光彩の夜

作者:崎田航輝

 清らかな白雪が舞い降りる夜。
 足元に積もるその柔らかな感触の中を歩んでいけば――街は美しい光に満ちていた。
 りんりんとどこかから響く鈴の音色。星を模した飾りに、優しく煌めく灯り。色彩豊かな眺めが、聖夜を心楽しく彩っている。
 風は冬らしい冷たさになっているけれど、そんな中でも人々の笑顔はあたたかい。そのお目当てはきっと、広場で催されるクリスマスマーケットだろう。
 イリミネーションの中に並ぶ店では、ホットワインや果実たっぷりのグリューワイン、ホットチョコレートなどドリンクが豊富。
 ばかりでなく、軽食やショコラを始めとしたスイーツや、クリスマス雑貨の店も軒を連ねていて。
 広場の中心のツリーに飾り付けられるオーナメントも売っているから、人々はそれを結びつけては写真にも残していた。
 華やかに、楽しく、そして美味しく。
 一年を振り返りながら、また、来年に思いを託しながら。
 時にゆったりと、時に賑やかに送るのは無二の時間。吐息までもを白く耀かせて、人々は美しい夜を過ごしていた。
 けれど。
 雪を乱暴に踏みつけて、そこへ踏み込む巨躯が一人。
「やあ、何とも綺羅びやかで愉しげだ」
 でもまだまだ興が足りないね、と。
 鋭い剣を抜き放つ、鎧兜のその大男は罪人エインヘリアル。人々の悲鳴も快く聞くように――刃を振り上げて凶行を開始した。

「エインヘリアル――飽きないな、あいつらも」
 冬の空気の揺蕩うヘリポート。ノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615)は予知されたというその話に呟きを零していた。
 ええ、と頷くのはイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)だ。
「丁度クリスマスの時期です。街は綺麗に飾られていて、盛り上がるはずなのですが──」
 そんな中にエインヘリアルは出現するのだと言った。
 現れるのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その一人だろう。
「この敵は街の只中で人々を襲おうとするでしょう。情勢も動いている中ではありますが……街と人々を守るために――」
「ああ、斃さないとね」
 ノチユが静かに言えば、イマジネイターも頷き説明を続けた。
 現場は市街の中心部。広場に続く道に現れる敵を、こちらは迎え討つ形となるだろう。
「人々の避難は警察が事前に行ってくれます」
「こっちは戦いだけ考えれば良いんだね」
 ノチユの言葉にイマジネイターはええ、と応える。
 街に被害を出さずに終わることも出来るはずですから、続けた。
「無事勝利できた暁には……皆さんもクリスマスマーケットを楽しんでいってみてはいかがでしょうか」
 ツリーや飾りを眺めるだけでなく、種々の美味も楽しめるのがマーケットの特徴。
 お土産を買ってもいいし、ツリーを飾って思い出を作っても良い。きっと心に残る聖夜を過ごせるはずです、と言った。
 ノチユは頷く。
「なら尚更、敵は討っておかないといけないね」
「皆さんならばきっと平和を守れるはずです。健闘をお祈りしていますね」
 イマジネイターはそう言葉を返していた。


参加者
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
ノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615)
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)
ミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679)
ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)
ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)
オズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)
ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)

■リプレイ

●雪宵
「今年の冬は良く冷える――というと地球に馴染んだ気がしますね」
 粉雪が道を白妙に染めてゆく。
 その温度を感ずるように、ローゼス・シャンパーニュ(赤きモノマキア・e85434)は降り立った街並みを見回していた。
 目に映るのは雪の色、そして広場に輝く無数の光。
 ティフ・スピュメイダー(セントールの零式忍者・e86764)はその眩さに、くるくると視線を巡らせている。
「わーいわーいクリスマスだー! クリスマスカラーに染まる街も、キラキラしたあかりも、全部エモい!」
「うむ、楽しいクリスマスになりそうじゃのう」
 だというのに、と。
 くりくりとした瞳を前へ向けるのはミミ・フリージア(たたかうひめさま・e34679)。
「物騒なものじゃのう」
 言って見据える遠方。
 その暗がりから――雪を踏みしめて歩み出る罪人、エインヘリアルの姿を捉えていた。
「クリスマスにサンタさん……じゃなくってエインヘリアルですか」
 ケイト・クゥエル(セントールの鎧装騎兵・e85480)は静やかに吐息する。
「プレゼントはおっきい方が嬉しいけど、おっきいエインヘリアルは嬉しくないですよね。……返品できないかな」
「だといいんすけど。まあ、止めるしかなさそうっすね」
 言って篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)は刃を握っていた。
 見れば罪人は一歩一歩と、広場へ近づいてきている、だから皆は頷き合って――前進。まずはローゼスが正面から剣を構えていた。
「――この安らかな夜を見て騒乱を望むか、エインヘリアル」
「……番犬か」
 罪人は此方に気付くと、自らも剣を抜く。
「その通りだと言ったら?」
「ならば、我らと剣を交えよ。この夜は――血と恐れを求める貴様には過ぎたものだ」
「それを血で染めるから、より興が乗るんだろう」
 罪人は好戦的に刃を振り上げていた。
 が、そこに暗灰の冷気が煌めく。
「だったら相手してやるから、さっさと始めよう」
 それは浮かべた戦輪を靭やかな指で操るノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615)。雪の間に流れる星のように、風を裂いて飛翔させた衝撃で巨躯の足元を凍らせる。
「――お前が僕達に踊らされるだけの舞台をさ」
「……!」
 よろめいた罪人は、それでも怒りを露わに斬り込んできた、が。
「おっと、させやしないよ」
 ゆるりとした声音と共に、塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)が二本一対の杖を白衣から引き出している。
 周囲の雪が飛散して溶け消えるのは、眩い雷光が収束されているから。
「シロは補助を頼むよ」
 腕に巻き付いていた白竜が、応えて仲間へ護りの光を注ぐ間に――翔子は束ねて織り込んだ稲妻を放射。
 弾ける火花と共に、鮮烈な光を突き抜けさせて巨体を穿っていた。
「頼めるかい」
「うん、任せて」
 応えて黒翼で風を掃くのはオズ・スティンソン(嘯く蛇・e86471)。低空を加速して滑るように翔け、距離を詰めていく。
 罪人ははっとして刃を薙がす、が、オズは片翼を折って回転。すり抜けるように至近へ迫り、艶めく蛇の尾で打撃を与えた。
 同時に与えたグラビティの塊で、巨体を毒に蝕めば――生まれた隙を佐久弥は逃さずに。
「行くっすよ」
 ――燃えろ、俺の地獄。
 滾る地獄の心臓から火の粉を溢れ出させ――『起源地獄燃焼』。放つ剣撃を燃え盛らせて、伝わせた獄炎で巨躯を烈しく包んでゆく。
 苦悶の中で、罪人は氷波を返す。が、翔子とシロが受け止めれば、ローゼスが星の光陣を描いて治癒と守護。
「お願いできますか」
「了解なのじゃ!」
 ミミが応えるとテレビウムの菜の花姫が治癒の光を閃かせ――同時にオズも翼猫のトトに癒やしの風を顕現して貰い前線の体力を保った。
 直後にはティフが疾駆。
 蹄で滑らぬように地面を踏みしめ、肉迫して。
「えいっ!」
 体を旋転させて強烈な蹴撃。
 巨躯が後退したところへ、ケイトも砲口を向けている。
「……ターゲット捕捉。撃ち方、始め!」
 刹那、輝くのは曳光弾。
 『グラビティ・トレーサー』――雪も光も、全てが眩む光量の軌跡を描いたそれは、苛烈な爆破で罪人の膚を灼いていった。

●決着
 煙と血を零しながらも、罪人は倒れていなかった。
 その瞳には未だ消えぬ殺意。だからケイトは仄かにだけ息をついている。
「しかし、こんなところで油売ってていいんですか? そちらの拠点は……大変なことになってるようですよ?」
「確かにゲートはもうないのに、悪あがきもいいとこね」
 ティフも言ってみせる。けれど罪人は首を振っていた。
「大事なのは故郷より、今の楽しみだろう?」
「……」
 その享楽的な声音に――ノチユは瞳を伏せる。こんな奴を相手するのも、きっとこれが最後だろうと思いながら。
「お前は、この星をどう思う?」
「美しいさ。だからこそ、命を斬ることに興が乗る」
 罪人の答えに、そうか、とノチユは返す。最期に見るこの光の彩が綺麗だと思えるなら、きっと人の営みも愛せたろうに、と。
 けれどそれは叶わないのだろう。だから翔子は杖に凍気を収束させ、蒼く輝く氷雷を瞬かせていた。
「残念だが。アンタのいう興ってのはどうも此処にゃそぐわないんでね」
 ――おとなしくお帰り頂こうか。
 瞬間、放たれたそれは氷片を舞わせ巨躯を貫く。
 そこへノチユが獄炎赫く斬撃を重ねれば、オズも夜空へ昇っていた。
「合わせよう」
「わかったのじゃ!」
 頷くミミは弓弦を引き絞って狙いを定める。
 空と地、罪人の視線が惑った所で――ミミはそのまま弦を弾いて射撃。風切り音と共に放った一矢で鎧を砕いた。
 そこでオズも翻り、鮮やかな光を蹴り降ろして四散する衝撃で巨躯を吹き飛ばす。
 同時にローゼスも疾走。『Aimatinos thyella』――風をも置き去りにする速度で一閃を叩き込んでいた。
「さあ、無頼の輩を排し、清しこの夜を守りましょう」
「勿論っすよ」
 応える佐久弥も、宙へ煽られた罪人へ跳躍していた。
 掲げる刃は、煌々と耀いている。
 それは雪のように積もった情念か否か。己が内から引き出す魔力は比類ない程斬撃を鋭く研ぎ澄ませ――巨躯の腕を斬り飛ばす。
 そこへケイトがガトリングを連射し全身を貫けば――。
「最後はお願いします」
「それじゃあこれで、終わり!」
 ティフが地を蹴って一撃。焔のアーチを描く蹴りで巨体を焼き尽くした。

●聖なる夜に
 鈴の音に、愉しげな声が重なってゆく。
 番犬達は素早く事後処理を済ませ、平穏を取り戻していた。クリスマスマーケットは再開されて、皆が聖夜の時間を過ごし始めている。
 その中へ、佐久弥も歩んでいた。
「色々ありそうっすね」
 ぷらぷらと進みつつ見回せば、食の店に飾り物の店。色も雰囲気もとりどりに、一夜だけの売り物を出している。
 と、ふとその中で足を止めたのは――。
「……良い、香りっすね」
 アロマキャンドルやランプが並ぶ店。
 実際に灯された光がぼんやりと暖かく。そして芳しい芳香を漂わせていた。
「何か、買っていってもいいっすかね」
 丁度プレゼントになるものも探していた所。
 だから幾つか眺めて選んでいると――気になったのはステンドグラスのランプ。
 優美というよりはどこか歪で。可愛いというよりは少し奇妙な見た目。
 けれど見ていると、揺れる灯りがでこぼこの形を通して色彩を溢れさせて。その柔らかな華やかさが楽しくて心を惹きつけた。
「これに決めたっす」
 運命と言うほど大げさなわけではないけれど。これに出会ったのは必然だと、そんなふうに思えるくらいに即決して。
「うん」
 満足に一つ頷いて。
 包んで貰ったそれを手に、佐久弥は聖夜を歩き出してゆく。

「クリスマス、ね」
 暖まるように腕に巻き付いてくるシロに、少し触れてあげながら。翔子は光に飾られた広場を見回していた。
 マーケットには、綺羅びやかな灯りの下で様々な品が並んでいて。
「ま、少し寄っていくか」
 持ち帰るのに丁度いいものを見繕おうと歩み出す。すると軽食やスイーツが目に映る中……翔子が気になったのはブッシュドノエル。
 細かな木目の造形と、チョコレートで出来た人形が可愛らしく、それを買うことに決定。
「ウチはチビも多いからねェ――」
 と、さらにその店の品に目をやって……雪のように真っ白な色を見つけた。
「お、シュトーレンか。これにしよう」
 大きさもあって、丁度いい。
 それも包んでもらい、更にビスケットやショコラも幾つか追加して。
「こんなもんかね」
 最後には両手に荷物を提げた状態で買い物を終える。
「……ちょいと覗くだけのつもりが、大分買っちまったね」
 ま、いいか、と。
 零す吐息は優しい白色。
 頬を撫ぜる風と、触れる雪は冷たいけれど。このお土産を持って帰ることが出来ると思えば、仄かに心は温かく。
「行こうかね」
 それにシロが小さく鳴くと、翔子はふっと微笑んでから――帰路へと歩みを向けた。

「闇を照らし、冬に希望を祈る祭り――」
 なんという救いに満ちた光景だろうか、と。
 聖夜を輝かす光を、オズは見回している。
 人々が作り上げた景色に感心を覚えると共に、脳裏を巡るのは調べてあった情報だ。
 クリスマスの発端や、この時期を祝う風習は地球の至る所にあったこと。そしてそれが結びついて人々の喜びとなったこと。
 その知識が現実として目の前にあることに、わくわくする。
「特定の宗教的な思惑を抜きにしても、興味深いね」
 奇跡のような眺め。
 ならばそこに至るまでの過程も無二の物語なのだ。人々が紡ぐ歴史、文化――語り部として、強く心に残る光景だ。
 そんな思いを胸に歩み出すと……そこでティフ、そしてミミも行き逢った。
「偶然ね。何か買おうと思ってたんだけど。一緒に行かない?」
「では、わらわも混ざっていいかのぅ?」
 勿論、とオズが応えると、二人は笑顔で同道。早速店々を周り始めることにする。
 ミミは好奇心を浮かべながらも、迷うように見回していた。
「何を見たらいいかおすすめはあったりするかのぅ?」
「推されているのは、ドイツ料理らしいけれど」
 と、オズが知識から応えると、ならばとそのお店へ。早速カフェスペースで、温かなビーフシチューとパンを注文した。
 そっと啜ると冷えた体に美味と温度が融けてゆくようで……ティフは頷いている。
「ん~、美味しい!」
「寒い中で食べるのもいいものじゃのう」
 さらに本場のソーセージに舌鼓を打ちつつ、アーモンドパウダーを練り込んだマンデルシュトーレンの甘味も味わって、ミミも満足の心持ちだった。
「次は雑貨を見ていこうよ」
 ティフが言えば二人も頷き、食事後に店へ足を運ぶ。
 すると綺麗な鈴の飾りや、可愛らしいサンタの帽子が売っていて――ティフは右に左に、きらきらとした瞳を動かす。
「わぁ、この辺の、どれも可愛い!」
「折角じゃし何か買っておこうかのう」
 と、ミミはクリスタルのような透明なガラス細工が連なった飾りを二つ購入。一つはツリーに飾り付ける用だ。
 ならばとティフも真っ赤で丸い鈴を買って、自分用にマグカップも買っていた。
 オズもツリー用の飾りを買いつつ。自分のものは、一年に一度のものをしまっておくスペースが家にないからと遠慮しようとしたけれど――。
「ああでも、トトの帽子ぐらいは何とかなりそうかな?」
 トトが小さくにゃあと鳴くと、オズもやわく微笑んで。もっふりと温かな手触りの帽子を買って、被せてあげていた。
 それから皆でツリーを飾り付け、一層美しくなったそこを写真に収めて思い出にする。
「楽しかったのう」
 ミミが心から言えば、ティフも頷きつつ――。
「ちょっとなりきりごっこしてみたかったんだよねー」
 雪道に出ると、トナカイデザインのヘアバンドをつけてソリを引いてみる。するとソリのサイズもちょうどよく、走ると宛ら本物のトナカイのようで。
 ミミを乗せてみると、そのスピード感にミミも笑顔だ。
「まるで飛んでるようなのじゃ!」
「わーい楽しい!」
 ティフも一層愉快げに道を行く。
 そんな様子を微笑ましげに見つつ――オズは白い吐息を昇らせる。
 それは夜空と雪に溶けて、消えてゆく。けれどこの時間は確かな思い出として心に残るだろうと、そう思っていた。

 ノチユは巫山・幽子を連れてマーケットを歩みゆく。
 人波に浚われぬよう、時折その手を引きながら――辿り着くのは食事のお店。
「すきなもの、頼んでね」
 言うと、まずは幽子が欲したホットチョコを二人分。
 それからケーキを注文してあげると……ノチユ自身もビスクとホットサンドを頼んで、カフェスペースで一緒に食べ始めた。
 穏やかな雪が、イルミネーションに優しく輝く。その中で幽子はあむあむとケーキを口に運び、幸せそうに頬に手を当てていた。
「とても、美味しいです……」
 よかった、と。ノチユも笑んでビスクを一口。温かさが体を満たしてくれるようだった。
 ホットワインもまた、幽子と共に頂くと――白い息が湯気と一緒に昇ってゆく。
 けれどノチユが温かいのは体だけではなく。幸せそうに食べる姿を傍で見るのを許されている、いつだってそれが嬉しくて。
「エテルニタさんと一緒に、こうして過ごすことが出来て……とても嬉しいです……」
 幽子がそっと笑みを咲かすから、僕もだよ、と心から返した。
「また、食べに行こうね。今度はディナーとか」
「はい、楽しみです……」
「鍋とか、いいかもね。幽子さんは何食べたい?」
「お鍋、一緒に頂いてみたいです……」
 幽子がそう言うから、決まりだねとノチユは頷く。そのうちに食事が終わると――。
「去年みたいに、ツリーに飾りつけにいこっか」
 こくりと幽子が応え、共にオーナメントのお店へ。幽子は煌めく星型の飾りを、ノチユは光る花型の飾りを買ってツリーに結んだ。
「メリークリスマス……と、あー、ちゃんと言ってない、から」
 それを見つめてから、ノチユは幽子に視線を移して。躊躇いつつも、言葉にする。
「愛してる」
「……、はい――」
 幽子は嬉しそうに目を閉じる。照れたように、頬は染めながら。開けた瞳に幸せな心を映していた。
「私も、エテルニタさんを……、愛しています……」
 二人は少しだけ寄り添う。雪の向こうで、美しい星々が瞬いていた。

 愉しげな夜に、祝福を上げるように。ローゼスは雪空に芳醇な香りを漂わすホットワインを楽しんでいた。
「うむ……指先まで温まる」
 微かなスパイスが何とも美味で。華やかな芳香と共に、無二の温かさを堪能する。
 片手にはチョコ。それを齧ると、ワインの風味が一層甘やかなものになるから。
「素晴らしいものですね。――我ら武に生きるものは、時としてこの安穏の価値を忘れるものです」
 過ごしてきた年を振り返り、改めてその実感を得ていた。
「……さて」
 と、満足の吐息で食事を終えたローゼスは……そこで帰路につかず、マーケットを巡り始めていた。
 目的は、雑貨の店。
 脳裏に浮かべるのはとあるオルゴールのことだ。
 それはいつの間にか自分の手元から消えていたもので――おそらくは十月、竜十字島探索任務の前後辺りにうっかり失くしたのだろう。
「同じものなどありはしませんが――失くしたままというのも座りが悪いですからね」
 きっと何らかの厄を代わりに受けたのだろう、と。そのものは諦めて、代わりとなるものを探そうと思ったのだ。
 丁度、店の一角に見つけたのは人形付きのオルゴール。
 失くしたものと似ていて……偲ぶような気持ちで、ローゼスはそれを購入する。
「……」
 これでタンスの上も寂しくなくなる。
 心はとてもつらいけれど。それでも新しい感情をオルゴールに込めるようにして――ローゼスはそれを手に歩き出した。

 軍帽とタイを少し直して、よし、と呟いて。
 人型に軍服の姿となったケイトは、耀く夜の中、お店を回って歩き始めていた。
 人の姿になったのは勿論、こうしないと座って食べにくいから。つまり目的は美味しそうな食べ物達。
「ええと、まずは――」
 最初に選んだのは、甘い芳香が鼻先を擽るホットチョコレート。
 可愛らしいマグカップで供されたそれは、温かな湯気と共に何とも深い香りで。啜ると仄かなとろみと濃密な甘さが戦いの疲れを癒やしてくれる。
「ん、美味しい――」
 呟きつつ、近くにピロシキを見つけた。
 揚げたての音と匂いに、迷わず購入を決断して……それらを手に飾り付けを眺めて散策をしていく。
 店と店の間にかかるイルミネーションは空をまたいでいて、仰ぐと雪と星と重なって、幾重もの光が眩くて。
 丁度ベンチを見つけたので、そんな景色も楽しみつつピロシキをもぐもぐ。焼き目は香ばしく、中は卵や茸とふんだんな具材が味わい深かった。
「あ、キッシュ……」
 と、目の前に見つけた店に、チーズが美味しそうなそれがあればまた購入。ほうれん草との相性を楽しんで、最後にジンジャーエールも買った。
 そうしてすっきりとした美味に、吐息しつつ……改めて聖夜の景色を見回す。
「ボーッとできるのって、贅沢ですね」
 こういうふうに過ごせるのは、ある程度は平穏だから。実感と共に、それをこの手で取り戻すことが出来たことに少しの感慨を得て。
「お、あのサンタのイルミネーション動いてる……」
 近くに寄って見てみよう、と。
 興味を引くものがあれば立ち上がって。ケイトは眩い夜へと再び歩み出していった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年1月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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