禍き光の暴虐

作者:崎田航輝

 あれは月じゃない。
 最初に誰が口にしたろうか。夜の帳の降りた街で、人々は仰ぎ、空に揺蕩うその何かを目にして立ち止まっている。
 うっすらと光を纏った巨体。
 彼方から舞い降りてくるそれは、始めは確かに天に耀く月光と重なって見えた。
 しかし地に近づいてくるにつれ、嵐のような風を起こす翼と鋭い爪、艶めく鱗が視界に入る。その遥かな威容が、死を運ぶものだと本能に訴える。
 ドラゴンだ、と。
 叫び声が劈いて人々が散り散りに逃げ始める。しかしその頃には巨影──竜はその身に纏った光を下方へ収束させていた。
 刹那、耀く光柱。
 逃れ得ぬ厄災が降りかかるように、圧倒的な暴虐が蹂躙するように、眩い光の雨が街並みを破砕し、人々を貫いていく。
 その命の糧が自身に宿るたびに。人を屠り自身の成長を実感する程に。竜は吼えて、その輝きを一層増していく。
 親を、子を、愛する者を、光に灼かれた人々は為す術なく啼き咽ぶ。その視界さえも、一瞬後には光に飲み込まれた。
 静謐が訪れる頃、十二分に餌を得た竜は巨大化し魔竜へと変貌を遂げていく。灼けた街に、終わらない絶望が影を落としていた。

「集まって頂きありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
「ユグドラシル・ウォー後に姿を消していたデウスエクス達が活動を開始したようです」
 その中で、ユグドラシルの根と共に姿を消した樹母竜リンドヴルムは、その胎内に魔竜の卵を孕んでいたのだが──。
「その卵が遂に孵化したらしいのです」
 孵化したばかりのドラゴンはまだ魔竜の力を発現していない。
 だが多くのグラビティ・チェインを奪って魔竜化しようと、都市に襲撃を仕掛けるつもりのようだ。
「このままでは、多くの人々が虐殺されてしまいます」
 ドラゴンが魔竜となるのを防ぐためにも、これを撃破してください、とイマジネイターは言った。

「戦場は市街地の中心部です」
 高層のビルが点在する環境で、この只中へドラゴンは現れる。
 敵は飛行して移動するが、都市の人間を虐殺してグラビティ・チェインを得る為に、地上付近まで降下してくることだろう。
「即ち、地上からも迎撃は可能です」
 ただ、敵の全長は30メートル。巨体だけでなく素早さも兼ねており、これを容易に御することは出来ないだろう。
「此方もビルなどの建物を利用して、高度を保つと良いかもしれません」
 そうでなくとも敵は強力。ヘリオンデバイスの力も使用して、全力をもってあたると良いでしょうと言った。
「戦闘予定の区域は事前に人々の避難がなされます。なので戦闘において被害を気にする必要はありません」
 しかし予知がずれることを防ぐため、都市全体での避難は行われない。こちらが敗北すれば、大きな被害は免れないことになるだろう。
 なお、ドラゴンが飛来した方角などから樹母竜リンドヴルムの拠点の位置の割り出しも進めているという。
 近いうちに、樹母竜リンドヴルムとの決戦も行えるかもしれない。
「そのためにも……この戦いに勝利しましょう。皆さんならばきっと勝てるはずですから──お気をつけて、頑張ってくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)
葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)
嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)

■リプレイ

●夜影
 月灯りの明滅する夜は美しくも、不安定な空気に満ちている。
 轟々と吹くのは夜風か、或いは彼方から届く巨翼の羽ばたきだろうか。
 息の詰まる気配の漂う市街へ、飛来したヘリオンから──ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)は飛び降りる。
「Roger! Device wake up!」
 上方から響くイマジネイターの指示に合わせて口を開けば、その目元にゴーグル型デバイスが顕現されてゆく。
『You get Eyes of future.』
 システム起動メッセージが響くと共に、ランドルフはビルへ着地。周囲をぐるりと見渡していた。
「まだ、いないか──」
 その段階では、敵の接近は感知されない。
 だがそれも時間の問題だろう。
「今の内に準備を整えておきましょう」
 ビル風に髪を靡かせながらも、冷静に、静やかな瞳を向けるのは葛城・かごめ(幸せの理由・e26055)。
 その言葉に頷いてジェットパックを起動するのが宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)。噴射して宙へ上がってみせていた。
「この新兵器とやらがどこまで通用するかは判らんが、まあ、やってみよう」
「自由に飛べるなんて、便利だね」
 と、挙動を確認するよう、小柳・玲央(剣扇・e26293)も一度牽引に与りくるりと廻ってみせる。同時に、自身もまたデバイスの恩恵を試してみるところだ。
「それじゃ、お願いできる?」
「ええ」
 こくりと応えるのは羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)。
 ゴッドサイト・デバイスで敵を警戒しながら、まずは味方の位置を立体的に把握する。そしてそれを──玲央に思念でリアルタイムに伝えた。
 玲央はその情報を受け取りながら、周辺の平面地図を利用して──。
「レプリカントの本領発揮といこう」
 アイズフォンによって仲間のシンボルデータを組み合わせた3Dマップを生成。それを各々が見やすい視点に調整した上で、デバイスを通し皆に共有した。
「これで、どう?」
「ああ、見える」
 嵯峨野・槐(目隠し鬼・e84290)は視界を動かしながら応える。
 槐は自身のデバイスにオプションとして目を覆うゴーグルをプラスして、平素閉じている瞳を開けている状態。
 受け取った玲央の思念は、その視界を邪魔しない形で戦況マップをオーバーラップさせてくれていた。
「これはすごいねー。おー、メディックのはこうなるんだ」
 と、感心しながらも顕現した自身のデバイスを眺めるのはノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)。
 そのレスキュードローンは黒をベースに赤いファイアパターンの入ったワイバーンタイプ。ぱたりと羽ばたくその姿は中々に可愛らしくて。
「ペレの弟妹分だね」
 微笑むと傍らの匣竜、ペレが一つ鳴き声を返してみせていた。
 準備は充分。そのタイミングでランドルフと紺が視線を空に上げた。
 即座に共有される情報は、マップに敵のシンボルとして正確な位置を表示する。それは月と重なる──真上だ。
 七隈・綴(断罪鉄拳・e20400)はその淡い光に微かに目を細めながらも、巨体を確かに瞳に捉える。
「現れましたね──ドラゴンが」
 その威容は、この距離からでも強敵と断ずることが出来るほど。
「実際、あれならばヘリオンデバイスも必須の相手でしょう」
「魔竜の雛かー……確かに、ちょーっと放っとけないね」
 仰ぐノーフィアも頷く。
 それは光を帯びた巨影。月のような色に輝く、竜。
 双牙は一気に加速して、敵影の真下から包囲をする位置へと飛翔していた。
「久々のドラゴン退治か」
「ま、生まれたばかりのトコロ悪いがお引き取り願おう。あの世へ、な」
 同時に跳んだランドルフは、降りてきた竜の視線と同じ高さのビルへ昇っていた。それが押し潰されはしないという、宣戦布告。
 竜が既に光を湛えているのを見ながら、怯みも見せずに。
「随分眩しいようだが──笑顔を奪う『光』なんざいらねえよ! なによりテメエの都合に、付き合ってたまるか!」
 瞬間、挨拶代わりに鼻っ柱へ蹴りを叩き込む。
 その一瞬に、玲央もビル間を跳びながら剣舞を踊り、星の加護で中衛を守護。同時にかごめも静やかに霊力を振り撒いて、前線の防護を固めていた。
「これで最低限の守りは整ったはずですから──」
 言いながら、翼だけでビルを軋ます竜を見据える。
 新たな魔竜の誕生となれば被害は街だけに留まらない。だからこそ。
「必ずここで、阻止しましょう」
「もちろんだよ!」
 ノーフィアはふわりと風を掃いて、竜の真正面へと翔んでみせた。
「黒曜牙竜のノーフィアより魔竜の仔たる災厄へ。剣と月の祝福を」
 たられば言いよう無いほどに、互いに全力で潰しあおう、と。
 届いた声、そして痛みと自身以外の光。竜はその全てに敵意を示すよう、大きく吼えて真っ直ぐに飛んでくる。
 その体に触れるだけで、数棟のビルが瓦解した。ただ──敵が地上と接している分には、こちらが飛翔することで近接攻撃は避けられそうだった。
 無論、敵が高く飛べばその限りではない。逆にこちらが全員飛翔してしまえば、番犬全員が一列に並ぶことになるが故に必ずしも有利とは言えないだろう。
「それより、こういったものの扱いは決して得意ではないんだが……大丈夫なのだろうな」
 飛翔しながら、双牙は少々不安に呟く。
 運動会ではあまり良い得点が出せない、そんなことも思い出しつつ──それでも躊躇うことはなく。速度のままに回転して一撃、鋭い蹴りを撃ち込んだ。
 追随して飛来するのが、双牙に牽引される形で空へ飛んでいた綴だ。巻髪を風にふわふわ揺らしながら、宙を翔ける軌道に淀みはない。
 滑るように速度を出して、竜へと肉薄すると──。
「電光石火の蹴りで、痺れてしまいなさい!」
 稲妻を落とすが如く、光を靡かせた蹴撃を加えることで竜の動きを鈍らせた。
 竜はそれでも、その場から光の雨を注がせて反撃する、が。
 思念で受け取るマップから、仲間を守れる位置を割り出した槐が空へ飛び出し受け止めてみせる。
 明滅する雫は深い衝撃を運ぶ。だが槐がそのまま混沌を渦巻かせ、自身と余波を受けた前衛を回復すると──。
「後はわたしがやっておくねー!」
 朗らかに言ってみせながら、ノーフィアが深色の花吹雪を風に踊らせて治癒を進めていた。
 ペレも治癒の蒼炎を槐へ灯せば、前線は万全。竜が連撃を目論むよりも早く、槐がライドキャリバーの蒐をビル上から疾走させて体当たりを喰らわせれば──。
「私も助力を」
 紺が揺らめく魔力と共に手を翳す。
 竜もそちらへと狙いを定める、が、その巨体が動かない。紺の顕現する『まつろう怪談』──竜自身の恐怖が闇の塊となってその体を抑え込んでいた。
「今です」
「ありがとう」
 応える玲央は、高台から躍り出るようにひらりと飛んで一撃。直下への蹴りで、竜を零高度へと墜としてゆく。

●闘争
 巨大な地響きを上げて、竜は地に留まっていた。
 それは弱り始めの兆し。だが無論、それで優位に立ったとは言えないのだと、紺は緊張を解かずに感じている。
 過去にも竜との戦いは経験したけれど、そのどれもが厳しいものだった。
「今回も一筋縄ではいかないのでしょうね──」
 それでも新たな力を手に入れた今、気持ちで遅れを取るわけには行かないから。
(「何よりも──」)
 親友も一緒に戦ってくれることが自分にとっては最大の戦力。視線を感じ、玲央も頷き返してくれるから、紺は前を向いて。
「必ず勝利を手にして、次への勢いと足がかりに繋げるとしましょう」
「ああ。敵は巨大で、強大だが──」
 槐は竜の体を見据えながら、退く心は無い。
 敵が此方を凌駕するものを持っているのなら。此方はヘリオンデバイス、ビル、敵の巨体そのものも全てを利用して。
「小さき者の団結を見せつけてやろう」
 言いながら、槐は死角を取るよう敢えて低い位置に潜んでゆく。竜は視線でその姿を覆うとするが──その頭上へ、かごめ。
「この力、十分に活かさせて頂きます」
 機械腕の如き縛霊手を付けた腕と逆の腕を纏うのは、巨大なアームドアーム。
 機巧を輪転させ、その先端をドリル状へと変形させると──高速回転の唸りと共に一撃、苛烈な打突で竜鱗を深々と抉ってみせた。
 竜が声を洩らす、その一瞬に眼前に飛び込むのが綴。
「私でも、やればできるのです!」
 遥かな威容を誇る敵にだって、退きさえしなければ。澄んだ思いが魔力に鋭さを与え、繰り出す打撃が巨体を僅かに傾がせる。
「さあ、今のうちに」
「ああ、とびきりの一撃を与えてやる!」
 応えて建物の上を駆けていくのがランドルフ。
 ビルの屋上から屋上へ、飛び石を移動するように機敏に風を裂いて──抜き放つのは紅の短刀。竜の威嚇すら意に介さずに、落下しながらの斬撃で巨大な傷を刻みつけた。
 竜は吼えながらも瞳を輝かす。
 だがそれが誰かを捉える寸前、天頂から衝撃。槐が怪力とデバイスを併せ、巨大な瓦礫を山なりに放り投げていたのだ。
 竜が注意を逸らし、無防備になった下方から槐はそのまま一撃。痛烈な蹴り上げを叩き込んでいた。
 次には、マップを参照して丁度対角の位置から紺が跳躍。竜の零距離へ入ると光の刃を顕現させて縦横に膚を刻む。
「玲央さん」
「うん、任せて」
 敵に隙が生まれれば、タイミングを合わせて玲央が横の建物から飛んでいた。
 ゆるりと回転しながら落下して、機械の偽翼で体勢を制御して、レッグガードに力を込めて壁を蹴り──剛速で接近。弾丸の如き拳で表皮を貫いてみせる。
 悲鳴にも似た啼き声を零しながらも、竜は眩い閃光を放った。
 かごめと槐、盾役が衝撃をしかと抑えながらも、暴風を伴うほどの余波にノーフィアは宙に煽られるが──。
「全く厳しいね!」
 言いながら、デバイスをはためかせて足場にして事なきを得る。そのさなかも楽しげな様は、バトルジャンキーそのもので。
「ペレ、そっち頼んだ!」
 治癒の花風を吹かせながら言ってみせれば、ペレの方は少々呆れ気味。それでも癒やしの焔を灯してしかと体力を保ってゆく。
 戦線に憂いがなくなれば、既に竜へ双牙が飛翔している。
 不慣れでも、飛べば少しずつは慣れてくる。敵に狙いを定められぬよう、曲線を描くように飛行しながら肉迫して──握り込むのは己の拳。
「逃しはしない」
 敵が回避の挙動を取ろうとも、それより疾く。煌々と焔を靡かせて打突を見舞っていた。
 燃え盛る炎に竜が苦悶を浮かべる、その一瞬にかごめはデバイスをバケットホイールへ変形。大ぶりに振るいながらホイールを射出し、巨体を抉る。
「次を、お願いします」
「──分かりました」
 応える綴が両の掌を真っ直ぐに翳す。
 一瞬、月夜が明滅するほどの巨大な圧力が生まれた。直後、綴はその全てを敵の面前で炸裂させる。
「これで吹き飛んでしまいなさい!」
 瞬間、爆音。
 莫大な空圧が弾けると共に放射状に猛烈な衝撃が生まれ、竜の巨体さえもが大きく吹き飛ばされてゆく。

●月空
 粉塵が舞い、月光が微かに曇る。
 その中で竜の光も薄らいだように、淡い明滅を繰り返していた。
 それでも竜は死を拒むよう、陽光の如き光で此方の意識を奪い取ろうとしてくる、が。
「おっと、やられないよー!」
 警戒していたノーフィアが花弁の滝を作り出し、光を遮るように皆の意識を明朗に澄み渡らせてみせる。
 同時、かごめが紙兵を宙へばら撒いて、美しく弾ける霊力を皆へ宿らせれば──体力にも不安は残らなかった。
「後は、お願いします」
「ああ、判った」
 託された言葉に頷いて、混沌の水を波打たすのは槐。
 揺らぐ色彩が形を取って、その場へ顕れるのは墳墓の塔。
 それは『無縁塔』──集合的な死を受け入れようとする、その一時の感情を喚び起こして竜の逃避を阻害する。
 竜が己の心に戸惑う、その一瞬に綴は壁を蹴り、屋上を走って竜の面前へと飛び出していた。
「これで、外しませんよ」
 アクロバティックに宙で廻り、脚に纏うのは旋風の如き風。己自身もまた風となるように高速を得ると、そのまま斬り裂くが如き蹴撃を見舞う。
 竜の膚が避けて血潮が弾けた。
 そこへ舞い降りる紺もまた、躊躇わず刻まれた傷に狙いを定める。刹那一閃、影が奔るが如き神速の剣戟で、深く傷を抉り裂いて体力を奪い去った。
「さあ、このまま一気に」
「了解」
 頷く玲央は獄炎と共に、忍ばせたコードを体内に侵食させる。
 『炎照・開扉符号』──魂の明滅からデータとして情報を読み取れば、見えるのは短い記憶。生まれて、そして闘争を求めた種族の本能。
「悪いけれど、ここまでだ」
 その記憶に終わりを告げるよう、焔で竜を包み込んだ。
 哭き声を轟かす竜に、高空より錐揉む双牙は慈悲を与えはしない。敵が明確な殺意でかかってきたのなら、こちらがすることは全力での応戦だから。
「──受けろ!」
 紅の焔を灯した手刀、『閃・紅・断・牙』で竜を打ち上げると自身も再度上方へ昇り──エアプレーンスピン。轟音を響かせながら巨体を投げ落とした。
 地を割って斃れゆく光の竜。
 毛並みを靡かせて空より自由落下しながら、ランドルフはその直下の巨影へ銃口を突きつけている。
「これでEndだ。喰らって爆ぜろ、キラキラ野郎! コギトの欠片も残さず逝きな!!」
 命を焼き尽くす、苛烈な爆炎が閃く。
 『バレットエクスプロージョン』──打ち砕く銃弾が、巨竜を千々に霧散させていった。
「その光であの世も照らしとけ、家族が集まる目印代わりに、な」

「終わったねー」
 静謐が戻る市街地。道へ降り立ちながら、ノーフィアは小さく息をついていた。
 ランドルフも武器を収めて頷く。
「しかし、中々派手に壊れたな」
「そうですね──」
 綴もぐるりと視線を巡らせる。
 そこにもう不穏な気配はない。ただ、荒れた景色には瓦礫が山となっていた。
「後は、一帯を修復していきましょう」
「そういうときには、これが役に立ちそうだ」
 槐はアームドアームを動かして、早速巨大な瓦礫を撤去し始める。
 かごめも自身のデバイスを利用し、建物を直し始めていた。
「こういった作業が迅速に出来るのは、良いことですね」
 ビルを手早く補強しながら見上げる。直った建物は、特別に強化されるというほどではないが──幻想化のあるヒールとは違った趣の見目となった。
 あとは広く荒れた道を、玲央は直していく。
「これで、大丈夫かな」
「ええ」
 その作業を助力していた紺も頷いて、見回した。
 そこは月灯りの差す、穏やかな街並みだ。
「誰も傷つかず、終われたな」
 それが何よりのことだろう、と。双牙は静かな勝利の実感を抱いて歩き出す。
 そのうちに、人々も戻り平和な賑わいが帰ってくる。
 これこそが守りたかったもの。番犬達は人々の喜びの声を受けながら──月光の下を帰路へ向かっていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年8月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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