パッチワーク最終決戦~心奪う乙女たち

作者:きゅう

●史上最大のハロウィン・パーティを!
「おらおら、どかんかーい!」
「ちょっと! 頼んでいた物、まだ届かないの?」
「二丁目方面は粗方終わりました!」
 よく知らぬものが聞けば、怒号が銃弾のように飛びかう戦場のように思える町中。
 だがしかし、一歩踏み込めばそれが間違いだとすぐに気付かされる。
 ――東京での祭りはすごかった。だからこそ、それ以上の『祭り』をこの地で!
 そんな強い想いを持った大阪の人たちは、間近に迫ったハロウィンに向けて、実に楽しそうに準備を進めていた。
 そう。楽しそうなのである。
 どんなに罵声を浴びせかけているように見えても、死にそうなほど忙しく動き回っていても、人々からは笑顔と、楽しいという感情が溢れ出ているのだ。
 もちろん、デウスエクスの驚異がすぐそばにあることも忘れてはいない。
 しかし、それがどれほどのものだというのだ。
 デウスエクスの驚異を、ケルベロスたちが振り払う。
 それこそが、史上最大の『トリック・オア・トリート』なのだと。
 だからこそ、彼らは怯まない。
 たとえ、遠目に見える再建中の大阪城にユグドラシルの根が現れ、
「さあ、行くのよ。最っ高のハロウィンのために!」
 パッチワークの魔女たちに率いられた、無数の白い魔女の軍団が四方めがけて飛んでいこうとも。

●魔女たちの大作戦
「一大決戦。となりそうですね」
 予知された結果が書き込まれた地図を前にして、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は一言つぶやいて目を落とす。
 今年のケルベロスハロウィンが開催されることになった大阪。
 彼らの並々ならない熱量は、早くも祭りの大成功を予感させる。
 それとともに、招かれざる客……というより、彼らにとってはそれすらも祭りのスパイスとして楽しもうとしているデウスエクスたちの襲撃がはっきりと予想されていた。
「敵は、パッチワークの魔女の首魁『最後の魔女・ドロシー』とドリームイーターの大軍となります」
 度重なる敗北の末に勢力を削られ続けた彼女たちとしては、ここに残された全ての戦力を投入して、起死回生を狙おうという魂胆だろうか。
「状況は決して楽観できるものではありませんが、相手が決戦を望むのなら、こちらとしても好機と言えるでしょう」
 この戦いで残存する彼女たちの勢力を壊滅させ、幹部たちを倒し、大阪城内で季節の魔法を集める儀式を行っている『最後の魔女・ドロシー』に刃を突きつける。
「楽しくなるかは別問題だが、激しい祭りになりそうです」
 セリカの言葉に、ケルベロスたちは様々な感情を巡らせた。
「敵の主力は、量産型白の魔女と呼ばれる、ハロウィンの魔力を奪うことに特化したドリームイーターとなります」
 ハロウインパーティに殴り込みをかける戦いのために用意された、まさに決戦兵器と言えるだろう。
「戦闘力自体は、今のみなさんなら圧倒できる程度ですが……非常に数が多く、まともに戦うとかんたんには行かないでしょう」
 そんな彼女たちを退けたその先には、四方それぞれにパッチワークの魔女のたち幹部が待ち受けている。そして、その先には首魁も。
「皆さんに担当していただく地域は、第四の魔女・エリュマントスが受け持っているようです。そして、彼女たちの戦術ですが……」
 白の魔女たちはハロウィンらしく、トリック・オア・トリート的な戦いで魔力を奪おうとする。
「マジックハンドのようなものを呼び出していたずらするとか、お菓子が包んだ様に見える袋を渡して、中身は実は……とか。見た目は可愛らしそうです」
 もちろん、可愛らしくない攻撃力があることは間違いないため、見た目に油断させられないほうが良いだろう。
 指揮するエリュマントスの好む性質からか、白の魔女たちも、相手を『恍惚』とさせようとする行動を攻撃として好んで使う。
「物理的な痛みを伴うような攻撃というものではないようですので、注意してください」
 敵は多勢であり、苦しい戦いが予想される。
 しかし、この作戦に対して死神たちから救援を行うという連絡が入っているとセリカは言う。
「死神たちはこの戦いでドリームイーターたちを敵対する旨を伝えてきています」
 彼らが信用できるのかというと、全く信用できる相手ではないのだが、こう伝えてきたということは、表面上はそう言う立ち位置となるのだろう。
「向こうも信用されないことは理解しているようで、こちらから戦闘を仕掛けられれば応戦するだろうとは伝えてきています」
 彼らをうまく使うことで、ドリームイーターたちを倒すのは楽になるだろう。
 しかし、死神たちの言うままにしていいのかは疑問が残る。
「意見は分かれるところだと思いますので、最終的な判断は皆さんにおまかせします」
 目的を果たすための手段と、それに伴う代償のバランスを良く見極める必要がありそうだ。
「大阪の人たちは、ハロウィンに向けてかつて無いほど盛り上がっているようです」
 それだけ、ケルベロスたちに対する信頼と、期待が大きいということになる。
「その期待に答えるために、楽しいハロウィンをみんなで勝ち取りましょう」
 それが彼らに対する、最高のトリートになるのだから。


参加者
キソラ・ライゼ(空の破片・e02771)
ノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615)
リビィ・アークウィンド(緑光の空翼騎士・e27563)
ライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)
九門・暦(潜む魔女・e86589)
 

■リプレイ

●想定外の奇策
「それっ、くすぐり攻撃~」
「やっ、止めてぇ」
 大阪の街に押し寄せようとする白の魔女たちが、魚型の死神と交戦を始める。
 それを横目に、ケルベロスたちは漁夫の利を狙う形で彼女たちを無視して先へと進む。
「なんつーか、不思議な光景だよなぁ」
 派手な魔法を使うドリームイーターと、それに絡みつき、喰らおうとする死神。
 これまでの戦いで、双方に様々な感情を巡らせるキソラ・ライゼ(空の破片・e02771)は複雑な心境を吐露すると、
「死神が嫌いなのは皆一緒だろ。今回はそうも言ってられないからね」
 ノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615)は、そんなキソラの肩をポンと叩き、
「せいぜいこき使うさ。後のことは後のこと」
 柔らかい微笑みを浮かべる。
「……今日のところは」
 キソラは死神に対する強い感情を抑えつつ、彼らの狙いを見逃さないように視線を向けた。
「ハロウィン独特の甘い菓子の匂いが好きなんだがな」
 漂う匂いに首を傾げるライ・ハマト(銀槍の来訪者・e36485)は下駄の音を鳴らしながら、
「あれはいたたげないな」
 それを消しかねない死神とドリームイーターたちに厳しい視線を向ける。
「だが、利用できるものは利用するのが鉄則だ」
 過去の戦いで勝つため、そして生きるために学んだ経験が、彼女の足を前へと進ませる。
「まさか、マジックハンドでスカートめくってきたり、ラッピングされた箱からネズミ取りが出てきてバチーン! と手を挟んだりとか、悪戯めいた攻撃は……」
 そんなことを危惧しながら白の魔女たちの戦い方を観察するのは九門・暦(潜む魔女・e86589)。
 白の魔女たちは悪戯めいた攻撃を仕掛けているが、死神とは相性が悪いのか苦戦してるようにも見える。
 そんな中、白の魔女の一人がなにもないところで躓いて、
「あっ、スカートめくれ……ましたね」
 リビィ・アークウィンド(緑光の空翼騎士・e27563)はそんなドジな魔女に苦笑した。
「私も気をつけないといけませんね……」
 暦は躓いて、その拍子にスカートを看板の釘に引っ掛けたりしないように、手でクラシックなメイド服のスカートを押さえた。
 ケルベロスたちは足早に戦場を駆け抜け、先へと進む。
「ちょっと、来るの早すぎじゃない! 一体どうなってるのよ」
 そこで待ち受けているのは、第四の魔女・エリュマントス。
 彼女は、予想外の速さで彼らが現れたことに驚き、慌てて豚さんを飛び回らせて周囲を警戒する。
「えっ、あんなにいるの!?」
 しかし、時すでに遅く、多数のケルベロスたちが接近していることを知った彼女は、
「こんなの勝てるわけないじゃない」
 絶望的な状況に、迷わず逃げ出した。
「金の亡者って言葉がぴったりな魔女だな。不利になるとすぐ逃げようとするとか、ね」
 その様子に、一番彼女に近かったノチユはやれやれと思いながら加速する。
「結局、お前は何も手に入らなかったクチだろ。喪失をひとつも埋められないまま、紙屑に溺れて死ねよ」
 そしてあっさり追いつくと、表情は崩さずに目線のみを鋭くした。
「……いいわ。そんなに私のことが気になるのなら」
 エリュマントスはノチユの言葉を受け流しつつ、逃げるのを止め、
「相手になってやるわよ!」
 意を決したようにその手に持つ鎌を魔法のステッキのように振り回すと、
「華麗に倒してあげる。ショータイムの始まりよ」
 まるでマジックショーを見るかのような、派手な光の束と桃色の煙を撒き散らした。
「どうやらあれは目くらまし。目を引きつけての奇襲か?」
 ライは四足歩行の動物のような構えで、いつどんな状況にも対応できるようにする。
「さあ来い」
 前後左右に警戒を強める。
 だが……その後で来るべきエリュマントスの攻撃は……やってこない!
「あいつ、逃げんのかよ!」
 キソラの叫びに反応し、ライは真っ先に全速力で駆け出した。

●まだ見ぬ感情
「もうっ、もうっ。気づくの早すぎでしょ!」
 エリュマントスは苛立ちの言葉を止めなかったが、内心では冷静に状況を判断していた。
 この期におよんでケルベロスたちを倒すことは不可能。返り討ちが関の山。
 かと言って、このまま逃げおおせたとしても先はない。
 ……従って、彼女が今、やるべきことは戦うことでも、逃げることでもなかった。
「もうちょっと引きつけて……今っ」
 その言葉とともに、彼女の手のひらから再び派手な光が放たれる。
「今度こそ、相手になってやるわよ」
 そして、覚悟を決めるため、自分にだけ聞こえる声でそう言い聞かせた。
「逃さないよ」
 ケルベロスたちは逃げるエリュマントスを追いかけ、確実に距離を詰めていた。
 そこに現れた派手な光で相手が近いことを知ったノチユは、ガトリングガンを構えて狙いをつけようとする。
「金の亡者とは随分な言い方してくれたわね?」
 だが、その動きは真後ろから聞こえる甘ったるい声によって中断され、
「後ろ?」
 反射的に後ろを向き、トリガーを引くノチユの振り向きざま、
「あなたこそ、紙屑で死ねばいいのよ」
 豚さんが撒き散らすお札の群れに襲わせ、ノチユはバランスを崩して倒れてしまう。
「それっ」
 そして、エリュマントスは再び派手な光を放ち、頬に受けた傷を癒やしながら消えるように移動する。
「厄介だな」
 ライは先手を取ろうとして放った初撃以降、奔放に動き回るエリュマントスを目で追いかけながら、忌々しそうに吐き捨てる。
 派手な演出で目耳を引きつけながら、その死角を縫うように突き刺してくる攻撃に、ケルベロスたちは的を絞れないでいた。
「目的は……時間稼ぎか?」
 こちらを殲滅しようという攻撃ではないため、彼女の目的は時間稼ぎなのだろう。
 ライはそう結論づける。
 だとすると、あまり悠長に付き合うのは相手の思うつぼとなってしまう。
「私が当てやすい攻撃でなんとかしてみます」
 そんな中、暦はエリュマントスが自分の死角を狙うように誘導してほしいと伝える。
「そろそろ……いいえ。もっと引きつけなくちゃ」
 エリュマントスはそうつぶやきながら、一番隙の多い暦の背後に忍び寄る……彼女の思惑通りに。
 そして準備万端の暦は、気配を察した瞬間に振り向き、
「さあ……いい子で大人しくしてたら、楽にしてあげますよ……永遠に」
 体勢を低くし、上目遣いで見つめてくるエリュマントスと瞳を合わせた。
 さすがのエリュマントスでも、見つめることで効果を発揮する攻撃をとっさに避けることは不可能。
「っっ! 何よっ、これっ!」
 暦の魅惑の魔眼によって、エリュマントスは魅了されたかのように無防備となる。
 そして、その一瞬を、ケルベロスたちは見逃さなかった。
「私の光の刃は、一味違いますよ。さぁ、勝負ですっ!」
 リビィは翼から舞い上がる光の粒子を剣にまとわせ、巨大化した剣を空中から急降下しながら振り下ろす。
 エリュマントスはとっさに鎌で受け止めるが、その衝撃を受け流すことは出来ず、全身をしびれさせながらその場に釘付けとなる。
「これはさっきの釣りだよ」
 続けてノチユが豚さんごとエリュマントスの桃色の頭を踏みつけて行く。
 落ち着かない様子のエリュマントスは続けざまの攻撃に上を見上げるが、
「足元がお留守だ」
 ライの放つ氷結輪から発せられた魔力を帯びた氷が、彼女の足を地面に縫い付ける。
「――潰せ」
 そして、満を持してキソラが、雷鳴と稲妻を伴う派手な一撃をエリュマントスに叩き込む。
「!!!」
 その攻撃に無防備な状態が続いていたエリュマントスは左肩を砕かれ、吹き飛ばされた。
 間合いをとって肩で息をしながら、まだ被弾の余韻が残るエリュマントスは、
「知らない……何よこれ。こんなの、知らないんだからっ」
 と、今まで見せたことのない表情で暦の瞳をじっと見つめながら、これ以上の時間稼ぎは難しいと判断して脱兎の如く駆け出した。

●魔女の終わり
 三度逃げ出したエリュマントスだったが、すでに彼女の行く手には他のケルベロスたちが待ち受けていた。
 暦はエリュマントスが見せた最後のなんとも形容し難い表情が気になりつつも、仲間たちとともに彼女が逃げる先へと回り込もうとする。
 しかし、それらは程なく不要な物となった。
「ごめんね、ドロシー」
 大きな光の柱とともに、風に乗って囁くように聞こえたエリュマントスの声が、戦いに幕が降ろされたことを彼らに伝えていく。
 エリュマントスはこの地で倒れた。
 残ったのはその事実だけであった。
「みなさん、大丈夫ですか?」
 暦は気持ちを切り替え、仲間の損傷などを確認する。
 逃げ回る魔女に手こずりはしたが、結局全員ほぼ無傷の状態であり、仲間たちはお互いに頷き合う。
「皆さん大丈夫そうですね。では、大阪城へ向かいましょう」
 というリビィの掛け声で、最後の魔女・ドロシーのいる大阪城へと足をすすめることとなった。
「……そうか。時間稼ぎだものな」
 その道中、思ったよりも大阪城から遠くで戦っていたことに気づいたライは、ぽつりとつぶやく。
 エリュマントスは、彼女なりに必死で戦ったということなのだと、今更ながらに感じるのだった。
「います、最後の魔女……ドロシー!」
 獅子の姿をした偉丈夫がその姿を見つけ、周囲に呼びかける。
「ここをあいつの墓場にするよ」
 キソラの声に仲間たちは頷き、光の柱の中央で祈りを捧げるドロシーを、四方から取り囲むように迫った。
 その喧騒に気づいたドロシーは、ゆっくりと顔を上げると、
「そう……他の魔女は皆倒されてしまったのね」
 季節の魔法を集める儀式の手を止め、憂いを帯びた笑みを浮かべる。
「そうだ。12人いた魔女も、今じゃお前だけ。今、この場で全て終わりだろ」
 ノチユの言葉とともに、彼の髪が星屑の様に揺らめく。
 ようやくここまで追い詰めたのだ。逃がすことなどありはしないと、彼女の挙動を監視するように見つめた。
「この作戦は失敗ね。確かに私もここまでかしら」
 すでに結末を悟ったかのように、ドロシーは穏やかに言葉を紡いだ。
「ドロシー、最後の魔女……あなた達の目的は何だ」
 彼女たちに強い因縁を持つ獅子の男の問い掛けに、
「そう、お前たちは何も知らないのね」
 ドロシーは唇の片端を持ち上げ、淡々と語りだした。
「私達の目標は、死神たちが奪い去っていった力を取り戻すこと」
 以前、赤ずきん可愛さに正気を失ってしまったポンペリポッサが、死神に譲り渡してしまった季節の魔法。
「死神たちはそれを独占するために、私達を滅ぼそうとしているの」
 だから、死神から身を守るため、そして、生き延びるためにハロウィンの魔力を欲した。
「けど、それもお終いね。お前達を味方につけた死神が勝者となり、私達は滅び去る……」
 だけれども……。
「私の、いいえ。私達の最後の意地として、お前達にはその責を取ってもらうわ」
 それまでのすべてを諦めたかのような表情から一転。
 魔女は嗤い、最後に残された力でケルベロスたちを飲み込まんとした。

●終劇
 最後の魔女・ドロシーが前方に放つ魔力は、激しい感情の波となってケルベロスたちの精神を揺さぶり、飲み込んでいく。
「ちっ……」
 その『圧』に押し流されそうになるキソラは、エクスカリバールのお気に入りを握りしめ、静かに一呼吸して心を落ち着かせ、
「一気に行くぜ」
 再びの攻撃を抑止するために距離を一気に詰めると、反撃を受けることを覚悟の上で強引に懐に飛び込む。
 そして、掛け声とともに、お気に入りを彼女のスカートの裾を巻き込みながら思いっきり振り下ろす。
「不埒!」
 スカートを傷物にされたドロシーは、咎めるように地獄の鍵と呼ばれる巨大な鍵を振り下ろし、キソラの身体に地獄を開くかのような痛みと灼熱を与えた。
「観音の降らす甘露の雨よ、この生命を癒したまえ……」
 すかさず一匹のニホンオオカミ……ライがその身を黄金色に変え、大量のオーラを発しながら吠える。
 金狼に跨る観音への祈りとして雨を呼ぶその遠吠えは、観音菩薩の力を宿した癒しの雨を降り注がせた。
「ドロシーのポジションをディフェンダー、属性を炎と推測!」
 その時、彼女を分析していた女性の声が正確にケルベロスたちの頭に響き、それに合わせた対策を各自整える。
 戦いは乱戦となり、ドロシーの激しい魔力の前に、多くのケルベロスたちが同時に対峙しながらも拮抗した戦いが続いていた。
「シルさん!」
 リビィはドロシーに狙われていた青髪の少女のような女性の前に割り込み、両肩のショルダーシールドを展開し、
「盾は簡単に抜けるとは思わないでくださいね」
 大きな鍵ををがっちり受け止め、こじ開けることを許さない。
「援護します」
 さらに続けて攻撃を繰り出し、その盾を強引に抜こうとするドロシーに対して、暦はリビィの盾の隙間を埋めるように、紫色の盾を展開する。
「護る者として、騎士として。誰一人倒れさせるわけにはいきません」
 誰も倒れさせない。仮に自分が倒れたとしても、なお仲間を護るために全力で倒れる。
 リビィは騎士としての矜持を持って闘志を燃やし、勇ましく咆えながら、鍵穴の入り込む隙のない鉄壁を作り上げた。
 そして、均衡を打ち破るため、直接対峙せずに引いたところで支援、援護する仲間たちの一撃一撃が、少しずつ戦局を変えていく。
「お前に似合いの地獄への招待だよ」
 ガトリングガンを構え、極限まで狙い研ぎ澄まされた一撃は冥府への標。
 死を招く神の導きを連想させる黒い一撃が、ドロシーの眉間を捉える。
 冥府に消ゆと呼ばれるノチユの神の一撃は、彼女を動揺させるに十分な効果があった。
 さらに一気に攻勢に出たケルベロスたちの猛攻に、ドロシーの顔が歪み、
「最後の魔女、ドロシー! これで、終わりだ――!」
 獅子の男の渾身の一撃が、ついに彼女の膝を折ることに成功した。
「ああ、本当に終わるのね」
 ドロシーが小さく呟いて嗤う。
「パッチワークが滅べば、魔女の力の全ては死神が奪うだろう。その力が何を為すのか、見届けられないのが残念ね」
 崩れ行く魔女は、文字通り『最後の魔女』だった。
「……そしてそれを為された時……絶望に打ちひしがれるお前たちを見ることが出来ないのも――」
 魔女は最後まで言い切ることなく、その姿を消失させ、周囲に沈黙が響く。
「帰ったら羊羹にお茶つまもうかな」
 死神の驚異を突きつけられ、なんとも言えない雰囲気に包まれたその場を和ませるために、ライがつぶやくと、
「なら、私はお茶にめんつゆを混ぜちゃいますね」
 リビィが堂々といたずらを宣言して、仲間たちに笑顔が戻る。
 一通り笑った後、暦は大阪の街を見下ろし、
「やっぱ笑顔が一番ですね。なんといっても……」
 楽しいハロウィンパーティが、すぐそこに迫っているのだから。

作者:きゅう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年10月31日
難度:普通
参加:5人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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