夜へ芽吹く昏樹

作者:崎田航輝

 ――がちり。
 ――がちり。
 金属同士が擦れ合い、鈍く絡む音が聞こえる。
 まるで巨大で歪な歯車が回転しているかのようで。
 その響きが木々の立つ林の景色にそぐわなくて、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は足を止めていた。
「この音は――」
 初めて聞こえたはずなのに、何処が聞き覚えがある。
 木立の連なるそこは、町と町の途切れ目だった。古くは製鉄が行われていた一帯だというが、今はその影もなく雑木林に全てが隠されている。
 過去には不法投棄が問題にもなっていたようで、大型の機械が打ち捨てられていた事もあったらしいが――。
 違う、と広喜には判る。
 確かにそれは何らかの機械が動いているような音だった、けれど。
 視線を奔らせた広喜は、木々の奥、夜闇に何かが蠢くのを見つけた。
 近づいて、確かめてみるまでもない。次の瞬間にはすぐ傍の木が軋む音を上げながら抉り倒され――目の前にその影が現れる。
 それは仰ぐ程の奇木だった。
 一目で尋常のものでないと判るのは、捻れてうねるその躰が、金属的な光沢を帯びているからに他ならない。
 機械に似ていながら、非なるもの。機械すら糧にしてしまう――攻性植物。
「そういえば、ここはあの廃墟から近かったな」
 煌く花弁に、鋭い枝葉。
 見つめる広喜は自分が仲間と共に戦い、倒した敵の事を想起していた。
「てめえが、あいつの親なのか?」
 奇木はただゆらりと揺れて、躰をこちらへ向ける。
 一度は高空に花を向け、その彼方にあった筈の星を見ているようでもあったけれど――今はただ、広喜を標的に定めたように。
 或いは新たな糧を見つけたというように。それは枝を研ぎ澄まし、花弁を尖らせて――殺意を広喜へ伸ばしてきた。

「集まって頂いて、ありがとうございます」
 緊急の事件だと、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達に説明を始めていた。
「尾方・広喜さんが、デウスエクスに遭遇してしまうことが分かりました」
 予知された出来事はまだ起こってはいない。
 だが現状、広喜と連絡はとれてない。広喜自身も既に現場にいる筈で――敵と一対一で戦いが始まってしまうところまでは、覆すことは出来ないだろうと言った。
「それでも今から向かえば、救援に入る事は出来るでしょう」
 合流までは、時間の遅れはある程度生まれてしまう。それでも広喜の命を救い、戦況を五分に持ち込む事は可能なはずだ。
「ですから、皆さんの力が頼りです」
 現場は町と町の間にある雑木林。
 周囲にはひとけは無い環境で、一般人については少なくとも心配は要らないだろう。
「敵は攻性植物のようです」
 名は鉄壊シ(くろがねこわし)……判っている事は多くはないが、強力な敵である事は間違いなく――単独で相手をするのは難しい敵だろう。
 故にこそ猶予はないから、と。
「ヘリオンで到着後は、急ぎ戦闘に入ってください」
 夜間ではあるが、現場は静寂。広喜を発見することは難しくないはずだ。
「さあ、行きましょう」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
バラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ

●夜影
「……立て続けにこんな事件が起きるなんて」
 深い夜闇は時を追う程に濃くなってゆくようで。
 空から舞い降りたウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)は、そのどこかにある筈の戦場を探し視線を巡らせていた。
 攻性植物との戦いは記憶に新しい。敵がそれと同じ種であるならば――それだけ命の危険が在るという事だから。
「――急がないと!」
「……んう」
 短く応えながら、遠方の音を捉えていたのは伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)。ジェットパックを起動し空へと上がりながら、仲間も牽引し始める。
「まっすぐ、いくぞー」
「うん……!」
 ウォーレンも頷き前を見据える――無事でいてねと、心に願いながら。
 刻一刻と、危険は増している。故にこそ君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)は、今はただ真っ直ぐに戦場を目指す。
 彼が立つのは、いつでも自分の横でないといけない。
 そう心に思うから。
 ――助ける。
 その確かな誓い共に、静かに、けれど止まらず闇夜を突っ切ってゆく。

 それは昏い夜を一層、翳らせる巨影だった。
「夜遊びは危ねえって本当だな」
 鋭く振るわれた枝を、ガントレットに纏わせた氷晶で受け止めながら――尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は声を零す。
 後ろに跳んでから改めて仰ぐ、その敵影――鉄壊シは体を波打たすばかりで、言葉を発さない。けれどそこに捕食の意志があるのは明らかだった。
 一歩誤れば、この異形の糧となる。そして花と木は無限に増え、或いは全てを飲み込んでしまうのだろうと。
 けれど、広喜が見せるのは笑み。
「これ以上、てめえを増やすわけにはいかねえんだ」
 過日の花以上に強敵かも知れない。それでも一歩も引かず、無邪気なまでに真っ直ぐ戦いの構えをとって。
 ――きっと、皆が来てくれる。
 そう信じる心があるから止まらない。ランプを灯して皆への目印にして、広喜は地を蹴って奇樹へと飛び込んでいた。
 そのまま放つのは鮮烈な青炎を抱いた蹴撃。重い衝撃と共に幹に鈍い音を響かせ、その一端を焦げつかす。
 無論、一撃だけでは敵は倒れないが……これは仲間が来てくれた後の為の布石。
「おっと」
 続く鉄壊シの光線はこちらの装甲を穿ち、広喜も一度は自身の体力を保つ事に集中した。それでも……奇樹の躰は確実に熱に侵され始めている。
 それが後から効いてくるだろう。自身が生き残るから、仲間が来てくれると確信があるからこその策だった。
「まだまだ行くぜ」
 後は攻勢。こちらの全身を覆うようにうねる樹体にも怯まず――打拳。伸びてきた枝を一本、根元から綺麗に打ち割って見せた。
 ただ、鉄壊シは一切退かず――そのまま広喜を侵食する為締め上げようとした。
 あくまで単体相手なら、自身が優勢だと判っている為だろう。それは形勢を握る為の一手だったに違いない。
 だが、その判断よりも広喜の信念が未来を引き寄せる。
「そこまデだ」
 響いたのは静かな声。
 誰より先に広喜がはっと気づく、その直後――夜闇を舞い降りて来たのは眸。風を裂きながら、鉄壊シの体へ打突を叩き込んでいた。
 幹の一端に穴が開き、鉄壊シは身を捩らせる。それでも遣り返そうとしてきた、が。
 眸のビハインド、キリノが疾風を吹かせてその動きを塞ぐと――。
「頼めルか」
「了解しまシタ」
 声と共に、夜空に虹が架かる。
 それは高く跳んだエトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)が、虚空に棚引かせる七彩の輝き。
 そのまま降下しながら蹴り下ろしを見舞ったエトヴァは――同時に金属繊維混じりの身を晒し、己を標的なのだと誇示してみせた。
「さあ、こちらに獲物がいますよ」
「そうです、あなたの相手はこちらですよ――!」
 時を同じく、翼で風を捉えてふわりと舞い降りてくるのは愛柳・ミライ(明日を掴む翼・e02784)。自分の身を敵の眼前に置き、広喜への視界を塞ぎながら壁となる。
 鉄壊シは自然、その二人の方を狙って光線を放った、が。
「――その攻撃、通しはしません!」
 飛来する光を、一層眩い光の盾が阻む。
 それはフローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)が展開するアメジスト・シールド。
 同時に、フローネはそこへ脳波稼動型ルビー・ドローンのフォトン・バリアを顕現させていた。
 鮮麗な紫水晶と紅玉の光が交じり合うそれは――『紅紫防壁陣』。仲間を護りながら自身への衝撃も抑えていく。
 その頃には、広喜も皆へ笑顔を向けていた。
「眸ーっ」
 大好きな相棒の隣へと真っ直ぐ走って……駆けつけてくれた仲間へ健常な姿を見せる。
 ウォーレンはしかと、敵との間に立って盾となりながら――広喜が傷を負っていると見ると一瞬固まるけれど。
 それでも無事と判れば、泣きそうな顔になりながらも頷きを返して。
「すぐに、治すね」
 その身に光を纏わせ、治療を始めてゆく。
 そこへ合流するバラフィール・アルシク(闇を照らす光の翼・e32965)もまた、静かな安堵の心と共に手をのべていた。
「これで、癒やしきってみせますから」
 零れた光は、雪のような白妙。
 それに触れると優しい温度と輝きが、傷を浄化するように薄らがせて。追随する翼猫のカッツェもまた、癒やしの風を生み出して――広喜の体力を万全とする。
 そこへひらりと舞い戻った眸は、広喜に多くは聞かず。
 ただ一度視線をやって確認する。
「広喜、行けルか」
「勿論だ。皆が来てくれたし――俺が立つ場所は、眸の横だからなっ」
 安堵に表情を緩ませながら応える広喜。
 その姿にミライも笑みを零した。
「……そう、二人並んでませんと、ね!」
「ああ、これで無敵だぜ」
 言った広喜は、並び立った皆と共に奇樹を見据えて。
「紹介するぜ、俺の最高の相棒と、最強の仲間だ」
 だから――さあ、壊し合おうぜ。
 拳を握り、反撃に走り出す。
 鉄壊シは敵意の擦過音を響かせ、枝を差し向けた。が、勇名が既にジェットを噴射しその頭上に舞い至っていた。
「……むい。だれもなにも、こわさせないのだ、ぞー」
 もぷー、と。
 零す声には敵への怒りの感情もあったろうか。
「いっぱいどかーんだ」
 言いながら、蹴撃と共に焔を放って花弁を爆炎に包んでみせる。
 鉄壊シはそれを振り払おうとする、が、ミライもまた隙を作らず肉迫。
「もう、好きにはさせないのです」
 言葉通り、放つ蹴撃は苛烈。軽やかながら、強く鋭く――花弁の一端を引き裂いた。

●反撃
 根を蠢かせながら、鉄壊シは一度間合いをはかっている。
 その姿を、エトヴァは観察していた。
「やはり、先日の個体の親株ですカ……」
「ああ」
 応える広喜に、眸も仄かにだけ瞳を細めている。
「金属を狙ウとは、趣味が悪イ花だな。繁殖力も捨て置けなイ」
「うん」
 ウォーレンも頷いていた。
「せっかくダモクレスと和解したのに、こんな植物が茂ってたら大変だよね」
 ならば遣るべき事は一つしかないのだと。
「これからやってくる新たな機械の仲間に見せるなら――危ない花より、心和む花が良い」
「そうだな。何より――」
 と、広喜は鉄壊シを見上げ、そして彼方の空までを見通す。鉄壊シの狙いも、感覚で理解していた。
「このままだと地球と、マキナクロスまで標的にされちまうからな」
 広喜にとってはどちらも、故郷。
「だから、守るぜ」
「ええ。レプリカントの皆さんは、気をつけて。それにシュッツ、貴方も」
 バラフィールが見下ろすのは黒銀に光るオウガメタル。それが呼応するように僅かに流動してみせると――眸もまた言葉に頷いていた。
 とはいえ、眸は及び腰になるつもりなどは無い。寧ろ正面から歩み寄るようにして。
「ワタシの体はほとんどが金属ダが」
 ――どちらが早く相手を壊せルか、試してみよウか。
 言いながら地を蹴り、真っ向から奇樹へと攻めに向かっていた。
 鉄壊シは枝を尖らせて迎え討とうとする。が、眸の隣には広喜が並んでいて。
「させないぜ」
 言葉と共に、片耳を飾る蒼石イヤーデバイスに触れていた。瞬間、エネルギーの網の目が走って枝を捕らえ、その内部を爆轟に包む。
 その頃には眸が零距離。駆動剣で無数の斬閃を踊らせて幹へ深い傷を刻み込んでいった。
 それでも鉄壊シは新たな花を萌芽させようとする、が。ミライがそこへパズルを翳して陽炎の如き幻影を浮かべていた。
 それが鉄壊シの精神へ這い寄り、蝕んでゆく。
「静かに咲かないのなら、何も、得られはしないのです」
「ええ――その通りです!」
 狂乱する花へ、フローネは銃口を向けてレーザーを発射。夜闇に美しく煌めく紫の光を奔らせてその花を撃ち抜いていった。
 鉄壊シ自身は倒れず、逆にこちらの中衛へと光線をばら撒いてくるが――フローネは真正面にシールドを広げて受け止めてみせる。
 雨の如き衝撃は間断なく盾を攻め立てる、けれどフローネは凛然と立って退かず。
「ミライさん! ここは力を合わせて――凌ぎ切りましょう!」
「はい! 勿論……! 私達『も』!」
 応えるミライもまた、零れてくる光線をオウガメタルのクッキーちゃんを盾型に変形させる事で耐え切ってみせる。
「フローネ殿、さすがの護りですネ。ミライ殿も」
 エトヴァは言いながら、翼猫のエトセテラを飛翔させ、即座に治癒の風を送らせて前衛の体力を保ってゆく。
「――後は、お任せしマス」
「ええ、判りました」
 頷くのはバラフィール。自身の翼から、羽根の形をした光を宙に舞わせていた。
 何処か儚くも美しいその輝きは『病魔封じの羽根』。はらりと触れさせる事で前衛の傷を癒やしきりながら、同時に内在する“守る力”を引き上げさせていた。
「これで万全です」
「んう、それじゃー、こっちのばんだ、ぞー」
 応えて敵へ向かうのは勇名。
 一歩近づく程に、自身の内部にある金属部分を鉄壊シが狙ってくる感覚が判る。それでも、勇名は引き下がらず――その手に幾つもの丸鋸の刃を携えていた。
 瞬間、その全てを射出する。
「がりがりーの、ぎゃりぎゃりー」
 正確に奇樹の体を捕らえたそれは、『創』の名の如く。回転する刃で幾重にも傷を刻み、連ね、重ねて。治癒を阻害しながら消え得ぬ苦痛を齎した。
 苦悶にうねる鉄壊シは、勇名へ這い寄ろうとする、けれど。
「――易々と狙わせはしまセン」
 エトヴァが煌めく幻影でその眼前を覆っていた。
 それは狙いを自身へ向ける策。無論、危険ではあるけれど――エトヴァは怯まない。
 直後、鉄壊シは枝を大きく振るってくるが――エトヴァはそれを限界まで引きつけてから、舞うように跳んで華麗に避けてみせた。
 そこへ逆方向から敵に迫るのが、ウォーレン。
 この隙を、逃しはしないと。
「外さないよ……!」
 しかと握り込んだ拳で一撃。意志を込めた打突で、大きく奇樹の体をひしゃげさせた。

●帰るべき場所へ
 鉄壊シは斃れそうになりながら、それでも自身を無理矢理に起こす。
 求めるように、喰らおうとするように。枝先や花から取り込んだエネルギーを、自身へ循環させて回復強化を目論むが――。
「むい。させない、ぞー」
 そこへ勇名。跳びながらジェットを噴射し、強烈な上昇速度と共に打撃を叩き込んで加護を阻害した。
 同時、バラフィールも避雷針を翳して先端へ魔力を凝集。聖なる輝きを宿して放った光弾が、奇樹にはウイルスとなって――高まった能力を打ち砕く。
「皆さん、このまま攻撃を」
「ええ!」
 声を返しながら、フローネは射撃。紫水晶の結晶の如き光を散らせながら、鋭い冷閃を放って敵の根元を固めた。
 そこへウォーレンが『喜鬼雨』――祝祭の気配を纏いながら、強烈な圧力ともなる土砂降りの雨を喚び込んでいる。
「大地へ、お還り」
 鉄壊シはそれに耐えきれず横倒れとなった。
 それでも光線を周囲に撒いてくるが、ウォーレン自身とフローネがしかと受けきれば――ミライがそこへパズルを向けていた。
「そこまで、なのですっ!」
 刹那、強烈な稲妻が弾けて鉄壊シを襲う。目も眩む程の雷光は、幹を灼き、枝を砕き。その体力を確実に削いでいった。
「今です!」
「――ええ」
 そこへエトヴァが手を伸ばす。
 鉄壊シはそれでも連撃を狙っていたが、エトヴァは『SYLPHIDE-SYSTEM-Missiles』――今一度、体内に宿した白銀の流体金属を硬質な糸として放出していた。
 夜闇に眩い程の輝きの軌道を描くそれは、躰を絡め上げて動きを封じてゆく。
「行くぞ」
「ああ!」
 と、同時に走るのが眸と、隣に並ぶ広喜。
 まずは眸が金と銀、氷を纏わせた二つの歯車を宙に踊らせ、幹を十重二十重に切り刻むと――そこへ飛び込むのが広喜だった。
 拳を大きく握り込み、青い獄炎を湛えながら。
「これで本当に、最後だ」
 だから、じゃあなと、別れを告げるように拳を振るう。
 見せる表情は最後まで笑顔のままで――放つ一撃は『壊シ詠』。眩く重く、全ての力を乗せた衝撃が、夜に聳える昏い樹を粉々に打ち砕いた。

 穏やかな静寂が帰ってきていた。
「撃破、出来ましたね」
 フローネが戦いの態勢を解けば、ウォーレンも頷いて。「他にもいたりはしないよね……」と警戒しつつ、周囲に異常がないと確認していた。
 バラフィールは広喜へと振り返る。
「ご無事ですか?」
「ああ、皆が来てくれたからな」
 広喜は腕をぐるぐる回して、明るい笑顔。
 眸はそれを確認して、ようやく――。
「良かっタ……」
 小さく、相棒の無事を喜んで……そっと笑顔を浮かべていた。
 広喜も眸に、そして皆に「ありがとな」と笑みを向けると――ミライはそっと頷いて。それから静かに歌って周囲をヒール。戦いの跡を癒やしていく。
 エトヴァや広喜も周りの片づけ。地面を均して綺麗にする頃には、鉄壊シの残骸も薄らいで消滅していった。
 その隣で、勇名はしばらくぼんやりとしている。眠ってしまう程ではなかったけれど……疲れは残っていたから。
 そんな勇名も少し休まってきた頃……ウォーレンはおやつに持参したマシュマロを取り出して、配っていた。
「食べる?」
「……んう」
 と、勇名が受け取ると皆も続くから、ウォーレンは柔く笑んで。
「それじゃあ、帰ろうか」
「ええ」
 エトヴァも応え、一度機人星を仰いでから――地上の仲間へ微笑んだ。
 帰るべき場所へ、と。
「……こちらも、食べマス?」
 それからエトヴァも大きなチョコマシュマロを取り出す。
 広喜はそれも喜んで受け取った。
「皆、ありがとな」
 そして改めて言ってから歩み出す。
 広喜もまた一度だけ、鉄壊シが見ていたその星を見上げていた。
 ただ、すぐに視線を戻す。
 ――俺の帰る場所はこっちだから。
「たまには夜遊びも悪くねえなっ」
 言って笑い、前を目指す。眸と皆と、一緒に歩く帰り道。それが何より、楽しいものだったから。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年7月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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