城ヶ島制圧戦～強襲揚陸セヨ

■リプレイ

●水陸両用車に揺られて
　城ヶ島へ向かう洋上。ケルベロスたちは作戦会議を行っていた。
（「強襲揚陸に市街地制圧……良い響きですね」）
　司会役の霧島・絶奈（暗き獣・e04612）は、これから遂行する作戦の単語の響きに、いつもどおりの笑みを浮かべる。
　彼女たちはドラゴンと戦火を交えることはない。
　それ故地味に映るのかもしれないが、その存在がなければ作戦そのものが成り立たない重要な役割だ。
（「華々しく戦うばかりが戦場ではありません。果たすべき役割を果たすだけです」）
　絶奈は心のなかでも笑みを浮かべ、仲間たちと作戦を確認する。
「これが目的地の地図じゃ……」
　神宮司・早苗（御業抜刀術・e19074）は事前に仲間たちに配った市街図を広げ、指差し確認を始める。
「……うう、……乗り心地は、あまりよくないのう……うぷっ。」
　だが、波に晒され、水陸両用車が不規則に揺れるたび、乗り物酔いしやすい早苗は気持ち悪そうに顔を歪めた。
「無理せず吐いたほうが良くなるわよ」
　そう言いながらも、彼女を心配して背中をさするのはルーノ・シエラ（月下の独奏会・e02260）。
　早苗はルーノに支えられて車の外に顔を出し、新鮮な空気を肺の中に吸い込んだ。
「サクサクっと終わらせられるよう頑張るっすー♪　時間是金銭、効率是生命ってやつっすね！」
　ウェイ・チャオカン（地獄犬無貌拳・e01333）は後続への支援のため、そして何より早く暴れたいという気持ちで島に着くのを心待ちにし、
「ここを確実に押さえておかないと後が続かないからね」
　紗神・炯介（白き獣・e09948）は改めて、彼らの担当地域の詳細を確認していた。
「データベース接続完了」
　アイズフォンで島のデータを準備するのはメドラウテ・マッカーサー（雷閃・e13102）。
「城ヶ島の地形をダウンロード……」
　彼女がデータを集め終わったと同時に車は浜辺に上陸、オークたちが縄張りとする市街地へと走りだす。
「ウェイ・チャオカン一番乗りー！」
　そして、目標地点に到達するやいなや、ウェイは車から飛び出して市街地へと駆け出した。
「１１時の方向！　敵影発見だ！」
　それと同時に、双眼鏡で索敵をしていたメドラウテがオークの群れを発見する。
「正義の味方、はじめましょうか」
　ルーノはそう言うとウェイに続いて走りだし、他の仲間達もそれに続き、オークたちを襲撃するのだった。

●欲望に忠実な豚ども
「悪いっすけど、あんたの相手は自分っす。よそ見する暇はやらないんでよろしくっすよ」
　最初にオークたちと接触したウェイは、オークチャンピオンを指差して挑発すると、
「……酔八仙！」
　強力な自己暗示で自身を疑似的な酩酊状態に変え、
「当たんねえっすよぉ……」
　ふらふらっとした不規則な動きで相手の攻撃をのらりくらりとかわし、時折狡猾に攻撃を繰り出してオークチャンピオンを足止めした。
「はぁ……無事だと良いのだけど」
　六道・蘭華（双破の侍女・e02423）は目の前に迫るオークの群れを見て、別の戦地にいるはずの幼馴染み兼恋人の身を案じる。
　以前オークに酷い目に遭わされた恋人のことを想い、蘭華はオークを睨みつけながら両手に魔導書を構えた。
「おっと、これ以上は動かないでね」
　今にも飛びかかってきそうなオークたちを牽制するように、炯介はルーンアックスで空間を切り裂くように赤い壁を生み出し、オークたちが近づいてくるのを拒む。
　ケルベロスたちは主導権を握り、先手を取って戦いを優位に進め始めた。
　オークたちは突然の襲撃に浮き足立っていたが、しばらくするとある意味統率が取れた行動で反撃に出る。
「オーク達を一気に殲滅できるチャンス……これまでの多くの借り、一気に返して見せます」
　その一番の原因は、最前列で彼らに立ち向かう巨大かつ美麗なバスト。
　その持ち主、阿倍・晴明（阿倍王子の玄武・e05878）への性欲だった。
　胸を大きく開けた巫女装束から露出する、魅惑の谷間を見せつけられたオークたちは、
「くっ……」
　彼女の胸、そして体中に触手を殺到させたのだ。
「オークなんかに絶対負けたりしません！」
　無数の触手に絡まれた晴明は、シャーマンズカードを指に挟んで気丈に振る舞う。
「ひゃうッ！」
　だが、オークたちの欲望はその程度では怯まない。
「入り込んでくる……？　や、やめて……ッ！」
　彼女の指の間を舐めるように拘束していく触手に晴明の声は悲鳴に変わり、
「そ、そんな触手、入れないで……」
　シャーマンズカードを挟む指に滑りこむ。
「はひぃっ、もう、やめて……ッ！」
　晴明の指が震えだし、カードがゆっくりと重力に負けて指から離れ、
「アッー！！」
　叫び声とともに、彼女の体を雷光が貫いた。
　無数の触手にまとわりつかれながらも、彼女は四神『玄武咆哮』の詠唱を完成させ、巨大な落雷を呼び出したのだ。
「導きましょう、あなたの還るべき場所へ……！」
　雷光が彼女の体と触手を伝ってオークを灼き、晴明を拘束する触手たちは全て黒焦げとなる。
「また……勝てなかったよ」
　だが、解放された晴明はある種の敗北感に打ちひしがれていた。
「わし……ぬしなら出来るって、信じとるから……！」
　早苗は可愛らしい仕草を取り、前衛の仲間たちを応援する。
　自称普段の三割増しのヒールが晴明や炯介たちを勇気づけ、ついでにオークたちをも興奮させる。
　彼らの雰囲気を感じ取った早苗は素早く封魔護符を放り投げ、
「ほーれほれ、わしの魅力で悩殺じゃ！」
　両手を頭の後ろに回し、チャイナドレスのスリットから生足を見せつけるセクシーなポーズで挑発する。
　彼らが挑発に乗ってくるかどうか。
　早苗は僅かに不安に思っていたが、その心配は杞憂だった。
　オークたちは晴明とは違った早苗の魅力にも反応して、雄々しく獣欲を叫んで突進する。
「気持ちはわからないでもないが、短絡的じゃのう」
　だが、早苗の魅力に狂わされたのはオークだけではなかった。
　彼女が放り投げた護符から現れた殺戮機械。
　普段は彼女の仕込み錫杖で叩き斬って呼び出すそれは、今回空中でそのまま召喚され、
「わしに触れたければ、この程度は乗り越えられないとならぬのじゃ！」
　早苗のセクシーポーズにいつも以上に興奮し、地上に降ってくるやいなや、
「ガガガガガッ！　プシューッ！」
　轟音をたてながら、オークたちをまとめて蹴散らすまで暴走を続けるのだった。
　蘭華は若く美しい女性と見るやテンションを上げ、晴明や早苗に毒牙を剥こうとするオークたちに溜息をつく。
（「本当に、オークはそれしか頭にないのですわね」）
　もちろん、彼女たち同様蘭華にもその魔の手は伸びてくる。しかし、
「天の蛇よ、荒れ狂いて邪を喰らえっ！」
　それに対する彼女の対応は素早かった。
　左手で召喚した漆黒の『鋼の精霊』を蛇腹剣の形に固定し、右手に宿した純白の『光の精霊』で雷の力を与えて操る。
　左側が黒く右側が白い髪と服と対応するように、その綺麗な光は白黒を際立たせた。
　蘭華の雷鎖の天蛇はオークの体を包むように拘束すると、彼の背中に生える触手を根こそぎ切り落とし、
「御無礼、あまり下郎に構う時間はありませんの」
　次の瞬間一気に間合いを詰め、炎を纏った右脚のブーツで華麗に蹴り飛ばし、
「頭をお冷やし下さいませ」
　残ったオークたちの集団に火だるまになったオークが転がったところで、右目に輝く緑色の炎を大きくし、左手をかざす。
　そして、彼女は手を振り、凍てつく冷気をオークたちへ降りそそいだ。
「これで、あらかた片付きましたわね」
　オークたちが触手を縮こまらせ、氷に閉じ込められて動かなくなるのを確認した蘭華は、そう言って残るオークチャンピオンの方へと視線を向けた。

●危険な素顔
「邪魔はさせない」
　残るはオークチャンピオンただ１体。
　ここまでは主にウェイが抑えていたが、彼女への攻撃を庇うように炯介が滑り込み、最前列へと躍り出た。
「女性じゃなくて残念だったね」
　長い銀髪を靡かせ、獣の如き金の瞳を光らせる炯介はそう言って挑発する。
　彼の後ろでは、美しさ花盛りの女性ばかり７人の仲間たちが彼の背中に視線を向け、炯介は彼女たちを守るために意識を集中させる。
「いくよ！」
　一瞬の隙をつき、炯介は大きく飛び上がり、
「がら空きだね！」
　全体重と両手に持つルーンアックスの重さを最大限に活かし、オークチャンピオンの脳天を思いっきり叩き割る。
　――守ると決めたものは絶対に守る。
　戦いに血滾る想いもあるが、彼の矜持は揺るがない。
（「後ろは若いお嬢さん方ばかり。僕が守らないとね」）
　炯介の勢いにオークチャンピオンは獣欲を抑え、彼を排除しようと太い触手をざわつかせた。
「炯介さん、サポートします」
　絶奈は相棒のテレビウムを彼の横に移動させ、
「私も……と思ったけど、やっぱり任せるわ」
　ルーノも反対側へと立ち、協力して攻撃を抑えようかと考えたが、結局一歩引いた立ち位置に下がり、
「守ってくれるというなら、今日のところは守られてあげるわよ」
　彼の目の前に不可視の防壁を張り巡らせて援護に徹する。
「べ、別に怖いってわけじゃないんだからね。男らしい所見せられないならすぐに変わるわよ」
　続けて発せられる言葉と共にルーノは大鎌を構え、
「そのためにやりやすい状況くらいは作ってあげるわ」
　大鎌の重さと自分が小柄で軽いことを生かし、絶妙なバランスでクルクルと舞い始める。
　ルーノは斬撃、時には拳や脚での打撃を織り交ぜてオークチャンピオンを翻弄し、後ろの仲間たちが攻撃しやすい状況を作り出した。
「これは格好悪いところを見せるわけにはいかないね」
　炯介はそんなルーノに笑顔を見せ、回復は彼女に任せて相手の無力化に努めるのだった。「あのケダモノを縛ってみせます！」
　その間に、晴明が放つ呪符でオークチャンピオンの体を縛り、
「その汚い体、吹き飛ばしてやろう」
　メドラウテが手に持つ火器を一斉射し、的確にダメージを与え、追い詰めていく。
　深手を負い、血走った目をギラギラと光らせるオークチャンピオンは、
「グオオオオオオッ！」
　唸り声を上げながらルーノ、炯介と絶奈のテレビウムの防衛網を力づくで突破する。
　その狙いは、ここまでケルベロスたちを指揮し、適切な指示を与えていた絶奈だ。
　常に笑みを浮かべ、悪く言えば彼を見下しているように見えるそんな氷の表情を崩したい。
　そんな欲求が後押しするのか、彼の触手は鋼鉄の棒のようになり、繊細な彼女の体を滅茶苦茶にしようと殺到する。
「……今此処に顕れ出でよ、生命の根源にして我が原点の至宝。かつて何処かの世界で在り得た可能性。『銀の雨の物語』が紡ぐ生命賛歌の力よ」
　だが、その触手が絶奈の体に触れることは……無かった。
　彼女が触手をどうにかしたわけではない。
　――ただ、絶奈の狂的な笑顔、彼女の本当の姿に、恐怖した。
　ある意味、オークチャンピオンは絶奈の表情を崩した。
　だが、それは決して開けてはいけない悪魔の槍の扉だったのだ。
「楽になりたいですか？」
　絶奈の言葉にオークチャンピオンは願う。
　早く、この恐怖から抜けだして楽になりたいと。
「死ねば、楽になれますよ」
　絶奈は狂的な笑顔でオークチャンピオンを見下すように見つめながら、悪魔の槍で彼の体を貫く。
　悪魔の誘惑に屈したオークチャンピオンは、彼の胸を貫いた槍に身を任せ、恐怖からの解放を選ぶ。
　そして光の輝きの中、彼は朽ち果てるのだった。

●最後の『お掃除』
「さて、まだ終わりじゃないっすよ！」
　オークチャンピオンは倒れたが、まだ市街地にはオークの群れがいくつも残っていた。
　当初の作戦通り、現在地点から時計回りに周辺の区画を周り、見つけたオークたちをしばき倒していく。
「女ダ！」
　我先にと飛び出したウェイの姿にオークたちは色めきだつ。
　仲間がやられていることを知っているのか、それとも欲望がまさるのか。
　とにかく彼らはウェイに向けて触手を絡ませてくる。
「手加減はなしってことでいいっすか？」
　だが、ウェイは触手を振り払うこともせず、
「いいっすね？」
　周りに気付かれない位密かにサディステックな笑みを浮かべながらそう言うと、
（「一切合財血祭りの楽しい弱い者いじめを始めましょう♪」）
　地獄化した顔に現れる表情が、彼らの末路を暗示するかのように暴虐に映し出された。
　オークたちの中には、好戦的に襲いかからず隠れてチャンスを待つ者たちもいた。
「隠れるなら、この辺りだろう？」
　だが、そんな彼らはメドラウテの丁寧な探索の網に引っかかってしまう。
「当たりだ！」
　メドラウテは赤い瞳を輝かせ、
「はっ！　こんがり焼けてしまいな豚肉ども」
　その目で捉えたオークたちにナパームミサイルの群れを発射する。
　不意を突かれたオークたちは避けるまもなく火だるまとなり、
「ターゲットロック。下品な豚は死ね！」
　逃げまとう豚たちを、バスターライフルとアームドフォート。２丁の火器で１体ずつ確実に仕留めていく。
「まだ動けるのか。気色の悪い豚どもだな！」
　メドラウテはうじ虫のように這って寄ってくるオークたちをうざったいと思いながら、
「まあいい。敵を叩き潰すのは嫌いではない」
　口元から笑みをこぼして思う存分豚の大虐殺を楽しむのだった。
「まずそうな豚饅頭の出来上がりっすね♪」
　一方、襲いかかってきたオークたちを血にまみれた肉の塊に変えたウェイは、
「もっと鳴くっす、よ！」
　まだ息のあるオークを足蹴にして悲鳴をあげさせ、征服感を堪能する。
「次の獲物が来たっすね？」
　そして、その声を周囲に響かせることでまだ市街地に残っているオークを誘い出し、
「これで最後でしょうか？」
　もしくは逃げ出そうとするオークを追いかけ、蘭華は左手から放つ銀色の石化波動で逃げるオークをもの言わぬ石像に変えた。
「此方は無事『お掃除』が終わりましたわ」
　程なく戦いは終結し、スカートに付いたホコリを払いながら、蘭華は制圧完了の報告を他の区域の制圧を担当していた仲間たちに伝え、
「皆様、何か異変はないですか？」
　他の地域も無事に制圧が完了したことを確認した。
　その横で、サラッとした金髪がそよ風になびかせ、メドラウテはアイズフォンで後続の仲間たちと連絡を取り合う。
「ああ、期待の応えられたかはわからないけど、目標は達成したよ」
　すっきりとした笑顔で状況を報告し、最後に相手を激励する言葉を送った。
「竜殺しは任せたわ。是非、皆殺しで頼むわね」

作者：きゅう	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2015年12月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 5／感動した 0／素敵だった 2／キャラが大事にされていた 1
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