多摩川防衛戦～滅剣のボルグ

■リプレイ

●激突
　多摩川を背にした一帯。そこに数百人に上るケルベロスが、集結している。
「こうして見ると、壮観っすね」
　九頭龍・冥（屑龍・e11303）は、心強さと、どこか圧倒されたような感情を同居させつつ……見回していた。
「それほどの相手なんだと思うと、気合いも入るわね」
　歩いてきて言うのは、天堂・ユキ（オネエのウィッチドクター・e00581）。撤退時のために川を調べていたのだった。
　エイト・エンデ（奮う雷霆・e10075）も、ユキと一緒に合流する。
「撤退の際に障害になりそうな物はなかった。逃げること自体は問題なく出来そうだ」
　それに皆も頷いた。これほどの備えをするのも、やはり、危険な敵とやり合うからだ。
　遠くには既に、人馬宮ガイセリウムが見えている。
　数百人のケルベロス達が、一斉砲撃の準備を整えると……花道・リリ（失せモノ探し・e00200）も、息をついて攻撃に備えた。
「ようやくね。待ちくたびれたわ」
「では我等も、攻撃開始だな！」
　そして、ケルベロスによる一斉砲撃が開始すると……光影・闇照（尊大な勇気・e00380）も声を上げ、８人も攻撃を始めた。
「えーい！　当たれっ！」
　最初にハートクエイクアローを放ったのはフェクト・シュローダー（レッツゴッド・e00357）だ。
　それに、皆も続く。冥はニートヴォルケイノのマグマ、リリは気咬弾のオーラで攻撃し……エイトは杖から雷撃を、闇照は火器による文字通りの砲撃を命中させる。
　ユキもオーラの弾丸を放つと……。
　四辻・樒（黒の背反・e03880）は螺旋氷縛波を、その傍らにいる月篠・灯音（犬好き・e04557）は熾炎業炎砲を発射していた。
　一時、猛烈な砲撃に城全体の姿が覆われる。
　だが、それが晴れると、傷一つないガイセリウムがあった。
　とはいえ、グラビティ・チェインの消費のためであろう、侵攻は停止している。あとは予知通り、アグリム軍団が出てくるのを待つのみだった。
　戦いを前に、樒は恋人……灯音を抱き寄せる。
「ああ、樒」
　それを受け入れる灯音を、樒は強く見つめた。
「灯、何時も通り背中は任せる」
「安心して、あなたの命は私が護る」
　灯音もそう、微笑み返して……ぎゅっと、手に力を込める。
　握り直すのは、敵を倒すための、武器。

　程なくして、ガイセリウムから点々と敵影が現れる。
　赤い甲冑を着た、アグリム軍団だ。
　接近と共に、一帯のケルベロス達と交戦に入ると……８人にも、標的が見えてきていた。
「あれっすね！　先手は頂きっす！　まずは……溢れるニートパワーを喰らえ！」
　初手、動いたのは冥。まだ敵の姿が小さいうちから、ニートヴォルケイノで溶岩を噴出させ……足元から敵を襲った。
　その敵影……２本の剣を持ったエインヘリアルは、こちらに気付いたように近づく。
「お前らが相手になってくれるのか？」
　笑みが浮かんでいるのは、顔が見えなくても分かった。
　すると、リリもそこに駆け、跳躍。
「そういうことだから。お相手願うわ」
　言うと同時、煌めきを伴った飛び蹴りを炸裂させる。それで肩へと痛打を受けつつも……しかしそのエインヘリアルは、余裕を見せていた。
「おっと。まだ痛くねえな」
「そうか？　なら、これも喰らうか」
　すると、さらに樒が螺旋を飛ばす。氷結の力が弾けると……連続のダメージに、敵はさすがに一歩、下がっていた。
　そしてははっ、と笑った。
「思ったより面白そうじゃねえか」
　こちらが弱い相手でないと、悟ったか。剣を向け、声を上げた。
「どうせ死ぬことになるから、冥土の土産に教えてやる。俺は……滅剣のボルグ！　お前らを殺す者だ！」
「あ、それなら私も名乗らせてもらうよ」
　と……そこで、フェクトが一歩前に出ていた。どんと胸を張りつつ。
「私は私教絶対唯一の神様、フェクト・シュローダー！　神様の前で悪事なんてさせないよ！」
「何……」
「となると、次は我か」
　さらに言って踏み出したのは、闇照。
「我は勇者、光影・闇照！　さぁ、汝の勇気を我に見せてみよ！」
「神に、勇者だと……」
　２人の自称に驚いているようなボルグだったが……すぐに笑う。
「それならそれでいいぜ、殺しがいがある。俺の勇気は……全ての相手を殺すことだ！」
　直後、剣から巨大なオーラを放った。

●暴波
　それは巨大な波のように、前衛を襲った。
　灯音が直前に『白癒』を展開し、防備を高めていたものの……ダメージは大きい。
「みんな、大丈夫っ？」
　灯音の言葉に、樒は頷きつつも間合いを取っている。愉悦を滲ませているボルグ、その姿を見据えながら。
「エインヘリアルというよりは、ベルセルクと言った方がいいか。狂ったやつは始末が悪いな」
「いい褒め言葉だぜ」
　それにも言って、更なる攻撃態勢を取るボルグだが……目の前に、闇照が跳んでいた。
「それ以上はやらせん！」
　身を翻し、スターゲイザー。その一撃は、顔への強打。闇照は敵の体をばねにするように再び跳躍し、着地していた。
　その間、仲間には、エイトがライトニングウォールを折り重ねるように展開。独自に作り上げた能力、『LW・レイヤード』により、蝕む氷をも治癒していく。
　ただ、エイトはまだ、最大限の警戒を解いていない。
「これでもまだ、完全には回復できないか」
「何発も耐えられる攻撃じゃない、ってことね」
　ユキも冷静に、分析する。そして自身もライトニングウォールを行使しつつ……テレビウムの心電図にも冥に応援動画をかけさせ、出来る限りの回復を施した。
「だったら、やられるより早く倒すだけだね！」
　と、弓を引き絞っているのはフェクト。その祝福の矢は、リリへと向いている。
「リリちゃん、これをっ！」
　それがリリの体へ当たると、光が散ると共に、破剣の力を与えていった。
「どっちが早く死ぬか競うってのは、悪くないな。一番痺れる遊びだ」
　ボルグは、楽しげな雰囲気を崩さずに言っていたが……リリは不機嫌な表情のまま、そちらを向く。
「そっちは一応、私達を退かせさえすればいいんでしょ。なのに、自分がそうしたいから殺すの？」
「そうさ。悪いか？」
　てらいもなく応えるボルグ。その言葉に、リリは激昂したりはしない。
「私も大概自己中だけど……上には上がいるのね」
　言って、御業で炎弾を生み出し……それを確実に、ボルグへと撃ち当てるだけだ。
　それを機に、皆も再び攻勢へ入る。
「そうだ、自己中っす！」
　と、冥も、跳躍して上段からボルグに迫っていた。
「そもそも新年早々攻めてくるのが勝手！　迷惑！」
　そのまま踵落としを胸元に打ち当てると、ボルグの体勢を崩していく。
　灯音は、その間にも樒にウィッチオペレーションを施し……回復しきれなかった傷を修復していた。
「ありがとう。灯の手は、温かい」
「うん、後ろは任せて、樒」
　灯音に頷くと、樒はナイフを手に、ボルグに急接近。懐に入り、絶空斬で傷を抉っていった。
　ボルグの動きが、それでかすかに鈍くなる。
　が、まだボルグも健常。樒が退く前に、両手の剣を掲げていた。
「それほど死にたいなら望み通りにしてやるさ」
　言葉と共に、十字の斬撃が繰り出される……が、樒には当たらない。
　そこへ、翼をはためかせて立ち塞がったエイトが……攻撃を受けていたからだ。
　一撃で意識が飛びかける攻撃。だが、エイトはぎりぎりで、それに耐え抜いた。
「……何でも思い通りになると、思わないことだ。お前のような者には斬れないものも、ある」
　エイトは表情を変えず、しかしその目に、敵を射貫く感情を宿らせていた。
　ボルグは、怒りを浮かべる。
「……皆殺しだ。ここの奴らも街の人間も」
　そうして再び腕を振り上げるが……横合いから、強烈なエネルギーの矢が体を穿った。
　その方向に、弓を構えていたフェクトがいる。
「平和に生活してる人達を殺すなんて……絶対に許さないよ」

●残滓
　不意のダメージに、ボルグは大きくふらついていた。
　エイトも膝をついていたが……直後には、自身の裂帛の気合いでシャウト。幾ばくかの体力を取り戻す。
　ユキも、心電図に応援動画を流させ、エイトの体力を保つ。
「大丈夫？」
「すまない。これでも次の攻撃には、耐えられなさそうだな」
　エイトは自分を俯瞰で見るように、そんなことを言う。ただ、それでも、敵の最重の一撃を耐えきったのは事実であった。
「あとの回復は私が」
　灯音がそこで魔術切開を施し……エイトを出来る限り、回復させる。
　ユキは頷いて、ボルグへと向いていた。
「なら、アタシは……お返ししてあげなくちゃね」
　そして地を蹴ると、攻撃に移る。飛行して一気に距離を詰めると……狙うのはボルグの足元。
　日本刀を抜き、繰り出すのは『神速突き』だった。風が突撃するような素速さの一撃に、ボルグは脚を深々と貫かれる。
「ちぃ、てめぇら……ッ」
「苦しくなってきた、という顔をしているな！」
　表情を歪ませるボルグに、闇照はアームドフォートを向けながら言った。
「殺すことが勇気と言ったな。結局それでは、勝てぬということだな！　つまり、我こそが本物の勇者なり！」
　同時、フォートレスキャノンを撃ち込む。
「ぐぉっ……！」
　全弾命中し、呻きを上げるボルグは……今度は、笑いを浮かべる余裕はない。
「人間共に与するようなやつらが、生意気言うんじゃねぇ……」
　そうして剣を振り上げ、叫んだ。
「何が、ケルベロスだ……ッ！」
「そっちこそ、殺すしか能がないくせに知ったふうに言わないでくれる？」
　それに、相変わらず怯むこともなく、リリが返す。その手に強力なオーラを溜めながら。
「悪いけど、私はこの仕事に人生賭けてんの。負けないわ」
　放たれた気咬弾は、ボルグの腹部に直撃。その体を数メートル、吹っ飛ばす。
　そこにさらに、樒が追いすがっている。
「そのケルベロスに、お前は殺されるんだ」
　樒はナイフを振るい、今度はシャドウリッパー。目で追うことの出来ない斬撃を無数に与え、ボルグの傷を一気に深めていった。
「誰が、死ぬか……ッ。俺は、アグリム軍団、だぞ……ッ」
「なら、その鎧から剥いでやるのもいいっすね」
　と、次いで至近にまで迫っているのは冥だ。
　巨大な屠竜槍を思いきり振り上げると……それを真正面から振り下ろす。
「はぁっ！　筋肉達磨の誰特ヌードショー開幕！」
　その一撃が、宣言通り鎧の一部を破壊し、野に散らせる。
　たたらを踏んだボルグに、フェクトが達人の一撃を叩き込むと……ボルグは立っていられず、後ろ倒れに転げた。
「神様を怒らせたら怖いって、分かった？」
　フェクトが見下ろしつつ言うと……ボルグは、たがが外れたように、笑っていた。
「ははは……あぁ、分かったよ。お前らが強いってことはな……。だから、死ぬ気で殺してやるよ！」
　立ち上がると、剣を振るい、再びオーラを放ってくる。
　それは前衛を襲ったが……命中するのとほぼ同時、攻撃を放っているものがいた。
　エイトだ。
「悪いな。あとは……頼む」
　オーラを喰らい、言葉を残して気絶するエイトだが……間際に放たれた雷撃もまた、ボルグに確かなダメージを残していた。

●粉砕
　ボルグは、剣を地面につく。
　何とか体勢を保っているが、弱っているのは明らかだった。
　だが、こちら側のダメージも小さくはない。ユキは心電図と共に、樒と冥を集中的に回復するが……。
「アタシも、次は耐えられそうにないわね……」
　自身の負傷にそんな言葉が漏れる。ただ、それはあきらめではない。
「それでも戦線は維持できるようにするから。皆で、勝ちましょ」
「無論だ。我々に、負けはない！」
　そう応えるのは闇照。言いながらも、ボルグへと駆け……空中で回転し、スターゲイザーを打ち込んだ。
「これでどうだ！」
　満足に回避もできないボルグは、闇照の言葉に始め、唸りを上げるだけだが……それでもゆっくりと、剣を振り上げようとする。
「……今に、全員殺して、やる……ッ」
「ふざけんじゃねえっす！」
　だが、そう声を荒げる冥が、手をのばしている。
「あたしだってケルベロス！　お前なんかに殺されるか！」
　直後、ボルグの足元から溶岩が爆散。ボルグは空中に煽られるように飛ばされる。
　と、その下方で、樒は灯音に目配せをしていた。
「灯、行くぞ」
「承知っ」
　それに応えた灯音は、白癒で辺りに白い霧を降ろしている。
　霧と共にボルグに肉迫した樒は……そのままナイフを引き、斬撃。
　ただ切り裂く事だけを追求した一撃、『斬』は、重く……地に落ちたボルグは、しばし苦痛に身もだえるばかりだった。
　そこに、青蝶、青鳥が舞っている。リリの召喚する、『蝶鳥雷虎』だ。
　それらは雷虎となり、ボルグへ、さらに痛烈な斬撃を加えた。
　リリは、血を吐きながらも命を落とさぬボルグを見下ろす。
「いい加減にしぶといわね」
「まだ……殺し足りねえ……んだ……ッ！」
　ボルグはゆらりと起き上がると、満身創痍ながらも、守りを捨てて接近。両手の剣を振り回し、斬撃を放ってきた。
　敵も決死であり、標的となったユキは、ぎりぎりで避けられない。
　耐えきれないダメージに、ユキは気絶するが……。
「きっと……いけるわ。退かないで」
　その直前には、そんな、力に満ちた言葉を残していた。
「ユキちゃん……！」
　倒れた友人を見下ろすフェクトは……少しばかり真剣な表情で、ボルグを見据える。
「……神様は、人を救うんだよ。だから……あなたも、救ってあげる。その終わりを、祝福することでっ！」
　瞬間、フェクトが繰り出すのは『神様の祝撃』。構えた武器に、魔力と想いを乗せ……まっすぐに、一撃を与えた。
　意識が飛んだボルグに、闇照のアームドフォートの砲身が狙いを定めていた。
「自らが与えてきた痛みを、思い知ることだ！」
　フォートレスキャノンがボルグを撃ち抜き……その体を散り散りに燃やし尽くしていった。

「樒、大丈夫？」
　戦闘後。灯音の言葉に、樒は寄り添うようにして頷いていた。
「何とか勝ったっすけど。楽な戦いじゃなかったっすね」
　冥は息をつきながら言う。それには、フェクトも頷いていた。
「あんまり余裕は、ないね」
　ボルグは、完全に撃破した。だが戦闘不能者が２人出ており、それ以外に瀕死の者もゼロではない。傷の浅い者もいるので他に支援に行くことも出来ようが、ここは、負傷者を連れて帰還することが妥当と思われた。
「折角残った我々が倒れても事だ。行こう」
　闇照は、気絶した者を抱えて、川を渡る方向へ歩く。その際……地面に落ちていた、ボルグの剣を拾っていた。
「牡牛座、か。らしくない、とも言えぬか？」
　少しだけ笑みを浮かべ、そのまま歩いて行った。
「帰ると決めたら、さっさと行きましょ」
　と、リリも、それに続く。こちらも負傷者に肩を貸しつつ。
「じゃあ、帰ろうか、灯」
　樒は、一度灯音と離れると……すぐにまた手を握り、エスコートするように、歩き始めた。

作者：崎田航輝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年1月22日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
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