戦艦竜幻火―接敵

作者:崎田航輝

 その漁船に乗っていた男が見たものは、果たして、幻ではなかった。
 早朝に出発した、いつもの航海。穏やかなはずの、海。そこで最初に目に付いたのは、海中を漂う、ただただ大きな影だった。
 冷静な判断を失うほどの大きさに、男は、始め、茫然とするしかない。
 鯨か、巨大漁か。
 そんな判断をしてみるものの……海面からせり上がってくるそれを間近にして。
 そのどれでもないことは、すぐに分かった。
 ……そういえば、この船の出発前に海から帰った漁師が、変なことを言っていた、と、今更思い出した。
『寝不足かも知れない。幽霊船のようなものを見たんだが』
 と。
 それ以上のものは目にしなかったようで、そのときは、周りからのからかいの種にもならなかったようだが……漁師は確かに、言っていた。
 まるで燃える船のようだったと。
 今それが、目の前にあった。
 それは、巨大な体に、幻のような不思議な色の炎をたたえ……海に浸かっているというのに、全身がちりちりと燃えている。
 言った通りだと、思う。
 ただし、漁師の伝聞とは違う点が一つあった。
「……あぁ」
 ……こいつは幽霊船なんて生やさしいもんじゃない。
 その巨影……戦艦竜は、尾を動かした。
 強烈な衝撃に打たれて、漁船は一瞬で、大破。
 全ては、海の藻屑と消えた。

「お集まり頂きありがとうございます」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、ケルベロス達を見回して言った。
「『戦艦竜』……聞き覚えのある方も多いでしょう。城ヶ島の南の海を守護していた、非常に戦闘力の高いドラゴンです。それが、狐村・楓(闊達自在な螺旋演舞・e07283)さんの調査により……相模湾で漁船を襲うなどの被害を出している事が判明しました」
 戦艦竜は、城ヶ島制圧戦で、南側からの上陸作戦が行われなかった要因でもある。
 数は多くないが、それを補って余りある力を持っている。放置しておけば、相模湾の海を航行することすら、出来なくなってしまうだろう。
「そこで、皆さんに立ち上がって頂きたく思います」
 クルーザーを利用して相模湾に移動、撃破を最終目標に据え……戦艦竜との戦闘を行って下さい、とセリカは言った。

 状況の詳細を、とセリカは続ける。
「敵は、戦艦竜1体。場所は、相模湾の海上です。クルーザーにて現場まで移動し、あとは海での戦闘をして頂く形となります」
 戦艦竜は強力な戦闘力を持つが、それと引き換えにダメージを自力で回復することができないという特徴を持つ。
「一度の戦いで撃破することは、皆さんにも不可能でしょう。ですがダメージを積み重ねることで、最終的には打倒することが出来るはずです。皆さんには、その先鋒を、担って頂きたいのです」
 戦艦竜は攻撃してくるものを迎撃するように行動する。そのため、戦闘が始まれば撤退することはないだろう。
 同時に、こちらを深追いすることもないので……ケルベロス側が撤退すれば追っては来ない。
「つまり、隙を突けば、逃げることはいつでも可能です。窮地に陥る前に、素速い選択を出来るよう、心がけておいて下さい」
 ただ、それでも楽な戦いではありませんが、とセリカは言葉を継いだ。
 実際、今回の戦艦竜に関しては、判明していることがほとんどないという。
「今回戦う戦艦竜は、茫洋とした炎を纏った、10メートルの大きさを持つドラゴンです。『幻火』と名付けられるこの個体は……攻撃能力などが、一切不明です」
 見た目に砲塔が付いているため、それを利用してくることも考えられるが……あくまで可能性の域を出ない。
「ですから、先陣となる皆さんには……まず、敵がどういった力を持っているのかを知ることを、重要なこととして挑んでいただきたいと思います」
 その上で、可能な限り、ダメージを与える。
 そして、何より大事なことは、とセリカは皆を見た。
「危なくなったら、逃げること。命を失っては、どうにもなりませんから。帰ってくるまでを作戦の一部として……臨んで頂ければ幸いです」
 そう言ってセリカは、説明を終えた。
「強い相手ではありますが、同時にそれを打倒するチャンスでもあります。ですから……皆さんの戦果を、期待しています」


参加者
シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)
大神・凛(ドラゴニアンの刀剣士・e01645)
紅・龍(拝火・e02045)
ルイン・カオスドロップ(向こう側の鹵獲術士・e05195)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
ノルン・コットフィア(今は戦離れし蟹座の騎士・e18080)
鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)
火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)

■リプレイ

●幽霊船
「この辺りだね」
 四方が青一色の湾上で、紅・龍(拝火・e02045)は見回す。目撃者の漁師にも話を聞いた上で、ケルベロス達は戦艦竜の出現地点に近づいてきていた。
 まだ、ある程度の距離は保っている状態だが……。
「あ、皆、あれを見るっす」
 ルイン・カオスドロップ(向こう側の鹵獲術士・e05195)の言葉に、皆は目を向ける。
 遠くの水面に、ぼんやりと見える不思議な炎。
 それはすぐに沈んでいったが、その一瞬でも窺えた巨体は、間違いなかった。
 皆は頷き合い……最初の作戦に移行する。
「じゃ、頼むっすよ!」
 と、ウイングキャットのマネギを海に向かわせるのは鯖寅・五六七(猫耳搭載型二足歩行兵器・e20270)。遠くから情報を得るための斥候だ。
 マネギは独りで、戦艦竜至近の水面へ飛んでいく。
 大神・凛(ドラゴニアンの刀剣士・e01645)はそれを眺めつつ、呟いた。
「単独では、少々心配ではあるがな」
「平気っす! マネギはあちきの『僚機』っす。こういうやりかたでやってきたし……ちょっとボコられた位でガタガタ言う奴じゃないっす」
 五六七が胸を張って返す横で、シル・ウィンディア(蒼風の精霊術士・e00695)は海面に手をのばしている。
「早めに、試しておこうかな。乗れそうだったらいいんだけど」
 言って、アイスエイジを使い、冷気を飛ばし……水面を凍らせていた。それは、足場に出来ないかという考えでもあったが……。
「既にちょっと波があるし、難しそうだね」
 龍が言うとおり、凍りはしていたが……永続的な足場に出来るかというと、疑問が残りそうではあった。少なくとも、戦闘中にこしらえている暇はなさそうだ。
「そろそろ、着くぞ」
 ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)が、飛んでいったマネギを見て言う。皆は、同乗している美浦・百合水仙から望遠鏡を借り、様子を窺った。
 マネギがその水面に到達すると、狙い通り、真下から大きな影がせり上がってくる。
 初めて全貌があらわになる戦艦竜は……幽霊船と言われるのも分かるような、おぼろげな炎をたたえた……4門の砲塔を持つ巨体であった。
 マネギは言われた通り、戦艦竜の体に着地しようとする、が。
 直後に轟音。
 戦艦竜が体を翻し、長い尾を水面に出現させていた。
 そのまま、巨大な壁を倒すように、尾でマネギを強襲。一撃で……マネギの意識を奪い取った。
「マネギ!」
 思わず叫ぶ五六七。
 あるいは、戦艦竜からすれば、単体で現れたものなど、いい的であったということか。続けて戦艦竜は、クルーザーの方向へと、ゆっくりと推進を開始した。
「こっちに向かってるの……っ?」
「マネギがやってきた方向を……ちゃんと見てたのかも知れないわね」
 シルの言葉に、ノルン・コットフィア(今は戦離れし蟹座の騎士・e18080)は分析するように呟く。
 海の中から一帯を広く観察していたとすると、不自然ではない。
 行動範囲は狭いが、一度敵と認識したものに関しては、迎撃に向かうこともある……そんな性質があるのかも知れなかった。
 もちろん、ここで逃げようと思えば、逃げられるだろうが……。
「なら、こっちから行くっすよ! マネギも放っておけないっす!」
 五六七が言うと、皆も頷き……クルーザーを接近させた。
「まぁ、やっぱり生易しい相手じゃないってことだな」
 火鳴木・地外(酷い理由で定命化した奴の一人・e20297)は、近づく巨影に、呟きながらも……甲板の先頭に立つ。
「下手すりゃ俺達の方が幽霊にされちまう……が、それは御免だ。気合い入れていくぞ!」
 と、真っ先に海へ、跳んだ。ノルンもまた舳先に、足をかける。
「もちろん。簡単には、退かないわよ」
 風に白衣を揺らし……太ももまである編み込みのロングブーツで、舳先を蹴り、海へ入った。
 五六七はというと、和ゴスをすぽぽーんと脱ぎ散らかして、白スク水姿になっていた。
「インターネッツ曰く、幼女が着るとつよい! とにかく、今行くっすよ!」
 そのまま飛び込み、気絶しているマネギをその腕に抱いた。
 皆も続いて、着水していく。クルーザーは、巫山・幽子が距離を置いたところまで操縦していった。
 初手、小型カメラで敵の様子を録画しつつ……シルがライフルからフロストレーザーを放つ。それは戦艦竜の胴体に命中するが……まだ浅い。
 ルインはサークリットチェインで、前衛の防備を高めていくが……同時に、戦艦竜もケルベロス達に、狙いを定めていた。
 向けたのは、その巨大な砲塔だ。

●脅威
 その砲身から発せられたのは、緑の炎だった。空だけでなく水中をも進み、前衛の全員に、強烈な衝撃を与えた。
 ティーシャは後方から味方に叫ぶ。
「皆、大丈夫か!」
「何とか、な」
 かすかに息を上げて応えるのは凛。直前に守護刀心で守りを固めていたこともあり、致命傷ではない。だがその傷は浅くなかった。
 龍も一旦、間合いを取っている。
「2、3発喰らったら……やばいね。皆、気をつけて」
 直後に、龍は脳髄の賦活で凛を癒しつつも……戦艦竜を冷静に観察している。
(「音には反応は無かったけどね……」)
 戦闘開始直前に石を海面に投げていた龍だが……とくに戦艦竜は反応を示さなかった。おそらくは、近くに見えたもの、そしてその仲間と思しきものを敵と判断する、という習性で間違いないだろう。
「それと……砲塔の攻撃には分かりやすい予兆は無いみたい」
 狙うそぶりはあるが、それを見て確実な回避が出来るものではない。
 龍が共有するその情報に頷き……攻撃に移るのはティーシャだ。その砲塔へと、自身の火器を向けている。
「撃ち合いで負けるわけには、いかんからな」
 そのままフォートレスキャノンを撃ち込む。それは砲塔の1つに当たるが……砲塔自身も頑強なようである。
「壊すのも、簡単ではないか……」
「中々、厄介っすね」
 ルインも、仲間の様子をつぶさに見ながら呟く。
 前衛の面々は、負傷が大きいだけではなく、多量の毒も回っているようであった。ただ、ダメージの度合いは皆がほぼ等しいことや、その命中の度合いなどから、ある程度攻撃の性質を読み取ることは、出来る。
「この調子で、出来る限り情報を引き出したいっすけどね」
「ああ。だがその前に、回復だ!」
 地外は、敵が次の攻撃行動に移る前に、ヒールドローンを展開。前衛の傷の修復を図る。
「おむちーも頼むぜ!」
 地外の言葉に鳴き声を発するのは、ウイングキャットのおむちー。清浄の翼の力で、自身を含めた仲間を回復していく。
 それでも、前衛の傷は回復しきらないが……ノルンも、まずはウィッチオペレーションで、自身のテレビウムであるディアの修復にかかる。
「大丈夫? ディア」
 それに、健常そうに体を動かしてみせるディア。さらに自分を回復することで、何とか浅い傷を治していた。
 ノルンは蠢いている戦艦竜に向く。
「これじゃ、ダメージを与えるのも簡単じゃないわね……」
「それでも、少しでも結果は残したいっす!」
 言って、水面から戦艦竜を眼力で見据えるのは五六七。
 一番確実な攻撃法を調べ、アームドフォートを構えると、一斉射撃。砲塔を含む胴体に、わずかながらの損傷を与えた。
 さらに、支援に加わっていた影宮・那由多が、水を強くかいて、水面から撥ねるように飛び出る。
「よーし! この勢いのまま、行くよー!」
 と、そのまま飛び込んでいくように、螺旋掌を喰らわせていた。
 少しずつだが情報を得、与えたダメージも、ゼロではない。そんな状況ではあるが……まだまだ、理想とする成果には及ばない。
「光の精霊よ、癒しとなりて、立ち上がる力とならんことを……!」
 そんな思いを体現するように、シルは祈りを捧げる。光の雨を降らせる力、『癒光の輝き』は、前面の仲間を強く癒した。
「万全な状態にしとくっすかね」
 とルインもサークリットチェインで、仲間を限界まで回復させる。
「すまない。よし、行くぞライト!」
 凛はルイン達に応えるように言うと、ライドキャリバーのライトへ声をかける。
 ライトは駆動音を返事代わりに、凛と同時に戦艦竜へ接近。
 凛が自作の刀、『白楼丸』と『黒楼丸』の刃をほのかにピンク色に輝かせ……絶空斬を叩き込むと、ライトも突撃をかました。
 すると、戦艦竜は身じろぎするように動き……砲塔に違った色の炎を灯す。

●仕事
 それは黄色に輝く炎だった。
 先ほどと同様、砲塔から広範囲に直進した炎は、前衛のケルベロスを覆うように襲い……またも苛烈なダメージを喰らわせた。
「く……!」
 凛や、龍も避けられずに衝撃を受け……前面に出続けているサーヴァント達は、皆瀕死に陥った。
「また前衛狙いか……! 今回復するぞ!」
 地外がすぐに反応し、ヒールドローンを行使。おむちーも再び翼を羽ばたかせ、皆の体力を保とうとする。
 だが……重い攻撃を二度受けた前衛の面々には、一気に深い傷が蓄積してきていた。おそらく、次に喰らえば、耐えられない程度には。
 ただ、その中でも、龍のダメージは比較的、浅い。元々体力が他の前衛に比べ高いことと、耐性があったからであろう。
 それでも龍はかすかに、眉をひそめていたが。見るのは、痺れる自身の腕だ。
「今度は、麻痺か。厄介だね」
 先ほどと同様、多重の麻痺である。単純な物理的攻撃力以上の脅威があることの証左でもあった。
「ええ……でも、まだ逃げられないわ」
 ノルンはディアに魔術切開を施し、出来るだけ体力を取り戻させると……ディアに勢いを付けさせて跳躍させる。
「調べなければならないことがあるもの。ディア」
 ディアは、応援動画で自身の回復に追われながらも……ノルンの声に応えるように、何とか、戦艦竜の背に着地。その上で行動が取れることを示して見せた。
「炎は張りぼてか。ならば、近くで!」
 ティーシャはそれに続くように、水中から、戦艦竜の体を駆け上がる。砲塔の目の前に着くと、その背中もろとも、至近距離からバスタービームを撃ち込んだ。
 砲塔は堅い、だが、わずかに見せるきしみは、その破壊が不可能でないことも示しているようだった。
 ただ、五六七もゼログラビトンを命中させつつ……戦艦竜の様子の変わらなさに、目を見張る。
「これでもまだまだ、余裕がありそうっすね。どの攻撃も、浅いっす!」
「効いてない訳じゃ、ないみたいだけど……」
 シルも癒光の輝きで仲間を回復させつつ、戦艦竜が悠々と泳いでいる様を見ている。ルインはそれに頷いた。
「体力自体がめちゃめちゃ高そうっすからね。ただ、弱点があるなら、それを突けているかは微妙っすね」
 と、放つのはサイコフォース。その爆撃が頭を打った瞬間、戦艦竜はわずかにだけ動きを止めた。
「っと、少しばかり効く攻撃もあるみたいっすね」
 ルインが言えば、凛は再び、空から戦艦竜に肉迫している。
「後は……どれだけ、その体力を削り取れるか、だな」
 攻撃能力、挙動、弱点に近いもの。欲する情報の多くを得たが……戦艦竜自身は、未だ回遊するように、厳然とそこにいる。
 この作戦の最後に必要なのは、ひたすらダメージを与えること。凛はその先頭を走るように、刀を掲げ、斬霊斬を叩き込む。
 ライトもキャリバースピンを戦艦竜の長い胴体に喰らわせていたが……そこで、戦艦竜が攻撃行動に入っていた。
 その狙いを見て、凛は仲間に背中を向けたまま、言っていた。
「仕事は、最低限こなせたと思いたいが。すまないが後は、頼む」
 瞬間。戦艦竜は緑色の炎を発射し、前衛を襲った。
 その猛烈な威力に、負傷の大きい凛は耐えられない。
 ライト、そしておむちー、ディアを含め……前衛の多くが、炎に飲まれ、気を失った。
「ぐ……、私も、次は耐えられないな」
 ぎりぎりで意識を保つ龍は、自己回復しながらも……意識が明滅している状態だ。
「これほど、一気にやられるとは……皆、警戒を欠かすなよ」
 ティーシャは、引き続きフォートレスキャノンを砲塔へと撃ち当てながらも、改めて皆に呼びかける。
 五六七も同時に、アームドフォートでの射撃を加えていきながらも、頷くが……。
「でも、あれ、あちきが喰らったら1発でもやばそうっす!」
「それは、俺についてもまぁ、言えるかもな」
 と、言葉を継ぐのは地外だった。間近で戦艦竜の攻撃を見て、その威力を明確に感じ取っている。盾になる味方が少ない場合の戦況くらいは、読めていた。
「恐ろしい敵だぜ、ほんと。ま、でも……実体がある分、幽霊よりはマシだがな!」
 それでも地外は、退く様子を見せずに、攻めた。
 戦艦竜に肉迫し、飛び蹴りを喰らわせる。少しでも、その体力を奪うために。
「やっぱ、かってぇな!」
 間合いを取りつつ、思わず声を出す。戦艦竜が砲塔を向け、またも炎を撃ち出して来るのを、見ながら。

●その次へ
「来るか」
 と、地外はその瞬間、小さく呟いていた。
 戦艦竜が発した黄色の炎、それが襲ったのは、五六七と地外の、中衛だ。
 押し寄せる炎の滝を、2人は逃れ得ない。圧倒的な衝撃に押しつぶされそうになりながら、地外は笑みを背後に向けていた。
「悪ぃな、俺の体、運んどいてくれ……!」
 直後に、地外は気絶。体から力を失わせた。
 五六七は、すんでのところで、耐えていた。体力の差もあるが、耐性を持っていたからであろう。
 それでも、サーヴァントを含めれば6人が既に戦闘不能。戦力敵には、大きく均衡が崩れ始めたと言ってもいい。
「私も、攻撃をもらえばいつ倒れてもおかしくないわね」
 ノルンは言いながらも……水中を大きく前進。戦艦竜の背に自ら乗り上げていた。
「でも……まだよ。ディアの分だけは、返させてもらうわ」
 そのまま手をのばし、縛霊撃。胴体を締めつけ、傷を刻んでいく。
 ただ、シルは五六七を気力溜めで回復させつつも……状況の確認を怠っていない。
「そろそろ、撤退出来るようにしておいた方がいいかも!」
「賛成っす。まあ、それでも出来るだけ削るっすけどね」
 応えつつ、ルインは戦艦竜を見据えていた。浮かべる笑みは、戦艦竜に屈したわけではないことを、如実に示しているかのようだった。
「折角っすから、昏き海の底から来たる深き者共の恐怖を、教えてやるっすよ。その叫び声を……聞くがいいっす」
 顕現させるのは、『浮上する深淵』。
 遥か水底に沈む廃墟を、住人ごと地上に再現。最奥の神殿から響く、正気を抉る呼び声が、戦艦竜の精神にすら傷を与えていく。
「少しでも、砲塔を損傷させておきたいが」
 ティーシャは言いつつ、砲塔へ射撃を繰り返す。が、それでも砲塔をこの段階で壊すのは難しいようだった。
 龍が降魔真拳、五六七が光弾で攻撃した後には……戦艦竜は大きく体をうねらせていた。
 そして、海中から、沈めていた尾を突き出すようにして物理攻撃。矛先は、五六七だった。
 水中からの強烈な一撃に、五六七は瞬間のうちに意識が遠のくのを感じる。
(「マネギは、こんな攻撃を受けてたっすか……!」)
 その、マネギを腕に抱いたままに、視界は暗転。五六七は気を失った。
 ノルンは戦艦竜の上部に飛び蹴りを叩き込みながらも、後方に気を配る。
「もう、まずいわね。皆、逃げる準備は出来てるわね」
「うん。何とか」
 シルも、背負うことの出来る仲間は背負いつつ……距離を取りながら、最後までフロストレーザーを戦艦竜へと当てていく。
 ルインもサイコフォースで爆撃しつつそれに続く。
「結局、予想以上に強い敵だったっすね」
「……とりあえず、出来るだけ、私が盾になるから。体力ある人が残って、助けてくれると嬉しい」
 と、前に出るのは龍。冷気で攻撃しながらも、近づいて来る戦艦竜を見つめている。
 射撃を続けるティーシャが……その砲塔の動きに気付いた。
「来るぞ……!」
 言葉とほぼ同時。戦艦竜は緑の炎を撃ち出し、後衛を襲った。龍は即座に判断し……ノルンの前に出て、言葉通り、盾となった。
 結果、後衛は大きなダメージを負うも、皆助かった。気絶したのは……龍だ。
「みんなっ! 撤退するよっ!」
 直後には、シルが声を上げて、同時に後方に合図を送っている。
 それに、遠くのクルーザーはすぐに反応。ケルベロス達が戦艦竜から離れると同時に、その近くへすぐに、速度を上げてくる。クルーザー自体は、波に揺られていたが、無事だった。
「さ、早く上がって! あたしも手伝うよ」
 クルーザーの警護もしていた百合水仙が、皆の引き上げも手伝い……ケルベロス達はクルーザーに搭乗。戦艦竜からの撤退に成功した。

「生半可な相手ではなかったな」
 安全地帯まで航行したところで、ティーシャが海を眺めて言っていた。
「そうっすね」
 ルインも頷きつつ、未だ気絶している仲間達に目をやる。
「でも、情報は、手に入れたっす」
「ええ。少なくとも、どんな風に戦ってくるかは、わかった。それは成果ね」
 ノルンは少しだけ、息をついたようにそれに応えていた。
 シルもこくりと、首を縦に振る。
「みんなで手に入れた情報だもん。きっと、次に活きるよ!」
 戦艦竜の体力については……おそらくは、削れたとしても1割というところだろうか。
 それでも、情報という大きな武器を、ケルベロス達は持ち帰った。
 それが次に繋がるという確信を、皆は胸に抱いていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2015年12月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 15/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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