相克する焦土

作者:崎田航輝

 土煙の中に剣戟音が響き渡る。
 重く、鋭く、振るわれる刃には相手を斬って捨てんとする敵意が宿っていた。
「焦るな。付け入る隙はある……!」
「愚かな──貴様らに後れを取る我らだと思うか」
 攻撃と共に声を奮わせるのは、二つの集団。
 一つは死の気配を纏う、黒色の鎧の騎士達。
 もう一つは豪腕と体躯を誇る、蒼と銀の鎧をつけた衛士達。
 この東京焦土地帯を奪わんと攻め込んできた死神と──迎え討つエインヘリアル勢力だ。
 軍団同士のぶつかり合いは激戦の様相を呈している。
 刃が咬み合えば衝撃に地が揺れ、斬撃が舞えば血潮が飛び散り苦悶の声が劈いて。互いに一歩も引かずに斬り合い、双方の亡骸が生まれていた。
 だが死神十七に対し、エインヘリアル二十三。
 個々の戦闘力自体は拮抗していようとも、数の差を覆すことは出来ず──。
「……苦戦させてくれる」
 呟きながら最後に立っていたのは、エインヘリアルの生き残り四体だった。
 頷き合った彼らは次の戦いへ向かう。この地の支配を渡すものかという強い感情が、兜の奥に垣間見えていた。

「集まって頂き、ありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達に説明を始めていた。
「エインヘリアルが支配している東京焦土地帯──そこへ死神の軍勢が攻め込んだことで戦いが起こっているようです」
 攻めてきたのは死神の集団である死翼騎士団。
 東京焦土地帯を守る第9王子サフィーロの蒼玉衛士団と小競り合いを繰り返している──そんな事情のようだ。
「戦闘は東京焦土地帯で行われているので、一般人の被害者などは出ていません」
 ただ、この機に乗じて敵戦力を減らすことができればそれに越したことはないだろう。
「そこで皆さんには……この戦いに横槍を入れる形でデウスエクスの撃破を行って欲しいのです」

「現場は焦土地帯の一角。瓦礫や砂地が点在している場所です」
 そこで二勢力が戦闘中のところへ、こちらは訪れることになる。
「まずは瓦礫などを使って隠密し、二勢力の戦闘が終わるの隠れてを待つといいでしょう」
 放っておけば予知通り、エインヘリアルの蒼玉衛士団が勝利する。
 その時点で残るエインヘリアルは四体だけになるはずなので、十分に勝機のある戦いとなるだろう。
「敵同士の戦いの後ですぐに攻撃を仕掛ければ、不意を討つことも出来るはずです」
 また、二勢力の戦闘中に乱入することも可能ではあると言った。
「この場合、どちらとも共闘は不可能なので……三つ巴の戦いになるでしょう」
 そうなった場合、敵は死ぬまで戦うが、逃げる敵は追いかけないようなので──いつでも撤退が可能でもある。
「その結果死翼騎士団が生き残れば……死神が有利になるなどして勢力に影響も出るかも知れません」
 どういった形で介入するか、作戦を考えておくと良いでしょうと言った。
「……東京焦土地帯は、エインヘリアルにとっても死神にとっても重要な土地なのかも知れませんね」
 それでも敵の戦力を削ることで、今後の戦いが有利になるのは事実だろう。
「皆さんならばきっと勝利できるはずですから──健闘をお祈りしていますね」


参加者
エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)
スウ・ティー(爆弾魔・e01099)
氷岬・美音(小さな幸せ・e35020)
ルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503)
ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)
天月・悠姫(導きの月夜・e67360)
青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ

●策戦
 霞のような砂風が吹きつけている。
 焦土に渦巻く空気はざらついていて、くすんだヴェールのように周囲を覆っていた。
 その彼方に剣戟の音を捉えて──天月・悠姫(導きの月夜・e67360)は迷彩柄の外套を目深に上げる。
「エインヘリアルに、死神、ね」
 土煙の向こうに垣間見えるのは、巨躯の衛士と死の騎士のシルエット。響く怒号と衝撃音が、爭いの烈しさを教えていた。
 氷岬・美音(小さな幸せ・e35020)はそれを双眼鏡で観察しながら、声を潜める。
「敵同士が争うなんて、結構過酷な状況ですね」
「だからこそ、両方一度に倒すチャンスでもあるのかもね」
 風に氷色の髪を踊らせながら、青凪・六花(暖かい氷の心・e83746)も羽織ったマントに声音を籠もらせていた。
 ともすれば死地。
 故にこそ大きな戦果を期待出来るなら。
「どちらの戦力も残さない様にしないと」
「そのためにも……まずは様子見ですかね」
 美音が言えば、ああ、と頷くのはスウ・ティー(爆弾魔・e01099)。地形と同じ色に染めたローブ姿で、景色に溶け込みながら歩み出す。
「じゃ、行くかねぇ」
 それを機に皆も静かに頷き、前進を始めた。
 瓦礫の陰から陰へ伝うように動けば、死角を確保できる。
 オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)は隠密気流を纏い、皆をその後ろに隠すよう注意深く先行していた。
 蹄も鳴らぬよう、人の形態で。前方を覗いながら、問題がなければハンドサインを送って後続の皆を招く。
(「……敵が気づく様子は、ない。このまま右に」)
(「判った」)
 同じく手振りで応え、ウリル・ウルヴェーラ(黒霧・e61399)は皆と共に緩やかに散開。挟撃できる位置に広がっていった。
 そこまで来れば、敵の姿も間近に見える。
 争う両軍。消音処理した靴で瓦礫の後ろに滑り込み、エルス・キャナリー(月啼鳥・e00859)はそんな景色を見やっていた。
(「東京焦土地帯……あいつらのせいで、こんなになったよね」)
 呟きは聞こえぬ程小さく。
 ただ、隣で体勢を低くするルイーゼ・トマス(迷い鬼・e58503)は、その声で周囲を意識するように──景色を一度見回していた。
 元より、東京焦土地帯に来るとどうしても、日本に来た初日のことを思い出すから。
「……」
 飛行機で到着するなり連れ出され、右も左もわからぬままザルバルグと戦ったこと。
 あの頃と、自分はどれだけ変わったろうか。
(「焦土地帯もいずれ調査しなければな」)
 考えながらも、意識はしかと前に集中させている。
 それはエルスも同じ。
 人形のような美貌に、裏腹な程の胆力と意志を宿して──あのどちらも倒すべき敵なのだと、強く見据えながら。
 ──争え……そして共倒れしていいわ。
 死戦の光景にも怯まず、心に呟きながら成り行きを見守っていた。
 すると、その期待が訪れるように剣戟音が止まる。
 斃れた死神がコギトエルゴスムへ変じ、場に四体のエインヘリアルだけが残ったのだ。
 衛士達は軽く息を整えながら、武器を収めようとしている。
 勝利後の油断。
 その一瞬に、番犬達は瓦礫越しに視線を合わせて跳び出した。
 それは鮮やかな奇襲。
 事態を把握しきる暇も与えない。彼らが驚きを浮かべる頃には、ウリルは掲げた掌へ溢れる闇を凝集して。
「せっかくだけど、まだ続きがある。次は俺達に付き合ってもらおうか」
 中枢たる一体へ、魔力球を直撃させた。

 砂地に転げた督戦兵は、ウリルの不敵な笑みを見てから遅れて目を見開いた。
「貴様らは、番犬……!」
「……まさか、潜んでいたのか」
 三体の衛士達も、声に驚嘆を混ぜている。応えるように、スウは包囲を狭めながら飄々とローブを脱ぎ放っていた。
「ズルして悪いねぇ。でも他所のとこに居座る方がもっと悪いよなー。うんうん」
「そういうこと。潰し合いが終わったら、次は残るゴミを掃除する時間だから」
 と、エルスは指先に真っ白な冷気を湛えて。
「安心しなさい、一人とも残さずに、ちゃんと片づけてやるよ」
 瞬間、鋭利なる氷の弾丸を顕現。宙を奔らせて督戦兵を穿ってみせる。
 呻いたその一体は、とっさに遣り返そうと剣を振り上げた。
 が、その足元が不意に止まる。
 聞こえたのは静かに、美しく編まれるルイーゼの唄声。
『──、──』
 風に揺れる髪を留める、十字のアリアデバイスに小さく触れながら。
 紡ぐ声があまりに透明だから、砂風を重く感じさせて。旋律があまりに軽やかだから、空気すら鈍重に思わせて──動きを極度に鈍らせた。
 盾役の衛士が、危機を察して督戦兵の護りに入ろうとする。
 が、それが止まって見えるほど、オルティアの踏み込みは疾かった。
 蹂躙戦技:逸走単撲──魔力で高められた脚力で暴風の如き速度を生み、盾役をすり抜けて督戦兵の脚を轢き潰していく。
「……皆、気をつけて」
 と、オルティアが言ったのは敵の先鋒が攻撃の意志を見せたから。それに続いて盾役の個体も斧を掲げて走り込む、が。
「簡単に、斃れないから!」
 六花が素早く刀を抜いて、仲間を庇うよう斬打を受け止めていた。
 そのダメージも浅くない、が。美音がふわりと淡紫の髪を棚引かせ、星屑を集めたかのような光を輝かせている。
「これですぐに、施術しますね」
 収束した煌めきは小さな刃となり、光の尾を描いて痛む膚を切開。治療しながら魔力で縫い合わせ、即時に傷を塞いでいた。
 ありがとう、と返した六花は直後に攻勢。督戦兵へと腕を突き出して。
「氷の刃よ、敵を貫きなさい!」
 澄んだ氷柱を飛翔させ、その胸部を鎧ごと突き破っていく。
「……っ!」
 止められぬ猛攻に、督戦兵は苦心。剣を掲げて自己の治癒を優先しようとした、が。一瞬疾く、悠姫がポケットから球形の金属塊を取り出していた。
 それは思う侭に姿を変える『エレメンタル・ガジェット』。
「わたしの狙撃からは、逃れられないわよ!」
 瞬く内に銃へと変貌したそれは、鈍く燿く麻痺弾を射出。督戦兵に突き刺さってその躰を静止させていく。
 それでも敵後衛が治療を試みようとする、が。
「ま、自由にはやらせないよな?」
 手元でガジェットを弄ぶ、戯れのようなルーティンで破邪の力を獲得しながら──スウがその一体へ向いていた。
 直後に突きつけたその機巧から、爆炎を上げて牽制。
 敵回復役が炎傷に苦悶すると──その間隙にウリルが銃撃で督戦兵を瀕死に追い込む。
 そこへ六花が高く跳躍。
「虚無球体よ、敵を飲み込み、その身を消滅させてしまいなさい!」
 氷気を極限まで圧縮して無を生成。投擲してその一体を包み込み、魂ごと消失させた。

●焦土
 ぱらぱらと、砂塵の音ばかりが残響している。
 早々に陣の中心を失い、衛士達は畏れとも忿怒ともつかぬ感情を浮かべていた。元より死神への勝利に酔っていた直後ともなれば、平静では居られないのだろう。
「我らが消耗した瞬間を狙うとは、やってくれるな、番犬よ……」
「死神に、エインヘリアル。どちらも強力だからこそ──根絶やしておかないといけないもの」
 悠姫は視線を返して言う。
 声音には油断はなく。心の多くが顕にならない無表情に、真っ直ぐな意志を込めている。
 ウリルもまた頷いて。
「ここから帰す訳には行かないのでね」
 対峙した敵を、己が力を以て正面から撃ち抜いてみせるというように。黒き竜が蠢くが如く、暗色の煙をその躰から立ち昇らせていた。
 瞬間、敵後衛を貫く衝撃は『Souvenirs』。膚と共に心までもを破り、深い死の幻影を見せていく。
 苦渋を零す衛士は斧を握って自己回復し、魔力も得ていた。
 が、それを予期していた透徹な瞳が空より舞い降りる。
 白椿咲く銀髪を靡かせ、美しき白翼で宙を泳ぐエルス。風に乗る神速で、同時にどこまでも冷静に、最適な手をはじき出すように。
「無駄よ」
 一瞬後には振り抜いた剣で、肩口を切り裂きながら加護をも破砕する。
「さ、次の攻撃を」
「ええ!」
 旋回するエルスに応え、眩い魔力を向けるのが悠姫。
「霊弾よ、敵の動きを止めてしまいなさい!」
 瞬間、螺旋を描くように渦巻いた紅の光が、一直線に撃ち出されて。衛士へ着弾すると共にその挙動を縛った。
「お願い!」
「……ん、仕留めて、みせる」
 そこへ、オルティアが声と共に駆けてゆく。
 他者と触れ合うことを怖がる心は、戦場の中でも外でも変わらない。
 それでも敵へ近づく技を使うのは──恐怖心も拒絶心も、攻撃性に転化してしまえればと望むため。
 まともに向き合うのは難しいけれど、それを利用することはできるはずだと思うから。瞬間、強烈な蹄の一撃を見舞うと共に、斃れた一体を踏み潰してその命を打ち砕いた。
 盾役の衛士が反撃に斧を振り回す、だがルイーゼがきゅっと唇を結び、小さな体で受け止め深手を防いでみせれば──。
「大丈夫!? すぐに回復してあげるからね!」
 六花が澄明な冬風を呼び込み、そのひやりと冷たい感触に清浄な魔力を込めて。痛みと苦しみを洗い流すように消し去ってゆく。
 同時に美音が、薬弾を込めた銃で発砲。宙で燃焼した弾頭に治癒の魔力を散布させ、残った傷を治していった。
 戦線が万全となれば、六花は即時に反撃体勢。
「我が声に従い、現れよ──!」
 虚空に閃光を奔らせると、三角形の頂点を描くように三つの水晶体を召喚。火、氷、雷の属性に燿く衝撃の奔流を生み出した。
 『トライアングル・マジック』──その鮮やかな色彩の渦が盾役の衛士を包み、膚を灼き、凍らせ、眩く破ってゆく。
 救援に入ろうと先鋒の衛士が奔り寄ろうとした、が。
「甘いね」
 スウがゆるりと腕を払う動作。その瞬間、不可視の機雷が一帯にばらまかれていた。
「さぁてどっちの悪戯が上手かな?」
 暗い笑いは、言葉で游びながら既に勝利の確信を得ているようでもあって。
 衛士が不可解げに一歩歩み出すと──視認できぬその機雷が強烈な爆風を生み出し、躰を後方へ吹っ飛ばす。
 衝撃は、一度で終わらない。『悪神の狡知』が存分に発揮されたその空間は既に無限の爆心地。一つが炸裂すれば次の爆破が起こり、焔と風圧の連鎖が腱を裂き、骨をへし折った。
 その衛士が血を吐いてよろめく間に、スウは視線を横へ。
「じゃ、そっちは頼むよ」
「ああ」
 応えたルイーゼは、そっと天を仰いでいる。
 そのまま囁くように小さなメロディを捧げれば──穹より仄明るい光が舞い降りた。
 はらりはらりと、粗い砂煙の中に雪が注ぐように。淡いその輝きが足元にやってくると、ルイーゼはそれを蹴り出して冴え冴えとした衝撃を敵へ齎した。
「もうすぐだ。皆も、やってくれ」
「ええ」
 頷く美音は腕を掲げて、月光の煌きを手元に集めている。
「満月の力を、貸してあげますね。受け取ってください!」
 瞬間、投擲するようにそれを飛ばしてエルスの躰を包み込んだ。妖しく月が光る夜のように、その魔力が湧き上がる膂力を与えると──。
「ありがとう。すぐに斃しますね」
 エルスが言うと同時、空間に巨大な裂け目が顕れる。
 それは世界の隙間。その彼方に渦巻く虚無の力を集めたエルスは、悪魔を思わせる黒い焔を滾らせていた。
「紅蓮の天魔よ──」
 逆らう愚者に滅びを、と。
 差し向けた『天魔崩霊爆』の一撃は、猛烈なまでの爆発を起こす。冥色の業風に襲われた衛士は、悲鳴を上げることすら出来ずに焼き尽くされて消滅した。

●晴空
 衝撃の余波に砂埃が荒れ狂い、強風が吹き付ける。
 それに煽られてふらつく巨躯の衛士は──残り一体。既に形勢が傾きつつある中で、顔に苦々しい色を滲ませていた。
「だが、此処で退くわけには行かぬ」
 掠れた声音で呟いて、それでも斧の魔力で自身を癒やす、が。
「駄目駄目、おじさん見逃さないよん」
 衛士の躰を淡い光が包んだその直後。
 スウが軽やかに飛び込んで、間近から炎弾を発射。苛烈な火力で敵を包み、敵が得た破魔の力を一瞬で消失させていた。
 唸りながら後退する衛士。
 だがそのまま距離を取らせることも、ルイーゼは許さぬように唄声を響かせて。強く届いたパッセージが、まるで音の塊となるように敵の足元を重く固めてしまう。
「次、頼む」
「うん!」
 ルイーゼに応えた六花は、一瞬後には無数の氷棘を顕現。隙間のない程の鋭利な雨として降らせて全身を穿っていった。
 弾ける血汐に敵の苦悶が交じると、エルスは一層慈悲無く手を伸ばして。宙に直線を描くよう、高速の氷弾で胸部を貫いた。
 朦朧とする衛士は、既に回復手段をとっても無駄と悟ったろう。せめて攻撃を続けようと斧を暴れさせる。
 だが悠姫が銃型のガジェットを翳して受け止めれば──余波で受けた傷へも、美音が優しく触れるように指先を滑らせて。治癒の魔力を直接注ぐことで素早く苦痛を拭い去った。
「これで、痛みも無いはずです。後はお任せしますね」
「──勿論よ」
 敵を見据えた悠姫は、濃密に燿く魔力を収束させて、銃口から発射。
「この一撃で、身体を石化させてあげるわ!」
 圧縮された魔法を拡散させ、衛士の躰を固めながら吹き飛ばす。
 オルティアはそこへ高速で追いすがりながら、同時にガトリングを駆動させていた。劈く程の連続銃撃で、そのまま敵の躰を蜂の巣にすれば──。
「……最後は、頼みたい」
「ああ。これで終わるとしよう」
 応えたウリルが、昏き球体を頭上に形成している。
 直下に叩き下ろすように放たれた闇の塊は──跡形もなくそのエインヘリアルを四散させ、消し去っていった。

 風の音までもが流れていってしまったように、静寂が訪れていた。
 気づけば砂煙も段々と晴れ、視界が遠くまで開けたようでもある。
 美音はそんな周囲と戦場を見回して、小さく頷いた。
「よし、これで全部倒しましたかね?」
「そうみたいね。エインヘリアルも死神も、此処にはいない。残っているのは──」
 と、悠姫が視線を下ろす。
 そこには砂の上に転がる宝石があった。六花もそれを見つめる。
「……コギトエルゴスムだけ、だね」
「ああ」
 スウは屈みこんでそれを覗き込んでみせた。
「地球へようこそ、侵略者諸君、ってね」
「……残しておいたら、また蘇るかも知れない」
 オルティアが見下ろして呟くと、ルイーゼも頷く。
「しっかりと破壊しておくか」
「そうだな」
 ウリルも頷き、武器を取り出す。皆も同じく処分を手伝い、エインヘリアルも死神も、その残滓も残さずに粉砕した。
 それを確認すると、ウリルは彼方を見やった。
 二つの勢力の、その思惑を鑑みるように。
「さて、勢力を削られた両軍は次にどう出るのかな……」
 ただ手をこまねくばかりではないだろう。
 けれど今、ここで大きな戦果を上げられたのは事実だから。
「それじゃ、帰りましょ」
 エルスが言えば、皆も同道して現場を離脱していく。
 帰り道は、僅かに空気が清らかになったかのように──美しい蒼空が覗いていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年2月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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