「集まって頂いて、ありがとうございます」
イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
「まず――ケルベロスの皆さんの投票によって、アダム・カドモン率いるダモクレスとの決戦を行うと決定した事を、改めてお伝えしておきます」
ダモクレスとはこれまで幾度と戦いを重ねてきた。
故にこそその戦いをこれで最後とする為に、全力を尽くさねばならないでしょう、と。
「現在、アダム・カドモンが座上する惑星級星戦型ダモクレス『惑星マキナクロス』は――亜光速で太陽系に侵攻、太陽系の惑星の機械化を開始しています」
その目的は、機械化した惑星の運行を制御し、グランドクロスを発生させる事だと予知されている。
「グランドクロスは宇宙版の『季節の魔力』であり――その魔力で暗夜の宝石である月を再起動させ、地球のマキナクロス化を行おうとしているのでしょう」
ダモクレス軍はそれと同時に、魔空回廊を利用して月面遺跡の内部に直接、星戦型ダモクレスを転移させ……月遺跡の掌握を行おうとしている。
月が制圧されてしまえば――グランドクロスによる地球のマキナクロス化を防ぐ事は不可能となるだろう。
「そこで皆さんには、万能戦艦ケルベロスブレイドで月遺跡に急行し――遺跡の防衛を行ってもらいたいんです」
月遺跡の制御を奪う為にダモクレスが狙うだろう地点は、聖王女エロヒムの協力により予知する事が出来たという。
「この地点に先回りし、魔空回廊から転移してくる星戦型ダモクレスを迎撃。月遺跡を守り抜くのが、今回の作戦の目的となります」
ひとつの地点つき投入されるダモクレスは3体。
最初の1体が現れてから8分後にもう1体。更に8分後にもう1体が魔空回廊から出現してくる。
「素早く撃破していけば各個撃破の形をとる事が可能ですが……逆に倒すのに手間取れば、複数の敵を同時に相手しなければならないでしょう」
勝利が難しい場合は、遺跡を破壊して撤退する決断も必要になる。
無論、それは出来れば避けたい事態ではあるが――地球のマキナクロス化を防ぐためには、やむを得ない。
「戦況を鑑みて、冷静な判断をするようにしてください」
戦場となるのは遺跡内部、停止した古代機械群が並んだ場所で――こちらはその機械群を背にして戦う形となるだろう。
そして、現れる敵はどの個体も強力だと言った。
「1体目は『タイプ・アレッサンドロ』です」
頭脳機械群“天才集団(ディス・ジーニアス)”の一員で、元はグラビティ・チェインに関する研究を行っていた個体だという。
遺跡制圧後に地球マキナクロス化の準備を行う役割を持っているようで……単純な力で言えば3体の中では高い方だとは言えない。
ただ戦況を把握し、的確な指揮をとる事が出来るタイプなので――最初に倒せなければ厄介になる個体でもあると言った。
「2体目は『スカイファイター』です」
高速飛行が可能で、上空からの奇襲や制空権の確保を得意としてきたらしい個体だ。
耐久力よりも火力と攻撃の精密さに重点を置いているようで――能力はどれも強力。主導権を握られれば一気に押し切られる恐れのある敵だと言った。
機動性を活かして弱点のカバーもする為、単体でも高い戦闘力を発揮してくるだろう。
「3体目は『アグレッサー・レイヴン』です」
元は戦術研究個体として造られたものらしい。
対ケルベロスを主眼に置いた戦術の研究・共用化に貢献してきたようで――種族への忠誠心は極めて高く、冷徹に作戦を全うする判断力を持っている。
目的の実現を第一に考えるタイプで、攻防にバランスの良い能力を活かしてくるだろうと言った。
「上手く行っても連戦、場合によっては3体を同時に相手にしなければならない、厳しい戦いとなるでしょう」
それでもこれは、宇宙の未来を決定する戦いだ。
状況は決して有利とは言えない。
万能戦艦ケルベロスブレイドの速度では、一番近い金星に移動するのすら数ヶ月はかかってしまう為……太陽系の惑星の機械化を止める事は出来ないだろう。
そして月遺跡を掌握されれば、敗北は決定的だ。
「だからこそ……ここを守り抜かなければなりません」
戦いは月遺跡の内部となる為、ケルベロスブレイドの援護は受けられない。それでも、とイマジネイターは声に意志を込めた。
「皆さんならばきっと勝利できると信じていますから」
地球と、共に生きる多くの命、そして未来の為に、と。
「戦いへ――行きましょう」
参加者 | |
---|---|
立花・恵(翠の流星・e01060) |
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652) |
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414) |
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762) |
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973) |
エルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594) |
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629) |
水瀬・翼(地球人の鎧装騎兵・e83841) |
●迫撃
冷えた温度の中、見えるのは幾つもの古代機械群。
月に在るとは思われぬ空間は、同時に他の何処にも似ていない眺めで――その不思議な感慨に、立花・恵(翠の流星・e01060)は視線を巡らせていた。
「宇宙での戦いも、何度目だろうな」
呟けば、そんな経験を幾度と重ねていた事にも思いが至る。
「あとちょっと――あとちょっとで戦いは終わらせられる」
だから頑張ろう、と。
しかと愛銃を手にとって、虚空を仰ぐ。
すると遠方にあるその空間が歪み、空中で色彩が混濁する。魔空回廊が出現し――そこに敵の姿が滲み始めていたのだ。
「……」
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)はそれを少しだけ、見つめている。
自身の事を思う。月には良い思い出がなかった。
けれど、だからこそ。
「たすけるよ」
笑顔で月を見上げることができる未来を迎えるために、と。
「ここは、わたせない!」
「ああ、勿論だ!」
恵も首飾りを握り、気合を入れ直してデバイスを起動。
「さぁ、かかってこい! ここは絶対通さないぜ!」
瞬間、舞い降りてきたダモクレス――タイプ・アレッサンドロへ初撃、強烈な蹴りを叩き込んでみせていた。
カロンも星色に煌めく砲撃を加えると、アレッサンドロは下がりながら演算。守りを固めるべきと判断したか、自己修復を目論むが――。
「邪魔させてもらうよ」
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)が先んじて手を伸ばし、蔦を飛ばしてアレッサンドロの躰を捕らえていた。
そのまま生命力を侵す魔力を流し込みながら、蔦を引いてその身を手繰り寄せて一撃。蹴り飛ばすように打ち上げていく。
アレッサンドロは、それでも自己治癒は実行して防護を獲得した、が。
その更なる上方から見下ろすのが、高々と跳んでいた緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)。
「無駄な事だ」
言いながら拳に込めるのは、魔剣と己自身から噴出させた紅蓮の焔だ。
時を同じく――ふわり。銀糸の髪を揺らぐ陽炎に揺蕩わせ、御業を顕現するのがエルム・ウィスタリア(薄雪草・e35594)。
「この力で、お願いします」
明滅しながら風のように流れたその御業が、結衣の拳に破魔の加護を与えると――結衣はそのまま一撃、火花を散らせる一打で敵の防護を砕いた。
地へ落ちたアレッサンドロは反撃に音波を放つ、が。
「させないぜ」
滑り込んだ水瀬・翼(地球人の鎧装騎兵・e83841)が壁となって受けきれば……直後には朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)が治癒の光を発現。
「これを受け取って下さいっ!」
煌々と煌く、美しくも明朗な光球を投げ飛ばし――即座に翼を回復強化。
翼はその力を活かすよう『流星の嵐』。浮遊砲台を展開しながら相手を集中砲火に包んでいけば――。
「頼む!」
「ええ」
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)が白色のライフルから眩い光線を閃かせてアレッサンドロの腕を吹き飛ばす。
番犬達が選んだ策は、攻勢に重きを置く事。
敵の防御を破り、治癒と強化を兼ね、戦力を底上げしながら途切れず攻める。
それを徹底する事で敵の治癒役としての恩恵を圧倒し、単体戦力としての隙も突き――。
「終わりだ」
六分を前にした早期、結衣が空中から輪転しながら降下。豪炎の輪を描きながら剣撃を繰り出して――アレッサンドロを両断した。
●空戦
「皆さん、治癒を」
静けさの中、エルムは『六華』。柔らかで優しい雪を降らせ、仲間の傷を拭っていた。
環もしゅるりと巡らせた攻性植物に果実を生らせ、垂らした甘露で皆の状態を万全に保ってゆくと――。
「次、きます!」
目を向ける先に、強烈な風圧を撒きながら飛翔してくるダモクレス――スカイファイターが現れていた。
『アレッサンドロは……既にやられたか』
スカイファイターは声を零しながらも、戦いの構えを取っている。
エルムはその姿を静かに見据えていた。
本当なら争いをしたくない。故に心の中は今も複雑だったから。
けれど敵はあくまで戦意を露わにして――此方へ銃身を向ける。
『増援を待つまでもない。ここで勝利を手にするとしよう』
「――させない」
口を開いたのはカロンだった。
一歩前へ歩みながら、凛然と視線を向けて。
「地球も! 月も! おまえ達だけのものじゃないんだ!」
『……ああ、そうだ。故にこそ、奪いに来た!』
スカイファイターは加速しながら弾丸をばら撒き、衝撃の雨を降らせてくる。だがそれにもカロンは怯まず、流星の如き粒子を煌めかせて皆を癒やしながら。
「それなら僕達が全力で守ってやる!」
「ああ」
少なくとも勝ちを譲るつもりはないのだから、と。
耀きの残滓の中を、敵の眼前にまで跳躍するのは結衣。スカイファイターはとっさに避けようとするが――研ぎ澄ませた狙いで蹴撃を外さない。
「このまま突き崩せるはずだ」
「それじゃ、行くぜ!」
そこへ追随して跳んでいた恵も、躰を翻して蹴りを打ち込み機械翼の一端を破壊する。
揺らぐスカイファイターはレーザーの刃で反撃するが――そこへ飛び込んで盾となるのが、翼。
「通しはしないぜ」
ここにいるのはただ戦いに同道しただけのメンバーじゃない。
大事で、大切な仲間に他ならないから。勝つのは勿論、皆を無事に帰らせたいのだと、秘めた意志は強く――しかと衝撃を受け止める。
そのダメージこそ重いが――。
「大丈夫です! 私が癒やしますから!」
環が癒やしの気を練りこんだ魂を手に輝かせ、直ぐ側まで跳んでいた。
『気功式・励栄突』。そのまま掌打を加える事で――魂を身に溶け込ませ、痛みを吹き飛ばしてみせる。
その頃にはアンセルムが星屑の如く煌く魔力を振り撒いていた。
星座にように空中に留まったそれを、アンセルムは素早く駆け上がって跳躍。月のような銀灰の髪を揺らがせながら、鮮やかな踵落としを加えてゆく。
「和希、任せるよ」
「了解しました」
次には下方から銃身を向けていた和希が引き金を引く。瞬間、鮮烈な光が一直線を描き、敵の体を貫いた。
落下するスカイファイターは、それでも射撃を敢行してくる、が。
それも滑り込むように跳んだ環と翼が受け止めれば――エルムが花風を吹かせて治療。直後には翼が反撃の横一閃で装甲を斬り裂いて。
「頼むぜ」
「はいっ……!」
応えたカロンがファミリアを解き放つ。
「これが僕の……いや、僕達の力だ!」
一戦目からの余裕を生かした攻勢と、早期に機動力を削いだ戦略。そして最後に加えた幾重もの斬閃が、スカイファイターを容赦なく四散させた。
●相克
静謐の中、皆は僅かな猶予で態勢を整える。
体力も可能な限り保つ、が――それでもある程度の消耗は否めない。作戦通りに切り抜けてはいたが、皆は一切の油断なく次に備えた。
そこへ上方の空間が歪み、魔空回廊が開いて最後の一体が出現する。
それは濡れ羽色のマントを揺らし、静かに番犬達の前へ降り立ってくる――アグレッサー・レイヴン。
「確かに和希によく似てるな……」
予知に聞いた情報通りの見目を、現実に目の当たりにして恵は声を零す。
和希とて、それが自身と不思議な程瓜二つだと実感はあった。けれどアグレッサーはただ相対する和希を、番犬達を、敵とみなして銃を取る。
だから和希は一度だけ微かに目を伏せて。
「……言葉は不要か」
呟くと自身もまた銃口を向け――零下の氷晶に煌めくレーザーを発射していた。
六花の欠片を飛び散らせながら、その一撃はアグレッサーを掠める。だがアグレッサーもまた同時に冷気の光線を放ち、和希を含む前線を薙いでいた。
触れるだけでも、その氷気は灼けるような痛みを運んだが――。
「まだまだ、倒れませんよ!」
環がリボンのように攻性植物を廻しながら、その蔓に幾つもの恵みを結実させてゆく。
黄金色に煌めくその果実は、まるで麗らかな太陽のように暖かな光を注ぎ――自身と仲間を包んで優しい癒やしを運んでいた。
同時に環は敵が連撃を狙っている事に気づいている。
「気をつけて下さい!」
「――ああ、大丈夫」
と、応えて相手の面前へ跳ぶのはアンセルムだった。
敵を見据える夜色の瞳の奥に、怒りが滲むのは――そこに映る姿が大切な親友を模しているからにほかならず。
「何でその見た目をしてるのか、聞いておきたいな」
「私は戦術研究個体。敵勢力を模倣した形体を取る事に、一定の意味がある」
アグレッサーがそう返して銃を突きつけようとするも……アンセルムは一切の怯みなく旋転、銃口を真横に蹴り払い。
「ああ、そう。でもその研究もここで終わりだよ」
勢いのまま、逆の足で回し蹴りを見舞いながら――機械をも蝕むウイルスとなる、魔力塊をその身に叩き込んでいた。
吹き飛ばされたアグレッサーは、それでも弾丸を重ね撃ちして反撃する、が。
「今度はちゃんと――防いでやるよ」
躊躇いなく地を蹴って加速する翼が、射線上へ。抜いた銃器を盾代わりにして、爆発の衝撃に耐え抜いていた。
すぐ後には、エルムが真っ直ぐに手を翳して治癒の光を凝集している。
八重咲きの花の如く、清らかに美しく折り重なり明滅するその輝きは――はらりと風に解けると、撫ぜるように翼に触れてその傷を塞いでいった。
「これで、大丈夫です」
「ああ、助かった」
言って翼が態勢を整える頃には、アグレッサーも再度の射撃を目論もうとしているが――そこへ刃を引き絞っているのが結衣。
相手が引き金を引くと同時に剣を振り抜くと、刃先から放たれた複数の焔塊が、僅かに作られた温度差から渦を巻き螺旋を描く。
火の粉を散らせながら、飛翔するそれはまるで弾丸のように。アグレッサーからの一弾を相殺するように爆散させていた。
ばかりでなく、結衣は時間差で斬閃を放っており――止めるもののないそれはアグレッサーへ直撃。胸部へ深々と傷を刻んでゆく。
「今の内だ」
「僕が行きますっ……!」
よろめく敵へ、間隙をおかず狙いを定めるのがカロン。
耳をふわりと揺らしながら空中へ跳び上がり、生み出すのは眩い一等星の如き光。瞬間、それを流星のように撃ち出して拡散させ、アグレッサーのコートを裂いていった。
●未来
よろめくアグレッサーへ、翼も連撃。至近に迫りながら袈裟懸けの一閃を叩き込み、表皮を模した装甲を破ってゆく。
「このまま一気に攻めるぞ!」
「勿論です!」
翼に応える環も、攻めへ転じて直走。護りの崩れたアグレッサーが間合いを取ろうとするよりも早く、猫の機敏さでくるりと跳んでいた。
「――えいっ!」
そのまま斜め上方から一撃、オウガメタルを纏った拳を叩き込んでゆく。
アグレッサーが衝撃に大きく後退する、と、そこへ猶予を与えず恵が地を蹴って。全身に込めた闘気で神速を発揮し、一瞬で眼前へ迫っていた。
そうして銃口を押し付けて『スターダンス・ゼロインパクト』――撃ち込んだ弾丸を内部で炸裂させ、中から機巧を抉り砕く。
煙を上げて揺らぐアグレッサーは、それでも戦意を失わず――ただ己の役目を全うしようと光線を返した。
が、盾役がしかと抑え込んでみせれば、そこへエルムが地をかつりと軽やかに打ち鳴らし、癒やしの花嵐を生み出す。
その花弁の一片一片が、治癒の光となってゆくと――皆の痛みも苦しみも、纏めて溶けて消えていった。
とはいえ、傷は癒えても疲労は確実に蓄積している。
「こちらの体力も、あまり長くはもたないかも知れません――」
「その前に討つだけだ」
結衣は片手の剣へ命の炎を、もう片手の剣に死の炎を迸らせると――その刃を重ねて双極の炎を衝突させ、無限に膨れ上がらせていた。
崩界<運命の最果て>。一閃、放たれる灼熱の焔獄は、濁流となってアグレッサーの全身を覆い尽くしてゆく。
その間に、カロンは槌とオウガメタルを触れ合わすように融合させていた。
『境界面上のブルーティアーズ』――捧げる物によって変幻自在の攻撃を可能にするその魔法は、今ここに青に煌く球状の光を形成する。
瞬間、カロンはそれを無数の刃状へと変貌させて発射。アグレッサーの躰を貫き確実に体力を削っていった。
膝をつくアグレッサーは、それでも自身に治癒光弾を撃ち修復強化を試みる、が。
「環、行くよ」
「判りましたっ!」
アンセルムと、応えた環が同時に疾駆。
一息の内に距離を詰めていきながら――アンセルムが周囲に魔法陣を展開。二人の身体能力を飛躍的に向上させていた。
そうして敵が避ける事も出来ないまま、挟撃。
『強襲:蒼弓の一撃』――蒼い残光を引きながら、寸分狂わぬタイミングで蹴撃を重ねて爆発的な破壊力を生み出した。
金属が砕け、火花が弾ける。
鈍い音と共に地へと転倒したアグレッサーは――左半身が破砕し、まともに動く事すら困難になっていた。
それでも這いながら戦おうとするその姿を、和希は見下ろして呟く。
「まだ、戦うか」
「……全ては種の未来の為。ここで散った同胞の為にも」
アグレッサーは先に討たれた二体の残骸の事も瞳に映していた。その声には機械的な――けれど種族への無二の忠誠心が滲んでいる。
そうか、と、恵は声を零した。
「それでも暗夜の宝石は渡せない。俺達も、俺達の未来の為にな」
「――ええ」
和希は静かに頷くと、銃を構える。
あくまで相手が戦おうとするならば、こちらもまたやるべきは一つだから。
「これで、最後です」
同時、銃口から放たれた魔法光波が、射線上に展開された魔法陣によって拡散され、圧縮され、加速する。
『魔導散弾』――烈しく煌めきながらアグレッサーへ集中したその衝撃は、違いなくその命を貫いていった。
「何とか、勝てたな」
静謐の戻った遺跡で、翼が武器を下ろす。
皆も戦いの態勢を解く、その中で――和希は散った敵へと黙祷していた。
それを終えると、皆へ視線を戻す。
「……終わりましたね。皆さん、ご無事ですか」
「私は大丈夫です!」
環が応えると、皆も健常な返事。エルムもそっと肯定を返した。
「皆さんにお怪我が残っていないようで、何よりです」
「遺跡も、傷つけずに済みましたね」
カロンが後方を見やると、古代機械もその周囲も、破損されず元の状態を保っている。
やるべき事は、完遂出来た。
よし、と恵は出口へと目を向ける。
「俺達の仕事はひとまず終わりだな」
「うん。それじゃ、戻ろうか」
アンセルムが言えば、結衣も「ああ」と続いて帰路へ向かう。
この戦いが如何な結果を導くか、それはまだ判らないけれど。少なくとも、力を尽くす事は出来たから。
「未来、か」
結衣は呟いて、皆と共に遺跡を出て行く。
しんとした静けさが満ちている。それはまるで先に待つ大きな戦いの前触れを、告げているかのようだった。
作者:崎田航輝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年6月17日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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