闇へ昇る

作者:崎田航輝

 地中に広がる洞窟は、地上とは隔絶された暗がりに満ちている。
 薄闇には標もなく、明滅するのは地に埋まる純度の低い鉱石と、壁から染み出して薄く滴り落ちていく地下水のカーテン。
 それ以外には何も無い、空間の中を──轟音を上げて進む巨大な機械が居た。
 暴食機構グラトニウム。
 すり鉢状になっている窟内を、まるで螺旋階段のように進みながら──廻転する巨大な刃で足元も壁も堀り砕き、鯨にも似た口で飲み込んでゆく。
 震動で高い壁が崩れてくればそれすら吸い込み、亀裂から水が溢れて来ようとキャタピラで踏み越える。
 暴食の名を、身を以て表すように──グラトニウムは己が使命の為、只管に喰らい進む。

「集まって頂きありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
「巨大ダモクレスが鉱物資源を掘り出しているようです。最近散見される事件ですが──その新たな一件ということになるでしょう」
 暴食機構グラトニウム。
 この個体は植物的な要素が強くあり、大阪城から脱出したダモクレスによる事件である可能性が高い。
 そうでなくとも、ダモクレスに資源が渡れば悪用される事は疑いない。
「そこでこの採掘を阻止すると共に、暴食機構グラトニウムの破壊を行ってください」

「現場は洞窟となります」
 場所は地中。此方はまず地上の岩礁から海へ潜り、低い位置にある入口を目指す必要があるといった。
「深さはかなりあるでしょうが、出発地点から真っ直ぐ縦に潜っていけば見つけるのは難しくないでしょう。大きな横穴があるはずなので、そこから洞窟に入れます」
 横穴の先は、すり鉢状の空間が上方向に伸びる環境となる。空気があるが、高さが優に百メートルを越える広大な空間だ。
「暴食機構グラトニウムは、そこで採掘をしているはず。ある程度高い位置にいる可能性もあるので、此方も壁を伝うか、飛翔するなどして空間を登っていくといいでしょう」
 進路は凸凹になっていたり、地下水が洩れてきたり、落石がある可能性もあるので注意を、と言った。
 敵を見つければ後は戦うだけだ。
「とはいえ、敵は巨大で強力ですが……それでも戦闘に特化した個体ではないので、付け入る隙はあるでしょう」
 攻撃力はあるが、機敏な動きは不得手だ。
 頑丈ではあるだろうが攻撃を当て続けることで倒すことが出来るだろう。ヘリオンデバイスの力なども利用し迅速な撃破を、と言った。
「葉の羽で飛ぶ、小型掘削機も随伴しているようです。こちらは作業用で戦闘能力は低いですが、素早いので逃さないようにしておいてくださいね」
 なお、現状でかなり掘り進められている分、戦闘の余波で洞窟自体が崩れてくる可能性もあるという。
「戦いの間は心配ないでしょうが──戦闘後は速やかに脱出するといいでしょう」
 健闘をお祈りしていますね、とイマジネイターは言葉を結んだ。


参加者
シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)
立花・恵(翠の流星・e01060)
新条・あかり(点灯夫・e04291)
君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
ナターシャ・ツェデルバウム(自称地底皇国軍人・e65923)
山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)
メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)

■リプレイ

●闇へ
 海の蒼は、空の青とは似ていて違う。
 果てが無いのは同じだけれど、何処までも深く昏く、けれど透明さもあって。
 新条・あかり(点灯夫・e04291)はその色の中へ沈み込んでゆく感覚を抱いている。
(「だいぶ、下まで来たかな」)
 今掴まっているのは柊の花と葉が生い茂った、可憐な花籠型のレスキュードローン。思念で操作しながら仲間も共に運搬していた。
(「皆、大丈夫?」)
 あかりが視線に向けると、皆と共に君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)が肯定の合図を返している。
 元より泳ぎは得意だ。水中の壁を観察し、眸は既に横穴を発見していた。
 頷き返すあかりも灯火色の瞳をその闇へ。ゆるりと緩やかな慣性を伴わせ、皆をドローンでその内部へ運んでいく。
 トンネル状の空間を進むと、程なく上方が開けて水面が見えた。
「ぷは!」
 と、顔を出して陸地に上がった山科・ことほ(幸を祈りし寿ぎの・e85678)は──水気を払いつつ感心の面持ちだ。
「ヘリオンデバイスで、こういう洞窟探検もできちゃうようになったんだねー」
 興味深げに見回して、ひんやりとした空気を深呼吸。
「うーん、海中洞窟とか、秘境特集でしか見たことないから新鮮!」
「ここをまた昇っていくんだな」
 広大なすり鉢状を仰ぐのは尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)。
 平素の笑顔に、一層楽しみな色が加わるのは──デバイスを起動しているからでもある。
 戦闘機の翼にも似たそのジェットパックを広げると、青い光を明滅。重力から解放されてふわりと飛び立った。
 軽やかなその感覚が、愉しくて。
「すげえ、俺たち飛んでるぜっ」
「ああ、そうダな」
 共に浮かぶ眸も、はしゃぐ広喜と視線を交わす。
 飛ぶのは余り得意ではないけれど、広喜に牽引してもらうなら安心できるから。サイバーゴーグル状のデバイス越しに周囲を観察する余裕もあった。
「敵ハ──あの場所か」
「ああ、間違いなさそうだ」
 同じくゴッドサイトを利用して、立花・恵(翠の流星・e01060)も見上げていた。
 高さにしておよそ七十メートル。ビル二十階分を越える上方、その壁に三つの敵影があることが確かに判る。
「どいつもこいつも地下でコソコソと……」
 ジェットパックで仲間の半分を率いながら──ナターシャ・ツェデルバウム(自称地底皇国軍人・e65923)は仄かに声音を静めていた。
 軍帽に軽く触れながら、内奥には鋭い感情も抱いて。
「地底の民を相手に、余程喧嘩を売りたいようだな。行くぞ」
 言葉と共に加速し、皆と上昇を始める。
 高度を上げると無論、周囲は暗いけれど──壁を伝う水のヴェールや、小さな鉱石がきらきらと煌めいて夜空のドームに入ったかのようで。
「……こうして眺めルと美しさを感じルな」
「うん。ただ──その分危険もあるみたいだけど」
 眸の声に頷きつつも斜めを仰ぐのはことほ。低い震動と共に、巨大な岩が転がり落ちてくるのが見えていた。
 無論ことほは焦らない。巨大なアームドアームで岩を受け止めると、怪力を以て下方へ降ろして事なきを得る。
 同時に護岸・災害復旧工事用に変形させたそのデバイスを利用して、ひび割れた壁を固め、凹凸をローラーで均し、先んじて崩落を防いでいった。
「運搬、索敵、飛翔、それに補強か。逃走対策もあって……ありがたいな」
 メロゥ・ジョーカー(君の切り札・e86450)は呟いてその働きを見守る。
 勿論、自身もピンマイク型のデバイスを起動させて視界と思念を共有済み。広く視えるようになった皆と共に──闇の中に動く影を発見していた。
 ナターシャは夜目を凝らし、それが紛うことなき敵だと確認する。
「……暴食機構グラトニウム、か」
 近づけばそれは、確かに巨大。
 人の丈を越える回転刃に、建造物の如き体長を持った、採掘兵器だ。広喜は興味深げに瞳を注いでいた。
「面白え機体だなあ」
「deja-vu……なんだか玉葱の子に似た部分がありますの」
 ばかりでなく、シエナ・ジャルディニエ(攻性植物を愛する悩める人形娘・e00858)も奇異とも言える見目に声を零す。
 その下部の鯨に似た部位は、今も壁を喰らっていて。
「しかし、水中洞窟でこそこそやってるなんて、ダモクレスらしくないな。昔はもっとどーんと堂々としてたのにさ」
 恵は銃を抜きながらも、その姿に肩を竦めていた。
 ただ、ダモクレスの台所事情が厳しいという事が、この敵と掘り返された周囲を見れば判る気もするけれど。
「ま、だからって容赦するわけにはいかない──こっちだって地球を守る為に必死なんだからな」
「Confirmation……ヴィオロンテ、着け心地は悪くないですの?」
 シエナは自身に宿る攻性植物へ語りかける。すると足元、アイゼン型のデバイスを着ける蔦が肯定するように柔く揺らめいた。
 頷いたシエナが静かに前を見据える、それが開戦の合図。
「それでは、参りますの」
「ああ。こいつは久々に壊し甲斐がありそうだぜ」
 拳を打ち鳴らした広喜が、腕部装着型の警棒に青焔を湛えて。加速すると炎の輪を描いて回転打撃を見舞った。
 衝撃に小型掘削機が吹き飛べば、そこへ眸も三叉の槍で斬撃。同時に恵も弾丸をばら撒いて自由を奪っていく。
 それでも一体の掘削機が刃を向けてくる、が。ことほがアームで受け止めると、あかりが温かな治癒の光を注ぎ回復。
 ことほ自身も治癒の力を己へ送り万全を得れば──。
「攻撃はよろしくー!」
「Acceptation……判りましたの」
 シエナが此方を狙うグラトニウムの動きに気づいて『アグレッションプラント・グリッファージュ』。蔦を伸ばして一部を移植させ、挙動を封じた。
 その間にナターシャが掘削機へシャベルの一撃を見舞うと──メロゥもまたばらりと、繋がったトランプの如き戦輪を浮かべている。
「さあ、ご覧あれ」
 刹那、放ったそれは高速廻転。迸らせる氷雪で敵陣を穿ってゆく。
 壁に激突した掘削機の一体が、空中でよろめきながらも羽ばたいて下方へ逃れようとする──が。
 いち早く察知したメロゥが仲間へ思考を伝達。一瞬後には、シエナが仲間へチェイスアートの力を与えるビームを注いでいた。
「Pret……今ですの」
「ああ!」
 応えた恵は宙を翔け降りるように掘削機の頭上へ。眩いマズルフラッシュを瞬かせ──閃光の弾ける弾丸でその一体を破砕した。

●烈戦
 残る掘削機は逃避を諦めたか、グラトニウムの傍に舞い戻り態勢を整えていた。
 シエナは今一度その敵達を見つめる。掘削機の葉の羽。グラトニウムが抱く翠の樹木。それは植物の要素そのもので──。
(「Penser……だとしたら、やはり」)
 心に浮かぶのはダモクレス、ジュモー。この敵の作戦の裏には、きっとその存在があるのだろうと思いながら。
「大阪城からユグドラシル。如何な道を辿って来たかは知らないが」
 ナターシャも見つめながら、戦意に一切の淀みは無い。暴食機構グラトニウム──それが自身の憎むべき宿敵であるならば。
「その命もここまでだ」
 宙を滑り肉迫。まずは掘削機へ深々と一刀を刻んだ。
 半身を裂かれながらも、掘削機は捨て身の突撃を繰り出す、が。
「さあ藍ちゃん、がんばれ!」
 ことほが抱えていたライドキャリバー、藍を離して急斜面を奔らせて攻撃を防がせる。同時に体当りも加えさせ反撃の端緒を為すと──。
「さあさあ、お立ち会い」
 メロゥがふわりと上方へ。
 水中でも不思議と脱げていなかったシルクハットを、ここで手に持つと──その内部よりオウガメタルを飛び出させていた。
 くるりと丸く流動したそれは、破裂音と共に煌めく紙吹雪を踊らせて、乱反射する光で敵陣を纏めて縫い止める。
 そこへメロゥが続けてウインクを一つ。美貌の呪いで掘削機を瓦解させた。
 これで敵はグラトニウムのみ。その巨体は今も口腔に鉱石交じりの砂岩を噛み締めていたけれど──。
「せっかく集めた資源だろうが──」
 恵が宙でムーンサルトを舞うように翻り、真横の壁に足をつく。同時に全身に赫く闘気を纏いながら脚力を込めていた。
「──持ち帰らせなんかさせない!」
 刹那、壁を蹴って爆発的な加速を得ると一瞬で零距離に迫っている。
 鯨へ銃口を押し付けて、接射で見舞うのは『スターダンス・ゼロインパクト』。炸裂する弾丸が内部より烈しい損傷を刻んだ。
 微かに煙を噴きながらも、グラトニウムは回転刃を大きく振り回す、が。
「よいしょ!」
 巨大な金属音を上げて、アームドアームで鷲掴みに受け止めたことほが──治癒の風を具現。仲間に余波で及んだ負傷を癒やしていく。
 ことほ自身にも傷は残っていたが──。
「待ってて、すぐに治すから」
 あかりが白衣姿のセーラー服をほの揺らし、ひらりと翔び上がっている。
 それから緩やかに廻り、体を柔く畝ねらせて舞うのは『shake it off』。
 慣れぬ踊りに、尖った耳が少々恥ずかしげに垂れていたけれど……不思議と目を惹くそのダンスが、心を和らがせて体力を持ち直させた。
「……これで、大丈夫」
「では反撃と行こう」
 ナターシャはグラトニウムの体に舞い降りて、シャベルを握る腕を引き絞っている。
 敵も回転刃を降下させるように近づけてくるが──シエナが蔦を四肢から伸ばし、複数箇所に咬ませるように動きを封じていた。
「Desole……じっとしていて」
 生まれたその一瞬に、ナターシャは足元へ痛烈な一撃。金属をも難なく掘ってみせるように敵の躰を抉り裂いた。
 グラトニウムは吼え声にも似た軋みを上げると、自身の足場を破壊。下方へ間合いを取りながら、回転場に巨大なアーチを描かせるよう振るう。
 空中の全てを薙ぎ払うような一撃、だが。
「眸っ」
 広喜は自身と眸に刃が迫る直前、視線を向けて即座に意思疎通。ビームを力技で操るようにして眸を壁際へ逃している。
 同時に自分も反対方向へ難を逃れると──対角の壁同士から眸と再度見合って。
「助かっタ。では行こウか」
 言葉を合図に、二人で二重螺旋を描くように滑空した。
 グラトニウムは一瞬、どちらに対応をすべきか判断に迷う。その一瞬が命取りだろう──何故ならば。
「連携なら誰にも負けねえ」
 広喜と眸は逡巡の時間すらなく、互いを助け支え合う。それは心を持たぬ機械にはきっと辿り着き得ない、絆と呼べるもの。
 直後、広喜が真っ直ぐに強烈な鉄腕を叩き込めば、眸も一撃。鈍色に耀くメイスから苛烈な一弾を撃ち込み鯨の機巧を粉砕した。

●脱出
 鈍い音と共に、金属の破片が零れていく。
 躰の多くの部分が破壊され、均衡を崩し。破損を進めるグラトニウムは、その巨体を大きく傾がせていた。
 それでも自己修復を試みながら、力も得ようとするが──。
「そこまでだよ」
 あかりが猫脚スリッパで壁を蹴りながら──白衣のポケットから薬草を調合したカプセルを投擲。金属を蝕む飛沫を弾けさせ、敵の加護を溶解させる。
「このまま、畳み掛けよう」
「了解だよー!」
 応えることほも大地の魔力を樹木として顕現。
 エクトプラズムによる『檸檬の果実』から酸を雨の如く注がせて──グラトニウムの外装を融かしていた。
 そこへメロゥはトランプの束を派手に撒く。
 『扇動奇術:君が選んだ昇り札』──敵が捉えた一枚が消え失せて、敵自身の体内を斬り裂いて出現していた。
「君は幸運だね。ジョーカーだよ」
 呻くような金属音を上げながらも、土台に罅が入ったグラトニウムは移動もままならず。回転刃を只管左右に振るうしかない。
 だが上方へ避けた広喜と眸は、腕を取り合いキャスリングするように位置を入れ替えて。
「行くぜ」
「ああ」
 眸はビハインドのキリノに金縛りをさせた上で『Creed/Scar』──超高度演算により敵の挙動を読み切って、正確無比な刺突で躰を貫いた。
 同時、広喜も拳を振りかぶる。
 敵が採掘特化型だと言うのならば。
「──俺は破壊特化型だ」
 その表情は変わらず愉しげに。焔を伴う『崩シ詠』の一撃で回転刃を打ち砕いた。
 体勢を保つことすら出来なくなり、巨体が坂を滑り始める。シエナはその躰を蔦で絡め取りながら、植物を回収できぬかと試みた。
 だが枝葉は完全にグラトニウムと一体化しており、破壊以外のすべはない。シエナは一度だけ瞳を伏せたけれど──。
「……後は、お願いしますの」
「判ったぜ」
 恵は弾倉を入れ替えて連続射撃。敵の全身に風穴を穿ちながら、爆破で大きく巨体を吹き飛ばした。
「頼んだ、ナターシャ!!」
「──ああ」
 頷くナターシャは、飛翔してグラトニウムの中枢へシャベルを突き刺す。
 そうして至近から、今一度その仇の姿を見据えた。
 滅んだ故郷を思い出す。そこにいた人々は、破壊し尽くされた国を前に立ち直る気力すら『喰われて』しまっているのだ。
 ならば、それを取り戻す。
 量産型だというのなら、全てを壊せばいい話。
「跡形も残さず、逝け」
 瞬間、穴を掘り返すように力を込める。
 『地底皇国流掘削格闘技術』──シャベルが持ち上げられると、衝撃に耐えられずグラトニウムは崩壊。爆烈するように千々に霧散した。

 轟々と低い反響音が聞こえる。
「やば、これ崩れてきちゃうんじゃない?」
 ことほはデバイスでぺたぺたと壁を固めながらも、少しばかり恐々と見回していた。気づけば壁も僅かに震動している。
 恵も視線を巡らせつつ、それでも冷静だ。
「いや、工事のお陰もあるからかな……そこまではいかなさそうだ」
「それデも一応は、早めに脱出シた方が良さそうダ」
 眸が言えば、広喜も笑顔で頷く。
「じゃ、行くぜ」
「手伝おう。急ぐぞ」
 ナターシャもビームを輝かせ、皆を牽引。高速で降下して、入り口への水面へ突入した。
 その先はあかりがレスキュードローンを操作して、皆を引っ張る形で海中へ。薄闇を上がって揺らめく光を頭上に望み──輝く海面から眩い地上へ脱出した。

「何とか、無事に済んだね」
 岩礁へ上がったメロゥは、若干の緊張もあったろうか、無意識に出していた翼をぱたつかせながら息をつく。
「ああ。ひとまずは、終わったな」
 ナターシャも頷いて、軽く髪を振るってから帽子を被り直していた。
 ふと、風が吹く。
 それは涼しく爽やかで、生きて帰った事が実感される心地良さだ。ただ──それでもシエナは微かな憂いを浮かべて。
(「Reflechir……ジュモーお母さま、一体どこにいますの?」)
 思いを馳せるよう、彼方へ瞳を向ける。
 遠くに見えるのは、今は景色ばかりだけれど。
「なあなあ、海、綺麗だぜっ」
 広喜は笑って皆へ示す。
 そこに広がるのは陽を浴びてきらきらと光を抱き──確かに目を細めてしまうほどに美しい、平穏な蒼色だった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年9月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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