魂の骸

作者:崎田航輝

 黒衣が風に揺らめいて、流れる雲に影を投影する。
 白絹の髪は光に柔く燦めいて、嫋やかな美貌を飾っていた。『先見の死神』プロノエーはひとりどこかを見据え、静謐の顔で時を過ごす。
 そしてどれほど時が経過した頃か、その視線の先の雲下から一体の竜が昇ってきた。
「来られたのですね、ジエストル殿」
「ああ」
 プロノエーに応えたそれはジエストル──魔竜ヘルムート・レイロードへ従う黒竜。傍らには定命によって死を間近にしたドラゴンを連れていた。
 プロノエーはすべてを見通すように、澄んだ声を掛ける。
「此度の贄となるのは、そのドラゴンですね」
「そうだ、この者の定命化を消し去ってもらいたい」
 その言葉に、定命のドラゴンも否定をしない。ただ、両者へ言った。
「我が生命が僅かでも、種族の為に役立つのならば」
 掠れた弱き声。
 それでも揺るがぬ決意の表れのようでもあった。
 プロノエーは静かに頷き、魔法陣を輝かせる。
「あなたという存在は消え去り、ただの抜け殻となるでしょう──よろしいですね?」
 ドラゴンが頷けば、その体を光が包み、魔法陣へと消失させた。
 一瞬の後にはそこに骸の如き見た目へと変貌した異形がいた。プロノエーはそれを眺めて唇を動かす。
「サルベージは成功。この個体に定命化部分は残っておりません」
「すぐに戦場に送ろう。……引き続き、完成体の研究は急いでもらうぞ」
 ジエストルは応え、その死龍を見つめていた。

「集まっていただいてありがとうございますね」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は皆に説明を始めていた。
「本日は、ドラゴン──『獄混死龍ノゥテウーム』についての事件となります」
 往来の只中に現れること、そしてその戦闘力。先日より出現の確認されている厄介なデウスエクスだという。
 今回の襲撃地は東京都内の街中なのだという。
「元々人口の多いところで、時刻も昼間とあってかなりの往来がある状態です」
 ノゥテウームは空から飛来し次第、人々へ襲いかかる。
 襲撃までの猶予はほとんど無く、避難誘導を行う時間はないだろう。
「ドラゴンとしては戦闘力も高い方ではないようですが……ドラゴンであることに違いはありません。全力での迎撃をお願いします」
 ノゥテウームが降り立つのは、大通りが交差している開けた所。こちらもほぼ同時刻にそこへ降り立ち、迎撃をする形となる。
「なお、この敵は戦闘開始後8分で自壊して死亡する事がわかっています」
 つまりここで撃破するか、或いは倒さずとも時間まで耐えきれば勝利となる。
 ただ、時間が経つ間防戦だけをしてはいられない。
「どうやらこちらが『戦うに値しない弱的』だと判断した場合は、こちらを無視して市街地の破壊と一般人の虐殺を始めてしまうようなのです」
 故にこちらも戦い方を考える必要があるでしょう、と言った。
 無論、敗北してしまっても甚大な被害は免れない。敵の注意を引きつつ、最低限時間まで耐え抜くことが必要だと言った。
「楽な敵ではなさそうです。けれど皆さんにしか出来ない戦いですから──是非そのお力を貸してください」


参加者
御子神・宵一(御先稲荷・e02829)
リューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
ヴェルトゥ・エマイユ(星綴・e21569)
折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)
天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)
夜巫囃・玲(泡沫幻想奇譚・e55580)
交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)

■リプレイ

●開戦
 上空からでも、その異形の歪さはすぐに目についた。
 市街上方、ヘリオンにて飛来した一行は眼下にその竜の姿を見つけている。
 見下ろすリューデ・ロストワード(鷽憑き・e06168)は、複雑な感情が渦巻くのを抑えられなかった。
「あの竜はもう骸なのだな」
 因縁があればこそ、ドラゴンという種に抱くのは常に怒りの感情であるはずだった。だが、“竜”とも言えぬその姿には、哀れみの気持ちが勝る。
「自己犠牲を厭わない高貴な精神を持つようでもあり──反してひたすら貪欲なだけのようでもあり。見習おうとは思いませんが、一筋縄ではいかない種族とは言えそうですね」
 御子神・宵一(御先稲荷・e02829)は目元を隠す前髪の間から見据え、呟く。
 尤もその表情は移ろわず、声音は至って冷静。
 今やるべきことは変わらないと、ハッチから風を浴びた。
「では、行きましょうか」
 言葉に皆も、まずは戦場へ降下していく。
 夜巫囃・玲(泡沫幻想奇譚・e55580)も皆の背を追って空へ踊っていた。
 視界に映るのは竜の異形。けれど、玲は狐面の奥で笑んでみせる。
「現世に惑いて来たる悲壮の魂──今こそ冥界へ送り届けてあげましょう……なんてね」
 ──けひひっ、と。妖しく、奇しく。
 一瞬の後には、騒乱の市街へ降り立ってゆく。

 眼前に見上げるそれは、言葉に違わぬ骸そのものだった。
 獄混死龍ノゥテウーム。
 道路で獲物を探すその巨体は鱗も翼も朽ちた、竜の成れの果て。
 それでも、朧な知性に戦意だけは垣間見え、天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)は目を伏せていた。
「骸になってまで、それでも尽くす……譲れないものが、あるのかな」
 少しだけそれに思いを馳せる。骸が骸でなかった筈の頃の事を。
 けれど詩乃は真っ直ぐに視線を向けた。
「でも、それはこっちも同じだよ。人々の命も、この星の命運もあなたたちには渡せない。……いこう、ジゼルカ。皆を守るよ!」
 エンジンを高く吹かすのは相棒であり親友のライドキャリバー。共に死龍の視界に入り込むように肉迫していく。
 リューデも人々へ逃げるように呼びかけながら、灰から黒へと流れる色を持つその翼を大きく広げ、死龍の前に立ち塞がっていた。
 吼える死龍はそこで初めてこちらに気づく。
 と、その頃には四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)が煌めきを纏った機甲靴で地を蹴っていた。
 馬簾菊が描かれた着物が、鮮やかに空を踊る。瞬間、苛烈な蹴撃を加えて機動を削いだ。
 ただ、千里は緋色の光を帯びた瞳を細めている。
 敵の動きが余りに素早いと気づいていたのだ。
「速さを重視した間合い……」
「……ならば、まずは鈍らせるだけだ」
 静やかな声音を聞かせるのはヴェルトゥ・エマイユ(星綴・e21569)だった。そっと手をのべると、死龍の足元から鎖が這っている。
 Stardust platycodon──桔梗を咲かせる美しき鎖は、花が散ると共にその巨体を蝕んだ。
 同時、ヴェルトゥは夜色の髪を靡かせて飛び退く。入れ替わるように敵へ立ちはだかるのは宵一だった。
「浅小竹原」
 手の甲を打つ逆柏手が響く。
「腰なづむ 虚空は行かず」
 紡がれる古謡は、それを媒体に敵の魂を縛る呪歌でもある。『御葬の歌・弐』。宵一の楚々とした声音と仕草が少しずつ、そして確実に死龍の内部に染み渡った。
「──足よ行くな」
 完成された唄に死龍は唸った。自身の強みであるはずの機動が、気づけば大幅に鈍化していたからだ。
 時を同じく、仲間を光の魔法陣が包んでいる。
 交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)が鎖を舞わせて描く、守護の紋様。淡く温かい感覚を与えるそれは、守りの加護となって場に留まっていた。
「これで、一先ず前方の守りは固まったかと」
「うん。それじゃあこっちも、やっておくね」
 頷く詩乃は次に玲に蒸気のバリアを張り、防護を高める。
 玲はそこでそっと仮面を外していた。
 一呼吸の後に、すらと刃を抜く。
「さて──お相手願いましょうか」
 刹那、高速で踏み込むと歪な腕部を刃で払い、一撃。くるりと廻って虹の軌跡を描く斬撃を叩き込んでいた。
 死龍は敵意を露わにして、攻め込んでくる。
 地を踏み、アスファルトを割るその様は暴虐の字に違わない。警戒を浮かべながらも麗威は息をついていた。
「しかし、わざわざ人の多い場所を選ぶなんて、本当、いい性格してますよねぇ……」
「ええ。──まったくもって、度し難い」
 小さく細かった声に、歯噛みと怒りを見せるのは、折平・茜(モノクロームと葡萄の境界・e25654)。正面から死龍に向かい合い、きっと睨みつけていた。
 両親が死んだ時も、こうだった。
 突然デウスエクスが現れて、街を襲ってきて。
 思い出すほどに、はらわたが煮えたぎって抑えが効かない。
 だから茜は、玲に放たれた打撃を剣で庇い受けて尚、至近で殺意の視線を注ぐ。
「……っ」
「……折平……!」
 千里は親友の姿に驚いていた。
 茜の境遇を知るからこそ、彼女が躊躇わず正面から敵に相対したことに瞠目したのだ。自分にはそこまでの覚悟があっただろうか、と。
 だから迷いのない茜を少しだけ羨ましいと思う気持ちまであった。
 ただ茜は、衝撃に弾き飛ばされると微かに息を浅くする。
 抑えようと思って簡単に抑えられる相手ではない。ましてや独りでは。そのことは初めから分かっていた。
 故に、茜は千里へ振り向く。
「お願い四方さん。力を貸して」
「……勿論。……大丈夫」
 今度は私がいるから、と。千里は敵を見据え槌を振るった。正確無比な砲撃で爆炎を上げ、死龍の足元をふらつかせる。
 茜はそこへ跳んで、鋭い蹴りを叩き込んでいった。
 死龍は構わず攻めようとするが、リューデはレイピアで骨の体を穿つ。
「やらせはしない」
 同時、そこからグラビティを流し込んだ。魂に侵食する毒は死龍をも深く、内部から蝕んでいく。

●相克
 千里のアラームが二分経過を告げる。
 死龍は重なる負傷で脚の一部が朽ちて、落ちる。それでも呻くような声を零すばかりで、後はただ戦意を浮かべて一歩一歩近づいていた。
 その様相は、竜と呼ぶよりは獣。そして生者と言うよりは死に呪われた者。
「何故……自ら地獄に堕ちる事を選んだ」
 リューデは死龍と二度目の対峙を迎えるが、迷いは深まるだけだった。
 反して死龍は迷いを知らぬように、這って進む。
 ただ真っ直ぐに、ただ獰猛に。
「最期に身命を賭したのだろう」
 呟くヴェルトゥは、それを青銀の瞳で見つめていた。
「竜としての威厳は全て失われたが。この様な姿になって尚、種族の為に戦っているんだ」
 体は骸だろう。
 だがそこには元の竜の志が残っているとヴェルトゥには思えた。
「ならばその誇りに敬意を表して、此方も全力を以って相手になろう。ただ滅びゆく道を選ばなかった竜への、せめてもの手向けに」
「全力を、か。そうだな」
 一度目を閉じるリューデは、自分の中で明確な答えを得たわけではない。
 けれど確かに判ることはあった。
 ──この竜は哀れみなど望まぬだろう。
 ならば自分もせめてもの敬意として、冷徹に全力を以って戦おう。
「そしてこの戦いで、弔おう」
 風を切ったリューデは『静寂の獄』──地獄の心臓が齎す極限の集中が成す一閃で骸の歪な翼を切り飛ばす。
 死龍の動きは止まらない、が、宵一も既に肉迫していた。
 文字通り狐の跳ねるが如く、骨の体を駆け上がり眼前へ。そこへ突き出すのは右手に握った家伝の太刀・若宮。雷光を宿した刺突で胴体を貫くと、小爆発の如き衝撃を与えた。
 死龍がよろめくと、その間に宵一は身軽に後退。ヒットアンドアウェイに徹していく。
 そこへ千里は敵を見据え瞳術を行使していた。
 一層紅の光を増す瞳は、敵に内在するグラビティを直接破壊する波動を生む。緋色が炸裂する衝撃は強烈な威力をもって死龍にたたらを踏ませていた。
 千里を見下ろす死龍。だがその視界を塞ぐように玲が迫っていた。
「相手は、こちら」
 素顔の黒い瞳には、やはり仮面のない不安さが滲む。
 けれど以前よりはその度合は少なかった。どこか飄々とした空気さえそこに残すように。
 瞬間、縦横に斬撃を奔らせて笑んでみせる。
「さあ、全力でかかって来なさい!」
 死龍は声で空気を震わせ、催眠に陥らせようとしてきた。だがその音の波動を、滑り込んだ詩乃が防いでみせる。
「通さないよ。攻撃は、全部」
 詩乃はそれでも、耳朶を打つ魔力に意識を朦朧とさせた。
 が、麗威はそこへ拳を掲げている。力を込めるとそこに治癒の光を生み出していた。
「大丈夫です。それも予測済みですから」
 それを振り下ろして拳圧を放つ。
 動作自体は若干荒くなってしまう部分もある。だが飛来した癒やしの力は確かに詩乃の体を包み意識を明瞭に保っていた。
「ありがとう」
「いいえ。──敵も連撃を狙っているようです。気をつけて」
 死龍の様子もつぶさに観察している麗威は、皆に周知。自身も警戒態勢を取る。
 すると頷く詩乃がすぐに前進。ジゼルカに乗って突撃すると、自身も発火装置を起動させて巨大な焔で敵を包んだ。
「皆も攻撃を!」
「ああ。モリオン」
 ヴェルトゥは黒水晶の箱竜の放つ星屑のブレスに合わせ、自身も光線を放ち連撃。
 同時に茜も退かず敵へとひたすらに攻めていく。
 死龍は腕で受けようとするが、茜は刃で力いっぱいに払い、面前へ。
「絶対に、負けてたまるかっ……!」
 ゼロ距離から蹴撃を放ち、顔の一端を破砕していく。

●祈り
 死龍の低い声が轟く。
 時間は五分に入るところだった。
 こちらは防御力を高めた上で被弾人数を抑えているため、戦線は未だ保たれていた。ただ、敵もまた、着実に体力を削られているもののまだ倒れる気配はない。
 よろめきながら、這いながら、殺意だけは健在だった。
「腐っても竜、なんてね?」
 呟いてみせる麗威。
 だがそれは脅威を端的に表した言葉でも有る──ならばこそ。
「……負けるわけにはいきませんよ」
「ええ。行きましょう」
 短く言った宵一は素早く死龍へ疾駆している。
 骸の腕が奮われるよりも早く跳躍すると、そのまま突き下ろすように刺突。骨の破片を散らしながら、そのまま跳んで間合いをとっていた。
 連続して、茜が袈裟に刃を振るって傷を抉りこむと、リューデも一閃、骨の腕を切り裂いて砕いていく。
「敵の状態は──」
「まだかも。でも少しずつ弱ってそう」
 リューデに応える詩乃も攻撃に移っている。腕に渦巻くグラビティを纏うと、一撃。痛烈な拳を打ち込んで死龍の足元までもを粉砕していった。
 くずおれる形となる死龍は言葉通り、如実に弱ってもいた。ただ、それで攻撃の意志が無くなることはなく。強烈な乱打で茜を打ち据えてくる。
 意識を飛ばしかけながらも、しかし茜は踏みとどまっていた。
「──倒れぬ盾となって在りましょう……!」
 直後には『勇なき羊の鎧鼠行進曲』。自身を甲殻で覆うことによって急速に体力を回復させていく。
 再度の攻撃を狙う死龍だが、ヴェルトゥが至近から光線を放ちその瞳を焼き切っていた。
「今だ、続けて」
「了解です。雨を降らせてあげましょう」
 玲は上方からの無数の斬撃、『冥界時雨』で一気に体力を削っていく。
 宵一がナックル型のハンマーで敵の顔面を殴打すれば、死龍の顔と体も大きくひしゃげて徐々に体力の底が見え始めてくる。
 それでも倒れぬ敵に、麗威は千里へ目をやる。
「時間は……」
「そろそろ六分が経つ……」
 応える千里は妖刀を抜いていた。七分目に差し掛かれば、総攻撃の時間だった。
 目を合わせた皆は、包囲するように立ち、一斉に攻勢に移る。麗威もここに至って守りには入らず、特殊塗料を大きく振りかぶってぶちまける。死龍の全身を包むほどに、明るい色へ塗り上げていた。
「これで少しは見た目も可愛らしくなったのでは?」
 尤も、死龍に応えることは出来ない。徐々に自壊も始まりつつあったからだ。
 とは言え、おそらく時間が経過しきることはない。詩乃が駆け込んで真っ直ぐの拳を撃ち当てれば、死龍は瀕死だった。
 叫びを上げる死龍、だがリューデは冷静に横一閃に刃を振るい、骨の体に亀裂を入れている。
「道連れは、与えない」
 そこへ茜が至近から飛び蹴りを打って、千里を見た。
 頷く千里は妖刀を振り上げている。
「千鬼流……奥義』
 放たれる『千鬼流奥義 死葬絶華』による剣撃は、引力と斥力による重力操作を伴った連続斬撃。一振りに四十二の衝撃を加えられた死龍は、自壊するまでもなく命を散らせていった。

 崩れ落ちた死龍は、すぐに消滅を始めていた。
 細かな粒子となって空に消えていくのを、玲は暫し見つめている。それからぽつりと言った。
「貴方の恨み、受け取りました」
 そして見上げる頃には、それは跡形もなく散っていた。
 麗威が周囲の確認をして戻ってくる。
「一般人の方は皆無事なようです。けが人もいないでしょう」
「じゃあ、あとは周りを直さないとね」
 詩乃が見回す。人の被害はないものの、道や建物は崩れているものも多い。皆は頷いて、それらの修復に入ることにした。
 リューデは非力ながらも一生懸命に、細かな瓦礫を除去していく。
 千里もそれを手伝っていくと、大きなものは麗威と宵一が怪力を発揮して運び出し、素早く一帯を綺麗にしている。
 あとは、ヒールできるもので周囲をヒール。幾分か幻想が入り混じりながらの、美しい街並みになり始めていた。
 詩乃は視線を巡らせている。
「このくらいで、大丈夫だね」
「ええ」
 麗威が頷くと、皆はようやっと息をつく心地だった。
 茜は千里へと歩み寄る。別に、心にあるトラウマが解消したわけではない、けれど。
「ありがとね、千里ちゃん」
 そう千里へ初めて聞かせたのは、茜自身の素の口調だった。
「……うん」
 千里も頷く。そうして皆は帰路につき始めていく。
 ヴェルトゥは少し空を見ていた。
「予知で聞いた完成体の研究とやらの話──気掛かりだな」
「ええ。プロノエーにジエストル……奴らはなにを企んでいるんでしょうね」
 麗威もそれには、気になるところでもあった。
 ヴェルトゥは呟く。
「定命を克服した死竜を生み出そうとでもしているのだろうか」
 尤も今は推測するしかない。麗威は歩み出した。
「兎に角無事に終えて、何よりです。今日は帰りましょう」
 皆も頷き、街を背にしていく。
 そこにはもう、骸となった死龍の面影はない。リューデは暫しその敵が散っていった跡を見下ろしていた。
 そして名も知らぬ竜へ祈る。
「……」
 風は少し冷たい。けれど街は温かな賑わいを取り戻すから、リューデはそれきり踵を返して歩んでいった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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