戦艦竜幻火―続戦

■リプレイ

●竜の海域
　相模湾。現場海域のそばまで、ケルベロス達は航行してきていた。
　青い風景の中、離れた海面にかすかにちらつく、戦艦竜幻火の火。それを眺めながら、一行はクルーザーを停船させる。
「接近するのは、おそらくこの辺りが限界ですね。ここからは、海に入りましょう」
　船上、繰原・マリア（糸繰り人形・e21255）の言葉に皆も頷く。クルーザーは離れた場所に置いた上で、全員で一斉に近づく……それが今回の作戦だ。
　海を見つめ、ロストーク・ヴィスナー（チエーストヌィ・e02023）は呟く。
「できる限り、成果を上げて帰りたいね」
「きっと、何とかなりますよ。ルインさんやシルさん……お二人を含めた先陣の皆さんのおかげで、敵はもう、未知の相手じゃありませんから」
　筐・恭志郎（白鞘・e19690）が応えると……その１人でもあるルイン・カオスドロップ（向こう側の鹵獲術士・e05195）は、笑った。
「その分、強い敵だってことも分かったっすけどね。だから、今回は、そのリベンジでもあるっす」
　ひひ、と、楽しみではあるが恐怖ではない……そんな笑みで。
　それから戦闘に赴くメンバーが、飛び、着水し、順にクルーザーから離脱していく。
　茶斑・三毛乃（化猫任侠・e04258）は降りる前に、鯖寅・五六七の頭にポンと手を乗せる。
「後詰めは任せやしたぜ、五六七」
「了解っす！　三毛の姉御、ファイトっす！」
　元気に応えた五六七が操舵を預かり、三毛乃も海へ。
　紅狼・蓮牙（ワールウィンド・e04431）も舳先に足をかける。蓮牙もまた、その顔には一切、怖がる様子なども見せず。
　たなびく風の中、少し大仰に、語って見せた。
「さて、行きがけの駄賃でございます。どれほどの戦果となるかは……とくと御覧じろということで」

　クルーザーから離れたケルベロス達は、これもまた前回の経験を活かし……迂回するように敵地に近づいた。
　戦艦竜の体が発する炎が、間近で見られる位置まで来ると……。
　予定通りと言おうか、大波が立つ。戦艦竜自身が動き、海面に出てきたのだ。
「とうとう、出たね」
　いの一番に反応するのは、シル・ウィンディア（蒼風の精霊術士・e00695）。
　それに頷くのは、弓塚・潤月（潤み月・e12187）だ。
「確かにこれは脅威ね。でも、厄介者でしかないし……ぱっぱと倒せるように、全力で行くわよ！」
「もちろん！　前は情報収集のために大人しくしてたけど……今回は、最初から全力だよっ！」
　シルは言うと同時、海面から大きく飛び出す。
　目の前には巨大な戦艦竜、だがそれにはもはや怯まず、接近。
　体を翻すと、その足に履く、大切な友達からの贈り物……白銀戦靴『シルフィード・シューズ』で、先手の蹴りを放った。
「アタシもやらせてもらうわよっ、と！」
　潤月も続けて近づき、地裂撃を胴体に叩き込む。
　戦艦竜が攻撃を受けている間に、ルインはケルベロスチェインで守護の魔法陣を描いていた。それが、前衛の仲間の防御力を高めていく。
「防備も、堅めで行くっすよ」
「うん。とにかく攻撃が怖い相手だからね……僕も、支援するよ」
　応えて、ロストークもサークリットチェインを展開。同じく前衛を防護していった。
　ボクスドラゴンのプラーミァにも、潤月へ属性インストールを行わせつつ……ロストークは今一度戦艦竜を見上げる。
「それにしても、本当に巨大な敵だね」
「的が大きすぎるのも、かえってやり難いものですね」
　蓮牙はそんなふうに言ったが……その手さばきはよどみなく、リボルバーで射撃。距離を詰めながら、確実にダメージを与えていった。
　だが、戦艦竜も黙ってはいない。
　種々の攻撃を受けながらも……砲塔に炎を灯していた。
　それが緑炎であることが分かったときには、前衛の全員を、強烈なダメージと毒が襲っている。
　威力は多少、軽減できてはいるものの、一撃の重さは確かなもの。
「聞きしに勝る……いえ、聞いたとおりの威力、というところですか」
　マリアは衝撃で海に押し戻されながら呟く……が、まだこんなところで倒れてはいられないという意志も、そこにはある。
　ミミックの骸には攻撃をさせつつ、自身は戦線維持を最優先に、シャウトで体力を保った。
「とにかく、まずは回復ですね。任せて下さい」
　恭志郎も焦らずに、黄金の果実を生成し、前衛の傷を癒していく。
「巫山さんも、お願いします」
　と、恭志郎が言うと、巫山・幽子も頷いてサークリットチェインをかけていた。
　完全ではないが、前衛が体力を戻した状態となると……戦艦竜へは、三毛乃が向かう。
「まだまだ、これで退きはしやせん」
　三毛乃はそのまま接近、戦艦竜と対面。
　それは三毛乃の、口上だ。
「相模湾の漁業が立ち行かなくなったとあっちゃァ、世の猫が泣いちまう。おう幻火の、ここはお前さんのシマか。……よぅござんす。化猫任侠黒斑一家当代目付役、茶斑三毛乃。ちょいと地上げ交渉に伺わせて頂きやした」
　地獄の炎を身に纏いながら。それは、猫にまつわる民間伝承を取捨選択・拡大解釈し実再現する秘奥により力を得る、『火車』だった。
「少し手荒に参りやすぜ」
　拳の骨を鳴らすと、三毛乃は突撃。殴・蹴・踏付の喧嘩殺法を叩き込んだ。

●反撃
　戦艦竜は、かすかに後退しながら、唸りを上げた。
　そこに潤月が肉迫し……背の上にまで乗り上げている。
「今の炎は、凄い攻撃力だったけど。こっちも、負けてないわよっ！」
　言いながら、放つのは気咬弾。その背に直接撃ち込む形で喰らわせると……戦艦竜は苛烈なダメージに、悲鳴じみた声を発した。
「効いてるみたいね」
「よーし、こっからさらに反撃だよ！」
　つぶさに観察する潤月に、シルも背に乗りながら、属性エネルギーを収束させている。
「火よ、水よ、風よ、大地よ……混じりて力となり、目の前の障害を撃ち砕けっ！！」
　精霊魔術、『精霊収束砲』。
　シルの撃ち出したそれは、光の軌跡を作るように、砲塔へ一直線。半壊状態だった１門に直撃すると……大音と共に爆発、破壊した。
「おおっ、ナイスっす！」
　ルインは、サークリットチェインで前衛の負傷を癒しつつ、自身もまた戦艦竜の背に乗り上げる。
　続いて海から上がってくる天照・葵依をちらと見つつ。
「葵依さんが来てくれるとは心強いっすね」
「少しでも助力になればいいと思ったまで、さっ！」
　葵依は応えながらも、二振りの剣を掲げ、星天十字撃。２門目の砲塔に大きな傷を刻んでいた。
　次いで、蓮牙も海中から戦艦竜の背へ。
「背を敵に取られている心境、如何なものかは図りかねますが……。まずは、鉄式銃闘技、推してまいります。見切れますかな」
　見下ろしながらも、蓮牙は勢いを付け、零距離から旋刃脚を叩き込んだ。それもまた、大きなダメージを生む。
　戦艦竜は声を上げるも……体力はまだまだ残しているだろう。砲塔を回すように向け、周囲に炎を発した。
　今度は黄炎。飛ぶ者も、背に乗る者も含め、前衛をまとめて炎で飲み込んだ。
　連続での炎の攻撃、だが……今回は、先ほどとは違う。多くの者が、相当量の破壊力を殺すことに成功していた。
　前衛の内、マリアは深手を受けていたが……。
「すぐに治しますから。待っていてくださいね」
　そう言う恭志郎がすぐに対応。再び黄金の果実を発現させ、マリアを含めた皆を癒す。
「皆さん、傷は大丈夫ですか？」
　恭志郎の言葉に、皆は頷きを返した。全体で見れば負傷度はまだ低く、準備が功を奏した、と言える状況だろう。
「ありがとうございます。少しでも時間を稼ぐために、私も」
　マリアが行使するのは、螺旋忍法『月下七影』。生み出したのは、螺旋の力を宿した影だ。
「一ツ日之熾、二ツ仏舎利、三ツ御霊屋、四ツ夜之月、五ツいつ来て、六ツに群れて、七ツに啼いて」
　それを仲間に分け与え……マリアは、螺旋の力を伝搬させる。
「音無く忍ぶは七ツ影！」
　するとその力が、耐性を強めると共に治癒をも施していった。
　出来る限りの回復を終えた後は、皆で攻勢へ移る。
　まずは三毛乃がケイオスランサーで戦艦竜の体を穿った。
「このまま出来る限りのダメージを与えてやりやしょう」
「うん！　みんなでどんどん攻撃していくよ！」
　シルは応えながらシャドウリッパー。戦艦竜に刻まれた傷を抉るように、数多の斬撃を加えていく。
　潤月もジグザグスラッシュで戦艦竜の体を切り裂きながら……その変化を、如実に感じ取っていた。
「戦艦竜といえど、動きも多少は鈍くなってきているみたいね」
「何よりっすね。ひひ……じわじわと追い詰められる絶望を、我が主、無謀の神ニャルラトホテプ様に捧げるが良いっす」
　ルインもすぐ足元の背に、手を向ける。
　直後、サイコフォースでの爆破が、戦艦竜に大きな打撃を与えていった。

●尽力
　ルインは攻撃後、足元を見つめる。それは背に乗ることで戦闘を有利に運べないかというという問に対して、実感されたことがあったからだ。
　単純に言えば、幻火の体に乗り上げたからといって、戦闘が大きく楽になるほどの変化はない。
　ただ、距離が近い分、当然攻撃の際に戦艦竜を捉えやすくなるだろう。反面、砲塔からの物理的な距離は近くなってしまうという点もあるが……。
「……あとは、強いて言うなら、攻撃する直前に戦艦竜の体の鳴動が感じられる、ってくらいっすかね」
　とはいっても微弱なもので、砲塔の攻撃を避けられるようにはならないだろうが……。
　尾の攻撃に関しては、予期しやすくなる可能性はあるかも知れない、といったところか。
　蓮牙は表情を変えぬまま息をつく。
「何にせよ、ノーリスクで戦わせては頂けないということですね」
　言いながらも、ハウリングを放ち、確実にダメージは与えていた。
「それでも、情報が増えればこちらが有利になるから。調べられることは調べて、一歩ずつでも、勝ちに近づこう」
　そう言うロストークも、間断を作らず、武器を構えている。
　それは、槍斧『ледников』。
「謡え、詠え、慈悲なき凍れる冬のうた」
　行使するのは、詠唱により槍斧のルーンを開放、氷霧を纏わせる力……『Шепот звезд』。星々の囁きのように氷塵が鳴る、極寒の煌めきの中……ロストークは接近し、槍斧での一撃を喰らわせた。
　さらに、支援に加わっていた玉榮・陣内がファミリアロッドを解放、杖から姿を戻させて射出攻撃をしている。
「あとは、どれだけ長く戦線を維持できるかだな」
「……こちらの体力も、削られていますからね」
　陣内には、マリアが冷静に答えていた。
　最大限の回復はしながらも、深い傷が蓄積しているマリアは……次の攻撃を受けて倒れないでいられるか、確証がなかった。
　だからこそ、警戒をしながらも、尽力する。
　戦艦竜が緑炎を撃つのとほぼ同時……それを喰らって気絶する直前に、マリアは最後まで、螺旋氷縛波での一撃を叩き込んでいた。
　気を失ったマリアの体を戦艦竜から引き離しつつ……恭志郎は前衛を回復。敵の姿をしかと見据えている。
「どれだけ対策しても、やはり攻撃力は侮れませんね」
「それでも、前よりはまだ、こっちの負傷は抑えられてるよ」
　シルが言えば、三毛乃も頷く。
「ええ。繰原嬢の踏ん張りを無駄にしないよう、手を休めずに行きやしょう」
　そうして三毛乃は再び『火車』。怪異を自身に照応し、地獄の炎を宿らせた格闘攻撃を打ち込んでいった。
　弱点を突かれた攻撃に、戦艦竜が呻くような轟きを漏らすと……その背で潤月も、オーラの塊を生み出している。
「アンタにも、痛いって気持ちはあるのかしら？　どっちにしても……これは、お返しよっ！」
　そのまま直下に、気咬弾。
『ガァァアアッ！』
　それが命中すると、戦艦竜がいっそう、強いわななきを発した。
　同時に、シルも精霊収束砲で狙いを定めている。
「みえたっ！　そこ、もらうよっ！」
　発射されたエネルギーの砲撃が、砲塔に命中。その１門に巨大な亀裂を走らせていた。
　ルインはサークリットチェインで体勢を万全にしつつ……戦艦竜の様子を観察。
「ダメージは、既に前回の分を大きく超えてると思うっすよ」
「重畳ですね。ここからは、後の方々のためにどこまで削れるか……というところですか」
　跳躍しながら応えるのは、蓮牙。こちらも真上から旋刃脚を打ち込み……戦艦竜の背に痛打を与えている。

●戦果
　戦艦竜は、再びの悲鳴を上げた。
　それは確実に、これまでにない程に体力を減らせていることの証拠でもあろう。
　戦艦竜は直後、砲塔に炎を灯らせ……黄炎を発射。今度は中衛の２人を襲うが……ルイン、三毛乃を包んだ炎は、２人に致命傷を与えない。高めた防御力、耐性によって、ダメージは非常に浅く済んでいた。
　それと同時に、戦艦竜の体に破鎧衝を喰らわせていたロストークが、空中に間合いを取って２人を見る。
「２人とも、無事で良かった。僕ら前衛は、次の攻撃で耐えられるかどうか、分からないから」
　反面、それも紛れもない事実。優勢に進めてはいたが、こちらはいつでも、やられるリスクがある。撃破にまだ届かないことは、皆が承知していることだった。
「それでも最後まで、出来ることを、しましょう」
　恭志郎が中衛の２人を回復しつつ、口を開く。
　マリアは既に倒れていて、さらに戦闘不能になる者が出るのも確実。それは前の作戦と同じであり、皆が傷ついて帰ることは、避けられない。
　だが、それでも尽くすものは尽くす。そうやって戦果は生まれるのだ。
　恭志郎は心の支えである護身刀に軽く振れ、そんなことを思う。そしてそれは、ケルベロス全員の思いでもあるだろう。
「何、死なない程度に、精いっぱい食らいついてやりやす」
　三毛乃は、ケイオスランサーで戦艦竜の胴部を深くまで抉りながら言う。
　それを合図に、皆は再び攻勢へ。
「これでも喰らいなさいっ！」
　潤月がガトリングでの連射を全弾、戦艦竜に撃ち当てると……シルは光と闇を纏うガントレットを掲げ、砲塔へ急接近。
　そのまま、セイクリッドダークネス。魔力の伴った打撃で、２門目の砲塔を、直接粉砕した。
「魔術師でも、接近戦苦手ってわけじゃないんだよ？」
　苦痛に揺れ動く戦艦竜の上で……ルインもサイコフォースを放ち、その後頭部に爆撃を喰らわせていく。
「まだまだ、休ませないっすよ？」
「ええ、攻撃された分程度は、返させて頂きたいですね」
　蓮牙も言いつつ、ハウリングで、さらに追い込んでいく。
　戦艦竜はそこで体を動かし、長い尾を海面に出す。直後には三毛乃をその尾で攻撃したが……。
「まだ……倒れやせんぜ」
　三毛乃はぎりぎりで、耐え抜いていた。そのまま反撃に出ると、みたび、地獄の炎を纏って肉弾戦を繰り広げていく。
「支援します！」
　傷ついた三毛乃に、恭志郎が向いていた。
　護身刀から零れる花弁のような光と、自らの身体の内にある地獄の炎を共振させ……三毛乃に白い炎を纏わせる。『煉華』……その力で、浅い傷を一気に修復した。
　ロストークは再び『Шепот звезд』で、戦艦竜の首元に零下の打撃を加える。
　一連の攻撃は、新たに大きな負傷を与えたことだろう。
　だが戦艦竜も、そのままやられはしない。前衛に、緑炎を放射してきていた。
「皆、炎が来る、気をつけて……っ」
　ロストークは呼びかけるが、そのときにはもう、炎はケルベロス達に到達している。攻撃は、前衛を飲み込み、一気にその全員を戦闘不能へと陥れた。
　ただ……ケルベロスも最後まで、力を尽くしている。この直前、戦艦竜が麻痺によって動きを止めたため……さらに全員が一撃ずつ、渾身の攻撃を喰らわせていたのだった。
　言葉通り、最大限の尽力をしたケルベロス達は……その後の作戦も迅速だ。
　残った面々が合図をすると、待機していたクルーザーはすぐにやってくる。
「皆は早く船上へ。私が出来るだけ注意を引こう」
　そう言ってクルーザーから飛ぶのは、ファン・バオロン。戦っていた面々と入れ違うように、戦艦竜の囮となるように飛行した。
「手伝うわ。皆……いい戦果を出せたわね」
　気絶した者の引き上げに手を貸しつつ言うのは、クルーザーの警護もしていたノルン・コットフィア。
　前の経験が活きていたことを、間近で感じ取っていたのだった。
「前回戦ってくだすった皆さん、そして今回の仲間の皆さんのおかげでさ」
　クルーザーに上がりながら、三毛乃はそんなふうに言っていた。

　クルーザーはそのまま、戦場を離れていく。
「実際、いい成果を残せたと思うっすよ」
　船上で、ルインは戦いの様子を考察し直しながら、皆に言った。
　事実、戦線の維持がうまくいったこと、そして弱点を突いた攻撃をうまく多用できたこと……これらによって、与えたダメージは相当なものであろう。
　おそらく、戦艦竜の体力の、新たに４割以上を削ったか。
「みんなが体を張ってくれたからだね」
　シルは、まだ気絶している仲間に目をやりつつ、応えた。
　きっと撃破は近くなったことだろう。
　でも、今はまず、安らげる場所へ帰ろう。
「戻ったら、皆でひと息つきましょうね。温かいお茶も持ってきたんです」
　恭志郎の言葉には……皆も頷きを返すのだった。

作者：崎田航輝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年1月15日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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