恋する電流マシン～光と電気と水上楽園

■リプレイ

●これが恋心？
「ノイン、今日は一日よろしくお願いしますわね」
　薔薇の様な赤い髪を風に靡かせながら、カトレア・ベルローズ（紅薔薇の魔術師・e00568）は優雅に一礼し、左手を差し出す。
「こちらこそよろしくだよ。カトレアさん」
　ノイン・ゴールドマン（からくり使い・e03098）はその手を右手で受け止め、自然に繋いで歩き出す。
（「やっぱりドキドキしますわね」）
　未だに恋愛経験が無いカトレアは、彼女のために入念に下調べをして、エスコートしてくれるノインの手の暖かさを感じ、カップルの振りだと分かっていても、心のドキドキが止まらなかった。
（「ちゃんと周りを見ませんと……」）
　普段であれば、大好きな植物に囲まれたまさしく楽園であるこの風景が、なぜだか今日はあっさりとして見え……
「大丈夫かい？」
　その時、ノインが彼女のルビーの様な瞳を覗きこむように見つめながら、癒やしの霧で彼女を包み込む。
「あっ……」
　カトレアは一瞬心臓をドキッ。とさせてから、
「大丈夫みたいだねぇ」
　ノインの優しい言葉に視界が晴れていくのを感じた。
「カトレアさんは僕が護るから、倒す方は任せたよぉ」
　ノインは革製のアタッシュケース型のミミック、箱の中の小さな隣人を放り投げ、ダモクレスにけしかけ、
「行きますわね」
　その言葉に勇気をもらいながら、カトレアは薔薇園の太刀に手をかけ、抜きざまに一太刀。さらに返しの太刀で小さなダモクレスを破壊する。
「さすがだねぇ」
　ノインは太刀を鞘に戻すカトレアに微笑みながら、
「少し歩き疲れたし、カフェで休憩するかい？」
　再び手を繋ぎ、カフェへと移動するのだった。

●仲良しを越えて
　淡く光り輝く散歩道を歩くのは、クノーヴレット・メーベルナッハ（知の病・e01052）と門守・白夜（驚きの白さ・e00379）のペア。
「白夜さん、ほら、綺麗なイルミネーションですよ」
　クノーヴレットは男装した白夜と腕を絡めてイチャつきつつ、ゆっくりとデートを楽しんでいた。
「イルミネーションより……クノン、のほうが……綺麗、だね……」
　白夜はクノーヴレットの銀色の髪を撫でながら、耳元で愛の言葉を囁く。
「もう、白夜さんったら……♪」
　その言葉に、男装している白夜に割と本気でときめいていたクノーヴレットが彼女を抱き締めた時、ダモクレスの恋する電流が２人に襲いかかる。
「んっ、ちゅ、ふぁ……あぁ、白夜さぁん……」
　２人の愛情はさらにエスカレートし、お互いに抱き合って胸を押し付けあい、
「クノン、好き、大好き……」
　お互いの顔にキスの雨を降らせあう。
　熱く激しい愛情をいつまでも感じていたかった２人だが、
「その前に……お邪魔虫を排除しましょう」
　キスを止めないまま、クノーヴレットは電流が流れてくる方角に槍の形をかたどったブラックスライムを放って破壊した。
「さ、続きを致しましょう。白夜さん」
　脅威が去った後も２人は愛しあい、
（「仲の良い友達以上になれたら……素敵かも♪」）
　クノーヴレットはそう思いながら人気のない場所を探し、
「素敵な夜に致しましょう♪」
　白夜と２人、闇に紛れるように何処かへと消えていくのだった……。

●誰がための愛
　ユスラヤシやバオバブなどの木が繁る、少しイルミネーションが控えめな森をイメージした道を、マティアス・エルンスト（メンシェンリアリン・e18301）は槙島・紫織（紫電の魔装機人・e02436）をエスコートしながら進む。
「マティアスさん、あの木の葉っぱ、凄く大きいですよぅ」
　紫織はそう言いながら指差し、腕を組んで寄り添う様にしてカップルを演じていたが、
（「やっぱり、悪かったかなぁ……」）
　やや無機質な印象を受ける表情で僅かに微笑むマティアスに申し訳ない気持ちになる。
　失恋したばかりのマティアスはその傷が癒えきっておらず、内心は恋仲を演じる事に苦しい気持ちを複雑に抱えており、それを紫織も理解していたからだ。
　とはいえ、任務は任務と割り切っていた２人は煮え切らない心を抱えながらも、傍から見るとカップルにしか見えないように演じきり、ダモクレスの恋する電流を誘い出すことに成功する。
「くっ……この感覚は……」
　不思議にこみ上げてくる感情にマティアスは困惑しながらも、紫織を庇う様に彼女の前に立つと、
「盾役は有難いですが、貴方を失いたくはないですから。生きてください。私のために」
　紫織は顔色を変えずにさらっと、白馬の王子様に想いを託すお姫様のような台詞を彼の耳元で囁き、
「あまり無理はなさらないで。もし何かあったら私、泣きますよ？」
　ダモクレスの攻撃にかすり傷を負ったマティアスの傷口を舐めて治療しようとすると、
「あ、ああ……ありがとう」
　彼は少し柔らかな印象で彼女の舌を受け入れ、くすぐったそうに身震いする。
　２人は先程より少し積極的に、恋人同士を演じているようだった。
「コンデンサ出力上昇……高電圧弾、スタンバイ。照準補正完了次第、発射します」
　そして、紫織は体内のコアと増加コンデンサによって生成された高電圧弾。ライトニングブレイカーを放って小さなダモクレスを電気的に破壊し、完全に沈黙させる。
　同時に正気に戻った紫織は、先程までの自分の行動を思い出し、
「……ご、ごめんなさいぃ……私……」
　気恥ずかしくしているマティアスと２人、
「だ、大丈夫だ……」
　イルミネーションが輝く森のなかに立ち尽くしていた。

●恋のお味は
　散歩道でダモクレスを倒したノインとカトレアはカフェに入り、
「このカフェの人気は、カスタード、アップルマンゴー、シークワーサーソルベらしいよぉ」
　メニューを広げてにらめっこするカトレアに、入念な下調べをしていたノインがおすすめのスイーツを薦める。
　人には様々な好みがあるが、カトレアくらいの年頃の女の子は甘いものが好きだろう。
　そう考えてチェックしていたノインの考えの通り、カトレアは宝石のような目を輝かせて彼が薦めるスイーツを注文していた。
「美味しいですわ」
　２人はしばらくスイーツを堪能しながら楽しく談笑を続け、恋人同士のような雰囲気を作り上げる。
「私も年頃の乙女ですわ、早く恋愛もしてみたいです。私を導いてくれる王子様はいらっしゃらないでしょうか？」
　すると、カトレアは上目遣いでノインを見つめながら、普段の彼女が恥ずかしくて言えないような言葉を自然に口にしだす。
　ノインはそんなカトレアの瞳に心を奪われそうになりながらも、あくまで冷静に努め、
「花も恥じらう乙女が、こんなおっさんに愛の言葉なんて勿体無いよぉ」
　ダモクレスの位置を確認した上で、カトレアの心を揺らす電流を解き放った。
「はっ、感謝しますわ」
　平静を取り戻したカトレアは、少し前に自分が紡いだ言葉に恥ずかしくなりながら、
「ごめんなさい。今度は、ノインが倒して下さいますか？」
　ダモクレスを見失わないように見つめるノインと視線を合わせないようにしながら、少しうつむいてつぶやいた。
「わかったよぉ」
　ノインはカトレアを新たな電流から守るように、彼女とダモクレスとの間に自分の身を置き、
「こんなおっさんでも、女の子にはいいところ見せたいからねぇ」
　物陰に隠れていたダモクレスをスイッチひとつで爆破させ、飛び出してきたところを鮮やかに叩き割った。
「ありがとうございます」
　落ち着きを取り戻したカトレアは、ノインにそう微笑むと彼の横に並び立ちながら、
「私、また植物園をぐるっと一週してみたいですわ。ノイン、一緒に来て下さいますわね？」
　さり気なく彼の手をとって促す。
「きっと、良い思い出になりますわね」
　目を輝かせて植物園を回るカトレアの姿に、ノインはそのひとときを純粋に楽しもうと決め、彼女に微笑むのだった。

●恥ずかしさと期待との間で
（「力ない人々を守るためとはいえ……これは、恥ずかしいです」）
　ロベリア・アゲラータム（向日葵畑の騎士・e02995）は、河内原・実里（誰かの為のサムズアップ・e06685）の袖を指でつまんで彼についてまわるように歩き、落ち着かない様子できょろきょろと首を振って景色を眺め、
（「ど、ドキドキするね」）
　今日のためにしっかりと身嗜みも整え、ロベリアの恋人にふさわしい男性を演じようとする実里も、ある種の期待を抱きつつ、彼女をぎこちなくエスコートしていた。
「……」
　ライトアップされた水辺の散歩道を歩く２人は、
「……」
　お互いに気恥ずかしさが目立つ初々しいカップルのように、無言で散策を続ける。
　それからしばらくして、不意に背中をくすぐられたような感覚にロベリアが短く悲鳴をあげると、
「ロベリアさん！」
　咄嗟に庇える様に警戒を怠らなかった実里はすかさず彼女の後ろに回り込み、彼女に恋する電流を放ったダモクレスに、問答無用で巨大な光の刃を振り下ろす。
　イミテーション・カリバー。実里が持つ古の剣の力でダモクレスを光の奔流で飲み込むと、
「全てを穿て！」
　恥ずかしい思いをした八つ当たりをするように、ロベリアは全力を込めたランスチャージでダモクレスの中心を貫き、粉微塵に破壊した。
　終わったか。ロベリアがそう思った瞬間、再び彼女に背後から恋する電流が放たれる。
「くっ、また……ですか？」
　くすぐったいような感覚に体を震わせ、振り返って得物を構えるロベリアだが、
「恋人たちが愛しあう所を狙うなんて、下衆だわ」
　そこへ、近くで見張っていたルーノ・シエラ（月下の独奏会・e02260）が割って入った。
「正義の味方、はじめましょうか」
　ダモクレスが放つ恋する電流を物ともせず、ルーノは円を描くようにくるくる踊りながらの格闘術でダモクレスの本体を殴り、蹴り飛ばしていく。
　たまらず避けようとするダモクレスだったが、ルーノは踊りで描く円の形を自在に変え、絶妙に間合いを変化させることであっという間に追い詰める。
　ルーノはまるで攻め急ぐようにダモクレスを蹴り飛ばし、
「……早く逢いたいわ」
　溺愛する最愛の妹の笑顔を思い浮かべる。
　彼女もダモクレスの目の前に割って入った際に恋する電流の効果を受け、最愛の妹に会いたいという想いを募らせ、
「今すぐに帰って、お姉ちゃんが抱きしめてあげるわね」
　ルーノは自分の肩を抱きしめるように腕を組みながら、
「終わりよ。蹴られて壊れなさい」
　早く帰ろうと地面に落ちたダモクレスをブーツで踏み砕いた。
　ルーノはダモクレスの残骸に目もくれずに走り去ろうとするが、
「ルーノさん、少し待ってください。今、癒やします」
　ロベリアはルーノを呼び止め、彼女を含めた３人に癒やしの力を送り、
「少し景色を楽しんでいきましょう」
　静かになった周囲を散策しようと２人に提案する。
「そ、そうだね」
　実里はロベリアにそう言って微笑むが、
「……私は遠慮しておくわ。邪魔するほど野暮じゃないのよ」
　ルーノはそう言って、さっさと退散してしまう。
（「そういうつもりで言ったのではないのだけれど……」）
　ロベリアはそう思いつつ、
「河内原さん、ここからは普通にね？」
　実里にそう言って微笑んで、のんびりと散歩を始めるのだった。

●愛に施錠を
　ミシェル・マールブランシュ（十時の従者・e00865）とスノーエル・トリフォリウム（四つの白天使・e02161）がやってきた建物の屋上は、この植物楽園最大のカップル向けスポットだ。
「綺麗だねぇ」
　中央にはハート型に電飾された金網が置かれ、
「せっかくですから、この南京錠に名前を書いてかけていきましょう」
　恋人たちはここにハート型の南京錠をかけることで、永遠の愛を表現するのだ。
「書けたよ。ミシェルさん」
　２人は南京錠にお互いの名前を書き、
「では、早速こちらに掛けましょう」
　ミシェルが金網に南京錠を取り付けようとすると、
（「来るとしたら、このタイミング」）
　その瞬間、彼の体を不思議な電流が走る感覚が襲った。
（「予想通り。彼女に恥ずかしい思いをさせるくらいなら……俺がすべて受ける」）
　ミシェルはスノーエルが電流を浴びないように気をつけながら、ダモクレスの位置を捕捉する。
「ミシェルさんっ」
　スノーエルはミシェルのことを心配しつつも、彼の指差す方角に向けて石化の魔術を唱えてダモクレスを石に変えて機能を停止させた。
　ダモクレスは倒してほっと一息つくスノーエルに、
「結婚、してください。俺と」
　ミシェルは直球な求愛の言葉を紡ぐ。
　スノーエルは嬉しい気持ちがありつつも、別のダモクレスが彼に恋する電流を浴びせているのを感じ、
「今のミシェルさんは恋する電流に酔ってるから、ノーカンだよ！」
　少し恥ずかしそうにその言葉から目を背け、とりあえず誤魔化した。
　その瞬間、ダモクレスから放たれた恋する電流が、スノーエルの背中にも突き刺さる。
　スノーエルの心の中がミシェルに対する恋心で満たされていき、頬を染め、
「私、幸せだよ……」
　それを見られたくない恥ずかしさから彼の腕にしがみついてギュッと体を寄せた。
　ミシェルが鎌の一振りでダモクレスを撃破し、一息ついてから恋する電流の効果を癒やした２人は、
「は、恥ずかしいよぅ」
「わたくしも……」
　先程までの言葉にお互い顔を真っ赤にして、目線を合わせないように顔を逸らす。
「……エル」
　それからしばらくの沈黙を経て、お互いようやく落ち着きかけた頃、ミシェルが口を開き、
「エル、俺と……」
　紡ごうとする言葉の意味の重さに、その先を告げることを一瞬躊躇してから、
「生涯を添い遂げるパートナーに、なって、ください」
　勇気を持って、彼女への想いを最後の一句まで言葉にした。
「えっ？」
　その言葉にスノーエルは顔をあげ、
「まだ電流の効果が残ってないかな？」
　彼を目を見つめながら慌てて確認する。
「……かな？」
　だが、いつも通り真剣で、丁寧で、自分にだけ見せる少し柔らかい表情を見て、茶化す気持ちが薄れていき、
「…………うん」
　代わりに再び顔を真っ赤にしながら、スノーエルは小さく縦に首を振って、彼の腕の中に優しく包まれる。
「これからもよろしく、だよ」
　スノーエルの言葉に、ミシェルは彼女を強く抱きしめて応えるのだった。

作者：きゅう	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2016年1月8日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 0／素敵だった 9／キャラが大事にされていた 0
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