春宵の桜

作者:崎田航輝

 涼しい春の宵に薄紅の桜がそよぐ。
 満開になった花が穏やかな夜風にはらはらと舞うと、人々は賑わいの中で足を止め、優しくライトアップされた並木道を眺めていた。
 桜の立ち並ぶ公園で、催されているのは──桜祭り。
 美しい木々を仄かな灯りに照らす催しは、年に一度の景色。深い瑠璃紺の空に映える花の色で人々を惹きつけている。
 澄んだ川面を見下ろせば、そこにも花弁の絨毯が出来ていて桜一色の彩を楽しめる。道を進めば屋台が並び、祭りの美味も堪能できた。
 春の短いいっときにだけ味わえるその美観を、人々は時に明るく、時に静かに眺め、それぞれに過ごしている──と。
 そんな自然豊かな眺めのずっと奥。
 木々の密度の濃い、人目につきにくい場所に──土と花弁にまみれた機械があった。
 微かに地面に埋もれてしまっているそれは、照明器具。
 かなり古い型で、投棄されたのか回収されないまま放置されたのかも判然としない。嘗ては桜を照らしていたのだろうか、今はただ壊れた躰で眠るばかりだった。
 が、そこにかさりかさりと這い寄ってくる影がある。
 それはコギトエルゴスムに機械の足が付いた、小型ダモクレス。
 その照明に近づくと、内部に侵入して一体化。俄に動き出すと──手足を生やして埃を払い、立ち上がっていた。
 そのまま木々の間を抜けてゆくと、並木道へ。眩い光を発しながら、人々へと襲いかかっていった。

「お花見の季節よ!」
 春風の心地よいヘリポート。
 片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)は集まったケルベロス達へ明るい声を聞かせていた。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)もそうですね、と頷いている。
「とある街の公園でも桜祭りが開かれていて……美しい夜桜や屋台などで賑わっているようです。ただ──」
 そこにダモクレスが出現してしまうのだと言った。
 木々の奥に放置されていた器具があったようで──そこに小型ダモクレスが取り付いて変化したものだという。
「このダモクレスは、人々を襲おうとするでしょう」
「そこで私達に、撃破に行ってほしいというわけね!」
 芙蓉が言えば、イマジネイターも頷いて説明を続ける。
「戦場となる場所は公園内の並木道となります」
 こちらは現場に向かい、木々の間から出てくる敵を待ち伏せして戦うことになるだろう。
 一般人は警察の協力で事前に避難がされるので心配は要らないと言った。
「迅速に撃破することで周囲の被害も抑えられるでしょう」
 ですので、とイマジネイターは続ける。
「無事勝利できた暁には、皆さんも桜を眺めていっては如何でしょうか」
 桜の咲く並木に、木舟で水面を渡れる川、ゆっくりと寛げる広場に、屋台。静かに桜を眺めるのも、祭りの賑わいを楽しむのもいいでしょうと言った。
 芙蓉はこくりと頷く。
「そのためにも、しっかりと倒さないとね!」
「皆さんならば、人々もお祭りも護れるはずですから。健闘をお祈りしていますね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
エイン・メア(ライトメア・e01402)
ヴィヴィアン・ローゼット(びびあん・e02608)
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)
サイファ・クロード(零・e06460)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
ネフティメス・エンタープライズ(手が届く蜃気楼・e46527)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)
四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)

■リプレイ

●桜の道
 目の前の桜は灯りで淡く輝き、遠い花は紺青の空と溶け合い優しい紫を刷く。
 夜に映える並木の美しさを、公園に降り立ったネフティメス・エンタープライズ(手が届く蜃気楼・e46527)は見上げていた。
「夜桜とは風流ですね」
 こがねの瞳に映す度に、春の彩は清らかで。
 故にこそ、その景色を守るために最善を尽くしたいと意志も籠もるから。それにしても──と、視線を木々の間に遣る。
「壊れた器具をそのまま放っておくなんて、困った人もいたものですね」
 言って見つめるその先。
 がさりと奔って出てくるのは、照明のダモクレスだった。
 明るい光を明滅させて、頻りに周囲の桜を見やる。その姿に、サイファ・クロード(零・e06460)は共感を得るように腕を組んでいた。
「ダモクレスだって花見、したいよなあ。春だし、ちょっとくらいハメ外してもいいだろって気が大きくなっちゃったのかな」
 気持ちは分かるよ、とうんうん頷いて。
 同時に足を踏み出し近づいていく。
「でも残念、好き放題は許されないんだな。花見にもマナーはあるんだぜー」
「そうですよーぅ」
 こくりと頷くエイン・メア(ライトメア・e01402)も、んむんむーぅとその光を見据えながら──手には精緻な彫金の戦槌。
「照らされてこそ映えるのが夜桜ですがーぁ、殺意でぎらぎらしているのは風情が無いですよねーぇ」
 言いながら、可憐な相貌に愉しむような笑みを浮かべて。
「素体の照明器具さんの無念が呼び寄せた節なのかもしれませんがーぁ、一線を越えようとする以上、問答無用で鎮圧しますーぅ!」
 瞬間、地を蹴って跳躍。冷気を棚引かせながら槌を振り下ろしていた。
 インパクトの瞬間、サイファも七彩に耀く光を発破。前衛を包み込むことで、エインの初撃の威力を引き上げている。
「暴れたいならコッチにおいで? 気が済むまで相手してやるから」
 サイファの声に、ダモクレスは反応するように強く瞬く。
 それは膚を焼く程の灼熱。
 だけれど──片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)は耳をぴこり。
「あらあらよい趣味をした相手だこと! いいわね、私も機械になるなら輝くものがいいわ」
 好みがあうじゃない、と。
 烈しい光量に怯みもせずに、フフフと愉快げな笑みを浮かべて。
「ではレーッツダーンス! 派手に楽しく遊んであげる!」
 兎耳の付いたカードを束から引き抜くと、淡く耀かせて槍騎兵を召喚した。
 芙蓉に漲るやる気のせいだろうか、その騎兵までもがるんるんと槍を振り回し。踊るように、放つ冷気で反撃をしていく。
「回復は、お願いね!」
「はいっ!」
 と、芙蓉に応えて頷くスズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)は、檳榔子黒色の杖を翳していた。
「光と熱、厄介な相手ですね……でも!」
 すぐ治療してみせます、と。
 瞬間、尻尾をふわりと揺らすと──呼び込むのは優しい涼風。
 銀の煌めきを帯びたその慈愛の風は、肌に優しく触れると灼けた傷を拭い去っていた。
 同時にスズナは傍らに視線を向けて。
「サイは攻撃を!」
 それに応える木箱のミミックは、駆け出して敵へがぶりと噛み付いていく。
 ダモクレスがじたばたと手足を暴れさせている隙に──芙蓉はくるくる踊るテレビウム、帝釈天・梓紗に画面を発光させて盾役を治癒していく。
「おっと、敵が逃れそうよ!」
「ん、それじゃあ、あたしに任せてね」
 芙蓉が気づけば、奔るのがヴィヴィアン・ローゼット(びびあん・e02608)。
 鮮やかな薔薇色の髪を翻し、桜吹雪の中を軽やかに跳ぶと──ひらりと一回転。花風と共に舞い降りて流麗な蹴りを見舞っていた。
「アネリー!」
 飛び退きながら呼べば、匣竜のアネリーも毛並みをふわふわ靡かせて。羽ばたいて翔び抜けながら、燦めくブレスを浴びせていく。
 衝撃にダモクレスが後退すると、その間隙にすらりと剣を抜くのがディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)。
「では、この隙に護りを固めておこうかねぇ」
 刃にエネルギーを伝わせると、星灯りにも似た粒子を纏わせて。剣先で耀く円陣を描くと、立ち昇った光が皆を纏い防護していった。
「前線はこれで問題ないね」
「じゃ、後ろは任せてもらうよ」
 と、翼を耀かせて空へ翔けゆくのが四季城・司(怜悧なる微笑み・e85764)。光の軌跡を残しながら皆の頭上を巡ると、掌に光の塊を集めて。
「エネルギーの盾よ、仲間を守ってくれ」
 撃ち下ろした輝きに盾を形成させ、仲間の前方に壁として留めていく。
 ダモクレスはその間も攻撃を目論む、が。その面前へ素早く滑り込む影がある。
「させませんよ」
 炎のように波打つ刃に強い光を帯びさせるネフティメス。刹那、閃く剣線を一つ、機械の体に深々と刻み込んだ。
 僅かに破片を零しながらも、ダモクレスは閃光を放つ。けれど盾役がしかと受け止め、衝撃を抑えれば──ディミックが地に手を当てていた。
 送り込んだ微細な振動波から、逆流する大地の魔力を吸い上げて。透明な光を纏った風にして仲間の傷を払ってゆく。
「攻め手はお願いしようかねぇ」
「了解したよ」
 と、艶めくレイピアを握るのは司。
 今回の戦いは、自身のとって初の仕事でもある。故に些かの緊張もあるけれど──。
「僕のこの剣技を、避けられるかな?」
 敵を見据える蒼の瞳は夜空の如く澄んでいて。冷静さも怜悧さも保って、動きに欠片の淀みもなく──その剣を振るって翳した。
 瞬間、風を裂く波動が飛翔する。『紫蓮の呪縛』──衝撃波にダモクレスが縛られると、司は肉迫して一撃。鋭い刺突で金属の躰を貫いた。

●決着
 火花が弾けて、光が不安定に明滅する。
 ダモクレスは壊れかけた躰で、尚その光を消そうとはしない。その姿をディミックは短く観察していた。
「こうして見ると、大分旧いもののようだねぇ。人目につかぬ死角に捨て置かれたから……長いこと気づかれなかったのかもしれないね」
「……その寂しかった気持ちが、デウスエクスを引き寄せちゃったのかな」
 ヴィヴィアンは少しだけ眦を下げる。
 そうね、と。芙蓉は頷いていた。
 付喪神の概念にも慣れている芙蓉にとっては、その考えは納得出来るものだ。
 きっとあの照明具はそんな心を抱いていた。その発現のきっかけがデウスエクスだっただけだと、衒わず思えるから──敵への怒りはなく、声音は明るくて。
「最後にいっぱい暴れて遊びましょ! そして……生まれ変わったら私のうさぎになりなさいな!」
 勿論ここの桜は傷つけずにね、と。
 言えば、スズナもまた声音に力を込めていた。
「ええ、新生活を鮮やかに彩ってくれる、綺麗な桜のお花見日和──それを邪魔することはだけは止めないといけませんからっ!」
 そのまま妖力を揺蕩わせると燃え盛る狐火を顕現。『狐火・燐火』──地を這う弾丸と成した焔でダモクレスを穿つ。
 そこへ司も燦めく氷晶の渦を収束させて。
「これで、キミを氷漬けにしてあげるよ」
 二重螺旋の冷気を飛ばして敵を凍結させる。その後素早く光翼で羽撃き、連撃で炎の蹴撃を叩き込みながら声を投げた。
「このまま攻撃を」
「ええ」
 と、淑やかに頷くネフティメスは、敵の周囲を轟々と震動させていた。
 ──その血は厄災の呼び水にして雷獣への贄。
 ──永遠から解き放つ神罰こそが慈悲と知れ。
 次の刹那に押し寄せるのは滂沱の渦潮。そこへ雷撃を撃ち込むことで、稲妻を連鎖させ成長させてゆく。
 『イクシオン・メイルシュトローム』──天に伸びる柱となった雷光は、爆裂する衝撃でダモクレスを吹き飛ばした。
 倒れ込むダモクレスは、尚抵抗の光線を放つ、が。
「通さないよ!」
 とん、と。ヴィヴィアンが跳んで身を以て衝撃を受け止めていた。
 直後には、ディミックが掌より黄金の光を照射して治癒。
 サイファも手を伸ばすと星空を映したかのような霧を燦めかせる。体に溶け込むそれが、温かな心地で苦痛を取り払っていった。
 ダモクレスが間合いを取ろうとすれば──サイファはその背後へ走り寄り。相手が横へ跳ぼうとすれば、その傍でうろちょろしてみたり。
「ほらほら、無視しないほうが良いんじゃないの?」
 最後まで存在をアピールし、あくまで注意を逸らさせない。
 ダモクレスが狙いを向けてくれば、サイファはそこで視線を横へ向けて──頷いた芙蓉が矛先から陽炎を発射。『傷に咲く』──その一撃で熱の花を咲かせ蝕んでいった。
「さあ、今がチャンスよ!」
「乗らせてもらいますーぅ♪」
 と、自身を光で包むのは、エイン。
 膨大な魔力を揺蕩わせると、ドラゴンの眷属より鹵獲した力を解放。翼と腕を魔力で一体化していた。
 『起律駆動:エリミネーター』──巨腕を振り上げて放つのは慈悲無き打力。暴圧の一撃が叩き付けられるとダモクレスの半身が潰れた。
「最後は任せますーぅ」
「うん」
 斃れゆく機械へ、ヴィヴィアンは浄化の歌を高らかに唄う。
 紡がれる『月白の慈母に捧ぐ譚詩曲』は、ダモクレスの命を静かに消滅させて。桜の景色に静寂を齎した。

●宵桜
 優しく耀く薄紅の下に、賑わいが満ちてゆく。
 番犬達は周囲の景観の無事を確認すると、人々を呼び戻していた。既に祭りは再開され、活気が溢れ始めている。
「これで、この子も一緒にお花見できますね」
 と、ネフティメスは一角に置かれた旧型の照明をそっと撫でていた。完全に壊れた後、修復することで灯りの役割を果たせるようにしたのだ。
「よかったね」
 ヴィヴィアンも、桜を照らすそれに笑みかけてから──はっとして顔を上げる。
 屋台が営業を始めたことで、風に芳しさが混じってきたのだ。
「ふわ~、あちこちから美味しそうな匂いが……!」
「折角ですから、食べ物を買って桜の見所を皆で巡りたいですねーぇ」
 エインも店々に惹かれていると、隣の芙蓉もこくこく頷いていた。何より仲間達と一緒に楽しめるのが嬉しいから。
「行きましょ! こんな人数で楽しむなら、お祭りグルメで宴会しかないじゃない!」
 言うが早いか、屋台が並ぶ道へ駆け出してゆく。
 エインも皆に振り向いた。
「さぁ、皆さんも来てくださいねーぇ。未成年の方もいらっしゃいますし、ここは大盤振る舞いでおごりますよーぉ!」
「そうだね、行こう!」
 愉しげに続くヴィヴィアンは、巫山・幽子の袖を取る。
「幽子ちゃんもどう?」
「ご一緒して良ければ……」
 と、幽子もぺこりと頭を下げて。良い匂いとヴィヴィアンに導かれていった。
 闊達な呼び声と、じゅうじゅうと鉄板から上がる音。祭りに特有の賑わいの中で、芙蓉はたこ焼きを調達していく。
「私一度はたこ焼きを複数買ってみたかったのよね!」
「じゃあ、あたしはこのお花見団子を」
 ヴィヴィアンは言って、たこ焼きを受け取った面々に団子も渡していた。
「ほら、お花見の時のお団子は別腹っていうでしょ?」
「ふむ、では頂こうかねぇ」
 言いつつディミックは丁寧に受け取る。
 花見の経験はあるけれど、未だ慣れていない身でもあるのでぎこちなさは少々残る。それでも皆に倣って食べ物を抱え、漫ろ歩いていた。
 芙蓉はまだまだ買い物中。年少組を見ると笑みかける。
「フフフ子供たち! 大人が出す故チョイわがまま言いなさいな!」
「いいのですか? それでは……こちらを」
 と、スズナが示したのはあんこ入りの大判焼き。
「これだけで良いの? 他にも……あともっと高いのもいいわよ?」
「はい。いやそのですね、高い物イコール美味しい訳ではないので!」
 故にこれで、とスズナが言えば芙蓉も快く購入。
 次に視線を受けた司は、うーんと見回してからソースの芳ばしい匂いに向かう。
「じゃあ、僕は焼きそばで」
「王道ね! 私も買おうかしら」
 言って食べ物を揃えつつ、広場に差し掛かるとベンチに座って改めて食事。
 サイファは貰った団子を食べて頷く。
「やっぱり団子はいいね!」
 もっちり食感と優しい甘味。こんな場で食べれば美味しさは一入で。
 その様子にヴィヴィアンも微笑んだ。
 こうして皆に奢るのは初めてで、内心ドキドキ。大人の階段を上った気分でもある。だから皆が喜んでくれて嬉しくて、そんな皆と一緒に楽しめるから一層上機嫌だった。
 それに呼応してか、アネリーもどこか嬉しげ。
「おいしい?」
 言ってヴィヴィアンが団子やあんず飴を分けてあげると、鳴き声を返しつつはむりと齧って味わっているのだった。
 スズナもかぷりと大判焼きを食べて、仄かに銀耳を揺らす。
 焼きたてはあったかくて、生地の甘味がしっとり伝わる。そこにたっぷりあんこの香りと甘さが相まって何とも美味だった。
「とってもおいしいですっ」
「うん。こっちも美味しいよ」
 と、司は鰹節が芳しい焼きそばをすすりつつ頷いて。貰った団子もしっかり楽しみ、塩気に甘味にと愉しんでいく。
「では私も──」
 ネフティメスも、団子を実食。
 串の先端の紅色団子は、仄かな梅の味がついていて甘酸っぱくて。真ん中の白色はこしあんが滑らか。最後の緑色はよもぎが練られていて自然の甘味を感じた。
「こういった、他では中々食べられないようなものは良いですね」
「これも風情というものかねぇ」
 頷くディミックも、もちもちの感触を機械の口で感じ取り、その風味に舌鼓。
「お祭りならではの美味、良いですよねーぇ」
 と、エインも醤油香る焼きとうもろこしを味わって。スマホで桜を撮ることも忘れない。
 ヴィヴィアンも木々に瞳を細めた。
「桜も綺麗だし食べ物は美味しいし、楽しいね~。今の時期しか楽しめないから、一層贅沢に感じるのかもね……」
「ああ、つくづく思うんだけど花見って贅沢な時間だよなあ」
 サイファも実感を胸に瞑目する。
「人生の充実っていうの? こーゆーのって大切にしたいよな」
 なんて淑やかに口遊みながら……両手には綿飴にイチゴ飴、焼き鳥まで完備して風流は何処へやら、あぐあぐと食べて笑み。
「はー、買い食いって幸せだよなあ! よし全店制覇だ!」
 そうしてまた皆と食べ歩きしていく。
 歩みつつ、ディミックは人々も眺めている。
「不思議に思うのだが、花を見るといっても桜のときだけは不思議と傍で宴会が開かれる気がするねぇ」
 興味深い文化だ、と。言いつつ自身もベビーカステラを食べながらその一部となって。
 その内に特に桜の密集した一角に行き着いた。
 皆と共に司は立ち止まる。
「なかなか綺麗な景色だね。ここまでやって来た甲斐があるって気がするよ」
「ほんとうですねっ!」
 スズナも見上げながら、ふと過去を想起していた。
「去年も戦闘して、その後お花見もして。……1年があっという間ですねっ」
 それからはらりと眼前を横切った花びらをキャッチ。
「押し花の素材にすると、ずっと綺麗なんですよ?」
「そんな楽しみ方もあるんだね」
 サイファは自分もじっとその桜を仰いでみる。
 サキュバスでもあるが故、綺麗なものを綺麗と思うだけの感性があると、自覚はある。だからその凄絶な程の美しさには、確かに心惹かれた。
 何より、それなりに年齢を重ねて多少は落ち着いたはずだから。大人らしく、玄人らしく……そんなふうに花見を愉しむのも悪くないと、思いつつ。
「あっ、あの屋台まだ行ってない!」
 イカリングの店を見つけると、あっさりそっちに魅了されて。ついでにじゃがバターやら何やらを買い込んでご満悦だった。
 芙蓉は自身もはふはふ、あむあむとたこ焼きやクレープを食べつつ笑む。
「沢山買ったわね!」
「美味しいものは別腹だからな」
 と、サイファはぱくぱく口に運びながら愉快げだった。
「ふはは、やっぱオレは花より団子派みたい!」
「何なら花も団子もマックスエンジョイするのだわーッ!」
 芙蓉も負けじと食べては桜を見て、皆と分けては景色を楽しみ。
 はたと思い立つとスマホを皆に向けた。
「フフフ、皆写真撮るわよ!」
「記念撮影ですか?」
 良いですね、とネフティメスは微笑み、桜を見上げて立ち位置を考えつつ。少し自身の髪を整えていた。
 それから気づいてない仲間の肩をトントンと叩き、カメラに向かって笑顔。
 ヴィヴィアンもアイドル歌手の性か、条件反射で決めポーズを取り、いい笑顔を見せている。芙蓉はそこへレンズを向けて──。
「ぴーす! ……なんてね! 動画よーっ!」
「ふえっ、動画なの!?」
 ヴィヴィアンがびっくりすると、芙蓉はしてやったりというように。
「フフフ驚いた?」
「へ、変な顔してなかったかな……」
 頬をもにもにと押さえ、ヴィヴィアンが呟いていると……エインがその隣へ歩んだ。
「では、改めて撮りますかーぁ?」
「もちろん!」
 芙蓉が再度スマホを構えると──サイファは両手に食べ物を持って立つ。
「いつでも良いよ!」
「わたしもです!」
 並ぶスズナは、サイと一緒に。
「それでは」
 と、ネフティメスも控えめに傍に寄ると、ディミックは体躯で邪魔しないように皆の後ろに立って。
「これで宜しく頼むよ」
「なら僕は前に」
 司が言って移動すると、ヴィヴィアンは幽子も引き入れつつ、今度はしかと可憐なポーズと表情を見せる。
「ぴーす!」
 そこで芙蓉がシャッターを切れば、桜を背景に皆が収まる写真が出来た。ついでにタイマーをセットし、自分が入った写真も撮って芙蓉は満足。
「いい思い出が出来たわね!」
 それには皆も頷いて──涼しい桜風の中、花見を続けていく。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年3月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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