澄み渡った青空に新年の風に吹く。
柳が優しく揺れ、そよそよと穏やかに鳴る日。鳥居を望む神社の参道には、多くの人々が列を成していた。
その皆が愉しげなのは、一年の始まりに心を新たにしたい気持ちがあるから、だけではなく……道に良い匂いを漂わす出店が並ぶからでもあろうか。
焼きそばにたい焼きに、林檎飴。
そんな美味の数々に、人々は舌鼓を打ちながら。参拝をして、おみくじも引いて、境内で供される七草粥に温かさも求めつつ――新年の始まりを和やかに過ごしていく。
と――そんな参道の傍の木々の奥に、人知れず転がっている機械があった。
それは円筒形をした照明具。
以前に催されたライトアップで使用されたものが、片付けられずに忘れ去られていたのだろうか。半ば土に埋もれた状態で横たわっていた。
既に壊れているのか、このままならば誰にも見つからずに風化するばかりであったろう……けれど。
そこにかさりかさりと這ってくる、小さな影がある。
それはコギトエルゴスムに機械の脚が付いた小型ダモクレス。木々の間を縫って、照明具に入り込んで一体化していた。
するとそれは機械の手足を生やし、独りでに動き出し……青空の下でも目立つほど、眩く耀き始める。
そのまま、ダモクレスと化した照明は木々から抜け出して。人々を見つけると真っ直ぐに襲いかかっていった。
「新年に七草粥……なんて、趣があっていいですね」
新たな年のヘリポート。イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へそんな言葉をかけていた。
何でも、とある神社ではこの時期参拝客に七草粥を振る舞う慣習があって、出店なども並んで例年賑わうのだという。
「ただ、そんな中にダモクレスが出現することが予知されてしまったのです」
曰く、目立たぬ場所に照明具が放置されていたらしく──そこに小型ダモクレスが取り付いて変化してしまうようだ。
「このダモクレスは、人々を襲おうとするでしょう」
そうなる前に撃破をお願いします、と言った。
「戦場は神社の参道です」
ダモクレスが木々の間から出てくるところを、こちらは迎え討つ形となる。
「一般の人々については事前に避難がされますので心配はいりません」
戦いに集中できる環境でしょうと言った。
周囲も荒れずに終わらせることが出来るはずですから、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利出来たら、皆さんも神社で過ごしていってはいかがでしょうか」
屋台におみくじにと、楽しく過ごせる筈だ。参拝をしたり、振る舞われている七草粥で体を温めてもいいだろう。
「平和な新年とする為にも……是非、撃破を成功させてきてくださいね」
イマジネイターはそう言葉を贈った。
参加者 | |
---|---|
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841) |
ノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615) |
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677) |
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710) |
クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454) |
荒城・怜二(闇に染まる夢・e36861) |
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390) |
ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764) |
●新風
「新年明けまして! おめでとうございます、の……一仕事だね!」
晴れ渡る蒼空の下。
爽風に吹かれて降り立った颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)は――参道から林に目をやって、早々にその姿を発見していた。
草の擦れる音を鳴らし、緑の間からいでてくる機械。いびつな手足を生やし、ダモクレスへと変貌した――。
「照明具かぁ」
笹月・氷花(夜明けの樹氷・e43390)は声と共にその姿を見つめる。
くすんだ筐体は、永らく風雨に晒された事を思わせて。
「クリスマスにでも使われていたのかな?」
「何にしても……倒さねば、なりませんね」
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)は淡い声音にも戦意を含める。デウスエクスになってしまった事こそ残念だけれど、と。
「うん。でも、年末年始もそうだったけど気が休まらないなぁ」
まったくもーぅ、と。
ちはるも頷きながら――既に戦いの姿勢を取っていた。
「ともあれ、初詣もまだだったし……さくさく終わらせて、ちょっと遅めの参拝といこうか、ちふゆ」
言葉にうぉん、と駆動音で応えるのは傍らのライドキャリバー。
ちはるもそれに微笑みを返すと――疾駆。ダモクレスへ初手、軽やかな蹴撃を叩き込んでいく。
それを機にダモクレスが此方に意識を向ける、が。
そこへ奔るのがノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615)。美しい空の下に、異形となった機械は酷く歪に映って。
「――新年早々めでたくないな。ゴミはゴミ箱だろ」
忘れられたお前が悪い訳じゃないが、と。揺れる髪に星彩を燦めかせながら。
「塵屑以下に還してやる」
瞬間、『終へ奔れ』。鋭いまでの足払いでダモクレスを横転させる。
そこへ靴音を鳴らし踏み込むのが氷花。踊るように廻りながら、刃を輝かせて――。
「これで切り刻んであげるね!」
縦に横に、繰り出すのは『血祭りの輪舞』。舞い奔る剣戟で装甲を抉り、刻み、破片を飛散させていた。
それでもダモクレスは眩い衝撃を放つ、が。綾奈が前面に立てば、荒城・怜二(闇に染まる夢・e36861)も跳び出て防御。
直後には怜二自身が自身の分身を形成し、回復と防護を兼ねれば――。
「後、頼めるか」
「了解。すぐに治癒を」
バイザーをかけて視界を保っていたリティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)が、即座に魔力の雷光を発現していた。
閃いた輝きは幾重にも織り成され、壁となって皆を守り、癒やしてゆく。
その光の中で、ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)も蹄を鳴らして拍子を奏でていた。
リズムに招かれるように、無数の花弁が淡く輝いて舞い散って。漂わす芳香で前衛の体力を保ち不調を拭い去ってゆく。
「これであと少しなの!」
「ん、任せて」
そっと応えて手を翳すのはクラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)。光の風を揺蕩わせて暖かく、優しく、皆を包み万全とした。
「もう、大丈夫だよ」
「ありがとうございます……! さぁ、行きますよ、夢幻……!」
綾奈は翼猫に爽風を扇がせて、皆の守りをさらに固めさせ――自身は光の軌跡を描いて飛翔。ダモクレスへ体当たりを返す。
後退したダモクレスへ、怜二がミミックの柘榴を走らせて斬撃を与えさせると――ティフも攻勢。脚を軸にくるりと体を返してナイフを走らせ、機械の体に傷を刻みつけた。
「このまま、畳み掛けて!」
「うん」
頷くクラリスも、鮮やかに鎖を踊らせて。強烈にダモクレスを打ち据え、金属の欠片を散らせてゆく。
●決着
歪んだ光が、不規則に明滅する。
体を軋ませながら、ダモクレスは未だ斃れては居なかった。瞬くその光は何かを訴えているかのようにも感じられて。
「皆から忘れられて、寂しかったの?」
クラリスは尋ねるけれど、物言わぬその敵に、瞳を伏せる。
――あぁ、そうだった。
(「寂しいなんて感情を、こころを抱いたなら。きみはとっくに――」)
だから小さくごめんね、と紡いで。
「ここにきみの居場所はないの」
そして守りたい平穏があるから。
「私達は戦うね」
言って今一度、構え直す。
ダモクレスはそれでも敵意を見せて駆けてくるけれど――氷花が高々と跳躍していた。
「させないよ。そこで、止まってもらうからね!」
宙で旋転すると共に脚に焔を棚引かせ、蹴り落とす一撃で装甲を溶解させる。
「次、お願いね」
「ええ、では私が」
言葉を返す綾奈は風を縫って一直線に飛来し、連閃。すれ違いざまに無数の斬撃を滑らせ傷を抉り込んでいた。
そこへ疾走するちふゆが、スピンを加えて突撃すれば――。
「ちふゆ、ありがとう!」
ちはるも続いて肉迫。鋭い手刀で斬打を加えると、手のひらに刻まれた式から忍術を発現。数え切れぬほどの毒虫を召喚していた。
『五体剥離の術』――蠱毒を成したそれは機械の躰をも蝕み弱めていく。
ダモクレスはそれでも体当たりを返す、が、綾奈がしかと受け止めてみせれば直後には怜二が『暗黒祈祷』。
「――その傷を癒す奇跡を!」
闇に染まれと、暗色に渦巻くオーラを放って傷を吹き飛ばしていた。
リティもまた伸ばした手の先へ魔力を凝集している。
「一瞬だけ、待っていて」
火花の散るそれは雷光色の輝きを得て、鮮烈な光量となってゆく。
瞬間、それを撃ち出して綾奈へ同化させることで命を賦活。まるで傷を無かったかのように癒やしきっていた。
ダモクレスは再度の攻撃を狙っているが、そこへノチユ。
壊れかけの筐体を見据えながら、慈悲もなく。
「大掃除は十二月三十日までに終わらせるんだったか。僕は相変わらず片付けないまま年を越したけど――」
これを斃せばチャラだろ、と。刃を抜き放ち一線、星の光を帯びた斬閃を煌めかせ、脚から寸断してみせる。
クラリスはそこへ指鉄砲を向けていた。
瞬間、爆ぜるのは超新星のような輝きと熱量。『Supernova』――目も眩む程の一撃が、半身を穿って吹き飛ばす。
斃れゆく機械。そこへティフは疾駆していた。
「これで、最後だからね」
掲げるのは、無骨なまでの杭打ち。終わりを齎すように、力一杯に撃ち出したその衝撃が、ダモクレスの命を貫いた。
●新年の歩み
清らかな風の下、参道へと足音が重なってゆく。
番犬達は周囲を修復した後、人々へ無事を伝え平穏を取り戻していた。
既に多くの人々が鳥居をくぐって境内へと歩み始めていて――皆と共に、ちはるもまたその列へと加わっている。
「よし、このまま参拝していこー」
時折列の進み具合を窺いつつ、屋台にも視線を巡らせつつ。
少しずつ歩んでいると、ゆるゆるとついてきたちふゆが少し身じろいでいる。どうやら自分が参加していいのかと気になっているようだ。
ちはるは顎に指を当てつつ。
「んー……大丈夫じゃない? キャリバーが参拝しちゃダメって決まりも無いでしょ」
せっかく、年に一度なんだからと。
「この空気を味わっても罰は当たらないって」
言って微笑んであげると、ちふゆは少しエンジンを鳴らして嬉しそうに傍についていた。
そうしてちはるはちふゆと一緒に拝殿の前へ。
「えーっと――」
作法には詳しいわけではない、だから問題ない程度に程々に。
拍手を打って、礼をして。
これからの一年に思いを馳せながら。
「ま、何というか……あらためて。今年もよろしく頼むよ、ちふゆ」
それに応えて隣に並ぶちふゆと共に――新しい年への歩みを踏み出していった。
「こうやって見ると、色々あるのね――」
リティは早速、並ぶ出店の数々を見回していた。
漂ってくる香りも、食べ物の種類もとりどりで。迷ってしまうけれど……とりあえずは心の赴くままに。
「まずは焼きそばかな」
早速一人分購入。
ソースの匂いの交じる香ばしい湯気を楽しみながら――ベンチに座って実食。寒空に熱々の温度と濃いめの味付けが何とも美味だ。
一息つくと、少し周りを眺めながら休憩。愉しげに歩んでゆく人々を暫し見ていると……また別の屋台を発見。
「あれ、美味しそう」
と、惹かれて買いに向かうのはイカ焼きに焼きトウモロコシ。
すぐにベンチに戻って食べると、イカは焼きたての歯ごたえが楽しく――トウモロコシは醤油との相性が抜群だった。
そうして満足すると、ふと長い列が目に入る。
「参拝か」
元ダモクレスの身であるし、神様を信じている訳ではない。
けれどたまには周りに合わせてみるのもいい。だからリティは立ち上がり、列に並び。拝殿の前に来ると皆に倣って参拝。
「うん」
人々の風習や営みを、少し肌で感じると――次は七草粥を。食べすぎ……否、消費したグラビティチェイン補給なのだと、はふはふと一食頂いた。
お腹が満たされると、最後はお神酒をお土産にして。リティは蒼空の下を歩き出す。
神ではなく、御先祖や血統を崇拝する身ではあれど――礼節はわきまえる心で。ヨハン・バルトルトは拝殿へ二礼二拍手一礼を上げていた。
その隣で、クラリスも同じく参拝。
ちらり、と。
横目で恋人の横顔を覗き見れば――丁度ヨハンもこちらを見ていて視線が合って。それに互いに照れ笑いを浮かべながら、歩き出す。
「ねぇ、何てお願いしたの?」
クラリスがそのまま顔を見上げると、ヨハンは拝殿へ振り返った。
「僕はお願いではなく、『年明け早々大変お騒がせしました。無事に戦いは済みましたよ』と――御挨拶です」
きっと神様も吃驚したでしょうから、と。
大真面目なその声と、神様にもちゃんと挨拶をする、彼の『らしさ』が微笑ましくて。
「そっか」
クラリスはふふ、と笑みを零しながら「私はね」と切り出そうとする。
と、その先で湯気を上げている一角を見つけて。
「あったかい七草粥食べて、ゆっくり話そ」
「ええ」
ヨハンも穏やかに応え、共に器と匙を受け取った。
その温かで角のない風味を楽しみながら――クラリスは改めてヨハンへ視線を向けて。
「私のお願いはね……今年もヨハンや友達が元気で、戦いに行っても無事でありますように――って」
デウスエクスの侵略で苦しんだり、傷ついたりする人がひとりでも少なくあってほしいと願うのは勿論だけれど。
「対価はお賽銭じゃ安すぎるし、これは『願い』じゃなくて……番犬と皆の『約束』にしたいから」
「――なるほど、約束を」
それを神頼みとしないのが、クラリスらしくて。ヨハンは眩い思いでそっと頷いている。
それから――「ならば」と粥を掬って。
「戦士たる者、身体が資本です。しっかり食べて健康を祈りましょうか」
「そうだね。私もちゃんと食べて……一年間元気でいなくちゃ」
これからの時間も、一緒に見据えるようにして。寒空の下でも、二人は共に温かな時間を送ってゆく。
「人も沢山、戻ってきましたね……」
夢幻を肩に乗せながら、綾奈は参道を歩む人々を眺めていた。
その皆が愉しげで、そしてどこか顔に希望を抱いている。
それはきっと新しい年への期待なのかもしれない。だから、隣り立つ氷花もまた同じ笑顔を見せて。
「私達も参拝、行こうよ」
「そうだな。こんな機会だ」
応える怜二も列に並び、皆でこれからの一年を願うことにした。
人も多いだけあって、中々列も進まないけれど、それもまた新年の風物詩。周りを眺めて、出店に目星をつけながら――ゆっくりとそんな時間も堪能して待つ。
そうして拝殿の前に着けば、二礼二拍手一礼。
――今年もいい年になります様に。
氷花が願えば、二人も続いて作法に則って。参拝を終えると、気持ちも新たになったように氷花は伸びをしていた。
「それじゃあ、次はどうしようか」
「向こうに七草粥があるぞ」
怜二が差す先では、わいわいとした賑わいがある。大きな鍋で作られている七草粥が、皆に振る舞われているのだ。
綾奈も夢幻と共にそちらをそっと見やって。
「七草粥、食べてみたいですね……」
「じゃあ、皆で頂いていこうよ」
ということで皆でお邪魔して、器と匙を受け取る。
すると温かな湯気と共に、熱が通って鮮やかな緑になった七草が綺麗で。
「わぁ、良い香りがする。美味しそなお粥だね」
「ああ」
怜二も頷いて早速匙で掬っている。
セリにゴギョウにナズナ。大きめに切られたものは元の形も窺えて、自然の恵みがぎゅっと器に詰まっているようだ。
一口食べると、出汁と塩による薄っすらとした旨味が効いていて。
「シンプルな味付けだけど、その分自然本来の美味しさが味わえるね」
葉や茎が柔らかく煮えていて、噛むと優しくほどけてゆく。仄かに残る植物らしい香りも、良いアクセント。
その氷花の言葉に綾奈もこくりと応えて食を進めていた。
「自然豊かな味わいが素敵、ですね……」
「これで無病息災、健康に一年を過ごせる事が出来そうだ」
怜二が言えば、二人も同意を示してぱくぱくと食べてゆく。夢幻が欲しがれば、綾奈が少しずつ与えてあげつつ――完食。
怜二はごちそう様でしたと、礼を述べていた。
「心温まる、優しい味わいだったな」
「ええ。美味しかったです……」
綾奈がほっと一息ついていると、氷花も頷きながら――店々の方を指している。
「何だか、お腹が物を食べる感じなってきちゃった。屋台にも寄っていかない?」
「構わないぞ」
怜二が言うと綾奈もまた了承するので……三人で屋台へ。
まずは焼きそばを買って食べると、その美味に氷花も笑みを浮かべて。
「うん。優しい味もいいけど、こういう濃い味もいいよね」
「そうだな……お、甘いものもあるぞ」
と、怜二が見つけたのは杏飴。それも皆の分を買ってあむりと食べると……塩辛さの後の甘味が心地良く。
綾奈はじゃがバターも見つけて購入し、夢幻と分け合ってほふほふと味わっていた。
「お粥もですけど……こういう季節に温かいものは、良いですね……」
体も温まるし、疲れも癒える。
その実感に怜二も頷いて、自分もまたじゃがバターのまろやかさに舌鼓を打っていた。
「――平和だな」
ふと見回せば賑やかで、和やかで。
この一年もその先も、こんな穏やかさが続けば良い。
思って口にすれば二人もまた頷いて。希望を見据えるように……一年の明るい幕開けを告げる青空を、ゆっくりと見上げていた。
ノチユは巫山・幽子と共に参道へ。
鳥居の先、拝殿へと続く列に隣り合って並んでいた。
仰げば、空は美しい青一色。冷たい空気も澄んでて清々しくて――。
「晴れてよかった」
「そうですね……とても、気持ちの良い日です……」
言葉に幽子も、穏やかな笑みを浮かべて返している。
その内に拝殿へ着くと、ノチユは拍手と礼で参拝。去年教わった手順はしっかりと覚えていた――そもそも、幽子との思い出はひとつも忘れてないけれど。
幽子も礼を終えて、一緒に歩み出すと……その先でおみくじを発見。
「あんまり引いたことないんだよね。折角だから、やってみようか」
「はい、楽しみです……」
幽子もこくりと頷いて、いそいそとその前へ。
二人で順に引いてみると――。
「幽子さんはなんだった?」
「大吉でした……。エテルニタさんは……」
「僕もだ」
ノチユが広げてみせると、幽子はそっと瞳を細めて微笑んだ。大吉そのものより、同じだったことが嬉しい、というように。
ノチユもやわく笑みを返し、自分のくじは懐へ。それから丁度近くで供されていた七草粥を見つけて、頂いていくことにした。
幽子も器を受け取ると、丁寧に息を吹きかけてはふりと一口。そんな姿を見つつノチユもまた匙を口に運ぶ。
それはまろやかで、沁みるような優しい味だけれど。
「物足りないよね。屋台、寄っていこうか」
その言葉に幽子も頷いて……香ってくる店々からの匂いに早くも惹かれていた。
ノチユは表情を和らげて、早速連れてゆく。
この一年もまた、と、そんな思いを抱きながら。
たい焼きに、ベビーカステラに、甘いものも沢山ある。それに瞳を淡く輝かす幽子の、その隣で――ノチユは穏やかな時間を過ごしてゆく。
「どこから行こうかなー」
かろりかろりと小気味よく蹄を響かせて、ティフは歩みゆく。
視線の先には魅力的な出店の数々。初詣はもうすませてあるから、今日は何か食べていこうと思案していると――目に留まったのはイチゴ飴。
その可愛らしい色とシルエットにも惹かれて買ってみると――。
「甘くておいしー♪」
飴の甘味とイチゴの酸味が溶け合い美味。
それから杏飴やたこ焼きを食しつつ――丁度鏡開きが行われるということで足を止めて。木槌の思い切りのいい音を聞きつつ、供されたお餅も頂いてゆく。
それからまた、一通り神社を巡って……最後に七草粥へ。大きな鍋の前の和やかな賑わいに加わらせてもらい、器に粥を入れてもらった。
「どの葉っぱがどの七草かなー?」
ふうふう吹きつつちょっと眺めてみる。
すると七草はどれも素朴な見目と色合いだ。仄かな山菜のような香りがあって、それが淡い昆布出汁で良く引き立っていた。
それからはふりと食べると――。
「ん、ほっとする味……」
大きめに切られたホトケノザに、小さなハコベラ。歯ごたえも微妙に異なっていて、意識すれば食べていて楽しい。
「ご馳走様!」
こういう場だけの味。こんなレアな体験も良いものだと、実感しながら。ティフはお礼を言って、また散策に歩み出す。
作者:崎田航輝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2021年1月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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