冷たい雨

作者:崎田航輝

 雪が溶けたばかりのような、冷たい雨が降っていた。
 空は薄曇りに翳り、吹く風も真冬に逆戻りしたようで。膚に刺すような感覚が伝わる中で――しかし人々はそれらを気にも留めぬよう呆然と立ち尽くす。
 視線を向けているのは、一瞬前まで建物が建っていた場所。それが轟音と共に瓦礫となって崩れ去った、その跡に――仰ぎ見る程の巨影が佇んでいた。
 雨露を垂らす鎧は冴え冴えと冷えた蒼。同じ彩を持つ剣は鋭く、その切っ先はゆらゆらと不気味に揺れて標的を探している。
 眠りから覚めた、巨大なる金属の人型――ダモクレス。
 人々は遅れてそれを認識したように、騒乱に見舞われていた。
 その中で巨影は悠々と仕草で刃を振り上げて。振り下ろしたその威力で人々の命を容赦なく斬り、潰していく。
 一方的な殺戮だった。
 その内に、巨影は現れた魔空回廊へと消えてゆく。街に残ったのは瓦礫と斃れた人々。静かに響く噎び声の中、血の赤色ばかりが雨滴に溶けて流れていた。

「集まって頂きありがとうございます」
 曇り空のヘリポート。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達に説明を始めていた。
「本日は、ダモクレスの出現が予知されました」
 現れるのは巨大ロボ型の個体。大戦末期に封印されたもので、仲間のダモクレスによって復活させられるようだ。
「魔空回廊を通じて、その仲間達に回収される予定なのでしょう」
 放置すれば街は破壊され、多数の死者が出ることだろう。それだけでなく、ダモクレス勢力の戦力増強にも繋がってしまう。
「それを防ぐために、このダモクレスの撃破をお願いします」
 出現地点は市街地の中心。
 敵は出現から7分後に魔空回廊によって撤退する。こうなると追うのは困難になるため、撃破はその時間までに済ませる必要があると言った。
「尚、人々は事前に警察によって避難させられます。皆さんは撃破に集中できるでしょう」
 ダモクレスの全長は7メートル。
 巨大な剣を使った、威力の高い攻撃が特徴だ。
「同時に、鎧によって高い耐久力も持ち合わせているようです。短い時間で多くのダメージを与え続けられるよう、意識しておくと良いでしょう」
 周囲はビル街。高所を利用しつつ効果的な攻撃を狙っていっても良いかも知れません、と言った。
「尚、敵は戦闘中、一度だけフルパワーの攻撃を行ってくるようです」
 敵自身も反動で傷を負うようだが、その分威力は高いだろう。
「おそらくは広範囲の攻撃と思われます。警戒を欠かさないようにしてください」
 皆さんならば勝てると信じていますから、とイマジネイターは声音に力を込める。
「健闘を、お祈りしていますね」


参加者
オペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)
リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)
ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)
シャルル・ロジェ(明の星・e86873)

■リプレイ

●雫
 蒼く翳った空から雨滴が注いでいる。
 しとしとと、天が泣くその様に、オペレッタ・アルマ(ワルツ・e01617)はそっと手を伸ばしていた。
「――つめたい、ですね」
「うん……とっても冷えるね」
 シャルル・ロジェ(明の星・e86873)も頷いて空を仰いでいる。
 少しだけ身震いしながら、それでも今は寒さに震えている場合じゃない、と。ライドキャリバーのガイナの、雨に濡れる車体に手を当てた。
「ガイナも大変だと思うけど頼んだよ」
 すると駆動音を唸らせて、ガイナは応えに代える。
 皆も戦いの準備は出来ている。そうして数瞬後――僅かな揺れが、大きな地鳴りとなって響き渡った。
 それは紛れもない敵の気配。
 直後、眼前のビルを突き破り、瓦礫を降らせながら巨影が現れた。
 蒼い鎧を見に纏う金属の人型――ダモクレス。篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)はその巨鎧を短く観察している。
「ん、完全に戦闘型っすね」
 攻防に秀でた機体だろう、と。
 呟けば、リサ・フローディア(メリュジーヌのブラックウィザード・e86488)もその言葉にまたそっと頷く。
「おまけに制限時間つき。厄介そうだけれど――」
「それでも、負けないっすよ」
 佐久弥がその手に鉄塊剣を握り込めば、ああ、と、緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)も魔剣の刀身を焔に染め上げる。
 大戦末期の封印個体が、今更解放されたところで居場所などどこにもないのだと。
「せめて他の仲間と同じところに送ってやるよ。――二度と目を覚ます事の無い、永遠の闇の中へな」
 刹那、弾けるように跳躍し、火花の軌跡を宙に描いた。
 雨に当たらないのは、剣だけでなく全身に薄く焔を纏っているから。
 水に濡れるのが嫌いだからでもあるが――単に、意識して抑えなければ普段からこうであるだけ。
 冷えた巨鎧は対称なる存在。ならば灼き捨てようと、結衣は放つ焔撃を爆裂させた。
 衝撃にダモクレスが一歩下がる。その一瞬を看過せず、長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)は銃口を向けていた。
 握るそれは火縄銃。弾丸の代わりに、自らに刻まれた呪いより現出した魔弾を注入し、そこへ凍気を折り重ねて。
「まずはこいつを受け取って貰う」
 刹那、放つ光線は深い臙脂と藍が交差する、矢絣の螺旋模様。突き抜けるように命中したその一撃が違わず巨影に零下の呪詛を刻み込んでゆく。
「今のうちに、行けるか」
「了解っす」
 応える佐久弥は既に疾駆。巨体の足元へ距離を詰めると刃を振り上げて――魔力の滾る重い斬打を叩き込んでいた。
 僅かに傾ぐダモクレスは、それでも剣を振って鋭い雨滴を飛ばす。
 が、風雨の中に勇壮に蹄を響かせて――そこへローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)が駆けていた。
「――通しはしない」
 如何な凶弾もこの鎧装を以て受け止めてみせよう、と。
 そのまま掲げた刃と己が身を盾にして衝撃を食い止める。佐久弥もまた壁役となってダメージを受けきれば――。
「心も共に、落ち着かせてあげる」
 そっと紡ぐ声音と共に、リサが手を翳す。
 すると吹き抜けるのは爽やかで清涼な風。触れる心地が優しく、穏やかに。皆の傷と不調を癒やしていた。
 同時、オペレッタは美しい円を描くよう、爪先で廻る。その舞が清廉な音色を生み出して――皆を治癒しながら意識も明瞭に保ってゆく。
 ローゼス自身も天の彼方より光を招来するように、星の煌めきを宿した剣先を踊らせて――守護の陣形を描いていた。
「護りはこのままお任せを」
「それじゃ、わたしは攻撃に回るの!」
 しゃらりと花飾りから仄かに甘さを薫らせて、細身の槌をその手に握るのはティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)。
 斜め上方へ向けた砲口から、放つのは色彩が燦めく光の砲弾。星粒となって散るように、眩く炸裂したその衝撃がダモクレスの足元揺らがせる。
「シャルルくん、お願いするの!」
「うん」
 応えるシャルルは雨を縫うように奔り、跳躍。
 ダモクレスは足を護る動きをするが――シャルルの狙いは頭上。建物を蹴り上がって宙へ踊り、鋭い蹴撃を加えた。
 一歩下がったダモクレスは、それでも倒れず敵意と共に剣を振り翳す。
 その面前から、オペレッタは退かない。
 嘗て自分が人の敵だった事を、思った。あの日立ちはだかったのは、それが『命令』だったからだと。
(「けれど、知ってしまいました。識って、しまいました」)
 あの、黒のオルゴールに触れて。
(「だから、『これ』は」――)
 解き放つ力が、麗しき聖女の幻影を映す。『A.R.I.A』。囁かれる無音の独唱が、巨影の精神をも掻き乱し、命を蝕んでゆく。
 そこへ疾走するのがティフ。
「この隙は、逃さないのっ!」
 雨音に、蹄のリズムを軽やかに奏でるように。跳んで繰り出す蹴りが違わず、巨鎧を鋭く穿ってゆく。

●雨霞
 地が揺れて、道が割れる。
 大きくふらついたダモクレスは、それでも倒れず踏み留まっていた。
 寧ろ殺意を一層色濃く、雨に血潮を混じえることを望むように――剣を握り締めながら。
 その威容に、しかしティフは目を逸らさない。
 冷たい雨も血生臭い雨も、どちらも降って欲しくはないけれど。
「寒いときの雨は、いのちの巡りに必要だから我慢するの。でも血の雨は……絶対に降らせないの」
「ああ」
 千翠も頷いて空を仰ぐ。
 天から雨が降るのは止められない、けれど。
「血の雨はそうじゃない。だからここで止めて、一滴たりとも降らせない」
「――ええ」
 応えて駆け出すローゼスも心は同じ。
 かの鋼を血で彩らせてはならない、と。
「我らの刃はここに健在であると、巨影に知らしめましょう。――ローゼス・シャンパーニュ。参るぞ!」
 刹那、鎧装の排熱で陽炎を揺らめかせ、ビルの上を疾走。ダモクレスの脳天へ目掛けて『Aimatinos thyella』――業風の如き一閃を見舞っていた。
 破片が吹き飛び、巨影が不安定によろめく。その間に結衣もまた建物から建物へ飛び移って敵の背後を取ってゆく。
 元より、鎧に護られているとはいえ一縷の隙もないとは思っていない。可動する鎧の関節部に継ぎ目を見つけ――そこを狙うのも不可能ではなかった。
 敵が殊更にそこを護らないのは、頑強さを誇るが故の油断だろうか。
「その傲慢を呪え」
 瞬間、凝集した焔で斬撃を紅色に燦めかせ、閃光を伴う一刀で巨影の関節を抉り裂く。
 ダモクレスは体勢を崩して倒れ込みながらも、刃を突き下ろしてきた、が。
 それを受ける直前、佐久弥は鉄塊剣二振りに地獄を揺らめかせ――大包丁型のそれを一本へと合体させている。
 二本分の柄が噛み合い長柄となったそれを、佐久弥は真っ直ぐに掲げるようにして敵の巨剣とぶつけ合い――自身にも地獄を巡らせて傷を最小限に抑えた。
「これで、終わらないっすよ」
 そのまま佐久弥は心臓から火の粉が溢れる程に地獄を滾らせて。己の体から刃にまで流動して炎の塊と成していた。
 『起源地獄燃焼』――蝕むその炎は熱く鋭く。消え得ぬ苦痛となって巨鎧の全身を灼け焦がしてゆく。
 ダモクレスはそれでも膝をついて連撃を目論む、が。
「させないの!」
 横合いに奔るティフが、少しばかりぷんすかしながら雷光を生み出して。それをリボンを結ぶように連ねていって、眩くも可憐な衝撃にしてぶつけていた。
 星型の火花が弾ける、その中へシャルルも走ってゆく。
 目の前の巨鎧に対して、圧倒出来る程の力は自分にはないだろう。己の力量は判っている――それでも。
 ――僕には、僕のできる事を。
「そこだ!」
 心は真っ直ぐ前向きに。炎を纏った蹴撃を打ち当てて、灼熱の衝撃で巨体を地に倒す。
 ダモクレスはそれでもゆらりと起き上がる、が――即時の反撃には赴かない。取り巻く冷気に、違った気配を感じ取ったリサは皆を見回した。
「これはきっと、攻撃の準備――。強力な一撃が来そうだわ」
 皆気を付けてね、と。
 自身も瓦礫の影に隠れるよう動きながら声を響かせる。
 頷く皆も素早く間合いを取り、攻撃に備えた。それから間もなく、雨滴がダモクレスの刃へ収束してゆく。
 それが解き放たれるのだと、オペレッタには判った。
「――きます」
 同時、ダモクレスは雨と冷気の塊を透明な刃として発射。周囲のビルごと爆裂させる。
 轟音が唸り、瓦礫が舞い散って。空間が巨大な爆破に飲み込まれたかに思えた、が。
 山となった瓦礫の陰で、番犬達は倒れていない。逃れ得ない衝撃もあったが――それは盾役の全員が受け止めてみせていた。
「大丈夫?」
 シャルルが癒やしの力を手元に生み出しながら言えば――佐久弥は頷きを返してみせる。
 味方を庇い立つことこそ誉れ、と。
「問題ないっす。少々、傷はついたっすが――」
「すぐに癒やすから、問題ないわ」
 応えたリサは、手を伸ばして魔力を煌めかす。
 空気に溶けて消えたその光は、爽やかな微風を呼び込んで。触れる優しい感触で前衛を素早く癒やしてゆく。
 続けてシャルルが拳より治癒の光を飛ばして佐久弥を包めば――ティフもまた魔法の雲を空へ浮かべていた。
 それは清らかな雫を零しながらも、『あした天気になあれ』と願う心に応えるよう、陽の光を差し込ます。
 そこに生まれる虹の輝きに癒やされて、ローゼスもまた体力を取り戻していた。
 礼を述べながら、ローゼスは巨影を仰ぐ。その攻撃に、自分の鎧装も深く破損させられたけれど――それ故に。
「内に入り込む雨水は格別に冷たいものだ。貴様も直ぐに分かるだろう」
 それは受けた傷は応報するという宣言。
 ダモクレスはそれに敵意を以て返すよう、再び刃を握っていた。が、負荷によって動きが淀めば――その隙を結衣が逃すはずもなく。
「そこまでだ」
 既に瓦礫を駆け上がり、後背側の頭上へ。雨空ごと裂くような鮮烈な一閃で、首元を斬り込んでいった。
 その間隙にローゼスも剣閃を奔らせれば――装甲を抉られていく巨影へ、オペレッタもふわりと、真白きシマエナガの仔を羽搏かせていた。
 それはやわく、けれどオペレッタの心に確かに応えるように。羽で薙いだ風で巨鎧に癒えぬ痕を刻んでゆく。
 一度下がろうとするダモクレス、だが千翠はそれすら許さない。
 たっ、と、一歩前に走り出ながら――その手に掴んでいるのは巨大な瓦礫。己が力とグラビティを注ぎ込み、強く振りかぶって。
「大人しくしててくれよ……なっ!」
 瞬間、『鬼家活計』――投げ放つ一撃で的確に、ダモクレスの足を撃ち砕く。

●決着
 アラームが響く中、シャルルは皆を見回していた。
「あと二分。急いでいこう」
「――ええ」
 オペレッタは静かに応え、地に手をつく巨鎧を見据えている。
 雨音と温度に、思い出すのは巨大ダモクレスと対峙した、いつかの戦い。
(「あの日も、雨が降っていました」)
 去来するのは街並み、人々、その記憶。その全てが、『愛しみ』をココロへ灯す。
 ただ想うのだ。
 ――なくしたくない。
「だから『これ』は、『踊り』ます。みなさまの幸のために」
 巣立つように、宙へ身を投げ出し、跳ぶ。
 この巨影はまだ力を残している。その限りは沢山の命を傷つける『脅威』でしかない。
 故に肢を止めることは出来ないから――オペレッタは無音の旋律に舞い、一撃を与えてゆく。
 よろめくダモクレスは、自身を癒そうと防御態勢を取った、が。
「おっと、そうは行かない」
 その懐へ、千翠。
 跳びながら、握り込んだ拳で正面から打突。衝撃波の同心円を広げ、爆風を生み出すように護りを突き崩す。
「このまま頼むな」
「うん! ――ガイナー!」
 頷くシャルルも奔り込みながら声を飛ばせば、呼応してガイナが疾走。豪速で突撃を見舞っていく。
 呼べば応えてくれる、その絆が胸の奥に温かい何かを灯してくれるから。シャルルもまた合わせるように蹴撃を重ねていった。
 体勢を保てぬ巨鎧へ、リサもまた追撃の構え。
 凛とした立ち姿から、剣先をそっと突き出して。
「さあ、これで痺れてしまうと良いわ」
 瞬間、明滅するのは高速で走った電気の光。『ライトニングパルス』――信号となって伝わったそれは、ダモクレスの動きを強制的に縫い止める。
「このまま連撃を」
「分かったの!」
 声を返しながら、ティフは槌から砲弾を発射。着弾と共にカラフルに弾ける爆炎を上げて、巨影を包み込んでいた。
 瓦解してゆく巨鎧。そこへ佐久弥も獄炎を棚引かせながら肉迫してゆく。
 ダモクレスは足掻こうと刃を振り上げるが、佐久弥は躊躇わずに零距離に入って――大振りの一閃。腕元から先を斬り飛ばしてみせた。
「あと少しっす」
「ええ」
 ローゼスもまた高台から至近へと舞い降りている。
 そのまま見下ろしながら刃を掲げて。
「貴様が死と共に連れて行くのは、雨と刃の冷たさ。そしてケルベロスの名だけと知れ」
 振り下ろす一刀で頭部を砕く。
 同時、結衣が疾駆しながら双剣に焔を迸らせていた。
 命の炎と死の炎、二つを重ねることで生まれるのは――相反する力による苛烈なまでの衝撃。振り抜くことで、解き放たれた炎の濁流が巨鎧を飲み込んでゆく。
「炎の中に消え去れ」
 崩界<運命の最果て>。光も闇も焼き尽くすその熱量が、ダモクレスを灰燼にした。

 雨音だけが静かに響く。
 その中で結衣は剣を収めていた。
「……終わったか」
「ああ。皆、お疲れ」
 千翠の言葉に皆もそれぞれに頷き、応えている。
 佐久弥も鉄塊剣を元に戻して下げると――周囲を見回していた。
「流石に、荒れたっすね」
「そうね」
 リサも視線を巡らす。
 戦場となった範囲は広くない。だがその一帯はビルも崩れ瓦礫が山と積み上がっていた。
 それなら、と、ティフはぱかりと歩み出す。
「いっぱいヒールするの!」
 きらきらと癒やしの光を広げて。前よりも素敵な街にする意気で、建物を美しく修復し始めていた。
 手伝うね、とシャルルも助力すると……ローゼスもまた周囲の道へヒールをかけて、痕が残らぬように直していく。
 その間も雨滴は注いでいて――シャルルは天を仰ぐ。
「雨はまだ降りつづけるのかな」
「ええ。ただ――晴れも遠くはないかも知れません」
 ローゼスが彼方を見やると、少しだけ明るくなっている空を望むことが出来た。
 それでもここはまだ、雨天。だからその温度を改めて感じるように。
「冬の雨は温かく、春の雨は冷たい。そのような気がしますね」
 自身も真上を向いて呟いていた。
 晴れ空は遠い。けれど少しだけ穏やかになった降雨の、その中で――オペレッタも空を見つめている。
「――」
 ココロに満ちた想いと共に、護るべきものを護ることが出来た。
 それでも『涙を流す』は、今も知らないまま――白い頬に、静かに雨を伝わせていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年3月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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