暗夜の朧

作者:崎田航輝

 風が冷たさを帯びて、木々が哭くように揺れる。
 夜空の色も窺えぬような深い時間の中だけれど──不思議と景色の風合いが変わったような感覚に、安海・藤子(終端の夢・e36211)は足を止めていた。
「……」
 視線を巡らすのは、違和の正体を探すため。
 それは確かな気配というよりは、予感のようなものだったろう。自身の心が知る何かが、近づいているような気持ちで。
 抱いているのは或いは恐怖か、と。
 思った矢先、静寂に足音が響いて藤子はそちらへ振り返る。
「……あら」
 と、小さく紡いで見つめる路の先。そこにゆっくりと歩いてくる一人の男の姿があった。
「変わりない、わけではなさそうか」
 静かな言葉と共に一歩一歩と近づくそれは白衣の男。
 一見、普通の人間と同じ見目をした涼やかな風貌にも見えたが──そこには温かみも、生命感も感じとることはできない。
 敵だと、思うと同時に藤子は記憶を刺激される。
 朧に、心に残っている姿。それを意識すると、不可思議な程心がざわついて。
「まあ、いい。使いみちは十分にある」
 男の声に、藤子は本能的に一歩下がっている。
 男はそれを意に介するでもなく、冷たい瞳を向けて。
「抗おうが、結果は同じだよ」
 まるで実験材料を見下ろすように──慈悲のない殺意と共に踏み込んで来た。

「安海・藤子さんが、デウスエクスに襲撃されることが分かりました」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達に説明を始めていた。
「予知された出来事はまだ起こってはいません。ですが、時間の余裕はないでしょう」
 藤子に連絡は繋がらず、藤子自身も既に現場にいるという。おそらく、敵と一対一で戦いが始まってしまうところまでは、覆すことは出来ないだろう。
「それでも今から急行し、戦いに加勢することは出来ます」
 合流までは、時間のラグはある程度生まれてしまうだろう。それでも戦いを五分に持ち込み、藤子を救うことは十分に可能だ。
「ですから、皆さんの力を貸してください」
 現場は林道。
 敵が人払いをしているのか、周囲にひとけは無いのだという。一般人については、少なくとも心配は要らないだろう。
 敵は死神だという。
「その正体や目的など、不明なところは多いですが……藤子さんを狙ってやってきたことだけは確かなようです」
 故にこそ猶予はない。ヘリオンで到着後、戦闘に入ることに注力して下さいと言った。
 現場は静寂の中。藤子を発見すること自体は難しくないはずだ。
「藤子さんを救うために。さあ、急ぎましょう」


参加者
天崎・祇音(忘却の霹靂神・e00948)
戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭い白衣・e02253)
四辻・樒(黒の背反・e03880)
月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
安海・藤子(終端の夢・e36211)
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)

■リプレイ

●茫漠
 重みを持った暗闇の中で、安海・藤子(終端の夢・e36211)は自らの仮面に手をかける。
 眼前に佇む男を見据えながら、朧な記憶の中にもその姿を見つけていたから。
「──何しにきた」

 木々の枝が風に細い音を響かせる暗中。
 冷えた空気の漂う地面へ降り立った四辻・樒(黒の背反・e03880)は、共に着地した仲間達を見回していた。
「見知った顔ばかりだな、皆よろしく」
「ああ」
 と、肯く戯・久遠(紫唐揚羽師団の胡散臭い白衣・e02253)は周囲を警戒しながら、唐揚げを一つ頬張って。
「ま、いつもの験担ぎってな。さて」
 言いながら見据える先。闇しか見えぬ林道の向こうに確かに気配を感じ取っている。
「向こうだな」
「遠くはなさそうじゃ。征くとするかのぅ」
 天崎・祇音(忘却の霹靂神・e00948)も着物の袖を縛り紐で纏めて、その方向へと真っ直ぐに駆け出していた。
 皆も続いて闇を縫えば──程なく探す彼女の姿と、対峙する人影が視界に入る。久遠は、戦いに備えて呼気を整えながらも呟きを一つ。
「毎度毎度、ロクな関係者が出てこねぇな藤子のやつ」
「ん……」
 小さく相槌を打つ 月篠・灯音(緋ノ宵・e04557)も、徐々に近づくその敵を見つめた。何かの因縁が在るのだとは、予知に聞いた情報でも窺えたけれど。
「とにかく今は、急ぐのだっ」
「ああ、安海を助けないとな。頑張るとしようか」
 応える樒は、あくまで冷静に。風を切ってその戦場へと奔ってゆく。

 魔力に赫く相手の刃を、掠めるに留めて藤子は飛び退いていた。
「今更になって棄てた贄をご所望とは、欲深いぞ」
 聞かせる声音は虚勢でもあったかもしれない。それでも戦いの姿勢を取って、威嚇するように言葉を投げてみせる。
 対する白衣の男──藤袴は薄い笑みを見せた。
「確かに、一度は失敗したと思ったからね」
 言いながら、藤子を守るように毛並みを逆立てるクロスを見下ろして──その手に禁術の渦を揺蕩わせる。
「それでも“使える”なら、手に入れない理由はない」
「あの小娘は代わりの贄だったんじゃないのか?」
 藤子は魔力を高めて自己を癒やしながら、問うた。
「それとも贄を満たすための道具だったのか? だったら、悪いことしたな」
「何を憂う必要もない。その、意味もない」
 今はただ私のものになればよいのだから、と。藤袴は思考も奪うよう、濁流の如き魔力の渦で藤子を飲み込んだ。
 瞬間、光と闇、色彩と透明色が混濁する。支配が形をとったかのような苦痛──だが藤子は斃れず気力を保つ。
 それは藤袴へ否を突きつける抵抗姿勢。
 藤袴は再度刃を振るう、だがそれも奔ったクロスが身を以て受け止めていた。
「……抗っても無駄だと思うがね」
「いいや。ここで奪われるわけにはいかないんだよ」
 藤袴の言葉に、藤子は真っ直ぐに返す。
 まだ、終わらない、終われない。
 それは朧な暗中で光を手繰るような、儚く、けれど何より強い意志。
 感情を害されたように、微かに眉を顰めた藤袴は──渦を凝縮して耀かす。
「生きて下るつもりがないのなら、躰だけ回収するさ」
 そして手を翳して全てを飲もうとした──が。
 不意に風が吹き、宙に翻る銀色の影。
「神の加護は必要じゃろうか」
 それは声と共に跳躍から降下する──祇音。藤袴がはっと視線を上げる頃には、稲妻を迸らせながらくるりと廻って。
「まぁ、いらぬといっても押し付けるのが神じゃがなっ」
 刹那、光弾ける蹴撃を叩き込んでいた。
 藤袴が衝撃に後退すると、同時に駆け込んでくるのは久遠。
「お待ちどうさん。セキュリティガードの到着だぜ」
 言いながら金色の闘気を纏い、杖を握って戦闘態勢に入れば──同時に鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)もまた光を棚引かせて舞い降りて。
「安海さんが狙われていると聞いて皆でかけつけましたっ」
 ふわりと風を掃くと、素早く藤子の傍へ降り立っている。
「奏兄ぃ、藤姐をよろしく頼むのだっ。樒、いくのだっ」
 そちらへ視線を走らせながら灯音が言えば──頷く樒は弓を構えて射撃。引き絞った弓弦から夜風を裂く一矢を放ち敵を阻んでいく。
 その間に奏過は仕込み雷杖を抜き──治癒の魔力を這わせて数閃。撫ぜるように藤子の傷へ刃を奔らせ癒やしてみせた。
 そのまま意識を確認するように覗き込んで。
「私達の事……わかりますか?」
「……ああ」
 藤子は言いながら見回して、そこで皆の姿を確認していた。
「皆、来てくれたか」
「ええ。もう心配は要りません」
 と、応えて駆け寄るのがイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)。
「私達が護ります。傷も癒やしきってみせますから」
 いつも誰かを護る側の藤子だからこそ、自分達が報いる時だと。意志を漲らせるように、向ける掌に眩いほどのオーラを輝かせていた。
 その光がゆっくりと同化していくと、柔らかな陽に触れたかのように暖かな心地と共に傷が消えていく。
 その頃には灯音が光の壁で後方の護りを整えて。
「さて、それじゃこっちも術式開始だ」
 久遠も同時に雷を閃かせて前衛を防護する障壁としていた。
 この間も藤袴は此方へ反撃を目論んでいた、が。
「させるかよ」
 投げるような声と共に、氷色が煌めく。
 それは六花の粒の軌跡を描き、その眼前へ降りるアルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)。
「何者かは知らねぇが」
 言葉と共に迷いなく抜き放つのは流麗な刃。
「知り合いを良いようにされるのは気にいらねぇんだよ」
 故に手は出させない。
 明快で、芯の揺らがぬ心と共に、放つ一刀は鋭く重く。残像を伴って藤袴の腹部を斬り裂き、その躰を大きく吹き飛ばした。

●因果
 灯音や樒がケミカルライトで視界を確保していく中、アルシエルは視線を後ろに遣り、藤子の無事を見取っていた。
 藤子は健常な様子で──同時に瞳を敵へ向け続けている。
 その様子を見遣って、祇音はさてどうしたものかと心に呟いていた。
 元より藤子と敵に間に因縁は感じていた。けれどそれが予想よりも深く、昏いものに思えたから。
 が、その感情を見知ってか藤子は口を開く。
「心配は要らない。あれはただ、親だというだけだから」
「……親、か」
 樒は声を零す。
 事実、何処となく似たところがあるとは感じていた。ただ、あの敵が藤子を見る目はもっと心なく、もっと物質的なものに見えたけれど。
 アルシエルもそれを感じながら、一歩歩み出ている藤子に問いかけた。
「で──アレはアンタの敵で良いんだな?」
 アルシエル自身には親や子という縁の記憶はなく、兄のことですら例外ではない。
 面倒な家族に面倒な絡まれ方をするならなくて良かったとも思うし、その反面、悪縁でも縁があることを少し羨ましいとも思う気持ちもあった。
 だから単純に善悪を述べられないけれど──今はただ藤子が大事な戦友で、失いたくなくて、助けたいという気持ちが自分の中にあるから。
「良いなら、遠慮なく潰すぜ」
「そうして貰えると助かるよ」
 と、藤子が迷わずに言うから、灯音もその隣に並ぶ。
「藤子姐になんかするのなら黙ってられないのだ。やっつけるのだ!」
「そうだな」
 樒も心同じく眼光を敵へ向けた。藤子のため、そして灯音のためにも。
「敵には消えて貰うとしよう」
「ならば、わしも僅かながら後押しさせてもらうのじゃよ」
 言って頷くのは祇音。
(「親、か」)
 自分にはそう呼べるものはなくて、だから少しだけそういう存在がいることが羨ましく感じられる。
 けれどそれが害をなすなら、躊躇はなく。
 瞬間、凛然と瞳を向けて疾駆。匣竜のレイジに霊焔のブレスを吐かせて牽制すると──自身は雷光赫く刃で光の迸る斬線を閃かせた。
 衝撃に藤袴が後退すれば、次の一瞬。
「今じゃ」
「──、ああ」
 祇音の声にアルシエルが『Blood Bullet』。血を媒介に顕した弾丸で敵の躰を穿つ。
 血潮を零しながらも、藤袴は反撃に幻想渦の濁流を放った、が。夜闇を満たす無限色の幻の中で──奏過は表情一つ揺らがない。
「成程」
 四方に視線を巡らせて、零す呟きは自身の力で充分に対処できるという理解の表れ。
 所作は静かに淡々と──けれどその内奥では、共に戦う仲間を絶対に守るという崩れぬ意志を携えて。
 瞬間、天に昇らせた魔力が煌めく雲と成り雨滴を注がせる。瞬く光を帯びたその雫は幻を溶かし、皆の体力と意識を十全に保っていた。
 戦線が問題ないと見れば、奏過は視線を横に流して。
「月ちゃん」
「了解なのだっ」
 頷く灯音はぴょんと跳ぶと、手乗りサイズに縮んで樒の肩の上に乗っている。
「このまま攻撃にいくのだっ」
「ん、灯。無理はしないようにな」
 と、樒は灯音を気遣うよう優しく撫でると──瞳を前へ向け、地を蹴って風となった。
 藤袴は間合いを取ろうとするが、一瞬遅い。樒が夜闇色の刃を奔らせて無数の剣閃を刻みつけてみせると──。
「ここなのだ!」
 同時に灯音が跳び出して『秘!奥義連続高速でんぐり返し!前転』──小さい体のまま超高速の廻転突撃を打ち当てて藤袴を突き飛ばす。
 大きく下がりながら、それでも藤袴は異形を召喚していた。蠢く異形は獣や人の成れの果てのようで。
「くそ、面倒臭い相手だぜまったく」
 無数の影に久遠は呟く。
 だが、その攻撃が藤子に及ぼうとするなら──退きはしない。藤子は久遠の恋人の姉のような存在であり、久遠自身にとっても大事な悪友と言えるから。
「生憎と、そちらの思惑通りにさせる訳にはいかねぇんだよ」
 前面にいでて衝撃を庇ってみせた。
 時を同じく、イッパイアッテナもまた迫りくる闇を自身を盾として受け止めている。
 元より何があっても、仲間の為に身を粉にするつもり。そして藤子がしかと、倒すべき相手と対峙できるように。
「通しませんよ」
 淀まぬ心と共に、大地に刃を突き立てて『龍穴』の次元と繋げ──癒やしを齎す清浄な力を呼び込んで体力も保っていた。
「さあ、今のうちです」
 と、イッパイアッテナが声をかければミミック──相箱のザラキが疾走。エクトプラズムを纏った刃を振るって藤袴の足元を斬り裂いた。
 よろめきながら、藤袴も刃を手に取り距離を詰めてくる。
「……私を拒むか。最後には奪われるというのに」
「何度も言わせるな。満たされたこの器──簡単に明け渡すわけないだろ」
 彼の言葉を否定するように、藤子も刃を握っていた。
 朧な記憶。自身から何かが欠け落ちた感覚。跡形だけが刻まれた心の違和感。それが眼前の男が齎したものだと判るから。
「俺は代償を押し付けられた。お前と魔術的に繋がっているからでもあるんだろう。だが、これ以上何もやらねぇよ」
 自分ではなく、お前が奪われる番だ、と。
 抗う心を刃に乗せて、貫くように──藤子は藤袴の体を深々と抉ってみせた。
「もう、か弱い少女じゃないんだよ」

●夜半
 血溜まりの中で、藤袴は膝をついて呼気を零す。
 自身に死の未来が迫りつつあることが、認められぬように。魔術で己を包み、傷を治して再起を図ろうとする──が。
 その眼前に久遠。漲る闘気を拳に握り込んで、大きく振りかぶり。
「釣りはいらねえ、取っときな」
 全力を込めて一撃。強烈な打突を頬に叩き込んでみせる。
 同時に灯音が宙に跳び、氷の欠片を棚引かせながら──冷気を宿した銀槍で一閃、零下の斬撃を見舞っていた。
「樒っ」
「ああ」
 声を返す樒も灯音を片腕に抱き留めながら、もう片手に握ったナイフで『斬』。神速の斬閃を放ち藤袴の胸部を斬り裂いた。
 呻く藤袴は、足掻くように渦を繰り出す。
 だが前衛を襲った幻へ、奏過が逆式「左右創傷の鬼」──メスを奔らせ仲間を蝕む苦痛を切除するよう、即座に癒やしを施した。
 そのまま奏過が攻勢に移り、敵へ反撃の蹴りを叩き込むと──。
「次の一撃を」
「判りました」
 言葉と共にイッパイアッテナも既に敵前。跳躍して頭上を取ると、前へ進むための道を踏み均してみせるよう、重い蹴撃を加えた。
 アルシエルが透明の刃で藤袴の脚を裂くと、その頃には祇音が獣化させた四肢へ眩い雷を湛えている。
「頼む」
「うむ……っ!」
 直後、アルシエルに応えた祇音は『覇狼・風迅雷塵撃』。爆雷を伴った打撃で藤袴を打ち据え、地へと叩きつけた。
 久遠は藤子へ視線を投げて。
「出番だぞ藤子。とっととケリつけてこい」
「決着は本人の手でつけるのが一番だな」
 と、樒も素早く飛び退けば──ああ、と。小さく返した藤子が周囲に焔を明滅させ始めていた。
 ──我が言の葉に従い、この場に顕現せよ。
 ──そは怒れる焔の化身。
 滾る炎は狼へ姿を変えて咆哮を上げる。
 瞬間、藤子はその紅蓮を解き放った。
 ──全てを喰らい、貪り、破滅へと誘え。その恨み、晴れるその時まで。
「あいつの所には還さない。塵芥となりやがれ」
 燃え盛りながら奔り、襲いかかるそれは『紅蓮の焔・狼怨』。怨みを晴らし、引き裂くように──その爪と牙が獰猛に藤袴の命を打ち砕いた。

「……終わりましたか」
 敵の残滓までもが消滅していくと、奏過は呟きを夜暗に響かせる。
 久遠も頷いて戦いの態勢を解き、軽く息をついていた。
「厄介極まりない奴だったぜ」
 そうして視線を横へと向けると──藤子は短い時間敵が消えた跡を見つめている。それでもすぐに静かに息を吐き、皆へ向き直ると……灯音がその傍へ駆け寄っていた。
「藤姐、無事なのだ?」
「……ええ」
 応える藤子は、頷いて。仮面を直して皆を見回す。
「みんな、ありがとうね。助かったわ。アタシだけじゃ倒せなかったと思うから、本当にありがとう」
「……俺は別に礼なんて、いいけどな」
 些かつんけんと、アルシエルは声を返す。改めて感謝を告げられれば、照れくさいし水くさいと思ってしまうから。
 そんな様子も眺めつつ、久遠は藤子と皆を軽く診察。傷があれば治療していった。
 遠巻きに藤子の事を見守っていた祇音は、仄かに息をつく。
「ひとまずは無事に終わったようじゃが……」
 それでも目を伏せた。藤子が抱く憂いの心に、気づいてもいたから。
 事実、藤子は闇となった戦場を見回して、目を閉じている。
 藤袴は確かにいなくなった、けれど。
 ──これで終わりじゃない。
「まだこの鎖がある限り、ほんとの自由はないのかな……」
 呟きに、夜の長さを思わせるように。
 その姿を見守っていたイッパイアッテナは、言葉をかけず、今はただそっとしておく。
 樒もそれ以上のことはせずに──。
「皆、お疲れ。安海も無事でよかった。では帰るとしようか」
「うんっ」
 灯と、そして奏過も共に歩み出した。
 皆が続けば、藤子もゆっくりと踏み出す。
 空を仰ぐと、先刻は見えなかった星が瞬いて微かな明るさを伝えていた。ただ、それでも夜は深く、昏くて──未だ暁の時が遥かな先に思えた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年7月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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