花と化したエインヘリアルすら、サルベージすんのか

作者:東公彦

 その魚は海ではなく、星がきらめく夜空を泳いでいた。体をくねらせ尾びれを振るい、夜空へ深く深く潜るように飛ぶ。魚は基本的には眠っていたものの、時にはこうして真夜中の都会を泳いだ。それは決まって腹を減らした時だ。尾をたなびかせ空を泳ぐ3体の死神はこの地にあった戦いの残滓を嗅ぎ付け、眼下の人間達を喰らうのに最適な手法を本能的に察していた。
 ある交差点に強い力を感じた死神たちは、長い体をゆらめかせながら降下し青白く体を発光させる。その光の残像は消えることなく地面に刻まれた。
 突如空から現れた怪魚に信号を待つ誰しもが目を奪われた、しかし人々の反応はそれぞれである。すぐに距離を離れ逃げる者、遠巻きに状況を見ようとするもの、携帯電話を片手に夜空にフラッシュをたく者、唖然と夜空を見上げているだけの者もいた。
 やがて光の残滓が一つの魔方陣を描くと、円形の陣から巨大な怪物が現れた。それは人間の形をしているものの、3mもあろうかという巨躯に加え腐乱したような臭いを放つ。なによりも人間というには不完全すぎる体のバランスが、それに化け物じみた印象を与えていた。両手足の長さの違う、不出来な人形のような罪人エインヘリアルは一瞬だけ取り戻した意識のなかで呟いた。
 ここはどこだ?
 しかし意識はすぐにこと切れる。彼の意識は断線の多い通話のように途切れ途切れで脈絡がない。仮初の魂を取り戻したとはいえ、エインヘリアルはもはや死神の道具のようなものであった。出来損ないのエインヘリアルは近くにいる逃げ遅れた人間を無造作に掴むと、体を潰し、暖かな血を自分の頭からふりかけた。凍える体が人間を殺すたびに暖まるので、エインヘリアルは喜々として人間の命を奪い手足をうごめかす。
 死神たちはエインヘリアルから逃げようとする人間を追いかけ、そのままひと呑みにする。死神には理性も知恵もなかった。ただ再び長く眠る間のエネルギーを餌である人間に求めた。

 ●
「この場所で再び事件が起こるとは……」
 ザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は腕を組み、大きくため息をついた。ケルベロス達の眼前であっても、彼の心の落胆は隠しようがないほどであった。
「東京都市部のスクランブル交差点において深海魚のような姿をした死神が3体出現するようだ。奴らはグラビティチェインを得る一つの手段としてエインヘリアルを復活させたらしい。九十九折・かだん(スプリガン・e18614)が知っているだろう、あの罪人エインヘリアルだ。変異強化され見た目こそ違うが実力は否応にも上がっているだろう。同じエインヘリアルながら厄介なことだ」
 ザイフリート王子は自嘲ぎみに笑みを浮かべて続ける。
「出現場所である交差点付近の人払いは済ませるが、それは最小限の戦闘地域のみに留まるものだ、留意しておいてくれ。今回の主目的は死神3体の始末にある。奴らは自らの身が危なくなれば罪人エインヘリアルを撤退させようとするだろう。撤退の最中には罪人エインヘリアルも含め無防備になるはずだ。逃がしてしまえば完璧に遺恨を断つことはできないが、効率的に攻撃を与える大きなチャンスでもある。リスクも高い行為なので十分に検討してくれ。お前達が負けてしまえば大きな被害が出ることになる、気を引き締めて作戦に当たってくれ」
 そしてケルベロス達に、ひとつ頼みがあるとすれば、と切り出す。
「人々を救うのと同様に、卑劣な手段を弄する死神からエインヘリアルを解き放って欲しい。罪人であり我々の敵でもあるが、戦いに生きるエインヘリアルの名誉まで他のデウスエクスに汚されたくはないのだ……。いや、同胞の元から去った私が言えた義理ではないな。ケルベロスたちよ、お前達の健闘を祈る」
 話し終えるとザイフリート王子は胸を張り、足を揃えて、握り拳を自らの胸に置きケルベロス達を見送った。


参加者
片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)
コマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233)
九十九折・かだん(スプリガン・e18614)
レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)
櫂・叔牙(鋼翼朧牙・e25222)
エリザベス・ナイツ(目指せ一番星・e45135)
ゲンティアナ・オルギー(蒼天に咲くカンパーナ・e45166)
円谷・三角(アステリデルタ・e47952)

■リプレイ

 暗がりのなか片白・芙蓉(兎晴らし・e02798)が九十九折・かだん(スプリガン・e18614)にウインクを投げた。
「今回もシクヨロね!」
 そして死神達が出てきたとみるや勇んで飛び出した。
「フフフ、出てきたわね! 一番槍いただきよ」
「キュッキュリーンっ、レピちゃんもいっきまーす!」
 通りに潜んでいた芙蓉が兎耳に象った符『兎鷺』を投げると、突如として氷の騎士が現れる。レピーダ・アタラクニフタ(窮鼠舌を噛む・e24744)もビニール傘にしか見えない『聖剣』をかざし颯爽と駆けだした。
「はやい、ですね」
 二人の猛進ぶりに櫂・叔牙(鋼翼朧牙・e25222)は目をみはり、戦闘のために背部ユニットを展開させた。藍の外装甲にアクアマリン色の薄羽のようなパーツ、動力炉に火が入ると余剰エネルギーが羽先から排出された。
「では……僕も」
 のんびりとした口調に反し、猛スピードで叔牙は地面を滑った。
 飛び出ていった三人をよそに、かだんはふっと息を吐く。指に持っていた紅葉がひらり舞って一陣の風にのった。風は一枚ずつの紅葉が寄せ集まって出来た暴風となり、デウスエクスたちに纏わりつき視界を怒りの赤色に染める。
「あれ、あなたと因縁があるのね」
 ゲンティアナ・オルギー(蒼天に咲くカンパーナ・e45166)の青い瞳が冷たくエインヘリアルへ注がれる。
「一度、戦っただけだ」
 言葉短くかだんが返すと、ゲンティアナもそれ以上は口にしなかった。口数少ない両者にとって言葉はそれだけで十分であった。
 さて、エインヘリアルに最も早く近づいた氷の騎兵は高く跳躍した。馬上で芙蓉が符をかざすと、御業によって海が生まれ巨大な津波が立つ。波は空を泳ぐ死神も濁流へ呑みこむ。騎兵が波に飛び込むと、一瞬で海は氷りつき氷塊と化した。芙蓉が氷上で踊るように足を踏み鳴らす、従者たる騎兵も槍の穂先や蹄で氷塊をデウスエクスごと叩き割った。
 氷塊から弾かれたエインヘリアルへ爆発的な速力を以て叔牙が近づき、勢いのままその巨体へと掌底を繰り出す。吹き飛ばされたエインヘリアルの眼にかだんが映ると、エインヘリアルは本能的に肥大化した腕を振り下ろした。かだんが両手を組んで一撃を受け止めるも、そのまま接近戦にもつれこむことはない。エリザベス・ナイツ(目指せ一番星・e45135)が指向性を限定させた念動爆発を起こしたからである。
 テレビウム『帝釈天・梓紗』の画面が仲間達の姿を放映しながら飛び回る。レピーダは傘を地面につきたて、それを支点に飛び蹴りを放った。爆発で体勢を崩していたエインヘリアルは地面を横倒しに転がってゆく。
 突如現れた敵に狼狽する死神達だったが、意気と取り直し、ともかく感情に任せ動き出す。二匹の死神が大口を開け、鋭い歯を剥きだしにかだんへ噛みついた。そのまま中空を泳ごうとするも、力づくでかだんが敵を地面に押さえつける。そこへコマキ・シュヴァルツデーン(翠嵐の旋律・e09233)の歌声が響き渡り、円谷・三角(アステリデルタ・e47952)が敵へ現像液を振りかけた。
「こういうのは最初の駆除が肝心だよね」
 三角が言い放つ。現像液はグラビティによる粘着性を持っており敵の動きを鈍くする。その不快さに苛立ち、最後の死神は三角へ突進した。迫りくる魚体を避けようと横跳びするが、避けきれず弾き飛ばされる三角。続けて迫る大口からは身をかわしたものの体の随所はきしきしと痛んだ。
「気をつけなさい」
 ゲンティアナが言い捨てて剣を地面に突き刺した。剣から放たれた光が大きな守護星陣をつくり、陣には異なった8つの星座がうかぶ。星座はそれぞれケルベロス達への守護となり、中でもさんかく座とオリオン座は傷を負った二人を祝福し、その傷を癒した。
 二匹の死神を押さえながらも、かだんは空を泳ぐ最後の一匹へまで炎弾を放つ。三角を執拗に狙っていた死神は炎に焼かれ甲高い笛の音のような悲鳴をあげた。
 死神達が動けない間に叔牙は徹底してエインヘリアルへ攻撃をつづける。如意棒と足技を組み合わせた多彩なコンビネーションでエインヘリアルを打ち、敵の凶器じみた手足を加速と減退を繰り返し器用に避け続ける。しかし突然にエインヘリアル爪が伸び空気を裂くと、如意棒では受けきれず叔牙の体に爪痕を刻んだ。
「これは、寝起きが悪そう、ですね」
 立て続けの二撃目は、しかし叔牙に当たる前に受け止められた。鏡面のように研ぎ澄まされた鋼の刀身でつば競り合いながら、エリザベスは持ち慣れない剣での攻防に手に汗かいた。杖から剣に持ち替えて初の実戦である、何処まで自分の剣技が通用するだろう。思いながらも彼女は爪の軌道に合わせ剣先を跳ね上げた。
「やぁっ!」
 と気合をひとつ、空き胴を見事に横薙ぎにする。続けて腰元からもう一刀を抜き放ち唐竹に斬った。
 なお見境なく振り回される双腕をいなしながら芙蓉が体重を乗せた一撃を繰り出すと、がら空きの懐へレピーダが飛び込み傘を突きたてた。
「ヴァルキュリ星人として、あなた達は見過ごせません!」
 レピーダは突き刺した傘を力任せに、存分に引き回す。すると芙蓉がうぅーんと感極まった声をあげた。
「今日の私は推しとご一緒、ゆえ七倍力なのだわっ! 梓紗っ、可愛すぎる私と可愛すぎるレピちゃんの活躍、しっかり放送しなさいよっ!」
 痛みにもだえる敵の虚をついてエリザベスが剣を振るうと、合わせて叔牙と芙蓉が蹴り込み、レピーダが自らの得物で打ち据えた。エインヘリアルも爪を振るい火を吹いてケルベロス達を迎え討つ。体中に力を行き届かせながら、かだんはその光景を見ていた。
「死んだら終わりだ」
 自然は一度なくなった命の炎を軽々しく点け直したりはしない。奴はもう罪人ですらない。
 死神たちが腕の中でもがくと鋸のような歯がより深く喰いこむ。コマキは歌の合間でかだんに呼びかけた。
「そう、死んだら終わりよ。だからあまり無茶をしないように」
 見ていてひやりとする戦い方だ、まるで自分の体を鑑みていない。コマキも思う、死者は静かに眠らせておくもの、やたら起こし苦痛を与えるものではないと。それは体だけでなく魂たるルーンへの冒涜でもある。
 指先に仄かな光をともし、コマキは中空にルーンを描いた。その力が歌声に相乗し戦場に注がれる。歌は傷を癒し、戦う者たちの思考や神経を研ぎ澄ます。コマキは慣れ親しんだ歌を懸命に奏で続けた。
「この感覚……これなら外しようがないね」
 三角はペロッと唇をなめて、カメラのネガフィルムを入れ替えた。フィルムには既にグラビティが込められており、三角がエインヘリアルを写しシャッターを押すと、カメラは外部の情報をネガに取り入れず、逆にネガに込められたグラビティを解放した。炎に包まれた球体が現像されエインヘリアルへ衝突する。火の粉が散り、肉が吹き飛んで腐臭が立ち込めた。
 状況の推移を見ていた最後の死神は、最も手傷が多く攻撃を避けることも能わないかだんを仕留めんと襲い掛かった。死神の牙が皮膚をつき破り骨にまで達すると、彼女は血の塊を吐いたが、攻撃を受けるたびに腹の奥にある地獄の炎がなお燃え盛るように感じられた。
「あなた、死にたいの?」
 やれやれと首を振って、ゲンティアナは舞をさした。舞うごとに花弁がそろりそろりと落ち傷ついた者に触れるとほどけて溶ける。花弁を形作っていたオーラは外傷を癒し、体の不全すらも治してみせる。コマキに同じく、ゲンティアナからしてもかだんの戦い方は危なっかしいものだった。それだけ余計に心配になる。心中の優しさは毒となって口から出てしまうことも度々だが、ゲンティアナは誰よりも仲間が傷つくのを疎んでいた。
 傷が癒えてゆくのを再び感じて、かだんはゲンティアナへ目礼を一つ、反撃に転じる。三体の死神をまとめて抱え、無理やり体から引き剥がすと巨大な槌を振り下ろした。かだんの動きに連携してエリザベスは暗黒魔法で造りだした鎖の網を死神へ被せる。鎖は錐状の先端部を地面に埋め、吹き飛ばされた死神達の身動きを封じた。
「よしっ、これ上手くいったんじゃないかしら」
 と小さくガッツポーズを決めるエリザベス。叔牙は戦闘中でも子供らしい純粋さを持つ彼女に微笑し、そろそろかな、と出力を更に上昇させた。排気熱さえも加速の力にして叔牙は高速で飛び回る。勢いのまま拳を二三度振るい、流れるように強烈なムーンサルトキックを決める。
「これで……デッドエンドだ!」
 更に強靭な肉体での息もつかせぬ連打。精彩を放つその動きに合わせてレピーダも体をしなやかな鞭のように躍動させた。純然な力がなくとも柔軟な軌道でエインヘリアルの体を打つ。時に迫り来る攻撃を曲芸師じみた動きで避けながら、傘での殴打も取り混ぜると、その攻撃は変幻自在である。
「これで、どうですかっ!」
 一際強く振り下ろされた傘の一撃がエインヘリアルの脳天を叩き割ると、くぐもった叫び声があがった。すると突如としてエインヘリアルの体が炎に包まれた。
 味方の攻撃ではない、かだんは遠くからエインヘリアルを見て直感した。以前にエインヘリアルの使った炎の剣が、肉体から噴き出す類のものになっていたとするなら……。かだんの危惧は現実のものとなる。
「皆さん、危ないわ!」
 コマキの鋭い声にかぶってエインヘリアルの叫喚が交差点に響いた。あらゆる傷口から放出された炎はケルベロス達に襲いかかり一面の全てを焼く。夕陽が空へ戻ってきたかのような明かりに三角は目をぱちくりとさせた。急いで首を回し視線を巡らせて、ほっと安心する。仲間達は健在である。
 叔牙は前面に装甲を展開させ各機関からエネルギーを放出、荒れ狂った炎から前線にいたレピーダをかばっていた。
「そう簡単に、他の方を、傷つけさせは……しない」
 言葉をはくと同時、背部ユニットがオーバーヒート気味に多量の排熱をした。顔にあたった熱気にせき込みながらレピーダが礼を言う。少し離れた場所ではエリザベスと芙蓉がそれぞれ自分の身を守っていた。
 エリザベスは炎の剣を以て敵の炎を相殺し事なきを得ている、芙蓉のことは彼女の信に足る氷の騎士がその身を挺して盾となっていた。コマキ、ゲンティアナは三角と同様にエインヘリアルへ接近していなかったので、咄嗟に炎の舌先から身をかわすことが出来た。しかし一帯の被害は甚大である。
 再び焦土と化した交差点の一角にエインヘリアルはある既視感をもっていた。どこで見た光景だろう、エインヘリアルが考えていると、その眼前に佇み炎を受けきった女が過去の映像とだぶって見える。女は口中の血を吐き捨てて言った。
「はっ、強かった。面白え戦いだった」
 言葉にエインヘリアルが体を震わせる。かだんは突きさすような眼で、ただ相手を睨みつけていた。炎に以前ほどの力はなかった、目の前の存在が魂のない人形だからだろう。
 芙蓉は未だ地面を這い熱にもがく魚達へ侮蔑の視線をやる。
「地球規模に可愛い私の自慢の騎士を見なさい、アンタ達のそれは使役ですらないわ」
 符をかざして芙蓉は跳ぶ。白い丈長のワンピースコートがたわんだ。符によって再び呼び出された騎士は駆け抜けた先々の炎を消しながら死神へ槍を突きたてる。梓紗はかだんと叔牙の間を漂いながら画面に、頑張れ、負けるな、とメッセージを流す。いくばくかの活力を得て二人は動き出した。死神は芙蓉とその騎士に空中戦を仕掛けていたが主従のコンビネーションに勝る手立てはないようである。
 コマキは頃合いと判断し、意識をよくよく集中させ言葉を紡いだ。単に美しいだけの声ではない、凍土の下に芽吹く草花のような力強さが感じられる。ちるらんと降る雪のような静けさで、コマキは呪歌を謳う。
「グロゥ・コル・アスリン・トゥヴァル、この身に纏いて紡ぎ結ぶ。いざ奏で響けや、極光の願い詩』
 歌を紡ぐごとにコマキの目は虚空を見つめ、半ばトランスしたような状態で指を動かした。空気がなぞられて文字が浮かびあがる。髪や角から翡翠色の光がオーロラのように流れ出る。彼女が洋梨のような弦楽器アイリッシュブズーキを奏でると空気がしゃんと冷えた。
 歌声にのってオーロラはエインヘリアルを包む込む。帯のように幾重にも巻き付き、実体はなくとも障害となり身動きを封じた。その隙に三角はすばしっこく地面を走り抜け、無防備に巨体を晒す死神へレンズを向け、シャッターを切った。
「お前はもう逃げられない」
 フラッシュの光は写された者の魂を破壊する。死神は突然もがきだすとけいれんをおこし幾度も跳ねた。三角がフィルムを抜き、死神の映ったそれをくしゃりと潰すと、死神は一際大きく跳ねあがり、内部から自壊した。
 死に絶えた死神、身動きのとれないエインヘリアル。状況は出来上がった。
「激しく行くわよ!」
 ゲンティアナが舞い踊る。蒼白の髪がなびき、爪や尾が空気を切る。斬り裂かれた空気は鋭利な刃となり幾多にも細かく散って、また集合し、ゲンティアナの舞に合わせ嵐のように吹いた。嵐はケルベロス達それぞれの武器に纏わり、その殺傷能力をいや増した。かだんは二つの槌を合わせ、巨大な一振りとし、コマキの歌に縛られたエインヘリアルに振り下ろす。巨槌はその体を一息に圧し潰した。
「二度と起きてくるなよ」
 そっとかだんは言い添えた。自分達が呼び出したエインヘリアルが消えたことで死神達はようやく状況が不利であると悟った。しかし遅すぎる、必死に逃げようともがく死神たちへ白煙を引いてミサイルが迫っていたのだから。
「後は……纏めてっ!」
 叔牙が発射した焼夷弾頭ミサイルは彼の計算どおり寸分違わず死神に激突し、魚影を炎で包み込んだ。その多大な熱量は、続いてすぐさま絶対零度まで引き下げられる。
 J字の持ち手はそのままであっても、レピーダの傘の本体部分は一振りの光剣と変わっていた。レピータが横薙ぎに刃を振るうと、光剣は死神達をまとめて斬り裂く。体液さえもすぐさま凝固し、迅速に対象を死へと向かわせる氷刃の一閃。エリザベスはレピーダが刃を振るった真反対から自らの剣を振り抜いた。一瞬、刀身が月光を映し雷光のように鋭く煌めく。両者の一振りは死神の体を一刀両断にした。
「抜刀」
 レピーダがぽつりともらすと、
「その刹那に全てが終わる」
 エリザベスが剣を血ばらいさせ言葉を結んだ。


 かだんはエインヘリアルの消えた跡にそっと紅葉を置く。エリザベスやレピーダが黙祷している様に、ぽつりと三角がつぶやいた。
「俺は同情出来ないけど、そんな風に看取ってくれる人がいればそいつも満足だろうね」
 星さえ見えない都会の夜はネオンの光だけが瞬いていた。物言わずうずくまるウェアライダーを収めて、三角はシャッターを切った。

作者:東公彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年10月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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