満月に喚ぶ

作者:崎田航輝

 深い紺青色の空に満月が差す、昏く美しい夜だった。
 地に描かれた謎の魔法陣の前に立つのは──螺旋忍軍ソフィステギア。薄い金色の瞳に、煌々とした光を映して呟く。
「セントールの復活はケルベロスの邪魔により失敗したが、コギトエルゴスムはこういう使い方も出来る」
 言葉と共に、魔法陣から呼び寄せるのは病魔の姿だった。
 それをそっと見上げ、ソフィステギアは言葉をかける。
「狂月の病魔達よ──神造デウスエクスとなり、我らがマスタービースト様へ至る、道しるべとなれ」

 真ん丸の月が灯る夜の道を、一人のウェアライダーが歩んでいた。
 まだまだ子供というあどけない容姿をした少年で、散歩か買い物か、友人との遊びの帰りか、それは定かではない。
 ただ、その背後へ毒牙が近づくことだけが真実。
 振り返った彼が驚くも、既に遅い。戯画化されたかのような奇怪な見目の病魔達が、そこへと襲いかかっていった。

「皆さんの活躍により、妖精8種族のセントールを蘇らせて自分達の戦力としようとしていた螺旋忍軍の計画を阻止する事が出来ました」
 皆を見回したイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、先ずはそのねぎらいを贈っていた。
 それから言葉を続ける。
「しかし螺旋忍軍も、新たな作戦を開始したようです」
 それは何らかの方法により『狂月病の病魔にセントールのコギトエルゴスムを埋め込む』事で、実体化させ──神造デウスエクスモドキを生み出すものなのだという。
「通常、病魔はウィッチドクターでなければ実体化はさせられないのですが……」
 狂月病は、神造デウスエクス『ウェアライダー』が定命化した事で発生した病魔。ウィッチドクターに頼らずに実体化させる方法が存在するものと推測されるといった。
「神造デウスエクスモドキは、実体化した病魔のような戦闘力を持っていると言えるでしょう。ウェアライダーを襲撃して殺害する事で、マスタービーストの秘儀を再現しようとしているのかもしれません」
 先ずは、襲撃されるウェアライダーを守り──この病魔型の神造デウスエクスモドキを撃破することが先決だ。
「そうすればコギトエルゴスムも手に入れることが出来るはずです。そのために是非、お力添えをお願いします」

 病魔が現れるのは深夜の道だという。
「襲われるウェアライダー以外の姿はありません」
 一般人の避難誘導は必要ないだろう。
 なお、このウェアライダーを事前に避難させてしまうと、別のウェアライダーが襲われることになってしまうので……今回襲撃された所を救援するのが最善だと言った。
「戦闘においては幾つか気をつけるべきことがあります」
 病魔型の神造デウスエクスモドキは、ウェアライダーを攻撃しないが──戦闘開始後にウェアライダーが逃げた場合は、その方向に自動的に移動するという。
 この追尾移動を阻止する事は出来ず、ウェアライダーを避難させる事は不可能だ。
「それから、戦闘開始後8分が経過すると、ウェアライダーが重度の狂月病を発症して……敵の戦闘能力が上昇してしまいます」
 できるだけ短時間で戦闘を決着させるのが望ましいでしょう、と言った。
「不明なことも多いですが──」
 それでも今は守るべきものを守りましょう、と声音に力を込める。
「襲撃されたウェアライダーを救い、セントールのコギトエルゴスムも助けてあげてください」
 皆さんならばそれがきっと出来るはずですから、と。
 イマジネイターは皆へ言葉を贈った。


参加者
周防・碧生(ハーミット・e02227)
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)
白銀・ミリア(白銀の鉄の塊・e11509)
セレッソ・オディビエント(葬儀屋狼・e17962)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
ヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)
長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)

■リプレイ

●救う者
 月光ばかりが美しくて、春にもそぐわず風の冷たい夜。
 道を奔る番犬達は、その遠方に奇怪な病魔の姿を見つけていた。
 無辜の命を狙う、死の差金。
「もう! 螺旋忍軍はまだ悪いことしてるんだね!」
 そこへ真っ直ぐ羽ばたくイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)は、可憐な相貌の眉を微かに顰めさせて、ぷん、と頬膨らます。
 視線をずらせば、ウェアライダーの少年の姿も見えるから──長久・千翠(泥中より空を望む者・e50574)も翡翠の瞳を細めていた。
「あれこれ思いつくあたりは感心するけどさぁ……やり口がホンット汚いな」
 だから好きにはさせない、と。
 拳を強く握りしめ、声音に意志を込める。
「きっちりお返ししてやんねーと。行くぞ!」

 少年は闇が蠢く音に振り返って、呆然としていた。
 そこに居たのは、夜色のクレヨンで描き殴ったような不思議な異形。
 それが何かは判らない。ただ、本能的に自分は死んでしまうのかもしれないと思った。それが獰猛に自分を襲ってきていたから。
 しかしその直前。
「大丈夫だ、俺達がいるからな」
 落ち着いた声音と共に、そこに眩しい光が舞い込んだ。
 それは自身の内から金色の焔を生むヴィクトル・ヴェルマン(ネズミ機兵・e44135)。
 機巧を纏ったパワードスーツ姿に変身し、『Die Flamme der goldenen』の力で光に包まれながら、病魔達に立ちはだかっていたのだ。
 少年が驚いていると、周防・碧生(ハーミット・e02227)もふわりと黒髪揺らし、その傍へ駆け寄っている。
 そして彼の盾となるように位置しながら、素早く事情を説明した。
「被害を広げない為、そして何より君自身の為に──必ず守り、助けます」
 だから僕達の背中で、どうか信じて待っていて下さいと。
 イズナも頷き、手元から緋色の蝶を解き放つ。
「安心してね! わたしたちがすぐに倒してあげるから!」
 ひらひらと舞うそれは『緋蝶』。光粒を零しながら美しく飛ぶそれは、視線を惹き付けるように病魔を足止めしていた。
 少年はそれらに心強さを覚えたことだろう、うん、と頷いて言う通りにし始める。
 ルーク・アルカード(白麗・e04248)は縦傷の入った眼で黒の腕時計を見下ろした。
 時間の猶予の無い戦いになることは、始めから判っている。ならばこそ、やるべきことに邁進するだけだ。
「さあ、始めるぞ」
 刹那、『影遁・暗夜之攻』。白毛の輪郭を僅かにぶれさせ、自身の分身を生成していく。
 病魔は狂笑の如き声を上げて切りかかってきた。が、刃が捕らえたそれこそがルークの分身。本体は既に背後に廻り一閃、逆に強烈な斬撃を喰らわせていた。
 この間に千翠は、霊紋を刻んだ符をつむじ風で巻き上げて、巫術の加護を仲間へ素速く施している。
「これで最低限の護りは整った。攻め手は頼むな」
「ええ」
 そっと頷く碧生は宵色の光輪を描いて『黒の王(ケット・シー)』──英明なる猫の王を喚び出していた。宙翔けるそれは踊るように剣を振るい、中衛の一体を削っていく。
 敵の前衛は反撃の黒刃を振るってきた、が、そこへ滑り込む黒色の疾風がある。
「──やらせないぞ!」
 それは自身を盾に攻撃を庇い受ける風鈴・響(ウェアライダールーヴ・e07931)。衝撃に後退しながらも、澱まぬ瞳と強い意志で倒れる事無くしかと耐え抜いていた。
「今のうちだ!」
「ああ、任せてくれ!」
 明朗な声音で応えるのは白銀・ミリア(白銀の鉄の塊・e11509)。銀糸の髪を靡かせて、響の陰から風のように走り出していた。
 そのまま斧を突き出して一撃。先ずは中衛の敵へ強烈な打突を叩き込むと、敵の攻撃が来る前にバックステップ。隣へと向いた。
「セレッソ、次いけるか?」
「勿論だよ」
 冷静な声音で頷くのはセレッソ・オディビエント(葬儀屋狼・e17962)。自身の中で獄炎を巡らせることで、破邪の力を獲得している。
 準備は万端。ただ、体には多少の違和感はあった。
 渇きにも似た飢餓感。平静さを失うような、心の粟立ち。
 それは響も例外ではない。僅かな興奮と凶暴さが、自身の中で昂ぶるのに気付いている。
 狂月病。ミリアは二人へ視線を奔らせた。
「大丈夫か?」
「今のところは、ね」
 セレッソは応える。月が出始めてさほど時間が経っていないこともある。何よりミリアがそばにいるから、少しは楽でいられた。
 響も未だ自覚症状は重くはなく、冷静に頷ける。
「私もだ」
 そうか、とミリアは応えながら、しかしそれでも早期の決着を目指したほうがいいことは判っていた。時間が過ぎるほど状況が悪くなるのは確かだから。
 ミリアは敵にきっ、と視線を向ける。
「よし、一気に行くぜ!」
「うん」
 セレッソはそれを合図に駆け出した。敵の盾役の間を縫って中衛に肉迫すると、巨剣に鮮烈な焔を纏わせていく。
 後方からは響がミリアの体を掴んで、宙へと投擲していた。
 剛速で飛ぶミリアに対し、響は同時に手を伸ばして月光を招来。眩い光を与えてその戦闘力を向上させている。
「これでバッチリだぞ! さあキメて来いっ!」
「ああ!」
 降下しながら廻転し、斧を振り上げたミリアは一閃。速度と重力、膂力を全て注ぎ込み裂帛の一撃を振り下ろした。
 そこへセレッソの奔らせた炎撃も命中し、一体が四散。淡く光る球だけを残し、塵と消滅していった。

●月下の闘い
「時間はこれで二分、か」
 一瞬の静寂にアラームが響いて、ルークは時計に視線を落としていた。
 戦況は順調とも言えるだろう。が、それでも敵は未だ四体を数えている。
 奇妙な嗤いを立てるその存在を、ルークは改めて見回していた。
「狂月病の神造デウスエクス、か……何の因果か」
「もどきとはいえ、まさかこうして会うことになるとはな」
 セレッソが胸を押さえて呟けば、ヴィクトルも切れ長の眼を細めている。
「俺達ウェアライダーの因縁、ってものかね」
 黒幕やマスタービーストの事。考えるべきことは幾らもあった。
 それでも今は、守るべきものを守るときだと識っている。
 だからヴィクトルは躊躇わずに腕を突き出し、機巧を鳴動させていた。
「……Take zis ze Ultimate Veapon!」
 瞬間、放たれた冷気が氷霧となって敵前衛の眼前で爆縮。同時に空圧を解放するように爆散することで広域に氷波を生み、二体の体表を氷晶で蝕んでいく。
 ミリアも再び攻勢に入る。と、その途中で一度だけ後ろを振り返っていた。
 ウェアライダーの少年は無事だ。けれど──僅かに息を浅く、苦しげにし始めている。
 徐々に、症状が表に出始めてきているのだろう。
「平気か?」
「……、はい……」
 少年の声は未だ健常と言える。ただ、刻一刻と容態は変わっていくだろう。
「狂月病に苦しんでるひとたちがいるってのに。ふざけやがって……!!」
 ミリアは刃を握る手に力を込める。だからこそ退く気は無かった。
「絶対阻止してやるよ!」
「ああ。絶対になんとかして見せるぞっ!」
 響は自身も額に汗を浮かべながら、それでも少年に笑いかけた。ヒーローだからな、と。
 それに少年が微かに笑みを返してくれると、セレッソも頷き、敵へと疾駆し始める。
「私の狂月病も重症化する前にケリをつけないとな……! 急ごう」
 尾を揺らしながら一体へ接近。狼の描かれた槍に雷光を宿して刺突を撃っていく。
 ミリアがそこに剣撃を重ねれば、敵前衛も斬撃を返してきた、が。
 風を裂いてそこへ奔る影があった。セレッソのオルトロスのタフト、そして響のライドキャリバー、ヘルトブリーゼ。毛並みを揺らし、駆動音を上げて攻撃を防いでいた。
 直後に響が月色のオーラでヘルトブリーゼを癒やしていけば──。
「ありがとうな。後の治療はこっちでやっておく」
 にっ、と軽く笑みを向けたのは千翠。
 仲間の奮闘に自分も報いてみせるというように。豪快に手を払うような仕草で、颪の如き大気の揺らぎを作り出していた。
 そこから空気に滲み出たのは、幽玄なる水墨の月。
 本物と紛う月灯りへと変遷していく──『望月の宴』。月面に映す幻影を現実に反映させることで、傷を事象ごと消滅させていった。
 碧生は鎖を携えて反撃の姿勢を取りながら、一度だけ銀の瞳を閉じている。
 自身の中にもまた狂月病が渦巻いているから。
(「僕は……」)
 過去を思い、唇を結ぶ。
 意識すれば、月は未だに怖い。けれど、だからこそ少年に同じ様な思いをさせたくない。
 だから瞳を開いて、心優しき友であり無二の家族でもある小竜へ向いた。
「必ず成し遂げましょう、リアン」
 君がいてくれるなら、僕は平気だからと。
 思いに穏やかに頷いた黒竜は、瑠璃の光を注いで仲間の体力を万全にする。それに心強さを抱きながら碧生は前へ。夜に鎖を奔らせて一体を両断していった。
 敵前衛は残り一体。後衛からの治癒を受けて体力を取り戻してきたが──。
「これ以上、思い通りにはさせないんだからね!」
 ふわりと空から響く声音。
 イズナが蝶の如く澄んだ光翼をはためかせ、高空へ翔んでいた。
 夜闇に光の尾を引きながら、くるりと廻転して構えるのは細身の槌砲。そこへ金色の粒子を湛えると、眩い衝撃を下方へ撃ち出していた。
 流線を描いて命中した一弾に病魔が吹っ飛ぶと、ルークも奔り込み、妖力を宿したナイフで斬撃を見舞っている。
 吼え声を上げる病魔は、満身創痍ながら空間を歪ませて意識を蝕もうとしてきた。
 けれど、それを看過する千翠ではなく。内から生み出した治癒の力を腕に湛え、攻撃を受けていた盾役へ掌打の形でその全てを送り込んでいる。
「とどめは任せていいか」
「よし、これで一撃を与えてくれ」
 ヴィクトルは虹の彩を広げて仲間を鼓舞し、力を増大させていた。
 その煌めきを宿したイズナは、光の粒子へと変遷しながら突撃。敵の一体を貫通して霧散させていった。

●静夜
 月夜に落ちる異形の影も、残るは二つとなっていた。
 ただ、その病魔はほぼ無傷でもある。対してこちらは、六分を迎えて負傷を増し──。
「……段々、無視もできなくなってきたな」
 セレッソは呼吸を浅くもしていた。喉の奥から勝手に出てくる唸り声を必死に押し殺しているが、狂月病の影響は避けられない──しかし、だからこそ。
「少年のためにも、一秒でも速く斃そう」
「ああ。それに」
 と、響は敵にも視線を送っていた。
「神造デウスエクス。戦い、殺戮するだけの悲しい生物を造らせるわけにはいかない。それを阻止するためにも、いくぞ!」
「うん!」
 こくりと応えたイズナは、苦しげな少年に自身の持つ黄金の林檎をあげていた。
「もう少しで終わるからね!」
 それにしっかりと少年が頷きを返したと確認すれば、あとは敵へ。砲身から緋色の光を放って一体の動きを鈍らせてゆく。
 片側の敵が治癒してくるが、番犬は猛攻を止めはしない。セレッソが雷鳴弾ける刺突を繰り出すと、タイミングを合わせてミリアが切断斧と打斧に混沌を纏わせ連閃。陽炎揺らめく斬打を加えていった。
 その一体もまた自身に回復を施そうとする。が、一瞬疾く千翠が肉迫。灯籠の揺らぎの如き火種を牡丹の花と炎上させて、敵の全身を包み込んだ。
「もう少しだ。いけるか」
「なら、俺がやっておく」
 ヴィクトルはそこへガジェットを旋転、ドリルとして駆動させ、病魔を貫き打ち砕いた。
 残る病魔は一体。だが悠々と揺れる様は未だ勝利以外を観ていないようでもある。
 だからだろうか、その敵が広げた幻影は意識の全てを奪うほどに濃密で、それに蝕まれたルークは一瞬で正気を失った。
 理性の箍がなくなれば、狂月病を抑える心が効かなくなる。瞬間、ルークは獣の咆哮を上げて暴れだしていた。
 石畳が粉砕し、街路樹が塵と消える。鋭利に過ぎる刃は、仲間までもを手に掛けようとしていたが。
「負けるな!」
 ミリアの声が劈く。吼える病に自我を奪われるな、取り戻せ──まだまだ、やるべきことがあるのだから、と。
「……ガ……ァ……ッ」
 ルークは心の挙動を真っ赤な思考に塗り固められそうになりながら──それでも半ば力づくで、正気を掴んで引き寄せる。
「……、助かった」
 息を荒げながら、それでももうしっかりと敵を見据えていた。
 敵は連撃を目論むが、碧生は再度猫の王を喚ぶと、縦一閃の斬撃を見舞わせる。
「悪夢を現実になどさせはしない。ここに眠るは、狂える病魔のみに。──鎮めましょう」
 それが敵を切り裂けば、ルークも惑わず踏み込んだ。
 いつかは本当の狂月病を倒せるくらいには強くなりたいと、そう思った。
 故にこれもその一歩。
「狂月病なんかに振り回されていい者はいない。これで終わりだ」
 振り抜いた一刀は違わず病魔を破砕。夜に静寂を取り戻させていた。

 皆は少年をそばの木陰に運ぶことにしていた。
 碧生は優しく座らせてあげる。
「ここで少し、休みましょう」
「もう大丈夫だからね」
 イズナが微笑んで覗き込むと、少年はあどけない表情で、ぺこりと頭を下げていた。
「ありがとう、ございました」
「狂月病はひとまず、平気みたいだな」
 ヴィクトルが少年の様子がだいぶ落ち着いたのを確認すると、千翠も軽く体を診てあげてから言った。
「怪我もなさそうだ」
「無事でよかった」
 セレッソが言えば皆も頷き──少年と共に暫しそこで休んだ。
 彼が立ち上がろうとすれば、ルークが手伝って起こしてあげる。
「送っていくよ。この近くか?」
 それに、はい、と少年は応える。元々家に帰る途中で、それも遠くないのだと言った。
 ルークが一緒にそこまで歩み出すと、皆も見送る。
 碧生もその背を暫し見つめていた。願わくは月や病に魘される事のない、平穏な日常を──と。
 千翠は回収したコギトエルゴスムを一応確認していた。
「埋め込まれたせいで変な影響受けてなければいいけどな。……ま、とりあえずは無事なようだが」
「ではこれで、ひとまず一件落着だな!」
 響が言うと、セレッソは頷きつつも一度、恨めしげに満月を睨みつけている。
「早く本物を倒さなきゃな……毎回発症してたらまともに戦えない」
 いつかはその戦いのときも訪れるのかもしれない。その時は必ず、と心に誓った。
 すると、くぅ、とお腹が鳴る。満月の日は異様に苛立つだけでなく、こうして腹が減るな、と改めて感じる。
 ミリアは笑いかけた。
「ご飯、行こうぜ。一緒に食べよう」
「ああ、いいね」
 セレッソはミリアと並んで歩み出す。皆もそれぞれに歩を進め始めて──眩い満月を背にしていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年3月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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