風に舞った花びらが、清流を花色に染めていた。
草木の息づく道沿いの小川は、季節に咲く花によってその様相を変える。
過去デウスエクスが出現した時は初夏の花に彩られていた水面は今、秋の花によって夜でも鮮やかだった。
金木犀、秋桜、竜胆。清く濃い花弁に色づく川面は星明りに虹色の反射を作るよう。
だが、そんな花のせせらぎをもっと明るく、そして妖しく染める光がある。
それは空中に線引かれる光の軌跡。
川のそばの宙を泳ぐ深海魚型の死神によるものだった。
とろとろと輝く光はその内に魔法陣のような形を描き、道に大男の姿を召喚する。身長は優に三メートル。ケルベロスによって死の結末を与えられた、嘗ての罪人であり尖兵。
だがその姿は過去とは異にする部分もあった。
知性のない表情は、いつか好戦的に殺しを語っていた程の会話能力もなく、ただ獲物を欲して闇を見つめるばかり。体を突き破って生える幾つもの毒花は、花景色に死んだ名残のようでもあった。
と、そこにずしりと別の足音が響き、大男に並んだ。
──それは新たな、もうひとりの罪人。
甦った巨躯と身長は変わらぬが、その顔には好戦的な色。軽装の戦装束姿で、知性を失くした過去の同胞を見つめた。
「全く以て、惨めな姿よ。とはいえ──獲物を狩る力には遜色なさそうだが」
それなら自分も同じこと、と、新たな罪人は首を振って前に向き直る。
敵が現れれば狩るだけ。そこには隣に立つ知性の無い大男と何ら変わらぬ、本能のままに血を求める意志があった。
イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、予知された未来についての説明を始めていた。
死神とエインヘリアル、その2つの勢力の絡んだ危険な事件を。
「予知されたのは、市街地に現れる深海魚型の死神。その目的はケルベロスに撃破された罪人のエインヘリアルをサルベージし、デスバレスへ持ち帰ることです」
ただ、出現する敵はこれにとどまらない。
「サルベージされるエインヘリアルに加え、もう1体の脅威──新たな罪人エインヘリアルが同時に現れることがわかったのです」
これはエリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が危惧していた、罪人エインヘリアルのサルベージを援護するエインヘリアルの妨害行動と思われる。
「つまり2体のエインヘリアル──そして深海魚型の死神までもと同時に戦う作戦ということになります」
サルベージされた罪人エインヘリアルは、出現の7分後には死神によって回収される。
それを防ぐこと、そして新たな罪人エインヘリアルに寄る破壊活動も防ぐこと。多くのことを成し遂げるためにご協力をお願いします、とイマジネイターは語った。
説明を続けるイマジネイターは、小川沿いだという現場の資料を示す。
「サルベージされるエインヘリアルが、以前ケルベロスによって討伐された場所ですね」
その個体の名は『ザグ』。
今では知性もなく、体に毒花を咲かす変異強化された異形となっている。
「もう1体は、コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれたばかりの罪人エインヘリアルで──『キルフ』という名の個体です」
キルフは知性の面ではザグに勝る、けれど戦闘狂であるため理屈の通じる敵ではない。
これに加えて深海魚型死神が3体いる。これらも無論警戒は必要だろう。
周囲の避難は既に行われているが、予知がずれるのを防ぐために戦闘区域外の避難はなされていない。ザグは戦闘開始から7分後には回収されるが、キルフについては放置されるために、こちらが敗戦すれば野放しになってしまうだろう。
「しっかりと作戦を立てて臨む必要がある相手でしょう」
強力な相手。だがその分、勝利でもたらされるものは大きいはずだ。
「最大限の警戒を以てあたってください」
何より無辜の人々の命を護るために。
「行きましょう──戦いの場所へ」
参加者 | |
---|---|
御門・心(オリエンタリス・e00849) |
一式・要(狂咬突破・e01362) |
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795) |
ムスタファ・アスタル(同胞殺し・e02404) |
ピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106) |
椿木・旭矢(雷の手指・e22146) |
六星・蛍火(武装研究者・e36015) |
エリアス・アンカー(ひだまりの防人・e50581) |
●闇と淡光
花の揺蕩う清流が、星明りを宿して煌めく。
水面は空からでも美しく見える。だからそれよりも眩い怪魚もすぐに捕捉出来ていた。
「……居たか」
エリアス・アンカー(ひだまりの防人・e50581)は金の瞳を細め、機上のハッチから地面を見下ろす。そこには揺らめく異形の魚と、その光に照らされた巨躯がいた。
「次から次へとサルベージされやがるな、アイツら……」
「あんなふうに倒した敵を次々リサイクルされてたら、たまったものじゃないですよねっ! それも新しい敵との抱き合わせ販売!!」
窓にほっぺをぐいぐいくっつけて外を見るのはピリカ・コルテット(くれいじーおれんじ・e08106)。ちょっとぷりぷりしているのは、巨躯が単騎ではなく二体存在するからだろう。
「二人目の罪人。厄介な相手が加わった事だわね」
六星・蛍火(武装研究者・e36015)も静かに呟く。
それは闇夜に微睡むような眠たげな声音。けれどそこに内在するのは討つべき存在を討つという、皆と違わぬ意志でもあった。
「だからこそ──これ以上死神の好き勝手にはさせない」
「そーですっ! 死神の悪徳商法はぜーんぶまとめてゴミ箱にポイしましょー!」
ピリカが笑顔で気合を入れ直せば、頷き合った番犬達はそれを機に、夜へ跳躍。
一瞬の風音の後に、戦場へと着地していた。
小川沿いの道。気づいた敵影は既にこちらに視線を向けてきている。
三体の死神と二体のエインヘリアル。軽戦士のキルフはこちらを観察した後、歓迎するように笑んでいた。
「戦ってくれる相手が、自ら大挙して来てくれるとはな」
「そっちこそ大所帯じゃねぇか。甦ったやつに、ご丁寧に護衛まで──アスガルドのグラビティチェインでも枯れちまったのか?」
エリアスが返せば、キルフは肩を揺らす。
「ここではない場所のことなど些末なこと。大事なのは、俺達が戦う為にここにいる事だ」
「戦うため……ね」
一式・要(狂咬突破・e01362)が、そよぐ前髪越しに見据えるのは隣の巨躯だった。
甦った戦士、ザグ。
嘗ての罪人で尖兵。だが今では表情も無い、文字通りの骸の異形と化している。
(「何回死ぬやら、さすがに不憫だわね」)
その思いが一度、要に瞳を閉じさせる。次に開いた目はキルフに向いていた。
「……お仲間、あんなになってるけど、良いの?」
「惨めな獣──だが、戦うに支障がなければ関係あるまい?」
鞭を握りしめるキルフに、要は息をつく。
「……ふん。どうでも良い、ってわけね」
「知恵の代わりに毒花を得たのだろう。ならば俺も、血花でそれを彩るだけよ」
「──折角の景色だってのに、血花だの毒花だのと悪趣味な野郎共だな」
巨躯の耳朶にやわりとした声が響いた。
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)。異形を前に見せる衒いの無い表情は、まるで緩く揺れる柳のよう。
けれどすらりと刃を抜く仕草は、飄々とした空気を鋭さに塗り替えていた。
「此処にゃ静かに移ろう季節の花と、平和な光景だけ在ればいい。──殺戮の尖兵は、消え失せな」
刹那、雅貴が囁く詠唱と共に刃を差し向けると、影から生じた新たな刃が斬撃を生む。
それは『閃影』。警戒させる暇すら与えず、死神を後背から斬りつけた。
キルフは思わずそちらへ目を向ける、が、要が脱ぎ捨てたコートを顔へ投げつけていた。
「ちょっと大人しくしててね」
「何ッ……」
「……さぁ、いくわよ月影、回復は任せたからね」
生まれた一瞬の間隙に、蛍火はヴァイオリンと弓を手にする。黒の小竜、月影が一つ鳴き声を返す中で奏でたのは、月の魅力を描く『月食の調べ』だった。
「──私の自慢の一曲、お聴きなさい」
月に共鳴する流麗な旋律は淡い光を降ろし、仲間へ魔を砕く力を宿す。
椿木・旭矢(雷の手指・e22146)はその力を手に眩い戦輪を生み出していた。
光に照らされる顔は何も語らぬ無表情、だが瞳の内奥には真っ直ぐな心がある。
「行こう。力を合わせ──先ずは数を削る」
「ええ……私も続きます……!」
ふわりと白妙の髪を揺蕩わすのは御門・心(オリエンタリス・e00849)。そっと伸ばした手から吹き荒ぶ氷嵐を生み出していた。
混沌の翼も揺らめく程に激しい吹雪は、怪魚を後退させながら表皮を凍らせる。
同時、旭矢が薙ぎ払うように光の衝撃を与えると、次には濃い闇の波動が辺りを包んだ。
ムスタファ・アスタル(同胞殺し・e02404)が浮かべる黒色の太陽。ムスタファは闇の塊を掲げながら、睨んでくるキルフへ、彫りの深い目元でちらと視線を送るだけだった。
「後で相手してやるから待っていろ」
と、興味すら浅くあるかのように。闇を地に叩き付け、死神達を払っていく。
「俺を無視して魚の相手か」
キルフは戦線に加わろうとする。
が、エリアスはそこへ射撃で圧を与えて牽制。連続で、『幻月隠鬼』──金角から放った不可視光で死神を催眠に陥れていた。
惑う死神は、不利な番犬を助けるかのようにこちらを治癒。自身の回復すら覚束ない。
ザグは毒を撒いてくるが、ピリカが桜色の小竜プリムとるんるん踊ることで眩く発光。『わたしです』とアピールせんばかりにぴかぴか輝いて、皆の傷を治癒していた。
「さーみなさん! 回復は任せてばんばんやっちゃってください!」
「そうさせてもらおうかな」
頷く要は、テレビウムの赤提灯を走らせて、持っていたつくねをザグの口に突っ込ませる。
ザグがむぐむぐと食べて困惑している隙に、要自身は『青の凶騒』。小川に潜ませていた水のオーラを昇らせて、死神に八方から斬撃を浴びせていく。
「削れてきた、けど死神も中々タフって感じね」
「俺が行こう。こういう戦い方は好みではないのだが──是非もない」
呟くムスタファは爆薬を手にしていた。
徒手空拳で相手を圧倒する事を得意にするムスタファだが、勝ってこその勝負だという経験も無論、無数に経てきている。
「こいつをくれてやる──地を舐めろ」
瞬間、撒いたそれが一斉に爆炎を上げ、死神を地へ転がしていく。
二体となった怪魚へ、心は赤い靴で地を蹴って接近していた。
「これで……仕留めます」
夜闇を奔ったのは赤い流線。
指の内部に埋め込んだグラビティを通した糸──『愛糸恋糸~藤の花~』。それは静やかに、しかし烈しく。死神を切り刻み四散させていく。
●骸
怪魚の姿は失せ、二体の巨躯だけが残る形となっていた。
それでもキルフは、寧ろ邪魔が減ったとでもいうような顔を見せる。未だ健常なザグにも視線を送り笑みを零していた。
「魚共を討った程度で驕らぬことだ。この獣すら、腐ってもエインヘリアルなのだからな」
キルフの声に、しかしザグ自身は反応を示さない。
ただ浅い息を零し、それこそ獣のように獲物を求めて視線を彷徨わすだけ。
旭矢はじっとその姿を見つめていた。
「ザグ、イマジネイターが聞かせてくれたぞ」
そして結んだ口を開き、語りかけるように一歩踏み寄る。
「無様は嫌だと、そう言っていたそうじゃないか」
「あ……ァ」
ザグは唸り声しか返さない。
骸として拾われた者の運命。
ムスタファも眼光を、その戦士の成れの果てに向けていた。
「死ぬことすら許されない、か。……罪人とはいえ、哀れなものだ」
「ああ。だから、やることは一つだ。これ以上の無様を晒す前にもう一度、キルフ共々地獄へ送ってやる」
旭矢は強く拳を握り、ザグへ突きつける。
「俺達の勝利によって、あんた達を利用する死神に一矢報いてやろう」
ザグはそれにただ、咆哮だけを返して接近してくる。
心は静かに目を向けた。
「時間は──」
「ちょうど、三分に入るところだ」
アラーム音を聞いてエリアスが応えると、雅貴は刃を握り直す。
「もう死神もいねーからな。集中攻撃と行くか」
「ああ、終わらせてやろう」
ムスタファは粉塵が上がるほど強い踏み込みで、牽制の前蹴り。怯んだザグへ、すかさず暗器を嵌めた腕で打突を打った。『そこに英雄はいない』と謳う一撃は、事実嘗ての戦士の腹部すら容易く貫いてゆく。
要は水の闘気を揺らぐ蛟竜へ変え、ザグを締め付けた。伝搬する清らかな水気こそが、巨躯には猛毒となって苦痛をもたらす。
「体力はまだまだって感じね。でも──」
要は抜け目なく見取っている。ザグを蝕む深い毒、炎、氷。それが確実に、凄まじい速度で効果を発揮していた。
ザグは自身を顧みることすらせず、乱暴に毒針を飛ばしてくる。
が、そこに隼の如く割り込む影があった。
ムスタファの傍らから飛んだ小竜のカマル。疾風の速度で駆け抜けると仲間への衝撃を庇い受けている。
キルフも冷気を纏う打撃を仕掛けてきていた。が、今度はそこに治癒の雨滴が降る。
「むだですよー! むしろ癒やしがいがあります! あめあめふれふれーっ!」
上を仰ぐと、プリムに首根っこを引っ張られてほわわわと浮上しているピリカがいた。
見れば巨大ジョウロで人工的に雨を作っている。けれどその効果は大きく、味方の氷を溶かして体力を癒やしていた。
ザグへ閃光が奔ったのは、旭矢が『雷の手指』が招来したからだ。名に違わず巨躯を掴んだ光の塊は、そのまま全身に輝く衝撃を与えていく。
「よし、今のうちに」
「ああ」
エリアスは引き伸ばしたスライムに巨躯を捕食させると、それを荒々しく振り回して巨躯を引き倒していた。
時間は残り三分。徐々に傷が深まるザグは、唸り声を零している。
(「きっと──苦しい、のでしょう」)
心は擬装した足で地を踏みしめ、獣と堕した敵に目を伏せた。
自身のすべてを喪い、知恵も、あるいは記憶すらももう無いのだろう。その気持ちを想像して──心はすぐに首を振る。
出来ることはただ倒すこと。
だから心は手のひらに淡い紫のオーラを光らせた。
花びらを渦巻かせるように。仄かな“恋心”を集めて形にするように。美しく輝くそれは、高速で飛来すると共に巨躯の命を確実に削ってゆく。
悲鳴を上げたザグは、這うように間合いを取ろうとした。
蛍火はそこへひらりと跳ぶと、六芒星の宝刀へ輝かな氷気を湛えて落下。接触と同時に突き下ろしてその肩を貫く。
「ザグ……貴方は、逃がさないわ」
「ああ。もう一度、眠りに就いて貰おうか」
刃に雷光を宿した雅貴は、横合いから切り込んでいた。
軽く散歩するように、しかし眈々と隙を縫うように。鋭さの中にしなやかさをも微かに含んでみせる剣閃で、刺突を打って背まで刃を貫通させた。
残り一分を迎える直前で、ムスタファは正面から肉迫している。
「これで終わりだ。死をくれてやろう」
放つのは回転を加えた拳。
首元から抉りこまれた一撃は痛烈。耳骨を壊し顎を粉砕し、的確に人型を破壊するベクトルを以て、死神の傀儡となった巨体を打ち砕いていった。
●花の夜
毒花も散り、星明りに伸びる巨影は一つ。
単騎となったキルフは微かに表情を変えている。とはいえ未だ、勝ちを疑ってはいない。
「……所詮貴様らが倒したのは惨めな骸に過ぎぬのだ」
「惨め、か。自分は違うとでもいいたげだな」
ムスタファは彼自身の言葉を返すように声を投げた。
「お前もああやって、死して尚意思なく戦わせられるのだろう。ならば散った骸だけではない。お前たちデウスエクスと言う者こそ──惨めなものだ」
「……何だと」
キルフは鞭を舞わせる。が、ムスタファは暗器に巻き付けさせると、巨体を引き寄せて蹴撃を放ち、頬骨を砕く。
蛍火も撫で斬るように刃を奔らせて鮮血を散らせていた。
ただキルフの消耗は浅く、未だ倒れるに至らない。
逆に、決して弱くは無いその膂力に幾度も猛攻を許したためでもあろう、こちらの盾役の消耗が激しかった。
ふっと、蛍火は紫の瞳を細める。
「それでもあなた達なら勝てるわ。だから後は頼むわね」
直後、蛍火はキルフの横薙ぎで気を失い倒れた。同時、強い衝撃の一端を受けたカマルも、絶えきれずに姿を消していく。
雅貴は刃の如き視線を向けた。
「やってくれるじゃねーか」
「これこそ求めた死戦だろう。愉快ではないか、貴様らも嗤うがいい」
笑みを零す巨躯へ、旭矢はただ光の刃を顕現する。
「俺がやるのは最後まで戦うことだけだ──倒れた仲間のためにも」
瞬間、光を線引いて疾駆する。
キルフは鞭を振るうが、旭矢はその先端を斬り落とすと一息に眼前へ。返す刀でキルフの胸部を横一閃に裂いた。
呻く巨体へ雅貴も接近。正面に打突をしようとする敵を軽々と飛び越え、頭上から後背へ降りる。風のように澱みのない立ち居で横回転すると、月を描く剣閃で血飛沫を噴かせた。
よろめくキルフに、既に余裕は無い。意識を明瞭に澄み渡らせた皆の攻撃は、一撃一撃が重い命中を伴ってその命を削いでいた。
敵は唸りながらも炎撃を打つ、が、要がぎりぎりで耐え抜けば、ピリカが即座に治癒の光を生み出している。
「いきますよー! これで最後まで持ちこたえられるはずです!」
そのオーラは太陽のように眩しく、ピリカ自身の笑顔のように温かく。要を回復した。
それでも多くの傷は治らない、が、それで退く要ではない。水流の渦を脚へ収束すると一撃、嵐の如き衝撃で巨体を吹っ飛ばす。
「あと少し──いけるかしら」
「ええ……倒して、みせます」
心は氷片を集中し、淡い蒼に輝く弾丸を生成していた。
それを豪速で飛ばして巨体の足元を凍結させると、エリアスがくるりとライフルを携え、グラビティを注ぎ込んでいる。
「これで最後だ」
夜を裂く光の奔流。目も眩むほどの衝撃は巨躯を飲み込んで、跡形もなく消滅させていった。
花びらがひらひらと舞い降りて、蛍火はその香りに目を覚ます。
「……ここは」
「気が付きましたかっ! 大丈夫です! 戦いは終わりましたよっ!」
覗き込むピリカは、蛍火にヒールをかけて介抱していた。
ありがとう、と起き上がる蛍火。カマルも復活してムスタファの傍らにいた。
「平気か?」
と、ムスタファの声にも健常を示すようにひらりと飛んでいる。
要はコートを拾い上げ、埃を払って羽織り直す。
「とにかく、ありがとう。助かったわ」
その言葉にいいえ、と蛍火が声を返すと、エリアスは見回す。
「あとはヒールだけしておくか」
周囲を修復しながら、死神が現れた場所を探ってもみた。ただ、そこはやはり明媚な小川沿いでしかなく、夜に花びらが流れていくのが見えるばかりだった。
「手がかりも痕跡もなし、か」
「ま、それでも今は勝てたコトが一番だな」
雅貴が言うと旭矢は頷く。
「ああ。人々に被害も出なかった。それが何よりの成果だと俺は思う」
「そうですね。やれることは、できたはずです」
心がそっと言うと皆もまた頷いた。
そうして皆は夜の中帰還していく。
花舞う清流は静けさに帰り、尚美しく。皆を見送るようにさわさわとせせらいでいた。
作者:崎田航輝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月20日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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