襲撃のにゃんこ

■リプレイ

●邂逅のにゃんこ
　そこは明媚な海街だった。
　風が薫り家並みは美しく。無人とはいえ、脅威が潜んでいるとは思われない程だ。
　それでも今、仲間が苦しんでいる場であることは事実。降り立った天崎・祇音（霹靂神・e00948）は袖を縛り紐で纏めて、気合を込めていた。
「しかし、クレーエ殿も度々狙われるのぅ……」
「ま、敵が現れるなら都度倒すしかないさ。今はとにかく急ごう」
　藤守・つかさ（闇夜・e00546）が槍を携えれば、皆も頷き道々を進み始める。
　特に聴覚と嗅覚を鋭く働かせるのは、深緋・ルティエ（紅月を継ぎし銀狼・e10812）。大切な人の危機だからこそ、一刻も早く見つけたかった。
「向こうで物音がしますね」
　想い通じてか、ルティエはすぐにその路地を発見する。
　そうして皆と頷き合って音の発生源へ奔った、が。
　もきゅもきゅっ、もふもふっ。
　物音は確かにしたが、何だか異質。
　ルティエは急ぎ奥へ駆け、敵の姿を捉える。するとそこにいたのは──にゃんこ。
　遠くから見ても判る程、大きいフォルムの猫だった。
「にゃ、にゃんこが、敵……？」
　月岡・ユア（孤月抱影・e33389）は瞳をまん丸にして、ちょっと立ちくらみしそう。
　それから腕をふるふると振るっていた。
「人の好きな動物の姿で襲撃なんて、ずるいんだよーっ！」
「ええ、本当に……あの人は、クレーエは──」
　自他ともに認める猫好きなのだから。
　今まさに助けるべき人が、あのにゃんこにほだされているんじゃないか──ルティエはとても心配になった。
「とにかく。早く行きましょうっ！」
「うん！！　クレーエさんは、守るんだからね！！」
　ユアが翔けると皆も続く。にゃんこのいる戦場へ。

「うう、にゃんこなのにもふれないなんて、にゃんこなのにもふれないなんて……！！」
　クレーエ・スクラーヴェ（白く穢れる宵闇の・e11631）は確かに苦境にあった。
　眼前のにゃんこ──煌星・猫吉は紛れもない死神。
　愛でるなんて許されないのだから。
『さあ、こっちへ来るにゃーん』
　とはいえそれが愛らしく言ってくると、ふらふらーっと抱きつきたい衝動に駆られるクレーエだった、が。
「……い、行かないんだからね！」
　すんでの所で理性を働かせ、飛んできた猫型ミサイルを受け止める。
　ミサイルも可愛かったものの、空中に掻き消えたので正気は保たれた。相手が攻撃的ポジションにいることも理解し、自身もミストで体力を癒やす。
　けれど猫吉も一層手を緩めず、もふもふの体で体当たり。生命力を削り理性まで崩しにかかってきた。
　クレーエは意志堅く耐え抜くが、猫吉も単純に強い。
『さあ猫の国にいくにゃーん』
　連続の突撃をかますと、そのままクレーエを抱えていこうとした──だが。
「わ、私の旦那を誘惑するなっ！！」
　そこでルティエが合流。
　ぼむっ！　と綿っぽい体に痛烈なパンチを打ち込んでいた。
　くるくると後退する猫吉へ、つかさも接近。槍を突き出し『黒雷一閃』、黒に煌めく雷撃を発射して、丸い体へ追い打ちしていく。
「このまま少し下がっててもらおう」
「うむ」
　応える祇音も連撃。雷鳴の指輪による閃光を纏い、掌打で猫吉を遠くへ吹っ飛ばしていた。
　そのまま着地し、クレーエへ振り返る。
「待たせたのぅ。無事かや？」
「うん、みんな来てくれたんだね。ありがとう……！」
　クレーエが見回すと、ユアもふわりと降り立っていた。クレーエのとりあえずの無事を確認しつつ、敵にも目を奪われつつ。
「それにしても、か、かわいい……じゃ、なくて……、怪我、してたら手当受けてね？」
「敵は私が引きつけておくから」
　言って奔り出すのはルティエ。ほらこっちだ、と気を引いて猫吉と追いかけっこを始める。
　その間に駆けつけたのがノチユ・エテルニタ（夜に啼けども・e22615）。手を伸ばして、夜色の靄を創り出していた。
「傷は浅い……ってほどじゃないけど。見る限りまだ元気そうだね」
　ならよかった、と。声音は少々ぶっきらぼう。けれど煌めきを宿すミストは、強い癒やしの意志で星雲の美しさを湛える。
　それはノチユ自身の黒髪に内在する星屑の輝きの様に。きらきらと光を宿してクレーエの傷を塞いでいった。
「全快までは、もう少しかな──」
「ン、なら、手伝う、ね。ノア」
　静やかな声音で傍らの小竜に呼びかけるのは霖道・悠（黒猫狂詩曲・e03089）だ。
　ぱたぱたと浮いたノアールは、闇色の昏い光をクレーエへ注入。負傷部位を覆うように体力を取り戻させていく。
　悠自身はゆるりとした仕草のままに鎖を踊らせて、魔法陣を形成。前衛の防備を強化していた。
　それから、ノアールが好奇心を敵へ注いでいるのに気づいて目を向ける。
「──彼れが、今回の敵、ね」
「猫というにはファンシー過ぎる気もするが。ああいうジャンルもあるのが猫か……」
　犬派ながら猫好きでもあるつかさも、少々感心して呟いている。
　ノチユも改めて、猫吉に目を留めてしまっていた。
「死神っていうには、随分ポップな見た目してんだな」
　じっと見つめて……いや、ちょっとかわいいだなんて、思ってない。
　断言できる自信は、ないけれど。
　と、不意に横から驚きの声が上がった。
「な、なんだってー！？　とっても可愛いにゃんこがいると思ったら、死神！？」
　目を見開いているのは……全身猫グッズの瀬入・右院（夕照の騎士・e34690）。
　猫好き故に商店街に来ていたところ、たまたま行き遭った──のだが、そのにゃんこの正体に歯を噛み締めていた。
「あんなのがデウスエクスだなんて、卑怯だぞ死神勢力！」
『みんなでにゃんこを愛でるにゃーん』
「……くっ、攻撃……できるのか、俺に……？」
　ぷにぷにと手を降ってくる猫吉に苦心する右院。
　ただ、危機とは理解してるからしっかりと後衛に位置しつつ、先ずは支援に打って出る。
「回復します！」
　真剣な面持ちで形成するのは、にゃんこ型オーラ。にゃーんと地を駆けるそれをクレーエに抱きつかせて傷を癒やした。
　クレーエが万全となれば、ユアは攻め手に回る。
　右院と同じく迷う気持ちはあったが──ぐっと力を入れて。
「敵だからね。にゃんこに蹴りなんて……したくないけど、ぶち込ませてもらうよ！」
　決めれば勿論手加減は無い。空を泳いで肉迫すると、どむっ、と猫吉を蹴っ飛ばしていく。

●激闘のにゃんこ
　転がった猫吉は、もそっと起き上がると訴えの視線を向けてきた。
『ひどいにゃーん。ボクはにゃんこ好きの為を思ってるだけにゃーん』
　考え直して猫の国に行くにゃーん、と誘ってくる。
　つかさはふむと腕組み。
「あくまでも猫好きを誘惑するつもりのようだな……可愛いんだか厄介なんだか」
「猫の国は死者の国と繋がってるとか言うけど。そういう意味では、あながち間違いでもないか？」
　呟くノチユは、だからこそそんな場所に用はないと断ずる。
「お前に興味がない訳じゃないが……此処に居る皆、死ぬ気はないんだよ」
「そうだよっ！　それにぬいぐるみだろうが死神だろうが、にゃんこに攻撃させるなんて……。うー……酷いんだから、許さないよっ！」
　ユアもぴしりと指差す。
　が、猫吉は退かず猫ミサイルをぽぽぽっと放った。弾頭がデフォルメにゃんこになっているものだったが──それは強烈な打突に打ち落とされる。
　オウガメタルで腕を覆った祇音が、雷を纏った拳を放っていたのだ。
「面倒じゃが、対抗できぬ程ではないよ」
　構える祇音は元より、刀よりも拳闘の方が得意。両側からミサイルが飛来しても一つを殴り落とし、もう一つも素早く旋転して砕いていた。
　小竜のレイジにも霊炎を撃たせて活路を開き、続く正拳突きで猫吉本体を殴り飛ばす。
「クレーエ殿、今のうちに」
「うん！」
　クレーエは獅子剣で加護を喚び降ろす。
　流星のように輝いた光が鮮やかに拡散。仲間を煌めきの祝福で包み込み耐性を与えていた。
　守りが固まれば、つかさは攻勢へ。雷撃の刺突で猫吉のお腹を突き通す。
「続けていけるか」
「あァ」
　声を返す悠は、宙に遊ぶようにひらりと翻って頭上を取っていた。
　ノアールの炎で敵の動きを抑えると──自身はそこへ跳び一撃。焔を伴った蹴り落としを叩き込んでいく。
「気ィ、つけて。何か、くる」
　と、着地しながらも悠は異変に気づく。
　猫吉が無数のにゃんこの幻影を召喚。大行進を開催してきたのだ。
　──にゃーん、にゃーん、にゃーん。
　子猫親猫、白黒茶色。迫りくるのはスリムにもっふり、多種多様のにゃんこ達。
　もきゅもきゅの景色にクレーエは思わず目を奪われる。
「にゃっ、にゃんこが沢山……っ！」
「かっ、かわいいっ……！」
　ユアもその光景には、無意識に抱きしめに行きたくなる。
　とはいえそこは鉄の意志で耐えた。つかさも間合いを取って事なきを得ている。
「猫まみれ、とか中々に魅惑的な状況だけど、な。……害さえなければの話だ」
「まあ、早めに我に返ってもらおう」
　そういうノチユもまた冷静。花弁と共に舞い、美しき癒やしで皆の正気を保つ。
　右院も治癒の魔力を集中していた。
「この風景が消えてしまうのは惜しいですが……仕方ない！」
　行使するのは『イサの石』──顕現した雪結晶で沢山の白猫を形作っている。
　それはもう一つの猫行進。にゃーんと駆ける雪猫達が、幻影のにゃんこを消滅させていた。
　ルティエも躊躇いなく幻を切り捨てている。
　強い決意で猫吉を睨んだ。
「無駄なことだ。にゃんこの幻を放とうと見た目が可愛かろうと、容赦はしない。人の旦那を誘惑した罰は受けてもらう！！」
「勿論、ボクも一緒にぶっ倒すよ～！」
　ユアもルティエの闘志に促され、『歌葬曲』。死せる魂を送る弔いの歌を編む。
　クレーエも『白夜に堕ちる月』──端麗なる歌姫の声を織り重ね、宵月のハーモニーを響かせていった。
　猫吉は苦悶しつつ、何とか耳を畳んで防御しようとする。が、そこへルティエが肉迫。
「させるものか」
　迸る戦意のままに一文字。熾烈な剣撃でお腹をかっさばいた。

●終結のにゃんこ
『どうしてもボクと一緒に行かないにゃーん？』
　猫吉の体力は風前の灯火。
　だが懇願する声にもつかさは騙されず、黒色の風を纏った槍を踊らせていく。
「悪いが、こっちも戦いだからな」
「そういうことだ。そろそろ、動き回られるのも厄介だな」
　だから──さぁ、歩みを止めろ。
　ノチユが見せたのは『夜の背』。まるで宵に閉じ込めるように猫吉を縫い止めた。
「一匹だけで、猫の国にお帰り願おう」
　猫吉はそれでも抵抗して、ぺたぺたと闇から這い出ようとする。
　けれどそこへ、右院がにゃんこ型オーラを放っていた。
「心を鬼にして、攻撃させてもらうよ……！」
　眩い光は丸い体を弾いてころころ転がしていく。
　ちりん、と悠が『影猫の調べ』を喚べば、そこへ顕れるのは百猫夜行。黒き猫達が駆け抜けて、猫吉をかぷかぷ齧っていく。
「後少し、かね。仕舞いは、任せるよ」
「よし」
　それに頷く祇音は、四肢を獣化。巨雷宿す『覇狼・風迅雷塵撃』を撃ち放って猫吉を大空に飛ばした。
「ユア殿、ルティエ姉！」
「任せて～！」
「ああ、終わらせよう」
　青空へ翔んだユアが牙たる短刀で乱舞を繰り出せば、跳んだルティエも地獄を纏わせた刃で猫吉を斬り下ろす。
「我牙、我刃となりて、悪しきモノを縛り、その罪を裁け──」
　紅月牙狼・雷梅香──抉った刃から紅の飛電を解き放つと、梅香を纏う大狼へと変じたそれが猫吉を直下へ墜とした。
　クレーエがそこへ刃を振り抜く。
「さよならだよ」
　深い黒の霊力を伴う、鋭い斬撃。猫吉はにゃーんと高く吹き飛ばされ、空のお星様となった。

「……もふにゃん、もふもふしたかった……もふもふしたかった……」
　クレーエはちょっと哀しげに仰ぐ。
　消えてしまったけれど、あの敵は確かに可愛かったが故に。
　つかさはそれを見つつも、息をついて武器を収めていた。
「とりあえず、お疲れさんな？」
「はぁ……手ごわい敵だったねぇ」
　色んな意味での苦戦に、ユアもちょっとだけへにゃりとしてしまう程。
　悠も頷きながら、周囲の破損や怪我人が無いと見れば静かに安堵した。
「一先ず、無事で、良かった」
「みんな、ありがとうね？」
　クレーエは改めて礼しながら、それでも未だそわそわ。もふもふしたさが抑えられない。
　祇音はそれを察知して、殺気と雷を纏ってガードしていた。
「わしはさせぬぞ？」
「ええ、私も」
　と、ルティエも耳と尻尾を収納。
　クレーエも仕方無しとこらえていると、ユアがそっとにゃんぐるみを差し出す。
「これで、我慢、するんだよ……？」
「ゆあさん、ありがとう……」
　もふもふしながら、クレーエは一端満足。
　けれどそれを味わうと、更にもふもふしたい気持ちが強まってきた。
「大きなぬいぐるみも欲しいかも……」
「わふ、しかたない。にゃんこのお店行きましょうか」
　ルティエが表情を和らげると、ユアも笑顔で頷く。
「猫カフェにも行って癒されようよ！！　本物の猫さんと戯れたい……！」
　となれば迷う理由もなく、クレーエ達は出発した。
　ノチユも帰路へつく。
「猫、か」
　決して油断はしなかったけど、いつもより戦いづらい気はした。
（「……あの人、猫とかすきなのかな」）
　それから、よく食べる彼女を想起してふと思う。
　今度聞いてみてもいいかも知れない。そう思いつつノチユは去っていった。
　周囲の警戒を欠かさずに居た祇音も──異常がないと見れば、頷いて歩み出す。
「これで街も平和じゃな」

「しかしまぁ……あの死神がここを選んだのも判る気がするな」
　つかさは帰りしなに街を見て回った。野良猫の姿も見え、人々が足を止める風景は確かに猫好きの街。
　悠もノアールと一緒に、影に潜む黒猫を見つけたりしている。
「猫、も。皆元気そう、かね」
「かわいいしグッズも沢山だし最高ですね！」
　通りがかった右院は、服や小物など新たな猫アイテムを沢山買い込んでいるのだった。
　一方クレーエ達もお買い物。
　早速グッズのお店に入ったクレーエは、手触りのいい大サイズのぬいぐるみを見つけた。
「あっ、もふもふ……！」
「これにする？」
「うん！」
　手に取ると、抱えるのに丁度いい感じで……ルティエに頷いたクレーエはすぐにそれを購入し、早速もふもふして満足げだった。
「じゃあ次は、猫カフェですね」
「うん！」
　ユアも朗らかに前進。早速人気の店に入って、存分に白猫や虎猫、ふくよかな猫達を撫で、もっふりしていく。
「やっぱり、かわいいねっ！」
　黒猫を膝に乗せながらユアはくつろいだ。
　クレーエもソファ席でルティエと共に猫まみれになりながら、全く同じ気持ちだ。
「うん。にゃんこ、かわいい……」
　もし、あのにゃんこが生まれ変わることがあるなら──デウスエクスじゃない形で出会い、もふりたい。
　少しだけ思いを馳せながら、クレーエは猫達を撫でるのだった。

作者：崎田航輝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2019年1月18日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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