月闇に澱む

作者:崎田航輝

 夜が竹林に影を落とさせる。
 煌々と月光の光る市街。竹の生えた敷地に面した道路には静寂が満ちていた。
 響くのはさわさわと葉が揺れる音ばかりで、夜の静謐は嘗てその最奥で死闘があったとは思えぬほど。
 穏やかな深夜は、月明かりだけを浴びて今宵も平和に過ぎようとしていく。
 だが、その月下。ふと鈍く光の線を引く存在があった。
 空中を浮遊する怪魚の死神。
 円を描いて泳ぐそれは、光の軌跡を魔法陣のように輝かせて黒い影を喚び出す。
 浅く、耳障りな息を繰り返す音が響いた。それは円陣の中に召喚された巨体──エインヘリアルの発する吐息だった。
 ゆらゆらと立ち上がるその巨躯は、具足姿に太刀のような刃を握っている。
 しかし、嘗ては捻じ曲がった武道を語っていた知能もそこにはない。誇りも独自の矜持も無く、失せた知能で獲物を探して彷徨うばかりだった。
 そんな堕ちた戦士の横に降り立ったもう1体の巨躯がいた。
 宙より飛び降りてきた罪人。2体目の脅威。
 西洋鎧に長剣を佩いたそのエインヘリアルは、小さな呻きだけを零す具足の巨体に一度、首を振る。
「嘗ての同胞が、変貌したものだ。──等と、些末なことか」
 ふっと笑みを零して、視線を外す。
 全てはどうだって良い事。獲物さえ狩れれば、自分にはそれだけで意味がある。西洋鎧のエインヘリアルもこと戦いに置いては、その本能は獣と大差ないのであろう。
 だから2体は餌を探す。巨体から伸びる影を、薄暗く月闇に澱ませて。

「本日は、死神と──そしてエインヘリアルについての事件となります」
 月の光が照らすヘリポート。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)が説明を始めたのは危険度の高い作戦に関する話であった。
「予知されたのは、市街地に現れる深海魚型の死神。その目的はケルベロスに撃破された罪人のエインヘリアルをサルベージし、デスバレスへ持ち帰ることです」
 そして、とイマジネイターは言葉を続ける。
「サルベージされるエインヘリアルに加え、もう1体の脅威──新たな罪人エインヘリアルが同時出現することもわかったのです」
 これはエリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が危惧していた、罪人エインヘリアルのサルベージを援護するエインヘリアルの妨害行動と思われる。
「つまり2体のエインヘリアル、そして深海魚型の死神を同時に相手取る作戦ということになります」
 サルベージされた罪人エインヘリアルは、出現の7分後には死神によって回収される。
 それを防ぐこと、そして新たな罪人エインヘリアルに寄る破壊活動も防ぐこと。多くのことを成し遂げるためにご協力をお願いします、とイマジネイターは語った。

 イマジネイターは資料を投影して写真を示す。
「現場は市街地の竹林の近く。サルベージされるエインヘリアルは、以前にその奥にあった道場にてケルベロスに討伐された個体となります」
 この個体は知性を失い、変異強化されている状態だ。
 嘗ては戦って勝った相手の刃を奪うことを至上とし、刀と自身の腕を愛していたという。だがその歪んだ精神すら今はなく、戦いぶりは獣のようなものだろう。
「この個体の名は『サジン』というようです。そして同時に出現するのが、コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれた罪人エインヘリアル──こちらは『ジャコブ』という名を持っています」
 ジャコブは幾分理性的だが、戦闘狂であるため理屈の通じる敵ではあるまい。
 これに加えて深海魚型死神が3体いる。こちらはエインヘリアル程強くはないが、それでも警戒は必要であろう。
 周囲の避難は既に行われているが、予知がずれるのを防ぐために戦闘区域外の避難はなされていない。サジンは戦闘開始から7分後には回収されるが、ジャコブについては放置されるために、こちらが敗戦すれば野放しになってしまうだろう。
「非常に、強力な敵です。苦戦することが予想されるでしょう。それでも、ここで勝利を得ることの意義は大きいはずです」
 何より無辜の人々を護るためにも。
 行きましょう、と。イマジネイターは皆へ真っ直ぐな声で言った。


参加者
大弓・言葉(花冠に棘・e00431)
ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)
キアラ・ノルベルト(天占屋・e02886)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
ドールィ・ガモウ(焦脚の業・e03847)
月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)
霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)

■リプレイ

●宵戦
 夜闇には月光だけが注いでいて、どこまでも静かだ。
 ケルベロス達はそれでもそこに不穏な気配を感じる。場所は既に竹林を望む道。戦場の直ぐ側だったのだ。
「──皆、敵がいたぞ」
 そして一つ角を曲がった先。神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)は遠目に居並ぶ異形を発見していた。
 夜に影を伸ばす巨躯。そして淡く光る怪魚。
 全てが静謐に沈む中で、その影だけが揺らめいている。
「異星の罪人も、厄介なのに目を付けられたもんだな」
 ドールィ・ガモウ(焦脚の業・e03847)は顔を顰めて呟く。巨躯の内の1人は、知性もなく佇んでいるだけであることがここからでも見て取れる。
 晟は頷き青の瞳を細めた。
「死神も戦力確保に躍起になっているのか……裏で動いているものがいそうだな」
 だが、と、それでも首を振った。
「──まずは目の前のことを片付けねばな」
「ああ。何を企んでいるか知らないが、この場でその企みの1つは潰しておかないとな」
 応える月詠・宝(サキュバスのウィッチドクター・e16953)は、傍らのナノナノ、白いのの頭をひと撫でしている。
「頼むぞ」
 ぱたぱた、と白いのが返事する。それと皆で戦いの間合いに入るのが同時のことだった。
 巨躯の1人、騎士のジャコブは愉快げな顔で出迎えている。
「これは、丁度お誂え向きの獲物がきてくれたものだ」
「お誂え向きの獲物? ちゃうよ」
 キアラ・ノルベルト(天占屋・e02886)は敵の威容にも怯まず真っ直ぐ見据えていた。
 ばさりと鳴るのは、勇壮にはためくケルベロスコート。
「うちらは、君らを倒しに来たんやから──ケルベロスとして」
 言葉にジャコブが微かに目を見開く、その瞬間に周囲を光が満たしている。
 それはキアラが生み出した虹色の輝き。魂を震わせる煌めきが、勝利を誓う鬨の声となって皆の魂と肉体を鼓舞していた。
 そこに暗色の粒子が交じるのは、死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)が宙にオウガメタルを揺蕩わせていたからだ。
 昏く光る粒は、仲間へ溶け込むと同時に意識を澄み渡らせていく。
「これで……初手も問題ないでしょう」
「助かったぜい。まずは一発、でかいのを叩き込んでやるとするか」
 自らの拳同士を打ち当てたのは、ムギ・マキシマム(赤鬼・e01182)。
 上腕の筋肉を隆々と隆起させ、踏み込むと先鋒の巨躯──サジンへ強烈な正拳突きを喰らわせていた。
 地を滑るサジンへ、晟はボクスドラゴンのラグナルと同時に接近。飛翔して上方から斬撃とブレスを畳み掛け速攻を狙う。
 死神は即座に鳴いてその体力を回復した。が、こちらの攻勢も未だ止んではいない。
 吹き荒れる嵐が生まれた。
「──『嵐獄槍:貪狼』、我が螺旋と魔力を以って権限せよ!」
 それは霧島・トウマ(暴流破天の凍魔機人・e35882)が螺旋力を込めた嵐気によって局所的に生み出した豪風。乱流を操ることで、それを槍のように飛ばしている。
「回復しようがなんだろうが、それ以上に痛めつけりゃいいだけだからなァ──!」
 瞬間、暴圧の直撃でサジンは煽られるように後退。
 そこへひらりと飛ぶ鮮やかな影があった。橙の髪を靡かせ、宙を踊るようにくるりと廻る大弓・言葉(花冠に棘・e00431)だ。
「隙ありね──えいっ!」
 与えた顔面蹴りは容赦なく鋭い、けれどふわりと飛び退るその仕草まで可憐。音も無く着地するとすぐにドールィに目を向けた。
「さあ、連続でやっちゃって!」
「あぁ」
 頷くドールィは地獄に燃ゆる脚を突っ張って尾撃を放つ。
 ただ、薙ぎ払うかのような広範な一撃をジャコブが受け止めていた。しかしそれも予想の範疇となれば、キアラが涼しい声で挑発してみせる。
「仲間にひっついて、ケルベロスが怖いから肉薄出来へんの?」
「……侮辱か。面白い」
 ジャコブはキアラへ炎の剣撃を喰らわせた。が、その傷にはキアラのテレビウム、スペラが煌めく星の映像を流して治癒。同時に宝が魔術の小刀を奔らせることで切開処置をし、浅い傷を塞いだ。
 この隙に刃蓙理は『汚泥爆散』。ヘドロの球体を爆散させて死神を地に縛っている。
「ひとまず、後方の敵は抑えられたはずです……」
「よし、斬り込んでやろう」
 ムギはがら空きになったサジンへと距離を詰めていた。
 並び立つトウマが握るのは『凍滅壊刃』の名を持つ刀。
「間違いないだろうぜい。コイツの弱点は──」
「あァ、剣撃、だ」
 2人は連続の斬撃。早期に探り当てた弱点を抉るように重い衝撃を与える。
 言葉も攻撃しようと前進しつつも、ボクスドラゴンのぶーちゃんに目をやっていた。ぶーちゃんは熊蜂のような体をぷるぷる震わせて臆病さを見せている。
 サジンは浅い息を零して攻撃を狙っていた、が、そこにはドールィが焔の気弾を撃ち当てて行動を許さない。
「心配すんな。どんどん攻撃していけ」
「そうだよぶーちゃん。大丈夫だよ。さあ落ち着いて!」
 声を継ぐように言葉は『冷製・雹爪の嵐』。ぶーちゃんに冷静な心をインストールさせ、白い体と臆さぬ心境を与えていた。
(「やっぱり見慣れないの……別のサーヴァントみたい」)
 言葉も思ってしまうぶーちゃんの変わりぶりだったが、それゆえにその動きは機敏。まるで蜂が刺すように高速で鋭いタックルをサジンへ打ち込んでいた。

●傀儡を砕く
 獣の低い声が轟く。
 猛攻を受けたサジンはわずか数分の間に弱り始めていた。
 膝をつく巨体を横目に、ジャコブは首を振る。それは自身が満足に戦えぬ不満も滲ませているようでもあった。
「傀儡相手に随分やっきになるものだ。死んだとて、また生き返るかもしれんぞ?」
「……いいや。違う、死者は決して生き返らない。……生き返っちゃいけないんだ。そう、絶対に」
 ムギは微かに目を伏せて、声を落とす。すぐ後にはまた眼光強く見据えた。
「だから、ここで倒す。確実に」
「それでも蘇ったら? お前たちのしていることは不毛だ」
「そしたら何度でも何体でも地獄に送ってやるだけだ」
 ドールィは焔を揺らめかせながら、返す。そこには迷いの感情も無かった。
「エインヘリアルは過去に何度も沈めてきたからな。同じようにしてやるだけだ。勿論、お前もな」
「……いいだろう。ならばこちらも貴様らを殺すだけ。単純だ」
 それを喜ぶように、ジャコブは剣風を飛ばしてくる。
 意識を奪うほどの暴圧、だが宝は冷静に治癒の粒子を撒いて風圧を吹き飛ばし、言葉に目を向けていた。
「時間は──」
「そろそろ五分なの!」
 応える言葉も焦らず、ジャコブの横を通り抜けてサジンへ接近している。
 ちっと舌打ちするジャコブへは、ぱちりと愛らしくウインクすら送ってみせながら。言葉は槌を大振りにサジンへ殴打を加えていく。
 サジンや死神まで守ろうと動くジャコブだが、刃蓙理はその至近へ迫ると腕を突き出し、闇の霊力を生み出していた。
「邪魔を……するな……!」
 同時、黒色の霊弾を発射。死神と同時に盾になったジャコブまでもを一時麻痺に陥らせる。
 それを治癒しようとする死神もまた行動を失っており、敵陣は動きが止まった。
 そこへ風が吹いたのは、この隙に晟が飛翔していたからだ。敵の上方で竜頭の如き剛鎚を掲げると、そこに纏わせたのは眩い蒼雷だった。
 『霹靂寸龍』──明滅する雷とともに放った超高速の刺突は、サジンに攻撃を認識させることもないままにその首元を深々と穿つ。
「今が攻めどきだろう。一気に体力を奪い取ってやれ」
「勿論だ。はらわたを抉り取ってやるよ」
 腕に渦巻く風雨を纏わせて、凶暴な笑みを見せるのはトウマだった。
 デウスエクスへの怒りという原動力がそこにはある。だが、トウマ自身はその源流を意識することも自覚することもなく、力はただ敵の解体へと奮われる。
 だからこそそこには容赦も躊躇もなく、嗜虐的ですらあった。刹那、ドリルが岩盤を砕くように、水滴と風の回転がサジンの腹部を抉っていく。
 散った血潮を見て、ジャコブも流石に庇いに入ろうとする。だがドールィはそんなところへ声を投げた。
「戦いてェんだろ? 守ってばっかじゃいい加減勝てやしないぜ?」
「言ってくれる。俺が攻めることでお前自身が倒れてもか?」
「倒れねェよ」
「……いいだろう。貴様らの血で、全てを澱ませてやるとしようか」
 ジャコブは自身が前面に出ると同時、サジンもけしかけて攻撃に向かわせてくる。
 炎撃に破壊の刃。あまりに強烈な攻撃を、しかしドールィは正面から受けきり、キアラは腕で受け止めて防いでいた。
「そんな思い通りにはならんよ」
 強い痛みを感じながらも、顔を歪ませず。キアラは視線で射抜いてみせる。
「今日この闇も、明日からの夜も、だれの血でも、澱ませへん──やから、君らは……ここでもう一度終い」
 同時、ジャコブの剣を弾き返したキアラはサジンへ拳の痛打を与えた。
「さあ、皆も!」
「ああ。俺も攻めさせてもらう」
 と、宝も守りに入らない。既に時間はなくぎりぎりの線。だから『distortion』によって敵の視界を歪ませ、作り出した隙を突いて喉元を槍で突き破る。
 叫びに血潮を交じらせたサジンは、それでも獰猛に迫ってきた。
 が、それがムギにまで届かなかったのは、ゼロ距離に入り込んだドールィがオーラを放ちながら殴り抜いていたからだ。
「ムギ、行けるだろ」
「──ありがとよドールィ。信じてたぜ」
 ムギはこの間に、獄炎を右腕に煌々と溜め込んでいた。友人を信頼していたからこそ、淀みない炎はすでに夜を明るく照らすほどになっている。
 瞬間、ムギは筋力を全開に拳を放った。
「筋・肉・全・開、打ち穿け!」
 繰り出された『筋肉弾丸』は、自我もない傀儡の巨躯を打ち砕く。
「今度こそ眠れ、お前の戦いはもう終わったんだ」
 サジンが消滅する中、皆は態勢の立て直しに入る。攻めを重視した反動で、それぞれが負った傷は浅くない。けれどまだ誰も倒れていないことも事実だった。
 ジャコブはぎりと歯を噛んで剣を振り上げる。だがそこをまばゆい光が襲う。言葉が眼下から太陽のように輝くオーラを放っていたのだ。
 言葉はふふんと笑んで見せる。
「驚いたかしら? こっちも油断はしてないのよ!」
「そういうことだ。常に自身がやられることを覚悟しておくのだな」
 豪速で迫るのは、翼で風を掃いた晟。通り抜けざまに太刀を振り抜くことで巨体の足元を裂き、鮮血を散らせていた。

●決着
 月夜に一瞬の静寂が降りる。
 揺ら揺らと回遊する死神の前で、ジャコブは膝をついていた。それでも、立ち上がり睥睨する表情は愉快げでもあった。
「貴様らとて負傷は深い。倒れるまで長くはないだろうさ」
「──少なくともうちはまだまだ、平気やから」
 キアラは確と顔を上げて、声は高らかに、笑みさえ見せている。
 最後まで仲間を鼓舞できるように。そして自分が盾として未だ健在と知らしめるように。
「君らをきっちり倒して、みんなで帰るんやもん──簡単には倒れへんからね!」
「……ならば、貴様から死んでみるか」
 ジャコブは地を蹴って剣を振り抜こうとする。と、その腕元へ不意に刺さった刺激があった。
 それは宝が放ったグラビティの針。生命を蝕む毒で、死神の1体が行ったジャコブへの治癒を不完全なものにしていた。
「これで多少は状況もいいだろう」
「あとは殴るだけだな」
 他の死神は依然麻痺に苦しむ。その隙にドールィはジャコブの面前へと間合いを詰めていた。
 そのまま放つのは『ドラゴンサマーソルトB』。獄炎の火力を上げ、腹部を思い切り蹴りあげることで敵を後退させる。
「まだ足りねぇな。連続で叩き込めるか」
「了解だ!」
 ムギは拳を地獄の炎で赤々と染めると、ドールィと入れ替わりに踏み込んで連撃。ストレートから捻りを加えた打突を叩き込み、巨体を炎で包み込んでゆく。
 唸りを上げながらも、ジャコブは倒れなかった。夜闇に炎を瞬かせて一歩一歩と歩んで来る。刃蓙理は目を見張った。
「流石に……強敵ですね、ガラにもなく……興奮してしまいます……」
 と、そこに浮かぶのは恐怖の色ではない。表情は静やかながら、紅の瞳にはどこか死の色を内在させて。瞬間、ダブルジャンプで頭上を取ると、脳天から剣撃を叩き込んだ。
 徐々に劣勢になるジャコブは、それでも反撃に剣を振るう。凄まじい炎の衝撃は、多くの攻撃を耐え抜いてきたぶーちゃんの体力を全て刈り取っていた。
「ぶーちゃん!」
 その体を抱き留めた言葉は、ぶーちゃんが一時消滅していくのを間近で見ていた。
「……よく頑張ったの! 後は任せておいてね!」
 それでも言葉は向き直って疾駆。力強く槌を振り回して、確実に敵を追い込んでゆく。
 ジャコブは剣風も放ってくる。けれど催眠にかかった宝を、白いのがすぐにペチペチしながらヒールしていた。
「──助かった」
「うちも手伝うよ」
 と、キアラも後衛を庇って出来た傷を、『天占:宵疆』を諳んじることで即座に癒やす。
 盾役は皆傷が深かった。それでも、戦線の崩壊には至っていない。リスクを押してでも態勢を整えることに時間を費やした故であろう。
 ジャコブはよろめきながら毒づいていた。
「無能な……死神どもめ……」
「無能なのは、果たして死神だけか──いや、どちらでも同じことだな」
 晟は氷気を湛えた槌で一撃。強烈な振り抜きでジャコブを吹き飛ばし、その命を散らせてゆく。
「──後は、片付けるだけか」
 剣を踊らせるトウマは、素早く死神を切り裂いていっていた。2体の巨躯が去れば、動かぬ死神も脅威ではなかった。

「終わったな」
 穏やかな静けさが戻ると、晟は敵影の全てが消えたことを確認していた。
 見えるのは涼やかな竹林ばかりで、今は吹く風もどこか平和に感じられる。
 頷いた皆は周囲のヒール。地面や塀は無傷ではなかったが、戦闘痕を消して景観を保つことは出来ていた。
 その内に、言葉のもとにぶーちゃんも復活する。
「ぶーちゃん。お疲れ様、なの!」
 言葉が撫でてあげていると、宝も皆に改めてお疲れ、と言ってから白いのにも声をかけた。
「有難う」
 白いのが羽ばたいて応えると、皆もようやっと息をつくような気分だった。
 ムギはドールィへ向き直る。
「ありがとな。色々助かった」
「ああ、こっちこそ」
 ドールィが応えていると、刃蓙理はそろそろと歩みだしている。
「それでは……帰還しましょうか……」
「あァ。ま、色々あったが勝ててよかったなァ」
 トウマも竹林に背を向けて進み出すと、キアラも頷いていた。
「そうやね。ここに暮らす、無辜の人……それに被害が出んかったのが一番やね」
 だからこの戦果は大きい。キアラにはそれが何よりに思えた。
 月光が差す中を、皆は歩んでいく。秋めいた風はどこか柔らかで、心地よかった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年9月7日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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