みんなでにこにこ美味しいご飯!

作者:東公彦

「私は悲しい……なぜあなた方は好んで孤独を欲するのか!」
 ビルシャナ『ロイ』は涙を流しながら店内を駆け回った。迷える子羊に手を差し伸べる神父よろしく、客の肩を叩き、手を握り、抱きしめて全ての人々を諭しながら一つのテーブルにつけてゆく。
 やがて店内にいた全ての客が一つのテーブルに集まった。
「人間は生まれた時から罪を背負っています。あなた方に非はありません……悪いのはこの店です! ひとり焼肉などという孤独の誘い手、自然の法則を乱すサタンの信奉者、悪魔の手先!!」
 ロイは拳を握りしめると、ぐっと眦を強くして涙を拭った。
「悪魔の誘惑を断つ時は今です! さぁ立ち上がりなさい、この世にある一人専用の飲食店を全て潰し、世界皆家族となりましょう!!」
 底抜けの熱意と払拭された孤独感からか店内の客はおのずと立ち上がっていた。それがロイの洗脳であるとは気づかぬまま、彼らはひとり焼肉『もーもー軒』を破壊し尽すのであった……。


「えーと……なんだろうね、これ?」
 任務の資料をたたんで正太郎が首を傾げた。集まったケルベロス達にわかりようもない。こほん、一つ咳払いで間を置いてオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)が声をだした。
「お……焼…シャナ……。の……配下…には…して……かと」
「あの~、もうちょっと近くに来てもらいたいんだけど~」
 正太郎がヘリポートの隅に立つオルティアに声をかける。と、彼女はしぶしぶといった様子で近づいてきた。しかし依然、声は断線したラジオさながらであるので、迎えるようにケルベロス達と正太郎も歩を進める。
「どうか、そこまでで、止まって……。おひとり様専用の焼肉店をロイが襲撃する、みたい。店内でロイの意見に賛同した一般人が配下となっているようだから、被害を出さないためには説得をして改宗させるのが一番、かと」
「うん、説明ありがと。ロイの主張は『孤独など許せない、生物は共生すべきだ』っていう大味なもので、場当たり的な洗脳だったから信者達への影響は弱いみたいだね。孤独であることの利点や人と接することの欠点なんかを突けば案外簡単に洗脳がとけるかもしれない。もちろん、正論だけじゃなくインパクトのある説得方法なら信者の目を覚まさせることが出来ると思うよ」
「ひとり焼肉とはいえ、戦闘を行なえるだけのスペースはある、ようなので……心配はいらない」
「手っ取り早くビルシャナを狙ってしまうのも手かもしれないよ。個体を無力化できれば教義による洗脳は解除されるからね」
 言って正太郎はヘリオンの扉を引いた。ケルベロス達を機内に乗せると、ぽつり呟いた。
「ひとり焼肉……誰の目も憚ることなく好きなだけ食べられるのは利点だよね。ちょっと寂しいけど」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
ヴィヴィアン・ローゼット(びびびしー・e02608)
ハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)
セレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)
エリザベス・ナイツ(焔姫・e45135)
柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ

 『もーもー軒』の店内おいてに突如燃え上がった熱狂は、しかし蹴り破られた扉によって遮られた。
「ちょいと邪魔するよ」
 浮かび上がる伊達者のシルエット。目深にかぶったハットをくいと指先であげて、ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)は豪快に蹴りだした脚をテーブルにのせた。
「見たところ、あんたら一見さんだね。……オレっちはお一人様限定裏メニューを食いにきたのさ。あれだけの絶品、騒がしくされちゃ堪らねえや」
 脚を組んでどさり、椅子にもたれる。只ならぬ焼肉玄人の雰囲気を漂わせている。
「お、お一人様限定裏メニュー!? それはいったい――」
「へっ、そう喰いつくんじゃないよ。落ち着いて飲めもしねえや」
「お一人様限定……本当にそんなメニューがあるのですか?」
 訝しむような声音にローレライがきつと強い視線を投げた。
「信じられねえってかい?」
 しばし不穏な無言の睨み合いが続いたが……不意にロイが静寂をやぶった。
「ではその小動物は? 後ろからぞろぞろついて来る連中は?」
 指をさされ、スーツの裾に纏わりつく『シュテルネ』が首を傾げる。店の入り口で成り行きを見守っているケルベロス達を一瞥して、ローレライは気まずそうにハットで顔を隠した。
「後ろの奴らは知らん。こ、これは……マトンだ」
「――!?」
「ほぅ、では焼いてもらいますか。そのイタイケな羊さんを!」
「そ、それはっ――――それだけは無理よ!」
 ふるふると縮こまるシュテルネの瞳に溜まる涙……それを見てしまった瞬間、どっと音をうってローレライは崩れ落ちた。
「ごめんねシュテルネ! 焼いたりなんかしないわ、一緒にお腹いっぱい豚トロ食べましょうね!!」
「ふふふ、感動ですね。やはり一人は醜い……そぉぉしぃぃてぇぇ、あなたはそれで隠れてるつもりですかーー!」
 甲高い叫び声にオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)が体を引っ込ませた。入り口から遥か彼方、窓際の柱から隠しきれぬ半馬の下半身が突き出ている。
「っか、隠れて、ない。こ、ここは少し狭い、から。ちょっとだけ距離を」
「ちょっとの距離じゃないでしょうっ、ソーシャルディスタンスも大概ですよ!? せめてこっちに来てみんなで説得なさい!!」
 身一つで海峡横断に挑むことは出来ても、人の波に飛び込むのは危険だ。命を落としかねない……私も他の人達も。
「私は、ここから、説得するんだ。き、気兼ねなく、過ごす時間、くらい……。独りの幸せくらい、み、みとめろー」
 控えめな声と共に、柱の陰から拳が突きあがる。まさに孤独公民権運動。その声はがらんとした店内に弱々しく反響して孤独に消えていった。
「えーと……」
 説得どころか放送事故よろしくな沈黙のなかでヴィヴィアン・ローゼット(びびびしー・e02608)は困ったような声をあげた。ぶんぶんとかぶりを振って気を取り直す。
「お、オルティアちゃんの言う通りだよ! あたしは作曲モードの時って一人がいいし、あなたたちだって一人になりたい時はあるでしょ? 例えばお風呂に入る時とか、それからその……ト、ト……」
「あー、トイr」
 と柄倉・清春(大菩薩峠・e85251)が口にしかけた時、ヴィヴィアンの拳が音速を超えて炸裂した。
 めしゃぁっと音を立てて潰れる――頭に被るバケツが。『肉焼きロボット』と描かれたバケツを被ったまま倒れピクリともしない。まじまじ見やりながらハル・エーヴィヒカイト(閃花の剣精・e11231)が眉をひそめた。
「しかし、いつの間に清春はレプリカントになったんだ……」
「えっ、冗談だよねハル?」
「俺が冗談……まさかダモクレスなのか!?」
「――と、とにかくっ! 誰にも縛られない時間は芸術を育むの。あなた達の好きな曲、好きな映画、好きな本! そうやって生み出されてきたのよ。それを否定していいの?」
 漫才さながらのやり取りを繰り広げるハルとエリザベス・ナイツ(焔姫・e45135)は脇へやってヴィヴィアンがびっと指を突きつけた。しかしロイも引き下がらない。
「みなさん騙されてはいけませんよ。孤独な者が作った作品など孤独なだけ、決して癒されることのない禁書です!」
「む――それは聞き捨てならないな。孤独が、いや、孤独でしか癒せない傷もあるだろう?」
 清は――もといダモクレスを切りつけんと刀を抜きかけていたハルは、柄から手を放し、きらりと双眸を輝かせた。
「君達のなかにも孤独に救われた時があったろう……いや気づいていないだけであったはずだ!!」
 熱心に語り掛けるハル。言われてみるとそんな気がしてくるから不思議なものである。※ただしイケメン好きの女性に限り、ではあったが。
「わ、わたし孤独大好きです! なのでこの後二人で――」
「あっ、抜け駆けしてんじゃないわよクソビッチ!」
「あのぉ~、孤独について詳しく教えてほしいなぁってぇ~」
 我先にとそれぞれ連絡先を押しつけて女性信者は嵐のように去っていった。
「あれがあなた方を孤独にする人間ですよ」
 信者達に耳打ちするロイ。残る男性信者から魔竜王顔負けの憎悪の視線を注がれて、ハルは顔を逸らした。
「……後は任せた」小さく呟いて少しばかり信者達から距離を取る。怯んだわけではない、決して。ただ彼らを通して伝わる地球規模の怨念は一人が背負うには大きすぎた。
 そんな感情に正面きって立ち向かえるのは、若干ニブい少女くらいであろう。
「モテな――じゃなかった、孤独なのも得なのよ。一人でご飯なら服装も気にしないし会話も気遣いもいらない。ニンニク増し々、替え玉10杯、〆のチャーシュー丼を食べたって誰にもひかれない、こんな最高の環境って他にはないわ!」
 エリザベスがどんと胸を叩く。食べた分の栄養が全て注がれてますといわんばかり、揺れる峰々も主張した。
「みんなでごはん、ほわほわ。でも、ひとりじめーも、おおきなどりーむ」
 つぶやいて伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)は虚空を見上げた。煤で薄汚れた天井しかないが、マッチ売りの少女さながら夢見心地でとびきりのご馳走を思い浮かべる。
 焼き網からたれる脂で燃え上がる情熱の炎。かるび、やきにくのおうさま。
「すきなものだけ、ぜんぶ食べていい……ひたすらもぐもぐ。それも、ほわほわのうわーい、だ」
 ならって勇名も胸を叩いた。一切の緩衝材がなく、どんっと壁を殴るような固い音がした。栄養はどこに消えているのかと世界中の学者が疑問符を禁じえないだろう差が露見したが、まぁそれは置いておこう。ロイの顔には別の意味合いで驚愕の色が広がっていたのだから。
「まっ、まさかあなた達……だからそんな戦隊色みたいなジャージを着てるのですか!?」
「だって焼肉だもんねレッド勇名ちゃん。びしっ」
「んう、ぶるーえりざびしーっ」
「いえいえいえ、お仕事でしょう、お・し・ご・と!! あとよだれ拭きなさいっ」
 投げつけられたハンカチが勇名の顔を覆う。びしっ。
 セレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)はロイの言葉を理解できないとばかりあからさまに首を傾げながら手を挙げた。
「イエローの私としてはしょーじき焼肉ついでの仕事です。びしっ!」
「ぱぱっと片づけてハラミ食べたいなんて考えてないわよ、びびびしっ! ねー、アネリー」
 ヴィヴィアンがキャリーケースでくつろぐ『アネリー』を覗きこんで微笑みかける。
 野暮ったい緑のジャージはとても人気ガールズバンドのヴォーカルにはそぐわないが、ステージ衣装など持ってきた日には強力な焼肉臭でおしゃかになりかねない。
「今日はオフだし気にしないでいいよね~」
「オフじゃない、事件です! というか今までスルーしてきましたが、そこ、なんでバケツを被ってるのですか!」
 もっともな疑問である。が、きよ――焼肉ロボットは一心不乱に肉をのせていた。打ちどころが悪かったのか、機械じみた動きのまま真っ赤な……焼肉のタレを垂らしている。
「ワタシハ焼肉ロボット……」
 果たしてヒールで治るだろうか?
「決まってるじゃない、いたいけな少女達の前でドきつい下ネタ説得を披露しようとしたからよ。つまり天罰ね! あ、良い子は真似しちゃダメよ」
 ローレライが指を立ててぱちんとウインクをした。オルティアが恐る々、尋ねる。
「ローレ……だ、誰に、いってる?」
「な……なんとなく必要な気がしたのよ」
 そう、なんとなく必要なのだ!
 一人の人間が壊れゆく様は信者達を恐怖させるに十分であった。このままでは説得どころではない――しかし、
「まぁまぁ、そんなにみんなでお食事が好きなら今から私と一緒に食べましょ~。ねっ?」
 セレネテアルがにっこり笑顔をつくりテーブルにつくと、一も二もなく信者達は競うようにテーブルにかけた。
 焼けた肉をいち早く献上すれば彼女の笑顔は自分にだけ向けられる! 幸い、焼肉ロボットの準備で肉はいい塩梅に焼けているではないか! 信者達はそれぞれに箸を構えてその時を待った。
「では、いっただきま~す」
 しかして女神が号令を出せば……、
「「「に、肉がねえ!?」」」
 肉は網の上から忽然と姿を消した。
「自然の法則を乱す……なるほど~、良い事を言いますよね~。みんなで焼肉は自然の法則そのもの、まさに弱肉強食の戦場ですっ!」
 ごくり。セレネテアルが喉を嚥下させて舌なめずりをする。怪しく揺蕩う眼光はまさに百獣の王、肉食獣のそれである!!
「一人焼肉という守られた状況を捨ててぇ!」
 ザブトンが、カイノミも、大ぶりなサーロインまで網から一瞬で攫われる!
「過酷な戦場に飛び出してきたからには覚悟してくださいっ」
 信者達が伸ばした箸が空を切り、勢いあまって網に突き刺さる。上空を悠々と飛行したそれらは余裕をもってセレネテアルの口に飛び込んだ。
「んぐっんぐ……。私と同じ戦場に立ったという事は――こういう事ですっ!」
 旋風に炭火が散る。彼女が通った後には一片の肉すらも残らない。
「勿論、同じ網を囲んだからには会計はワ・リ・カ・ン! ですよ」
「「「た、楽しくねえええ!!」」」
 セレネテアルと一緒に肉を喰らう、それ即ち、海を砂で埋めるような行為である。これ以上、虚無の胃袋へ供物を捧げる気にはなれない。信者達は孤独の素晴らしさを噛みしめて一目散に逃げだした、大事そうに財布を抱えて。
「不甲斐ない連中です! こうなれば私直々にあなた方に共生愛を教え」
「せっ――生理的にっ、拒絶!!!」
 近づいた相手が悪かった。おそらくロイには突如眼前に馬蹄が現れたようにしか見えなかっただろう。いや数多のデウスエクスと戦ってきたエリザベスにすら追い詰められた人馬の超越した動きを見切ることは出来なかった。
「この神業、さすが期待の新人さんねっ!」
 ぐっと熱く拳を握る彼女の後ろ、ぽっかり穴の開いた天井を見上げながら、期待の新人は頭を抱えていた。
「うぅ~、また、やっちゃった……」


 さて、ところ変わって『ぎゅーぎゅー亭』の大テーブルでは、熱い視線をうけてオルティアが口をひらかんとしていた。
「ん……歓迎、ありがとう。と、今日は、お疲れ様。こ、これからも、どうぞよろしく…」
「んじゃぁキュートなセントールのオルティアちゃんが地球に来たことを祝って、乾ぱぁーい!」
「「「乾ぱぁ~い!!!」」」
 清春がかけた号令で一斉にグラスが打ち合わされた。小気味いい音が店内に鳴り響くと、はやくも焼き網から胃の腑をぎゅっと掴まれる、至福の匂いがたちあがる。
「さて、新たな仲間の歓迎会だ。今日は私がまとめて面倒見よう。遠慮はいらない、好きに食べてくれ」
「さっすがハル! 遠慮なくごちそうになっちゃうね~、びしっ」
「奢り? 食べ放題? ……今日の戦いはっ…ここから!!」
 ひとりお誕生日席な位置でオルティアが小さく拳を握った。説得の時にはついぞ見られなかった戦馬の凄みが今頃になって発揮されている。
「私、大食いだけど大丈夫かしら?」
 不意にローレライが首を傾げるが、
「なに、問題はない。好きなだけ食べてくれ」
「やたーっ、許可が下りましたよ~。店員さーん、ちゅ・う・もんっ、ちゅ・う・もーん!!」
 その太鼓判をうけてセレネテアルがメニューを広げて声を張り上げた。
「おいおい、だいじょーぶか? 相当食いそうじゃね?」トングで器用に肉をさばく清春が耳打ちするも、ハルの微笑は崩れない。
「ここは食べ放題の店らしい。つまり金額も一律だ」
「なるほどな。あーでもよ、みんな食べ放題外のメニューも頼みまくってんぞ」
 ビシィッ。音を立てて氷の微笑にヒビが入った。
「ははっ、良い町金紹介してやるから心配すんなよ」

 一方で女子が6人もいればかしましい。
「ハラミーからのビ~ル! ん~さいこう~~」
 肉シミもなんのその。膝にのせたアネリーとお肉を楽しみつつ、ヴィヴィアンは堪えられないとばかり声をもらした。
「んー、ぼくにも、ぼくにもー」
 勇名がテーブルに身をのりだして手をふりふり。と、言うそばから皿に肉の山が出来上がる。どうも焼肉ロボ――清春は正常に動作しているらしい。
「勇名ちゃん、いっぱい食べるのね」
「いっぱいたべれば、でっかくつよくなるって。ぼくも、でっかく、つよく、なるから、たべる」
「背を伸ばしたいんだぁ。ふふっ、成長期だもんね」
「んぅ、20メートル、ぐらい」
「へ~2メート……に、20メートル!?」
 ヴィヴィアンの脳裏に広がったのは地球に襲来してきた敵と戦う勇名の姿である。
 それは流石に大きすぎない!? そんなに大きいと――、
「大変っ。着られる服がなくなっちゃうよっ」
「おー、それはこまる」
 いやツッコミどころが違う。

「焼肉といえば~~お米の白山です!!」
 器の小せぇ茶碗になど用はないとばかり、セレネテアルはマイ丼ぶりを取り出すと白米山盛りにしたそこへささっと肉を盛りつけた。白山の斜面に肉がひしめく、見事な焼肉富士である。
「ほっかほかの白ご飯にお肉のコーティング、奇跡のコラボね。シュテルネ、私達も食べまくるわよ!」
「――!!」
 びしっと敬礼をしあってローレライとシュテルネが素早くお肉を盛りまくる。負けじとオルティアも手を伸ばしかけて……、
「どうしたのエリィ?」
 わなわなと体を震わせるエリザベスに声をかけた。大量の肉を皿に抱えながら、苦しみもだえるように息をはく。
「ご飯は…ご飯はNG。だって太るものっ!!」
「ん、と。でも――」
「ダメ、見せないでっ、見たらぜったい食べちゃうから」
「大丈夫ですよ~。ぜーんぜん太ってないじゃないですか。それに説得でカロリー使いましたもんっ、太るわけがない!」
 からからと笑いながらセレネテアルが焼肉富士をぺろり平らげた。
「つーか二人ともお腹じゃなくて別のとこに――」
「あれー? 柄ぽんはまた『めしゃぁ』ってなりたいのかなぁ?」
「なるほどー、カロリー消費にお付き合いしてくれるんですねぇ。さっすが優しいですねぇ~?」
 拳士と騎士が拳を鳴らしながら迫る。通常、美女に囲まれれば大喜びするところだが、状況が状況である。と、
「ま、待って……!」
 二人を止めたのは『きゃり子』……ではなくオルティアであった。箸と茶碗は離さないものの、声音は少しばかり強い。
「オルティアちゃ~~ん!」
 伸ばされた手をさっと避けると、オルティアは告げた。
「焼く人がいないの、困る。いまは食べるのに専念、運動は、後でっ!」
「ちょっ、オレが死ぬの確定!?」
「心配するな、良い病院を紹介してやる」
 してやったり、というふうにハルがにやりとした。
「店員さーん、特上骨付きカルビ10人前追加でねー」
「みの、はちのす、せんまい、ぎあら、さんにんまえずつ。たのむー」
「勇名ちゃん通だねっ。よーしビビンバも頼んじゃお~っ」
「おーびびあんもじゃすてぃす!」
 ビシィッ。ハルの笑顔は長続きしなかった。
「あ、柄倉さんもゴチになりまーす!」
 ビシビシィッ。清春のそれもである。
「ガデッサさんもありがとうなのよ!」
「がぅ!?」
 ついでに卓下でこっそり肉を食べていた狼も犠牲になった。
「――ふふっ」
 悲喜こもごもの彼らの表情をみて、オルティアは不意にくすり笑ってしまった。
 地球人というのはどうしてこうも騒がしく一瞬を必死に生きようとするのだろう。その輪に足を踏み入れてみたいなどと、どうして私は思うのだろうか?
 地球という星は不思議だ、本当に。けどたしかなことが一つだけある。
「…地球は、とってもご飯が美味しい……」
「オルティアさん、楽しんでるみたいね」
 ローレライは内緒話でもするようにひっそりと声をかけた。そして、こくりこくりと頷く彼女に丁寧にラッピングされた包みを手渡した。
「これは――」
「テディベア、気に入ってくれるかわからないけど……」
「そんなことない。ローレ……あ――ありがとう」
 頬を紅潮させるセントールの少女が控えめに微笑む。つられてローレライも微笑んだ。
 こっちこそ、ありがとうなのよ。新しいお友達に出会わせてくれて。
「いーち番、びびあんっ、おぅてぃあちゃんに捧げまーしゅ!」
 完全に出来上がったヴィヴィアンが陽気に歌いだすと、いっそう歓迎会は賑々しく飾られた。
 後に『会計まさかの二桁多い』事件が起こるのだが、それはまた別の話である。

作者:東公彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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