、回避できる攻撃ではなかったが……。
「みなさまに……怪我は……させないです……させません……」
 砲塔の前に立ち塞がっているのは、綺華。
 盾となって、黄炎による一撃を庇っていた。
 その横で、漂う炎の残りを、腕で振り払うのはトライリゥト。トライリゥトもまた、攻撃を代わりになって受け止めていた。
「悪いけど、狙い通りにはさせないぜ?」
 黄炎には耐性を持ってもいるためか、2人のダメージも最小限。負傷はゼロではないが、致命傷には遠かった。
「わあ、ありがとう! さすがだね!」
 朽葉は変わらぬ笑みで嬉しそうに言うと……お返しとばかり、御業を出現させている。
「じゃあ僕も張り切っちゃおうかな!」
 と、そこから熾炎業炎砲を放つと、戦艦竜をより強い炎で包んでいた。
 五六七もケルベロスチェインを伸ばし、戦艦竜の巨体を縛り上げている。
「おらおらー! 捕まえたっす! 一本釣りっす! 今っすよ!」
 その言葉を合図に、ケルベロス達はさらに苛烈な攻勢に入る。
 シルは、再び目の前に魔法陣を展開。上下左右に精霊の光を出現させていた。
「火よ、水よ、風よ、大地よ……」
 それが魔法陣の中央部分に、青白い魔力エネルギーとして集中。
 シルはそれを、力強く撃ち出す。
「混じりて力となり、目の前の障害を撃ち砕けっ! エレメンタルブラスト、フルパワーッ!!」
 その光は、まっすぐに戦艦竜の砲塔へ飛び……その1門に直撃、半壊状態にさせた。
「う~ん、惜しい、もうちょっとかな?」
「一撃であれなら充分凄いと思うっすけどね」
 首をかしげるシルに、ルインは応えつつ……腰に挿す、生贄用のナイフを手に取っている。
「まあ、次はこの攻撃を喰らうっすよ」
 と、ルインは、自らの手のひらを切り裂いていた。
「降りたつ混沌の種子、偉大なる大樹の芽、遍く地を覆い蠢け、我らの血肉は汝の物……」
 すると、そこから……大樹の根のような巨大な黄金の触手が蠢く。
 それは、『蠢く鮮血の密林』。触手は怒濤の勢いで戦艦竜に襲いかかり、強烈に体を打ち据えていった。
 その間にも、綺華は自分を含めた前衛に、祈りによる治癒を与えている。
「大丈夫……ですか……?」
「ああ、ありがとうな」
 トライリゥトは、笑顔で応えた。マネギやばすてとさまも回復行動に入っていたために、黄炎で受けた浅い傷は完治していると言って良かった。
「戦艦竜も……少しずつ……弱ってるです……」
 綺華の言葉には……恭志郎も、絶空斬を放ちながら頷く。
「戦艦竜の体力はさらに半分……いや、もうそれ以下に減っているはずです」
「このまま、畳みかけていきましょう」
 と、ミソラは言いながらも、既に跳んでいる。
 直後には、高い上段から、旋刃脚をその背に叩き込んだ。深い一撃に、戦艦竜がまた悲鳴を上げると……。
 トライリゥトも再び、戦艦竜の背で拳を振り上げる。音速を超える速度で打撃を打ち込んでいくと、セイにも声を張った。
「よし、セイ、ボクスブレスだ!」
 即座にセイがブレスを放射すると、それも敵の全身に命中。あらゆる傷を抉り、広げていく。
 五六七も、拳で戦艦竜の表皮を破壊していた。
「抉り込むように――うつべしうつべしっす! ……うぉっす!?」
 と、途中で五六七が気付いたのは、戦艦竜の砲塔の動きだ。
 戦艦竜は苦悶しながらも……まだ死なない、とでも言いたげに、緑炎を放つ。

●虹
 狙いは後衛だった。
 その全員を凄まじい衝撃が襲う……かに見えたが。
「……皆さんは、護ります」
 背の上、砲塔の真正面で膝をつきながら……ミソラのそんな言葉が漏れる。
 炎は、後衛には届かなかった。
 ミソラ、綺華、トライリゥト、そしてセイを含めた4人が、後衛の全員を守っていたのだ。
 ダメージは大きかった。だが、ミソラは立ち上がっている。この血に代えても、魂に代えても、皆を護りきる……そんな想いを体現するように。
 綺華達も、倒れていない。体力がぎりぎりまで減ったものはいるが、まだ全員、戦える。
「皆で、勝ちましょう」
 ミソラが言うと……皆が、それに明るい声を返した。
 マネギとばすてとさまが即座に回復に入る中……反撃に出るのは朽葉。
「よっと。やっぱりこれだけ大きいと、螺子伏せるのに苦労するってことだね!」
 そんな不満を言いつつも、ブラックスライムで形成した螺子を、戦艦竜に突き刺す。それを強引に足で螺子込んだ。
 その一撃、『贔屓の轢き斃し』は体を深々と穿ち……戦艦竜を大きくうねらせる。
 その間に砲塔に肉迫していたシルは、文字通り旋風のごとき蹴りを放っていた。
「今度こそ、墜とすよっ!」
 それは砲塔を直撃、大破させる。これで砲塔は残り、1門だ。
 よしっ、と声を出すシルを見て、トライリゥトは何となく呟く。
「まったく、ドラゴン相手にも楽しそうなんだからな、うちの団長は」
「ひひ、むしろ、楽しくない理由がないっすよ」
 そう応えるのはルイン。酷薄そうな笑みを浮かべ、両手の剣で、戦艦竜に十字の傷を刻んでいた。
「でも……最後まで……油断なくいくです……」
 綺華は『騎士ニ捧グ少女ノ祈リ』を唱え、仲間の体力をぎりぎりまで、万全に保っていく。
 この間も戦艦竜は激しく揺れ動いているが……そこに、支援に入ったノルン・コットフィアが、『颯壊旋撃』を撃ち当てていた。
「弱ってるのに、この戦艦竜はよく動くのね」
「焦っているのかも知れません」
 ノルンに、恭志郎は返しつつ……戦艦竜へナイフを向けている。
 現出させるのは、惨劇の鏡像。
「本来は、死ぬかもって感覚は無いかも知れないけど……これで、本当に感じられるかも知れませんね」
 現れた惨劇に何を見たか、戦艦竜はより一層、暴れる。
 トライリゥトはそれでもうまく足場を取り……その拳に再度、力を込めていた。
「もうすぐ楽にしてやるぜ。だからこの一撃を喰らえ!」
 放たれた達人の一撃は、戦艦竜にまたも、大きなダメージとなって伝わる。
『ガ……ァアアッ!』
 すると戦艦竜は、皆を振り払おうとしてか。
 一度海に潜ったかと思うと……巨大な轟音を立て、海面から跳んだ。
 それは飛んだ、と言ってもいいかも知れない。
 強烈な勢いで飛び出した戦艦竜は、高々と、海を眼下にするほどの高度にまで達していた。
 撥ねる海水と、幻火の炎が、空に虹のような煌めきを作り出す中……。
 それでも、ケルベロス達はその体に食らいついていた。
「くっ……!」
 ミソラは振り落とされそうになりながらも、戦艦竜を掴んで放さない。
「あなたも、全霊をもって戦っている。なら、こちらも最後までそうするだけです!」
 降魔真拳を打ち込み、さらに生命力を喰らった。
「わあ! こんなアトラクションが楽しめるなんてお得だね!」
 と、楽しげな顔を崩さないのは朽葉である。朽葉もまたジグザグスラッシュで傷を抉っていた。
 戦艦竜は、瀕死だった。それでも、空中で鳴動を始めているが……。
「うおお! やらせないっす! ドラドラドラァ!」
 五六七が、とっさに『ドーラ猫砲』を発射。最後の砲塔にひびを入れると……。
「最後の1門ももらったよっ!」
 シルが『精霊収束砲』を閃かせる。
 その光に飲まれたあと……砲塔は爆発。炎を灯す直前で、幻火最大の武器は、散った。
 ルインは背を蹴り、落下しながら戦艦竜の顔と同じ位置に移動した。
「混沌に弄ばれ、闇に還るが良いっす。我が主が、お前の苦しむ様を見てるっすよぉ!」
 そして、『蠢く鮮血の密林』の触手で、戦艦竜を強打。
 顔を潰すと同時、その生命までもを、喰らい尽くした。

 どぽん、と着水したケルベロス達は……。
 ぷかぷかと海水に浮かびつつ、空を見上げていた。
「戦艦竜……幻火……倒したです……ね……」
 綺華が言うと、トライリゥトもようやく実感したというように声を出す。
「あぁ。やったぜ、俺達が……あのデカブツを倒したんだ!」
「楽しかったのに、少し残念だけどねー」
 朽葉は、消えて行く戦艦竜の体や砲塔の破片を眺めつつ、そんなことを言っていた。
 ぷは、とシルも海面から顔を出す。
「最終的には、跡形もなくなっちゃったね」
「それもまた、倒したという何よりの証拠だと思います。……やりましたね」
 ミソラは、脅威が消えたことを確認すると……笑顔を浮かべ、皆と喜びを分かち合った。
 恭志郎も、穏やかな表情でそれに応えた。
「皆さんの力を合わせた結果、ですね」
「もちろんっす! 今回だけじゃなく、先陣からの皆さんの力もあってのことっす!」
 五六七が言いつつ、マネギと一緒に水遊びのようなことを始める横では……ルインも笑みを作っていた。
「それなりに苦しめることもできたし、結果としては悪くないっすかねぇ」
「そうだね。あ、見て」
 シルが上を指すと……霧が、晴れていた。
 空には、虹。
 帰りのクルーザーがくるまでの短い間……。
 皆はしばし、その美しい光景を眺めていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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