月影の刻

作者:崎田航輝

 花園沿いでは夜にも花が薫る。
 街の片隅にある植物園、そのすぐ側の道。過去に剣戟があった時分には、この辺りで風に舞ってくるのは夏の花だった。
 けれど涼しさが増すに連れて、夜風にはらはらと踊るのは秋の色。奇しくも空には眩い程の月が照っていて、それが色濃い花吹雪を照らす。
 ぞっとする程の鮮やかな光景──だがその景色の只中に、煌々と輝く光があった。
 浮遊する深海魚型死神。それらの描く、円陣型の光の軌跡。
 魔法陣となったそれは、その中央に一体の巨体を召喚していた。
 かつて花園にて死を迎えたはずの、黒色の騎士。
 尤も、静やかに死と絶望を語っていたその知性もなく、今は鎧の全身を植物で纏った不気味な姿へと変貌している。
 蘇り、異形の獣へと堕した姿。本人にはその自覚すら無く、ただ呻くように周囲を見回していた。
 そこに空から舞い降りてくる、もう一体の巨躯がいる。
「随分静かじゃねぇか。……まあいい、ちょっと探せばいんだろ。啼いて、叫んで、血を流してくれる餌が」
 高笑いを零すそれは、異星の罪人。
 同族の成れの果てとも言える隣の巨躯については一瞥するだけ。後はただ自身の狩る獲物のことだけを考えていた。
 月明かりに、目を爛々と輝かせて。罪人と骸が、夜に踏み出していく。

「死神も一層、動きが活発になっているみたいだね」
 アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は夜半のヘリポートで呟く。
 ええ、と頷くのはイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)だった。
「今回も、中々厄介な事件となるみたいです」
 曰く、深海魚型の死神が街に現れ、過去ケルベロスに撃破された罪人のエインヘリアルをサルベージしている。
 そこに、更なる罪人エインヘリアルが同時に現れる──そんな事件が予知されたのだ。
 即ち、エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が危惧していた、罪人エインヘリアルのサルベージを援護するエインヘリアルの妨害行動と思われる。
 アンセルムは成程、と小さく口を開く。
「2体のエインヘリアルと、深海魚型死神が敵、っていうことだね」
「ええ。サルベージされた罪人エインヘリアルは、出現の7分後には死神によって回収されます。それを防ぎ──新たな罪人エインヘリアルによる破壊活動も防ぐことが、こちらの目的となります」

 イマジネイターは資料を指して説明を続ける。
「現場は夜の街路です。サルベージされるエインヘリアルは、以前にすぐ近くにある植物園でケルベロスに討伐された個体となります」
 独自の価値観で死と絶望を語る男だったが、今ではその知性すら無い。変異強化された上でただ本能のままに戦う、獣のような存在となっている。
「この個体は全身に植物を纏っていることから『黒棘』と呼称することにします」
「ふうん、植物ね……もう1体の方は?」
「こちらは、コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれたばかりの罪人エインヘリアルで──『ゴード』という名の個体です」
 アンセルムに応えてイマジネイターは言う。
 ゴードは知性の面では黒棘に勝る、けれど戦闘狂であるため理屈の通じる敵ではない。
 これに加えて深海魚型死神が3体いる。これらも無論警戒は必要だろう。
 周囲の避難は既に行われているが、予知がずれるのを防ぐために戦闘区域外の避難はなされていない。黒棘は戦闘開始から7分後には回収されるが、ゴードについては放置されるために、こちらが敗戦すれば野放しになってしまうだろう。
「簡単にはいかない敵でしょう」
「うん。それでも勝機があるならそれを狙うしかないかな」
 アンセルムが言えば、イマジネイターも頷いた。
「そのとおりです。死神にも、エインヘリアルにも、思い通りにさせないために。是非とも尽力を、お願いしますね」


参加者
立花・恵(翠の流星・e01060)
天津・総一郎(クリップラー・e03243)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
比良坂・陸也(化け狸・e28489)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)
オニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)

■リプレイ

●月と影
 光に煌めく花の舞いは、夜の中では眩い程だった。
 だが視線を下ろせば一層妖しい光に照らされた異形がある。道を駆ける比良坂・陸也(化け狸・e28489)は、遠方に見えてきた敵影に金色の瞳を細めた。
「──エインヘリアル2体に死神3体。けっこーな重量級だな」
「面倒な状況を、生んじまったな」
 頷く立花・恵(翠の流星・e01060)は僅かに声を落とす。
 死神が他のデウスエクスをサルベージできるようになったのもケルベロスが現れた故。そこに皮肉なものを感じていた。
 それでも真っ直ぐな心は、後ろ向きに座しはしない。T&W-M5キャットウォークをホルスターから抜けば、視線はただ敵へ。
「どっちも責任とらねーとな! そのためにも、勝つぞ!」
 皆もそれに続き花吹雪の中を疾駆。距離を詰めていった。
 程なく、居並ぶ敵がこちらに気づく。
 その中の一体、罪人ゴードは嗤い顔で番犬を迎えた。
「餌の方から来てくれるなんてな。幸運が転がり込んだもんだぜ」
「それはどうかしら。私達は貴方の好きにさせるつもりはないわよ!」
 声を返したのはジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)。ぐっと目の前で拳を握り、快活に言ってみせる。
 ツリ目気味の瞳に浮かぶのは、濁りのない自信。
 ゴードはふっと声を零して剣を構えた。
「おもしれぇ。魚や骸に邪魔されて俺を倒せるかね」
 言葉に、ゆらりと前進する巨躯がいた。
 嘗ての騎士、黒棘。
 濃色の植物を纏い、戦士とも獣ともつかぬ異形と成り果てている。
 それでも何処かに面影がある気がして、アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は短時間だけその姿を見ていた。
「一度倒した相手と、また戦う日が来るなんて……ね」
 アンセルムの中性的な容貌に浮かぶのは、色の薄い表情。けれど心は一瞬だけでも、過去へと遡っていたろうか。
 ふむ、と息をつくのはオニキス・ヴェルミリオン(疾鬼怒濤・e50949)。もの言わぬ巨躯へ、視線を送る。
「死と絶望を語る男が死を奪われるとは皮肉なものよな」
「ああ。眠っていた相手を起こすなんて、行儀が悪いったらない。もう一度眠らせてやりたいところ……だけど」
 恵は眉根を寄せながらも、冷静にゴードへ向いていた。
「今一番危険なのは……あいつの方か」
 皆は黒棘からは間合いを取り、ゴード、そして死神へと相対している。浅い呼気だけを零す黒棘へ、オニキスは顔を上げた。
「──許せ、此度は汝を送り返すことは出来ぬのだ」
 それは皆で決断した策戦だった。
 人々の命を確実に守るために。この骸がここで真の死を得ることはないだろう。
 それでも、オニキスが見せたのは真摯な戦意だった。竜鱗と竜爪によって作られた、身の丈も超える程の剣を抜くと語りかける。
「手は抜かん。だから全力で、やり合うとしようではないか」
「その通りじゃ」
 声を継ぐのはレオンハルト・ヴァレンシュタイン(医龍・e35059)。扇子をぱちんと鳴らし格好をつけてみせていた。
「全霊を以て、あたってみせよう──竜王の不撓不屈の戦い、括目して見よ!」
 八重歯を見せてにかりと笑うと、紙兵を撒いて霊力を展開。仲間を守護していく。
 それを機に皆も戦線へ。拳を打ち鳴らして気合を入れた天津・総一郎(クリップラー・e03243)は、その腕を掲げてみせた。
「こっちも先ずは、準備させてもらうぜ」
 眩く輝いたのは光の輪、【 日輪 】。それを宙へ飛ばして味方の盾とすることで、堅い守りを与えていく。
 次いで空から星々の光が降りたのは、八久弦・紫々彦(雪映しの雅客・e40443)が星剣から守護星座の力を発揮していたからだ。
 仲間を包む星辰の煌めきは、後衛に加護をもたらしていく。
「これで態勢は整ったか」
「よし、最後にこいつも受け取っとけ」
 陸也は符から虹色の光を放射して後衛を強化。その力を授かった恵はマズルフラッシュを瞬かせ、怪魚へ広域の射撃を喰らわせていた。
 同時に皆も死神の対応へ入っていく。
 そんな中で黒棘は棘を飛ばしてくる、が、その攻撃はジェミが正面から受け止めていた。
「貴方の相手は、私達よ!」
「うむ、水気即ち千変万化。受けてみるが良い!」
 同じく黒棘の抑えに回るのはオニキス。刃を揺らめかすと、混沌の水を霧状に変えて揺蕩わせていた。
 『龍霧四塞』──瞬間、龍の息吹の如く噴射されたそれはゴードをも巻き込んで黒棘に命中。刃と蔓を腐食させ、その威力を削いでいく。
 ジェミがドローンを展開し回復防護をしていくと、紫々彦は攻勢へ。指輪から光の戦輪を生み出して投擲し、薙ぎ払うように三体へ斬撃を加えていた。
「やわではない、が、確実に削れてはいる。このまま討つぞ」
「我らも加勢するぞ! ゴロ太!」
 レオンハルトの声に、果敢に疾駆するのはオルトロスのゴロ太。瘴気を撒いて死神を牽制していた。レオンハルト自身も霊力を纏った打撃を加えつつ、仲間へ向く。
「バラバラに死神を狙ってもらちがあかぬからの。弱っている個体から撃破するんじゃ!」
「了解。ひとつ鋭いのを、いくぜ」
 総一郎は姿勢を低く疾走し、跳躍。速度をつけて前方へ宙返りし、蹴り落としで怪魚一体を地に叩きつける。
 瀕死のその一体へ、アンセルムも接近。蔦が風を切る程に素早く体を翻し、蹴撃を放った。撫で斬りの如き後ろ回し蹴りは痛烈に命中し、その個体を消滅させていく。
 すると別の死神が上方から迫った。
 が、アンセルムはそれにも気づいている。
 飛び退る動作は疾く、それでいて腕に抱く少女人形が傷つかぬよう、その扱いはどこまでも優しく、丁寧に。
「やらせない……むしろ、いい標的だよ」
 間合いをとった位置から魔力を集中すると、死神を覆う不可視の檻が出現した。
 それは『煉獄の檻』。元は防御魔法であったという能力は、しかし内部の怪魚を決して護りはしない。
(「やっぱり攻撃に転用してよかったな……」)
 と、術者本人が思うのも一瞬。
 暴力的なまでの爆炎が中を包み、炸裂炎上。あまりに強烈な威力を発揮して、跡形もなくその怪魚を焼き尽くした。

●刻限
 オニキスのセットしたアラームが三分の経過を告げる。
 場にいるのは一体の死神と、二体の巨躯。
 ゴードは成程な、と片眉を上げていた。
「邪魔者が消えてからじっくりと、俺と戦ってくれるって算段か?」
 それも悪くねぇが、上手くいくかね──と呟く。
 横目に見た黒棘が、既に吼え声を上げて攻め込んでいたからだ。
 その声も走る様もやはり、獣のよう。それでいて蔓と棘はまるで手足のように扱う。アンセルムは飛び退きながら、植物を操る戦い方に自分と似たものを感じた。
「……お揃いなんて、嬉しくないけどね」
 それにこの敵と正面から戦うつもりは無い。いつかは必ず倒すつもりでも──今は優先させるべきものがある。
 黒棘の蔓を受け止めたのは、ジェミ。巻きつけられた茨にも表情を尚不敵にして、巨体に相対していた。
「負けないわ……伊達に鍛えてないのよ!」
 蔓が軋むのは、ジェミがその鍛え抜かれた腹筋に力を入れたからだ。瞬間、『-クラッシュ!-』──筋力で蔓を千切り、花粉による負傷をも気合で無効化していた。
「今よ!」
「心得た!」
 応えるオニキスはガトリングガンを取り回していた。
 瞬間、銃口から火を吹かせて弾丸の雨を降らす。衝撃の嵐が巨体を間断なく穿ち、圧を与えるように後退させてゆく。
「こちらは問題ない、引き続き死神を頼むぞ」
「よし、俺が行く!」
 恵は全身に闘気を込めて神速で疾走。怪魚の面前へと迫っていた。
 そのまま銃口を向けるまではほんの一瞬。『スターダンス・ゼロインパクト』──零距離で急所に銃弾を撃つとそれが内部で炸裂。死神を四散させていった。
 総一郎はゴードへ目を向ける。ここからが尚烈しい戦いになると感じて。
「倒すべきはあと一体。油断なく行くぞ」
「うん。まずボクがやるよ」
 アンセルムは攻性植物を高速で前方へ伸ばすと、途中で宙に踊らせるように複雑な軌道を取らせて捕縛する。
 そのまま巨体を引き寄せると一撃。銀の流体金属を纏った脚で顔面を蹴りつけた。
 のけぞったゴードへ、総一郎は跳ぶ。後方に回転するように蹴り上げると、反作用で着地しながら懐へ強烈な掌打を叩き込んだ。
 唸るゴードは愉快げに笑む。強ぇじゃねぇか、と。
 巨剣を振り回して放たれる乱舞は、こちらの前衛の意識すら奪う威力だった。が、既に陸也は創造魔法を行使している。
「きっちり支えきらねえといけねえからな。すぐに対処させてもらうぜ」
 瞬間、場を満たした魔力が色とりどりの形を持っていく。
「一足早ぇハロウィンだ。大人にゃ悪戯、子供にゃお菓子。化け狸は子供にゃ甘く、大人には辛い、お前はどっちだ──トリック・オア・トリート!」
 歌声に踊るそれらは甘いお菓子に変貌。ふわふわと取り巻いて仲間の傷を癒やし、安らぐ気持ちは意識を明瞭にさせる。
 さらに総一郎が花嵐のオーラを展開すれば、皆は即時に万全となっていた。
「では反撃と参ろうか!」
 レオンハルトは梓弓に神聖な魔力を込めた矢を番えると、力強く引き絞る。
 ゴードは剣を振り上げて連撃を試みる、が、そこにはゴロ太が肉迫。駆け抜けると共に斬撃を加えて巨体の足元を裂いていた。
「助かったぞ!」
 レオンハルトは直後に矢を放つ。光を描いて飛来したそれは違わず巨躯の腹部を穿ち、鮮血を零させた。
 呻くゴードは、それでも踏みとどまって反撃を狙う。しかしその脚部が鋭い冷気に凍結していた。
「簡単には譲らないさ」
 それは紫々彦の凍風──まるで冬に薫る寒風の如きオーラ。立ち昇る氷気にゴードが歯噛んでいると、その間に黒棘の周囲が淡く光って回収が始まっていく。
 それを確認する紫々彦へ、ゴードは隙を突こうと剣を上段に上げていた。
「よそ見してる場合じゃねぇぜ……!」
「無論、しないさ」
 既に紫々彦は目線を戻している。
 その瞳の奥底に滲むのは油断ではなく、強い戦意。
 周囲を取り巻く甘い香気は『水仙乃栄』。紫々彦の放つ花の澄んだ香りだ。
 爽やかに吹き抜けるそれは、裏腹に歪の存在を蝕む力。ゴードの傷を体内から深めて苦悶を与えていく。

●月夜
 光が失せると、そこにはもう黒棘の姿はなかった。
 残滓すら漂わず、立っていた場所には虚空に夜風が吹くばかりだ。
「あの骸は月にでも還っていったのか──」
 総一郎は一度だけ空を見上げ、一人残ったゴードに視線を戻す。
「じゃあ、お前はどこに還るんだ?」
 ゴードは応えない。捨てられた罪人には還るところなど有りはしないのだろう。
 さり、と地を踏みしめ、総一郎は巨躯を見据えた。
「還る場所がないならその場所を作ってやる。『死』という場所を」
「……俺はどこにも行かねぇさ。勿論、地獄にもな!」
 ゴードは反抗するように走り込み、剣を奔らせる。
 だが総一郎はそれを防御しながら倒れなかった。
 自分達の作戦が最善の選択だったか、それは判らない。だが選んだ以上、それが最善になるよう尽力したかった──自分の矜持の為にも。
「回復は任せとけ」
 陸也はそこへ魔力塊を飛ばして総一郎を治癒する。
 ゴードははっ、と獰猛な表情を見せた。
「しぶてぇな。ま、そんぐらいの方が殺しがいがあるけどよ!」
「一体何の罪を犯したかは知らないが、その気性じゃあ想像も難しくないな!」
 横合いから迫るのは恵の声だった。ゴードが目を向ける頃には風を巻き込むように弾丸をばら撒き、全身に傷を刻んでいる。
 そこへ揺らめくのはレオンハルトが棚引かせる霊力だ。
「黒手よ、御業を放て!」
 同時、腕を突き出しながら御業を顕現。猛禽の如く飛来させて巨体を打ち据える。
 連続して総一郎の回し蹴りとジェミの速射を横っ腹に受け、ゴードはふらついた。口元の血を拭いながら、それでも笑う。
「満身創痍なのは俺だけじゃねぇだろ」
 言って接近した先は、ジェミの眼前だった。ジェミは黒棘の意識を引き続けたことで多数の攻撃を受け、既に弱っていたのだ。
 瞬間、ゴードは剣風を至近から放ってジェミの体力を全て削り取っていく。
「きゃぁぁッ!」
 声が劈く直後には、ジェミは倒れ気を失っていた。
 ジェミだけでなく、盾役は皆傷が深い。それでも敵の火力を削いでおいたことや守りを固めていたことで、倒れるには至らない。直後には陸也が七彩の光を与えることで、残った者の浅い傷を完治させていた。
 逆にゴードこそ、後がない。
 アンセルムはそこへとん、と軽く飛んで刺すような前蹴り。そのまま体を回転させ、速度をつけた踵を打ち込んでいた。魔力を纏わせた蔓も同時に奔らせることで、連続斬撃のように一気に巨体を抉っている。
「このまま仕留めよう」
「ああ」
 紫々彦は、立ち居まで最後まで堂々と、流麗な剣閃を放っていた。氷気を伴ったそれはゴードの腕を切り落として傷口を氷で蝕んでいく。
 悲鳴を上げるゴードは、それでも残った腕で切り込んでくるしかない。
 が、剣撃を防いだレオンハルトは戦文字「天」──黄金に輝くその文字を顕して穢を払い傷を治癒。直後に御業を放って巨躯を吹っ飛ばした。
「今じゃ、やってやれい!」
「最後の一刀を見舞ってくれよう。心して受け止めろ!」
 オニキスは大剣を力一杯に振るって縦一閃。
 ゴードを脳天から斬り裂き、その命を両断した。

 ジェミはすぐに意識を取り戻していた。
「……大丈夫?」
 声を掛けるアンセルムに、起き上がったジェミは一度見回し、状況を聞いてから頷いた。
「ええ。手間をかけさせてしまったかしら?」
「いいや、こちらこそ多く助けてもらった」
 紫々彦が静かに言うと、オニキスもうむと続ける。
「作戦としては上手く運んだ。だから吾も感謝するぞ」
「皆、ありがとう。とにかく……勝利出来たのなら、良かったわ」
 ジェミの言葉には皆もまた頷いていた。
 恵は周囲に異常がないと確認すると、リボルバーを回してホルスターに収納する。
「ひとまず、戦いは終わりだな」
「ああ。ヒールだけしておくか」
 陸也は視線を巡らせて、道や壁に破損箇所を見つければ修復していった。レオンハルトも辺りを直し、明媚な景観を取り戻している。
 そして、骸となった敵が回収された場所に視線をやった。
「黒棘──次に現れたら、その時には引導を渡すとするかのう」
「……そうだね」
 アンセルムも少しの間そこを見つめていた。今はただ、はらはらと月明かりに花吹雪が輝くばかりだ。
「きっちりと、倒そう」
 皆はそれを最後に帰路についていく。
 総一郎は空を見上げてふともの思った。
 今、多くの敵勢力が動き、大規模な争いの予感もしている。
「だが最後に勝つのは……俺達だ」
 それは濁りのない誓いだ。
 視線を下ろして総一郎は歩みゆく。そんな姿を、澄んだ月が見守るように照らしていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月5日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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