星と月の明かりだけが世界を支配する、深い夜。
海辺の漣も空の煌めきに見惚れたように静かで、息を潜めた水面のゆらめきに煌々と月光が揺蕩うばかりだった。
だから海に反射した空の光は、浜辺沿いの街路までもを淡く照らす。
それは夜道でも視界を確保できる程の明るさ──だが、今宵そこには星月の明かりよりも妖しく辺りを照らす光があった。
宙を泳ぐ怪魚。
光の奇跡を零すそれは、円を描くように揺ら揺らと廻る。出来上がった光色の紋様はいつしか魔法陣のように輝いて巨躯の影を召喚していた。
海すら音を失くしていた静謐の夜に、咆哮が劈く。
現れた大男は、嘗ての戦士の成れの果てだった。
この地で戦い絶えた頃の面影も残るは僅かばかりで、歪に変形した鎧と巨大化した剣を手に握りしめるだけの姿は、丈に合わぬ装備をお仕着せられた獣のよう。ただ喰らえる餌を求めるだけの本能が、大きな体躯を突き動かしていた。
そして、そこに居並ぶもう1人の巨躯もまた眩い月明かりに影を伸ばす。
「これが我らと同じ勇者か。醜くなったものだ」
宙から降り立ったその男は美しい鎧と長剣を佩いた姿で、隣に立つ嘗ての同胞をどこか見下すようでもある。
ただそんな感情を抱いたのも一瞬で、あとはゆっくりと踏み出した。
──戦舞を演じられるなら、全ては些末なことよ。
隣の戦士と同じで、求めるのは血肉のみ。この刃を振るい、殺しのパヴァーヌを踊れるのなら──誰がどんな思惑を持っていようが、知ったことか。
獣の咆哮、鋭い刃、巨躯の足音。
全てが星と月の光を翳らせる。気のせいか、啼くような風音と波音がにわかに聞こえはじめていた。
「死神と……エインヘリアル、ね」
夜半のヘリポート。
月を見上げていたノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)は静かな表情をほんの少し顰めるようだった。
「のんびりと空を眺めてもいられない相手みたいだな」
「ええ。とても厄介な相手で……簡単には行かない事件のようです」
応えるイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)も、その声音に真剣な色を含めている。
深海魚型の死神が海沿いの街に現れ、過去ケルベロスに撃破された罪人のエインヘリアルをサルベージしている。
そこに、更なる罪人エインヘリアルが同時に現れる──そんな事件が予知されたのだ。
即ち、エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が危惧していた、罪人エインヘリアルのサルベージを援護するエインヘリアルの妨害行動と思われる。
ノチユは成程、と小さく口を開く。
「2体のエインヘリアルと、深海魚型死神。面倒な相手がまとめてかかってくるわけだ」
「ええ。サルベージされた罪人エインヘリアルは、出現の7分後には死神によって回収されます。それを防ぎ──新たな罪人エインヘリアルに寄る破壊活動も防ぐことが、こちらの目的となります」
イマジネイターは資料を指して説明を続ける。
「現場は浜辺沿いの街路です。サルベージされるエインヘリアルは、以前にこの海辺でケルベロスに討伐された個体となります」
この個体の名は『ドグ』。
元々殺戮を楽しむ残虐性を持っていたが、今ではその知性すら無い。変異強化された上でただ本能のままに戦う、獣のような存在となっている。
「もう1体の方は?」
「こちらは、コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれたばかりの罪人エインヘリアルで──『レジス』という名の個体です」
ノチユに応えてイマジネイターは言う。
レジスは知性の面ではドグに勝る、けれど戦闘狂であるため理屈の通じる敵ではない。
これに加えて深海魚型死神が3体いる。これらも無論警戒は必要だろう。
周囲の避難は既に行われているが、予知がずれるのを防ぐために戦闘区域外の避難はなされていない。ドグは戦闘開始から7分後には回収されるが、レジスについては放置されるために、こちらが敗戦すれば野放しになってしまうだろう。
「苦戦することが予想される……そんな相手です」
「でも、こっちはやることをやるだけだ」
ノチユの言葉に、イマジネイターはええ、と頷いた。
「そのとおりです。勝利を目指して──戦ってください。ここで勝利を得られれば、その成果は大事なものになるはずです」
そして、無辜の人々を護るためにも。
全力で臨んでください、と。イマジネイターは皆へ真摯な声で言った。
参加者 | |
---|---|
藤守・景臣(ウィスタリア・e00069) |
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327) |
スプーキー・ドリズル(レインドロップ・e01608) |
アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528) |
リサ・ギャラッハ(銀月・e18759) |
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615) |
天原・俊輝(偽りの銀・e28879) |
黒羽・陽(絶壁のゴールデンスパイン・e45051) |
●闇と月
藍色が世界に降りる、深い夜。
星月が昏い景色を照らしている。が、それよりも眩い光が眼下にあるのが空を飛ぶ機上からでも窺えた。
「死神のサルベージ。その現場に更に敵が合流──ですか」
ハッチから見える敵影に、アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)は思考を巡らすようでも、半ば呆れるようでもある。
「敵さん側もそれだけ私達を高位の脅威と感じ始めた、ということでしょうかね。栄誉でもあり、また迷惑でもあり」
「ええ。それでも、ちゃんと戦えば勝てるはずです!」
元気一杯に笑んでみせるのは黒羽・陽(絶壁のゴールデンスパイン・e45051)。
ここに来るまでも饒舌であったのは、或いは慣れぬ役割に緊張を覚えるからか。それでもその明るさは嘘ではなく、戦いに負けるつもりも毛頭なかった。
「アタシもしっかり自分の仕事はこなしますから。任せてください!」
「勿論、期待させてもらうよ。それじゃ──降りようかね」
スプーキー・ドリズル(レインドロップ・e01608)は夜風を浴びてタラップを踏む。父親らしい朴訥さは、死戦に臨む怜悧さに取って代わられていた。
そして皆で頷くと、夜空の中を降下する。
一呼吸の後には、道に並ぶ異形の面前へと降り立っていた。
そこに居るのは死神と巨躯二人。
怪魚の光に照らされた騎士レジスは、番犬の姿に喜びを表していた。
「月よりも輝く夜の剣舞──それを共に踊れる程の相手が来たようだ」
「こんな夜には、月より眩しい煌めきは要らないと思いますよ」
月光に美しい銀髪を靡かせて、リサ・ギャラッハ(銀月・e18759)は返す。澄んだ青の瞳には怯む色もなかった。
「少なくともあなたが勝利に輝くことは無いでしょう──ここで夜に散るんですから」
「面白い。ならば戦おう」
レジスが剣を構えると、同時に隣から低い声が響く。
嘗ての戦士、ドグがのそりのそりと歩んできていた。
瞳に知性は無く、体躯は歪。死神に拾われた成れの果て。天原・俊輝(偽りの銀・e28879)はその姿に一度目を伏せていた。
「これが……エインヘリアル、だったもの。同族にも省みられず、死後も利用されるとは」
「──久しぶり……つっても、あんたはもうわかんないよな」
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)はその巨躯へ昏い瞳を向けている。
過去に戦った相手。だがドグが返すのは、途切れた呻き声だけだった。
変容した異形。
誰からも愛されず。ただ化物として、恐れられる存在。
(「……僕の事もこんなふうに見えたのかな」)
ノチユの脳裏に這うのは過去の悪夢。
地獄化した己を拒絶する、焦がれた人の顔──否、それは決して夢などではなく。
「……いいさ。全力で臨む、それだけだ」
だからもう一度、冥府に墜ちろ、と。ノチユは一切の容赦なくドグの足元を蹴り払った。
体勢を崩すドグへ俊輝も跳躍している。
そして至近で顔を見つめた。聞こえるのは浅い息。見えるのは焦点の定まらぬ瞳。
──存在意義を変えられることは、無念だったろうか。
「憐れと思いますが──それでも、手加減はしませんよ」
そう、それが敵ならば躊躇わず。俊輝は虹の軌跡を煌めかせて顔面を蹴撃。ドグの注意を引いたところで見回した。
「こちらは抑えておきます。死神を」
「ああ」
応える声は闇から響く。
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)は仲間の陰を駆け抜けて、死角から死神へ迫っていた。
死神は遅れて気づく、だが白陽は機動の軌跡すら見せないほど素早い。瞬間、腰の後ろに佩いた二振りの刀を抜き放っていた。
「歪な怪魚。空を泳ぐには不格好だな」
一瞬見せたのはそんな皮肉な笑み。同時、妖力に輝く斬撃を一体へ叩き込んだ。
スプーキーも低空を飛翔。宙で体を翻し、鞭の如く撓らせた尾で死神を打ち据えている。
「さて、この調子なら死神は迅速に対処できるだろうな」
「我と踊る者は、いないのか」
不意に番犬達に迫るのはレジスの声。独り戦意を漲らせ、剣を握りしめていた。
そこに返ったのは涼やかな声音。
「無論、貴人方が死を求め踊るのであれば──剣戟と共に舞うのも、また一興でしょう」
ならば観客は夜空の月星でしょうか、と、くすりと笑んでみせるのは藤守・景臣(ウィスタリア・e00069)。
同時にひらりと間合いを取ることで、今はまだその時でないと示してみせる。
「けれど舞踏にも順序があります。剣もそれに同じ」
そのまま流麗な動きで、すれ違うように巨躯を躱す。
同時に菫青石の瞳に紅の地獄を揺蕩わせ、見据えたのは死神。直刃の一振りで神速の刺突を繰り出し、閃光を弾けさせるようにその一体を後退させた。
レジスも氷風を放ってくる。だがリサは攻撃役を護るように立つと、表皮を裂かれ、血潮が凍りついても倒れない。逆に月色の粒子を踊らせて自身を含む前衛を回復強化した。
「フィオナもお願いね」
リサの言葉に、気まぐれなテレビウムも仕方なしとばかりに発光。クリーム色の画面から治癒力を浴びせてフィオナを万全に保つ。
敵の猛攻は烈しいものだった。が、陽も合金の粒子を撒き、月光の力を借りて回復行動を取ることで敵に押し切らせない。
「このまま、いけますよッ!」
陽の声に皆も頷く。
アゼルはナインテールエッジ──扇の如きブレード付きワイヤーの束を携えていた。
「では仕留めていくとしましょうか」
「一体は俺がやろう」
白陽は構えも無いまま、間合いを一瞬で侵略。風を纏った剣撃を叩き込んで一体を四散させていく。
アゼルも刃を舞わせていた。伸びたワイヤーは、アゼルの足を一歩も動かせることなく。距離を保った位置から二体目の死神を散らせていった。
●剣戟
揺ら揺らと、揺れる光は先刻より仄暗い。
残存する死神は一体となっていた。
だがレジスは戦況の変化より、思う剣戟が出来ぬ事に苛立っている。
「我と戦う事を避けるとはな。次はそこの獣と遣り合うのか?」
そうドグに向ける視線も冷酷なものだ。
「一度死んだ者など、戦う価値も無いと思うがな」
「死んだ存在だから、尚更倒す必要があるのでしょう」
リサは静やかに、しかし宵のようにしんと冴えた声音を向ける。
「安らかな眠りを妨げられてしまったのですから」
「ええ──何よりそれが死神の思惑ならば、阻止するのは当然のことでしょう」
景臣は死神のことを呟く時、そこにいい感情を抱くことは出来ない。
故に斬ることに躊躇う心も無ければ、その眼光に容赦の色も無かった。
ノチユは手元に目を落とす。
「時間は三分。けど、魚はもう一匹しかいないから──」
「ああ。骸と化してしまった戦士を討たせてもらうとしようか」
スプーキーが双頭銃口の回転式拳銃を抜くと、皆もドグを囲う位置取りを始めた。
ドグは本能的にかこちらを見回す。警戒心と、そして変わらぬ狩猟欲だけを窺わせて。
だが白陽がダブルジャンプで上へ跳ぶと、ドグはその挙動にとっさに反応できない。
「遅いな」
ドグが見上げる頃には、白陽は自身の存在を世界に溶け込ませ、完全に消え失せていた。
刹那、繰り出すのは『無垢式・絶影殺』。生命の根源を直に解体する剣撃で、巨躯の内奥から血潮を噴かせる。
唸るドグは、反撃しようと剣を振り上げた。
だがその視線は、目の前に佇むリサからどうしてか離せない。
それはリサの瞳によって刻まれた『深海の印章』の力。
「何かを斬りたい、壊したい、或いは裁きたい。そうする必要があるのなら、その瞳に映すのは私だけであって然るべきですよ」
──それがきっと私の罪でもあるのだから。
ドグは言葉に誘われてリサを斬りつける。その刃はリサの肩に食い込み、胸元まで抉っていた。
溢れる赤色が足元に血溜まりを作る。それでもリサは倒れず踏みとどまった。
直後には陽が治癒の光球でそれを癒やす。仲間が無事と分かれば、景臣は“矛盾”の名を取る一槌を手にしていた。
ドグは再度剣を振り下ろすが、景臣はいなすようにくるりと廻り、槌の先端で受け流す。
──浅いですよ。
銀の流線を描きながら、景臣は止まらずに横薙ぎで巨躯の脇腹を穿った。
吹っ飛んだドグは、弱り始めている。弱点こそ無かったが、その分あらゆる攻撃で着実に体力を削られていた。
「ただ、そろそろ六分か。時間も無いな」
だからスプーキーは呟いた。総攻撃の時間だ、と。
頷く皆はそれを機に回復を捨てて攻勢に入る。俊輝も無論例外ではなく、すらりと刃を抜き構えていた。
「全力で参りましょうか。……さあ、美雨も」
俊輝の声に頷いてふわりと飛ぶのは、黒髪のビハインドだった。娘──美雨はドグの背へと回るとその巨体を金縛りにかける。
同時に、ふと晴空を待つような雨滴が降った気がした。
俊輝の『七つ下がりの雨』。冷えた空気に鋭い剣閃が奔って巨躯の片腕が飛ばされる。
助かった、と俊輝が口ずさめば、小さく頷いた美雨はまたそっと俊輝の傍らに戻っていた。
連続してスプーキーは『toffee』。深紅の弾丸を着弾と同時に弾けさせ、広がった紅で巨体の動きを止めている。
ドグは悲鳴の如き轟きを生んでいた。
ノチユは顔を顰めるより、ただ冷めた表情で刃を振り上げている。言葉は自然と零れた。
「少なくともここでは、異形は死ぬべきなんだよ」
──周りに害しか齎さないのなら。原形も無いほど醜く変容してしまったのなら。
「だから星も見えない場所へ消えろよ。……一足先にな」
刹那、ノチユの放つ『星訣』は輝きを伴った眩い剣撃だった。
巨躯の足を慈悲無く切り飛ばしながら、ノチユ自身の髪もまた星月を宿したように煌めく。けれどその一瞬の声音だけは、深い深い、底のない闇色だった。
片脚で膝をつくドグを、ノチユは視線で示す。
頷いたアゼルは陽へ向いた。
「一気呵成に攻めましょう」
「もちろん! 待ってましたよォ!」
溌剌と応える陽は、元より好戦的。ずっとうずうずしていた鬱憤を晴らすように、その体毛を圧縮、鋭利化して針のように拳に握り込んでいる。
ドグは満身創痍ながら這うように進む。だがアゼルも無骨な『近接戦闘用刀身射突ユニット』を既に向けていた。
「ユニット固定確認……炸薬装填……セーフティ解除……目標捕捉──突撃」
それは対人戦闘用杭打機による至近の一撃。立ち位置を変えず戦ってきたアゼルの踏み込みに、弱った体のドグが対応できるはずもなく、炸裂する衝撃は巨体を吹っ飛ばす。
同時、陽が打突によって体毛を巨躯へ撃ち込んだ。
「これで──どうだァ!」
瞬間、体毛は巨躯を体内から貫き破壊。『百日草』の名のままに、まるで花弁のように体外まで広がってドグの命を打ち砕いた。
●星月
死神の傀儡と堕した同胞の死。
その光景にもレジスは悲しまず、寧ろ上機嫌だった。
「邪魔者が失せれば、我とも戦舞を踊ってくれるのだろう?」
「無論、慌てずとも」
かちり、とスプーキーは銃に弾丸を籠め直す。
「同じ場所へ君を送ってあげよう。番犬による冥府への行進舞曲、堪能していってくれ──最期の時まで、ね」
「……死ぬのは我の方だと? 侮ってくれる」
レジスは眉根を寄せながらも、すぐに嗤いを浮かべた。
「だがその戦意は良い。好い戦いがより好ましいものになる」
「好い戦い、ね。戦いが好きか」
ノチユは碧と紅の交わる瞳で見据える。ただ、そこに宿る感情は先刻とはまた別のもの。
レジスは頷く。
「当然だ」
「そう。僕は嫌いだよ──けど、お前みたいに何も考えず殺せる相手なら話は別だな」
ノチユは一息に迫り、刀を突き出す。瞬間、巨躯の腹を深々と貫いていた。
血を吐くレジスに、アゼルは砲塔を向けている。そこに収束するのは目もくらむほどの光だ。
「油断せず行きましょう。敵は未だ脅威です」
「ああ。最期まで手加減なく、ね」
スプーキーは跳弾で巨体の全身を穿って重い衝撃を生む。アゼルが光の奔流を畳み掛けることでレジスは苦悶を浮かべ始めた。
それでも剣を手に向かってくる、が、その視界が一瞬明滅する。リサの麗しき美貌が呪いを発現しその意識までもを蝕んだのだ。
同時に、フィオナが地を蹴ってジャンプ。大きなハサミを閃かせ巨体の胸部を裂いた。
溢れる血に、レジスは笑い声を返してみせる。
「悪あがきを。貴様らはもう限界だろう」
視線はリサと、俊輝にも向いていた。事実二人の傷の蓄積は大きく既に倒れる寸前だ。
「ええ。でも、退く理由になりませんから」
リサが言えば、俊輝も頷く。
「勝利のために出来ることをするのみです」
跳んだ俊輝は、強烈な蹴り上げでレジスの顎を打つ。レジスは反撃の氷風でリサと俊輝を気絶させた。が、その顔は苦しげだ。
レジスにしてもドグが死ぬまで無傷だったわけではなく、その積み上げは大きかった。
ふらつきながら剣を振るうレジス、だが、陽はそれが当たる前に懐へ踏み込み一撃。硬めた毛に更にオウガメタルを纏った正拳突きで、巨躯を後退させる。
「だいぶ弱ってきましたねっ!」
呻くばかりのレジス。
ノチユはそこに突き蹴りを打ち骨をへし折った。
「どうした、足取りが覚束ないぞ。踊り続けろよ、死の舞踏をさ」
「──死んでなるものか」
巨躯は朦朧と剣を振り上げる。
景臣はその剣を剣撃で弾き飛ばす。
「お互い死を前に踊り狂う様はまさに死の舞踏──ですが死ぬのは此方ではありません」
静かな中に、牙を隠した狂犬の片鱗を覗かせて。景臣は返す刀で敵の腕を切り落とした。
白陽は一足の間合いを瞬時に詰めて、そこへ二刀を踊らせている。
風の舞うような剣撃は鋭く、疾く。レジスの命ごと魂を喰らっていった。
「死を撒くモノは冥府にて閻魔が待つ。潔く逝って裁かれろ」
巨躯は跡形もなく消え失せる。
その後には、スプーキーが銃を連射して最後の死神も掃討。静かな夜を取り戻していた。
リサと俊輝は暫しの後、目覚めた。
「大丈夫かい」
白陽が手を貸して起き上がらせると、リサは頷く。フィオナが横でこくりこくりと船を漕いでいるのを発見しつつ。
「ええ……ありがとうございました」
「最後まで立っていられればよかったですが」
俊輝の言葉にスプーキーは首を振る。
「敵は倒せたんだ。充分過ぎる戦果だよ」
「ええ。人々に被害もなく──此方の勝利と言えるでしょう」
景臣が言えば二人も頷き、そうですね、と応えていた。
アゼルは散った敵へ冥福を祈り黙祷を捧げている。それも終わると周囲をヒールし、月を見上げた。
「こういった事件が続くのでしょうかね」
「だとしたら大変ですけど……出てきたらまた叩くだけです!」
陽が拳をぐっと握ってみせると、ええ、とアゼルも声を返している。
そのうちに皆は帰還を始めた。
ノチユは歩み出しながら一度、戦場を振り返る。その表情で何を思っているかは分からない。ただ星月の明かりだけが美しくその髪と顔を照らしていた。
作者:崎田航輝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月13日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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