新年迎えたしローション相撲でもするか!

作者:東公彦

「よーし、もういっちょう!」
 霜が降りるような寒気であっても、青空のもと威勢良い声が響いた。男達が体をぶつけあう。足元をすべらせもつれあって転び、そのまま土俵の外へ転がり出た。
「よーし、次ぃ!」
 号令と共に次の一組がぶつかり稽古をはじめる。と、再び足をすべらせ転倒した。いや当然だろう、土俵はローションで満たされ、稽古をする人々の体もてらてらと光るほどローションまみれである。これでは滑らないほうがおかしい。
「次は俺が行くぞぉ」
 号令をかけていたビルシャナが土俵に入り、のこったの声で突進する。途端に足を滑らせ豪快に横倒しになる。何の稽古か知らないが、参加している人々の顔は晴れ晴れとしていた。顔をあげたビルシャナも、いやにスッキリとした面である。
「やっぱり新年はローション相撲だな……。この素晴らしさ、もっともっと広めねばならん」
 気高き伝道師の瞳でビルシャナは遠くを見やった。


「ローション相撲っすか……」
 呟く黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が不意に顔を紅潮させた。よからぬことでも考えていたのだろう、すぐに顔を振って事件の概要を説明しはじめる。
「この寒いなかビルシャナが人々を集めてローション相撲をしてるみたいっすね。場所は関東の高原、冬場じゃ人はほとんど来ない所みたいなんで避難の必要はないんすけど……まぁ雪はないっすけどね、こんなところで裸になったら風邪じゃ済まないっすよ。うまく説得して一般の人達をはやく暖かい所へ連れて行ってあげてください」
 額に手をやってまいるダンテ。そんな芝居がかった仕草にも、ある含みは感じられた。
「信者予備軍は5人。男3、女2人っすね。人肌が恋しいのか、純粋にローション相撲が好きなのか、とにかくビルシャナの教義を心の底から楽しんでいるみたいっす。あっ、年始の謎のテンションってのもあるかもしれないっすね。説得が難しそうなら手加減した攻撃で気絶させちゃうのも手っすよ、そうすればビルシャナ単体を相手に出来るっすから。皆さんにはヘリオンから現地に降下してもらうっす、そのまま戦闘なり説得なりに入っちゃってください。ケルベロスの力、期待してるっすよ!」
 ダンテが熱く拳をつくった。やはりどこか邪な考えが見え透く。
「しかし大草原にぽつりとあるローション土俵っすか……これは何か起こりそうっすね」
 ダンテの口元がだらしなくゆるんだ。


参加者
ロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)
神宮・翼(聖翼光震・e15906)
白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)
ユーディット・アルニム(装甲砲士・e29597)
雁・藍奈(ハートビートスタンピード・e31002)
ナナリア・クレセント(フルムーンシンガー・e37925)
リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)
ケル・カブラ(グレガリボ・e68623)

■リプレイ

「いや寒いだろ! 何でよりにもよってこの時期に屋外で相撲なんだ!?」
 平服であってもロディ・マーシャル(ホットロッド・e09476)は身を震わせ肩を抱いた。吐く息は白く、高原を風が吹き抜けるたびに顔が痛い。ビルシャナ『ゴロリ』はともかく、信者達も神経が麻痺しているのか男女問わず水着のような姿である。女性の肌色は目の毒でロディは意識して目を逸らした。
「これの何が善いのだろうな……いや、意義はあるのか?」
 ユーディット・アルニム(装甲砲士・e29597)がそこらに飛び散るローションに指をつけて、真剣な顔でなにやらひとりごちている。するとヘリオンから降り立ったナナリア・クレセント(フルムーンシンガー・e37925)も首を縦に振って同意した。
「考えたって意味ないわよ。色んなビルシャナを見てきたけど、こんなのしかいないんだから」
「まぁ、ローション相撲って一定層には需要ありそうだけどねー」
 言いつつ神宮・翼(聖翼光震・e15906)はきょろきょろと忙しなく首を巡らせている。きっとカメラがあるはずだ、なぜかしらん確信があった。翼の言葉に手をあげて白焔・永代(今は気儘な自由人・e29586)が緩み切った笑みを浮かべた。
「はーい、需要いちだよ~」
「……不可解だ」
 理解出来んとばかりにユーディット。
「ローション相撲自体は楽しそうだけどナー」
 ケル・カブラ(グレガリボ・e68623)が言うと、
「ろーしょん相撲? 普通のお相撲とは違うの?」
 リリエッタ・スノウ(小さな復讐鬼・e63102)が首を傾げた。無垢な瞳が答えを求めて彷徨うが答えは返されない。誰が好んで華を踏むだろうか。
「とっ、とにかく」
 雁・藍奈(ハートビートスタンピード・e31002)が口火をきる。
「説得のためにはローション相撲やむなしっ、だよ! とっつげきぃ!」
 意気込んで土俵へと特攻してゆく。遅ればせながらケルベロス達も向かうとゴロリは土俵を清めるかのように入念にローションを撒き、信者たちは今か今かと土俵入りを待ちわびていた。
「よしっ」
 何がよしっ、なのかは不明だが、とにかく用意は整ったのである。そこへ、
「ちょーっと待ったぁ。こんな寒いのにみんなをこんなカッコにして風邪ひかせようだなんて悪い事は許せないんだよっ!」
 藍奈は誰よりも速く駆け込み、
「そんなに相撲したいのならあたしが相手――」
 地面にこぼれていたローションで盛大にすっころんだ。
「ほぉ、その意気やよし。相手になろうぞ!」
「えっ、ちょっと待っ」
 予想とは違った展開に藍奈があとずさる。生贄が一人でゴロリの眼をひいているうち、永代は女性信者の手を掌で優しく包むようにとった。
「どうせなら、君みたいに可愛い女の子が良いんだけど。嫌? よかったぁ、遊ぼ遊ぼ。えーっと中で転んでもセーフなんだっけ? マトモに組み合ったら転びそうだけど、楽しんだもの勝ちだよね!」
 息もつかせぬトークと不快にならない程度のボディタッチ。永代は土俵に上がる寸前、さっと女性の耳朶を噛むように耳元で囁いた。
「俺としてはローション相撲よりもっと、直接触れ合える良い事したいな。駄目? こんな所じゃなくて暖かい所で『二人』でさ」
 耳元へ軽く息を吹き込むと、たまらず女性信者はくらりと倒れこんだ。サキュバス顔負けの色気である。それじゃ、後はよろしくー。ひと仕事終えたとばかりに永代は暖を取りに行ってしまう。ドラム缶焚火やテントを設置し、着替えやタオルまでも用意していたロディは永代の手際のよさに半ば感心していた。もう半分は呆れとも羨望とも取れない複雑な感情であったが、とにかく永代の柔軟な対応だけはロディの中で称賛に値した。

 他方、ユーディットは土俵の入り際で粘度を確かめるかのようにローションを弄んでいた。
「これは……随分と糸を引くな」
 滑らないための訓練なのだろうか。考え、ユーディットは土俵へ足を踏み入れた。思考の次は実証である。適当に立ち尽くしている信者の一人を指一本で招き入れる。信者は鼻息も荒く、飛び掛かるように土俵へ入り、ユーディットに組み合った。
「やはりっ……滑るな」
 『異性と体を密着させること』よりも『冬場に行うローション相撲の意義』の方が彼女にとっては重要である。足元に最大限の注意をしつつユーディットは男を投げ倒した。しかし咄嗟、足に組みつかれ共に大倒しに倒れる。ただでさえ彼女のボディラインを際立たせているフィルムスーツが更にくっきりと肢体を強調する。乳房やヒップラインが形通りに隆起し、彼女の体つきが裸同然に露わとなると、もはや男の視線は釘付けであった。
 ユーディットは立ち上がろうと四肢に力を籠め、もう一度転倒してしまう。体どころか髪も顔もローションまみれになると、彼女はうっと苦虫を噛み潰すような表情を浮かべた。
「体中どろどろだ」
 手で体を拭いても、むしろローションを塗り広める結果に終わる。ついで体の上を自分の手が動くたび上手い具合に刺激が加わり、ユーディットはなんとも妙な気分になった。
「これはっ――訓練にしては効率が悪い。むしろ滑らないよう道具を使うべきだろう」
 以上、証明終了。いやらしい手付きで伸びて来る腕を捻り上げ、首に一撃。手加減した手刀で男を気絶させるとユーディットはようやく土俵から這い出た。
「いや~、役得役得」
 焚火で暖をとる永代が手を合わせ拝む。意識的に目を逸らしていたロディだったが、
「さぁ、次はあたしの番よ。相手は誰?」
 翼が準備運動に飛び跳ねると否応にも視線が向かった。いやらしい意図はない。ただ単に仲間が心配なだけだったが、体の動きを追って豊かな胸が揺れるので、まともに見ていられない。いや、翼の服があれだったり行動がアレだったりするのは何時ものことだけど……。
 過日の思い出が頭を巡りかけて……ロディはハッとし、雑念を払うように猛然と信者の体を拭き上げ、テントへ運び込む。
 と、蠱惑的な体を弾ませる翼へ辛抱たまらんとばかりに男が突撃した。きゃぁっ、可愛らしい声をあげる翼。肉食獣の檻に放られた子鹿のような悲鳴だったが、男が近づいたところでくるりとターン。背中を取ると首に手を伸ばし一息に締め上げた。行き過ぎないところで放すと、男は顔から地面に倒れ込む。やり過ぎたかな、翼は思いつつ男を運んでテントへ放った。

 仲間がするローション相撲を見て、なんとなしにリリエッタは察した。これ、きっといけないことなんだね。残る信者達の元へ静やかに歩み寄り、袖を引っ張ってリリエッタは語りかける。
「そんなぬるぬるになって寒くないの? 他の遊びでもいいんじゃないかな? 例えば……おしくらまんじゅうとかでぎゅうぎゅう押し合えばいいよ。ぬるぬるしないし、みんなで押し合えばそのうち温かくなってくるよ」
 熱のこもった言葉ではないが冷たいわけでもない。リリエッタはただ冷静に信者に声をかけていた。少女の瞳は穢れを映さない。とはいえ穢れた者は少女をその瞳に焼き付けるものだろう。ケルはそんな視線からリリエッタを守るように肩を抱き後ろへやる。
「駄目デスヨー、変質者の前に出てハ」
 続けて、信者たちへ訝しむような半眼を向けながら声をあげた。
「あなたタチ、ローション相撲に真面目に取り組むように見せかけて異性と触れ合おうとしているだけじゃないデスカ! もしかしたら女性もそのつもりかも知れマセン! それではローション相撲の悪名ばかりが広まって避けられるばかりデス!」
 といいマスカ。ケルは呆れかえった様子で続ける。
「普通の相撲じゃダメなんデスカ? 神聖な場所で神聖なイベントをやろうって話でもないみたいデスし、ローションがないとできないワケでもないデスし」
 いや最もな高説である。事実、ここに集まった信者達はローション相撲の素晴らしさを『卑猥』な観点で喜んでいるだけであり、心からローション相撲自体に傾倒するゴロリとは違っていた。痛いところを衝かれて信者達がたじろぐ。少女らしからぬ鈍色の溜息をつき、ナナリアが吐き捨てる。
「まぁ、そうね。ローション相撲って本当の相撲より危ないし重傷者多い気がするんだけど……。だったら普通に相撲取った方がよくない? そっちの方が安全だと思うわ。変な『目的』がなければ、だけど。あっ、別にあんた達と相撲とりたいわけじゃないから! 建設的な意見ってやつよ。勘違いしないでよね!」
 年下の少女達――いや一人は男の娘だが――に完膚なきまでに叩きのめされ信者は完全にグロッキーである。しかし、
「何が悪い! 俺は女の子とくんずほぐれつしたいんだ!」
 男が開き直ると、ナナリアは呆れたとばかりに冷たい視線をおくった。そしてにわかに服を脱ぎだす。何の躊躇いもなくあっさりと白いワンピースを脱ぐと、しかして仕込んであった水着姿となった。男は落胆を隠せなかったが、ナナリアが四苦八苦しながらも土俵にあがると勢い込んで土俵へ走り寄った。
 野獣がナナリアを襲う。そして、ああ無情にも彼女の体はむさ苦しい男に囚われる―――ようなことはなかった。
 両腕が空をきって自分の体だけが滑ってゆく。男は消えたナナリアを探し視線を右往左往させたが、ナナリアはそんな男を生ゴミでも見るように眼下に置き空に浮いていた。ディープブルーの翼が羽ばたくたび男に冷たい風をおくる。
「そもそも受けるとは言ったけど正々堂々なんて誰が言ったの? だって私オラトリオだし」
 これもまた最もな話しであった。地面に伏した男へナナリアは足を降り下ろし、言葉通り追い打ちし気絶させる。
 片や正気を取り戻した女性信者はロディに手厚く介抱されていた。
「寒かったろ? ……こんなに身体冷えてるじゃないか」
 女性信者の体を丁寧に優しく拭きあげる。と、至近距離から目があい、急に意識してしまう。ロディは赤面し、さっと視線を逸らした後、ゆっくりと横目の端で女性を捉えつつバスローブに袖を通させる。
「あっちに焚火も用意してあるからそこで暖まろうぜ」
 ロディがテントへ女性を誘導すると、残るはゴロリだけとなった。ケルは決め顔をつくりビシッ、音の出るような勢いで指を突き付けた。
「あとはアナタだけデスヨ! そもそもサキュバス的には、ローションはシャワーで汗を流してから使――」
 とケルが自論を捲し立てている最中、大量のローションが降りかかった。どろり、頭から顔、身体にかけてローションまみれになると、ケルはわなわな震えだした。
「やりマシタネ~!!!」
 怒りに任せてゴロリに組み付こうとするも足元のローション溜まりで転んでしまう。腰布も相まってジプシーのような格好のケルである、ローションで滑りがよくなると必然、服も大いにずれる。女性の柔らかさとまた違った筋肉の感触。それでいて未成熟な香りのするケルの色白の肌に黒い布地はよく映えて、性別を超然とした艶めかしい色気があった。
 対し、レオタードのようなフィルムスーツ姿の藍奈は、視覚に訴えかけてくる迫力があった。説得の間、ずっとゴロリと闘っていただけあり体はローションにまみれている。当初こそ光の翼をつかい華麗に攻撃を避け続ける自分の姿を想起していたのだが、現実は非情にも『追う鳥人間と追われる戦乙女』という構図を生み出していた。掴まったら何をされるだろうか……思うと藍奈は独りで赤面した。
 ローションまみれのため変な想像をしてしまったようで、藍奈はおろおろと友人の姿を探し、その視界に翼が入ると、
「とってー! 翼ちゃん、これとってー! フィルムスーツの中までローションでヌルヌルだよーっ!!」
 勢いあまってつんのめり、体当たりじみて抱き着いた。
「ちょっとっ――っやだ、ほんとにぬるぬるなのね。……ヘンな気持ちになっちゃいそう」
 艶のある声でひとりごちてしまうのはサキュバスの性だろうか。これまた体の線がうかがえる純白のフィルムスーツをまとった翼がもがく。
「ちょ、あっ、んっ! そんなに暴れたら擦れちゃうよー!」
 翼の胸の大きな膨らみに藍奈の双山が押し当てられると、お互いのものがひしめきあって形を変える。つるり、滑る度に違いの体が擦り合わされ艶めかしく肢体が入り乱れる。
 藍奈のほっそりとした、陶器を思わせる美しい曲線のくびれ。柔らかながら引き締まった下腹部。小麦色の肌がてらてらと光りながら立ち上がろうと動くたび身をくずし、藍奈は腰元を蛇のようにくねらせる。良い肉付きの尻から太ももにかけ力が入ると、本人が必死であるほどに淫靡な姿を晒してしまう。そんなプロポーションと遜色とらぬ翼の色白の肌がコントラストになった様は圧巻と言えた。日本に存在する巨峰を並べ立て連山にしても、これほどの光景はないはずである。
「う~ん、これは絶景だ!」
 目の前でじたばたともがく二人を手助けせず、あくまで永代は眺望に徹する。
「二人とも大丈夫か!?」
「ロディくん、何とかしてぇ……」
「と、とにかく立たなくっちゃ! ロディくんっ、手を貸して!」
 ロディがタオルを手に走り寄ると、それを待たずに二人が腕を引いた。
「あっ――」
 タオルがはらりと宙を舞い、ロディは巻き添えをくらって転倒する。滑り、二人に挟まれる形で顔を突っ伏すと、翼と藍奈が声にならない声をあげた。
「きゃぁっ。ちょっ、ロディくん!?」
「んんっ! もぉ~、ロディくんのエッチぃ」
「違うだろ! 2人が引っ張ったから――」
 咄嗟に立ち上がろう余計な力が入り、今度は絡み合う二人の下方に滑りこんでしまう。鼻先に翼の形の良いヒップがでんと据わってしまうと、ロディはどこへ視線を逸らすことも出来ず、あわあわと口をわななかせるだけだった。もう彼の頭はパンク寸前である。
「あ~っ汚ねえ! 俺も俺も」
 積極的にお近づきになろうと飛び込まんとする永代だったが、ユーディットに引き戻されると、
「う~ん……こっちも抜群だねぇ」
 などとひとりごちる。自分の魅力に無自覚なユーディットは言葉を気にすることなく、顎先をくいとゴロリへ向けた。
「白焔はこちらだ」
「はーい。女性からの頼みなら断らないよ、俺」
 つーことでさ。永代が無手のまま敵へ近づいてゆく。
「俺、本気モード的っての? だからさ、逃れられると思うなよ、お前は此処で焼かれてけ」
 永代の体中から白煙のような焔が噴出する。独りでに動き回り、害するモノの全てを燃やし尽くさんと地を這い、空に溶け燃え上がる。膨大な熱量が押し寄せると、ゴロリの体のローションなど瞬時に蒸発してしまう。
「チャンスっ、デスネ!」
 ローションは熱の余波で拭いとれた。散々溜まっていた鬱憤を晴らすべく、ケルはゴロリへ突撃し腰部を抱えて垂直に投げ落とした。
「うごっ!?」
 相撲というよりはプロレスか。見事なバックドロップを終えると、ライドキャリバー『アインクラート』が轍を回して近づいてきたのでケルは飛び退いた。アインクラートは前輪に重心を置き、ボディの後部を回して思い切り敵に叩きつける。続けざまテレビウム『シング』が手に持つタンバリンでゴロリを滅多打ちにした。しゃんしゃん、しゃりん。澄んだ音色に対して力強い一撃。
 波状攻撃を耐えられず、ゴロリは転がるようにして逃げ出す。一旦、距離を取らなければ……。しかし考える暇もなく次なる攻撃が繰り出される。ナナリアの青き翼が羽ばたくと風が巻き起こり、同時に光弾が生み出される。一発の光弾が射出されると連鎖的にそれは放たれた。光弾が炸裂するごと、周囲の空気までも凍結するかのようであった。
 ゴロリの脚もとが完全に凍りつき動けないところへユーディットは拳を突き出した。レプリカントとしての内部構造が打撃の衝撃を最大限効率的に与える。正拳突きのような回転が加えられた一突きがゴロリの胸を打ち、インパクトの瞬間に生じた膂力で大きく後方へ吹き飛ばす。
「力を貸して」
 友の名を心の中で呼ぶと、なぜだろうか彼女の魔力が体に満ちてゆくのを感じる。リリエッタは無骨な拳銃を突き出し、そこへ二つの魔力を『自分の体を一個の回路として』伝動させる。限界以上の魔力で作られた弾丸は『魔弾』となり、リリエッタの狙う照準の先、立ち上がろうとしていうゴロリを捉える。
「スパイク・バレット!」
 魔弾はゴロリの体を撃ち貫き、その生命を荊と棘で断った。しかしゴロリも死に際、特大の贈り物を用意していたのである。


「なんでビルシャナって……ほんっとーにっ!!」
 ゴロリが死に際に撒き散らしたローションで濡れ鼠になったナナリアは髪を拭き々、悪態をついた。普段は冷静な彼女の年齢相応の姿がそこにはあったが、まったく不機嫌そうである。
「んっ、ぬるぬるしてなんだか気持ち悪いよ」
 ほとんど垂直に切り立った胸元には「りりえった」のゼッケン。白いスクール水着姿のリリエッタもタオルで体のそこここをぬぐっている。テントの中は女性だけであったので、彼女は無防備に体を晒し大胆に水着を開け広げてその隙間からタオルを入れた。14のリリエッタの開け広げな行為に、11のナナリアはぽかんとした。
「……恥ずかしくないの?」
 ナナリアはひとりごち、流れるような手つきでシングのタンバリンを投げた。それはちょうどテントの中を覗こうとしていたダンテに当たり音を立てた。

作者:東公彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年1月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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