病魔としあわせのバケツプリン

作者:相原きさ

「もうすぐ、退院ね」
「うん、なっちゃん、もうすぐたいいん、なのっ!」
 5歳くらいの小さな女の子が、嬉しそうにそう言った。
 ここは小児科病棟。なっちゃんと名乗った女の子は、長い入院の末、病気を克服し、退院の日を迎えようとしている。
「ママね、なっちゃんのために、大好きなプリン持っていくわね。バケツみたいな大きなやつよ」
「うわーい! なっちゃん、プリンだいすき!」
 なっちゃんは、大好きなママに抱き付き、大喜び。

 そんな夜の事。
 黒衣を纏った女性が、なっちゃんの部屋にやってくる。
 そして、何者かを呼び出す。病魔だ。
 なっちゃんの体に病魔を送り込むと、黒衣を纏った女性は微笑みながら、そっとその場を後にしたのだった。
 
 集まったケルベロスにぺこりと頭を下げると、笹島・ねむ(ウェアライダーのヘリオライダー・en0003)は、さっそく説明を始める。
「ある病院で死神による事件が起きました。病院に現れた死神が、退院間近の幼い少女、なっちゃんに『病魔』を移植して、不治の病にしてしまったんです。このままでは、なっちゃんの体内のグラビティ・チェインを死神に奪われ続けた挙句、干からびて死んでしまいます。それを阻止するためには、なっちゃんの体内にいる病魔を撃破しなくてはならないのです!」
 そのためにはウィッチドクターの力が必要だ。
「ウィッチドクターさんがなっちゃんの体から病魔を分離して、戦闘可能な状況にすることができるんです。分離した病魔をそのまま、皆さんが撃破すれば、なっちゃんの病もすぐに治すことができるはずです」
 万が一、メンバーの中にウィッチドクターがいなければ、病院のウィッチドクターが病魔を出現させてくれるそうだ。その場合、そのウィッチドクターが撤退するまで守る必要があるだろう。
「幸いなことに、なっちゃんの病室は、病院の庭園のすぐそばです。庭園ならば、戦うのに十分な場所を確保できると思うのです」
 戦う場所は、その庭園になりそうだ。
「あ、皆さんの戦う病魔は、どろどろに溶けた、黒いアメーバのような姿をしています。口から炎の弾を吐き出したり、毒を帯びた牙で噛み付く攻撃をする他、分裂して回復する力も持っているみたいです。戦う際は気をつけてくださいね」
 そういうとねむは、もう一度、ケルベロス達の顔を見回した。
「もうすぐ退院する小さな女の子に、こんな仕打ちは酷いです……お願いです、絶対に病魔を倒してなっちゃんを助けてあげてください」
 そういうと、ねむはぺこりとまた、頭を下げたのだった。


参加者
ステイン・カツオ(御乱心アラフォードワーフ・e04948)
虎督・盛(人生日々ひきこもり・e07259)
アーキ・ランレイト(異能銃士・e12006)
エシャメル・コッコ(コッコ村代表取り締まられ役・e16693)
甘茶・結衣結衣(お茶運び人形・e18658)
天城・命(レプリカントのウィッチドクター・e18976)
トライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)
ティア・ラザフォード(シューティングスター・e21071)

■リプレイ

●なっちゃんと病魔
 静かな廊下をため息交じりに突き進むのは、虎督・盛(人生日々ひきこもり・e07259)。
「病室で病魔を召喚し、なっちゃんを避難させ、病魔を庭園に叩きだして倒す、か」
 手元のスマートフォンを棒読みで読み上げつつ、盛は、ふと顔をあげた。
 入院患者が入り、治療を受ける病室。なっちゃんの名前が記載されたネームプレートが盛の目に映る。
「ここか」
 がちゃりと扉を開き、盛もメンバーとして加わる。
 今回の作戦では、天城・命(レプリカントのウィッチドクター・e18976)の病魔召喚でなっちゃんから病魔を引き剥がし、その病魔をそのまま、庭園へと押し出す予定だ。
「庭園から人を遠ざけておいたな」
「全員、安全な場所に行ってもらったから、いつでもいけるぜ」
 庭園にいた者達を避難させ、人払いをしていた、エシャメル・コッコ(コッコ村代表取り締まられ役・e16693)とトライリゥト・リヴィンズ(炎武帝の末裔・e20989)。それともう一人。
(「看護師か医者にイケメンいねえかな……ここでいいところ見せれたら、いけるとこまでイケそうな気がすんだけどなぁ」)
「ステイン?」
 トライリゥトに声を掛けられ、ステイン・カツオ(御乱心アラフォードワーフ・e04948)は。
「あ、いえ、なんでもございません。準備もできましたし、さっさとすり潰してしまいましょうか」
 心の声に気付かれないよう、ステインはそう繕う。それを見ていた仲間達は思わず顔を見合わせていたが、そろそろ時間だ。
 なっちゃんの家族に避難するよう指示を出しながら、アーキ・ランレイト(異能銃士・e12006)は、ベッドに横たわるなっちゃんに声をかける。
「心配は要らない。俺たちが来たからには必ず助かる。だから、もう少しだけ辛抱な」
「戦いが終わったら、コッコ村のおいしープリン、食べさせてあげるな!」
「……う、ん」
 コッコも一緒に、そう元気づける言葉に思わず、なっちゃんもうっすら笑みを浮かべた。
「長い入院の末に、やっとの退院じゃというのに……子供の退院を妨げる病魔を見過ごすわけにはいかぬの。 なっちゃんには、無事にお母さんのプリンを美味しく食べて欲しいものじゃな」
「ええ、絶対になっちゃんを助けてプリンを食べさせてあげないといけませんね」
 なっちゃん達を見守りながら、甘茶・結衣結衣(お茶運び人形・e18658)とティア・ラザフォード(シューティングスター・e21071)はそう頷き合う。
「せっかく小さな子が難病に打ち勝ったのに、こんな物をけしかけるなんて、病魔もその死神も赦さないわ。……皆、準備はいいわね?」
 皆の顔を確認してから、命はさっそく、病魔召喚を行う。
「こっちだぜ、病魔!」
 どろりと出てきた病魔をケルベロス達はすぐさま、激しい攻撃をぶち当て、庭園へと叩き出すことに成功する。
 その結果、病室の窓が割れてしまったが、仕方ないだろう。なっちゃんを救うため、アメーバのような病魔とケルベロス達の戦いの幕が開いたのだった。

●ケルベロスVS病魔
 べちゃりと、庭園に病魔がやってくる。
「黒いアメーバ。毒々しいな。触るとステータスが『POISON』になるんじゃね?」
 その病魔の姿を目の当たりにして、思わず盛が呟く。
 庭園の周りは人払いしたお蔭で、巻き込まれるような一般人は全くいない。
 倒すなら、今だ。
「なっちゃんはコッコとはこっこに任せてな!」
 なっちゃんの病室の前に盾になるように位置したのは、コッコ。その後ろにはミミックのサーヴァント、はこっこが位置している。
 今回コッコは、なっちゃんの病室を守る役目を担っていた。
 まずはコッコが盾になり、それでも駄目なら、はこっこが盾になる。二重の盾があるのだ、万が一の事が起きても、この防御があれば万全だろう。
「さぁ、覚悟しやがれ病気野郎!」
 さっそく攻撃を開始するのは、トライリゥト。殴りつけると同時に、網状の霊力を放射し病魔を緊縛する。
「ぐるるるぅ」
 唸り声だろうか? 病魔が攻撃を受けて、ジタバタとうごめいている様子。
 どうやら、トライリゥトの狙い通り、捕縛の効果が発動したらしい。
 と、命が病魔の前まで走り込んでくる。
「これでも喰らったらどう?」
 内蔵モーターで肘から先をドリルのように回転させ、威力を増した一撃を放つ。
 あまり効いていないような動きを見せているが、びくびくと波打っているのを見ると、しっかりダメージは入っているのだろう。
 続いてティアが、しっかりと両手で構えたガトリングガンを病魔に向ける。
「あなたを倒して、なっちゃんを助けるんです!」
 爆炎の魔力を込めた大量の弾丸を激しく連射して、攻撃を重ねていく。
 病魔の体についた無数の穴が開いたままになっている。
「さて、そろそろ動くとしようかの?」
 その様子を見ていた結衣結衣は、更なる強化を図るため、妖精の祝福と癒やしを宿した矢を仲間に射ち、敵の呪的防御を破る力を与える。
「悪いが、背が低い分こういう芸当も得意でな!」
 攻撃は続いている。アーキが竜化させた腕に込めた力で敵を拘束、その後、地面に叩き付けたかと思うと、そのまま周囲を引きずり回した上で、再度地面に叩き付ける。その容赦ない攻撃に、病魔は激しく体を震わせているようだ。
「まぁ、目覚めの悪いのも嫌ですし……」
 ステインもまた、強化のために、半透明の御業を鎧へと変形し、自らに守護の力を付加していく。
 その間にふらふらした足取りの盛が。
「あ~だるい」
 と言いながらも、前にいる仲間に分身の術をかけて、敵の攻撃で不利にならぬよう耐性を施す。
 それを見た病魔が、負けじと攻撃を仕掛けてきた。目標は……トライリゥト!
 ゴオオオオオオ!!
 激しい炎が彼の体を焼き尽くす。だがしかし、病魔の攻撃をもろに受けてしまったトライリゥトは。
「やらせねぇ……やらせるかよっ!」
 -守護者-を発動させ、受けた傷をすぐさま回復していった。そう、まだ戦いは始まったばかりなのだ。ここでやられる訳にはいかない。
 なおも攻撃しようと身構える病魔に。
「よしよし、捕まえたのじゃ」
 即座に反応するかの如く、結衣結衣が立ちはだかり、病魔の影を踏みつけた。影踏み……結衣結衣の得意とする敵の動きを鈍らせる技だ。
 それだけではない。
「うろちょろ動かれると面倒、動かないで」
 命が闘気を稲妻に変え震脚と共に相手の自由を奪う、雷獣之踏鳴を使う。これもまた、結衣結衣の放ったものと同様に相手の動きを鈍らせる力がある。
「ぐるるぅ!!」
 二人の攻撃を受けて、病魔の動きが目に見えて鈍っていく様子が分かる。
「ふあぁ~あ……やる気ゼロなコレ、当たると恥ずかしいぜ」
 更なる攻撃を。あくびをしながら、盛が敵に喰らいつくオーラの弾丸を放った。
 その攻撃に合わせるかのように。
「フェアリー起動、逃がしませんっ!」
 そのティアの声に反応して、大量の妖精型の戦闘人形が病魔へと殺到し、それぞれの武器で一気に攻撃を重ねていく。これがティアの魔力感応型機動武装【フェアリー】。
 それでもなお、もぞもぞと標的を探すような素振りを見せる病魔に、今度はステインが。
「そろそろ、私の良い所をお見せいたしましょうか?」
 氷結の螺旋を放ち、遠距離に位置する病魔を凍らせていく。
 そこにアーキが日本刀を構えて、飛び込む。
「二度と人間の体に巣食えると思うなよ、病魔ァ!」
 渾身の力を込めた三日月のような一閃。アーキの放った月光斬が止めとなり、病魔はその体をぶくぶくと泡立てるととたんに破裂し、消え去った。
 そう、ケルベロス達の勝利だ!
 ケルベロス達は病魔が消え去ったのを見届けた後、笑顔で互いの手を叩き合い、健闘を称え、なっちゃんのいる病室へと歩き出したのだった。

●なっちゃんとバケツプリン
 壊れた窓ガラスを結衣結衣と盛がヒーリングで直していく。
「後始末もしっかりする、これも番犬の務めじゃ」
「……ん」
 その間にも、元気を取り戻したなっちゃんの周りに両親や病院関係者、それに病魔を倒したケルベロス達が集まってくる。
 もちろん、なっちゃんの目の前にはあの、バケツプリンが鎮座していた。
 その光景に病み上がりだというのに、なっちゃんは瞳をキラキラと輝かせて、さっそく一口。
「おいしー! ママ、おっきいプリン、おいしいよ!」
 嬉しそうに食べていくなっちゃんに、声をかける者が。
「よかったな、なっちゃん。今後もママと仲良くしていい子にしていれば、きっともう病気はしないぜ」
「うん、ありがとう、ケルベロスのお兄ちゃん!」
 トライリゥトだ。笑顔を見せるなっちゃんの頭をぐしゃぐしゃと撫でて、嬉しそうな笑顔を見せている。
 一口一口食べていくなっちゃんに今度はアーキがやってくる。
「こんだけ大きなプリンだと、味に飽きが来るだろう? 実はこんなものを用意しておいたんだ」
 アーキがそう言って取り出したのはチョコソースに、イチゴやオレンジなどのフルーツソースのパック。これをプリンにかけて味を変えるのだ。これならば、最後まで食べ切れる……かもしれない、たぶん。
「あの……もしよければ、これもいかがですか?」
 おずおずとティアが差し出したのは、ティア手作りのプディング。
「ちょっと待つな! コッコも村のプリンがあるな!」
 コッコも負けじと用意した特製プリンをなっちゃんに手渡す。
「わああ、プリンがいっぱいだね。いっただきまーす」
 それぞれのプリンを食べて、笑顔になるなっちゃんにティアもコッコも自然に笑みが零れていく。
「そうだ、これもあげるな! プリン団の証な!」
 コッコはそう言って、プリンバッジもあげていた。
「そういえば、なっちゃんはもうすぐ小学生なのか。学校に入ったらどんなことがしたい?」
 バケツプリンにイチゴソースを掛けながら、アーキが尋ねる。
「んーとね、いっぱいおともだちをつくって、いっしょにいっぱいあそぶの! ようちえんじゃ、あんまりあそべなかったから」
 こうして、ケルベロス達は病魔を撃破し、幼い子供のなっちゃんを救うことが出来た。
 きっと、プリンを見るたび思い出すだろう、このことを。

「ママ―、やっぱりもう、このプリンいらなーい」
 ちなみにこの日、なっちゃんは大きなプリンよりも小さいプリンの方が美味しく食べられることを知ったのは言うまでもない。ついでにいうと、アーキのソースで味を変える方法はかなり有効だったということも、なっちゃんは覚えた。
 教訓、バケツプリンは一人で食べるものではありません。
 それでも、いつか全部食べられるようになれたらなーと、なっちゃんは食べかけのプリンを見ながら、そう思うのであった。

作者:相原きさ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2016年2月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 5/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 1
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